ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

断片集 エルザ

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

断片集 エルザ



「やった……やったのである! 完成である完全である完璧である!
 我輩はついについに、魔術ですら成し遂げられなかった領域を踏破したのである!
 恐ろしい……恐ろしいぞ! 我輩は己の才能が恐ろしいのである! 
 嗚呼なんたる天才! 世紀の天才! 畏怖すべき天才! ドクタァァァァ・■■■■■■■■!」


 ――なんだったろうか。
 その続きが、思い出せない。
 唯一思い出せるのは、そう。
 名前。名前だ。己の名前だけ。

 エルザ

 ドクターが与えてくれた名前。
 それだけは覚えている。他は忘れた。
 思い出すべきか? 忘れたままにしておくべきか?

 我輩にはわからぬ。エルザにもわからないロボ。


 ・◆・◆・◆・


 覚醒――状況解析。
 照合――確認終了。
 現行――朝の挨拶。

「おはようございます、ロボ」

 語尾に過不足なし。ロボット三原則? なにそれおいしいの? 至って正常。
 診察台から体を起こし、未成熟の自身を視界でも認識、ぺたーん。
 ロボ娘が目覚める場所としては妥当な、薄暗い研究室。
 目の前には白衣、ではなく学生服を纏った博士、ではなく男子高校生が、兄のような笑みを浮かべている。
 博士と呼びかけるべきか、にぃにと呼びかけるべきか、しばらく悩んでいる内に向こうから声をかけてきた。

「おはよう。自分の名前と僕の名前はわかるかな?」

 イージー問題。クイックアンサー、発声機器にもなんら支障なし。
 だというのに、答えを発するまで若干の誤差が生じた――今は考えないでおく。

「……エルザの名前は、エルザ。マスターの名前は、神崎黎人だロボ」

 メモリーに残っていたとおりの解答を、声に紡ぐ。
 マスター、神崎黎人の満足げな表情から、正解だと受け取れた。
 が、しかし、やはり、どこか腑に落ちない。
 この感覚、『喉の奥に魚の小骨が引っかかったカンジ』と学習していたような覚えがある。

「どうしたんだい、エルザ? 君の記憶に間違いはない、どちらも正解だ」
「マスターはこんなに美形じゃなかったような気がするロボ。もっとこう、法的にヤバイ顔だったロボ」
「……整形したのさ。二、三質問しようか」

 思うままに違和感を口にすると、神崎は神妙な面持ちでエルザに対した。
 目元に狂気が足りない。考える仕草も様になる。おかしなな話ではあるが、格好良すぎるという違和感。
 ひょっとしたら、こいつはマスターの皮を被った【未成熟な女の子に欲情する種の変質者】ではないのだろうか、という仮定。

「僕の好きな色は?」
「琥珀色だロボ」
「僕の好きな言葉は?」
「泰然自若だロボ」
「僕の趣味は?」
「音楽鑑賞と映画鑑賞だロボ」
「僕の好物は?」
「ニグラス亭のジンギスカン定食だロボ」
「……ふむ」

 質疑応答を繰り返し、その間も神崎の顔はどんどん深刻さを増していく。
 マスターが特意とするのは、もっとマッドでバイオレンスな表情ではなかったろうか。またも違和感。

「どうやら、まだ完璧とは言えないようですが……?」
「なに、これくらいは許容範囲内だろう?」
「ですが……」
「いやいや……」

 ふと気づくと、神崎の横にばいんばいんの娼婦のような女が立っていた。
 なんたることだ。マスターの趣味はもっとこう、ろりぃなカンジであったはずなのに。
 年上の魅力に落ちた? 未成熟な体に飽いた? 男として母性を放つ胸元には敵わなかった?
 ――否。デカ乳に靡くマスターなどやはりマスターではありえない。つまりこの男は……偽者!

「マスターの名を騙る不届き者め、エルザを拉致監禁してどうするつもりロボか? 腐ってるロボ。このポルノ野郎ッ!ロボ」
「…………これも許容範囲内ですか?」
「ふうむ。やはり勘でやったのはまずかったか。再調整の必要があるようだね」

 瞬間、エルザの視界がブラックアウト、意識も飛んだ。


 ・◆・◆・◆・


「おはようエルザ。僕の名前はわかるかな?」
「おはようございますロボ。エルザのマスター、神崎黎人」

 ――何度目かの覚醒を迎えたエルザ。
 シアーズの専門家の手まで借りて、今度こそ完璧な調整を終えた。
 制作者が天才を謳うだけあり、その技術は常人に理解ができるものではなく、結局は神の手に委ねられたようだが。

「いい子だ。では、君に二、三質問しよう」

 当人にとっては瑣末な、知らなくてもいい再覚醒までの経緯。
 緑髪の気色悪い顔は残滓にもならず、メモリーから完全に消去された。
 今のエルザは神崎黎人をマスターと定め、彼の命に従うために活動する。

「僕の好きな色は?」
「琥珀色だロボ」
「僕の好きな言葉は?」
「泰然自若だロボ」
「僕の趣味は?」
「音楽鑑賞と映画鑑賞だロボ」
「僕の好物は?」
「和食派だロボ」
「……ふむ」

 神崎は満足げな表情でエルザの頭を撫でる。
 そこに抱く違和感は、今度こそない。

「どうだい、今度こそ完璧だろう?」
「ええ。語尾に個性が窺えますが……まあ、そこは妥協しましょう」

 ふと気づくと、神崎の横に艶麗な風格を漂わせるの女が、胸元をひけらかすように立っていた。
 データにはない人物。だからといってどうということはなく、きっとマスターの愛人かなにかなのだろうと解釈した。

「ではエルザ、今から君に重大な任務を与えよう。場所を移すからついてくるんだ」
「イエッサー、了解だロボ」

 診察台から降り、エルザは神崎と共に研究室を出る。女はいつの間にか消えていた。
 先を行く神崎の背中はいつもと変わらず、歩みも泰然としたものである。
 妙に長い時間、眠りについていたような気もするが……そんなことはなかったロボ。とエルザは自己解決する。
 それ以外の違和感など、皆無。
 と、そこで、

(あっ)

 エルザはふと、漠然とした物足りなさを感じた。
 なにかが足りない、と訴えているのは主に聴覚……いったいなにが、と考え自答する。
 こういった場面、神崎が決まって奏でていた騒音が、一切耳に入ってこない。
 ただそれは、あまりにも小さい違和感だったがために。

 マスター、今日はギターは掻き鳴らさないロボか?――と訊こうとして、エルザは寸前でやめた。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー