喫茶店の店内には、二つの影があった。

「……Seriously?」

 マナによる放送を聞き終えたソニック・ザ・ヘッジホッグは、呆然と呟いた。
 十三人もの参加者が命を落としたという情報は、殺し合いの打破を目指す身としてはショックであった。
 放送で知り合いの名前は呼ばれなかったが、そこは問題ではない。
 呆けたように支給された名簿をめくる。テイルスやナックルズといった友達の名前は見当たらない。
 しかし、放送から受けたショックが大きすぎて、とても安堵はできなかった。

「ウソだろ?」

 殺し合いが始まってから、たった六時間。
 その六時間で、ビルディングの一室で殺されていた少女のように、無惨に命を奪われた者が十三人もいる。
 つまり、このバカげたパーティーを勝ち抜こうと目論む者が少なからず出てきているということだ。
 殺し合いを打破するためには、そうした連中を放置しておけない。

「もたもたしてる場合じゃなさそうだ……けどなぁ」

 声に焦りを滲ませながら、店内の椅子に凭せ掛けた少女を見やる。
 如月千早と名乗った少女は、もう一時間以上も目を覚ましていない。
 もちろん息はある。よほど当たりどころが悪かったのだろうか。
 いずれにしても、意識を取り戻した千早に話を聞くまでは、この場を離れられない。
 ――と、最初はそう考えていたが、あまりに時間が経ちすぎた。

「それに、近くに危険なヤツがいるのは間違いないんだ」

 放送が流れる少し前、ソニックは遠くの爆音らしきものを耳にしていた。
 断続的に聞こえたそれは、激しい戦闘が行われていることを示していた。
 すぐにでも駆けつけたかったが、千早を担いだ状態であったため躊躇ってしまい、そうこうしている内に音は止んでいた。
 あの爆音で犠牲者が出ていた可能性も大いにあり得る。
 足踏みすることなく向かっていれば、あるいは――。

「切り替えろ。オレらしくないぜ」

 パシッと軽い音を立てて、両手で頬を叩く。
 過ぎ去ったことを思い返してクヨクヨしている時間はない。

「出遅れたけど、ここから再スタートだ」

 とにかく行動あるのみ。
 友好的な参加者を探して、千早のことを伝える。
 そして、その参加者に千早を保護してもらう。
 その後のことは、そのときに考えればいい。

「それじゃあ行くとするか!」

 喫茶店のドアに付けられた鈴が、チリンと鳴る。
 その瞬間、店内からソニックの姿は消えていた。




 各自の目的のためにエリアを北上していた二人。
 ずんずんと前を歩くエアリス。その少し後ろを大股で追うゲーチス。
 会話らしい会話もない状態のところに、一陣の風が吹いたかと思うと、もう一つの影が現れた。

「よう!アンタら殺し合いには乗ってないな?」
「なっ!?」
「ちょ、ちょっと……あなた、誰?」

 エアリスとゲーチスの二人は、唐突に出現したソニックを前に戸惑いを隠せない。
 人間の言葉を話す青いハリネズミが、いきなり話しかけて来たのだから無理もない。
 なんとゲーチスは、声を上げてからおよそ十五秒制止していた。
 一方、そんな反応も慣れているようで、ソニックは言葉を続けた。

「オレはソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
 この殺し合いを潰すつもりだ。アンタらの名前を教えてくれないか?」
「な、なんだと……?」
「エアリスよ。こっちはゲーチス。
 殺し合いに乗るつもりなんて、ぜんぜんないよ」

 疑問を投げかけるのが精一杯なゲーチスの代わりに、エアリスが返答する。
 レッドXIIIやケット・シーといったメンバーとも一緒にパーティーにいただけあって、エアリスの適応力はゲーチスより高い。

「OK!それじゃエアリス、いきなりだけど頼みがある」
「頼み?」

 ソニックがエアリスたちに伝えたのは、市街地のとある喫茶店に千早という銀髪の少女が気絶していること、千早が殺人に手を染めているかもしれないこと、そして千早を保護して欲しいこと。

「あなたはどうするの?」
「オレは知り合いを探しながら、このパーティーに乗り気のヤツを止める。
 この辺りでドンパチ騒いでいた参加者がいるはずだから、まずはそいつからだ」

 ソニックの発言に、エアリスとゲーチスは思わず顔を見合わせた。
 つい先程まで拘束しており、逃げられた男のことを言っているのだと、二人とも理解した。

「その男なら、さっきまでワタクシたちといましたよ。
 地図にある“カームの街”で暴れていたところを捕らえたのですが、逃げられてしまいましてね」
「ちょうど今、追いかけていたところなの」
「へえ、そりゃ話が速い。どんなヤツだった?」
「不気味な男でしたよ。一言も喋らず、とても長い刀を振り回していました」
「でも……殺さなかったの」
「だから、それはたまたまだと言っているでしょう?」
「うーん……」

 立て板に水とばかりに話すゲーチスに対して、どこか歯切れの悪いエアリス。
 二人の話を聞いたソニックは、グッと親指を立てて宣言した。

「OK、それじゃあソイツをオレが止めてやるぜ」
「その代わりに、ワタクシたちに少女を保護しろとでも?」
「そうしてくれると助かるね。
 正直なところ、千早は人殺しを喜ぶタイプじゃないと思ってる」
「なぜ言い切れるのですか?」

 ソニックを問い詰めるゲーチスの態度を見て、エアリスは眉をひそめた。
 当のソニックは意に介していない様子で、神妙な面持ちをして答えた。

「オレが見つけたとき、震えてたからさ」

 その意見に、ゲーチスは苛立ったように反論を唱えた。

「そんなもの!何の根拠にも……」

 しかし、その反論は途中で遮られた。
 誰あろう、同行者のエアリスに。

「わかったわ、ソニック。喫茶店の場所を教えて」
「な……!?」
「そうこなくっちゃ!」

 嬉しそうに親指を立ててグッドポーズをするソニック。
 それを見てエアリスは微笑みを浮かべ、ゲーチスは僅かに渋い表情を浮かべた。
 そしてまた、一陣の風が吹いた。


【D-2/市街地/一日目 朝】
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
[状態]:健康
[装備]:スマッシュボール×2@大乱闘スマッシュブラザーズSP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1個) 、双剣オオナズチ(短剣)@MONSTER HUNTER X
基本支給品、双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの打破。もたもたしてると置いてくぜ?
1.周辺を探索する。
2.マルティナや長い刀の男(カイム)のような、殺し合いに乗り気の参加者を見つけて止める。
3.千早のことはエアリスたちに任せる。
灯火の星でビームに呑まれた直後からの参戦です。
※リンクやクラウドやスネークと面識があり、基本的な情報を持っていますが、リンク達はソニックを知りません。でも「こいつスッゲー見覚えあるな…」くらいは感じるでしょう。




 ソニックが走り去った後、エアリスとゲーチスは喫茶店を目指し歩き出した。
 道中の会話は、ごく自然な流れでソニックの話題になる。

「エアリスさん、あのハリネズミの話を信用するのですか?」
「してもいいと思う。嘘をつくような性格じゃなさそうだもの」

 かなりの実力者なのも見て取れたしね、と続けるエアリス。
 ゲーチスは納得できないといった態度を取り、食い下がろうとする。

「しかし……」
「それとも、ソニックが心配していたように、千早って子が誰かに殺されてもいいの?」

 ゲーチスは心中で舌打ちをした。
 そう質問されてしまうと、表向きは対主催者を演じる身としては否定できない。
 適当に会話を濁すと、沈黙しながら歩く時間が続いた。

(まったく、理解に苦しみます。
 会話ができるのは驚きましたが、あれは間違いなくポケモン。
 たかがモンスターごときの意見を簡単に受け入れるなどと……)

 ゲーチスはソニックのことをポケモンだと認識していた。
 これまで姿を見たことがないことから、イッシュ地方には生息しないポケモンであると推測できる。
 自然な会話ができることには驚いた。とはいえ、過去の文献を紐解けば、ポケモンと人間が心を通わせたという例は少なからず存在する。
 所詮は戯言と笑い飛ばしていたが、そこだけは考えを改める必要がありそうだ。

(……いや、そんなことはどうでもいい。
 こんなことをしている時間はないというのに……!)

 一刻も早くNの城に向かいたいゲーチスにとって、少女を保護するために時間をかけるのは望ましくなかった。
 それゆえに、頼みを断る方向へと話を誘導しようと試みたが、あえなく失敗。

(エアリスさん、アナタという人は……。
 利用するとしても、その方法はよく考えなければなりませんね)

 ゲーチスは前を歩くエアリスを、冷ややかな目で見つめた。
 急襲してきたカイムに対して説得を試みたあたりで、驚嘆するほどのお人よしだとは感じていた。
 それと今回の一件を合わせて考えると、ありえないくらいのお人よし、と言えるだろう。
 行動原理は単純であるものの、思い通りに動かせるかどうかは別の話だ。

(とはいえ、新たな手札を得られたのは運が良い)

 ソニックから譲り受けて、懐に収めたモンスターボールをそっと撫でる。
 頼みを聞く条件として、何らかの武器になるアイテムを要求したところ、ソニックがこれを渡してきたのだ。
 中身は時間がなく未確認のままだが、強力な手札であることを祈らずにはいられない。

「あっ、あれじゃない?ソニックの話していた喫茶店」
「外観は一致していますね。ではあの中に少女が?」
「行ってみよう!」

 そうして二人は、喫茶店の店内へと足を踏み入れた。

「……誰もいない?」
「……そのようですね」


【D-2/市街地にある喫茶店/一日目 朝】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:ダメージ小、無力感、苛立ち
[装備]:雪歩のスコップ@THE IDOLM@STER、モンスターボール(中身不明)
[道具]:基本支給品、スタミナンX@龍が如く 極
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
0.千早という銀髪の少女を探す?
1.エアリスを利用し対主催を演じる。
2.早くNの城へ行きたい
3.カイムのことはソニックに任せてみる。同士討ちでもすればいい。
※本編終了後からの参戦です。
※エアリスからFF7の世界の情報を聞きましたが、信じていません。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。

【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:ダメージ小、MP消費(小)
[装備]:王家の弓@ゼルダの伝説+マテリア ふうじる@FINAL FANTASY Ⅶ ブレス オブ ザ ワイルド、木の矢(残り二十本)@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
[道具]:なし(装備品 除く) 
[思考・状況]
基本行動方針:仲間(クラウド、バレット、ティファ、ザックス)を探し、脱出の糸口を見つける。
0.千早という銀髪の少女を探す?
1.カイムのことはソニックに任せてみる。
2.今はゲーチスに付いて行き仲間を探す。もし危なくなったら……。
3.カームの街で、人探し、および黒マテリアの捜索をしたい。
4.ゲーチスの態度に不信感。
5.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒

※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた~死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。

支給品紹介
【モンスターボール(中身不明)】
ソニック・ザ・ヘッジホッグに支給。中身は未だ確認されていない。


 市街地を歩く四条貴音。その姿は百合の花の如くたおやかだ。
 このような非常時においても、洗練された身のこなしが現れてしまうのは、幼い頃より受けた教育の賜物だろう。
 日に照らされているためか、その顔色も先程までと比べると落ち着いていた。

「私は運が良いのでしょうね」

 ソニックと名乗るハリネズミに嘘を見抜かれて気絶させられたものの、拘束されることもなく喫茶店に放置された。
 おそらく、ソニックにとって貴音よりも優先するべき事象ができたに違いなかった。
 そのお陰でこうして逃げることができたのだから、まず幸運である。

「とはいえ、いささか心細い状態です……」

 支給品はデイパックごと没収され、名簿すら確認できていない。
 この状態で強者に襲われればひとたまりもない、と誰より理解していた。
 いくらか精神が落ち着いてくると、冷静さから生じる恐怖心に苦しめられることになる。
 命のやり取りなど経験したことのない貴音が、思考の悪循環に陥るのも自然の道理であった。

「っ、いけません……」

 自然と目元が潤み、袖口で目元を拭う。
 泣いている余裕はない。行動をしなければ、生き残ることもできない。
 考えるのだ。生き残る道を選んだ上は、最適な行動を取り目的を達成することが本懐。

「それが、地獄への道だとしても」

 決意を新たに、少女は凛と歩き出す。
 しかし、貴音は未だ知らない。そして想像も及んでいない。
 この会場に、貴音に憧憬のまなざしを向ける仲間がいることを。
 その仲間――萩原雪歩――が、すぐ近くのエリアに来ていることを。

「いざとなれば、この手で再び――」

 その言葉は最後まで紡がれないまま、風にかき消された。
 握りしめた小さな果物ナイフが、キラリと陽光を反射した。


【D-2/市街地/一日目 朝】
【四条貴音@THE IDOLM@STER】
[状態]:強い罪悪感、恐怖、不安
[装備]:果物ナイフ@現実
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。どんな手を使ってでも。
1.如月千早の名を驕り、参加者に紛れながら殺していく。
2.春香……!
3.ザックスが生きているかどうか不安
※如月千早と名乗っています。
ルール説明の際に千早の姿を目撃しています。

【果物ナイフ@現実】
喫茶店の厨房に放置されていた。刃渡り8cm程度の小ぶりなナイフ。

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092:夢追い人の────(前編) 時系列順 098:これまでではなく、これから
投下順 094:セフィィィィィロォォォォォス!!!
047:優しいだけじゃ守れないものがある ソニック・ザ・ヘッジホッグ 099:壊レタ世界ノ歌 序
四条貴音
084:拘束が緩む時は ゲーチス 106:エレクトリック・オア・トリート
エアリス・ゲインズブール

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最終更新:2023年04月28日 05:08