ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

観測者の愉悦

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観測者の愉悦 ◆WAWBD2hzCI



『こちら黒須太一、生きている人、返事してください』

太一は走る。森を駆け抜け、周囲を散策する。
掴むのは放送室で改めて手に入れた拡声器。放送の気分で彼は語りかける。
そこに己の身の安全に対する考えはない。
ただ、今の自分の行動は人を救うこと。早く仲間を連れて戻ってくること。そんな人間らしい至福に包まれている。

気分がよい。
歌いたい気分だった。
仲間の歌でも歌いたいものだ。
もちろん歌も作詞も作曲も自分だ。ついでに俺、僕、我、小生などと言い方を変えたいところである。

閑話休題。
それにしても人が見つからない。
拡声器さえあれば交流も簡単だし、仲間もすぐに集えるだろうと高をくくっていたが間違いだったか。
太一は少し唸ると、自力で周囲を見渡すことにした。いまだ現場は森の中、視界はあまりよくない。
日光は繁る森に遮られて薄暗いが、太一の目は暗闇でも昼のように見ることができる。

「ふっふっふ、そこだな!」

彼の常軌を逸した直感と瞳が何かを告げた。
風が吹いた。木陰に長くて黒い髪を発見した。恐らく本人すらも気づいていないだろう。
だが、黒須太一は観測した。人の姿を見つけ出した。
まるで獲物を見つけた肉食動物のような速度で接近し、木陰へと躍り出る。

そこには確かに人がいた。
まるで人形のような孤高の美しさを保った女性が、人形のような無表情でそこにいた。


「…………君は誰かな?」
「黒須太一、純愛貴族にしてヤングアダルト候補生なのだ」
「ふむ……よろしく、太一少年。来々谷だ」

少女は酷く憔悴していた。
クリスの死、目の前で死んだという事実が彼女を苛んでいた。
心なんてなかった、ないと思いたかった。そうすればこの悲しみもきっと勘違いですむはずだったのだから。
それでも、ちくりと胸が痛かった。脇腹の傷などとは比べ物にならなかった。これが失う痛みだと知った。

太一は一瞬だけ、その少女に見惚れていた。
酷く不安定なのに、自分の足で立っている。太一の言葉で言うなら『キレイなもの』だった。
分析的に他人に接する太一だが、来々谷唯湖に芸術品としての歪んだ愛情を抱いた。

「……名前は?」
「黙秘だ、少年。私のことは来々谷さんと呼ぶがいい」
「むむむ」

太一は改めて彼女を分析する。
面白い人のような気がする。だが、今の彼女は傷心中らしい。何処か元気がない。
それでも何とか自己を保って、普段どおりにしようとしている印象が強い。
桐原冬子と通じるものがある。表面的な部分で、孤独や孤高を保とうとしているのだ。
それが彼女の本質かどうかはともかくとして。たった今出逢ったばかりの少女のことなど、来々谷という名の女としか知らない。

うむ、元気付けなければならないと思う。
何故だか無性に彼女にリセットをかけたくなった太一は地面を蹴って来々谷に襲い掛かる。
突如として飛び掛ってきた見ず知らずの少年を前にして、来々谷は驚きに瞳を見開いた。

「てやー……パラシュート・デス・センテンス!」
「むっ!?」

説明しよう。
パラシュート・デス・センテンスとは太一のセクハラ奥義のひとつである。
スカートめくりの極み、と謡われた最強の魔技であり、同年代の少女限定の必殺技である。

スカートへアクセスする指先が布をつまむその一瞬、全身の間接24箇所を同時に駆動。
女子の魅惑的閉鎖空間内に極小の乱気流を発生させる。
この作用により、めくりあげたスカートはパラシュート状に維持され、通常の数倍の滞空時間で下着を衆目に晒すのだ。
同じく同年代の少女によって、もう人には到達できない奥義とも呼ばれた恐ろしい技である。

「ふっ……遅いな、少年」
「な、なんだと!?」

だが、大前提として彼の指が衣服に触れなければ意味がない。
残像が太一の指をすり抜けたと思った瞬間、バランスを崩した太一は無様に地面を転がっていた。
背後には薄ら笑いを浮かべた来々谷の姿。
倒れ伏す少年を見下ろすことに満足しながら、得意顔で解説してみせる。

「タイミングは悪くなかった。だが、少しばかり動きが緩慢だったな」
「くっ……そうか、これがあの上級エイリアンの言っていた制限か! おのれ、この純愛貴族の奥義を封じるとは!」
「はっはっは。そう落ち込むな、少年よ。久しぶりに欲望丸出しの男を見て、気分は紛れたぞ」

極技が不発に終わったのは悔しいが、フラグは立った模様。
前向きに考えることにした太一は、改めて本来の目的を思い出した。

「そうだ、どうして呼びかけに答えてくれなかったんだ。これで思いっきり叫んでたのに」
「すまないな、呆けていた。……拡声器か。面白い発想だが、危険が多い。今まで注意されなかったのか?」
「思いっきりされて、思いっきり無視したのだ。えへん」
「…………まあ、そういうなら無理には止めんが」

いやいや、違う。こんなことが話したいのではないのだ。
本来の目的、ちゃんとした目的があったはずだ。奥義が破られたショックのおかげで忘れたが。
むむむ、と唸りながら記憶を巻き戻す。自分の行動、自分がしなければならないことを。
少しの間、頭を捻って考える。そしてようやく記憶を巻き戻し終えて、ぽんと手を打った。

「そうだ、思い出した。正義の味方を集めてるんだ。どうだ、一緒に悪いエイリアン退治をしないか?」

勧誘しておきながら、太一は思う。
あれ、その前にもうひとつ約束事があったような気がする、と。
もちろん、無視することにした。何となく目の前の彼女と行動を共にすることのほうが大事なように思えたのだ。


     ◇     ◇     ◇     ◇


(エイリアン、か)

面白い言い方だと来々谷は思った。
身振り手振りで説明しながら、たまに奇襲(セクハラ)を仕掛けてくる太一を避ける。
そうしている間にも、彼女の思考は深みへと嵌っていく。
なるほど、エイリアン。殺し合いに乗っている者や主催者たちの総称として用いたものだろうが、中々に斬新だ。

この少年も面白かった。
黒須太一。純情なクリスとはまた違った面白さがある。
要するに殺し合いを止めるために同道してくれ、と彼は言っているのだろう。

(……私は)

彼の行いは正しいものだと思っている。
一緒に付いていくことにデメリットなどないし、問題もない。
面白そうなものがあるのなら、それに乗るのが自分の行動方針のはずだ。

だが、それでも駄目だった。
太一の面白さも、彼の斬新なアイディアも、彼の陽気なセクハラも。
表面的に元気にはなれるが、どうしても心までは癒せなかった。ないはずの心がぽっかりと開いてしまっている。
空洞だった。やはり、心はないように思ってしまう。

心を持っていると言ってくれたクリスの最期の言葉。
それを否定したくてしょうがなかった自分の心理に唇を噛む。

「……そう、だな。それも面白そうだ」
「ふっふっふ、そうだろう。正義の味方チームの結成だ。そうだ、思い出した。メンバーは更にもう一人いる」

もっとも、しばらく時間が経過してしまっている。
もう決着がついてしまっているかも知れないが、それでも駆けつけてやるべきか。
そんなことを考えていると、来々谷は申し訳なさそうに言う。

「すまないが太一少年、少し考えさせてくれ。今の私は傷心中でな、心の整理が必要だ」
「……誰か、死んだのか?」
「ああ。……大切な友人たちと、さっきまで同道していた少年がな……」

それはご愁傷様でした、という言葉を太一は飲み込んだ。
ここで下手なことを言って機嫌を損ねられては困るのだ。自分が一般人よりもズレていることは自覚している。
それでも普通を擬態し続けているのだ、余計な言葉でボロが出るだろう。
だから無言で頷くと、来々谷は初めて儚い笑みを浮かべて感謝の言葉を伝える。

「ありがとう。次の放送ぐらいのときに温泉旅館で逢うとしよう。君もずぶ濡れだからな」
「風邪気味だったりするんだけど」
「それでも身体は温めるべきだ。このまま悪化などしては命取りだぞ」

必ずだぞ、と言い聞かせて来々谷は踵を返した。
温泉旅館。思えばあそこが自分たちの拠点になっていたのかも知れない。
クリスたちと楽しんだ場所、あそこを指定したのは何故だろうか。
分からない。もしかしたらクリスの面影を求めたのかも知れない。心がないと信じている彼女には分からない。

太一に見送られながら、深い森の中を歩き続けた。
背後から彼の気配がなくなった後も、ゆっくりと彼女は森を彷徨い続けた。

「なあ、クリスくん。君の雨は、止んだのかな……?」

そんな感傷が、心の欠片が不安そうな口元から零れ落ちた。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「勧誘成功、ぶい」

明後日の方向にピースしながら、太一も森の中を歩き続けた。
順調に仲間は集まっているのだ。いずれ友情、努力、勝利の下に敵を蹴散らすのも遠い未来ではない。
支倉曜子のことを少しだけ思い出す。
かつての孤高の君、お姫様。独立した他者の最高峰、かつて憧れた人は手に入った瞬間に無価値になった。

彼女が孤高から依存を選択したとき。
太一のために何もかもを許容するようになってから、太一の中で支倉曜子の価値はなくなった。
今もなお、人を殺しているのかも知れない。自分のためと称しながら。

「……まあ、心を入れ替えるなら仲間に抜擢だ。ミキミキも同様、霧ちんの仇を討つのだ」

それでも仲間は大切にしなければならないのだ。
夢と希望に溢れた学生時代、その仲間たちを集めて主催者たちを打倒しよう。
世界の平和、地球の平穏を護る正義の味方になろう。
それはとても夢がある。人間の可能性がある。太一にも理解できるヒーローへの憧れがそこにある。

まあ、もっとも。
その憧れも表面的に擬態したにすぎないのだが。

「……さて、と。士郎は無事かな」

思いっきり間に合わなかったが、死んでいたらごめんと一応謝ってみる。
もしも放送で呼ばれたら、次の食料に名前をつけて自分の血肉にするから許してほしい。
とはいえ、ちゃんと生きていてほしいところではある。
まだ彼にはお楽しみが残っているのだ。それを楽しみたいと本能が告げているが、無視する。

さて、森の中とは憶えているのだが見つからない。
銃声や怒号でも飛び交ってくれれば場所も分かるのだが、目印のない森林地帯には静寂があるのみだ。
来々谷を捜し出したときのような直感を信じて、猫の目のような正確さで太一は見定める。

「むっ、誰か発見」

即座に走り出した。
拡声器を構えて呼びかけてみる。
もちろん忠告を無視して交流開始。人間って素晴らしい。

『そこの人ー、ストップストップ!』

目的の人物が立ち止まる気配を太一は察する。
向こうからの反応はあったらしい。やはり拡声器は素晴らしいと言わざるを得ない。
次の放送は自分がやりたいなー、などと思いながら走りよって。

そして、すぐに木陰へと避難することにした。

応酬、返ってきた反応は銃弾と銃声、生々しい人殺しの道具が飛来する。
彼女の姿を見た瞬間、慌てて太一は隠れる。
なるほど、拡声器の恐ろしさ。敵も味方も容赦なく呼び寄せるという意味では恐ろしいことこの上ないのだった。

「……ちっ、ちょこまかとウザいですね」

黒髪の眼光鋭い少女。
復讐者として島に生きることを選んだ椰子なごみがそこにいた。
周囲に士郎の姿はない。殺されたのかもしれない。
おお、士郎よ、死んでしまうとは情けないと呟きながらも、黒須太一は敵と相対した。

「なあ、なごみん。一応聞くけど、士郎はどうしたんだ?」
「……ああ、何やら教えてほしいことがあったらしいので教えてやったら、勝手に崩壊しました。滑稽でした」
「…………ああ」

なんて、勿体無いと太一は思った。
結局、衛宮士郎は真実を知って崩壊したのだ。ならば、その絶望は見てみたかった。
傷ついても決して折れようとしなかった花が、グシャグシャに潰される様子にはきっと落胆と同時に興奮を手に入れられた。
それを他人に奪われたという事実、よほどの至福だったかはなごみの表情を見れば分かる。

「くっ、くく……本当に滑稽な奴でしたね。思い出したら笑いが止まりません」

くつくつ、と少女は笑う。理不尽な世界に翻弄された少年を笑い続ける。
太一は落胆した。楽しみに取っておいたショートケーキの苺を他人に食われたような喪失感。
残念だ、実に残念だった。どうせバレるなら、自分の口で聞かせてやりたかった。

「……じゃあ、あいつが対馬レオを殺した犯人かも知れない、ってのは?」
「………………っ」

ぴたり、と哄笑が止まる。
その様子は知らないのかも知れない。彼が殺し合いに乗っていたかどうかも。

「あいつが殺し合いに乗っていたのは知ってるかな? 俺に出逢うまで人を殺し続けた」
「……それ、は」

その可能性にどうして行き着かなかったのか、なごみには不思議だった。
リセを殺した。桜とかいう女を護るためにだ。
ならば、士郎がレオを殺したという可能性をどうして考えなかったのか。
快楽と興奮に冷静な思考を奪われたのか。いかにセンパイであろうとも、士郎ほどのものが相手なら殺されるかも知れないのに。

「しっかりと復讐は果たせたか? 無残に殺せたか?」
「ぐっ……」
「ちゃんと残酷に、無様に、凄惨に、無残に殺せたかと聞いているんだ。それをしなかったとしたら、復讐の意味がない」

そうだ、復讐とは人間らしい感情のひとつである憎悪の暴走だ。
復讐鬼を謡うのであれば、殺し合いに乗った者ほど残酷に殺さなければならない。
それが出来なかったのは何故か。
快楽に溺れたからだ、僅かでも復讐心が満たされたからだ。心の空洞が負の感情で埋まったからだ。

「対馬レオって奴への想い? 違う、ただお前は自分のために殺しまわってるだけだ」
「こ、の……!」
「ただ理不尽に奪われたってだけで、周りに当り散らしているだけ。センパイとやらのためですらない」

彼女の価値など、もはやない。
復讐ではなく、ただの恨み辛みに過ぎない。子供が癇癪を起こしているに過ぎない。
それをセンパイのため、と言い訳しているに過ぎないのだ。

「なあ、ひとつ聞きたいんだけど。センパイのために生きるって言うんなら―――――」

それはまるで毒酒のように。
にょろり、と心の奥底に侵入してきて、直接心臓を刺すような弾劾。


「―――護れなかったお前は、どうして今すぐにでも死なないんだ?」


ぶちり、と血管が切れるような音。
己のすべてを全否定された少女は憤怒の表情で太一を睨み付ける。

「殺してやる」

殺す、殺してやる。
対馬レオへの想いの全てを否定しつくした男を、望みどおり残酷に無残に凄惨に殺してやる、と。
銃を構える。腹を撃ち、両手足を撃ち抜き、脳天を吹っ飛ばしてやる。

「怖いな。昨今の若者のモラルの欠落は社会問題だ、うん」

構えるサバイバルナイフ。手によく馴染むのが嬉しい。
だけど殺し合いは嫌だなー、と素直に思う。
血は見たくない。世界と自身の境界線があやふやになってしまう。それは避けたいところだった。
でも、他に武装らしい武装はない。ナイフの他に持っているものといえば拡声器ぐらいしか。

「死ね、死ねぇえええええっ!!」

放たれる弾丸が太一の隠れる木々を穿つ。
支給されたはずの銃はいつの間にか無くなり、遠距離の状態で戦えはしない。
太一とていわゆる一般人に過ぎない。
投げた電柱の上に飛び乗ったり、ドッチボールでレーザービームを撃ったり、怒れる狂戦士を一撃で葬ったりはできないのだ。

どうしたもんかなー、と考える。
人から敵意を向けられることには割りと慣れている。
もちろんその中には殺意すらも含まれている。だからこそ彼は平常心のままに殺し合いへと興じた。
木々の間を疾走する。左肩の痛みが鮮烈で、集中力が研ぎ澄まされていた。

「ちっ……ちょこまか、ちょこまかと!」

弾丸をばら撒くが、太一には当たらない。
森林の遮蔽物をうまく利用して地面を縫うように走る。
左手で握るサバイバルナイフは頼りない。だが、右手で掴むそれには不思議な楽しみがあった。
どんな意味があるだろうか、どんなことになるだろうかという興味があった。

「しょるだあ、かったあー」
「っ―――――!?」

逃げ回っていた太一が突如として踵を返して接近する。
驚きはあったが、それを好機と見てなごみは銃を構える。標的の姿が大きくなる以上、外しはしない。
だが、彼女の銃に大きな衝撃。手放しこそしなかったが、銃は太一から外れたところで発砲してしまう。
サバイバルナイフが投擲された。
目の悪いなごみには反応することができなかったが、肩まで高く掲げた銃が偶然防御したのだ。

(ちっ……!)

だが、次は外さない。
太一は唯一の武装を投擲したことで無手のはず。少なくともなごみはそう判断した。
敵はもう目の前まで来たが、何か武器を持っている様子も無い。そのまま殴りに来たのだと判断した。
莫迦な奴、と笑ってやった。いくらなんでも引き金を引くほうが圧倒的に早い。

「死ねっ……!!」

殺った!
距離は五メートル、逃がさない。
太一の振り上げた右腕は届かない。
たとえ相手が手を振り下ろすほうが早くとも。
確実に放たれる弾丸は黒須太一の腹を突き破り、地面に無様に横たわるのだ。


――――――黒須太一が、本当に無手であったのならば。


「はっ……? うぶっ!?」

なごみの視界を覆う緑色。
べちゃり、と気持ち悪い液体が顔面に直撃した。
反射的にその液体を取るために左手を伸ばし、そして粘着性の高さに驚愕する。
ねちゃねちゃした物体は僅かに蠢いており、なごみを混乱の極地へと誘う。

「うっ、おえええっ……ぶっ、え、あっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」

何とか取ろうともがくと、更なる症状が襲い掛かってきた。
即ち頭痛、吐き気、眩暈などの体調不良。
それもまるで40度以上の高熱にさらされたような苦痛に、とても立っていられなくなる。
がくり、と逆に地面に倒れ伏すなごみ。彼女の言うとおり、無様に地面を這うような形になってしまう。

「うむ、想像以上だ。ちょっぴり感じるエロスがとてもいい」
「おぉ、ごっ……お、まえぇぇぇぇ……っ!」

NYP兵器、ウィルス。
相手の動きを止め、吐き気や頭痛を催させる支給品だ。
本来ならこれほどまでの威力はない。
たとえ科学部隊とはいえ、ここまで危険な武装を作ってはいない。そのはずだった。

これらの兵器はNYP(なんだか、よくわからない、パワー)をもって威力とする。
つまり、高ければ高いほどに威力があがっていく。
リトルバスターズにおいて唯一、この兵器を行使できる西園美魚が扱ったとしてもこれほどの地獄は生み出さない。
なごみは倒れたまま、動けない。口も利けない。そんな余裕がないほどに苦しんでいる。

これはあくまでも仮の話だが、NYPと適応係数に関係があるとしたらどうなるだろう。
オリジナルである西園美魚よりも上。科学部隊の想定以上のNYPの下に兵器を行使すれば、その威力は跳ね上がるだろう。
黒須太一、適応係数84。
言うまでもなく、彼の適応係数は西園美魚のそれを大きく上回っていると考えられる。

あくまでそれは予測に過ぎない。
ここにある事実はひとつ。
黒須太一は恐らく、誰よりもNYP兵器を強力に扱える存在であるということだ。

「あっ、ぁぁぁぁぁぁ、ぎっ、ぃぃぃぃいいいい……!!」

死にたくなるほどの苦痛、されど非殺傷であるが故に死ねず。
生き地獄が椰子なごみを蹂躙する。
少女がのた打ち回るその姿に太一は興奮する。彼の化け物の部分が歓喜を声を上げる。
観測者の愉悦、太一はなごみの苦しむ姿を眺めて楽しんでみる。

「罰ゲーム」

ただ一言しか告げない。多くは語らない。
別になごみが殺してきた者たちの分、などと言うつもりは無い。
あくまでこれは趣味の領域。芸術品のひとつが壊れていく様子を楽しむだけなのだ。
罪悪感など沸くはずもないし、義憤や悲嘆すらない。

「うん、罰ゲームみたいなものだ」

太一は口元を薄く歪める。
その一瞬、観測するひと時の太一が人間であったか、化け物であったか。
それは恐らく、本人にしか分からない。

時刻は午後。
薄っすらと繁る薄明の森の中、少女の苦痛だけが木霊した。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「楽しかった。これでなごみんも改心してくれれば言うことはないのだが」

温泉旅館に向かいながら太一は一人、呟いた。
たまにはああいうのも良いと思う。ただ、普通というものにきちんと擬態しているかどうかは微妙なところだ。
うん、自重しないと、などと一人呟き、デイパックの中のウィルスに視線を向ける。
苦手な血も出ないし、敵も打ち倒せるしで一石二鳥。

ついでに戦利品としてなごみの持っていた銃を回収した。
デイパックごと回収してもいいのだが、そこは武士の情けということにした。太一は自称紳士なのだ。

「はっくしょい!」

ぶるる、と身体を震わせる。少しばかり長居しすぎたようだ。
来々谷の忠告どおり、早く温泉に入って身体を温めるべきだろう。
そこで正義の味方候補を集いつつ、この殺し合いを止めてみせる。人間もエイリアンも関係ないのだ。
人とエイリアンが交流。力をあわせて邪悪を打ち破るのだ。

「らーららーららーらー、らーらららーらー」

さあ、交流を続けよう。
黒須太一は大いにこの島の喜劇を楽しむ。
彼は参加者にして観測者。
怪物の表情を僅かに覗かせながらも、普通を演じる青年は行動を再開させた。



【D-6 平地(マップ中央)/1日目 午後】

【黒須太一@CROSS†CHANNEL】
【装備】:サバイバルナイフ、拡声器
【所持品】:支給品一式、S&WM37エアーウェイト(5/5)、ウィルス@リトルバスターズ!
 S&WM37エアーウェイトの予備弾12、第1次放送時の死亡者とスパイに関するメモ
【状態】:疲労(中)、やや風邪気味(軽い発熱・めまい・寒気)、左肩銃創痕
【思考・行動】
基本方針:『人間』を集めて『エイリアン』を打倒し、地球の平和を守る。
 0:温泉旅館に向かい、温泉に入る。
 1:拡声器を使って、人と交流する。
 2:『人間』や『エイリアン』と交流を深め、強大な『エイリアン』たちを打倒する。
 3:『支倉曜子』『山辺美希』や『殺し合いに乗っていない者』に出会えれば、仲間になるよう説得する。
 4:「この島にいる者は全てエイリアン」という言葉には懐疑的。
 5:温泉旅館に行き、来々谷を待つ。
【備考】
 ※第一回放送を聞き逃しましたが、死亡者のみ名前と外見を把握しました。
 ※太一の言う『エイリアン』とは、超常的な力を持った者を指します。
 ※登場時期は、いつかの週末。固有状態ではありません。
 ※直枝理樹(女と勘違い)、真アサシン、藤乃静留、玖我なつき(詳細は知らない)、深優・グリーアを  エイリアンと考えています。
 ※スパイに関するルールはでたらめです。
 ※士郎は死んだと思ってます。
 ※NYP兵器、ウィルス。相手に肉体的疲労を与えます。威力は個人差あり。
 ※来々谷と第三回放送頃に温泉旅館で落ち合う約束をしました。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「殺して……やる……」

ぜー、はー、と息を吐きながらなごみは怨嗟の言葉を吐く。
体調は最悪。重い生理のような倦怠感に加え、高熱に見舞われたような苦しみだった。
生き地獄というものを見せられた気がする。

「黒須、太一……衛宮士郎……どいつもこいつも、殺してやる……」

遠くで轟音が響いた気がした。
疲弊していて動けないなごみは、ゆっくりと這いながら避難する。
時間をかけて、地面に這い蹲りながら、屈辱と憤怒に身を燃やしながら子供じみた癇癪を起こす。
一人一人、己の心の内に秘めた閻魔帳に名前を連ねていく。

黒須太一。次に出会ったら必ず殺す。お望みどおり無残に殺してやる。
衛宮士郎。センパイを殺した可能性が少しでもあるのなら、考えうる残酷な手段で殺す。
伊藤誠桂言葉は死んでしまったから、あの女を侮辱した上で殺してやる。
クリスと一緒にいた黒髪の女や京都弁を話す女。あいつらも遠慮なく、殺してやる。

「センパイ……センパイ、センパイ」

自分の大切な居場所の名前。
それを原動力にして這う。這って、地面を舐めてでも今は生き抜いてやる。
復讐のために、たとえ否定されようともその生き様は変わらない。
それを支えにずっと戦い続けて来たのだから。たとえ敗北しようとも、次は必ず殺してやる。

何度、苦汁を舐めようとも。
いずれ立ち上がってもう一度復讐する。
虎視眈々と、椰子なごみは瞳に意思を、心に復讐を誓って這い続けた。



【D-7 民家の前(マップ右方)/1日目 午後】

【椰子なごみ@つよきす-MightyHeart-】
【装備】:スタンガン
【所持品】:支給品一式、コルト・パイソン(0/6)、357マグナム弾19
【状態】:肉体的疲労(極大)、右腕に深い切り傷(応急処置済み)、全身に細かい傷
【思考・行動】
 基本方針:他の参加者を皆殺しにして、レオの仇を討つ
 0:今はとにかく安全な場所に行き、体力を回復する
 1:殺せる相手は生徒会メンバーであろうと排除する
 2:状況さえ許せば死者蘇生の話を利用して、他の参加者達を扇動する
 4:黒須太一と衛宮士郎を残酷に殺す
 5:伊藤誠、ブレザー姿の女(唯湖)、京都弁の女(静留)、日本刀を持った女(烏月)も殺す
 6:出来るだけ早く強力な武器を奪い取る
 7:死者の復活は信じないようにするが、若干の期待
【備考】
 ※なごみルートからの参戦です。


159:観測者の願望 投下順 159:I have created over athousand blades

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