ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

THE GAMEM@STER SP(Ⅳ)

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THE GAMEM@STER SP(Ⅳ) ◆LxH6hCs9JU



 大十字九郎の住む世界は、暗黒の闇に支配されていた。
 それは一切の星の輝きもない夜天に似ていて、空というよりは宇宙を思わせるような闇だった。
 まどろむ視界、視界とも断定できないあやふやな空間、距離も、位置も、存在すら、頭で捉えられない。
 虚無というにも不可思議な現象を、九郎は――ああ、夢だな。これ――と都合よく解釈した。

(俺は、どうしちまったんだっけ。クリスとなつきを先に行かせて、ユメイさんの蝶から逃げ回って……)

 記憶の糸を辿っていく内に、気だるい眼がとある女性の姿を映し出した。
 腰先まで伸びる艶やかなロングヘア。肩を露出させた清涼感溢れるブラウス姿と、パンツルック。
 夏、大学近辺の小道でも歩いていればバッタリ出くわしそうな女子大生が、九郎に声をかけてきた。

「ああっ、そこの君は! 八郎クンでも十郎クンでもなくってー……九郎クン!」

 まったく面識のない女性に名を呼ばれ、九郎は首を傾げた。
 ライカ・クルセイドよりは若々しく、覇道瑠璃よりはずっと大人っぽい。
 アーカムシティでも見かけないタイプの女性は、九郎の記憶を索引しても該当する人物が浮かび上がらず……

「反応が鈍いなぁ。このビューリホー女子大生の小夜美さんを前にして……あっ、ところでバナ納豆パン美味しかった?」
「てめぇぇぇかぁぁぁぁぁ!!」

 小夜美なる女性が口にしたパンの名前を聞いて、全ての合点がいった。
 そうだ――九郎はユメイを説得しようと山中を駆けずり回っていたのだが、ふと胃が不調を訴え、たまらず倒れてしまったのだ。
 となれば、この世界はつまり……腹痛が生み出した悪夢!
 九郎はキリキリと痛む腹を押さえながら、恐るべき遅効性を秘めた細菌兵器とその製作者を憎む。

「ぐおぉぉぉ、よりにもよってこんなときに再発しやがってぇぇぇ……さっさと山下りて胃薬でも探しとくんだったぁ……」
「まあ、なんたる暴言。バナナと納豆とパンの見事なコラボレーションを腹痛の一言で一蹴してしまうだなんて……」
「実際まずかったよ! なんだよあのパン! パンの名を語るのもおこがましいわ! 特にあの虹色に輝いてたヤツ!」
「ひっ……ひどい!」

 消費者の立場を盾に、ここぞとばかりクレームを言いつける九郎。
 しかしバナ納豆パンの製作者である小夜美にダメージはなく、代わりに九郎の背後で、見知らぬ女性がもう一人、しくしくと泣き崩れていた。

「やっぱり、私のパンなんて……私のパンなんてぇ~!」
「泣くな早苗! 早苗のパンは世界一だ! 天下一品だ!」
「あ、秋生さん! そう言ってくれるのは秋生さんだけです!」
「そうだとも! 早苗のパンを侮辱するヤツぁ、俺がぶちのめす!」

 泣き崩れるポニーテールの女性、それを励ます赤髪の派手なおっさん。もちろん知らない人である。
 なにやら九郎の目の前で二人の世界など形成しつつ、腹の傷も癒えぬまま、置いてけぼりをくらった。
 いくら夢だからといっても、節操がないのもいかがなものか。ため息を零して、とりあえず質問をしてみる。

「あのう……ところで、俺はいつになったらこの悪夢から覚めるんですかね? あのパン消化し切って外に出すまでッスかね?」
「ようし、今から三球勝負な。俺が投げる球を打てなかったらおまえは早苗のパンの売れ残りを全部買え。定価で」
「茶番だああああああああああああああああああああ!!」

 ああ、九郎の命運と腹の調子はこの先どうなってしまうのだろうか。
 夜食に得体の知れないパンなど食べるものではない、と教訓を身につけつつも、
 いやいや貧乏暮らしで食を選ばない大十字九郎ならやれると思った、と強気に懊悩してみせる。

 そもそも最近では水道水の危険性について説かれることが多く、巷ではミネラルウォーターなる
 ものが普及しているようだが甚だ理解に苦しむ。水など蛇口を捻れば出てくるのだからわざわざ
 それに金を払う道理も経済的余裕もなく味に差があるかと問われれば答えはノーだ。少々の安全
 性を考慮したとしても百数円の価値が生まれるとは思いがたくしかし現在の腹痛を鑑みれば、食
 の危険性というものについてじっくり考えてみるのが正しいのではないかと貧乏にあるまじき


「ええい、さっさと起きんかぁぁぁぁぁ!!」


 懐かしい声にどやされて、九郎の悪夢はようやく晴れた。


 ◇ ◇ ◇


 大十字九郎が目を覚ますと、見慣れた少女の顔が、鼻と鼻で触れ合うほどの距離にあった。
 少女は口をへの字に歪ませ、さらには顔全体を真っ赤にして、怒りを表現している。
 しかし目尻には一滴の雫が窺え、ある程度の虚勢と喜びも混じっているのだと、九郎は看破してそれを口に出さない。

「……ア、ル?」

 地獄のような悪夢から一転して、舞い戻った現実は天国のようだった。
 なにせ、この島に訪れてからずっと探し回っていたパートナーが、鼻息がかかるほどに近く存在しているのだから。

「やっと起きたか、このうつけが! まったく、こんな道端で行き倒れおって……」

 言われて身を起こす九郎。まだ微かに朦朧とした意識で、周囲の情景を見渡してみる。
 スラム街だった。寂れた町並みと舗装もされていない砂利道が広がっており、後ろには山の入り口が見えた。
 ユメイを説得しようとして、しかし蝶に纏わりつかれることを避け、逃げ回っていく内に、麓まで下りてきていたのだ。
 そこで九郎は突然の腹痛に倒れ、運よくアル・アジフに見つけられた―ー全て、思い出し、

「どれほど……どれほど妾が心配していたか……にゃあ!?」

 九郎は、アルの小さな体を押し倒した。
 否、押し倒したのは、つい勢い余ってしまったためである。
 女の体に男が上から被さる体勢になってしまったが、しかし構わず、九郎はアルに告げる。

「再会の挨拶は後だ、アル! おまえがここにいるってことは……桂、羽藤桂って子も一緒じゃないか!?」

 九郎のまさかの行動に赤面していたアルは、飛び出た予想外の名に一瞬、むっとする。
 そのまま九郎の身を押し退けると、軽く一発、ボディブローを放った。ズゴム、といい音が鳴る。
 腹痛に苛まれていた九郎は外部からの新たな痛みに悶え、その場に蹲った。

「ぐおおおお……アル、てめぇいきなりなにしやがるるるる……」
「フン。再会して早々に狼藉を働いた罰だ。それに、なんの用か知らぬが桂ならずっとそこいるではないか」

 アルのあっさりとした発言で、ようやく気づく。
 すぐ隣に、九郎とアルのやり取りを微笑ましげに見つめる少女の姿があった。
 視線が合うと、少女はぺこりとお辞儀をし、挨拶を放る。

「あっ……えと、こんにちは。羽藤桂です。アルちゃんとはその、仲良くさせてもらっていて」
「おう……こ、こんにちは。大十字九郎っていいます。探偵やってます。猫探しとか得意です」

 礼儀正しい娘さんだなぁ、どっか天然っぽいけど。
 などと率直な感想を抱くも数秒、すぐに本題を思い出し、今度は桂の両肩に掴みかかった。
 不意のことに身を固める桂。アルは即座に跳躍し、不埒な行いを続ける九郎の顔面に飛び蹴りを浴びせた。
 九郎は倒れ込むもすぐに再起し、頬を摩りながら叫ぶ。目尻にうっすら、涙を輝かせて。

「ええい、こんなことならクリスとなつきを先に行かせるんじゃなかったぁ!
 悔やんでも仕方ねぇ、桂! いきなりで悪いがおまえの力を貸してくれ!」

 泣き叫ばん勢いで桂に縋る九郎。
 アルに足蹴にされながらも、懸命に事の重大さを主張した。

「ユメイさんを止めなきゃなんねぇんだよ! 俺一人じゃどうにもならねぇ……おまえの力が必要なんだ!!」

 彼女は今、どのあたりにいるのだろうか。
 九郎は、ユメイの名を耳にした桂とアルの様子を窺いながら――その色が深刻を通り越していることに、不安を覚えた。


 ◇ ◇ ◇


 羽藤柚明の身は、依然山林にあった。
 木漏れ日を受けながら、森の表皮とも言える葉に幹に土に、光を浸透させていく。
 踏みしめる大地は軟く、草鞋で進む道は傾斜で、このまま下れば麓の町へたどり着くだろう。

 大十字九郎たちの姿は、既に見失った。
 柚明の持つ力を忌避したのか、それとも単に機会を窺っているだけか。
 どちらにせよ、立ち止まっている理由はない。
 進み続ければ、いずれは他の参加者に――殺す対象に――行き当たる。

 それが、羽藤桂でない限り。
 柚明の道程は、目指す未来から外れることはないのだ。

「桂ちゃん……」

 女々しく、想いを寄せる少女の名前を呟き……悲壮の決意をより強固にする。
 選択のフェイズはとうに終了し、目的と指針は既に得ていた。

 全ては、浅間サクヤを想う羽藤桂のために。

 羽藤柚明の選択を揺るがすものは――


 ◇ ◇ ◇


            【THE GAMEM@STER SP】


      It is possible to meet again in the glittering stage.


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【C-3 山林/二日目 午前】

【羽藤柚明@アカイイト】
【装備】:アヴァロン(エクスカリバーの鞘)@Fate/staynight[RealtaNua]
【所持品】
『武器』 :メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!、電磁バリア@リトルバスターズ!
      騎英の手綱@Fate/staynight[RealtaNua]、金羊の皮(アルゴンコイン)@Fate/staynight[RealtaNua]、
      レミントンM700(7.62mmNATO弾:4/4+1)、予備弾10発(7.62mmNATO弾)、包丁@SchoolDaysL×H、
『服飾品』:メルヘンメイド(やよいカラー)@THEIDOLM@STER、ドリルアーム@THE IDOLM@STER、
      地方妖怪マグロのシーツ@つよきす-MightyHeart-、光坂学園の制服@CLANNAD
『その他』:支給品一式×5(一つ水なし)、ドッジボール@つよきす-MightyHeart-、縄、
      木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD、情報の書かれた紙、木彫りのヒトデ4/64@CLANNAD、
      ガイドブック(140ページのB4サイズ)、ギルガメッシュ叙事詩、
【状態】:服は血まみれ、《力》増加中(贄の血)、肉体的疲労(中)、力消費(中)
【思考・行動】
 1:浅間サクヤを蘇生させ、羽藤桂と再会させるために殺し合いを肯定する。
 2:桂が心配。
 3:大十字九郎らを追う。
【備考】
 ※理樹たち、深優と情報を交換しました。深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
 ※エクスカリバーの鞘の治癒力は極端に落ちています。宝石などで魔力を注げば復活する可能性がありますが、幾つ使えばいいのかなどは不明です。
 ※ユメイルート終盤、桂が記憶を取り戻す『パンドラ』以降、ケイがオハシラサマになる『代わりの柱』以前より参戦。


【C-3 山の麓/二日目 午前】

【羽藤桂@アカイイト】
【装備】:今虎徹@CROSS†CHANNEL~toallpeople~
【所持品】:支給品一式、アル・アジフの断片(アトラック=ナチャ)、魔除けの呪符×6@アカイイト、
      古河パン詰め合わせ27個@CLANNAD、情報の書かれた紙、桂の携帯(電池2つ)@アカイイト
【状態】:疲労小、顔面打撲、全身に擦り傷、鬼、アル・アジフと契約、若干貧血気味、サクヤの血を摂取
【思考・行動】
 0:ユメイさんが……?
 1:ユメイを探しつつ、教会に向かう。
 2:高槻やよいを探し出して保護する。
 3:ユメイを止める。
 4:首輪解除の有力候補であるドクター・ウェストを探す。
 5:玲二さんは一応仲間。
【備考】
 ※桂はサクヤEDからの参戦です。
 ※サクヤの血を摂取した影響で鬼になりました。身体能力が向上しています。
 ※桂の右腕はサクヤと遺体とともにG-6に埋められています。
 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、「メモリーズオフ~T-wave~」の本文参照
 ※ユメイによる真殺害についてある程度吹っ切れました。
 ※羽藤柚明についての記憶はまだ戻っていません。


【アル・アジフ@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:サバイバルナイフ
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×1、アサシンの腕、業務日誌最終ページのコピー、情報の書かれた紙
【状態】:羽藤桂と契約、魔力消耗(小)
 1:ユメイを探しつつ、教会に向かう。
 2:高槻やよいを探し出して保護する。
 3:首輪解除の有力候補であるドクター・ウェストを探す。
 4:業務雑誌のコピーの記述については材料不足故保留。
 5:九郎と再契約する。
 6:戦闘時は桂をマギウススタイルにして戦わせ、自身は援護。
 7:時間があれば桂に魔術の鍛錬を行いたい。
【備考】
 ※アルからはナイアルラトホテップに関する記述が削除されています。アルは削除されていることも気がついていません。
 ※クリスの幻覚は何かの呪いと判断
 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、「メモリーズオフ~T-wave~」の本文参照


【大十字九郎@機神咆吼デモンベイン】
【装備】:バルザイの偃月刀@機神咆哮デモンベイン、私立穂群原学園指定体操服+運動靴@Fate/staynight[RealtaNua]
【所持品】:
 支給品一式、ベレッタM92(9ミリパラベラム弾15/15+1)、ベレッタM92の予備マガジン(15発入り)×3
 凛の宝石×6個@Fate/staynight[RealtaNua]、物干し竿@Fate/staynight[RealtaNua]
 キャスターのローブ@Fate/staynight[RealtaNua]、木彫りのヒトデ×10@CLANNAD、
 トランシーバー(故障)、加藤虎太郎の眼鏡、タバコ、虫除けスプレー
【状態】:決意、疲労(中)、打撲(背中/重)、打撲(全身/中)、銃創(肩/深)、銃創(右足/浅)、腹痛(軽)
【思考・行動】
 基本:亡き者達の遺志を継ぎ、希望を実現させる。
 基本:クリスとなつきに同行し、彼らを護り助ける。
 1:桂やアルの協力を得て、ユメイの凶行を止める。
 2:先に行ったクリスやなつきと合流するため教会へと向かう。
 3:ユイコやドクター・ウェスト、また他の誰かと出会えれば保護。仲間になってもらう。
 4:教会でアル達と会えなかったら待ち合わせ場所のツインタワーへと向かう。(約束の時間は正午)
 5:虎太郎の生徒と出会えたら保護する。
 6:金髪の女(ドライ)とはいずれ決着をつける。
 7:ドクターウェストに出会ったら、問答無用で殴る。
【備考】
 ※クリスが雨の幻影を見ていることに気付きました。
 ※理樹を殺したのはドライだと気付きました。


 ◇ ◇ ◇


 クリス・ヴェルティンは玖我なつきの手を引きながら、教会への道を突き進んだ。
 山を下りる前で別れた九郎が気がかりであり、また心配でもあったが、その不安が伴侶に伝染しないよう、クリスは気丈に振舞う。
 握った手に込める力は雄雄しく、少々汗ばんではいたが、なつきは黙ってついて来てくれている。

 彼女の手を引ける存在は、もうクリスただ一人なのだ。
 決して離してはならない、と自身に深く言い聞かせる。

「クリス、近くに禁止エリアがあるはずだから、気をつけるんだぞ」
「わかってるよ。方向はたぶん、こっちであっているはずだから」

 二人、方位磁石を片手に色気のない会話を続ける。
 今は、それでいい。
 クリスとなつきの絆を強固なものに結んでくれた人物を、いつまでも待たせてはおけない。
 二人の背中を押し、勇ましく送り出した大十字九郎の期待に応じるためにも、ぼやぼやしてはいられなかった。

 荒廃した町並みをたどり、西へ、北へ。
 途中、殺し合いの余波に巻き込まれたのだろうか、焼け焦げた建造物を発見した。
 煤の臭いに混じって、鼻腔をくすぐるような芳しい香りが漂っていたことを異に覚えたが、止まらず直進する。
 着実に教会へと近づいている。その実感を噛み締めながら、繋ぐ手はより強く、進む足は加速した。

 そこで、先頭を行くクリスが不意に立ち止まる。
 つられて、なつきも立ち止まった。
 二人して手頃な建物の影に隠れ、前方を窺う。

「なつき、人がいる」
「あれは……」

 目を凝らしながら、二人は捉えた人影の正体を探ろうとする。
 身長はそれほど高くもなく、見たところ女の子が二人、面と向かって睨み合っているようだった。

 片方は、クリスが。
 片方は、なつきが。

 二者、それぞれが一方に面識のある容姿をしており、注意をそそる。
 一刻も早く教会へ向かいたい衝動を押し、クリスとなつきは、久しぶりに見たその顔に対して――。


 ◇ ◇ ◇


 山辺美希は、厳しい顔つきでファルシータ・フォーセットの背中を眺める。
 ファルが前を行き、美希がそれを追う、先ほどと同じ構図。
 行き着く先はファルの思惑しだい、天国が地獄か、美希には見当もつかなかった。

「……むぅ~」

 口を噤んで、ただ歩く。ファルも黙したまま、人気のないスラム街をただ歩いていく。
 背中の無防備さは相変わらずで、これでよくここまで生き延びてこられたものだ、と疑問を抱かせるほどだった。

 ――結局、美希はトーニャやドクター・ウェストの顔を拝むこともなく、教会を離れた。
 正確には、離れざるをえなかったといったほうが適切だろうか。
 接触の寸前で、自分の思惑を他人に暴露されてはそれも仕方がない。
 教会を拠点とした集団は既に美希の拠り所としての条件を失っており、毒の沼地と化したのである。
 唯一、内情の知れないファルシータ・フォーセットを除いては。

(この人は、本当に……なにがしたいんだろう?)

 ファルが美希に対して取った一連の行動は、不可解極まりないものだった。
 数十分ほど前、食堂入り口の廊下で己の思惑を知られてしまった美希は、ファルによって寄宿舎の外へ連れ出された。
 あのままみんなと会っても信用は得られないでしょう――と、その際添えられた言葉を思い出す。
 行動だけ受け取ってみると、ファルが美希の立場を気遣った、と思えなくもなかった。

 そもそも、食堂で美希の正体を暴露していた人物は何者なのか?
 声質としては少年のものであり、廊下から声を捉えただけなので、背格好までは視認できていない。
 トーニャやウェストのものでもないとすれば、思い当たるのは一人、ファルの話にあった干渉者しか考えられなかった。

 放送を境に教会を訪れ、怪物を放ったという炎凪なる少年。
 言われてみれば、食堂の声は第三回、第四回放送のときのものと似ているような気がした。
 不干渉の立場にある主催者が、参加者を襲いにやって来る。そんな馬鹿な話があるものか、とも思ったが声はやはり瓜二つ。
 殺し合いの情勢を知る炎凪が、トーニャたち教会の一派に情報をリークした――というのが妥当な線だろう。

 もちろん、そこにどんな意図が含まれているのかは見当もつかない。
 ただその情報はブラフなどではなく、紛れもない真実だ。横流しした情報の核たる人物が認める。認めるしかない。
 認めたところで、美希が取るべき選択はどんなものか。いくつか考えてみる。

 まず、仲間に入れてもらうという選択は却下。
 美希の心中を知る者がいるというのに、仲良くやっていけるはずがない。
 仮にトーニャらが凪の言葉を信じなかったとしても、不協和音は生まれてしまうだろう。

 知られてしまったのなら、消せばいい。
 凪と、凪の言を耳にした者すべて、情報が蔓延する前に、この手で葬ってしまえばいいのだ――これも却下。
 美希は『生き残ること』は上手いが、『殺すこと』はそれほど得意ではない。そちらは支倉曜子の領分だ。
 状況を的確に見定め、現状で最適と取れる道を選ぶ。要領よく、慎重かつ大胆に駒を進めるのが鉄則である。

 ユメイや吾妻玲二、深優・グリーアを扇動して、丸ごと潰してもらう。
 これが現状考えられる最良の手だろうか。美希は元々、それを狙って教会の集団に飛び込んだ。
 生存者も少なくってきたこの段階、ただ逃げ回っているだけでは勝ちも遠のく。
 最後の一人となるためには、最後の二人になるときのために、容易く屠れる当て馬を作り出すことが必要だった。
 そのためには、常軌を逸した戦闘能力を持つ輩、徒党を組む輩、どちらにも自滅していただきたいところである。

(と、美希はそこまで考えたわけですが……『前提』が覆るとなると、はてさてどうしたものか)

 優勝するため、ならこの作戦で問題なく最後までいけるだろう。
 しかし、美希はなにも勝利の栄冠やチャンピオンベルトが欲しいわけではない。
 ただ、確実な『生』が欲しいだけなのだ。
 優勝しても生きて帰れないというのであれば……そこに価値はない。

(そりゃあ美希だって、上の人たちが素直にこっちの願いを聞き入れてくれるとは思ってないですけど……)

 食堂の凪らしき声の中にあった、『こんな殺し合い、律儀に順応したって破滅が待つだけなのにね』という言を思い出す。
 ファルやトーニャだけでなく主催側の人間にまでそんなことを言われては、まるでスタンスを変更しろと言われているようでどうも釈然としない。
 実際に優勝してみせて、神崎黎人言峰綺礼のお膝元に上り詰めたとしよう。そこでバッサリ斬り捨てられては、あまりに滑稽だ。
 対馬レオ杉浦碧、大十字九郎など今まで知り合ってきた人間たちは、口を揃えて『みんなで』、『主催者打倒』、『脱出』などと謳ってきたが……それもどうなのか。

 優勝して、主催者が約束どおり生還の権利を与えてくれる可能性。
 反逆して、殺し合いを否定する者らと仲良く対主催を為す可能性。

 オッズはどちらが高いのか……と、美希はファルの後ろを歩きながら延々考え続けた。
 結論が導き出せないまま、ふと、ファルが足を止める。美希も立ち止まった。

「このあたりでいいかしら」

 振り返り、美希と視線を合わせるファル。
 場所はスラム街の中心、ほのかに木の焼けた臭いが漂っていた。

「ねぇ、美希さん。私がどうしてあなたの存在に気づけたのか、教えてあげましょうか」
「はい?」

 訝る美希を尻目に、ファルはコートのポケットから、手の平に納まるほどの小さな計器を取り出した。

「これ、トーニャさんから預かったものなんだけれどね。私たちに嵌っている首輪に反応する機械のようなの」
「俗に言う、レーダーってやつですか?」
「ええ、そう。あなたと話しているうちに電池が切れてしまって、今は動いていないのだけれど」

 ファルが翳す首輪探知機の画面は黒一色に染まっており、なんの反応も示していなかった。

「ははー、なるほど。首輪を嵌めた人が近づくと、音が鳴ったり光ったりするわけですか。
 それで、教会の近くでうろうろしていた美希が引っかかったと」

 ファルが頷き、探知機をまたポケットにしまう。

「あなたがなんの目的であそこに隠れていたのかも、大体の見当はつけられたわ。だからこそ、私は一人であなたに接触した」
「……ファルさんって、えすぱー?」
「そんな……私はただ、匂いを感じ取っただけ。言ったでしょう? 私は、あなたの同類だから――」

 まただ。
 ファルがたびたび口にする『同類』という単語に、美希は不透明な嫌悪感を抱く。
 これが同属嫌悪に似た感情だとするのならば、美希はファルに対して敵愾心を持っているということにもなる。
 食堂での一件は、ファルにその気があれば美希を皆の前に突き出し、公開処刑に持ち込むこととて可能だったはずだ。

「美希からいっこ質問です。ファルさんの最終的な目的って、いったいなんですか?」
「生きて帰ること。他の誰もが持ちえる、あたりまえの願いよ」
「それは美希も同じです。けどそのための方法が、美希とファルさんでは違うってことじゃないでしょうか?」
「あら、同類だって言っているのに?」
「だって、ファルさん自身はもう優勝して帰る気なんてないんでしょう? 美希にあんなこと言うくらいだし」

 なぜ、ファルは美希の内情を知りながら糾弾しようとしなかったのか。
 なぜ、仲間のもとから離れ、こうやって対話の機会を設けているのか。

 ファルの目的が言葉のとおりだと仮定して、障害の除去に努めるのは道理であるはずだ。
 美希が優勝狙いであると予想できたのならば、あの場で奇襲を仕掛けるなり、罠に嵌めるなりするのが当然。
 それをファルは、美希をあえて糾弾の場から遠ざけ、問いかけに興じている。
 これでは、まるで――機会を与えているようではないか。

「……そうね。私はもう、優勝しても望みはないと悟ってしまったから。だから、みんなと〝いっしょ〟にいることを選んだ」

 ――優勝して、主催者が約束どおり生還の権利を与えてくれる可能性。
 ――反逆して、殺し合いを否定する者らと仲良く対主催を為す可能性。

 ファルは美希よりも先に選択肢を与えられ、後者のほうが可能性が高いと踏んだのだ。
 そして今度は、ファル自身が選択肢を与える側に回っている。
 選択を迫られているのは、美希のほうだった。

「ねぇ、美希さん。あなたも私たちの仲間に加わらない?
 主催者を信じるなんていう浅はかな望みは捨てて。そちらのほうが、よっぽど懸命だと私は思うの」

 ファルは頬に手を当て、穏やかな物腰で美希に返答を求める。
 美希は、う~~~ん、と首を傾げて熟考、しばらくして口を開いた。

「……めんご♪ とか返したら?」
「今すぐ私たちの前から……消えてもらえないかしら?」

 穏やかだった物腰が一変、ファルの纏う雰囲気が凍てつき、美希の痩身を威圧する。
 一瞬だけ垣間見えた本性に、美希はファルシータ・フォーセットという人間の認識を改めた。
 見た目には容姿端麗な外人さんであり、特筆して非人間っぽい部分は見当たらない。
 さすがに取っ組み合いにでもなれば負ける気はしなかったが、油断してはならない、と本能が告げている。

「私は、生きて帰るためならどんな障害だって切り捨てる。けれど、手を差し伸べるくらいの優しさはあるのよ?
 自分でも甘いとは思うけれど……私自身、そうやって手を差し伸べられた側だから。
 あなたが望むなら、みんなに取り合ってみてもいい。すべては、あなたの選択しだいよ――」

 改めて、美希は選択を迫られる。

 選択肢は二つ。
 より可能性の高いほうを取るか、博打に出るか、それとも第三の選択肢を見つけ出すか。

「えっと、ですね」

 生き残ることと勝ち残ることは違う。
 それを踏まえて、美希が下した結論は――。


 ◇ ◇ ◇


            【THE GAMEM@STER SP】


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           next → 【The Missing Moon





【C-2 スラム街・娼館跡地付近/二日目 午前】

【山辺美希@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備】:イングラムM10(31/32)、投げナイフ(×4)
【所持品】:支給品一式×3
 イングラムM10のマガジン(32/32×3)(9ミリ弾)、コルト・パイソン(6/6)、.357マグナム弾(×10)、スタンガン
 木彫りのヒトデ(×7)@CLANNAD、ノートパソコン、MTB、『全参加者情報』と書かれたディスク@GR2オリジナル
【状態】:疲労(弱)、銃の擦過傷(右肩)、擦り傷(左膝)、空腹(弱)
【思考・行動】
 0:美希の選択は――。
【備考】
 ※参加者が違う平行世界から来ている可能性を考えています。
 ※バトルロワイアルにおける固有化した存在がいるのではと想像しています。
 ※詳細名簿のデータを一通り閲覧しました。


【ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン】
【装備】:イリヤの服とコート@Fate/staynight[RealtaNua]、首輪探知レーダー(電池切れ)
【所持品】:支給品一式、リュックサック、救急箱、その他色々な日用品、デッキブラシ、
      ピオーヴァ音楽学院の制服(スカートが裂けている)@シンフォニック=レイン、
      ダーク@Fate/staynight[RealtaNua]、単三電池袋詰め(数十本)
【状態】:頭に包帯
【思考・行動】
 基本:元の世界に帰る……『仲間』と『利用し合って』。
 0:美希の選択によって、処分を決める。
   申し出を受け入れるようならトーニャたちに仲介、彼女の動向に細心の注意を払う。
   申し出を断るようなら――障害として排他することも辞さない。
 1:やよいやトーニャと〝いっしょ〟に、懺悔室の奥に踏み込む時を待つ。
 2:今後に関してはトーニャの意に同調。
【備考】
※ファルの登場時期は、ファルエンド後からです。
※言峰綺礼の本性に感づいています。


クリス・ヴェルティン@シンフォニック=レイン】
【装備】:カウガール(真)@THEIDOLM@STER、
【所持品】:
 支給品一式、ロイガー&ツァール@機神咆哮デモンベイン、アルのページ断片(ニトクリスの鏡)@機神咆哮デモンベイン
 フォルテール(リセ)@シンフォニック=レイン、ピオーヴァ音楽学院の制服(ワイシャツ以外)@シンフォニック=レイン
 刀子の巫女服@あやかしびと-幻妖異聞録-、防弾チョッキ、和服、情報の書かれた紙、アリエッタの手紙@シンフォニック=レイン
【状態】:Piovaゲージ:50%、疲労(弱)
【思考・行動】
 基本:哀しみの連鎖を止める――だけどクリスができる力で。目の前の哀しみを。仲間とともに。
 基本:なつきとずっと一緒に、そして彼女と幸せになる。
 0:あれは……。
 1:アル達との合流を優先し教会へと向かう。
 2:羽藤桂と合流し、九郎のもとへ戻ってユメイを説得する。
 3:ユイコやドクター・ウェスト、また他の誰かと出会えれば保護。仲間になってもらう。
 4:教会でアル達と会えなかったら待ち合わせ場所のツインタワーへと向かう。(約束の時間は正午)
【備考】
 ※原作よりの登場時期は、リセルート-12/12後からになります。
 ※西洋風の街をピオーヴァに酷似していると思ってます
 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、「MightyHeart、BrokenHeart」の本文参照。
 ※ユイコの為の”クリス君”である事を止めました。
 ※なつきと強く結ばれました。


【玖我なつき@舞-HiME運命の系統樹】
【装備】:ELER(なつきのエレメントである二丁拳銃。弾数無制限)、ラフタイムスクール(雪歩)@THEIDOLM@STER
【所持品】:
 支給品一式×2、765プロ所属アイドル候補生用・ステージ衣装セット@THEIDOLM@STER、
 白ドレス@Fate/staynight[RealtaNua]、大量の下着、カードキー(【H-6】クルーザー起動用)、
 七香の MTB@CROSS†CHANNEL~toallpeople~、双眼鏡、クルーザーにあった食料、情報の書かれた紙、首輪(サクヤ)
【所持品2】:
 支給品一式×3、愁厳の服、シーツ、首輪(刀子)
 古青江@現実、虎竹刀@Fate/staynight[RealtaNua]、包丁2本、コルト・ローマン(0/6)
 ビームライフル(残量0%)@リトルバスターズ!、ラジコンカー@リトルバスターズ!
 木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD、玖我なつきの下着コレクション@舞-HiME運命の系統樹
【状態】:疲労(中)、頭部打撲(軽)
【思考・行動】
 基本:クリスとずっと一緒に、そして彼と幸せになる。
 0:あれは……。
 1:アル達との合流を優先し教会へと向かう。
 2:羽藤桂と合流し、九郎のもとへ戻ってユメイを説得する。
 3:ユイコやドクター・ウェスト、また他の誰かと出会えれば保護。仲間になってもらう。
 4:教会でアル達と会えなかったら待ち合わせ場所のツインタワーへと向かう。(約束の時間は正午)
【備考】
 ※媛星の事はアルやウェスト等、媛星への対策を思い付き得る者以外に話すつもりはありません。
 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、「MightyHeart、BrokenHeart」の本文参照。
 ※来ヶ谷唯湖に対し怒りと憎悪の感情があります。
 ※チャイルド(デュラン)を呼べるようになりました。
 ※クリスと強く結ばれました。また彼がが雨の幻影を見ていることに気付いています。


237:THE GAMEM@STER SP(Ⅲ) 投下順 239:クロックワークエンジェル
時系列順 240:The Missing Moon
那岐 243:The Perfect Sun
高槻やよい
アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ
ドクター・ウェスト
ファルシータ・フォーセット 240:The Missing Moon
山辺美希
クリス・ヴェルティン
玖我なつき
大十字九郎 241:忘却→覚醒/喪失(前編)
羽藤柚明
羽藤桂
アル・アジフ

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