「罠があるか確認してください。」
喫茶店が無人の場所だと分かって、最初に発したゲーチスのセリフはそれだった。

「どういうこと?」
発言の意図が分からなかったエアリスが尋ねる。
今更言うまでもないが、未知の場所において、罠の存在に注意するのは重要なことだ。
それが命のやり取りをする場なら猶更である。
だが、どうしてこのタイミングでそんな注意喚起を始めるのかは分からなかった。


「分からないのですか?あの獣人が罠を仕掛けて、ワタクシ達をこの場所に誘導した可能性もあるのですよ。
ここに入った時の鈴の様な音はそのトリガーかもしれません。」

声を殺してエアリスに注意を喚起するゲーチス。
ゲーチスが言っていたことは、整合性が取れていると言えば取れている。
殺し合いに乗った者を軟禁しているというのは真っ赤な嘘で、代わりにその場所に罠を張り、優しい人物を嵌めようとするということだ。

「そんな感じには思えないけどなあ……。」
エアリスはソニックを悪だとは思っていない。
千早と言う少女が隙を突いて逃げ出したのだと思う。
だが、ゲーチスの考えが正しい、あるいは第三者の襲撃の可能性を考慮し、弓矢を構える。
その予想は杞憂に終わり、喫茶店の奥に入っても何も変化はなかった。
だが、喫茶店内をくまなく探してみると、1つ異変が見つかった。


フライパン、鍋、コーヒーメーカー、まな板、冷蔵庫、それにお洒落な食器。
喫茶店の台所を構成する道具のほとんどがあったが、肝心なものが1つだけ無くなっていた。


「きっとここにあったはずの包丁を持ち出して逃げたのよ。」
包丁が立てかけてあるはずの場所を指さす、
しかし、殺傷力がある武器が持ち出されたとなると、是が非でも逃げた千早という女性を探さねばならなくなる。
ナイフを持ったせいで傷付けられる者が現れる可能性は言わずもがな、千早が素人だという前提を踏まえると使い方を誤って怪我をしてしまう可能性だって十分ある。

護身用の武器を持っていないと、安心して眠るのも難しいミッドガルのスラム出身の彼女だからこそ、悪いケースをいくつも思い付く。


「どこへ行くつもりですか?」
早速喫茶店から出ようとするエアリスを、ゲーチスが呼び止める。

「どこって……とにかく逃げた千早を追いかけないといけないでしょ!」
「その必要がありだと、本気で思っているのですか?」
「そうに決まっているでしょ?こうしている間にも千早って子が誰かを襲ったりしたらどうなるか分かってるの?」

またもゲーチスの発言の意図が分からぬまま、エアリスは行方不明の少女を探すことを提案する。

「ワタクシたちは『喫茶店にいる千早を』保護して欲しいと言われました。従ってそれ以外の場所にいても、知ったことではないということです。」
「そんなの暴論よ!」

ゲーチスは自分達の管轄外の問題には、関わる必要がないと、ソニックの言葉を曲解する。
勿論エアリスは、そんな主張を良しとするわけがなかった。
ソニックが戻ってきた時、「既に千早はいなかった」とでも言えば仕方が無かったことになるかもしれないが、頼まれたことを放棄するのは彼女の道理に反していた。

「暴論?ならばこれからどこへ居るとも分からない少女をどう探せと?」
「場所が分からないからこそ、探さないといけないんじゃないの?」

なおも根負けせずに追いかけなければと言い続けるエアリスに対して、ゲーチスは突然諦めたような表情を浮かべた。

「……わかりました。ですが、少々お待ちを。」
懐からモンスターボールを取り出す。
「それは……」
紅白のボールは、エアリスが初めて見たものでは無かった。
この殺し合いが始まった直後、ゲーチスがバイバニラというポケモンが入ったボールを見ていた。
しかし、それはトウヤに奪われてしまったため、どうして持っているのかと疑問に思った。

「あの獣人から受け取った物です。ナイフを持った相手である以上、使える道具は1つでも多い方が良いでしょう。」
相も変わらずポケモンを道具扱いする態度は気に食わなかったが、千早を探すのに協力してくれる意思を見せてくれたことで安堵した。


「!?」

眩しい光を放って、現れたのは、奇怪な姿をした生き物だった。
以前エアリスが見た、バイバニラは辛うじて生き物だと解釈できる姿だったが、このポケモンは極めて生き物だと判断するのが難しい姿をしていた。


何しろ、大きな歯車とその横に2つの小さな歯車が連なったような姿をしているのだから。
注意深く観察してみれば、両の目らしき部位はある。
だがそれを考慮しても、魔晄の力で変貌したモンスターと言うより、神羅が作った機械兵に近い姿をしていた。

そして歯車の無機質な音が静かに響くも、バイバニラの時の様に鳴き声を発さず、平静を保っていた。
それは元のトレーナーの影響を受けたものだったが、2人は知る由もない。

「このモンスター、ゲーチスは知ってるの?」
「知っているも何も、ギギギアルはワタクシの世界のポケモンです。」

ゲーチスはモンスターボールに付いていた説明を見ながら答える。


「頼りになれるポケモンもいたことだし、探しに行くわよ。」
「申し訳ありません。もう1つ用事がありまして。」
エアリスが呼びかけ、喫茶店を出ようとすると、またしてもゲーチスが呼び止めた。

「いい加減にしてよ……」
中々喫茶店から出ようとしないゲーチスに辟易しながら振り向く。
そんな彼女に対し、ゲーチスは静かに呟いた。


「じゅうまんボルト」


エアリスの失敗は3つ。
まずは前方にある危険のことを気に掛け過ぎて、後方からの危険に対する警戒が弱まっていたこと。
彼女はゲーチスを警戒していなかったわけではない。
しかし、今のなお行方不明のカイムに、同じく行方不明の千早と、気にしなければならない人物が増えると、相対的に1人の警戒心は弱まる。
第二に、ギギギアルという、エアリスにとっては未知の、ゲーチスにとってはどこまでも詳しく知っている存在が介入していたということ。


「くっ……!」
後ろから響いていた機械音が激しくなったと思いきや、完全に不意打ちと言う形で電気攻撃を受け、蹲るエアリスの前で、ゲーチスが仁王立ちしている。

「やはりアナタとは共に行動は出来ない。そんなに千早とかいう女を探したいなら、自分1人で探しなさい。」


少なくともギギギアルだけでも無力化させようとするも、思うように体が動かない。

第三に、彼女の世界の「麻痺」とポケモンのもたらす「麻痺」の違いだ。
彼女の世界のまほうマテリアや召喚マテリアから繰り出される雷を受けても、ダメージこそはあるが、身体がまひすることは無い。
更に言うと、彼女の世界で麻痺の力を持つモンスターも、電気ではなく、「にらみ」を使う魔物ぐらいだ。
少なくとも、神羅兵の機械が麻痺攻撃をしてくることは無かった。


そのままゲーチスはエアリスが上手く動けないまま、彼女が持っていた弓に手を伸ばす。
興味があるのは豪奢なデザインが印象的な弓ではない。
絢爛な装飾の中でも、ヒスイ色に美しく輝くマテリアだ。


それをすぐさま自分のスコップに付け替える。
「スリプル!」
放送前、エアリスがカイムに対して行ったことを、見様見真似でやった。


「ゲーチ……ス………。」
抵抗の意思を見せようとするが、むなしく眠りに落ちてしまった。

「ハハハ……そのままそこでじっとしていれば良いです……痛………。」
同時にゲーチスにも虚脱感と頭痛が襲う。
元来魔力を持ち合わせていない彼には、マテリアは代償として体力を著しく奪った。
とは言え、歩くのに差し支えるほどではない。

そのままエアリスを放っておいて、喫茶店から出て行った。
とどめを刺しておけば、自分が危険人物であることを吹聴してくる人物は1人減る。
だが、ゲーチスが恐れたのは、追い詰めた時による手痛い反撃だ。

ポケモンには、追い詰められると本来とは比べ物にならないほどの力を出す者は少なくない。
人もまた同じことが言える。
現にエアリスは放送前にカイムから攻撃を受けたのち、リミット技で動きを止めた所を目の当たりにしたのだから猶更それを恐れた。
加えて慣れぬ魔法を使い、体調は良いとは言えないので、中途半端な攻撃で反撃を許してしまう可能性がある。


だからギギギアルを連れてその場を後にした。
出る時の喫茶店特有のカランコロンという音を気にせず、かつて手ごまとしていた人間が持っていたポケモンと共に、目的地のNの城へと向かう。
エアリスが追いかけてこないことが分かると、虚脱感と頭痛を解消するために、支給品のスタミナンXを半分ほど呷った。
身体がどこか軽くなったような気がして、頭痛やカイムから受けた痛みも消えて行った。

一応、この辺りにナイフを持った千早や、大剣を持った男がいる可能性を警戒し、辺りを伺いながら北へ向かう。

丁度その時、北東の方角から、先刻目撃した火球が飛んでいた。
あの辺りに男はいるのだと思い、その場所に近づくことなく足を速めた。



【C-2/山岳地帯/一日目 午前】

【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康 高揚感 
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER+マテリア ふういん@FF7、モンスターボール(ギギギアル@ポケットモンスターBW)
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
1.早くNの城へ行きたい
2.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。
3.ギギギアルを上手く利用する
※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。

※ゲーチスのみならず、魔力を持たない者(例:龍が如くやアイドルマスター出典キャラ)が魔法マテリアを使うと、虚脱感や頭痛に襲われます。
それでも回復なしで過剰に使うと、原作の魔晄中毒の様な状態になります。


【モンスター状態表】
【ギギギアル@ポケットモンスターBW】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針
1.ゲーチスに仕える


【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 午前】

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小、MP消費(小) 睡眠
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
0.Zzz……
1.カイムのことはソニックに任せてみる。
2.ゲーチスを追いかける
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒

※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた~死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。


【ギギギアル@ポケットモンスター ブラックホワイト】
ソニックに支給されたポケモン。元の持ち主はN。
特性はプラスで、覚えているわざは10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん。

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105:Discussion in R.P.D. 時系列順 109:SPA!
投下順 107:崩壊の序曲
093:花と風と ゲーチス 114:これから毎日小屋を焼こうぜ?
エアリス・ゲインズブール 117:強い女


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最終更新:2023年04月28日 05:09