「また絵の裏か。盲点だったな……」

署長室の絵を横にスライドすると、3つの石版をはめろと言わんばかりの穴が現れた。
先ほどの絵と同じように突き破っていたら破損して石版がはめられなくなっていたかもしれない。

「この先にはエレベーターがあって、ここの署長の悪趣味な部屋に繋がっているわ。」

以前の通りに石版をはめ込むと、署長室に隠し扉が現れた。そしてこの時、ラクーン市警は2度目の攻略が果たされたこととなった。

「行きましょう。」

言うが早いか、隠し扉を開く。
すぐそこの地面に放置された資料を無視し、エレベーターの方へと目を移す。

「……!?」

そこで、クレアは驚きの光景を目にすることとなった。

そこにはあるはずのエレベーターが存在していなかったのだ。
エレベーターがあった場所には代わりに、紫色の球が置かれている。


「まだ謎解きゲームの続きがあるのか?」

その球を見て、バージンハート等と同列のものだと考えたソリダスが尋ねる。

「いいえ、本来この先は警察署地下に繋がっていたはずよ。」

「……結局、時間の無駄だったと言うわけか。クソッ!!」

ソリダスは不満を隠そうともせずに壁を蹴飛ばす。
結局謎を最後まで解き明かしても手に入れたのはよく分からない球だけだ。
主催者のお遊びに付き合わされただけのような気がしてならない。


対するクレアは球を手に取りまじまじと眺める。

「でもこの球、ただの球じゃない気がする。何か力を感じるというか……。」

「オカルトか?くだらん。そんなに力とやらが欲しければお友達とパワーストーンでも買いに行くんだな。」

半ば八つ当たり的にクレアに当たるソリダス。
2人の間にピリピリとした空気が流れ始める。

しかしその時、その空気を打破する声が聞こえてきた。



「S.T.A.R.S………」



背筋が凍りつくような声だった。とても人間とは思えない。
クレアもソリダスも、危険が迫ってきていることを察知する。

聞こえたところ声の出処は間もなく署長室に入ってくるだろう。
そうなれば一本道であるため、もはや逃げ場はない。

「道を作る!離れていろッ!」

ソリダスがクレア以上の決断の早さで、壁にプラスチック爆弾を仕掛ける。
爽快な爆発音と共に、壁にエントランスホールの2階に繋がる巨大な穴が空いた。

そしてその爆発音に気付いた声の主の足音が速まる。
どうやらすでに署長室まで入って来ているようだ。声の主──ネメシス-T型は言葉にならない叫びと共に2人を追う。

クレアとソリダスがエントランスホールに入った時、後方ではネメシスが隠し扉を叩き破っており、その姿が2人に晒される。

(あれは……G生物?いや、あるいはそれ以上の破壊力を……)

破壊という言葉を体現したかのようなその姿は、かつて戦ったウィリアム・バーキンの成れの果ての姿と重なった。

その姿を見て、人間では無いと確信すると同時にクレアはP90を構え、発砲する。その銃の一撃はリッカーを瞬時に黙らせ、かのメタルギアRAYすらも葬るソリダスのお気に入りだ。

だがその銃弾はネメシスに命中することは無かった。それも不自然に。まるで弾の方がネメシスを避けているかのような軌道を描いたのだ。

「馬鹿な……!?あれはまさか……!」

その光景にはソリダスも驚愕する。しかし彼はその現象を見たことがある。
自分が利用していたデッドセルの元リーダー、フォーチュンが魅せていた『奇跡』である。


本来この時のソリダスは、フォーチュンの『奇跡』が愛国者達の科学技術によって生み出された『電磁波兵器』であることを知らない。
だが、こうして見ず知らずの化け物が同じ現象を起こしているとなれば、何らかのタネがあるのではないかと疑いもする。

だがネメシスほどの化け物を前にしてそのタネを暴こうとする気概はソリダスには無い。

「奴に銃弾は効かん!逃げろ!」

簡潔な結論のみを提示し、クレアに逃走を優先させる。

「くっ……このままだと追いつかれる……!」

ネメシスの追跡者の異名は伊達ではない。
クレアが走れば難なく振り切れていた今までのクリーチャーとは違い、走っても走っても距離を引き離すことが出来ない。

こんな状況下ではハシゴを使って1階に降りることなど不可能だろう。降りる途中にハシゴごと振り落とされ、飛び降りて来て追い詰められる未来しか見えない。
また、ラクーン市警の2階は意外と高度があるため、飛び降りることも出来そうにない。

「階段を使いましょう。」

「当然だ。」

警察署から出るのであれば目的地はエントランスホールの1階。
ここでハシゴを使えないとなれば結構な遠回りになるが、そのようなことを言っている場合ではない。

警察署内の図書館に出る。狭い廊下から解放されてようやく広々としたスペースに出て来れたものの、その広さを謳歌する暇もなくただ出口まで一直線に駆け抜ける。
そんな中クレアはふと、後ろを振り返る。

「っ……!まさか……!」

その声に釣られてソリダスも振り返る。
そこに見たのは、エントランスホールの2階から1階への転落防止用の柵を千切り取って鋭利な突起物として構えるネメシスの姿。

「投げてくるぞ!!」

ソリダスが言い終わる前に、ネメシスはそれをクレアに向かって投擲した。

クレアは咄嗟にソリダスと反対側に逸れて避ける。
ただしそのせいで出口への最短ルートから大きく外れることとなった。
勿論それを見逃すネメシスでは無い。

図書館の出口に行き遅れたクレアに向けてネメシスが走る。
クレアは咄嗟にP90を数発発砲するも、ネメシスが身に纏った電磁波兵器がそれを全て逸らす。

「S.T.A.R.S.!!!」

ネメシスの叫び声に同調するように、ネメシスの身体から生える触手がクレアに向けて振るわれる。

辛うじて避けることで身体への命中は防いだものの、持っていたP90を落としてしまう。

一方ソリダスは、命を張ってクレアを助ける義理などない。
ただクレアが狙われていることで多少の行動の余裕はあるため、後に続くクレアがどう逃げてもドアを開ける動作をしなくていいように2枚ある扉の両方を開いておく。

落としたP90を諦め、何とか体制を立て直してソリダスが開け放しておいたままのドアへ向かう。もし1人だったらドアを開けている最中に捕まっていただろう。
走っている最中に後方から聞こえてきたバキリという音から察するに、P90は踏み潰されてしまったようだ。


「こっちだッ!!」


次の廊下に出ると、右側からソリダスの声が聞こえてきた。
確かに右側の通路を通れたら近道ではあるが、右側の扉は内側から打ち付けられていて通れなくなっていたはずだ。

「駄目!そっちは行き止まりよ!」

「いいから来い!」

よく見ると、何と頑丈に打ち付けられていたはずの扉に人が一人通れるくらいの隙間が出来ていた。さすがにこの短時間で破壊できるようなものではないはずなのに、だ。

ネメシスが投げるそこらの長椅子を回避し、右へ曲がる。
仮に左に逃げていたら右の通路をネメシスの破壊力で突破されて先回りされていたかもしれない。

人間サイズの扉の隙間から出て、下り階段のある廊下まで辿り着いた。

「どうやったの?」

「戦場の避難経路はあらかじめ確保しておくものだ。」

どうやらソリダスが1人で探索していた時に限界まで脆くしておいたらしい。地の利に胡座をかいていた自分は、既知の物事に囚われて新しい解決策というものが頭から抜けていたようだ。

人間より一回り大きいネメシスは隙間を潜ることが出来ず、一旦立ち止まってから破壊する。
そのおかげで多少距離を離すことが出来た。

そのアドバンテージもあり、1階に降りてからしばらくは追いつかれそうになることも投擲の射程に入ることもなく逃げることが出来た。

「なにッ……!?」

しかし、それは扉を開けた瞬間、唐突に起こった。

先に窓のある廊下へと飛び込んだソリダス目掛けて、天井からリッカーが飛びかかったのだ。
どうやらシャッターを閉じていなかったことで、外からリッカーが入り込んだらしい。

ソリダスは自らに馬乗りになったリッカーの頭を掴み、壁に叩き付ける。裸出した脳が破壊され、辺り一面が血の海と化す。
日頃の戦闘訓練の甲斐あって、身体機能を促進する装備品が無くともリッカー1匹の対処に手こずるようなソリダスではない。

だが、後方より迫るネメシスに対して見せた隙としては、それはあまりにも大きなものであった。

「ヴォオオオオオオオ!!!」

(くっ……ここまでか……!)

ネメシスの触手がしなりを付ける。
そして今にも、ソリダスに向けて振り下ろされんとしていた。

だが、触手がソリダスを叩き付けることは無かった。
"クレア"がネメシスに向けて体当たりを仕掛けたからだ。

「なっ……お前ッ……!」

勿論、華奢な身体の体当たりひとつなどでネメシスはびくともしない。
しかし目の前に現れた"クレア"へとネメシスの攻撃対象は変わる。

「S.T.A.R.S.!!!」

振るわれた触手が、"クレア"の胴を引き裂いた。

「ぐっ……!」

その光景を前にしても、ソリダスは好期を見逃さない。
即座に立ち上がりネメシスに背を向け、再び走り出す。

次の瞬間、ソリダスは今日一番の衝撃に襲われることとなる。

「はぁ……はぁ……」

たった今後方で殺されたはずのクレアが、何と前方で息を切らしながらも生きているのだ。

「な、何故……?」

「どうやら私、ファンタジー世界の住人になっちゃったみたいね……。」

その種は先ほどクレアが回収していた紫色の球にあった。

球は、その名を『パープルオーブ』といった。
ラクーン市警を踏破した者に贈られる、この会場の何処かに設置されている六つのオーブの内の一つである。

そしてそれぞれのオーブには特別な『特技』を使えるチカラが備わっている。
たった今クレアが使った特技は『パープルシャドウ』。自身の影を実体化させ、思い通りに動かす特技である。

ただし、魔力を持っていない者が使うとなればそれ相応のスタミナを奪われることとなる。
実際、クレアの走る速度はスタミナ減少によってDanger状態並に落ちている。ネメシスに追いつかれるのも時間の問題だ。


「……チッ!!」

ソリダスは舌打ちしながらクレアをその背に背負う。
クレアを囮にして助かるという手も勿論あったが、クレアの行いで自分の命が助かったのは確かだ。その前に2度も間接的にクレアを助けていたとはいえ、犠牲にするのは躊躇われた。

そして少し、ほんの少しだけ、ソリダスは思ってしまった。
もしも自分に娘がいたとしたら、クレアのように生意気ながらもどこか芯のあるような少女に育っていたのかもしれないと。

クレアを背負っているだけあって不安定ではあったが、エントランスホール1階まで辿り着くことが出来た。もう警察署の出口は目の前だ。

「ソリダス、ひとつ気付いたことがあるわ。」

その時、クレアが口を開いた。

「あの怪物、どうやら私を狙ってるみたい。」

「何だと?」

「正しくは、このコートの持ち主をね。」

近くでネメシスの声を何度か聞いたことで、クレアさその中身までもを聞き取ることが出来た。
S.T.A.R.S.の名を挙げて攻撃しているのを見るに、あの怪物は何かしらでS.T.A.R.S.との因縁があるのだろう。
だとするとS.T.A.R.S.の印章が入った兄のコートを着ている自分が優先的に狙われていると考えられる。

柵の投擲の対象が自分であったのは偶然では無かったのだ。

「それなら話は早い。もう一度だけあの分身を出せるか?」

「ええ、何とか。」

ソリダスはヴァンプやフォーチュンといった人外地味たチカラを持つ者たちを知っているので、そういったものへの理解は早い。
よってここでも、すでにパープルオーブのチカラを受け入れた上で作戦に組み込む柔軟さを持っている。

「まずはそのコートを脱げ。そしてお前の支給品を寄越せ。このままお前をおぶってたら追いつかれるのも時間の問題だ。」

「なるほど、分かったわ。」

クレアは言われた通り、ソリダスの背の上でコートを脱いで支給品を渡す。
そして同時に、ラクーン市警の出入口の扉が開かれる。
クレアとソリダスはようやく、ラクーン市警を出ることに成功した。

だがまだだ。
背後からネメシスが追ってくる限り脱出成功とは言えない。
ネメシスもまたラクーン市警を出た瞬間、クレアは気力を振り絞って自身の影を作り出す。

クレア・影はソリダスからコートを受け取り、それを羽織ってネメシスの方へと向かう。
ソリダスは背負ったクレアを下ろし、クレアから受け取った支給品のひとつを持ってクレア・影の後に続く。


「S.T.A.R.S.!!!」


S.T.A.R.S.隊員、クリス・レッドフィールドのコートを羽織った者を認識したネメシスは以前よりの命令に従って豪傑の腕輪によって強化された拳をクレア・影の胴体に叩き付ける。
クリスのコートは衝撃でバラバラに裂かれ、クレア・影は即死する。
しかし攻撃優先度の低いソリダスは、その間行動の猶予が与えられる。


「うおおおおッ!!」

そしてその猶予を利用して、ソリダスはクレアから受け取った支給品をネメシスに叩きつけた。
直接叩き込まなくては、銃弾をも弾く電磁波兵器によって躱されてしまう。だがソリダスの拳によって叩き込まれたことで、その支給品は効力を発揮した。

「ウグァ!?」

次の瞬間、ネメシスの身体がふわりと宙へ浮き上がる。
その後、爽快な音を立てて宙へと消えていった。

叩き付けた支給品の正体はキメラの翼。対象とした1人を会場の何処かへ移動させる道具である。
自分たちに使う場合は、クレアかソリダスのどちらか片方しか逃げられない。
よって、両者生還のためにはネメシスを対象に使うしか無かったのである。

「やった……のね……。」

「ああ、ひとまずは……だがな……。」

もちろんこれで安心できる訳では無い。
殺し合いはまだ始まったばかりだ。
だがネメシス-T型という強大な驚異を死者の1人も出さずに切り抜けたというのは、同行者や仲間の死を割り切りながら戦ってきたクレアとソリダスにとっては初めてであった。

「よか……た……。」

そう感じていた次の瞬間、クレアの意識が途絶えた。

「おい、どうしたッ!!」

慌ててソリダスが駆け寄るが、寝息を聞いてパープルオーブの使いすぎで疲れて眠っただけだと気付く。

「ちっ……時間は無駄にしたくないのだがな……」

このまま他の場所に向かうことは出来なさそうだ。
しばらくの間はこの場に留まるのが懸命だろう。

そう考え、クレアをエントランスホールで寝かせることにする。またネメシスみたいな敵が唐突に襲ってきてはたまらないので、ソリダスは警察署の前で見張りをすることにした。

こうしてクレアはラクーン市警からの2度目の脱出を果たした。

ただし本人は再び、ラクーン市警の中へと戻っているのだが……。

BIOHAZARD RE:2
To Be Continued…………


【F-3/ラクーン市警/一日目 早朝】

【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労 睡眠
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0~1個)、替えのマガジン2つ@METAL GEAR SOLID 2、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:対主催
1.首輪を外す
2.警察署内で武器や道具を探す

※エンディング後からの参戦です。


【ソリダス・スネーク@ METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:サバイバルナイフ@現実
[道具]:基本支給品、壊れたステルススーツ@METAL GEAR SOLID 2、グリーンハーブ3個@BIOHAZARD 2、ハンドガンの弾@BIOHAZARD 2
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの打破と主催の打倒
1.手勢を集める。殺し合いに乗った者は殺す
2.首輪を外す
3.主催者を愛国者達の配下だと思っています

※ビッグシェル制圧して声明を出した後からの参戦です。




「S.T.A.R.S………」

ネメシスはキメラの翼によって飛ばされたことで、『イシの村』へと辿り着いていた。
誰にとっての幸運か、周りにこの村を訪れた者は誰も居ない。

しかし居ないのであれば、ネメシス自らが探し求めに行くだろう。

追跡者──その名の示す恐怖を次に思い知るのは、一体誰なのか。


【A-1 イシの村/一日目 早朝】

【ネメシス-T型@BIOHAZARD 3】
[状態]:健康
[装備]:電磁波兵器@METAL GEAR SOLID 2 豪傑の腕輪+3@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、不明支給品(0~2個)
[思考・状況] 基本行動方針:皆殺し
1.S.T.A.R.Sのメンバーが居れば最優先で殺す。


支給品紹介
【パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
MP、SP、気力などの何かしらと引き換えに、『パープルシャドウ』を使うことが出来る。

※他のオーブも対応する特技を使用することが出来ます。
※他のオーブも会場内のどこかに隠されています。

【電磁波兵器@METAL GEAR SOLID 2】
ネメシス-T型の優遇支給品。
フォーチュンが身に纏っていた、愛国者達による科学技術の結晶。まるで神がかった幸運が味方しているかのように、銃弾が装備者を避けていく。



Back← 060 →Next
059:流星光底長蛇を逸す 時系列順 061:初心に振り返って
投下順
023:Must Die ソリダス・スネーク 105:Discussion in R.P.D.
クレア・レッドフィールド
ネメシス-T型 063:魔力と科学の真価

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年12月16日 02:36