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断片集 羽藤桂

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断片集 羽藤桂



またわたしの目の前で人が死んでゆく。
あの時のサクヤさんのように目の前で消え行く命。
アルちゃんが、ユメイさんが必死にりのちゃんの治療をしている。
だけど……りのちゃんの傷は一向に回復する様子はなく、そばで見ているわたしたちですら、
りのちゃんに忍び寄る死の影を感じ取っていた。

どうすることもできずにわたしは立ち尽くし唇を噛み締める。
碧ちゃんも真ちゃんも同じ思いで、りのちゃんの容態を見守っていた。

赤く赤く染まったりのちゃんの身体。
生きるために大切なその血は、懸命に治療を続けるアルちゃんとユメイさんを嘲笑うかのように流れ出したまま。
りのちゃんはもう助からないと誰もが思っていても、口には決して出さない。
口に出したら最後、りのちゃんが助かる可能性は本当になくなってしまいそうなのだから。

本当に……りのちゃんは助からないの?
何か……何か方法は……

―――あった。

ただ一つだけ、それはわたしにしか出来ないこと。
それならりのちゃんは助かるかもしれない。

そう、サクヤさんがわたしにしたように、
わたしの血をりのちゃんに輸血すれば……

今のわたしの血はサクヤさんから与えられた観月の民の血と、
わたし自身が元々持っていた贄の血とのハイブリッド。
本来なら有り得ない存在同士が混じりあった物。
観月の民の血はわたしの贄の血の影響で何倍にも効果が高まっているはず。
りのちゃんの傷なんてすぐに治るはず―――

だけど……それはりのちゃんにもわたしと同じ運命を背負わせてしまう。
いつまでも年をとらずそのまま姿で何十年も、何百年も。
観月の民で最も若かったサクヤさんですら、千年は生きていた。
わたしはそのことを受け入れた上でこの血を貰ったけど、意識を失っているりのちゃんをわたしの独断で輸血するなんてできない……!
でも、そうしないとりのちゃんが……!

すぐに訪れる死か、永遠に続く孤独な生か。
ううん……まだこれからの生が孤独だなんて決まってるはずがない!
生きてさえいればいつか―――
きっとりのちゃんに恨まれるだろう。
だけどここで何もしないわけには……!

わたしがそう決意した時、声がした。


――私、極上生徒会書記の蘭堂りのです――


頭の中に直接響くりのちゃんの声。
みんなもその声は届いている。
りのちゃんの容態はますます酷くなっている。
どういう理由で声がわたし達に届いているかわからない。
でもそれが……りのちゃんの命の最後の煌きであることは誰もが理解していた。

ほんの数十秒のメッセージ。
それをこの島にいる全ての人に伝え終わった後、りのちゃんは静かに息を引き取った。


 ・◆・◆・◆・


わたしは一人、りのちゃんのお墓の前で立ち尽くしていた。
もっと早くああしておけばと、軽く自責の念に囚われる。
そんなわたしの背後からざっと土を踏みしめる足音がして、わたしは振り向いた。

「アルちゃん……」
「まだ……ここにいたのか。汝もいい加減疲れておる、仮眠を取るがいい」
「そうだけど……誰が見張りを?」
「なあに見張りはユメイが買って出てくれた。案ずるな」
「ユメイさんが……わかった。わたし、少し休むね」
「ああ」

わたし達はりのちゃんのお墓を後にして夜を明かすための民家に向かうことにした。
その道のりの途中でわたしはアルちゃんに話しかけた。

「ねえアルちゃん」
「どうした桂?」
「んっと……ね、りのちゃんにわたしの血をあげたら助かったかもしれないと思って」
「それは―――」
「うん、わたしの血を輸血するということはわたしと同じ身体になるかもしれない。
 そして、そうすればサクヤさんやわたしと同じようにほとんど年を取らないままずっと生きる。
 だから迷ったの……軽はずみな気持ちでそんな運命に巻き込んでもいいのって。
 でも……そうやって迷ってたせいでりのちゃんは……こんなことになるなら
 りのちゃんに余計なお世話だと恨まれても血をあげればよかったと―――」
「桂……」
「わたしはどうすればよかったんだろう……」

「そうだな……妾も……桂と同じ立場なら躊躇っていたであろうな……」
「アルちゃん……」
「長き時を生きておれば永遠の生という呪いは、死という終局でしか祓えないと思うようになってくる。
 まあ全てが全てそうではないのかも知れぬが、な。何にせよ、汝がりののことで罪悪感を持つ必要はない」
「…………」
「それよりも……ユメイのほうはいいのか? ようやく再会できたのだ。積もる話がたっぷりとあろう?」
「あ、……うん」

やっとのことで再会できたユメイさん。アルちゃんの言うとおり、話したいことはいくらでもあった。
でも、わたしはそうして再会を喜び合うことがりのちゃんに申し分けないように感じて、あまりユメイさんと話してはいなかった。

「ほら、今はみんな疲れてるし。朝になったらゆっくりユメイさんとお話するよっ」

アルちゃんと話をして少しだけ気が晴れたわたし。
話をしてるうちにもう家の前に着く。
玄関には見張り番をしているユメイさんがいたので他愛のない話をした後、早々に床についた。

神経が高ぶって眠れないと思っていたけど、意外と早くまどろみが訪れる。
まどろみの中、わたしはユメイさんのことを思う。

どうして……わたしはユメイさんとちゃんとお話をしないんだろう……
今まであったことをいっぱいいっぱい話したいはずなのに。
りのちゃんを差し置いて喜ぶことに遠慮しているから?
違う。


本当はもうわかってるはずなんだ……
それが嫌だから無意識に避けようとしてる……
ふいに右腕が軽く疼く。
わたしのものじゃない大切な人の腕。


ああ、きっとわたしはユメイさんを通してサクヤさんのことを―――


そんな思いも闇に塗りつぶされて無意識の海の底へ埋没してゆく。
いつのまにかにわたしは眠りに落ちていた。



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