断片集 深優・グリーア
主催を打倒すべき十八人が揃った教会。
その一大会議が終わり日が水平線に沈みかけ、オレンジ色に空を染める頃。
ただ一人、礼拝堂に一人佇んでいる者が居た。
その一大会議が終わり日が水平線に沈みかけ、オレンジ色に空を染める頃。
ただ一人、礼拝堂に一人佇んでいる者が居た。
「………………お父様」
その少女は手を組みただ十字架に向かって祈っている。
小さな眼鏡のその先の瞳から涙を静かに流している少女――深優・グリーア。
ただ、一心不乱に祈るように。
少女は知ったから。
祈るという行為は無駄ではない事を。
ただ、祈る。
死んだという自分の父、ジョセフ・グリーアの為に。
主催側に居た父の死亡を先程、九条むつみから聞いた。
その事を聞いたらここに来るしかなかった。
祈らなければならない。そんな衝動に襲われたから。
小さな眼鏡のその先の瞳から涙を静かに流している少女――深優・グリーア。
ただ、一心不乱に祈るように。
少女は知ったから。
祈るという行為は無駄ではない事を。
ただ、祈る。
死んだという自分の父、ジョセフ・グリーアの為に。
主催側に居た父の死亡を先程、九条むつみから聞いた。
その事を聞いたらここに来るしかなかった。
祈らなければならない。そんな衝動に襲われたから。
「……何故」
何故、自分の父親が殺されたのだろうと深優は考えてしまう。
確かに殺し合いを主催した組織の一員である事は確かだ。
もし生きているのなら主催と戦いの時に戦わなければならなかったのかもしれない。
だけどそれでも、まさか身内に殺される……そんな終わり方だとは深優も想像しなかった。
確かに殺し合いを主催した組織の一員である事は確かだ。
もし生きているのなら主催と戦いの時に戦わなければならなかったのかもしれない。
だけどそれでも、まさか身内に殺される……そんな終わり方だとは深優も想像しなかった。
「……何故」
何故、自分の父親が死んだのだろうと深優は思ってしまう。
聞きたい事だって沢山あった。
言いたい事だって沢山あった。
アリッサの事、何故自身がこんな形で殺し合いに巻き込まれた事など色々聞きたかった。
その事で勿論、ジョセフに全ていい感情がある訳ではない。
でも、それでもいい事だって沢山あったのだ。
私、感情というものを知りましたとか。
私、色々な人と話して色々学びましたとか。
私、想いとは素晴らしいものと思いましたとか。
色々……色々……言いたかったのに。
聞きたい事だって沢山あった。
言いたい事だって沢山あった。
アリッサの事、何故自身がこんな形で殺し合いに巻き込まれた事など色々聞きたかった。
その事で勿論、ジョセフに全ていい感情がある訳ではない。
でも、それでもいい事だって沢山あったのだ。
私、感情というものを知りましたとか。
私、色々な人と話して色々学びましたとか。
私、想いとは素晴らしいものと思いましたとか。
色々……色々……言いたかったのに。
「何故……死んでしまったのですか?……お父様……」
何故死んでのだろうと思ってしまう。
深優は紅い眼を開けて涙をボロボロに流していた。
哀しくはないと思ったのに。
そこまで哀しくならないとは思ったのに。
深優は紅い眼を開けて涙をボロボロに流していた。
哀しくはないと思ったのに。
そこまで哀しくならないとは思ったのに。
なんで
こんなにも。
こんなにも。
こんなにも。
「哀しい……」
哀しいのだろう。
胸が張り裂けるほど……哀しい。
胸が張り裂けるほど……哀しい。
ああと深優は想う。
感情とはこういうものだと。
本人の予測以上に広がって何処までも……深くなっていく。
自分でも驚くぐらいに。
父とは思っていてもジョセフの死がここまで哀しくなるとは思わなかったのだ。
こんなにも哀しくて……哀しくて。
感情とはこういうものだと。
本人の予測以上に広がって何処までも……深くなっていく。
自分でも驚くぐらいに。
父とは思っていてもジョセフの死がここまで哀しくなるとは思わなかったのだ。
こんなにも哀しくて……哀しくて。
「お父様」
だから深優は祈るしかない。
せめて、せめてジョセフがやすらかになれるように。
数々の思い出を思い出しながら。
昨日まで無駄だと思っていた行為を。
一生懸命に行っていた。
せめて、せめてジョセフがやすらかになれるように。
数々の思い出を思い出しながら。
昨日まで無駄だと思っていた行為を。
一生懸命に行っていた。
「深優」
沈みかけた日が完全に落ちて空が漆黒に染まった頃。
時間を忘れていつまでも祈っていた深優に不意にかけられる声。
深優は静かに眼を開けその声の持ち主の方に顔を向ける。
その顔には未だに流れている涙の筋がしっかりと残っていた。
困惑する様にその声の持ち主を呼ぶ。
時間を忘れていつまでも祈っていた深優に不意にかけられる声。
深優は静かに眼を開けその声の持ち主の方に顔を向ける。
その顔には未だに流れている涙の筋がしっかりと残っていた。
困惑する様にその声の持ち主を呼ぶ。
「玲二……」
ボロボロになったダークスーツを未だに着込む吾妻玲二の名を。
何故、ここにいるのだろうとは深優は聞かなかった。
いや、きっと深優に何か用事があったんだろう。
決してそれは深優を心配してという訳ではない。
解っている。
解っているはずなのに今の深優にはそれが何処か心に棘が刺さっていたの様な気分になっていた。
玲二は深優の心配なんてしないだろう。
それは解っているのに
何故、ここにいるのだろうとは深優は聞かなかった。
いや、きっと深優に何か用事があったんだろう。
決してそれは深優を心配してという訳ではない。
解っている。
解っているはずなのに今の深優にはそれが何処か心に棘が刺さっていたの様な気分になっていた。
玲二は深優の心配なんてしないだろう。
それは解っているのに
「困りました……」
深優は言葉を紡いでいた。
玲二に向かって自身の心境を。
取り留めなく言葉を紡いでいた。
玲二に向かって自身の心境を。
取り留めなく言葉を紡いでいた。
「お父様が死んで……感情が溢れて止まりません」
深優は戸惑いの表情を向けていて。
生まれたばかりの感情に戸惑っていて。
哀しみに揺れる心にどうすればいいか解らない。
赤子のような深優にはただ泣くだけで。
生まれたばかりの感情に戸惑っていて。
哀しみに揺れる心にどうすればいいか解らない。
赤子のような深優にはただ泣くだけで。
「……祈るだけは止まらないのです……哀しみが溢れて止まらない」
もう、祈るだけでは止まらなくて。
この感情をどうすれば治まるかわからなくて。
じゃあ自分はどうすればいいのだろうと。
この感情をどうすれば治まるかわからなくて。
じゃあ自分はどうすればいいのだろうと。
「どうすればいいのでしょう……」
わからなくて。
わからなくて。
わからなくて。
玲二に尋ねてしまう。
彼が答えるわけが無いのに。
ほんの少し期待してしまうのだ。
彼が答えるわけが無いのに。
ほんの少し期待してしまうのだ。
「………………」
くるっと何も言わずに玲二は踵を返した。
解りきっていた事。
深優はそう思うがやはり嘆息してしまう。
解っていたのに何故か哀しいのだ。
深優の表情が少し哀しく歪んだ時。
解りきっていた事。
深優はそう思うがやはり嘆息してしまう。
解っていたのに何故か哀しいのだ。
深優の表情が少し哀しく歪んだ時。
「……なら、どうしたい?」
玲二はそっと後ろに居る深優にそう尋ねた。
振る返らず淡々に。
深優は顔をあげ玲二の背中を見る。
振る返らず淡々に。
深優は顔をあげ玲二の背中を見る。
「死んだジョセフ・グリーアに……お前は何が出来る? その感情で何がしたい?」
そう深優に短く告げて。
再び歩き出した。
その歩みに迷いもなく。
一歩一歩ずつ。
再び歩き出した。
その歩みに迷いもなく。
一歩一歩ずつ。
深優はその言葉を咀嚼しながら思う。
父の為に。
出来る事。
この感情が溢れる意味。
それを考えて。
父の為に。
出来る事。
この感情が溢れる意味。
それを考えて。
そして今にも出ようとする玲二に深優は告げる。
穏やかな……優しい笑みを向けて。
穏やかな……優しい笑みを向けて。
「私は……『私』として『深優・グリーア』として生きていきたいと思います。
感情のままに……もっとそれを学びたいです……それがお父様の望んだことだと思いますから」
感情のままに……もっとそれを学びたいです……それがお父様の望んだことだと思いますから」
そう告げた。
この生まれた感情。
深優・グリーアとしての人間としての自己。
それを大切にして生きていこうと。
それが深優を創り出したジョセフの願いだろうと思って。
この生まれた感情。
深優・グリーアとしての人間としての自己。
それを大切にして生きていこうと。
それが深優を創り出したジョセフの願いだろうと思って。
そう、柔らかな……今までの深優が出来なかった笑顔で笑った。
「……そうか」
玲二はそう言ってでて行く。
その深優の言葉にそっけなく返して。
その深優の言葉にそっけなく返して。
深優は礼拝堂にまた一人になって。
それでも柔らかに笑っていて。
それでも柔らかに笑っていて。
掲げられている十字架にもう一回祈って。
そして優しく笑った。
亡くなった父にこの笑顔を届けるように。
優しい月明かりに照らされながら。
笑っていた。
そして。
深優も気付かない……
胸に灯った
小さな小さな。
けれども。
優しく強い。
彼に向けた……ほんのかすかな眩い想い。