聖女、いや、聖女だった存在が道を進む。


道の先から、強い死臭を感じた。
そこへ行くと、無残に切り刻まれた死体が転がっていた。
彼女は、雷電の死体を見て、苛立ちを覚える。
自分もこのように人を破壊したかったと、破壊への欲は募る一方だった。


誰かこの展望台の上に生き残りはいないのかと、登る。
しかしその先で見たのは、丸い木で出来た机の上の、一枚の紙だけだった。

【A-6】


極めてシンプルなその文面は、この展望台にいた者で、下に転がっていた金髪の男を殺した者の紙だと察しがついた。

参加者に向けた挑発を行うことが出来るということは、壊し甲斐があるということ。
すぐにでも展望台から降りようとした時、やや離れた北の方角から黒い煙が見えた。


それは、セフィロスが先程スネークに放ったファイガの跡だということを彼女は知らない。



すぐに展望台を降り、焦げた草をかき分け、より壊し甲斐のある相手への期待に胸躍らせ、足を速める。


その先に、標的としていた存在がいた。
2m近い長身に幅広の剣、そして、腰まで届くほどの長い銀髪を携えている。


自分と同じ北側に向かっているようだ。
どうやら自分に気付いていないと感じる。


しかし、それでいてなお、全身が金縛りにあったかのような威圧感を感じる。
その感覚を心臓から四肢の先まで受けたセーニャは、ある感情が湧いた。


壊したい。
獲物が強いほど、壊す快楽も比例するはずだ。
きっと姉の次ぐらいに壊し甲斐のある獲物だろう。
それこそ、最初に殺した金髪の青年や蝙蝠の魔物とは比べ物にならないほど。
出来るだけ力を使って壊そう。
全身を焼き、次いで氷漬けにしよう。
終わったら、槍で臓器の一つ一つを砕こう。


「メラゾーマ。」
ニタリと聖女らしからぬ醜悪な笑みを浮かべ、魔法の詠唱を唱えた。



「何だ?」
セーニャの魔法に、銀髪の男、セフィロスはようやく気付いた。
ファイガにも勝るとも劣らない巨大な火球が、目の前に迫り来る。


「煩いな……。」
しかし、最強のソルジャーと呼ばれた男は、何も動じずにファイガで弾き飛ばそうとする。
二つの火球は、セフィロスの方がやや優勢と言うくらいだった。

しかし、火炎弾はもう一つあった。


セーニャのベロニカから受け継いだ、山彦の心得の影響だ。
優勢だったファイガは、予期せぬ第二の敵弾によって、押し返される。

「………。」


セフィロスは無言で、二発のメラゾーマと、ファイガの凄まじい炎に飲み込まれた。
そのメラガイアーにも並ぶ高熱は、爆心地からやや離れていたセーニャにまで伝わる。


「やはり強い力を持っているのですね。ふふ、ふひひひひ……。」
額に汗を浮かばせ、不気味に微笑みながら、焼け跡に近づく。

「まだ、終わりません……。凍り付きなさい。」
その場所に、マヒャドの氷が降り注ぐ。
辺りはなおも見えない。
ただマヒャドの冷気が、メラゾーマとファイガに熱せられ、水蒸気がもうもうと上がっている。



霧が晴れぬまま、セーニャは槍を構え、セフィロスがいるであろう場所に近づく。
今度は、めった刺しにしようとするつもりだった。

どんな感触が手に伝わるだろうか、何度刺せば死ぬだろうか。
ただ、壊すことの楽しみのみを、胸に抱いていた。

鮮血が迸る。



セーニャの背中から。
「なっ……効いていない?」

どんなに強い炎魔法でも、炎の完全耐性があれば意味がない。
だが、そんなものではなかった。


ジェノバ細胞が持つ防御力と、セフィロスの生命力、瞬発力が3発分の巨大火炎魔法を凌いだのだ。


セーニャの真後ろに最強のソルジャーと呼ばれた男が佇んでいた。
常に動かぬ笑みを浮かべ、慈悲の欠片もない冷たい眼でセーニャを見つめる。


「いや、あの炎はまともに食らえば私ですらどうなっていたか分からない。」
服の左袖は焼け焦げ、そこから見える左腕からもそれなりの火傷が見えた。

しかし、それは直撃には至らなかった。
済んでの所で躱され、結果として命中したのは左半身の、その先端のみだった。


マヒャドの詠唱の間にセフィロスは後ろに回り込んだ。
カミュ達につけられた傷が治ったばかりの右手で持ったバスターソードで斬りかかった。
そのスピードは、後衛職であるセーニャにとても見切れるものではなかった。


しかし、血を失ってなお、黒の倨傲でセフィロスを串刺しにしようとする。
「遅い。」
「があっ……!!」


その攻撃は届かず漆黒の槍は、持ち主の右腕ごとバスターソードで斬り飛ばされた。
背中を斬りつけられた時以上の血が、手首から噴き出す。
セーニャが好んでいた緑色の服と対照的な色が、服を汚す。


「うう……私………一体何を!?」
(どういうことだ?)

セーニャの目は、破壊への羨望が抜けていた。
黒の倨傲を失ったことで、槍がもたらす破壊の衝動からも逃れられたのだ。


しかし、自分の目的を果たそうと槍に左手を伸ばす。
再び黒の衝動に正気を失うことと引き換えに、破壊を続けようとする。


全ては、手遅れだった。
槍を握り締める時に、その腕を踏み潰す。


「あ“っ………。」
鈴の音のような美しい声の持ち主とは思えない、蛙を潰したような声が漏れた。


そのまま殺す、と思ったが、セフィロスは一つ興味が湧いた。
目の前の女性は、魔法の分野だけとはいえ、自分に打ち勝った。
破壊への願望の赴くまま、自分を殺そうとした。
今もなお、魔物のような眼光を、こちらに向けている。


しかし、槍を手放した瞬間、一瞬だが殺意の意識が消えたように思えた。
それなら槍に呪われ、いいように扱われた、と断定すればよい。

(この娘は、心に何を持っている?何を望んでいる?)
だが、再び槍を手にし、呪いを受け入れようとするとは、どうにも腑に落ちない。



そして、疑問はもう一つあった。
自分が目の当たりにした魔法。
どこかファイガやブリザガと異なる印象を受けた。
ライフストリームにかつて自分が落ちた時、マテリアの知識は一通り得たはずだから、知らないマテリアと言うのはおかしい。



セーニャが持っていた槍をじっくりとながめる。
マテリアやそれらしきものはどこにも見当たらなかった。


セフィロスは結論付けた。
この娘は魔晄に侵された生物と同様に、マテリアなしで魔法を紡ぐことが出来る。
もしかすると、魔晄とは異なる力なのかもしれない。




最初に展望台付近で戦った三人、そして、放送近くに会った男からは、特に興味深い力は感じなかった。
いくら見たことのない力や技術を見せられても、自分の力と並ばなければ、価値はない。


だが、セーニャに対しては興味が湧いた。
マテリアもなしに、自分のファイガさえ上回る強力な魔法を使えることに。
そして、その力を用いて何をするか。
何を思って、自ら破壊の呪いを望むのか。


だからこそ、それを知るための方法が必要だった。


行動を決めたセフィロスは、極めて迅速な動きで、自分の掌にバスターソードで傷を入れた。
そしてその血が滴る手で、セーニャの腕の切り口を握り締める。


それはなおも噴き出す血液を止め、失血死を防ぐためではない。
輸血をするためだ。
ジェノバの細胞を含んだ血液と、僅かな肉片を、聖女に流し込むためだ。
この未知なる力が渦巻いた世界で、新たな情報を提供するセフィロス・コピーを造るためだ。

かつてセフィロスは各地にばら撒かれていたジェノバの断片や、ジェノバ細胞を埋め込まれたセフィロス・コピーを操り、メテオの情報収集や黒マテリアの入手を図った。


「っっッッ!? な……に………を………!?」
セーニャの心臓が、ドグッと異常な動き方をした。
最初は僅かな違和感。
それから、神経が何かに食い荒らされていくような感覚を覚える。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!
ぁああああああああああ!!!」

鼓膜が破れんばかりの慟哭。
セーニャの頭の中で、プツンと何かが切れたような音が聞こえた。
それから、眼の中でカラフルな幾何学模様が浮かび上がる。
からくりエッグの中に入ってジャンプした時のような奇妙な浮遊感に襲われ、まともな姿勢を保っていられなくなる。


「………。」
目の前の男が静かに笑った。
先程までは殺意を放っていた男が、只の壊す対象でしかなかった男が、何故か神々しく感じる。

『星の力……マテリア……クラウド………メテオ……黒マテリア……ジェノバ……ソルジャー……魔晄……ライフストリーム……』

訳の分からない言葉が、矢継ぎ早に頭に入り込んでくる。
自分が自分でなくなってしまうような気にさえなる。
そして、形はどうであれ愛した姉の顔が、消えていきそうになる。


(私とお姉さまはきっと芽吹く時も散る時も同じですよね?)
(セーニャはいつもグズだからどうかしら。
………でも、そうだといいわね。)



姉と、最後に交わした言葉。
あれが、最期の言葉になるとは思わなかった。
だが、忘れない。忘れてはならない。絶対に姉様を忘れるわけにはいかない。
どんな異常な力の持ち主だろうがそれだけは譲れない。
私と姉はずっと一緒だ。
ついさっきまで槍の力に駆られていたのと、相手の怪しい力で頭が上手く回らない。
でも、これだけは言える。
一緒だから、生まれるときも死ぬときも一緒だ。


セフィロスの脚を払い、踏みつけによる拘束から脱出する。


姉のこと、ベロニカのことだけは忘れてはならない。
逃げよう。
何時かはこの男も殺す。
だが、今は場が悪すぎる。

誰かの操り人形になってたまるか。
私が求めていた破壊とは違う。こんなのは間違っている。


「何処へ行こうとしているのだ?」
しかし、その先にはセフィロスが立っていた。


頭を握られる。そのまま宙吊りにされる。
「離しな……さい………!!」
「煩いな……。」
(ほう……まだ、自我が保てるか……。)
頭蓋骨が軋む痛みと、頭の中を覗かれているような奇妙な感覚を覚える。


身体を揺するが、何の抵抗にもならない。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


―――何年もお姉さまの妹をしていますもの。ちょっとお姿が変わったくらいで間違えたりしませんわ。

―――私たちは、勇者を守る宿命を持って生まれた聖地ラムダの一族。これからは、命に代えても、あなたをお守りいたします。

―――私とお姉さまはきっと芽吹く時も散る時も同じですよね?


(これが記憶か。それからどのようにこの娘は変わる?)

セーニャの記憶を共有しながら、当初の予定だった北へと向かう。
この場所が禁止エリアになるまでは、まだ3時間と少し残っている。
だが、再び邪魔が入る可能性もあるため、出発し始める。


―――お姉さまはもういない。……どこにもいないのですね。

―――ごめんなさい。イレブンさま。やっと心の迷いが晴れました。

―――……私は、私は皆様を……救いたい……!

―――さあ、壊しましょう。過ぎ去りし時を取り戻すために……。そしたらもう一度……ぜーんぶ、壊せますもの…。

―――ふひっ……ふひひひひひひっ……奏でましょう、あくまの調べを……


(失った姉を取り戻すために壊し、再び壊すことを望むというわけか……くだらん。)
丁度【C-5】を出て、【B-6】に入った時、セフィロスはセーニャの情報を一通りインプットし終えた。
その後、何の面白みもないように彼女を投げ捨てた。


死んだ姉の為に心が壊れ、今度は自分が死を振り撒こうとする。
誰かの為に人は予想できないような力を発揮する。それは知っている話だ。
実際に自分はクラウドの故郷と家族を焼き払ったことで、怒りを買ってライフストリームの深淵に叩き込まれた経験がある。


だが、常に一人だったセフィロスには、到底共感できる話ではなかった。
セーニャが使っていた魔法の知識も一通り手に入れたが、知ったからと言って簡単に使えるものではないらしい。


それはそうとして、この世界で自分の知らない強い力があることも確信した。
自分がかつて求めた黒マテリア以上の破壊力を秘めた道具や魔法が見つかるかもしれない。
それは、セーニャの世界の魔法と違って、自分にも使える力かもしれない。


「今、何を……?」
セーニャは意識を取り戻し、セフィロスを見つめる。
そこからは、自分に抗っている意思を感じられた。
ジェノバ細胞を植え付けられても自我が保てる精神力の強さは、自分の仕事を全うしてくれると期待が持てた。


「安心しろ。記憶を少し見せてもらっただけだ。取って食うつもりはない。
ただ、私の願いを叶えてもらう。」


例え自分の目の届かぬ場所に行こうと、ジェノバ細胞を植え付ければ情報を共有できるし、最終的にはリユニオンし、自分の基に戻る。


「北西へ向かい、この世界にある強い力を探せ。それと忘れ物だ。」

餞別、とばかりに先程斬り落とした片手を繋げる。
予想外に綺麗に斬れていたため、ジェノバ細胞の再生力と自分の数回のケアルガの力で、簡単に癒着できた。


セーニャは自由になると、脱兎のごとく北へ向かって走り出した。
その姿はどこか滑稽に見えた。
逃げても、情報は共有されるから無駄であり、たとえ自分の命令を聞くつもりが無くても、彼女の見た者が結果的に自分の望む力になる可能性があるから。


むしろ、自分に興味のない存在を殺してくれる者としても、ありがたい存在になる。

胸の高鳴りを感じた。
当初の目的地でクラウドを待ちながら、別の者に新たな力の情報収集をさせる。
何もしないうちに、自分の目的はおのずと叶う。



セーニャの姿が見えなくなるとセフィロスも期待を胸に、同じ方向へ歩き始めた。



【B-6 橋/一日目 午前】

【セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】

[状態]:HP1/2 右腕に治療痕 頭痛  MP消費(大)
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1~2個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
1.北西へ向かい、一度セフィロスから逃げる
2.誰の言いなりにもならず、自分の意思で破壊を続ける。



※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。

※セーニャの体内のジェノバ細胞によって、セーニャの得た情報は、セフィロスにもインプットされます。
※セフィロスからの精神的干渉を受けています。今のところは自我を保っていますが、何か精神的ダメージを受ければ、セフィロスの完全な傀儡化するかもしれません。
※ジェノバ細胞の力により、従来のセーニャより身体能力、治癒力が向上しています。
※外見は右腕の癒着痕を覗き、少なくとも現在は特に変化はありません。

【B-6 橋南側手前/一日目 午前】


【セフィロス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左腕火傷、服の左袖焼失 高揚感
[装備]:バスターソード@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:クラウドと決着をつける。 この世界の未知の力を手に入れる。
1.女神の城でクラウドを待つ。
2.因果かな、クラウド。
3.スネーク(名前は知らない)との再会に少し期待
4.セフィロス・コピーにしたセーニャに、この世界の情報収集をさせる。

※本編終了後からの参戦です。
※心無い天使、スーパーノヴァは使用できません。
※メテオの威力に大幅な制限が掛けられています。
ルール説明の際にクラウドの姿を見ています。
参加者名簿に目を通していません。
※セーニャが手に入れた情報を共有できます。

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079:見上げた空は遠くて 時系列順 082:虚空に描いた百年の恋(前編)
投下順 081:Dance on the edge
071:両雄倶には立たず セフィロス 094:セフィィィィィロォォォォォス!!!
067:黒の引き金 セーニャ

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最終更新:2021年03月12日 00:50