夜の草原を、草原と同じ緑を纏って一人疾走する者がいる。
一人、というか一匹に見え、疾走、というか飛び跳ねているのだが。
見栄えはどうであれ、カエルは必死に走っていた。
命としても、精神的な面でも、あの銀髪からは逃れたかった。
カエルにはセフィロスからは、ラヴォスのような威圧感を感じた。
それこそヤツも星一つ食らってしまいそうな。
(冗談じゃねえ……一体どんな修行をしたら、あんなバケモノになるんだ?)
明らかにカエルの仇、魔王より遥かに上の存在だった。
しかも、この戦いの主催者は、そのセフィロスさえも手駒にしたのだ。
故に、この戦いの主催者は自分の足元にも及ばない場所にいる。
その三段論法から考えて、恐ろしさが靴底から湧き出てきた。
テナドロ山でサイラスと共に、魔王と戦った時でさえ、ここまで絶望しはなかった。
そもそも、自分がこの世界で生き残れる可能性はあるのか。
あるとすれば、セフィロスの言う通りクラウドという者を呼んできて、その後もセフィロスと協力して参加者を倒す。
その後、こっそりとセフィロスを殺す。
3人での戦いで、セフィロスといえども不意打ちや予想外の攻撃は当たることに気付いていた。
最早騎士の誇りもあったもんじゃないやり方だ。
仕方がない。自分は魔王討伐と言う使命がある。友の仇を討つことが一番重要だ。
そうカエルは自分に言い聞かせて、戦略ともいえない戦略を練りながら、草原を走る。
逃げたかった。
どうにかして、目の前にいる恐怖を忘れたかった。
空が丁度白んできたあたりで、カエルの視界に、一人の女性が目に入った。
見た目と負った傷からして、敵に襲われたところをあの槍を使って、辛くも逃げてきたという所。
金髪の女性、セーニャはふらふらとおぼつかない足取りで歩いていたため、カエルは不幸にもこう認識した。
カエルとの距離が短くなった瞬間、そのスピードは異常なまでに増した。
「死んでください。」
聖女、いや、聖女だった存在が告げる。
カエルはまだ殺すか殺さないか悩んでいる最中だったが、セーニャはその一線を超えていた。
完全に不意を突かれたカエルは、辛くも折れたバットで受け止めるも、あっさりと弾き飛ばされてしまう。
だが、得意のジャンプを使い、バットが弾き飛ばされた時間を利用し、宙に逃げる。
武器が無くなってしまった以上は、ベロと魔法しか武器がない。
この時点でカエルの不利になっていたが、まだ空中戦は有利のはずだ。
ジャンプ斬りこそ出来ないものの、槍の攻撃が届かない高さから、ウォータガの詠唱を練る。
「ウォータg……『メラゾーマ』」
しかしバットが弾かれ、カエルが跳び上がる前に、セーニャは魔法を紡いでいた。
辛うじて放出された洪水が、メラゾーマの威力を和らげるが、防ぎきれない。
あれが当たれば、立ちどころに焼きガエルとなってしまう。
カミュと、セフィロスとの戦いで受けたダメージも無視して、全身の筋肉を全力稼働させる。
水魔術を浴び、幾分か小さくなっていた火球を避けることに成功した。
しかし着地する頃には、セーニャは向かってくる。
その動きは、人間のものでも、獲物を狩る動物のものでもない。
カエルが未来で見たロボットと同じ、殺戮衝動に身を委ねた動きだった。
「お姉さまのために……死になさいッ!!」
メラゾーマを避けたばかりなので、躱しきれず槍に胸元を斬り裂かれる。
人の血ではない、青い色をした液体が、セーニャの綺麗な顔を汚した。
臓器をやられてはいないが、それでもカエルに激痛が走った。
続いて槍で串刺しにしようとしてくる。
だが、今度は後ろに飛びのく。
これまでのセーニャの槍でカエルは判断した。
相手は、魔法こそルッカや魔王にも劣らないが、槍での攻撃はどうと言うことはない。
ビネガー軍やガルディア軍の槍使いを見ていたカエルには分かった。
素人ほど、槍を持てばリーチを生かした突きや斬り付けに頼ろうとする。
だが、正しい槍の使い方とは遠心力を活かした、「叩く」ことにあるのだ。
(魔法さえ使われなければ……。)
そして魔法は火球の単純な直線攻撃。
ある程度距離が離れれば、避けることも不可能ではない。
炎魔法を躱したところ、反撃にウォータガを見舞えば倒せる。
カエルが離れる。セーニャが呪文を再び紡ぎ始める。
「マホトーン」
それは、さっきの炎の呪文とは違った。
「ウォータガ……なぜだ!?」
カエルの魔法は封じられてしまった。
「死んでくださいって、言ってるじゃないですか。ベギラゴン!!」
「ぐあああ!!」
二方向から炎の渦が迫る。
辛うじて直撃は避けたが、それでも体の一部が焼け、マントもボロボロになった。
セーニャはまだ辺りが燃えているにも関わらず、躊躇なくカエルの懐に飛び込み、足を思いっきり刺す。
「何……を……。」
「これで、跳ぶことはできませんわね……くすくす。」
千切れはしなかったが、最早跳ぶことも歩くことも難しいだろう。
武器を封じ、魔法を封じ、そして跳ぶための脚を封じる。
カエルが壊れていく様を、楽しんでいるようだった。
(何なんだ……コイツは……)
眼をぎらぎらと光らせ、歯をむき出しにして笑いながら迫る少女に、カエルはいいようもない恐怖を抱き始めた。
(本当にコイツ、人間なのか?)
人間とはおろか、魔物と戦っている時でさえ、これほどの恐怖は感じなかった。
中世での魔王の軍団、未来の機械生物、原始の怪獣、古代の魔法生物。
あらゆる生物と戦ってきたカエルだったが、このような殺意を、感じ取ったことはなかった。
魔王やラヴォス、そしてセフィロスと戦っている時にさえ感じなかった恐怖。
まるで『殺戮』が具現化した何かと戦っているかのようだった。
セフィロスや魔王のことなど、どうでもよかった。
ただ、この場から逃げ出したい。この少女の目の届かない所へ行きたい。
カエルの頭には、それしか残っていなかった。
その願いはどうやら叶えられそうにない。
せめて一瞬でも時間があれば、減った体力を逆利用したカエル落としや、雷電の支給品を使うチャンスがあるかもしれない。
だが、最早たらればの話でしかない。
セーニャの手には、赤い光が集まりつつある。
カエルの残った命を焼き払わんとする。
そこへ、草原を駆ける足音が聞こえた。
「何!?」
高々と掲げられたセーニャの手に、流星のような蹴りが見舞われようとする。
慌てて詠唱をキャンセルしたセーニャは、漆黒の槍を構え、第三者を迎え撃つ。
「アンタは……?」
「話は後よ!!」
目の前に現れたのは、イルカを思わせる長い黒髪を持った女性。
メリハリのある躰を、トレーニングウェアのようなシンプルな格好が際立たせる。
カエルが探しているクラウドの仲間にして、カエルに恐怖を植え付けたセフィロスを宿敵とする者、ティファ・ロックハートだ。
「おのれ……よくも、よくも邪魔立てを!!」
破壊の衝動に駆られたセーニャが、槍でティファの心臓を串刺しにしようとする。
しかしティファは姿勢を低くし槍を避け、その間にセーニャの近くに潜り込む。
そして槍の柄をガッチリ掴み、その体勢のまま強引にセーニャごと引っ張る。
「つりゃあ!!」
「ぐッ……!!」
がら空きになったセーニャの胴体に、ティファの蹴りが炸裂した。
そのままセーニャは吹っ飛んでいく。
そのまま槍を奪おうとする。
しかし、どういうわけか槍はとてつもない力で握られており、ティファの力を持ってしても引きはがせなかった。
「逃げるわよ!!」
無力化することを諦め、ティファはカエルを背負って逃げ出す。
ティファの支給品のマテリアの効果で、元々の俊敏性に更に磨きがかかっていた。
「逃がすと思わないで下さいね。マヒャド!!」
起き上がったセーニャが、口から胃液と涎の混ざったものを零しながら、新たな呪文を詠唱する。
ティファとカエルの周りに、氷刃が降り注ぐ。
(なっ……まだ別の手を………)
(コイツ……属性を二つも使えるのか?古代の民だとでも言うのかよ……!!)
持ち前の瞬発力を活かし、カエルを背負ったままでも、氷塊を躱していく。
小さい氷の欠片が、二人を傷つけるも、足止めするには程遠かった。
氷の雨が止んだ時には、既にカエルとティファは魔法の届かない位置にいた。
セーニャはそれでも二人を追おうとするが、突然死んだように倒れた。
体力を使いつくしたまま、休まずに戦い続けていたことの弊害だが、やがて目覚めれば破壊を続けるだろう。
一先ず、カエルの命は救われ、破壊者と化した聖女の動きは止まった。
だが、そんなことで、この悲劇が終わるわけがない。
この戦いの場から殺意を一掃しない限り、それは一時しのぎに過ぎないのだ。
※カエルの武器の折れた金属バット@ペルソナ4がD-5 草原に落ちています。
【D-5 市街地 /一日目 早朝】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:HP1/10 火傷、脚、胴体に裂傷、MP消費(大)、自己嫌悪 セーニャへの恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~2個)、ジャックのランダム支給品(2個)
[思考・状況]
基本行動方針:友との誓いを果たす。
1.クラウドを探し、展望台にセフィロスがいることを伝える。
2.どうすればいいんだ………。
3.少なくともセーニャには関わりたくない
※魔王打倒直前からの参戦です。
※グランドリオンの真の力を解放するイベントは経験していません。
※魔王が参戦していることを知りません。
※ケアル系の魔法に大幅な制限が掛けられています。
【ティファ・ロックハート@FF7】
[状態]:HP9/10 若干の疲労
[装備]: パワー手袋@クロノトリガー+マテリア・スピード(マテリアレベル3)@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~1個)、
[思考・状況]
基本行動方針:マーダーから参加者を救う
1.とりあえずカエルと共に安全な場所まで逃げる
2.その過程で自分の仲間が参加しているか確かめる。
※ED後からの参戦です。
【D-5 草原 /一日目 早朝】
【セーニャ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて 】
[状態]:気絶 HP1/8、腹に打撲 MP消費(大) 『黒い衝動』 状態
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1~2個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。
※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※回復呪文、特技に大幅な制限が掛けられています。(ベホマでようやく本来のベホイミ程度)
※ザオラル、ザオリクは使用できません。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
【パワー手袋 @クロノトリガー】
ティファに支給されたアクセサリー。装備すると若干力が上がる。
原作では武器のポジションではないが、格闘がメインのティファはこれを手に付けて武器として使っている。
【独立マテリア・スピード@FF7】
ティファに支給された紫色のマテリア。
装備品に付けると、装備品の持ち主の速さが上がる。
※FF7の装備品以外にも、この作品に登場する武具は0~数個のマテリア穴があります。
最終更新:2021年01月17日 12:40