――はじまり。 ◆awaseG8Boo
眠っていた、のだろうか。
心地の良いまどろみなどでは決してなく、泥のような残滓が頭を揺さぶる。
ぼやけた視界は白い波紋となって角膜を侵蝕する。
心地の良いまどろみなどでは決してなく、泥のような残滓が頭を揺さぶる。
ぼやけた視界は白い波紋となって角膜を侵蝕する。
何が起こったのか、そして何が起こっているのか。
それは、今の私にはまるで分からないことだった。
指は動く。腕も、足も、肩も、首も――
それは、今の私にはまるで分からないことだった。
指は動く。腕も、足も、肩も、首も――
「あら?」
変だ。うごかない? ……いや、違う。ただ純粋に動かし難いのだ。
少し心を沈めて身体の感覚を鋭敏化させてみる。
確かに、感じる。何かが……ここにある。
少し心を沈めて身体の感覚を鋭敏化させてみる。
確かに、感じる。何かが……ここにある。
だから、そっと指先で触れてみる。
壊れ物を扱うように細心の注意を払って。
ふるふると小刻みに振動する、微妙に血液の廻っていない人差し指と中指で。まるで朽ち花を摘むように。
壊れ物を扱うように細心の注意を払って。
ふるふると小刻みに振動する、微妙に血液の廻っていない人差し指と中指で。まるで朽ち花を摘むように。
「……チョーカー、かしら」
言葉にしては見たものの、頭は確実にそれが"別の物"であると判断していた。
ツルツルとした滑らかな表面。
爪で引っ掻くようにして触れてみても返って来るのは明らかに"金属"であると分かる無機質な堅さだけ。
皮膚に感じるヒンヤリとした感覚は、ソレが一切の温かみを持たない鉱物で出来ていることを示していた。
爪で引っ掻くようにして触れてみても返って来るのは明らかに"金属"であると分かる無機質な堅さだけ。
皮膚に感じるヒンヤリとした感覚は、ソレが一切の温かみを持たない鉱物で出来ていることを示していた。
なんなのだろう、これは。
チョーカーでもネックレスでもラリエットでもブローチでもない。
まるで闇夜で蠢く蟲が詰まっているようだ。そして、何よりも背筋を駆け抜ける妙な悪寒。
全身の神経が未だ朦朧とした睡りから抜け出せていない脳細胞に必死で訴えかける。
チョーカーでもネックレスでもラリエットでもブローチでもない。
まるで闇夜で蠢く蟲が詰まっているようだ。そして、何よりも背筋を駆け抜ける妙な悪寒。
全身の神経が未だ朦朧とした睡りから抜け出せていない脳細胞に必死で訴えかける。
コレは、良くないものだ、と。
駆け抜けた戦慄と共に意識は覚醒に至った。
違和感。つまり、思考はここが明らかに"異様"な場所であるという確信へと向かう。
違和感。つまり、思考はここが明らかに"異様"な場所であるという確信へと向かう。
ぐるりと周囲を見回してみる。
どう見てもおかしい。どう考えても変だ。
適当に考えても二つほど疑問点が浮上する。首を締め付ける妙な物体を除いても、だ。
どう見てもおかしい。どう考えても変だ。
適当に考えても二つほど疑問点が浮上する。首を締め付ける妙な物体を除いても、だ。
まず今私がいる場所。左手で軽く地面に触れてみる。少し、冷たい。
そう、床だ。ほんの数分前まで私は講堂程度の広さのホールの"床"でどうもグッスリお休みだったらしい。
そう、床だ。ほんの数分前まで私は講堂程度の広さのホールの"床"でどうもグッスリお休みだったらしい。
――何故、こんな場所にいる?
二つ目。この空間には、私以外の何十人もの人間がいる、ということ。
しかも未だ床の上で意識を朦朧とさせている女の子などが多数。
つまり集団の誘拐犯だろうか、という解答が頭に浮かぶ。
だがすぐさま、それは却下。
何しろ周りには年頃の少女だけではなく、頑強な身体付きの老人や全身黒タイツの仮面の男など妙な人間も多数存在するからだ。
「ここはどこなのだぁぁぁああああ!!」などと凄まじい動きをしながら絶叫している変な髪色の男なんかもいる。
しかも未だ床の上で意識を朦朧とさせている女の子などが多数。
つまり集団の誘拐犯だろうか、という解答が頭に浮かぶ。
だがすぐさま、それは却下。
何しろ周りには年頃の少女だけではなく、頑強な身体付きの老人や全身黒タイツの仮面の男など妙な人間も多数存在するからだ。
「ここはどこなのだぁぁぁああああ!!」などと凄まじい動きをしながら絶叫している変な髪色の男なんかもいる。
(うん。きっと、ああいう人のことを○○○○って言うんだわ)
そう。つまり、二つ目はこういう疑問だ。
――何故、こんな類の人間達が一堂に介しているのだろう?
――何故、こんな類の人間達が一堂に介しているのだろう?
……む、なんだかよく分からなくなって来た。一度全てを整理して見よう。
まずは自問自答。
そう、この場所にあって、唯一確かな存在とはおそらく考える自分自身だけなのだから。
「我思う故に我あり」とはよく言ったものだ。
何もかもが、国境や空間を越えて世界までもが虚偽だとして、
今こうして思索を巡らせている自分自身までが嘘偽りの存在であるなんて考え難いってこと。
まずは自問自答。
そう、この場所にあって、唯一確かな存在とはおそらく考える自分自身だけなのだから。
「我思う故に我あり」とはよく言ったものだ。
何もかもが、国境や空間を越えて世界までもが虚偽だとして、
今こうして思索を巡らせている自分自身までが嘘偽りの存在であるなんて考え難いってこと。
さぁ、私は誰だ? 記憶を探れ。事実を手繰り寄せろ。
ネットワークを検索したような速度で一気に情報が到着する。
聖ル・リム女学校、五年A組所属。
星座はてんびん座。血液型はAB型。そして名前は、
聖ル・リム女学校、五年A組所属。
星座はてんびん座。血液型はAB型。そして名前は、
「源、千華留」
それが、私の名だ。一つの濁りもない鉄壁の真実だ。
アストラエの丘に建てられた三つの女学校――『聖ミアトル女学園』『聖スピカ女学院』『聖ル・リム女学校』
その中の一つ、最も新しく建造された聖ル・リム女学校で生徒会長を務めている。
そう、これでプロフィールは完璧。後は――
アストラエの丘に建てられた三つの女学校――『聖ミアトル女学園』『聖スピカ女学院』『聖ル・リム女学校』
その中の一つ、最も新しく建造された聖ル・リム女学校で生徒会長を務めている。
そう、これでプロフィールは完璧。後は――
「さて、そろそろ皆さんの意識も戻った頃でしょうか」
「……そのようだな」
「……そのようだな」
状況の、把握のみだった筈なのだが。
突如、ほとんど暗がりに近かった広間に明かりが灯った。
今まで気付かなかったが、中央にステージのようなものがある。
まるでライブハウスのように多数の機器類が置かれ、そしてその中央に立つ二人の男の姿――
今まで気付かなかったが、中央にステージのようなものがある。
まるでライブハウスのように多数の機器類が置かれ、そしてその中央に立つ二人の男の姿――
一人は黒尽くめの神父。190cmはありそうな日本人離れした長身。身に纏った僧衣を鍛え上げられた筋肉が押し上げる。
そして何より全てを見透かしてしまいそうな硝子球のような瞳……。
闇、深淵、暗黒。ありとあらゆる暗澹とした感情を凝縮したような絶望色に染まった視線で彼は私達を見下ろす。
そして何より全てを見透かしてしまいそうな硝子球のような瞳……。
闇、深淵、暗黒。ありとあらゆる暗澹とした感情を凝縮したような絶望色に染まった視線で彼は私達を見下ろす。
そして比べて対照的なのが、その隣に佇む十代後半の青年だ。
衣服から彼が学生であることが分かる。おそらく私と同じか一つ上、と言った所だろう。
人柄の良さそうな微笑を口元に携え、右手には鞘に包まれた日本刀と思しき武器を持っている。
傍目からも彼の実直で、真面目な性格が伺えるようだった。
衣服から彼が学生であることが分かる。おそらく私と同じか一つ上、と言った所だろう。
人柄の良さそうな微笑を口元に携え、右手には鞘に包まれた日本刀と思しき武器を持っている。
傍目からも彼の実直で、真面目な性格が伺えるようだった。
「だ、誰だよ……アレ?」
「おいおい、俺に聞くんじゃねぇよ。俺達、目覚めたばかりで三人とも条件は同じだろうが」
「……だな。とりあえず話を聞いてみようぜ」
「おいおい、俺に聞くんじゃねぇよ。俺達、目覚めたばかりで三人とも条件は同じだろうが」
「……だな。とりあえず話を聞いてみようぜ」
隣で三人組の男の子達がこそこそと話し合っている。
どうも知り合いと一緒にこの怪しげな《イベント》に参加している者もいるようだ。
私の場合はどうなのかしら。事前申し込みなんてしてないから、当てにはならないでしょうけど。
どうも知り合いと一緒にこの怪しげな《イベント》に参加している者もいるようだ。
私の場合はどうなのかしら。事前申し込みなんてしてないから、当てにはならないでしょうけど。
一瞬、辺りが騒がしくなったが二人の男が放つ雰囲気に気圧されたのか瞬く間に再度広間は静寂に包まれた。
どうも顔なじみのグループは複数存在するらしい。
が、逆に、大多数の《子供》の中に混じった《大人》達が誰も微動だにせず、壇上の二人を睨めつけているのが気掛かりだ。
どうも顔なじみのグループは複数存在するらしい。
が、逆に、大多数の《子供》の中に混じった《大人》達が誰も微動だにせず、壇上の二人を睨めつけているのが気掛かりだ。
(何だろう……すごく嫌な予感がする)
そして再度湧き上がる妙な感覚。生き物としての本能にも似た……そんな気分だった。
「――聞きたまえ」
底冷えのするような声。
「私は監督役の言峰綺礼。隣の彼は神崎黎人だ。
『元の世界』では聖杯戦争、という催し物の監査役をやらせて貰っていた。
さて、諸君らに今から一つ、頼みたい事がある。尤も、そもそも拒否権は存在しないのだが」
『元の世界』では聖杯戦争、という催し物の監査役をやらせて貰っていた。
さて、諸君らに今から一つ、頼みたい事がある。尤も、そもそも拒否権は存在しないのだが」
頼み事? いや、拒否権が存在しないのならば、それは既に違う意味を持つ。
つまり、純然たる命令だ。
つまり、純然たる命令だ。
「諸君らにはコレから互いを傷付け騙し犯し欺き――そして、殺し合って貰う」
(――ころす?)
「言葉とは便利なものだ。涅槃のように錯綜とした状況にも適切な意味を与えてくれる。
名とは力であり、名こそが万物へとその存在を証明する。
つまりコレは人の世で言う――バトルロイヤルという催しだ」
名とは力であり、名こそが万物へとその存在を証明する。
つまりコレは人の世で言う――バトルロイヤルという催しだ」
空気が、変わった。
意味が分からない、という顔付きをしている者もいる。
口元に薄ら笑いを浮かべ、状況を完全にテレビか何かの企画だと思っている者もいる。
怒気を顔中に巡らせ、今にも暴れだしそうな者もいる。
意味が分からない、という顔付きをしている者もいる。
口元に薄ら笑いを浮かべ、状況を完全にテレビか何かの企画だと思っている者もいる。
怒気を顔中に巡らせ、今にも暴れだしそうな者もいる。
静寂が乱れた。
私自身も当然だが、言峰と名乗った男が何を言っているのかまるで理解出来ていない。
バトルロイヤル――言葉の意味ぐらいは知っている。
プロレスなどで行われる勝負形式の一つ。何人もの人間が一つの舞台に上げられ、最後の一人になるまで闘い合うのだ。
当然、勝ち残るために手段は選んでなどおられず、他のレスラーと協力し合い騙し合いながら優勝を目指すのである。
私自身も当然だが、言峰と名乗った男が何を言っているのかまるで理解出来ていない。
バトルロイヤル――言葉の意味ぐらいは知っている。
プロレスなどで行われる勝負形式の一つ。何人もの人間が一つの舞台に上げられ、最後の一人になるまで闘い合うのだ。
当然、勝ち残るために手段は選んでなどおられず、他のレスラーと協力し合い騙し合いながら優勝を目指すのである。
(何を……言っているのかしら。本当に、殺し合い? そんな訳……)
ただあくまで、本来のバトルロイヤルとは興行である。
相手を殴り傷付けるとはいえ、《殺す》ことは絶対にない。後遺症の残るような重症を負わせることもない筈だ。
そう、男の言葉はあまりにも馬鹿馬鹿しいものだった。
自分を含め、どう見てもこの場にいるのは他人を傷付けたこともなさそうな少年少女が大半だ。
相手を殴り傷付けるとはいえ、《殺す》ことは絶対にない。後遺症の残るような重症を負わせることもない筈だ。
そう、男の言葉はあまりにも馬鹿馬鹿しいものだった。
自分を含め、どう見てもこの場にいるのは他人を傷付けたこともなさそうな少年少女が大半だ。
信じられる訳など到底ない。そんな雰囲気が場に充満した時、
「まず、証拠を見せようか」
黎人と名乗った青年がにっこり、と微笑みながら片腕を上げた。
パンッ、
と空気の充満したビニール袋が破裂するような音が広間に木霊した。
「う……そ……」
気付けば、私の口唇からそんな声が漏れていた。
「きゃああああああああああああああ!!」
そして、一拍置いて――少女の絶叫。
「た、貴明っ!!!!!」
「貴明くんっ!!!!」
「貴明くんっ!!!!」
数人の知り合いが一斉に『頭の破裂した』少年の名前を呼んだ。
絶叫の隙間を縫うようにゴトッ、という鈍い音と共に少年の身体が床へと倒れ伏す。
血液が溢れる。まるで噴水のように首の動脈から溢れ出した血が辺り一面を鮮血の舞台へと変えた
絶叫の隙間を縫うようにゴトッ、という鈍い音と共に少年の身体が床へと倒れ伏す。
血液が溢れる。まるで噴水のように首の動脈から溢れ出した血が辺り一面を鮮血の舞台へと変えた
「いやぁあああああああああああ!! タカくん!? タカくん!? タカくんっ!?」
隣にいた小柄の黒髪少女は半ば狂乱状態に陥り、隣に居た少年の身体をガクガクと揺する。
耳を劈くようなその声は、一瞬でその場の人間に『事実』を理解させるには十分過ぎるものだった。
状況を理解していない人間など誰一人としていなかった。誰もが己の置かれた状況を把握した。
耳を劈くようなその声は、一瞬でその場の人間に『事実』を理解させるには十分過ぎるものだった。
状況を理解していない人間など誰一人としていなかった。誰もが己の置かれた状況を把握した。
「残念だけど、河野貴明君には一人目の犠牲者になって貰った。
ああ、ちなみに爆発したのは君達の首に嵌められている首輪さ。
もちろん無理やりに外そうとしても爆発する。人一人を死に至らしめるには十分過ぎる破壊力を持っている」
「予め言っておこう。自らが特別などとは思わない事だ。この盤上において諸君らは一つの駒に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。
そしてこの瞬間、諸君らは己の境遇を理解した筈だ」
ああ、ちなみに爆発したのは君達の首に嵌められている首輪さ。
もちろん無理やりに外そうとしても爆発する。人一人を死に至らしめるには十分過ぎる破壊力を持っている」
「予め言っておこう。自らが特別などとは思わない事だ。この盤上において諸君らは一つの駒に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。
そしてこの瞬間、諸君らは己の境遇を理解した筈だ」
もう、誰も何も言わなかった。無駄口を叩く人間は一人も存在しない。
「――――Amen。幸いにも私は神父だ。死亡者には最大の敬意をもって応じよう」
「どちらにしろ、ここで誰かに死んで貰わなければいけなかったんだ。何も起こらず放り出しても君達は現実を理解出来ないだろうしね。
そして皆には考えて欲しい。今僕はこう命令した。『適当に一つ首輪を爆破しろ』と。」
「どちらにしろ、ここで誰かに死んで貰わなければいけなかったんだ。何も起こらず放り出しても君達は現実を理解出来ないだろうしね。
そして皆には考えて欲しい。今僕はこう命令した。『適当に一つ首輪を爆破しろ』と。」
神父が十字を切る。青年が朗らかに笑う。
私には信じられなかった。
いや、眼の前で何が起こったのかを信じたくなかったのかもしれない。
泣き叫ぶ少女の声など耳に入っていないかの如く、二人の男は淡々と状況を説明する。
その言葉はあまりにも現実離れしていたが、何故だが妙に心に残った。
つまりあの瞬間、私の首輪が爆破されていた可能性も十分にあったということだ。
いや、眼の前で何が起こったのかを信じたくなかったのかもしれない。
泣き叫ぶ少女の声など耳に入っていないかの如く、二人の男は淡々と状況を説明する。
その言葉はあまりにも現実離れしていたが、何故だが妙に心に残った。
つまりあの瞬間、私の首輪が爆破されていた可能性も十分にあったということだ。
私の背筋を悪寒にも似た戦慄が駆け抜けた。そして私は未だ『少年だったもの』の身体を揺すり続ける赤い少女を見やった。
おそらく彼のすぐ近くにいたのだろう。
全身が少年の頚動脈の断裂した際に起こった大量出血によって、血みどろに染め上げられ真っ赤になっている。
まるで頭からバケツ一杯の血液を被ったようだ、と私は思った。
少女の周りには赤い液体が泉のように広がり、爆砕された頭蓋骨と脳漿がスープの具のように浮かんでいる。
全身が少年の頚動脈の断裂した際に起こった大量出血によって、血みどろに染め上げられ真っ赤になっている。
まるで頭からバケツ一杯の血液を被ったようだ、と私は思った。
少女の周りには赤い液体が泉のように広がり、爆砕された頭蓋骨と脳漿がスープの具のように浮かんでいる。
口の中がカラカラになる。周囲からは狂乱の声。
胃の中の物をその場でぶちまけている者も多数、いる。
私も喉の奥から込みあがって来た嘔吐感を呑み込むのに精一杯だ。
大の大人ですら眼を背けずには居られない地獄のような光景がそこにはあった。
胃の中の物をその場でぶちまけている者も多数、いる。
私も喉の奥から込みあがって来た嘔吐感を呑み込むのに精一杯だ。
大の大人ですら眼を背けずには居られない地獄のような光景がそこにはあった。
その時。
リン、と何処からか鈴の音が響いたような気がした。
リン、と何処からか鈴の音が響いたような気がした。
「ふふふふふ――ミカゲ、殺し合いですって」
「はい、姉さま」
「私達が誰なのかも知らずにこんな遊びに誘い込むなんて」
「本当に、愚かな人」
「はい、姉さま」
「私達が誰なのかも知らずにこんな遊びに誘い込むなんて」
「本当に、愚かな人」
突如闇の中を切り裂くように壇上に現れたのは二人の少女だった。
薄碧色の髪、血の気の引いた肌。そして――赤い眼。
それは全く同じ容姿をした双子だった。
薄碧色の髪、血の気の引いた肌。そして――赤い眼。
それは全く同じ容姿をした双子だった。
(えっ……!? 何この子達……!?)
私は自分の眼を疑った。
なぜなら、この少女達は今、明らかに何も無い所から出現したのだ。
どう見ても異常な存在――
なぜなら、この少女達は今、明らかに何も無い所から出現したのだ。
どう見ても異常な存在――
「ノゾミちゃん! ミカゲちゃん!」
「あら、あなた。あなたも――贄の血もここにいたのね」
「あら、あなた。あなたも――贄の血もここにいたのね」
髪の毛を左右で結んだ大人しそうな女の子が二人の少女に向けて声を荒げた。
ノゾミ、と呼ばれた少女が面白そうに応える。
ニエノチ? さすがにソレが名前、ということはないだろう。何かのあだ名だろうか。
ノゾミ、と呼ばれた少女が面白そうに応える。
ニエノチ? さすがにソレが名前、ということはないだろう。何かのあだ名だろうか。
「二人とも、そんな所にいたら危ないよっ!! 早く降りてっ!!」
少女はぶるぶると震えながら双子に向けて絶叫する。
どう見ても何の特別な力もなさそうな普通の女の子だ。
だが、あの『突然闇の中から出現した双子』を知っている点は引っ掛かる。……どういうことだ?
どう見ても何の特別な力もなさそうな普通の女の子だ。
だが、あの『突然闇の中から出現した双子』を知っている点は引っ掛かる。……どういうことだ?
「「うふふふふふふふふ――」」
ピッタリと息を合わせて少女達は笑った。
合わせ鏡のように、全く対照的な動作で。
それは身の毛も弥立つような、背筋が凍り付くかと錯覚しそうになるほど冷たい響きだった。
私はそして確信する――彼女達はヒトではない、と。
合わせ鏡のように、全く対照的な動作で。
それは身の毛も弥立つような、背筋が凍り付くかと錯覚しそうになるほど冷たい響きだった。
私はそして確信する――彼女達はヒトではない、と。
「私達は主さまを蘇らせるために忙しいの」
「こんな遊戯に付き合っている暇なんて、ない」
「……連れないね。少しぐらい、僕達とのゲームに付き合ってくれてもいいんじゃないかな?」
「ソレは無理な話よ、ねぇミカゲ」
「私達には時間が、ない」
「しかし君達は囚われの身だ。この場からどうやって抜け出すつもりだね」
「こんな遊戯に付き合っている暇なんて、ない」
「……連れないね。少しぐらい、僕達とのゲームに付き合ってくれてもいいんじゃないかな?」
「ソレは無理な話よ、ねぇミカゲ」
「私達には時間が、ない」
「しかし君達は囚われの身だ。この場からどうやって抜け出すつもりだね」
そんな神崎達の言葉を聞いた二人の少女は再度顔を見合わせ、ニィッと更に笑顔を濃くする。
「それならこんな箱庭は――」
「壊してしまえばいい」
「壊してしまえばいい」
ゆらり、と少女達の背中から赤い霧が立ち上った。
そして瞬く間にソレは赤い大蛇へと姿を変え、真っ直ぐ言峰達に向けて牙を剥いた。
それは全長数メートルはありそうな全身を鱗で覆われた化物だった。
黄金の月にも似た瞳は覗きこむだけで命を吸い取られてしまいそうな錯覚に襲われる。
そして瞬く間にソレは赤い大蛇へと姿を変え、真っ直ぐ言峰達に向けて牙を剥いた。
それは全長数メートルはありそうな全身を鱗で覆われた化物だった。
黄金の月にも似た瞳は覗きこむだけで命を吸い取られてしまいそうな錯覚に襲われる。
(化……物ッ……!!)
明らかにこの時点で二つの反応を示す人間にその場は分かれた。
起こった異常に眼を見張り、悲鳴を上げる者とそうでない者。
集められた人間の間に確実な意識の差があることは明白だった。
起こった異常に眼を見張り、悲鳴を上げる者とそうでない者。
集められた人間の間に確実な意識の差があることは明白だった。
「……残念だ」
瞬間、神埼が動いた。
疾風のような速度で大蛇の突撃を回避しそのまま、神崎は手にした刀を抜き放ちその化物を一刀両断にする。
赤い靄のようになって、拡散する蛇。少女達の顔面が驚きの色に染まった。
そしてそのまま彼は双子に向けて突進し、彼女達を一刀の元に切り伏せた。
疾風のような速度で大蛇の突撃を回避しそのまま、神崎は手にした刀を抜き放ちその化物を一刀両断にする。
赤い靄のようになって、拡散する蛇。少女達の顔面が驚きの色に染まった。
そしてそのまま彼は双子に向けて突進し、彼女達を一刀の元に切り伏せた。
「え――嘘……でしょ、何で私の身体……」
「残念ながら今、君達は受肉した存在だ。元来が鬼、そして霊体故の特別な措置と言った所なんだけどね」
「主さま――」
「残念ながら今、君達は受肉した存在だ。元来が鬼、そして霊体故の特別な措置と言った所なんだけどね」
「主さま――」
全ては一瞬の出来事だった。
双子の姉妹は神崎の刀に切り裂かれ、地に伏せる。
そして瞬く間もなく、赤い霧となって霧散した。辺りに残ったのは二つの銀色の首輪だけだった。
双子の姉妹は神崎の刀に切り裂かれ、地に伏せる。
そして瞬く間もなく、赤い霧となって霧散した。辺りに残ったのは二つの銀色の首輪だけだった。
「……見事な腕前だな」
「お褒めの言葉、ありがたく頂戴しておきます」
「お褒めの言葉、ありがたく頂戴しておきます」
この時点で完全に残りの人間からは、この場で彼らと争う気力はなくなっていた。
腕に覚えがあるものも様子見に徹しているのだろう。
腕に覚えがあるものも様子見に徹しているのだろう。
「さて、これから詳細な説明をさせて貰おうかな。まず――」
「待っておくれやす、黎人はん」
「静留さん? 何か質問でも?」
「待っておくれやす、黎人はん」
「静留さん? 何か質問でも?」
神崎黎人がそこまで言い掛けた時、一人の少女が彼に話し掛けた。
彼女は潤沢な栗色の髪の毛を腰まで伸ばした豊満な身体付きの女性だった。
そして更に分かり易い特徴がその口調。京言葉、という奴か。
彼女は潤沢な栗色の髪の毛を腰まで伸ばした豊満な身体付きの女性だった。
そして更に分かり易い特徴がその口調。京言葉、という奴か。
「うちらがここに集められた理由は――いや、何であんさんがそこにおるん?」
「……僕じゃあ役不足かい? 白羽の矢が立った、とでも言うのかな。ただ、まぁ……分かりやすくいえば」
「言えば?」
「僕達も駒の一つ、って事さ。もちろん静留さん達とは役割も勝利条件も違うけどね」
「……僕じゃあ役不足かい? 白羽の矢が立った、とでも言うのかな。ただ、まぁ……分かりやすくいえば」
「言えば?」
「僕達も駒の一つ、って事さ。もちろん静留さん達とは役割も勝利条件も違うけどね」
この話し振り、おそらく両者は知り合いなのだろう。
しかも静留と呼ばれた女性の話し振りから察するに二人とも相当近しい関係だったようだ。
まるで神埼黎人がこの場にいることに疑問を持っているような……。
しかも静留と呼ばれた女性の話し振りから察するに二人とも相当近しい関係だったようだ。
まるで神埼黎人がこの場にいることに疑問を持っているような……。
「……まあええわ。うちは好きなようにやらせてもらいます」
納得したのだろうか。彼女はそう小さく呟くと、含み笑いを残して人の影の中に消えた。
「……話が逸れたね。改めて自己紹介しようか。僕は神崎黎人。そして、主な進行は僕が担当する。
一応の主催者、と考えて貰っていいかな。
言峰神父は補佐的な役割を……まぁ、あくまで監査役と考えてもらえば良いと思う。
さて、バトルロイヤル――便宜的に僕達はこれを『ゲーム』と呼ばせて貰う。
駒とは言ったが僕達はあくまで舞台の外の人間だ。実際に殺し合うのは君達……ここに集められた68、いや65人の参加者諸君だけさ。
基本的なルールは最後の一人になるまで殺し合う事、これはいいね? 加えていくつかの補足説明がある」
一応の主催者、と考えて貰っていいかな。
言峰神父は補佐的な役割を……まぁ、あくまで監査役と考えてもらえば良いと思う。
さて、バトルロイヤル――便宜的に僕達はこれを『ゲーム』と呼ばせて貰う。
駒とは言ったが僕達はあくまで舞台の外の人間だ。実際に殺し合うのは君達……ここに集められた68、いや65人の参加者諸君だけさ。
基本的なルールは最後の一人になるまで殺し合う事、これはいいね? 加えていくつかの補足説明がある」
神崎黎人はロールペーパーに書かれた文章を読み上げるように、スラスラと言葉を紡ぐ。
広間はむせ返るような血や吐瀉物の臭いが充満し、お世辞にも快適とは言えない環境だ。
それでも彼は顔色一つ変えず、微笑みながら説明を続ける。
広間はむせ返るような血や吐瀉物の臭いが充満し、お世辞にも快適とは言えない環境だ。
それでも彼は顔色一つ変えず、微笑みながら説明を続ける。
「時間は無制限。会場はとある無人の島だ。そして、六時間に一回ごとに死亡者と『禁止エリア』を伝える放送を行う。
さすがに一箇所に留まってばかりいられると、進行に支障が出るからね。ソレに対する処置だと思って欲しい。
そして、もう一つ。見てもらえば分かると思うが、君達の中には明らかに超常的な力を持っている人間がいる。
参加者間の溝を埋めるため、ある程度の制限を課させて貰っている。
いつもと同じ動きをしようと思うと痛い目を見るかもしれないね……加えて『使用さえ出来なくなっている能力』もある筈だ。
まぁ、こっちの方は時間の経過と共に制限が解除される可能性もあるけどね……。
また当然、食べ物や飲料水なども支給する。それと別に――武器もね。
各種銃器、刀、槍、鈍器、爆弾、劇物、あとは『面白い力を持った道具』などだ。
皆の愛用の道具などもコレには含まれる。気になったら探してみるといい」
さすがに一箇所に留まってばかりいられると、進行に支障が出るからね。ソレに対する処置だと思って欲しい。
そして、もう一つ。見てもらえば分かると思うが、君達の中には明らかに超常的な力を持っている人間がいる。
参加者間の溝を埋めるため、ある程度の制限を課させて貰っている。
いつもと同じ動きをしようと思うと痛い目を見るかもしれないね……加えて『使用さえ出来なくなっている能力』もある筈だ。
まぁ、こっちの方は時間の経過と共に制限が解除される可能性もあるけどね……。
また当然、食べ物や飲料水なども支給する。それと別に――武器もね。
各種銃器、刀、槍、鈍器、爆弾、劇物、あとは『面白い力を持った道具』などだ。
皆の愛用の道具などもコレには含まれる。気になったら探してみるといい」
銃という言葉にドクン、と私の心臓が叫び声を上げた。
……何をビビッているのだろう。
殺し合わせる、とまで言っている。拳銃どころか、ライフルやマシンガンを持ち出してきてもおかしくはない。
さすがに本物のバトルロワイヤルのように、素手で殴り合いをさせるのは非生産的と見たか。
……何をビビッているのだろう。
殺し合わせる、とまで言っている。拳銃どころか、ライフルやマシンガンを持ち出してきてもおかしくはない。
さすがに本物のバトルロワイヤルのように、素手で殴り合いをさせるのは非生産的と見たか。
「言峰神父」
「……ああ、ご苦労。最初の説明としてはこれで十分だろう。
それでは、現時をもってバトルロワイヤルを――」
「……ああ、ご苦労。最初の説明としてはこれで十分だろう。
それでは、現時をもってバトルロワイヤルを――」
説明は終了したのだろうか、神崎が言峰に目配せをする。
言峰が小さく頷き、殺し合いの合図をしようとした瞬間。
彼は露骨に眉を吊り上げ不快そうな表情で、とある少女見つめた。
言峰が小さく頷き、殺し合いの合図をしようとした瞬間。
彼は露骨に眉を吊り上げ不快そうな表情で、とある少女見つめた。
「柚原このみ――キミは……いつまでその死体に縋り付いているのだね?」
言われて、そして再度私は例の少女を一瞥する。
少女は顔を伏せたまま、亡骸となった少年(孝明と呼ばれていた)に向けてうわ言のように何かをブツブツと呟いていた。
少女は顔を伏せたまま、亡骸となった少年(孝明と呼ばれていた)に向けてうわ言のように何かをブツブツと呟いていた。
「……や、やだよ、何で何で何で? 何でタカくん死んじゃうの?
タカくん。ね、眼を開けてよ。タカくん眼を覚ましてよ。ね、ぇタカくんタカくん……タカ……ッ……くん……」
タカくん。ね、眼を開けてよ。タカくん眼を覚ましてよ。ね、ぇタカくんタカくん……タカ……ッ……くん……」
喘ぎ声が嗚咽となり、そして涙が理性を侵蝕する。
柚原このみは言峰の台詞などまるで耳に入っていないようだたった。そして、
柚原このみは言峰の台詞などまるで耳に入っていないようだたった。そして、
「神崎黎人。君は……例の条件を説明し忘れていたな」
「言われて見れば、そうですね。ついウッカリしていたようです。それでは?」
「ああ、彼女には残念だがサンプルになって貰おう」
「分かりました」
「言われて見れば、そうですね。ついウッカリしていたようです。それでは?」
「ああ、彼女には残念だがサンプルになって貰おう」
「分かりました」
(――ッ!?)
神崎黎人が『河野貴明にしたように』右手をスッと上げた。
それは……つまり、そういうサインなのだ。
それは……つまり、そういうサインなのだ。
――ピッ、
「……ぁ、カ……ぅ……くん――」
――ピッピッピッ、
「え……!?」
――ピピピピピピピピピピピピピピピ
「いやぁぁあああああああああ!! く、首輪がっ!! 首輪がっ!!」
「そう、すっかり忘れていた。首輪は先程のように即爆破することも可能だが、禁止エリアに入った場合は三十秒経たなければ爆発しない。
そして、これから諸君らにはこの『三十秒』じっくりと味わって貰いたいと思う。
彼女には可愛そうだが、二人目の犠牲者――見せしめになって頂こう」
「や、やだぁっ、やだぁっ!! 助けて、助けて……ッ、タカくん!! タカくん!!」
「そう、すっかり忘れていた。首輪は先程のように即爆破することも可能だが、禁止エリアに入った場合は三十秒経たなければ爆発しない。
そして、これから諸君らにはこの『三十秒』じっくりと味わって貰いたいと思う。
彼女には可愛そうだが、二人目の犠牲者――見せしめになって頂こう」
「や、やだぁっ、やだぁっ!! 助けて、助けて……ッ、タカくん!! タカくん!!」
柚原このみの首輪が無機質な音を発する。
彼女は躍るようにその首輪を握り締め狂気の色を増す
まるでタイマーの点滅音のようなソレは、次第にその間隔を早くしながら私の心の奥深くへと抉り込んだ。
彼女は躍るようにその首輪を握り締め狂気の色を増す
まるでタイマーの点滅音のようなソレは、次第にその間隔を早くしながら私の心の奥深くへと抉り込んだ。
これが本当の死へのカウントダウンという奴か。……バカ、冗談にもならないじゃない。
もちろん、私も彼女を助けたいとは思う。人間として、当たり前の感情だ。
だが状況が状況だった。
奴らはこの場の全ての人間に関する生殺与奪の権利を握っている。
そして誰もがこの在り得ない状況に混乱していた。彼らが言っていた『超常的な力を持つもの』も多分、それは同じ。
今、この瞬間、出会ったばかりの人間に対してすぐさま行動を取る事が出来る人間なんて実際はほとんどいないのだ。
だが状況が状況だった。
奴らはこの場の全ての人間に関する生殺与奪の権利を握っている。
そして誰もがこの在り得ない状況に混乱していた。彼らが言っていた『超常的な力を持つもの』も多分、それは同じ。
今、この瞬間、出会ったばかりの人間に対してすぐさま行動を取る事が出来る人間なんて実際はほとんどいないのだ。
それでも、
もし、
考えられるとしたら、
もし、
考えられるとしたら、
「このみっ!!」
――長年姉妹のように連れ添った知り合いぐらいのものだ。
パチンッ、という乾いた音が首輪の電子音を一瞬だけ打ち消した。
泣き叫んだ柚原このみの頬を彼女の側にいた女性が引っ叩いたのだ。
泣き叫んだ柚原このみの頬を彼女の側にいた女性が引っ叩いたのだ。
「……タカ坊はもう帰ってこない。このみ、アンタがしっかりしないでどうするの!」
「た、タマ……お姉ちゃん……?」
「それと、そこの馬鹿二人!! 早くこのみの首輪を止めなさいっ!!」
「た、タマ……お姉ちゃん……?」
「それと、そこの馬鹿二人!! 早くこのみの首輪を止めなさいっ!!」
キッと凛々しい顔付きで、そして凄まじい怒気を孕んだまま彼女は主催の二人を睨みつける。
言峰と神崎の表情も非常に驚きに満ちていた。
彼らはこの状況で自分達に歯向かう人間が入るとすれば超常的な力を持った連中、であると推測していたのだろうか。
しかし、主催者である二人に堂々と啖呵を切るとは、彼女は相当強い精神力を持っている、私はそう感じた。
言峰と神崎の表情も非常に驚きに満ちていた。
彼らはこの状況で自分達に歯向かう人間が入るとすれば超常的な力を持った連中、であると推測していたのだろうか。
しかし、主催者である二人に堂々と啖呵を切るとは、彼女は相当強い精神力を持っている、私はそう感じた。
「向坂環。だが、残念ながらこの場で彼女の首輪を止める事は出来ん。
私達は慈悲深い人間ではない。もう、この場は誰かが死ななければ納める事は出来んのだよ」
「……だったら――」
私達は慈悲深い人間ではない。もう、この場は誰かが死ななければ納める事は出来んのだよ」
「……だったら――」
彼女はクッ、と自らの首に煌く銀色の円環を差し示した。
「私の、命をあげる。だから早くっ!!」
彼女――向坂環はそう言い切ると地面に尻餅を付き震える柚原このみの前で大きく手を広げて立ち塞がった。
その場に居合わせた誰もが彼女のその行動に息を呑む。
僅かな逡巡の後、顔を見合わせた神崎と言峰が共にニンマリと笑った。
その場に居合わせた誰もが彼女のその行動に息を呑む。
僅かな逡巡の後、顔を見合わせた神崎と言峰が共にニンマリと笑った。
「……言峰神父」
「ああ。その願い――了承しよう、向坂環。
確認する、柚原このみの命を救うその対価は君の命――本当に構わないかね?」
「嘘なんて付くわけないでしょ!! 早くしなさい!!」
「ああ。その願い――了承しよう、向坂環。
確認する、柚原このみの命を救うその対価は君の命――本当に構わないかね?」
「嘘なんて付くわけないでしょ!! 早くしなさい!!」
言峰綺礼が片手を上げ、合図を送った。
柚原このみの首輪からけたたましく鳴り響いていた電子音がピタッ、と鳴り止んだ。
そして、
柚原このみの首輪からけたたましく鳴り響いていた電子音がピタッ、と鳴り止んだ。
そして、
「諸君――私は人が絶望し、自らの悲運に打ちのめされる光景を見る事を至上の愉悦としている。
何故、このような申し出を私が受け入れたのか不思議に思うものも居るだろう。
だが、私は見てみたくなったのだよ。
二人の幼馴染を失った彼女が――このゲームにおいて、どのような表情を見せてくれるのか」
何故、このような申し出を私が受け入れたのか不思議に思うものも居るだろう。
だが、私は見てみたくなったのだよ。
二人の幼馴染を失った彼女が――このゲームにおいて、どのような表情を見せてくれるのか」
代わりに向坂環の首輪から断続的な電子音が発せられた。
「そして――契約は執行される」
顔面を極上の歓喜に彩り、言峰綺礼は死者の代替わりを告げる。
再度、三十秒の死へのカウントダウンが開始された。
再度、三十秒の死へのカウントダウンが開始された。
「やだ……いや、だよ。タマお姉ちゃんまで私を……私を置いていくの?」
「……このみ。駄目だよ、あなたは生きなくちゃ」
「やだよ!! タカくんが居なくなったのに、タマお姉ちゃんも居なくなるなんて私、耐えられないよっ!!」
「……このみ。駄目だよ、あなたは生きなくちゃ」
「やだよ!! タカくんが居なくなったのに、タマお姉ちゃんも居なくなるなんて私、耐えられないよっ!!」
柚原このみは瞳に一杯の涙を溜めて、向坂環に抱きつこうとする。
が、向坂環は小さくかぶりを振り、寂しそうな表情で彼女を突き放した。
が、向坂環は小さくかぶりを振り、寂しそうな表情で彼女を突き放した。
私は、いやこの場の誰もが彼女の決断に大小様々な驚きを感じていた。
何故、他の人間のために容易く命を投げ出すことが出来るのだろう。
もしも自らの知り合いが同じような状況に追い込まれた時、自分はどんな行動を取るだろう、と。
何故、他の人間のために容易く命を投げ出すことが出来るのだろう。
もしも自らの知り合いが同じような状況に追い込まれた時、自分はどんな行動を取るだろう、と。
「雄二!! 居るのは分かってるのよ! このみ抑えてなさい!!」
「ッ――姉貴……何考えてんだよっ!! 自分から死にに行くなんて正気かよ!?」
「……狂ってたらこんな事出来る訳ないでしょ」
「ッ――姉貴……何考えてんだよっ!! 自分から死にに行くなんて正気かよ!?」
「……狂ってたらこんな事出来る訳ないでしょ」
他の人間を掻き分けるようにして、一人の少年がもがき続ける柚原このみを羽交い絞めにする。
が、少年の顔色も真っ青だ。腕の中の少女が幼馴染を失うのと同時に、彼は自らの姉を失うことになる――
電子音が私の鼓膜へと突き刺さる。
それは間違いなく私の人生の中で最も長く、そして最も短い三十秒だった。
が、少年の顔色も真っ青だ。腕の中の少女が幼馴染を失うのと同時に、彼は自らの姉を失うことになる――
電子音が私の鼓膜へと突き刺さる。
それは間違いなく私の人生の中で最も長く、そして最も短い三十秒だった。
「このみ、雄二――頑張って生きてね」
結末は血風と陳腐な爆発音。
彼女の決意を嘲笑うかのように、豪壮さも美しさもない。
飛び散る人だったモノ。
そして残された胴体の崩れ落ちる音。
彼女の決意を嘲笑うかのように、豪壮さも美しさもない。
飛び散る人だったモノ。
そして残された胴体の崩れ落ちる音。
「あ……ね、き――ッ!!!」
「タマ……おねぇちゃん……!!」
「タマ……おねぇちゃん……!!」
涙は視界を遮り、鳴り止んだ電子音がその現実を突き付ける。
訪れたのは死。
明確で拭い去ることなど出来る筈もない残酷な運命。
殺戮の舞台は整ったとばかりに神崎黎人が高らかと宣言した。
訪れたのは死。
明確で拭い去ることなど出来る筈もない残酷な運命。
殺戮の舞台は整ったとばかりに神崎黎人が高らかと宣言した。
「さぁ、ここに残った六十四名の人間によってゲームがスタートする。各自思う存分――殺し合って欲しい。検討を祈る」
彼の言葉と同時に、広間を埋め尽くしていた人間が一人、また一人と姿を消して行った。
まるでSF映画などで使われるワープ装置のようだ、そんなことを何気なく思った。
まるでSF映画などで使われるワープ装置のようだ、そんなことを何気なく思った。
何故、どうして私がこんな場所に呼び寄せられたのかは分からない。
特別な――先ほどの双子のような能力などある訳もなく、武術も習ったことはない。
目的は何だ? ただ私達を殺し合わせ、苦しむ姿が見たいだけという訳でもないだろう。
集められた人間も様々だ。
無力な人間から明らかな異能者、超人。もしかすれば殺人鬼などもいるかもしれない。
特別な――先ほどの双子のような能力などある訳もなく、武術も習ったことはない。
目的は何だ? ただ私達を殺し合わせ、苦しむ姿が見たいだけという訳でもないだろう。
集められた人間も様々だ。
無力な人間から明らかな異能者、超人。もしかすれば殺人鬼などもいるかもしれない。
(でも――)
闇は深く、こんな『ゲーム』に参加させられることになった己の運命を呪うことしか出来ないのだろうか?
壇上には言峰綺礼。
広間に残されたのは河野貴明と向坂環の死体、そして私だけだった。
広間に残されたのは河野貴明と向坂環の死体、そして私だけだった。
「ずばり、私が生き残れる可能性は非常に低いかと」
「……ほう、言い切るのだな」
「ただし――」
「……ほう、言い切るのだな」
「ただし――」
ここで一息。ジッと私は言峰の瞳を見つめた。
「普通の人間――何の力も持たない人間である私も、色々と頑張ってみよう。希望はあるんじゃないか――とは思いました」
「――そうか。……ククク、言葉通りの活躍、期待させて貰ってもいいかね」
「最善の努力程度でよろしければ」
「――そうか。……ククク、言葉通りの活躍、期待させて貰ってもいいかね」
「最善の努力程度でよろしければ」
私がそう、呟いたと同時に妙な浮遊感が身体を包みこんだ。
ゆっくりと身体が消えていくのが分かる。
意識がどこかへと飛んでいくのが分かる。
そして――ふと思った。そういえば私の、知り合いはいないのだろうか。と。
ゆっくりと身体が消えていくのが分かる。
意識がどこかへと飛んでいくのが分かる。
そして――ふと思った。そういえば私の、知り合いはいないのだろうか。と。
「それでは――私の口からも宣言しよう。この殺戮と狂気の宴の開幕を!」
言峰の言葉を脳で処理しながら、私の――私達の戦いはその瞬間、始まった。
――――ギャルゲ・ロワイアル2nd 開始。
【ノゾミ@アカイイト 死亡】
【ミカゲ@アカイイト 死亡】
【河野貴明@To Heart2 死亡】
【向坂環@To Heart2 死亡】
【ミカゲ@アカイイト 死亡】
【河野貴明@To Heart2 死亡】
【向坂環@To Heart2 死亡】
【残り64名】