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この青空に約束を―

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この青空に約束を― ◆UcWYhusQhw氏



青い空が広がっていた。
地獄のような島で。
限りなく蒼い空が。

沢山の人が死んだ。
生きたいと願い続けた者も。
誰かを生かしたいと思い続けていた者も。

沢山。
沢山。

死んだ。


空は。

空は変らず人を見下ろしている。

生きようと足掻く人達を。

ずっと。
ずっと。

そして、青空の下。


一発の乾いた音が響いた。


そこに今まで生き続けていた二人がいた。



だけど、一人はもうその命を終えようとしていた。
黒髪の少女が茶髪の女性に銃を向けて今、命を奪おうとしている。

「ねえ……唯ちゃん……約束して」
「何だね?」

女性――杉浦碧――が言う。
この一日半生き続けていた彼女が知己である少女――来ヶ谷唯湖――に。
碧には唯湖が何故ここまでするかは分からない。
でも。
それでも、彼女には。

「唯ちゃん……生き延びなさい……生き続けなさい」

生きて欲しいと。
そう、願ってしまった。
皆に。
例え自分が死んだとしても……この島にいる全員に死んで欲しくなかったから。


「無理な約束だな……何故なら私は死にたいのだから。最高の死に方を唯……選びたいだけなのだから」


唯湖がそう返す。
どんなに生を渇望しようとも。
どんなに未来を思い描こうとも。
彼女には先が無いのだから。

だから、彼女は望む。

最愛の人に殺されるという最も幸せだと思われる死を。





―――そして。



パンと。


乾いた音が空に響いた。


青い

青い空の下で。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










わたし達は唯、街を黙々と歩いていた。
玲二くんは私達の一歩前を歩き、深優ちゃんは私の隣で歩いている。

「ね、ねえ深優ちゃん」
「……何か?」
「い、いや、何でもないよ」
「そうですか」

か、会話が続かない。
いや、何か話したいわけでもないんだけどさ。
折角わたし――杉浦碧――と深優ちゃん玲二くんとは仲間になったわけで。
せめて、ツインタワーまでつくまで何か交流でもできたらと思ってさ。
ほら、一応先生だしさ。
いろいろ知っておきたいのだけど……

「…………」

会話が無かった。
いやまぁ……元々玲二くんにしろ深優ちゃんにしろ話すタイプではない。
それに、後ろめたい部分もあるのかもしれない。
二人とも殺し合いに乗っていた。
しかも玲二くんは実際に参加者を殺している。
恐らく深優ちゃんもそうなのであろう。

だから……話しづらいのかもしれない。

でも。
だからどうしたというのだ。
わたし達は仲間だ。
だから、今は話が上手くいかなくともそのうち話せるようにしたい。






でも……わたしは。

わたしは何をやってるんだろう。
この殺し合いの場所で。
正直からまわってばっかだ。

美希ちゃんを見失い。
葛ちゃんを目の前で失って。
クリス君達を見失って。
平蔵さんも死んで。
理樹君も死んでしまった。
りのちゃんも死んで。
真ちゃんも目の前で失った。

……何やってるんだ、わたし。

……何も。


何も出来ちゃいない。


何が……正義の味方だ。


護りたいもの……護れて無いじゃん……






わたしは何をやってるんだ……


愕天王も未だに出せずに……



わたしは……


わたしは……


何でここに居る……?


わたしは……何がしたいの?


わからない。

解らない事が

堪らなく
堪らなく

悔しい。

手を強く強く握りしめた。

悔しさに負けないように。



ぎゅっと。
ぎゅっと。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「……深優、碧。進路変更だ。教会に行くぞ」
「何故ですか?」
「今のアル達の連絡でクリスという奴らは教会に向かってるらしい。つまりこれ以上ツインタワーに向かっても無駄だ」
「成程、では、急ぎましょう……碧?」
「ん、ああ……なんでもなーいよ。ちょっとボーとしてただけ」
「そうですか」


どうやら、クリス君達は無事らしい。
アルちゃんの臨時の連絡で教会に向かっていることが明らかになったから。
つまり、私達がツインタワーに向かっても無駄という事。
わたし達はそのまま転進し今歩いていった道を戻っていく。

でも、未だに上の空だ。
理由はさっき考えた事。
未だに迷っている。



自分がどうあるべきなのかって。
くよくよ悩むのなんて私らしくないのは解っている。
でも、深優ちゃんも玲二くんも皆しっかり考えた上でこの殺し合いに居る。
じゃあ私はどんな気持ちでここに居るのだろう。

正義の味方?

皆を護る為?

そうなのだろうか。

わからない。

わたしはこんなにも少なくなっていく参加者の中で何もなしてない。
わたしは何をしたいのだろうか……

わたしは……この島に生きている理由は……


その時


「銃声!?」


遠くの方で銃声が響いた気がした。
恐らく今この島で居る私達以外13人の中で誰かが撃たれてしまった可能性があるという事。

また……取りこぼしてしまうかもしれない。
そんなのは絶対に嫌だった。




「御免、深優ちゃん! 玲二くん! 先に行くよ!」
「……おい、待て!」


わたしは玲二くん達の返答も聞かずに駆け出した。
もしかしたらまだ助けられるかもしれない。
そう思うと走る速度がどんどん上がっていく。

急げ。
急ぐんだ。

まだ救えるかも知れない。

葛ちゃんや真ちゃんに助けられないなんてもう嫌だ。

だから。
急げ、杉浦碧







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「……呪いか……全く千華留君も変な事を言う」


私――来ヶ谷唯湖――は腕を組みながら青空の下歩き続けていた。
先程、千華留君を殺した。
罪を重ねる為に。
クリス君に殺されるに足りる者になる為に。
未来の無い私が幸せに逝ける為に。

殺したことに後悔など無かった。
する必要など無かったのだから。
もう、落ちる先は地獄であることくらい決まっているのだから。

リトルバスターズを継ぐ……か。

何を言うかと思えば。
クリス君とあったときに効く?
馬鹿だよ……

どんなに足掻こうにも未来は無いのだから。

私が進むべき未来など無いのだから。
死に逝く者に呪いなど効かない。

第一、私は元々……死人だ。



千華留君曰く生者を縛るのが呪いなら……


それは効きはしないよ。


さあ、行こう。

業を重ねる為に。

クリス君に断罪してもらう為に。

私は最後まで愚者でいい。


そう、決めたのだから。




「……あれ……? 唯ちゃん!」

そう思った矢先、背後から懐かしい声が聞こえてくる。
それは、温泉で会った人。
仲間だった人。

「碧君じゃないか……元気だったかい?」

杉浦碧。
まさか、もう一度会えると思わなかった。
彼女は朗らかに笑っている。
きっと私が殺し合いに乗ってることすら気付いていないのだろう。
まったく……お人よしというかなんというか。

「クリス君と別れたみたいだから……無事だったんだ」
「ああ、何とか無事だったよ……クリス君が何処にいるか知ってるのかい?」
「うん……クリス君ね……教会に居るみたいだよ」




教会。
……偶然か必然か。
私が向かおうとする場所に彼は居る。

……そろそろ、断罪の時だろうか。

果たしてクリス君は私を殺してくれるのだろうか?

優しい彼のことだ。
きっと迷うだろう。

でも殺してもらわないと困る。

既に4人殺したのだから。


血にぬれたこの手でクリス君を抱きしめることなど……もう、無理なのだから。


そして、今


「そうか……じゃあさよならだ。碧君」
「…………え?」


もう一人殺すのだから。

パンと。

乾いた音が響いた。


青い。


青い空に。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……まだ、死んでまもないな」
「ええ……」
「……知り合いか?」
「ええ……源、千華留です」
「そうか……」

青空の下、やすらかに眠っていた少女がいた。
源千華留
閉じられた目はもう開かれることは無い。
そう、静かに死んでいた。
深優はもう動かない彼女に向かって唯黙祷していた。

深優たちは碧を追うものの入り組んだ外路地であるが故に碧の姿を見失ってしまった。
代わりに見つけたのが静かに逝っていた千華留の姿だった。

深優は唯千華留を見つめている。
深優には彼女の死因がわかっても生き様は分からない。
彼女が最後に誰を想っていたのか。


幸せに逝けたのか。
それは千華留自身にしか分からないけれども。
でも、深優は幸せを願うしかなかった。

己が勝手で彼女に殺し合いに乗っているという偽情報を流してしまったのだから。
もしかしたら、それが遠因で死んだのかもしれない。
そう想うと何かやりきれなくて。
勿論アリッサの為にやったのだから後悔は無い。
でも、それでもただ祈るしかなかった。

自らの過ちを赦してもらうのではなく。
彼女の冥福を。

祈るしかなかった。

そう、祈るという行為は無駄ではないとこの島で知ったから。

だから、祈り続けていた。

青空の下で。



幾らかの時が経った時だろうか。

深優が祈りをやめようとした時だった。


「……銃声?!」




遠くから乾いた音が響いたのは。
それは先程きいたのと同じ音。
そして、今傍に居ない仲間の事を想う。


「玲二……碧が危ない……!」
「……ああ、急ごう」

今、居ない碧。
襲われてる危険性が高い。
そう深優たちは判断し銃声のした方向に駆け出す。

後ろを振り返らぬまま。

それが

生きる者が死んだ者の為にできる事だと。

そう思って。



そんな深優達を見送るかのように。


赤いマフラーが青空にはためていた。


青い。


青い空の下で。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「おや……必中のつもりだったのだがな。予期されていたのか」
「……唯……ちゃん……やっぱり……そうなんだ……」
「おや……わかっていたのかい?」

唯ちゃんに撃たれた。
わたしは嫌な予感をしたお陰で前もって避けることができた。
もしかして……と思っていた。
それは唯ちゃんが血濡れだったから。
でも、唯ちゃんに限ってそんな事ないと信じたかったから。

でも……やっぱりそうだったんだ。
唯ちゃんは別れた後に殺し合いに乗ったんだ。

「うん……なんとなくだけど」
「何でって聞かないのだな」
「……んークリス君?」
「…………………………」



澄ました顔をして目を瞑ってる。
やっぱりそうなのかな。
うん……そうなのか。
元々そんな簡単に乗るような子じゃないし……

やれやれ罪作りだねクリス君も。
ちゃんと面倒見てやらないとだめじゃない。

「まぁ……そういうことだよ……碧君」

そういって彼女はあっという間に距離をつめ銃をわたしにむける。
駄目だ。
もう、この距離じゃ避けることができない。

あーもう。
ボーっとしすぎだな。

結局。
なにもできてないじゃない。
わたしは何やってるんだ。

わたしはこの島で何をしたかったんだ。

結局何も出来ていない。
正義の味方といって誰も護れちゃいない。

葛ちゃんも。
真ちゃんも。
りのちゃんも。
理樹君も。
平蔵さんも。


わたしは何を生きていたんだ。


わたしは……

結局無力のままだったよ。

でも、皆必死に生きようとしていた。

それを私は絶対に忘れない。


忘れる訳、無い。

忘れちゃいけない。

だから。

わたしも唯ちゃんに願おう。

わたしの分まで。

クリス君と共に。

「ねえ……唯ちゃん……約束して」
「何だね?」


空は青く澄み渡っている。



その空に誓って欲しい。


わたしや。

葛ちゃんたちの分までも


「唯ちゃん……生き延びなさい……生き続けなさい」

生きて欲しい。
クリス君と共に幸せに生きて欲しい。

何故かこれから私を殺すというというのに。


そう、思ってしまった。



生きて欲しい。


そう、思ってしまった。


だって。

生きることは素晴らしい。


そう、思えるから。




だから。


だから。


おねが……



「無理な約束だな……何故なら私は死にたいのだから。最高の死に方を唯……選びたいだけなのだから」



え……


唯ちゃん?



なんで……


なんで……


死……なの?









その瞬間。


パンと。


軽い音が響いた。


青い。


青い空の下で。







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深優・グリーア
吾妻玲二(ツヴァイ)
236:blue sky 来ヶ谷唯湖



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