al fine (後後) 2 ◆Live4Uyua6
・◆・◆・◆・
「ここが大聖堂……といっても随分と壊れているみたいだな、クリス」
「……まぁ色々あったからね」
「そうか『色々』か……」
「どうしたの、なつき?」
「いや、なんでもない」
「……まぁ色々あったからね」
「そうか『色々』か……」
「どうしたの、なつき?」
「いや、なんでもない」
日が高く昇りはじめた頃、彼等はその場所に到着した。
その場所は西洋風の町並みの中でも一際目立つ建物。
威風堂々していた面影は消え今は壁にいくつも穴が開き、美麗なステンドグラスは割れ廃墟に近くなっていた。
その場所とは
その場所は西洋風の町並みの中でも一際目立つ建物。
威風堂々していた面影は消え今は壁にいくつも穴が開き、美麗なステンドグラスは割れ廃墟に近くなっていた。
その場所とは
「ここで……ユイコと出逢った」
クリス・ヴェルティンと来ヶ谷唯湖が出逢った場所、大聖堂。
この因縁深い場所に彼らは集まっていた。
クリスは懐かしそうにパイプオルガンだけを見つめている。
その傍に何処か不安に寂しそうにクリスを見つめているなつき。
この因縁深い場所に彼らは集まっていた。
クリスは懐かしそうにパイプオルガンだけを見つめている。
その傍に何処か不安に寂しそうにクリスを見つめているなつき。
「しかしほんと凄いトラックでしたねぇ……」
「だねぇ……あの博士は凄いと言うか何というか……」
「馬鹿なんだろ。間違いない」
「それ、九郎さんがいいますか……美希的には同類というか、その」
「なんだとぅ!? それはどういう意味だ!」
「そのままだと思うよ……」
「み、碧まで……」
「だねぇ……あの博士は凄いと言うか何というか……」
「馬鹿なんだろ。間違いない」
「それ、九郎さんがいいますか……美希的には同類というか、その」
「なんだとぅ!? それはどういう意味だ!」
「そのままだと思うよ……」
「み、碧まで……」
その背後にはにこやかに会話を進める美希と碧と九郎。
三人は道中で回収するように言われたウェスト作のトラックについて話し合っていた。
暫しの休憩と考え無事だった長椅子に座り会話を楽しんでいる。
三人は道中で回収するように言われたウェスト作のトラックについて話し合っていた。
暫しの休憩と考え無事だった長椅子に座り会話を楽しんでいる。
「……うん、那岐達も無事に博物館に着いたようね。クリス君、用事があるなら早々とすましましょう」
「はい、すいません。わざわざ時間を取ってもらって」
「別にいいわよ。休憩ついでにもなるから何も問題は無いわ」
「はい、すいません。わざわざ時間を取ってもらって」
「別にいいわよ。休憩ついでにもなるから何も問題は無いわ」
別グループとの定時連絡を終え戻ってきたむつみ。
そもそも、何故大聖堂にわざわざ立ち寄ったかというと、それはクリスたっての希望だった。
クリスが寄りたいと彼の性格から考えられない程の強い願いで。
むつみは何か理由があるのだろうと察し快く許諾したのだ。
そもそも、何故大聖堂にわざわざ立ち寄ったかというと、それはクリスたっての希望だった。
クリスが寄りたいと彼の性格から考えられない程の強い願いで。
むつみは何か理由があるのだろうと察し快く許諾したのだ。
(多分……彼女絡みの事かしら)
クリスの理由は何となくだがむつみにも予想が出来た。
恐らく来ヶ谷唯湖の事。
それは容易に想像できる。
でもそれは
恐らく来ヶ谷唯湖の事。
それは容易に想像できる。
でもそれは
(そう、だから……なつきの表情も曇っているのだろうけど……恋多き少年少女という事かしら)
自分の愛娘なつきにも想像できると言う事。
なつきの表情は曇っており明らかに機嫌が良くなさそうだった。
それに溜め息をつき、むつみは辺りを見回しある人物がいない事に気付く。
なつきの表情は曇っており明らかに機嫌が良くなさそうだった。
それに溜め息をつき、むつみは辺りを見回しある人物がいない事に気付く。
「あら……? ファルさんは? 姿は見れないけど」
「あれ……どこいったかなー?」
「散歩じゃねぇか?」
「あれ……どこいったかなー?」
「散歩じゃねぇか?」
一緒に同行したいたはずファルがいない事を。
辺りを見回すが彼女の姿は何処にも見当たらない。
先ほどまでいたはずなのにと皆が思っているときに。
辺りを見回すが彼女の姿は何処にも見当たらない。
先ほどまでいたはずなのにと皆が思っているときに。
「困ったわね……遠くにはいっていないと思うけど」
「あの、美希が聞いてますよ? ちょっと用があるといってましたけど……何なら見てきましょうか?」
「そうね……お任せできるかしら」
「あいあいさー」
「あの、美希が聞いてますよ? ちょっと用があるといってましたけど……何なら見てきましょうか?」
「そうね……お任せできるかしら」
「あいあいさー」
美希が探すと名乗り出たのだ。
むつみは少し考えるも許可を出した。
遠くにはいっていないだろうし安全だろうと判断した上で。
美希は笑みを浮かべるとそのまま身を翻し出口に向かっていく。
その美希の後姿を見つめやがて、むつみが
むつみは少し考えるも許可を出した。
遠くにはいっていないだろうし安全だろうと判断した上で。
美希は笑みを浮かべるとそのまま身を翻し出口に向かっていく。
その美希の後姿を見つめやがて、むつみが
「……さて、それまでクリス君は用事を済ませて……皆は休憩しましょうか。私はトラックを整備しているわ」
そう言葉をかけ、それを合図に各自は思い思いの行動をし始めた……
・◆・◆・◆・
(クリス……)
むつみの掛け声の後、なつきはクリスをただ見つめるだけだった。
近寄らず、話さずただ少し遠くから見つめているだけ。
何故だろう。
今のクリスは何か話せない……そう思ってしまったから。
唯湖の事を考えているからという訳ではない。
近寄らず、話さずただ少し遠くから見つめているだけ。
何故だろう。
今のクリスは何か話せない……そう思ってしまったから。
唯湖の事を考えているからという訳ではない。
(いや、勿論それもあるんだが……ああ、もう)
いや、確かにそれもある。
確かに悔しいと思う。
なつきにとってクリスは大切な存在なのだ。
そのクリスが来ヶ谷唯湖という別の女の人を想っている。
何も思わない訳が無い。
悔しさとか嫉妬とか色々だ。
なつきはクリスを縛り付けた唯湖に対し怒りを感じてもいる。
でもそれ以前に
確かに悔しいと思う。
なつきにとってクリスは大切な存在なのだ。
そのクリスが来ヶ谷唯湖という別の女の人を想っている。
何も思わない訳が無い。
悔しさとか嫉妬とか色々だ。
なつきはクリスを縛り付けた唯湖に対し怒りを感じてもいる。
でもそれ以前に
(クリス……お前にとって『来ヶ谷唯湖』はどんなものなんだ? 私には解らないよ……解らない)
クリスにとって唯湖という存在がどんなものなのか、なつきには解らないのだ。
縛り付けているだけ。
そうなつきは思っているのだがクリスにとっては違うらしい。
なつきが聞いてもクリスは曖昧に笑うだけ。
それがなつきを不安にさせているとはクリスは解らない。
縛り付けているだけ。
そうなつきは思っているのだがクリスにとっては違うらしい。
なつきが聞いてもクリスは曖昧に笑うだけ。
それがなつきを不安にさせているとはクリスは解らない。
(でも……クリスは私を愛してくれている。想っていてくれる。それは感じるんだ)
でも、それでもクリスはなつきの事を何よりも想っていてくれている。
愛していてくれている。
それは溢れるばかりに感じていて。
だからこそ、クリスの心が解らなくて。
なつきは惑う。
そして唯湖の事だけじゃないのだ。
それは
愛していてくれている。
それは溢れるばかりに感じていて。
だからこそ、クリスの心が解らなくて。
なつきは惑う。
そして唯湖の事だけじゃないのだ。
それは
(クリス……何でそんなに……儚く見えるんだ?……霞んで見えるんだ? ……まるで……消えてしまいそうじゃないか……死んで……しまいそうじゃないか)
唯湖の事や先の事を考えているクリスが何処か儚く消えてしまいそうに思えて。
傍に居るなつきだからこそ。
クリスを愛しているなつきだからこそ。
そのクリスの機微が解ってしまって。
なのにその理由がわからなくて。
それが。
途轍もなく。
途方も無いぐらい哀しいのだ。
傍に居るなつきだからこそ。
クリスを愛しているなつきだからこそ。
そのクリスの機微が解ってしまって。
なのにその理由がわからなくて。
それが。
途轍もなく。
途方も無いぐらい哀しいのだ。
(嫌だ……)
嫌だと想ってしまう。
クリスがもし居なくなってしまったら。
クリスがもし死んでしまったら。
なつきは。
クリスがもし居なくなってしまったら。
クリスがもし死んでしまったら。
なつきは。
(私を……独りにしないで。クリス……嫌だよ……傍にいてくれ……)
頭を一心不乱に振る。
考えたくも無かった。
そんな事有り得ない。
あってほしくない。
だからこそ、傍に居てほしい。
もう独りは嫌だから。
なつきの傍に居てほしいから。
クリスが居なくなるなんて
考えたくも無かった。
そんな事有り得ない。
あってほしくない。
だからこそ、傍に居てほしい。
もう独りは嫌だから。
なつきの傍に居てほしいから。
クリスが居なくなるなんて
「嫌だ」
嫌だった。
その震えた呟きにクリスは気づく事が無く
その震えた呟きにクリスは気づく事が無く
「はーい、なつきちゃんどしたの? しおらしくなっちゃって。まるで女の子みたい」
「み、碧! 私は元々女の子だ!」
「あっはっは。そういえばそうだったねぇ」
「そうだもなにも元々そうだ……まったく」
「や、失礼失礼~」
「あっはっは。そういえばそうだったねぇ」
「そうだもなにも元々そうだ……まったく」
「や、失礼失礼~」
顔をまるで茹で蛸みたいに真っ赤に否定して怒るなつき。
解っていておちょくっているのだからたちが悪いと、内心に思いつつなつきはジッと碧を睨む。
碧は相変わらず笑っていて全く反省していない様子だった。
解っていておちょくっているのだからたちが悪いと、内心に思いつつなつきはジッと碧を睨む。
碧は相変わらず笑っていて全く反省していない様子だった。
(一応これでも恋する女の子……だ……はぁ)
そう思いつつなつきはクリスの方を向き、そして溜め息を吐く。
次第に顔が曇り始め不安が色濃く出始めていた。
碧はそんななつきに気付き
次第に顔が曇り始め不安が色濃く出始めていた。
碧はそんななつきに気付き
「なつきちゃん……どしたの? クリス君となんかあったの?」
「……別に何でもない」
「……別に何でもない」
そう尋ねるもなつきは邪険に扱う。
でも碧はそれで食い下がらず
でも碧はそれで食い下がらず
「いや、その顔で何でもないって有り得ないって」
「……うっ、か、顔に出ているのか?」
「ええ、もうありありと……言ってごらん、わたしが聞いてあげるからさ」
「……うっ、か、顔に出ているのか?」
「ええ、もうありありと……言ってごらん、わたしが聞いてあげるからさ」
顔に出ている事を指摘して優しく問い掛ける。
なつきが話しやすいように。
そんな碧になつきは気を許して心中の不安を彼女に話し始めた。
なつきが話しやすいように。
そんな碧になつきは気を許して心中の不安を彼女に話し始めた。
「……クリスが……消えて……しまいそうなんだ」
「……はい?」
「……何か……何処か儚くて……私でも何を言っているか解らない……でも居なくなってしまう……そんな風に……思ってしまう。どうしてもそう思ってしまうんだ」
「……それは」
「そんな訳ない。そんな筈ないと思っているのに……なのに……クリスが死――――っ!?……あれ……す、すまない」
「……はい?」
「……何か……何処か儚くて……私でも何を言っているか解らない……でも居なくなってしまう……そんな風に……思ってしまう。どうしてもそう思ってしまうんだ」
「……それは」
「そんな訳ない。そんな筈ないと思っているのに……なのに……クリスが死――――っ!?……あれ……す、すまない」
そう言いかけて……止まった。
言えなかった。
それを言ってしまったら肯定してしまうと思って。
何より……
言えなかった。
それを言ってしまったら肯定してしまうと思って。
何より……
「……なんで、私……泣いているんだ?……可笑しいな……ひっく」
雫が静かに頬を伝い始めていたから。
少しだけど確実に。
流れていた、涙。
少しだけど確実に。
流れていた、涙。
それは哀しみなのか、不安なのか。
何の涙かは分からないけど。
何の涙かは分からないけど。
クリスを想って流した涙には違いなかった。
「もー……罪作りだなぁ……クリス君は」
そんななつきに碧は呆れるようにそれでも優しく微笑みかける。
まるであやす様に頭を撫で始める。
まるであやす様に頭を撫で始める。
「本当はクリス君の役割だぞ……こんなに可愛い子、優しい子……滅多に居ないんだから……大切にしなきゃ駄目だよ、本当に」
優しく。
本来慰めるクリスが居ないのを咎める様に。
ただ頭を撫でていた。
本来慰めるクリスが居ないのを咎める様に。
ただ頭を撫でていた。
「いい、なつきちゃん?」
そして、優しく諭すように。
穏やかに。
穏やかに。
「クリス君がなつきちゃんを残して……消えるわけ無いじゃない。それはなつきちゃんが一番知っていると思う。違う?」
「それは……」
「大丈夫、クリス君は生きるよ。ずっとずっと。なつきちゃんと一緒に。心配なんていらないよ。でしょ?」
「……うん」
「それは……」
「大丈夫、クリス君は生きるよ。ずっとずっと。なつきちゃんと一緒に。心配なんていらないよ。でしょ?」
「……うん」
心が融解していくような感覚。
不安が少しずつ融けていくような。
とても不思議な感覚。
碧の優しい声が、満面の笑顔が。
なつきの不安を融かしている。
不安が少しずつ融けていくような。
とても不思議な感覚。
碧の優しい声が、満面の笑顔が。
なつきの不安を融かしている。
「それに……」
碧は言う。
満面の笑みで。
精一杯胸を張って。
満面の笑みで。
精一杯胸を張って。
「わたしがそんな事させない。クリス君が消えていったり死なせたりなんて……絶対にさせない。生かしてみせる。護ってみせる」
その意志はもう惑う事がなく。
その信念はもう迷う事がなく。
その信念はもう迷う事がなく。
「クリス君だけじゃない、なつきちゃんも……皆、皆。絶対に死なせない。皆生かしきってみせる」
固く。
固く。
固く。
「哀しみなんて、もう、おしまい。哀しみなんて、もう、いらない」
強く。
強く。
強く。
「皆、皆、笑っていられるように。笑顔が、ずっと、ずっと、広がっているように」
優しく。
優しく。
優しく。
「皆が哀しまないように。皆が幸せに生きていられますように。皆が笑っていられますように。それを――その全てを――」
碧が志すもの。
碧が信じるもの。
碧が信じるもの。
「私が、この『正義の味方』が護ってみせるから」
満面の笑顔。
強く。
優しく。
優しく。
幸せを。
笑顔を。
笑顔を。
全てを守り抜く。
揺るがぬ『正義の味方』
杉浦碧、ここに在り。
・◆・◆・◆・
「ふぅ……これで全部かな」
なつきが泣いてた時、クリスはのんびりと背を伸ばしていた。
ここに初めて来た時になごみ達を交えて行われた乱闘。
その最中に落とした『蒼い鳥』の楽譜を回収していた為だった。
あちらこちらに散らばっていたが、それでも楽譜をやよいに渡そうと思ってやったまでの事。
クリスはそう思ったならば、多少手間ではあったもののそれを厭いはしなかった。
とはいえこれがクリスの目的ではない。
その本来の目的を果たそうとする為に準備をしようかと考え始めた時だった。
ここに初めて来た時になごみ達を交えて行われた乱闘。
その最中に落とした『蒼い鳥』の楽譜を回収していた為だった。
あちらこちらに散らばっていたが、それでも楽譜をやよいに渡そうと思ってやったまでの事。
クリスはそう思ったならば、多少手間ではあったもののそれを厭いはしなかった。
とはいえこれがクリスの目的ではない。
その本来の目的を果たそうとする為に準備をしようかと考え始めた時だった。
「おい、クリス」
「……うん? 何、クロウ?」
「……うん? 何、クロウ?」
九郎がクリスの元にやってきたのは。
九郎は腕を組み何やら不機嫌な表情を浮かべクリスに迫ってきている。
クリスは不思議そうに思いながら首を傾げていた。
そんな態度に九郎はさらに表情を強張らせ
九郎は腕を組み何やら不機嫌な表情を浮かべクリスに迫ってきている。
クリスは不思議そうに思いながら首を傾げていた。
そんな態度に九郎はさらに表情を強張らせ
「……気付いていないのか?」
「……何が?」
「いや、だからあれだよ」
「……?」
「……何が?」
「いや、だからあれだよ」
「……?」
九郎は未だに気付かないクリスの鈍感さに呆れ、溜め息を付き頭を抑える。
そして
そして
「……あー……ていっ、制裁!」
「いたっ!?」
「いたっ!?」
思いっきりチョップをクリスに叩き込んだ。
不意をつかれたクリスはチョップが直撃した額を抑えて九郎を睨む。
未だに何故そうされたか理由が思いつかなかったから。
そんなクリスに対し、九郎は腰に手を当てて説教を始める。
不意をつかれたクリスはチョップが直撃した額を抑えて九郎を睨む。
未だに何故そうされたか理由が思いつかなかったから。
そんなクリスに対し、九郎は腰に手を当てて説教を始める。
「あのな、唯湖ってのが心配なのは解る、でもな。そればっかり考えるな」
「……うん?」
「あーもう……だから。なつきだよ! な! つ! き! 直ぐ思いつけ、この鈍感!」
「……え?」
「なつき。お前の恋人だろ」
「……うん?」
「あーもう……だから。なつきだよ! な! つ! き! 直ぐ思いつけ、この鈍感!」
「……え?」
「なつき。お前の恋人だろ」
険しい表情をした九郎がクリスを咎め始めた。
それはクリスの恋人であるなつきの事。
クリスは呆気に取られた表情を浮かべ九郎を見ている。
九郎は溜め息を付きながら諭し始めた。
それはクリスの恋人であるなつきの事。
クリスは呆気に取られた表情を浮かべ九郎を見ている。
九郎は溜め息を付きながら諭し始めた。
「……あのな、唯湖がお前にとってどんな存在かは聞かない」
「……うん」
「でもな、お前が大切にしないといけないのはなつきだろ?」
「うん……絶対大切にする」
「なら……言ってやれよ。なつき、不安がってたぞ」
「……え?」
「ちゃんと言葉で、態度で示せ。なつきが好きだって。大好きなんだろ?」
「うん、勿論。大好きだよ……だから、いってくる」
「おう、頑張れよ……全く馬鹿なんだからよ。世話かけんな」
「……クロウほど馬鹿じゃないよ」
「なんだとぅ!?」
「……うん」
「でもな、お前が大切にしないといけないのはなつきだろ?」
「うん……絶対大切にする」
「なら……言ってやれよ。なつき、不安がってたぞ」
「……え?」
「ちゃんと言葉で、態度で示せ。なつきが好きだって。大好きなんだろ?」
「うん、勿論。大好きだよ……だから、いってくる」
「おう、頑張れよ……全く馬鹿なんだからよ。世話かけんな」
「……クロウほど馬鹿じゃないよ」
「なんだとぅ!?」
その諭しに薄い笑みを浮かべ応えるクリス。
なつきにこれ以上不安にさせないと思って。
九郎はそれに安心したように笑った。
しっかりと気付いて、そして進もうとしているクリスに。
何故か酷い安心感と喜びをクリスは感じた。
なつきにこれ以上不安にさせないと思って。
九郎はそれに安心したように笑った。
しっかりと気付いて、そして進もうとしているクリスに。
何故か酷い安心感と喜びをクリスは感じた。
「でも……ありがとう。クロウ」
「別に気にする事ないぜ……」
「別に気にする事ないぜ……」
もう一つ何かを思い出したように尋ねる。
なつきが言った事を。
勘違いであって欲しいように。
なつきが言った事を。
勘違いであって欲しいように。
「お前……変な事考えてないよな?」
「……変な事?」
「……んや、いいわ。大丈夫。何があってもお前らは護るからな」
「……うん、頼りにしているよ」
「任せろ」
「……変な事?」
「……んや、いいわ。大丈夫。何があってもお前らは護るからな」
「……うん、頼りにしているよ」
「任せろ」
聞こうとして止めた。
その代わりに胸を張って護ると言った。
何があっても。
碧がいったように。
それがいいと思ったから。
だけど
その代わりに胸を張って護ると言った。
何があっても。
碧がいったように。
それがいいと思ったから。
だけど
「……死ぬんじゃねぇぞ。死ぬとか考えるじゃねぇよ……」
そう、九郎は密かに呟いた。
その囁きにクリスが気付いたかどうかはわからないけど。
その囁きにクリスが気付いたかどうかはわからないけど。
「……大丈夫。大丈夫だよ」
曖昧に笑い。
そう密かに言った。
肯定も
否定も
否定も
無かった。
・◆・◆・◆・
「なつき……?」
「あ、クリス……」
「……っとナイトの参上かな。じゃあこの後任せたよーお幸せにー」
「ちょっとミドリ……もう」
「あ、クリス……」
「……っとナイトの参上かな。じゃあこの後任せたよーお幸せにー」
「ちょっとミドリ……もう」
「あ……ク……クリス……あのな」
「……うん、なつき。大丈夫、僕はここに居るよ」
「……あ、うん」
「だから言って、僕に。なつきの心を。なつきの思っていることを」
「……う、うん」
「……もう、なつきは泣き虫だなぁ……ほら泣かないで」
「泣いてない! 泣いてなんか無いぞ! 第一泣かしたのはクリスじゃないか!」
「……御免。御免ね」
「……ぎゅっとしろ」
「……え?」
「だからぎゅっと」
「……うん、なつき。大丈夫、僕はここに居るよ」
「……あ、うん」
「だから言って、僕に。なつきの心を。なつきの思っていることを」
「……う、うん」
「……もう、なつきは泣き虫だなぁ……ほら泣かないで」
「泣いてない! 泣いてなんか無いぞ! 第一泣かしたのはクリスじゃないか!」
「……御免。御免ね」
「……ぎゅっとしろ」
「……え?」
「だからぎゅっと」
「……はい」
「……あり……がとう」
「顔真っ赤だね」
「……うるさいな……なぁ、クリス?」
「うん?」
「あのな……クリス……ええと……クリス」
「うん、うん。大丈夫……言って」
「……あり……がとう」
「顔真っ赤だね」
「……うるさいな……なぁ、クリス?」
「うん?」
「あのな……クリス……ええと……クリス」
「うん、うん。大丈夫……言って」
「うぅ……もう独りは嫌……」
「うん、させないよ」
「寂しいのなんか……悲しいのなんか」
「大丈夫……僕を信じて」
「クリス……」
「シズルと約束した……そして何より僕自身がそんな事、絶対にさせないよ」
「うん、させないよ」
「寂しいのなんか……悲しいのなんか」
「大丈夫……僕を信じて」
「クリス……」
「シズルと約束した……そして何より僕自身がそんな事、絶対にさせないよ」
「……クリスっ」
「大丈夫、大丈夫。本当に泣き虫になったなぁ……」
「いうなっ……私はなぁ……心配だったぞっ……お前が遠くにいっちゃいそうで怖かっただぞ」
「御免ね……何処にも行かないよ」
「いくなっ!……私は」
「大丈夫、大丈夫。本当に泣き虫になったなぁ……」
「いうなっ……私はなぁ……心配だったぞっ……お前が遠くにいっちゃいそうで怖かっただぞ」
「御免ね……何処にも行かないよ」
「いくなっ!……私は」
「私はクリスを愛している! 大好きなんだ! 離れたくない!」
「なつき……」
「わかるか? 私はなぁ……クリスの傍がたった一つの居場所なんだ!」
「うん……」
「この場所は……誰にも譲らない! 譲りたくない!……わかってくれよぉ……」
「大丈夫……解っているよ」
「本当に……?」
「勿論」
「そう……なんだな」
「なつき……安心して。だってほら……」
「……え?」
「なつきが今こんなにも僕の為に泣いてくれている。こんなにも僕の事を想って」
「あ……」
「こんなにも強く想っていてくれている。こんなにも。こんなにも」
「は、恥ずかしい事いうな……」
「そう……僕は誇らしいよ。うん……なつきでよかった」
「ありがと……なら……聞きたいんだ」
「うん……?」
「なつき……」
「わかるか? 私はなぁ……クリスの傍がたった一つの居場所なんだ!」
「うん……」
「この場所は……誰にも譲らない! 譲りたくない!……わかってくれよぉ……」
「大丈夫……解っているよ」
「本当に……?」
「勿論」
「そう……なんだな」
「なつき……安心して。だってほら……」
「……え?」
「なつきが今こんなにも僕の為に泣いてくれている。こんなにも僕の事を想って」
「あ……」
「こんなにも強く想っていてくれている。こんなにも。こんなにも」
「は、恥ずかしい事いうな……」
「そう……僕は誇らしいよ。うん……なつきでよかった」
「ありがと……なら……聞きたいんだ」
「うん……?」
「クリスにとって……唯湖って何なんだ?」
「……え?」
「私には分からない……私には何も話してくれない。私には何も言ってくれないじゃないか!」
「そういえば……そうだったね」
「だろう!?……きっと私より……」
「なつき」
「……うん?」
「ユイコは大切な人だよ」
「……ぁ……ぅ」
「……え?」
「私には分からない……私には何も話してくれない。私には何も言ってくれないじゃないか!」
「そういえば……そうだったね」
「だろう!?……きっと私より……」
「なつき」
「……うん?」
「ユイコは大切な人だよ」
「……ぁ……ぅ」
「でも……それとはなつきと別だよ」
「……ぇ?」
「なつきは……僕の大切な恋人だ」
「……ぁ」
「誰よりも……なつきだけを……愛しているから」
「……ぁ……あぁああ」
「なつきの傍は他には絶対に誰にも譲らない」
「……うん、私もクリス以外嫌だ」
「うん、だからね。いつでも想っている……なつきのことを」
「あ……う」
「なつきは違う?」
「違うくない!」
「うん」
「……うー意地悪だな」
「……うん? どうして?」
「私がそんな訳ないってわかっているだろう!? 私も想っている!」
「うん……そうかけがえの無い想いだね……だからこそ」
「だからこそ……?」
「……ぇ?」
「なつきは……僕の大切な恋人だ」
「……ぁ」
「誰よりも……なつきだけを……愛しているから」
「……ぁ……あぁああ」
「なつきの傍は他には絶対に誰にも譲らない」
「……うん、私もクリス以外嫌だ」
「うん、だからね。いつでも想っている……なつきのことを」
「あ……う」
「なつきは違う?」
「違うくない!」
「うん」
「……うー意地悪だな」
「……うん? どうして?」
「私がそんな訳ないってわかっているだろう!? 私も想っている!」
「うん……そうかけがえの無い想いだね……だからこそ」
「だからこそ……?」
「うん……それは何よりも変えられない……強い想いだから―――なつき。大好き。愛している」
「わ、私も……この想いは……誰よりも強く、負けられない―――クリス。大好き。愛している」
「わ、私も……この想いは……誰よりも強く、負けられない―――クリス。大好き。愛している」
「あ……う……なんか、恥ずかしいな」
「今更だよ、顔真っ赤にして」
「い、言うな!」
「可愛いよ」
「……うう、あーもう。どうしてクリスは照れないんだ!?」
「……どうしてかな。一応これでも照れているつもりなんだけど……一応」
「そうやって私の心を鷲掴みにして……全く」
「あはは……」
「だから……離れたくない……何処までも一緒だ」
「……うん、安心して。僕はここにいる。一緒に。一緒にね」
「うん……うん」
「僕はなつきが好きだ」
「……うん……なら唯湖は……?」
「……そうだね、今それを奏でるよ……彼女への音楽を。多分それで解ると思うから」
「……うん……解った」
「うん、じゃあいってくるね」
「今更だよ、顔真っ赤にして」
「い、言うな!」
「可愛いよ」
「……うう、あーもう。どうしてクリスは照れないんだ!?」
「……どうしてかな。一応これでも照れているつもりなんだけど……一応」
「そうやって私の心を鷲掴みにして……全く」
「あはは……」
「だから……離れたくない……何処までも一緒だ」
「……うん、安心して。僕はここにいる。一緒に。一緒にね」
「うん……うん」
「僕はなつきが好きだ」
「……うん……なら唯湖は……?」
「……そうだね、今それを奏でるよ……彼女への音楽を。多分それで解ると思うから」
「……うん……解った」
「うん、じゃあいってくるね」
「ク、クリス」
「うん……?」
「その前に……ん……んー」
「?」
「うん……?」
「その前に……ん……んー」
「?」
「………………あーこの鈍感……」
「はい?」
「はい?」
「……早くキスしろっ!」
「……あーうん……ん……」
「……ん……ありがと」
「……ん……ありがと」
「じゃあ、いくね……奏でよう……彼女の音楽を」
・◆・◆・◆・
ふらりと姿を消したファルを追って大聖堂の前を離れた美希は、見慣れない景色に目をきょろきょろとさせながら街中を歩いていた。
地図の上で中世西洋風の街と記されたそこは、探しているファルが暮らすピオーヴァの町並みにそっくりで、
美希が暮らす世界から言えばルネッサンス建築全盛期の北イタリアの風景に酷似していた。
とはいえ美希にはそんな文化的な知識はないので、せいぜいTVや絵葉書で見たミラノの街っぽいというのがせいぜいの感想だ。
美希が暮らす世界から言えばルネッサンス建築全盛期の北イタリアの風景に酷似していた。
とはいえ美希にはそんな文化的な知識はないので、せいぜいTVや絵葉書で見たミラノの街っぽいというのがせいぜいの感想だ。
ともかくとして、大聖堂から通りを一つ隔てた場所にある石造りの邸宅で、彼女は追っていたファルの姿を捉えた。
教会の時の意趣返しというわけでもないが、美希は彼女に気づかれぬようこっそりと近づいてゆく。
教会の時の意趣返しというわけでもないが、美希は彼女に気づかれぬようこっそりと近づいてゆく。
「もう二度と会わないと思ったけど……まぁ近く、を寄った縁よ。こんにちは」
日に照らされながら和服を着こなした少女、ファルシータがある物を見つめていた。
それはもう二度と動く事がない屍。
腐敗が始まり悪臭さえ漂っている。
元はファルと同じく生きていたというのに今は見る影も無くただの蛋白質の塊でしかなかった。
おまけに頭と胴体も離れ人の形すら留めていない。
それはもう二度と動く事がない屍。
腐敗が始まり悪臭さえ漂っている。
元はファルと同じく生きていたというのに今は見る影も無くただの蛋白質の塊でしかなかった。
おまけに頭と胴体も離れ人の形すら留めていない。
「……貴方、渚さんと深い関係だったのね。知ることなどないと思ったのに」
その屍は岡崎朋也のもの。
そう、何故頭と胴体が離れているかというと、ファルが首輪を取る為に切断したからなのだ。
奇しくも朋也が大切していた古河渚を傀儡にしようとしていたファルが死んでいたとはいえ朋也の首を切断した。
因果は不思議に廻りまわっている、そうファルは思って。
でもそんな事、どうでもよかった。
ファルには関係のない事。
二人の関係など知る必要もなかったのに。
そう、何故頭と胴体が離れているかというと、ファルが首輪を取る為に切断したからなのだ。
奇しくも朋也が大切していた古河渚を傀儡にしようとしていたファルが死んでいたとはいえ朋也の首を切断した。
因果は不思議に廻りまわっている、そうファルは思って。
でもそんな事、どうでもよかった。
ファルには関係のない事。
二人の関係など知る必要もなかったのに。
昨日の晩。ファルは偶然に那岐からその事実を知らされた。
深夜の見回りの中、寝室を離れたファルは那岐と鉢合わせ、その中で彼が会話の中で口を滑らせてしまったのだ。
そう、偶々知っただけ。
だがそれが結果として渚と朋也の関係を知る事になった。
互いに想いあった二人の末路。
それは悲惨なものだった。
だけど
深夜の見回りの中、寝室を離れたファルは那岐と鉢合わせ、その中で彼が会話の中で口を滑らせてしまったのだ。
そう、偶々知っただけ。
だがそれが結果として渚と朋也の関係を知る事になった。
互いに想いあった二人の末路。
それは悲惨なものだった。
だけど
「それでお終い。私には関係ない事よ」
それで終わり。
死んでしまったら過程など関係ないのだ。
ああ、可哀想ねというくだらない感情しか思わない。
いや、それすら思いもしない。
死んでしまったら過程など関係ないのだ。
ああ、可哀想ねというくだらない感情しか思わない。
いや、それすら思いもしない。
「それにしても……皮肉なものね。こんなにも貴方達に酷い事をした私は生きている……くくっ」
ファルはつい乾いた笑みを洩らす。
朋也と渚の二人に酷い事をした自身が未だに生きているのだ。
なんて皮肉なんだろうと思ってしまう。
善良の人間が死んでこんな酷い人間が生きている。
思わず笑い毀れる程可笑しく……理不尽だった。
朋也と渚の二人に酷い事をした自身が未だに生きているのだ。
なんて皮肉なんだろうと思ってしまう。
善良の人間が死んでこんな酷い人間が生きている。
思わず笑い毀れる程可笑しく……理不尽だった。
「……それが、ファルさんの『罪』ですか?」
ファルがその唐突な声に驚き振り向くとそこに居たのは見知った栗毛の少女。
彼女が同類と称した山辺美希だった。
美希が見下ろしているのは朋也の屍。
それを美希はファルの『罪』として称した。
しかし、ファルは薄笑いを浮かべ頭を振って否定する。
彼女が同類と称した山辺美希だった。
美希が見下ろしているのは朋也の屍。
それを美希はファルの『罪』として称した。
しかし、ファルは薄笑いを浮かべ頭を振って否定する。
「いいえ……私は手を下してはないわ。私がやったのは副次的なもの」
「ははぁ……成程」
「それでも……傍から見るとそれも『罪』に見えるのかしらね」
「ははぁ……成程」
「それでも……傍から見るとそれも『罪』に見えるのかしらね」
ファルがやった事は朋也の首を切断した事のみ。
だけどそれも死者の冒涜といえばそうなのだろう。
ある意味立派な罪かもしれない。
だけどそれも死者の冒涜といえばそうなのだろう。
ある意味立派な罪かもしれない。
「だけど……私は『罪』と思うつもりは更々無いわ」
でもファルはそれを罪とは思わない。
確かに酷い事をした。
だけどそれは
確かに酷い事をした。
だけどそれは
「幸せになりたいもの。生きる為……それを『罪』と称する気は無いわ」
幸せになる為。
生きる為。
その行為をファルは罪と称する気は無い。
それがファルの考えなのだから。
生きる為。
その行為をファルは罪と称する気は無い。
それがファルの考えなのだから。
「それって……なんかズルイですね」
「そうかしら? これはこれで重いものよ。ある意味義務が発生するともいえるのだから」
「義務……ですか」
「そう。私が幸せにならなければならない。生き続けなければならない。そうじゃないと利用した、切り捨てた意味がないじゃない」
「そうかしら? これはこれで重いものよ。ある意味義務が発生するともいえるのだから」
「義務……ですか」
「そう。私が幸せにならなければならない。生き続けなければならない。そうじゃないと利用した、切り捨てた意味がないじゃない」
義務とそう表しファルは言う。
利用したのなら。
切り捨てたのなら。
踏みにじったのなら。
幸せにならないといけない。生き続けなければならない。
それが義務だと。
利用したのなら。
切り捨てたのなら。
踏みにじったのなら。
幸せにならないといけない。生き続けなければならない。
それが義務だと。
でもそれはある意味『罰』のなのかもしれない。
人の生や尊厳を奪った『罪』に対する『罰』かもしれない。
人の生や尊厳を奪った『罪』に対する『罰』かもしれない。
それをファルが知っているか、理解しているかなんて誰にも解りはしないけど。
美希はそれを聞いて嘆息一つ。
そして呟く。
そして呟く。
「……不器用な人」
「何か言ったかしら?」
「やや、気のせいですよ? 気のせい」
「何か言ったかしら?」
「やや、気のせいですよ? 気のせい」
美希は笑ってごまかしながらファルを見る。
ファルは変わらず乾いた笑みを浮かべていた。
ファルは不意に何かを思い出しそして言う。
ファルは変わらず乾いた笑みを浮かべていた。
ファルは不意に何かを思い出しそして言う。
「この人を殺した人も大切な人を想った末の事と聞いたわよ」
「……そうなんですか?」
「なごみ……というらしいけど」
「……!?」
「この人はこの人の想い人の為に頑張って。そしてなごみという人は自身の想い人の為に頑張った……想いが廻り廻って因果となってそして哀しい連鎖になる……か」
「……」
「『彼』が言っていた。哀しみの連鎖を止めるって。何事かしらね……本当。自身が哀しみの連鎖に取り込まれている象徴だったというのに……どうなってるのかしらね……本当」
「……そうなんですか?」
「なごみ……というらしいけど」
「……!?」
「この人はこの人の想い人の為に頑張って。そしてなごみという人は自身の想い人の為に頑張った……想いが廻り廻って因果となってそして哀しい連鎖になる……か」
「……」
「『彼』が言っていた。哀しみの連鎖を止めるって。何事かしらね……本当。自身が哀しみの連鎖に取り込まれている象徴だったというのに……どうなってるのかしらね……本当」
朋也を殺したなごみの事を。
なごみが愛した人の為に頑張ったという。
想いが廻り廻ってそして哀しみしか起こらない連鎖になるといった。
その哀しみの連鎖はクリスから聞いた。
ファルは未だに信じられない。
永遠の哀しみに囚われ続けていたクリスがそれを止めると。
哀しみにしか埋没するしかなかったクリスがそんな事を言うとは信じられない。
本当に分からない。
むしろあれをクリスとして認めたくない。
そう、思いたいぐらいに。
なごみが愛した人の為に頑張ったという。
想いが廻り廻ってそして哀しみしか起こらない連鎖になるといった。
その哀しみの連鎖はクリスから聞いた。
ファルは未だに信じられない。
永遠の哀しみに囚われ続けていたクリスがそれを止めると。
哀しみにしか埋没するしかなかったクリスがそんな事を言うとは信じられない。
本当に分からない。
むしろあれをクリスとして認めたくない。
そう、思いたいぐらいに。
「最もなごみさんも報いを受けたそうだけど……貴方によって。本当に連環のようね」
ファルはそう、横目で美希を見る。
美希はそんなファルに何か詰まった様な表情を向けていた。
ファルは美希を責めていない。
責める立場の人間でもない。
寧ろ何かを問い掛けているような。
だから、美希はコロッと表情を変える。
美希はそんなファルに何か詰まった様な表情を向けていた。
ファルは美希を責めていない。
責める立場の人間でもない。
寧ろ何かを問い掛けているような。
だから、美希はコロッと表情を変える。
「そうですね、ぐるぐるっと廻ってます」
笑って。
そう返した。
ファルは表情を変えずに呟く。
そう返した。
ファルは表情を変えずに呟く。
「それは貴方の『罪』かしら。貴方は『罪』と思うのかしらね。またその先の『罰』を。連環というなら……廻り来る『罰』を考えるのかしら」
美希の罪を。
殺したという罪を。
そして連環ならば廻り来る報いという名の罰を。
ファルは問い掛ける。
殺したという罪を。
そして連環ならば廻り来る報いという名の罰を。
ファルは問い掛ける。
美希は言った。
表情に何も変わりはなかった。
表情に何も変わりはなかった。
「そんなの……考えられねーです。取りあえず美希は生きるんです。今を。固有を。いつか来る事なんて……考えねーです。だから、美希は、生きるんです」
考えられないと。
先の罪と罰など考えない。
今を固有の自分を生きるだけ。
先の罪と罰など考えない。
今を固有の自分を生きるだけ。
だから、美希は生きている。
それだけだった。
「そう。それも……いいかもね」
「はい。いいもんです」
「はい。いいもんです」
ファルはその答えに笑い。
美希もニコニコ笑った。
美希もニコニコ笑った。
この問いに答えなんて……存在しない。
そう思うように。
「あら……この音色は……?」
「……あれ?……凄く綺麗……」
「……あれ?……凄く綺麗……」
その時、風に乗って音が届く。
それは音楽で。
哀しみの連鎖を止める者が奏でる。
優しく。
綺麗な。
綺麗な。
音色だった。
・◆・◆・◆・
「やれやれ……手間かけさせやがって……」
「だねぇ……そして見せ付けるなぁ……若い事若い事」
「てけり・り」
「……」
「だねぇ……そして見せ付けるなぁ……若い事若い事」
「てけり・り」
「……」
クリスとなつきが話し合っているのを遠くから見ていた九郎達。
トラックの整備を終えたむつみもトラックに放置していたダンセイニを連れて戻っていた。
クリスとなつきは人目を気にせず愛の語らいをしている。
それを邪魔せずかといってしっかり見ていた四名。
だがむつみの表情は若干厳しく苦々しいものだった。
それに気付いた碧はむつみが思っているだろう事を聞く。
トラックの整備を終えたむつみもトラックに放置していたダンセイニを連れて戻っていた。
クリスとなつきは人目を気にせず愛の語らいをしている。
それを邪魔せずかといってしっかり見ていた四名。
だがむつみの表情は若干厳しく苦々しいものだった。
それに気付いた碧はむつみが思っているだろう事を聞く。
「やっぱり……娘さんが気になるかな?」
「……まぁそうなるわね。やっぱり」
「……まぁそうなるわね。やっぱり」
それは未だにいちゃついているなつきの事。
彼女は母として娘と彼との恋愛が気になるのだろうと、碧はそう思っていたのだがそれは違い
彼女は母として娘と彼との恋愛が気になるのだろうと、碧はそう思っていたのだがそれは違い
「あの子がクリス君と話す時って幸せそうね……」
「だねぇ……」
「私はあの子を幸せにできるのかしら……クリス君と同じ様に」
「……え?」
「だねぇ……」
「私はあの子を幸せにできるのかしら……クリス君と同じ様に」
「……え?」
むつみ自身の事だった。
むつみとなつきの事。
それは
むつみとなつきの事。
それは
「クリス君はなつきが居て欲しい時にいつも傍に居てくれた。なつきが望んだ時に居てくれた」
「そう……みたいだねぇ」
「私はそれを出来なかった。そんな私に今更、母親の様に接する事ができるのかしら……? それをあの子は心の底から受けくれてくれるのかしら」
「そう……みたいだねぇ」
「私はそれを出来なかった。そんな私に今更、母親の様に接する事ができるのかしら……? それをあの子は心の底から受けくれてくれるのかしら」
なつきとむつみが離れていた距離と時間。
なつきの為とはいえ、むつみはなつきを独りにさせていた。
そんな自分が今更な母親のような事をできるのだろうかと思ってしまう。
そしてなつきはそれを受け入れてくれるのだろうかと思ってしまう。
長すぎるその時間が枷となってむつみを苦しめていた。
なつきの為とはいえ、むつみはなつきを独りにさせていた。
そんな自分が今更な母親のような事をできるのだろうかと思ってしまう。
そしてなつきはそれを受け入れてくれるのだろうかと思ってしまう。
長すぎるその時間が枷となってむつみを苦しめていた。
「……うーん。とりあえずさーなつきちゃんが笑ってるのなら、いいんじゃない? 九条さんと居て笑顔ならさ、それでいいと思うよ、単純だけどさ」
だが、碧は笑って簡単に言う。
なつきが今、むつみといて笑っている。
それで今はいいと。
時間がたてばきっと何処にも居る親子のようになれると思って。
なら、今なつきが笑っていられるならきっと彼女は幸せなのだろう。
だからきっと今はそれでいいと碧は思ったから。
むつみはそれを聞いて少し笑い
なつきが今、むつみといて笑っている。
それで今はいいと。
時間がたてばきっと何処にも居る親子のようになれると思って。
なら、今なつきが笑っていられるならきっと彼女は幸せなのだろう。
だからきっと今はそれでいいと碧は思ったから。
むつみはそれを聞いて少し笑い
「そうね……それでいいのかもしれない」
静かに肯定した。
見つめる先には仲睦まじいクリスとなつき。
とても幸せそうだった。
その時二人はちょうど口を重ねた。
それを見て流石にむつみは眉をひそめる。
見つめる先には仲睦まじいクリスとなつき。
とても幸せそうだった。
その時二人はちょうど口を重ねた。
それを見て流石にむつみは眉をひそめる。
「流石に……少しは抑えてほしいわね……」
「あはは……若いということじゃない?」
「あはは……若いということじゃない?」
碧は噴出すように笑った。
クリスはやがて使い慣れたリセのフォルテールを準備しその前に座る。
クリスがやるべき用事。
それはフォルテールを使って唯湖に語りかける事。
始まりのこの地で。
クリスはやがて使い慣れたリセのフォルテールを準備しその前に座る。
クリスがやるべき用事。
それはフォルテールを使って唯湖に語りかける事。
始まりのこの地で。
クリスの想いを伝える為に。
そしてその手が紡ぎだす。
そしてその手が紡ぎだす。
優しい音色を。
この殺戮しかなかった島で。
クリス・ヴェルティンが辿り着いた音色。
この殺戮しかなかった島で。
クリス・ヴェルティンが辿り着いた音色。
音色が響き渡る。
彼女に届けと。
願うように。
・◆・◆・◆・
ユイコ……聞こえていますか?
ユイコ……貴方はそこにいますか?
ユイコ……貴方はそこにいますか?
僕は……ここに居ます。
この始まりの地に。
全てが始まった……
あのパイプオルガンの音が響いたこの場所に。
あのパイプオルガンの音が響いたこの場所に。
ユイコと出逢った―――
大聖堂に。
僕は居るよ。
・◆・◆・◆・
それは突然聞こえてきた。
懐かしいあの音色が。
もう二度と聞こえる事が無いと思ったあの音色が。
もう二度と聞こえる事が無いと思ったあの音色が。
最愛の人の声と共に。
私へ。
もう居ないはずの『来ヶ谷ユイコ』への問い掛けが。
聞こえてきたんだ。
この部屋に連れて来られてからずっと軟禁状態だった。
ただ、食事や入浴のみしか出来ない。
有るとするのならモニターやスピーカーでクリス君達の行動を知るだけ。
でもそれも無意味に感じた。
知りたくもなかったかもしれない。
ただ、食事や入浴のみしか出来ない。
有るとするのならモニターやスピーカーでクリス君達の行動を知るだけ。
でもそれも無意味に感じた。
知りたくもなかったかもしれない。
それなのに。
今、スピーカーから聞こえてくる音色、声。
私は耳をすましていた。
私は耳をすましていた。
クリス君が。
『ユイコ』を呼んでいたから。
私は自然に取り込まれていった。
彼の音楽に。
・◆・◆・◆・
聞こえてるかな……?
凄い久々な気がする。
まだそんなに経っていないのにね。
凄い久々な気がする。
まだそんなに経っていないのにね。
ねえ……ユイコ。
憶えている?
僕と君はここで出逢った。
忘れもしない。
僕と君はここで出逢った。
忘れもしない。
君は言った。
僕を面白い人って。
僕を面白い人って。
でも……今思うと僕にとっても、ユイコは面白い人……そう思うよ。
君は否定するかも知れないけど……僕はそう思う。
だってユイコと過ごしてそう思ったんだ。
君と出逢って。
君とリセを送って。
君と助け合って。
君と笑って。
君とリセを送って。
君と助け合って。
君と笑って。
君と一緒に喜んで。
君と一緒に怒って。
君と一緒に哀しんで。
君と一緒に楽しんで。
君と一緒に怒って。
君と一緒に哀しんで。
君と一緒に楽しんで。
そして知ったんだ。
君は人形なんかじゃないって。
君はしっかりした感情を持っているって。
君はしっかりした感情を持っているって。
それを誇ってほしい。
……ねぇ、ユイコ。
ユイコは人なんだよ。
喜んだり。
怒ったり。
哀しんだり。
楽しんだり。
怒ったり。
哀しんだり。
楽しんだり。
君は誰よりも人らしい……そう思う。
だから……
だからこそ……面白いと思う。
変人なんかじゃない。
人形なんかじゃない。
人形なんかじゃない。
だから――今。
君の心を。
君の心のように。
君の心のように。
楽しくなったり。
哀しくなったり。
恥ずかしかったり。
笑ったり。
ふざけたり。
優しくなったり。
哀しくなったり。
恥ずかしかったり。
笑ったり。
ふざけたり。
優しくなったり。
どんどん色が変わっていくきまぐれな君の心を。
あの時、弾けなかったあの曲を。
今。
弾くよ。
タイトルはね……ユイコ。
いや―――唯湖。
そう、『来ヶ谷唯湖』に送る曲。
―――心色綺想曲。
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