どこまでもどこまでも 11KB
愛で おそら ハード愛で注意 儚いあきリスペクト 二行作
【はじめに】
今回はハード愛でです。虐待目的の方が読むと非ゆっくち症を患う恐れがあります。
スイカに塩をかければ甘味が増すように、餡小話のいちスパイスとしてお目こぼし下さい。
なおかつ思いつくさま文を進めた結果、主ゆん公が幸運の星の下に生まれいむとなりました。
れいむアレルギーの方は医師の審査の下、用法用量を守って閲覧して頂きますようお願い申し上げます。
そして今作は儚いあきさんリスペクトです。儚いあきさんスレの1270500406263.pngが元ネタです。
『「挿絵を描いてもらえるかも」というわくわく感は絵描きには無い ぱるぱる』とのことなので、ついつい書いてみました。
【本編】
物好きな行為であった。
男はそこら辺の子れいむを捕まえると、頭頂部の地肌と紐を接着剤でくっ付けた。紐の先には小さいながらもよく浮かぶ風船がそよいでいる。
人間の大きな手が饅頭付きの風船を手ばなすと、青い青い空の彼方へと、小さなれいむは飛ばされていった。
このれいむが、生きて地上に下りることは2度とないだろう。
『どこまでもどこまでも』 (作・二行)
つい先ほどまでゆっくりと遊んでいた野原さんも、大好きなおとーさんもおかーさんも、おともだちも、あっという間に小さくなって消えていった。
分けが分からないほど故郷は遠ざかり、代わりにゾッとするほど真っ青な世界が子れいむを包む。
おそらをとんでるみたーい、なんて長閑な感想は漏れなかった。ただぽろぽろと涙が流れてはお空に消えていく。
成す術なしとはこのことだろう。風船の浮力に縛られたれいむは、ただ風に吹かれてさまようしかない。あとは泣くか喚くか現実逃避するかだ。
しかし、それさえもミニ饅頭には許されないようだ。
眼前に鳥の群れが迫る。何の種であるかなんて、ゆっくりが知るはずもない。とにかくまともにぶち当たれば、即死か撃墜は確実である。
れいむはどうしたか。読者諸氏の予想通り、ゆっくりは威嚇の意を込めて膨らんだ。謙虚なまでに細やかな、子ゆっくりのぷくー。
鳥の目は鋭いが、人間ほど鮮明に認識できるわけではない。恐らく彼らの目には風船と膨れいむがあいまって、大目玉のような異形に見えたのだ。
だから鳥の群れは方向を変え、いずこともなく過ぎ去ってしまった。
子ゆっくりは、ほっと一息。口から空気を抜き、頬を緩めて元の喋る饅頭に戻る。
甲高い一声が響いた。群れから外れた一羽が、哀れなれいむ目掛けて突っ込んでくる。
余程食い意地が張っていたのか、迷子のゆっくりが気付いた時には、鳥は口ばしをこれでもかと開いてあんよに食い付こうとしていた。
ぷりん、と子れいむが尻を振る。マヌケだが極限の回避動作だ。それがまたもや功を奏したといったら、今読んでいるあなたはきっと怒り出すだろう。
しかし、敢えてそれを恐れずに続きを書こう。れいむは太陽を背にしていた。ハンターは逆光線の中に飛び込む。その性急さが脆弱な生き物を救った。
美味そうな尻の向こうから陽光が容赦なく噴出し、鳥の目を眩ませる。餌を捕らえようとする口ばしが僅かに逸れ、風を巻き起こした。
れいむの体が回った。まるでベビーベッドの上で赤子をあやすおもちゃのように。子ゆの頬にふかふかとしたものが触ったので、思わず噛んで感触を確かめる。
むーしゃむーしゃしようとしたが、おいしくなさそうだった。
子れいむが我に帰ると、目の前は茶色い毛でいっぱい。ゆっくりは、さっきまで自分を食おうとしていた鳥の背中にいる。無意識に噛み締めた背中の毛が手綱の用を果たしていた。
当然ながら、鳥は異物を振りほどこうとジタバタと宙を舞う。急降下すれば、紅饅頭がゆーと鳴く。急上昇すれば、馬鹿饅頭がやーと鳴く。
それでもれいむは剥がれなかった。遂に前後を見失ったのか、鳥とゆっくりは雲の中に突っ込んでしまった。
灰色の雲に包まれれば、視界はほとんど奪われる。生首にしがみ付かれたままの獣。飛んでも飛んでも、どこまでも続く霧の世界。
鳥は目と耳と、どちらが優れているのか。少なくとも、この時は視覚だけでなく聴覚も疎かになっていたのだろう。
灰色の壁の向こうから、セスナが唐突に飛び出してきた。鉄の羽と毛の羽は、ほぼ真正面。先刻は獲物に避けられた獣が、今度は必死に避ける番となった。
鳥が旋回し、セスナの翼を辛うじて回避した。その時、れいむの髪の毛と鉄が微かに触れた。
それは子ゆっくりにとって、おみずさんよりも、きたかぜさんよりも、ずっとずっと冷たいものだった。
風船が割れる。
冷たい衝撃によって、口を離してしまったのだろう。れいむの体は鳥の背中ではなく、セスナの翼に移っていた。
小さい饅頭が仰向けのまま運ばれていく。離れないのは、冷気で凍り付き癒着してしまっているせいだ。
鉄の鳥の体にも氷がまとわり付く。着氷は飛行機に取って命取り。賢いセスナ乗りはこんな場所を飛んだりはしない。
人間よりも先に、れいむの生命が凍り始める。まるで氷の精が1枚1枚張り付けていくかのように、氷が子ゆっくりを覆っていく。
最早苦痛も恐怖も感じなかった。子れいむは静かに目蓋を閉じ、安らかな眠りに付いた。
滑走路と呼ぶには、いかにも貧しい一本道。それに相応しい程度のセスナが、静かに着陸した。
それを認めた白髪の男が、慌てて近寄る。
「おいハンク! 生きてるか!」
鉄の鳥には扉がある。その向こうから荒々しい衝撃が1回、2回。3回目にようやく戸が開き、中から若い男が落ちてきた。
「やあじいさん、ただいま」
「何がただいまだ! こんな天気に飛ぶヤツがあるか!」
「こんなに早く崩れるなんて、知らなかったんだよ」
「あーあー、こんなに氷付けにしちまいやがって。長いこと生きてるが、ここまで冷凍されたセスナを見るのは初めてだ」
「こいつは新鮮だ」
老人が年不相応の脚力で、ハンクの尻を蹴飛ばす。
男は臀部を押さえながら、大げさにセスナの周りを跳ね回ってみせた。
「ハンク、お前はどうしようもない馬鹿だがツイてるな。ここまで着氷しちまったら、普通は墜落するぞ」
「・・・そのようだな。これを見てみろよ、じいさん」
ハンクはセスナの翼に顔を寄せ、何かをじっと見つめている。
奇妙な仕草に引かれ、老人も若者が見ているものに近付き、視線を向ける。
「こいつは・・・」
「幸運の女神様だ」
鉄の羽に、まるでペイントでも施したように小さな顔が張り付いている。
それは風船に飛ばされ、鳥にしがみ付き、セスナに捕らわれたあの子れいむであった。
しばしの時が流れる。
その日、ハンクは殺風景な場所に来ていた。四角いソファーだけが置かれた白い部屋だ。
天井の隅から目を光らせている監視カメラとにらめっこに興じていると、ようやく待合室の中に旧友が姿を見せた。
「悪い、待たせた」
「仕方ないさ、ベアード。もうすぐ出発だからな」
ハンクとベアードは並んで腰を掛ける。
ベアードは赤みがかった髪を短く揃えていて、相変わらずハンクよりも背が高かった。
「随分刈り込んでるんだな」
「当たり前だ。長髪で任務に望む馬鹿がいるか」
「思ったよりイラついているな」
「・・・今まで2回失敗してるからな。今度またそうなれば、どうなるか」
「今日はいいものを持ってきたんだ」
そう言って、ハンクは足元の青い箱を指差した。
彼の友人は、それを見て溜め息を付く。
「ここは本来、何もかも持込禁止のはずなんだがなあ」
「ああ、説得がえらい手間だった」
「そうまでして、何をくれるんだ、ハンク?」
背の低い男が箱を差し出す。長身の赤髪がそれを受け取り、蓋を外した。
中からは白い煙とひんやりした空気。ドライアイスのようだ。
発泡スチロールの箱の中にいたのは、あの子れいむだった。紅い饅頭入りの氷がドライアイスと緩衝材に包まれている。
「これか、前に言っていた幸運の女神様っていうのは」
「ああ、こいつのおかげで墜落を防げたんだからな」
しげしげとベアードが箱の中のゆっくりを眺める。
アメリカでは、この饅頭はまだ珍しいものではある。
「この生首が張り付いていたせいで、セスナが氷付けになったという解釈はできないのか」
「それがなベアード。もう1ついいことがあったんだ」
「なんだ、沈没にでも遭遇したか」
「違うな、生まれて初めてスクラッチくじが当たった」
「そうか、おごれよ」
「もう無いんだ。カミさんに指輪を買わされた」
笑い声が自然に起こる。馬鹿話や笑顔のタイミングは、学生時代と何ら変わらない。
「まあそういうわけで、こいつの幸運を使い果たす前にお前に渡しておこうと」
「持ち込めるかな」
「あっちに持ってくつもりかよ。ここの部屋にでも、飾ってもらおうと思ってたんだがな」
「それじゃ、ご加護が薄くなるだろう?」
彼は本気で、そうするのだろう。
ハンクは友人の昔通りの一面を見て、またちょっと嬉しくなった。
1匹のゆっくりが地上から離れて、さらにハンクとベアードが再会して、どれくらいの時がたったのだろう。
あの子れいむが、眼を静かに開ける。それはふわふわとしたものの中で、またもや宙に浮いていた。
ゆっくりは自分が、じっとりと濡れているような気がした。しかし周りの柔らかいものから撫でられる度に、不快さが消えて心地良くなってくる。
久しぶりに、思いっきりのーびのーびしたい衝動が湧き起こる。考えなしの生物の常で、れいむはそれに身を任せた。
「ゆーっ! ゆゆゆ?」
子れいむのあんよがふわふわさんを跳ね飛ばすと、そのまま紅饅頭は虚空を飛んでいた。
もみあげさんが、感情に合わせてぴこぴこと動く。いつまでたってもあんよは地に付かない。
「ゆ? ここは、ゆんごく?」
「違うよ、れいむ」
空舞う生首の前に、人間の大きな顔が現れた。赤い髪の優しそうなおにーさん。
彼はお飾りみたいに派手な色の服を着て、れいむと同じようにぷかぷかと浮いていた。
「ここは宇宙ステーションの居住区。まだ、建設自体は途中なんだけどね」
「ゆちゅー、すてーしょん? きょじゅーゆ?」
「まあ、お空に浮かんでいる大きなおうちさ。ほら、見てごらん」
人間の大きな手の平が、れいむを運んでいく。あの日れいむを大空へ連れ去ったものよりも大きくて、暖かい手。
行き着いた先は丸い窓だった。黒い宇宙の中に、大きく輝く青い球体が緩やかに回っている。
「ゆゆーん! ゆっくりした、きらきらさん! あれなに、おにーさん」
「地球だよ。僕やれいむが住んでいた星」
「ゆ? れいむのおうちは、のはらさんは、どこ?」
「あの辺りかな?」
大陸の真ん中を、ベアードは指差した。
「さっぱりわかんないよ。れいむは、おそらをとんでいたんだよ。そして、とりさんから、おっきなとりさんに、それから」
「落ち着いて。君は、氷の中で眠っていたんだよ」
「ゆ? すーやすーやしていたの?」
「うん。それで、起こしてみろって偉い人から言われてね。起こしちゃったんだ」
子れいむがさっきまでいた場所に、白いバスタオルが浮いている。
氷付けの饅頭を温め、水気を拭き取り、蘇生させた記念すべきゆっくりプレイスだ。
「起こして、悪かったかな?」
「ゆゆん、そんなことないよ! れいむ、おそらにひとりぼっちでさびしかったから、おにーさんとあえて、うれしーよ!」
「僕もそうだよ、れいむ」
建設中の宇宙ステーションに、ベアードは1人きりだった。本来はいるはずの同僚が、病気で地球に帰ってしまったためだ。
しかし今からは、役立たずだが素直そうな喋る生き物がルームメイトになる。
「さあれいむ、この箱に入って。これ以上君が飛んでかないようにね」
赤髪の男が透明な箱を差し出すと、れいむも素直に身を潜らせた。
これで、ゆっくりのうっかりで機器等が壊れる心配もない。
「おにーさん、れいむ、もうどこにもいかなくていいんだね」
「そうだよ。ずっと一緒だ」
れいむは嬉しそうに、透明な壁の中で体をのーびのーびさせた。
ベアードも、何故かこのゆっくりと話す時は優しい口調になっている。
きっと、彼らは上手くやっていけることだろう。
このれいむが、再び地上に下りることは2度とないだろう。
宇宙ステーションというおうちの中で、これからは人間さんと共に生きていくのだ。
地上に生きるもの達が見上げる夜空の向こう。れいむは今日も飛び続けている。
(終)
元ネタ絵 by儚いあき
挿絵 by儚いあき
【過去作】
※どろわ&ぬえ
draw006 「パラダイゆch」
nue079 「素晴らしき世界」
nue059 「スキャット・ゆん・ジョン」
nue022 「ゆナッフTV」
nue009 「ブラックペーパー・チャイルド」
その他の作品に関しては、ふたばSS@WIKIの『
二行の作品集』をご覧下さい。
餡娘ちゃんとWIKIあきに、感謝。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 紐くっつけてる一点だけ引っ張られると、スライムみたいになりそうだけどなー
-- 2014-03-12 01:44:51
- SF読んでいるような壮大さw -- 2012-04-10 00:48:07
- 壮大すぎww
-- 2010-07-25 01:08:01
- 奇妙なシチュエーション設定がさすが -- 2010-06-22 15:15:11
最終更新:2010年05月25日 15:56