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blue sky

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blue sky ◆DiyZPZG5M6



 夜が、明けた。
 闇に覆われた大地は再び陽の光に照らされてゆく。
 誰もが殺し、誰もが殺されるこの孤島を支配する理は唯一つ、生き残ること。
 生き残るため他者を喰らい修羅の道を歩む者。
 生き残るため他者と手を取り合い脱出の道を模索する者。

 様々な想いを胸に秘め、彼らが織り成す星詠の舞は二日目の朝を迎える――



 ◆ ◆ ◆



 孤独がこれほどもまでに辛いものだと思わなかった。
 思い返してみると常に自分の傍らには誰かがいた。
 可愛い後輩達に囲まれたル・リムの日々。
 学校こそ違えど千華留とって大切な人間だった蒼井渚砂
 そしてこの狂気の戦場に連れて来られた時でも志を共にする仲間達がいた。

 だけど今は一人、仲間達はみな志半ばで逝ってしまった。
 夜明けと共に流された五回目の放送がまるで現実感がないように千華留の耳に響いている。

「奏さん……」

 凪と名乗る少年のどこか憂いを帯びた声色の放送と打って変わって今回の放送は、
 あくまで事務的に、淡々と死者名と禁止エリアを伝えるだけの神崎の声だった。
 その中に神宮司奏の名前があった。
 今はもういない蘭堂りのから何度も聞かされていた名前、宮神学園の生徒会長。
 同じ生徒会長として、後輩から羨望と憧れの視線を浴びる者として一度は会ってみたかった人間だった。

 彼女はりのの最期の言葉をどこで、どんな気持ちで聞いていただろうか?

 穢れ無きりのの言霊。
 最後の命の炎を燃やし尽くして伝えた言霊。
 そのりのの純粋な気持ちを嘲笑うかのように悲劇は舞い降りる。
 誰も、どうすることもできなかった。
 誰もが彼女が選んだ結末を受け入れるしかなかった。

 神宮司奏は耳障りな電子音を鎮魂歌替わりにして蘭堂りのの下へ逝った。



 北へ、わき目もふらず北へ。
 そこには未だ見ぬ仲間がいる。
 友の最期の願いを信じて千華留は歩みを進める。
 皆から託された想いが彼女を突き動かす唯一つの原動力だった。

「そうよ……リトルバスターズはこんなところで終わらない……私が決して終わらせないんだから……」
 右手首は赤く腫れ、疼く痛みに千華留は歯を食いしばる。
 それでも立ち止まらない、立ち止まってなんかいられない。
 たかが捻挫程度の痛みでは千華留の歩みを止められない。

 しかし――千華留の足がぴたりと止まる。
 いつの間にかに地面の感触は山里の柔らかい感触から冷たく硬いアスファルトの地面に変わっている。
 周囲にそびえ立つ無機質なビル群。
 本来なら多数の人々が行き交う大きな交差点。
 だがそこには人影は一人も見当たらず、別世界から切り取られた影絵のように千華留の姿がぽつりと存在していた。
 全ての命が死に絶えてしまった街でただ一人残されている。
 否、まだ生きている人間は残っている。
 それでも孤独と言う名の二文字はゆっくりではあるが千華留の心に暗い影を落とし始めていた。
「何……ぼーっとしてるのよ私、ほら頑張らないと」
 ふと気がつくと目に涙を浮かべていた。
 泣いている場合じゃないのにその涙が溢れている。
 思い起こせば千華留はこの島で色々な人間と出会い、そして辛い別れを繰り返してきた。
 人前で涙を見せたのは蒼井渚砂の死を知った時、蘭堂りのの前で流した時だけ。
 後はずっと哀しみを押し殺し、気丈に振舞い、仲間を激励し続けてきた。
 自分はル・リムの聖母。
 自分はリトルバスターズのリーダー。
 だから自分は常に仲間を励ます側に立ち続けなければ。
 常に頼られる立場にならなければ。

 なら――自分は誰を頼ればよかった?

「……あは、こんな事なら……烏月さんの前で思い切り泣いておけばよかった……」

 所詮自分はただの女子高生。ル・リムの聖母? それが一体この島で何になるというのだ。
 現に蛆虫の鬼相手には何にもできなかった。
 烏月の邪魔をしないようにするのが精一杯のただの無力な女子高生。
 それでも自らの気持ちをごまかして、哀しみをごまかし続けていた。
 仲間がいたからこそ心の奥底にあるモノにずっと気がつかないふりをしていられた。
 誰かに自らの弱さを素直に吐露できていれば少しはましだったかもしれない。でも変な意地がそれを許さなかった。

「ぅぁ……ああっ……!」

 止まらない涙。
 こみ上げてくる言葉にならない感情。
 仲間を喪った哀しみと何もできなかった自らの無力感が入り混じった感情が千華留の胸の内を一杯に満たしていく。

「ぁぁ……うあぁぁあああああぁぁぁぁああ……」

 千華留はその場に崩れ落ち慟哭の声を上げた。
 今まで溜まりに溜まったモノが一気に溢れ出た。
「……もう一人は……一人は嫌……みんな、みんな私の前からいなくなる……助けて……誰か助けてよ……」
 無論、千華留に手を差し伸べる者は誰一人としていない。
 何て無様な姿。吹き出た感情は潮が引くように冷めていき、強烈な自己嫌悪が心を支配する。
 これがル・リムの聖母?
 これが新生リトルバスターズを作り上げようとする物の姿?

 虚ろな千華留の視線の先に銀色に鈍く光る物があった。
 ずっしりとした重さのリボルバータイプの拳銃。
 日本の警察が使う拳銃に比べて大型で大口径の銃。
 風を司る旧支配者イタクァの力を秘めた魔銃。
 地面に座り込んだ拍子にデイバッグから転がり落ちた物だった。



 ―――ソレの引き金を引けば背負ったモノから逃れられる。
 ―――これ以上無様な醜態を晒さなくて済む。
 ―――誰も私を責める人なんていない。
 ―――全てを投げ出して蒼井渚砂の下へ逝ってしまえばいい。



 虚ろな表情のまま千華留は銃に手を伸ばす。
 冷たい金属の質感が手に伝わる。
 ゆっくりとこめかみに銃口を突きつける。
 この引き金を引いてしまえば楽になれる。
 これぐらい大口径の銃なら確実に死ねるはず。
 放たれた弾丸は容赦なく千華留の頭を吹き飛ばすだろう。


 ル・リムの生徒会長として先輩から一目置かれ後輩から慕われ、聖母とも呼ばれた自分が周囲に脳漿を撒き散らして死ぬ。
 全てを投げ出そうとする自分にとって相応しい末路だと、千華留はくすりと自嘲の笑みを浮かべていた。

 銃を持った手が震える。
 思うように引き金が引けない。
 歯がカチカチと音を立てている。
 たかが指を動かすだけなのに身体全体が金縛りのように動かない。

「……っぁ」

 本当に、本当にそれでいいのか?
 それが本当にあなたが望むことなの源千華留

 内なる声が必死に引き金を引く指を抑えている。
 みんなこの島で生きたかった。
 絶望に瀕しながらも必死に希望を見出そうとしていた。
 その想いを、願いを、希望をふいにしてしまうのか?

「……………」

 千華留の脳裏にかつての仲間たちの姿が浮かび上がる。

 ちょっとドジな所もあるけれど天真爛漫で頑張り屋だった蒼井渚砂
 絶望の中から希望を見出し最期まで運命に抗おうした直枝理樹
 いつも太陽のように朗らかで周りの人間を勇気付けてきた蘭堂りの。
 絶望の末、その身を鬼に変えてしまっても人であり続けようとした柚原このみ
 大切な人のために己の意志を貫き戦い続けた千羽烏月

 ふわりと千華留の顔に柔らかい感触の物が触れた。
 そよ風にたなびく赤いマフラー。
 千華留が柚原このみに贈った物。
 ところどころに血がついたそれは紛れもなくヒーローの証だった。

「あはっ……ははは……。―――何甘ったれてるのよ源千華留!!!」

 思いっきり銃を地面に叩きつけ千華留は吼えた。
 それは託された物を途中で放棄しようとした無様な自分への正しき怒り。
 ヒーローなんていないなら自分がなればいい。かつて自分はそう言ったではないか。
 そして忘れていた自らの性質を思い出す。
 時には悪い癖だと自覚していた物だけど、この場に置いてはもっとも頼りになるもの。
 少しでも可能性があるとつい勝負したくなる性質。

「そうよ……ギャンブルはオッズが高ければ高いほど面白いのよ。奇跡を起こす大博打を打ってやるんだから!」

 もう、迷わない。
 託された想いを受け止めて。
 リトルバスターズを復活させる。
 千華留は決意を新たにするのだった。

「さてと……こんな所ででぐずぐずしてられないわ、やる事が一杯あるんだから」
 千華留は転がった銃をデイバッグに戻し立ち上がる。
 その時、ふいに声がした。


「はっはっは、こんな所で出会うとは奇遇だな千華留君。―――これも、因果か」


 言葉の最後のほうは小声であったためうまく聞き取れない。
 目の前に佇むのは長い黒髪を一本に結わえ風にたなびかせた長身の少女―――来ヶ谷唯湖だった。



 ◆ ◆ ◆



「唯湖さん……?」
「来ヶ谷だ」
「はい?」
「名前で呼ばれるのは好きじゃない。私を呼ぶ時では名字で頼む」
「OK、来ヶ谷さん。それよりも無事で良かった……」
「ふふふ、おねーさんは不死身なのだよ。ところで……烏月君は?」
「……彼女は……ここまで来れなかった」
「そうか……放送で名前を呼ばれたのは聞いたが……信じられなくてな」

 唯湖は悲痛な面持ちで千華留を見つめる。
 その心の奥底に秘めた真意を隠しながら―――

「あの……来ヶ谷さん?」
「何かね?」
「えっと、その……」
 若干千華留の顔が赤い。
「見てた? さっきの?」
「はっはっは、何のことだかわからんな〜〜〜」
 唯湖はにやにやとした表情で千華留の顔を眺めていた。
 間違いない、確実に見られていたと千華留はますます赤面する。
「ど、どの辺りから……?」
「聞きたいかね? ふむ、君が地面にへたり込んでから一部始終を見せてもらったよ。はっはっは」
「あうあうあう……」
 真っ赤な顔でうつむく千華留。
 恥ずかしい姿を見られて顔から火が出るようだった。

「もっとも、あそこで姿を見せるつもりはなかったがな。千華留君自身の問題であり私が口を挟むような物ではないし、例えあそこで自ら命を絶ったとしても君は所詮その程度だったと思うだけだがな」
「うふふ……随分と手厳しい意見ね」
「そうかね? 私としてはかなりマイルドな表現なのだぞ。ま、その様子だと吹っ切れたようで何よりだ」
「そうね……皆の想いが私を支えてくれる、私は決して一人じゃない。まだ理樹君のリトルバスターズを終らせるわけにはいかないもの」


「―――リトル……バスターズか……」
 唯湖は遠い目をして宙を見つめていた。
 その瞳に複雑な感情を湛えながら唯湖は口を開く。
「ふふ、つい数日前までそこに私はいたはずなのにな……今は遥か昔のことのように思える」
「来ヶ谷さん?」
「確かにあそこは――私の唯一の安息の地だった」
 悲しみにとも憂いともつかぬ表情で千華留をじっと見据える唯湖。
「くくく、最後の一人が私になろうとはな……」
「来ヶ谷さん……あなたは理樹君の―――」
「そう、かつてのリトルバスターズの一員だ。恭介氏に理樹君に鈴君、真人少年に健吾君はよき友人だったよ……。いつも馬鹿騒ぎばかりしてる連中だったが、私はそれが楽しかった」
「理樹君は決して希望を捨てずリトルバスターズのリーダーであり続けたわ。もし自分が死んでしまっても誰かがその意志を継いでくれると信じて―――」
「そして君は受け継いだのだな、彼の意志を……」
「ええ、それが彼の最期を看取った者としての義務、そして私自身の意思でもあるわ」

「彼は―――最期に何て言っていた?」
「ただ―――『リトルバスターズ』と―――」
「そうか……」

「終らせない、決して終らせるものですか。リトルバスターズは永遠に不滅よ!」
「永遠に不滅―――」
「だから、力を貸して来ヶ谷―――いえ唯湖さん、困っている人を助ける正義の味方、リトルバスターズの一員として」

 千華留は真っ直ぐな瞳で唯湖を見据える。
 一片の曇りも迷いも無く澄み切った青空のような瞳でその右手を唯湖に差し出した。




「それが君の出した答えか……強いな、そして美しい。君を見るといかに私がどうしようもなく度し難い愚か者だと再認識させられる」


 そして―――乾いた銃声が一つ街に木霊した。





「永遠なんて……どこにも存在しない」






 ◆ ◆ ◆



 それはまるで自転車のタイヤが破裂したような音だった。
 だけど周りに自転車なんて存在していなくて、
 腹部を刺す焼けるような痛みと溢れ出る赤い鮮血で、千華留はようやくその音が銃声で自分が撃たれたのだと認識した。
 そして目の前にいる人物によって撃たれたことも―――
「唯……湖、さん……?」
「いつだって狼はお婆さんのふりをするものなのだよ。千華留君。そうさ、烏月君を殺したのも私だ」
 硝煙が揺れる警察が使う拳銃に似た銃を手にした唯湖が寂しそうな声で言った。

「救いようが無い愚か者だな私は。自らの手で安息の地を壊そうとしているのだから……」
「ぐっ……ぅ……そこまで解っていながら……どう、して」
 必死に倒れまいと傷を手で押さえ歯を食いしばる千華留。
 これまで経験したことの無い痛みが腹部を中心に全身に広がってゆく。
 そうしているだけでも出血は止まらず彼女の服と手を真っ赤な色が染めてゆく。

「ふむ、その傷ならすぐに病院で適切な処置をすれば一命は取り留めるだろう。もちろん絶対安静と言う状態が前提だがな。今の君のように無理をすれば確実に死ぬぞ」
「っ……あはは……じゃあ救急車でも呼んで貰えないかしら? タクシーでも構わないわよ? 正直立っているのがやっとなの」

 痛みを堪えながらも余裕の笑みを浮かべる千華留。
 まだ倒れるわけにはいかない。
 彼女の真意を確かめるまで
 自らの意志を継ぐものが現れるまで、決して。

「はっはっは、それは無理なオーダーだ。この島に救急車はおろか医者なんているはずがない。そして何より私は君を殺すつもりなのだからな」
「まったくもってその通りね……」
「そこで問題だ。君の傷でどうやってこの状況を打開できるか? 三択―――」
 唯湖の言葉を遮って千華留は答えた。

「1.美少女生徒会長源千華留は突如反撃のアイデアがひらめく。2.仲間がきて助けてくれる。3.どうしようもない、現実は非情である。かしら?」
「良くわかっているじゃないか千華留君、なら答えを聞かせてもらおう。先に言っておくが反撃は無駄だぞ、ほら?」
 そう言った唯湖の手にはいつの間にかに千華留のデイバッグが握り締められていた。
「さあこれで君は丸腰だ。どうする?

「―――4.逃げる。に決まってる……でしょ!」
 千華留は踵を反して走り出した。
 傷から血が吹き出すのも気に留めず―――
「やれやれ……無茶をする」
 しかし千華留の傷は内臓にまで達する物。
 ものの十数メートル走った所で地面に倒れこんだ。

「まだ……死ねない……! まだ私は生きてる……! リトルバスターズを終らせるものか……!」
 必死に立ち上がろうともがく千華留。
 出血はますます酷く、アスファルトの地面にも血溜りが出来始めていた。
 その光景に唯湖ははぁっと溜息を吐き千華留の側に寄った。
「ほら肩を貸してやろう」
「どう……いう……風の吹き回しかしら」
「もはやその出血では助からん。君の命に免じて君の命が尽きるまで付き合ってやろう」
「そう言うなら……初めから付き合いなさいよ……」
 千華留は唯湖に身体を支えられながら歩き出す。
 ひたすら執念で歩み続ける。
 リトルバスターズのリーダーとしてまだ見ぬ仲間を見つけるまでは―――

 だけどそれは儚い希望。
 ほどなくして千華留の足は止まり、住宅地の塀に背を預ける様に座り込んだ。
 もうどれぐらいの量の血を流したかわからない。
 少なくとももう助からない事だけは自覚していた。



 ◆ ◆ ◆



「もう、限界のようだな……」
「そう……ね……」
 咳き込む千華留。
 口の中が錆びた鉄の味で一杯になる。
「悔しい……わ」
「私に裏切られたことか?」
「いいえ……ここでリトルバスターズが終ってしまうことよ……」
「だろうな」
「最後に、教えて……どうして……リトルバスターズを……あなたの居場所を自ら手放す事を……」

「リトルバスターズよりもずっと大切な居場所が出来た。ただ、それだけだ」
「あはは……すごく……シンプルな答え。好きな人のため……ね?」
「………………」
「ふふ、図星ね……私だって女の子……だもの。それぐら―――」
 大きく咳き込む千華留。
 鮮血が口から飛び散り彼女を汚す。
 飛び散った血が唯湖の足に赤い斑点を作る。
「足に……付いちゃったわね……」
「何を今更、君に肩を貸した時点で私も血まみれだ」
「あはは……全くその通りね。ねえ、唯湖さん……あなたの行為をその人は咎めるかしら?」
「勿論―――咎めるだろうな。そして私の業を断罪してもらえれば本望だ」
「うふふ、大した偽悪者ね……そして不器用な人」
「………………」
「あなたが悪人じゃなくて良かった。これで心置きなく……」

 千華留は一旦言葉を区切り。
 薄っすらと笑みを浮かべたような表情で唯湖に言った。

「あなたに―――呪いをプレゼントしてあげられる」
「な……に……?」
「あは……聞きたくなければ今すぐ止めを刺しなさい」
 唯湖は微動だにせず千華留を見下ろしている。
 千華留はにやりと笑い言った。

「唯湖さん―――私に代わってあなたがリトルバスターズを継ぎなさい」

 信じられない言葉が千華留の口から飛び出した。
 唯湖は呆れた表情で千華留を見つめていた。
「何を言い出すと思えばくだらない……」
「あら……リトルバスターズ最後の生き残りならぴったりの役目じゃない」
「自らの手でリトルバスターズを壊した私がリトルバスターズのリーダー? 馬鹿も休み休み言え」
「そうね……所詮、死に往く人間の妄言よ……だけど死者の言葉は呪いとなって生者を縛る。あなたの気が変わった時のためにね……」
「気が変わる―――? そんな事が―――」
「どう……かしら。あなたが大切な人と再会したときに私の呪いが効いてくるかもね……」
「くっ……」
「呪いに意味なんか持たない、意味を持たせるのはそれを受け取った人次第。あなたは私の呪いに何の意味を見出すのかしら……?」

 唯湖は答えない。
 今、言葉を発するのは千華留の呪いを認めてしまうのと同義。
 だからひたすら押し黙る。
 千華留が次の言葉を紡ぎ出すまで―――

「これで、私の話は終わり……さあ、行きなさい」
「最後に一つ聞きたい」
「何……かしら? もう私も長く、な……いから手短にね?」

「もし……もっと早く出会えていたら……君とは良き仲間でいられただろうか?」
「かもしれないわ……」
「そうか、やはり私は救いようのない愚か者のようだ」
「私の荷物……持っていきなさい………あなたがいつまで偽悪者でいられるか楽しみにしているわ」

 唯湖は千華留に背を向けたまま歩き出す。
 決して振り返らぬように。
 死者の世界に引き込まれないように。
 千華留は唯湖の背中越しに声をかけた。

「また……いつかあの世で会いましょう」
「残念だが……私が堕ちるのは地獄だ。君の所へは逝けそうにない」
「そう……残念ね……」

 唯湖は背中を向けたまま手を振った。
 出会い方が違えば友になったであろう死に往く少女に。
 それは彼女の呪いすら飲み込んで自らの道を貫こうとする決意の表れだった。




【B−6/2日目 午前】


【来ヶ谷唯湖@リトルバスターズ!】
【装備】:S&WM37エアーウェイト(4/5)デザートイーグル50AE(2/7)@Phantom-PHANTOMOFINFERNO- カリバーン@Fate/staynight サバイバルナイフ
【所持品1】:支給品一式×13、デザートイーグル50AEの予備マガジン×3、S&WM37エアーウェイトの予備弾(×5)
     オペラグラス、マスク・ザ・斉藤の仮面@リトルバスターズ! 首輪×4(蒼井、向坂、橘、鉄乙女)
     RPG-7V1(弾頭1/1)、OG-7V-対歩兵用弾頭×2、斬妖刀文壱@あやかしびと−幻妖異聞録−、89式小銃(28/30)、
     鴉天狗秘伝の塗り薬(90%)@あやかしびと−幻妖異聞録−、不明支給品1〜2(確認済み)
【所持品2】:ナイトゴーント@機神咆哮デモンベイン、斧、投石器、ウィルス@リトルバスターズ!、S&W M38(0/5)、37mmスタンダード弾×5発
     工具一式、拡声器、第1次放送時の死亡者とスパイに関するメモ、放送案の原稿、黒須太一の遺書、ウィンフィールドのメモ、
     ゲーム用メダル400枚@ギャルゲロワ2ndオリジナル、ICレコーダー
【所持品3】:イタクァ(5/6)@機神咆哮デモンベイン、スプリングフィールドXD(9mm4/16)、理樹の制服、トランシーバー
     銃の取り扱い説明書、草壁優季のくずかごノート@ToHeart2、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)
      ハサンの髑髏面、女物の下着数枚、木彫りのヒトデ6/64@CLANNAD、聖ミアトル女学院制服@StrawberryPanic!
      地獄蝶々@つよきす-MightyHeart- 我埋葬にあたわず@機神咆哮デモンベイン
      Love&Spanner@CLANNAD、 アルのページ断片(シャンタク)@機神咆哮デモンベイン、包丁

【状態】:疲労(中)、脇腹に浅い傷(処置済み)、全身に打ち身、膝に擦り傷、髪を後ろで結わえた
【思考・行動】
 基本:クリスを護る為、罪を重ねる為に殺し合いに乗る。そして最期にクリスに殺してもらう。
 0:千華留君……君の呪いすら飲み込もう
 1:クリス君、君は死なない(万が一、死んだら自殺する)。
 2:クリスが彼女を殺さざるを得ない状況になるまで手を血で染める。
 3:人を殺し、哀しみの連鎖を進めるもしくは断ち切る。
 4:西へ向かう
 5:できれば休憩も取りたい。
 6:太一の遺言を叶える?(原稿をスパイに届ける) 。
 7:リトルバスターズメンバー、焼け焦げた男(ウィンフィールド)に対して僅かな罪悪感。
【備考】
 ※精神世界より参戦しています。
 ※クリスは唯湖を殺す哀しみを負って生きてゆけると信じました。
 ※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみていると判断。今の所危険性はないと考えています。
 ※美希に対し僅かな違和感を持っています。



 ◆ ◆ ◆



 優しい風の中、ひとり千華留が残されていた。
 さっきまで全身を刺し貫く痛みも全て消えた。
 血と一緒に痛覚まで流れ出していたようだ。
 心地よい眠気が千華留を包み込む。
 これが死ぬという感覚。
 だけど不思議と死への恐怖は訪れていなかった。
 なんだこんな物かと拍子抜けするぐらい死は優しく千華留の前に訪れていた。

 もう目もよく視えない。
 世界は真っ白なすり硝子のように霧に沈んでいた。
 何とか身体を動かしてみようとするが指一本すら動かせない。
 心臓だけがかすかに動いているだけ。それももうすぐ動きを止めるだろう。
 あとは訪れる死を静かに待つだけだった。

(ごめんね……烏月さん……約束……守れなかった)

 自分に志を託し逝った仲間達の顔が脳裏に浮かぶ。
 これから自分もその下に行くと思うとどこか滑稽だった。
 彼らは死してなお想いを託せる仲間がいた。
 だけど千華留には自分の想いを託す相手が見つけられなかったことが唯一の心残りだった。

(だからって私を殺した人間に託すなんて無茶苦茶ね。賭けにすらなっていない……本当に悪い癖……くすっ)

 果たして唯湖に託した想いという名の呪いは届くだろうか?
 それを確かめることはできそうにない。


 さらに眠気がひどくなってきた。
 千華留はゆっくりと目を閉じる。
 その刹那、見覚えが―――見紛うはずのない服の少女が眼前に立っていた。
 もう見えることのない目にもはっきりと映るその姿。
 黒いミアトルの制服に身を包んだ可愛らしい少女。

 それが今際の際の幻影だとわかっている。
 だけどそれでも―――


「まったく……サービス精神過剰な死神ね……」


 少女は微笑みながら手を伸ばす。
 千華留はゆっくりと手を伸ばし少女の手を優しく握り締める。
 決して離れないように。
 千華留は彼女の名を呼びかけた




 優しい風が街を吹き抜ける。
 どこまでも高く澄んだ蒼い空。
 その下に一人の少女が眠っている。
 その首に巻かれた赤いマフラーが風に乗ってたなびいていた。
 それは彼女に手向けられた花のように風に舞っていた。

 いつまでも。
 いつまでも。





【源千華留@Strawberry Panic! 死亡】





235:安易に許す事は、傲慢にも似ている(後編) 投下順 237:THE GAMEM@STER SP(Ⅰ)
235:安易に許す事は、傲慢にも似ている(後編) 時系列順
228:The straight 源千華留
233:requiem 来ヶ谷唯湖 238:この青空に約束を―

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