「皆さん、そう落ち込まないでください。我々はこうして無事に生き残ったのですから」

 Nの城の一室、王の部屋。放送終了後にそう声をかけたのはゲーチスだった。
 十七人という死者の数を聞いてひどく気落ちするイレブンとベルを気遣う言葉だが、あくまで表面上のそれは二人を立ち直らせるには至らない。

「……あたしが、燃やしちゃったひとも……呼ばれたのかな」

 身を震わせながら吐露するベルの目尻には涙が浮かんでいる。
 車内で目が覚めたイレブンはゲーチス伝いにベルから事情を聞いた。自分が気絶していたこと、そしてそれを仕出かした人物とベルが対峙したことも。
 火災の中で酸素不足に陥った影響か、軽い記憶の混濁がある。ベルを運び出したのは覚えているが、そこまでだ。あの男の行方は覚えていない。
 だがあの火事の中での生存は絶望的と見ていい。もしもゲーチスの助けがなければ自分もベルもここにはいなかっただろう。

「ベルは……僕を助けてくれたんだよ。あのままだったら、僕がやられてたかもしれない。……それに…………あれは……多分、人間じゃない。魔物だったんだ」

 そうであってほしい、と心の中で付け加える。
 イレブンも人間を相手にしたことは何度かある。グロッタの闘士やグレイグ、ホメロスといった下手な魔物よりよほど強い人間とも戦ってきた。
 けれど、彼らには人間らしさがあった。曖昧な表現になってしまうが、戦う動機や信念を持っていたのだ。
 強者と戦いたい、責務を全うしたい、野望を叶えたい──イレブンには理解出来ないものもあるが、納得はできる。


 けれど、〝あれ〟はちがう。


 意味不明な言葉を羅列し、ただ本能のままに容易く命を奪わんとする姿はおよそ人間と呼べるほど理知的ではない。
 だからこそ、イレブンは不意打ちを許してしまった。
 悪人とも呼べぬ狂気に呑まれて戸惑っている間に一撃を貰い、綺麗に脳を揺さぶられた結果があれだ。はずかしいにもほどがある。

「でも……! あの男の人だって、しにたくなかったんでしょ!? イレブンを攻撃したのだって……きっと、こわかったんだ…………なのに、なのにあたし……っ!」
「ベル…………」

 無論、そんな安い慰めは初めて殺人を犯してしまったベルの心を軽くするには至らない。むしろ自責の念を強めるだけだ。
 三人の情報を擦り合わせ、辿り着いた結論は油へのメラが原因で起こった爆発──こんなもの予測しろという方が無理だ。不幸な事故と割り切る他ない。

「ランランだって、きっとあんなことしたくなかったのに……っ! あたし、……トレーナー失格だよ……、っ……!」

 けれど、いざ起こってしまえば悪い方向に考えてしまうのが人間だ。それも争いとは無縁の生活を送ってきた少女ならばことさらに。
 かける言葉の見つからないイレブンにできることといえばこうして彼女の背を撫でることくらいだ。彼とて純粋な人間を殺めた経験はなく、ベルの心中を察しきれない。

(……ベロニカ……、サクラダさん……)

 考えるのはさきほどの放送のこと。
 呼ばれた名前は十七人。内四つが知っている名前だ。
 一つはシルビア、ネメシスとの戦いによって命を落としたところを目の前で見ている。
 一つはホメロス、確かな野心を持っていた──いわゆる悪人ではあったがウルノーガに踊らされた被害者だ。
 そしてもう一つがサクラダ。魔王達と別行動をしているはずの彼の名が呼ばれたということはそちらの方角で何かがあったのだと推察できる。ベルが沈む大きな原因の一つだ。
 最後の一つが、イレブンが心の中で最初に呟いた少女のものだ。

(…………本当に、ごめんなさい。二度もキミを死なせてしまうなんて…………)

 今のイレブンがベロニカを失うのは二度目だ。
 世界樹崩壊の際に自分たちを逃すためただひとり命を落とした彼女。そんな悲惨な歴史を変えるために過ぎ去りし時を求めたのに──こんなことでは勇者以前に仲間として失格だ。


 ────はずかしい。


 自分がこの殺し合いでしたことはなんだ。
 倒したはずの怪物に気を抜いてシルビアを失い、鎧を纏った男に不覚を取ってベルを危険な目に遭わせ、守ると誓ったベルに助けられてしまった。挙句その恩人への気遣いすら満足にしてやれない。

 この瞬間ほど自分を恥じたことはない。
 こんなことではダメだ。勇者の責任だとかそういう問題ではなく、イレブンという一個人が持つ感情として人を助けたいという確かな意思がある。
 ただでさえベルはチェレンの死を受け止め切れていない。短い時間とはいえ行動を共にしたサクラダが呼ばれたこと、そして自分自身が命を奪ってしまったかもしれない事実は一少女が背負うには重すぎる。

「ベル、外を探索しよう」
「えっ……?」

 だから、せめてその重荷が軽くなるように。
 はずかしいという気持ちを押し殺して、肩を貸してあげたい。

「でも、……!」
「さっきの……ヨーテリーみたいなポケモンがいるかもしれないし…………ランランだって、きっと外に出たがってるよ」

 以前のイレブンからは考えられない提案だ。
 というのも、今までの彼はベルに危険が迫ることをなにより避けていた。けれどそれは保護という名の拘束に過ぎないし、彼女の意思を無視してしまうことになる。
 なら、今度こそ危険が迫ったときに護ればいい。イレブンにとっても周囲を散策したいのは事実だし、ベルもきっとここにいつまでも居ることは望んでいないだろう。

「すいません、ゲーチスさん…………少し、外に……」
「ええ、構いません。ワタクシも調べ物がありますので……そうですね、14時頃にまたここに集合としましょうか」

 物腰柔らかに頷くゲーチスへ、イレブンは綺麗なお辞儀と共に精一杯の感謝を伝える。
 ゲーチスは今まで出会った人物の中でも類を見ない善人だ。無償で自分たちを助けてくれた上、この城を拠点にするように施してくれた。
 彼もまたベルと同じく護らなければならない存在の一人だ。決意を固めながらイレブンはベルへ呼びかける。

「行こう、……ベル」
「……えへへ、うんっ!」

 自分を気遣ってくれたことが嬉しいようでベルの顔にはかすかに色が戻る。
 王の部屋を後にする二人の背中を笑顔で見送ったゲーチスは、彼らの姿が見えなくなると同時に険しく眉を顰めた。



◾︎



 Nの城を覆うように生え渡る木々を抜けると、一面には淡白な土壌と草原が広がっている。
 見晴らしのいい景色はこの状況では不意打ちを避けれるためありがたい。なにかあってもベルだけはNの城に逃がすことができるはずだ。
 ポッドとランランを出していることもあり襲撃者への備えは出来ている。それだけの予防線を張ってもなお万全とは言えないが、少なくともこうしてランランたちと戯れる時間は作れるだろう。

「あはは、みてみてイレブン! ランランが踊ってる~!」
「……うん。なんだかすごく楽しそう」

 どうやら窮屈な思いをしていたのは持ち主だけではないようで、戦いの場ではない開放的な空間にランタンこぞうも全身で喜びを顕にしている。
 上下左右に身体を揺さぶる彼(?)の姿をぼんやりと見ていると、イレブンの真横に銀色の塊──ポッド153が浮き上がった。

『報告:ランランのレベルアップ』
「え……」

 レベルアップ!? と、ベルの歓喜の声がイレブンの疑問符をかき消した。
 ポケモンの育成すら満足にしたことがないベルにとっては初めての経験だ。喜色に満ちた笑顔でランランの頭を撫で回している。
 年相応の少女らしい姿に一時ほっとするが、すぐにまたクエスチョンマークが頭に浮かび上がった。

「その、どのタイミングで……?」
『回答:先程の山小屋でのトレバー・フィリップスとの戦闘による経験値取得』
「あ~~…………たしかに、あれって勝った……のかな? ……あ! というか今、トレバーって……」

 そうだ、ポッドにはこういう機能があるんだった。改めて自分がわすれっぽいことを気付かされる。
 同時にイレブンは放送を思い返す。知り合いの名に気を取られてしっかりと聞けた自信はないが、ポッドの言うトレバーという名前は今の今まで聞き覚えがなかった。

「トレバー……たしか名前、呼ばれなかった…………」
「! ……じゃ、じゃあ……あの男の人、ぶじなの!?」
「うん、名前が呼ばれてないから……きっと生きてるよ」

 もの悲しげに濡れていたベルの顔が途端にぱあぁと明るくなる。続けて漏れた「よかった」という言葉にイレブンは彼女の純真さを悟った。
 自分を含めて大切な者の命の安否だけでいっぱいいっぱいの状況のはずなのに。ベルにとってはあの狂人でさえ等しく失って欲しくない命なのだ。
 そんなベルの眩しさに当てられて、イレブンは自分がとてもはずかしくなった。

「それでいちごちゃん! ランラン、あたらしいわざとかおぼえたの?」
『各ステータスの上昇、及びメラミ、ギラの呪文を新たに習得』
「すご~~い!!」

 すごい、とは言うがその具体的な凄さは呪文を知るイレブンにしかわからないはずだ。つまりベルは雰囲気で喜んでいる。
 心なしか胸を張っているように見えるランランと、それにおもいっきり抱きつくベルの笑顔を交互に見つめるイレブンはしばし考え込んだ。

(魔物にもレベルアップなんてあるんだ…………初めて知った……)

 彼の知る常識では魔物を仲間にするという選択は論外だった。魔性の消えた魔物は見てきたが、実際に旅のお供に魔物を引き連れている者など見たことない。

「ねえねえイレブン! ランランのあたらしいわざ、ためしてもいい?」
「え…………い、いや。このあたりは燃えやすいから……」
「だいしょうぶだよお! 空にむけてうつから!」

 ベルが嬉しそうに言うポケモントレーナーというのはそれが当たり前だという。少しだけ話を聞いたがゲーチスも同じ世界の住人らしい。
 自分の知らない世界に知見が広がる感覚は刺激になった。同時に、魔物と共存できる世界なんてきっと争いがないのだろう────なんて、この場において抱くべきではない憧憬が彼を満たした。

「それなら…………たぶん、大丈夫。……だよね?」
「やったあ! じゃあランラン、そうだなあ……あ! あのおいしそうな雲にメラミ!」

 助けを求めるようにポッドに同意を求めるが、当の彼女はそれを自身に向けられた質問と捉えずにスルー。一拍の間も置かずにベルの指示が飛ぶ。
 くるりと空中で一回転したランランが空へと炎の塊を放った。当然、雲に届く遥か前に飛距離の限界を訴えたそれは花火のように爆ぜる。

 お~! という歓声と共に惜しみない拍手がランランへと注がれた。遅れてイレブンもぱちぱちと控えめな賞賛を送る。
 ベルにとってわざの威力など度外視していることは言うまでもない。重要なのはランランがあたらしいわざを覚えたということ。
 実戦ではなくパフォーマンスの一種であるポケモンバトルをテレビ越しに見ていた彼女の頭の中には、この呪文で相手を傷つける光景など欠けらも浮かばなかった。

「えっと、つぎは…………ギラ!」
「あ! ちょ、ちょっと────」
『警告:呪文による草原の延焼』

 ギラ、という呪文がどういったものなのか知る由もない少女は空を指さして宣言する。が、彼女の思惑に反してランランは地を走る火蛇を生み出した。
 ポッドの警告はありがたいがやや遅い。自信満々なランランと対照的に二人の男女は慌てふためいた。まるで好き勝手暴れるペットを前にした子供のように。

「うわわ!? ど、どうしようイレブン~!!」
「え、えーっと………………ポッド、どうしよう」
『……要求:イレブンの主体性』

 種々に燃え広がる火の手を眺める二人と一匹と一機。
 嘆く彼らを嘲笑うかのように強まる火勢は黒い煙と草の焦げる匂いを巻き上げた。




◾︎




 D-2の喫茶店を後にしたマルティナとミリーナは北上を選んでいた。
 エアリスという人質を手にしたことで人数の多いであろう施設を回りやすくなったがゆえの行動だ。特に放送で言及されたNの城は人が集まるだろう。
 しかし、第二回放送の時刻が迫っていることに気がついた彼女たちは手頃な民家に転がり込みひとまず身を潜めることにした。基本的なスタンスは変えずとも情報を知っておいて損はない。



「う、そ…………! クラウド、……っ、……ティファ……っ!」

 そうして放送を経た現在、泣き崩れるエアリスが空気を支配する。
 未だ後ろ手を縛られたまま。人質という危機的状況さえ忘れて仲間の死を嘆く姿は、エアリスという少女を知って間もないマルティナから見ても特異と感じられた。

「なんで……! ……どう、して、……っ……!」

 クラウド、ティファ。
 二人の名が挙げられたことに対して脳が理解を拒む。
 ただ実力が高いだけではない。それとは別にあの二人が殺されるわけがないという確信を抱いていた。だからこそ口から出てくるのは疑問符ばかり。

 マルティナとミリーナが目を合わせ、アイコンタクトを送る。
 エアリスを放っておくのに心が痛むわけではないが、このまま嗚咽を撒き散らされたら周囲の人間に気づかれる可能性がある。
 そんな判断の下、マルティナが声をかけた。

「……知り合いの名が呼ばれたのね」

 エアリスは応えない。
 人の感情に敏感な彼女は、マルティナのそれが気遣いによるものではないと悟っていたのだ。

「私も呼ばれたわ、かつての仲間が二人。それと敵対していた者が一人」
「え……」

 エアリスにとって意外な言葉が投げられる。
 一見冷血な雰囲気さえ感じられるマルティナという女性から飛び出す台詞といえば、他者の気持ちを考えない強制的に前を向かせようとするものだと思っていた。
 だが、表情を変えぬままぽつぽつと吐露する彼女の姿からは儚ささえ感じられる。

「けどね、悲しいとは思わない。彼らなら迷いなく他者のために命を張るでしょうし、私は仲間全てを失ってでも守りたい人がいるから」
「……その人の名前は?」
「イレブンよ。あなたにはそういう人はいないの?」
「大切な人はもちろんいるけど、……あなたみたいに人を殺してまで守りたいとは思わない」

 そう、と。マルティナが顔を伏せる。
 それで会話は終わりかと思ったが、意外なことにマルティナがエアリスへと問いを続けた。

「そのクラウドとティファっていう人以外に呼ばれた人はいる?」
「……少し前に出した名前だけど、ソニックも呼ばれたわ」
「ソニック、ね。……私も知っている名前よ。この殺し合いが始まって最初に出会った人物だから」

 エアリスが僅かに目を見開く。
 同時に、彼女の中でマルティナという人物像が塗り替えられていくのを感じた。殺し合いに肯定している危険人物が、ここまで人質に情報を洩らすのだろうか。
 殺し合いに乗る事情など推し量れない。けれどマルティナが先程言っていた〝守りたい人がいる〟という言葉が嘘とは思えなかった。

「ソニックは……最期まで他の人を気にかけてたわ。私も彼に千早という少女を託されたから」
「なんとなく想像できるわ。……善人ほど生き残るのが難しいということなのでしょうね」
「…………」
「けれど勘違いしないで。その千早という少女を探す権利は今のあなたにはない」

 会話を重ねることで尚更に思う。
 マルティナは話をしたいわけではない。己の話を聞いてほしいのだ。
 きっとミリーナのような殺し合いに乗った者ではなく、反逆する意志を持った他者と共有したいのだろう。言葉の節々から感じられる感情の欠片と顔の陰りがそれを物語る。

「…………さっき言った、大切な人。あなたの言うイレブンのような存在。さっきの放送で呼ばれたの」
「えっ……?」

 だから、エアリスもマルティナに興味を持った。
 彼女の話を聞きたい。だから、自分の話を聞かせよう。人質と殺人鬼という関係からは到底想像もできない言い知れぬ雰囲気がそこに広がっていた。

「………………それは、お気の毒に」
「気を遣わなくていいわ。薄々勘づいていたから」
「そう。……その人はどんな人だったの?」
「そうだなぁ、なんて言えばいいか分からないけど……とっても強くてかっこいいけど、どこか抜けててね。初恋の人……なんだと思う」
「素敵な人だったのね。名前はなんて言うの?」

 記憶を辿るように、どこか懐かしそうに語るエアリス。
 興味が湧いた。エアリスの語る、自分にとってのイレブンのような存在に。だから名前を聞いたのは半ば無意識だったのかもしれない。
 しかし、マルティナはそのことを後悔することになった。

「その人はね、ザックスっていうの」


 ────絶句した。


 声を出すことすら許されず思考が弾ける。
 その名前はひどく聞き覚えがある。忘れるはずがない、心の奥底にこびり付いて離れない男の名前。
 心を黒に染めねばと決意を固めさせた存在。英傑の槍越しに彼を貫いた感覚を思い出し、腕に痺れをもたらす。

 運命とは残酷なものだ。
 想いを馳せるように天井を見上げるエアリスの顔から視線を逸らし、躊躇いの末にマルティナは重い口を開いた。

「エアリス。そのザックスっていう人は────」

 瞬間、ガタンと大きな音が彼女の肩を跳ねさせた。
 椅子から立ち上がりこちらを睨むミリーナと目が合う。ハッ、と思考を現実に戻された。

「外を見てくるわ。マルティナはここでその子を見張ってて」

 家屋を後にするミリーナへと無言の了承を示し、彼女の背中を見送ったマルティナは歯噛みする。

(私は…………エアリスに何を言おうとした?)

 ちらりとエアリスに視線を投げる。
 遮られたマルティナの言葉の意図を汲めずにいたのか、首を傾げる姿にすこし安堵した。

(伝えるべきだと思ったから? ……いいえ、ちがう。そんな高尚な理由じゃない)

 あのザックスという男は少年を護って死んだ。闇に染まりきることも出来ずにいたマルティナからすれば、彼は眩しすぎるほど立派な光だった。
 エアリスはそれを知らない。ザックスがどのように死んだのか、そしてその下手人が誰なのかも知らないのだ。

 もしも、もしも。

 自分がエアリスと同じ立場でイレブンが人知れず死んだと伝えられたのなら────きっと血眼になってでも彼の死を知りたがるはずだ。
 なら、エアリスを不憫に思って彼を殺めたのは自分だと伝えようとしたのか?
 それがせめてもの情けだと、地に落ちたと思っていた良心から真実を打ち明けようとしたのか?

 ちがう。
 マルティナはそこまで人間を捨てられていない。


(私は────楽になりたかっただけなのね)


 胸をざわつかせる不快な罪悪感を少しでも軽くしたかった。
 いっそエアリスから責め立てられれば、それを口実に謝罪ができたかもしれない。人殺しをした自分を裁くことで〝マルティナ〟の心を守れただろう。

 だがそれは逃避だ。
 それを口にしたところでどうせ外れた人道を正す気などないのだから、ただ一時重荷を降ろすだけに過ぎない。もう一度それを背負い直すのがどんなに苦痛か知っているはずなのに。
 結局、体良くエアリスを使って懺悔する時間が欲しかっただけなのだ。

「なんでもないわ」
「……? そう」

 それ以降、マルティナからエアリスに会話を振ることはなかった。



◾︎



 Nの城に一人足を進めるミリーナの表情はお世辞にもご機嫌とはいえなかった。
 片眉を吊り上げ口を歪ませる姿は憤りを抑えるかのよう。今ミリーナの脳を支配するのは先の女二人への不快感だった。それも言い表せようのないほどの。

(……くだらない。傷の舐め合いなんて)

 放送で誰々が呼ばれた。
 初恋の人がどうだ、大切な仲間がどうだ。

 全てが不快。
 有益な情報交換でもない慰め合いなんて、殺し合いを生き抜く上でまったく必要ない。
 人質の立場を弁えないエアリスは勿論だが、ことを理解せずザックスの情報を洩らそうとしたマルティナへどうしようもなく腹が立った。

 外の散策なんて表面上の理由に過ぎない。
 ミリーナはあの空間から逃れたかったのだ。

「なん、なのよ……っ! 私が、馬鹿みたいじゃない……っ!」

 殺し合いが始まってすぐ、天海春香を殺した。その後配られた名簿によって自分の知人が天海春香ただ一人だけだったことを知らされた。
 つまり、だ。放送を聞いたところで誰一人知り合いのいないミリーナは感情が揺れ動くことなどない。心の揺らぎは思わぬ隙となるため好都合だと思っていた。


 けれど、それは裏を返せば〝孤独〟である。


 知人も友人ももう存在せず、大切な人はこの世界にはいない。そんな中で地獄を生き残らなければならないのだ。
 弱音や本音を共有することもできず、本心を押し殺して悪魔のように振る舞うしかない。
 マルティナだってそのはずなのに心根にはイレブンという希望を抱え、仲間の死を嘆く人間らしさを見せつけてくる。それがまるでこの場に支えがあるかないかという決定的な違いを浮き彫りにするようで、不快感に身が捩れそうだった。

「私だって……っ! 好きで殺してるんじゃないのよっ!!」

 とどのつまり、嫉妬だ。
 ミリーナ自身無意識ではあったが、彼女は自分がこの会場でもっとも悲劇のヒロインだと思い込んでいた。

 唯一の知り合いを殺し、修羅の道を選んだ。
 けれど自分一人の力では敵わない相手ばかりで、同盟に選んだマルティナは自分とは対照的な存在。
 そんな地獄を生き抜いて優勝したとしても、イクスを救うという使命は残っている。当のイクス本人は己の努力を知る由もないし、ましてや労いや同情をしてくれることもないだろう。

 自分が一番可哀想だ、と。
 齢十八歳の少女という色眼鏡を抜いても、心の底からそう思い込んでしまうのも無理はなかった。


「……あれが、Nの城ね」


 遠目に奇抜な城が映る。
 ここまで遠くまで来るつもりはなかったのだが、どうやら相当考え込んでいてしまったらしい。
 もう少し近づいて様子を見てみよう。と、歩を進めるミリーナの鼓膜を少女の声が叩いた。


 ──ど、どうしようイレブン~!!


「──っ!?」

 慌てて傍の木に身を隠す。
 恐る恐る様子を伺えば、ふたつの人影が目に映った。格好を見るに十代半ばの男女らしい。傍らには魔物らしきものも二匹見える。
 立ち上がる黒煙から見て誤って草原を燃やしてしまったようだ。そちらに気を取られているのは幸運だと言える。

(……待って。さっき、イレブンって…………)

 思考に余裕が出来たためか、さきほどの少女の声が蘇る。
 聞き間違いでなければ青年のことをイレブンと呼んでいた。再度彼の姿を確認するため顔だけを木から覗かせる。

 ひらりと風に舞う茶髪のサラサラヘア。
 間違いない。マルティナから聞いていたイレブンの特徴と一致する。

(────まずい。このままマルティナとイレブンを会わせるわけにはいかない……!)

 もしもありのままのことをマルティナに伝えれば是が非でも彼女はイレブンと合流しよっとするだろう。
 そうなれば同盟は解消。今ここでマルティナを手放し、あまつさえ敵に回るとなれば非常に不都合だ。

 北上をすればきっと二人は出会う。
 ならば、南下する理由を作らなければならない。


 首輪探知機を使用した結果、Nの城付近の人数が思ったよりも多かったので一度南下をする。多少強引だがこれで押し切るしかない。
 いくらエアリスを人質に取ったところで多人数に通用するビジョンが見えないのだから、よほど不自然な動きをしない限りマルティナも怪訝に思うことはないだろう。

(悪いけど、まだ利用させてもらうわよ。マルティナ)

 辻褄を合わせるために首輪探知機を使用する。予想通り城付近にはかなりの反応があり、猛スピードでこちらに近づいてくる二つの光点もあった。何かの乗り物に乗っているのだろうか。

 その時、ミリーナは違和感を覚える。
 自分の位置を示す光点が重なって見えたのだ。よく目を凝らせばそれが重なっていたわけではなく、そう見えるほど近距離に反応があることに気がついた。


「────え」


 ミリーナの本能が警鐘を鳴らす。
 首輪探知機は役目を終えて画面を映さなくなった。見間違いを期待して確認することもできない。
 つまり──ミリーナ自身の目で確かめなければならないのだ。


 警戒を最大限に引き上げて振り返る。
 瞬間、ミリーナが捉えたのは帽子を深く被った少年の姿だった。


「こんにちは」


 まるで気配を感じなかった。
 一目で異常だとわかる。こんな状況で気軽に挨拶をしてくる少年など格好のカモのはずなのに、逆に捕食者を前にしているかのような威圧感にミリーナは冷や汗を伝わせた。

「それじゃあ、いきますよ」
「──な……っ!?」

 有無を言わさず少年はボールを二つ取り出し、閃光とともに顕現した二体のモンスターがミリーナを睨む。
 驚愕を呑み込み咄嗟に構えるミリーナへ、翠色の刃が襲いかかった。



◾︎



「さて、と。トウヤが来るのはそろそろでしょうかね」


 イレブンたちが後にした王の部屋。
 見慣れたその一室にて椅子に座るゲーチスは左手に持つモンスターボールを指でなぞる。

「それにしても……まさかここまで強力な〝駒〟が手に入るとは。やはりワタクシが王になるべきなのでしょう」

 ギギギアルとは違うもう一匹の手持ち。
 この城内をくまなく探索した結果見つけた戦利品だ。中身の確認はもう済ませている。

「お前には存分に働いてもらいますよ、カメックス」

 カメックス。
 イッシュ地方では滅多に姿を見ないポケモンだ。使い慣れぬポケモンにゲーチスは一度落胆はしたものの、カメックスのレベルは彼の見た中でも最高峰のものだった。
 相当なバトルを潜り抜けてきたのだろう。これならば下手なタイプ相性など覆す圧倒的なレベル差で叩きのめせるはずだ。

 ギギギアルと組み合わせればあのトウヤのオノノクスにも勝てる。
 欲を言えば空のモンスターボールを持て余しているためもう一匹手持ちが欲しかったが、ベルの言うヨーテリーのような使えないポケモンを手にしたところで無意味だ。それならば保留しておいた方が合理的だろう。

(それにしても……あのイレブンという男もポケモンを知らぬ様子でしたね)

 年端もいかぬ子供からの情報などハナから期待していなかったが、予想外の成果を得られた。
 まずイレブンがポケモンを知らず、代わりにランランのような魔物と呼ばれる存在と戦っていること。エアリスのような夢見がちな妄想と切り捨てることもできたが、実際に魔法を見てしまったのだから信じざるを得ない。
 ましてや実際にゲーチスはマテリアを使用したこともあるのだから尚更に。あながちエアリスの言葉も嘘ではなかったのかもしれないが、もはやどうでもいい。

(あのウルノーガという化け物も、彼と因縁があるようですからね。……信じ難いが、事実なのでしょう)

 話し下手なイレブンから聞き出せた情報はそこまで多くはないが、主催であるウルノーガは彼が倒し損ねたから復活してしまったのだと語っていた。
 それが事実ならば余計なことを、と毒づきたいがひとまず抑える。冷静に考えるのならば、あのウルノーガでさえ危険視するほどの存在を味方につけているのだ。

 対トウヤにおいてはベルの方がよほど利用出来ると思っていたが、そうとも限らないようだ。万が一にはイレブンにトウヤをけしかけることもできる。

 完璧だ。
 高揚感に包まれたゲーチスは笑みを堪えきれず、唇の左側だけ吊り上げて歪な哄笑を響かせた。

「ハハハハハハッ!! 今に見ていなさい、トウヤ……このワタクシを侮辱した罪、その身をもって償ってもらいますよ……!」

 思わず椅子から立ち上がるゲーチス。
 彼の描く計画に滞りはない。最初こそ苦汁を舐めさせられたが、運命はこのゲーチスに傾いている。


 しかし、その笑いはすぐに中断させられた。


「──な、なんだ……この音は!?」


 地響きに似た振動と共に響き渡る重い音。
 バラバラと風を切る音は室内のはずなのに鮮明に聞こえてくる。それがNの城の上空を踊るヘリの羽だと気付くのに時間を要した。


 好調なゲーチスにただ一つ、不都合な誤算があるとすれば今まさにこの状況と言わざるを得ないだろう。
 トウヤ以外の来客だから、ではない。そのヘリに乗っている人物が────もうひとりの〝チャンピオン〟だからだ。




【C-2/Nの城(王の部屋)/一日目 日中】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康、高揚感
[装備]:雪歩のスコップ@アイマス+マテリア(ふうじる)@FF7、モンスターボール(ギギギアル)@ポケモンBW
[道具]:基本支給品、スタミナンX(半分消費)@龍が如く、モンスターボール(カメックス)@ポケモンHGSS、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、野望を実現させる。
0.この音は……!?
1.Nの城を本拠地とする。
2.ポケモンやベルたちを利用して、手段は問わずトウヤに勝利する。

※本編終了後からの参戦です。
※FF7、ドラクエⅪの世界の情報を聞きました。
※ソニックのことをポケモンだと考えています。


【モンスター状態表】
【ギギギアル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.ゲーチスに仕える

【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:ハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま
[思考・状況]
基本行動方針:???


支給品紹介
【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
Nの城でゲーチスが発見したカメックス入りのモンスターボール。元の持ち主はレッド。
特性はげきりゅうで、覚えているわざはハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま。レベルは84。

※バイソン@GTAVはNの城付近に駐車してあります。




◾︎



「え、へへ…………イレブン、怒ってる?」
「…………」

 ふるふる、と力なく首を振るイレブンだがその顔はどこかやつれている。
 実際ベルに怒っているわけではない。例のごとく自分の不甲斐なさを恥じているだけだ。
 咄嗟に七宝のナイフによる海破斬で火を消し止めることは出来たが、貴重なMPを無駄にしてしまった挙句ベルを怖がらせてしまった。

 はずかしい。
 きっとあの火を前にした自分は傍から見ても慌てふためいて頼りなかっただろう。
 ベルは気にしているだろうか──伏せていた顔を上げてちらりと様子を伺う。


「ランラン、すごいねえ。前よりずっとたくましくなったかも!」


 いや、あまり気にしていなさそうだ。
 というより元からベルはイレブンを頼り甲斐のある騎士様だとは思っていないのだろう。話の合う友達だと認識しているのかもしれない。
 それはそれで嬉しいが、なんとなく複雑だ。飛び跳ねるランランを撫でるベルから視線を外し、晴天の空を見上げる。


「────……?」


 と、遠目に鳥のようなものが映った。
 しかし鳥と呼ぶには少しシルエットが大きい。おまけに羽音とは異なる風切り音が次第に近付いてきている。

「あれ、なんだろう」
「え~? ……うわ!? ヘリコプター!?」
「ヘリコプター」

 オウム返しをするイレブン。
 ヨーテリーのようなポケモンの名前だと思い込んだイレブンは近づいてくるそれをぼうっと見つめて心からの疑問を口にした。

「ボール、届くかな」
「? ……あ、もしかしてポケモンだと思ってる? あははっ! イレブンかわいい~!」

 え。と、噴き出す冷や汗と共に顔に熱が宿るのを感じる。
 どうやらポケモンではないらしい。ならヘリコプターとはなんなのだろう、という疑問よりも先にはずかしいという感情がイレブンの思考を蹂躙した。

「あ、顔隠した」

 実況をしないで欲しい、頼むから。
 殺し合いの場でヘリが飛んでいる。本来最大級に警戒すべきシーンだというのにまるで緊張感がない。見かねたポッドが機械音を鳴らした。

『警告:ヘリコプターに射撃機能が搭載されている可能性がある。警戒すべき』

 ハッと両手で覆っていた顔を上げる。
 見ればヘリコプターはもう自身の上空付近まで近づいていた。慌てて右手に魔力を宿す。この距離ならばライデインで迎撃できるだろう。
 少し不安げな表情を見せるベルを片腕で下がらせて空飛ぶ機械へ睥睨を飛ばす。しかし警戒とは裏腹に、予想だにしない出来事が降りかかった。



 ────うわあああ~!!



「え、え、えっ」
「ひ、人がっ! 人が降ってきたよ!?」


 狼狽するイレブンとベル。
 無理もない。ようやく緊張感を持ってなにが来るのかと警戒していたのに、あろうことか人が降ってきたのだから。
 しかも様子を見るに自分から落ちたわけではないらしい。情けない叫び声を上げて落下する人影に、おひとよしの二人は全力で〝救助〟に思考を注いだ。

「イレブン! たすけてあげて!」
「…………!」

 とはいえ一般的な少女であるベルにできることなどない。自分よりイレブンの方が助けられる可能性があると判断したベルはそう託した。
 事前準備がある状態ならば道具を使って受け止めることもできたかもしれないが、咄嗟の判断が求められる状況では悠長にしていられない。

 身体で受け止める?
 いや、高度が高すぎてお互い無事では済まないだろう。ルーラも制限が掛けられている以上期待できない。
 バギ系の呪文なら風によって落下の衝撃を緩和できたかもしれないが自分には使えない。結果、イレブンが導き出した答えは──

「ポッド、助けてあげて……!」
『了解』

 繋がれたバトンは結果的に飛行能力を持つポッドが受け取った。
 あれ、自分は必要だったのか? なんて疑問を一瞬抱いたが気付かないふりをした。

「うわぁぁ~~っ!! うわ、うわっ!?」

 落下する少年へ向かうポッド。
 小さな腕で彼の服を摘みあげる。正確な動作によって突如浮遊感が消え去ったことに少年は別の悲鳴が上がるが、ゆっくりと近づく地面を見てひとまず助かったのだと理解した。
 このまま下ろしてくれるのだろうか。極限状態を乗り越え冷静になった思考。状況確認のために周囲を見渡し──

「ぶべっ!?」

 視界が地面と激突した。
 話が違う。丁寧に下ろしてくれることを期待したのにぞんざいな扱いだ。とはいえ命の恩人に文句を言う気も湧かず、痛む身体に鞭打ち起き上がる。
 と、不安げな……申し訳なさそうな。いたたまれない顔をしたイレブンと目が合った。

「あ、あんたが助けてくれたのか? ありがとう! 本当に死ぬかと思ったよ!!」
「う、うん……大丈夫ならよかった……」
「本当によかったよ~! あ、ねえねえ! あなたの名前おしえて!」

 ぐい、と二人に割って入るベル。
 にこにこという擬音がこれほど似合う少女はいないだろう。そんな彼女に気圧された少年は乱れた帽子を被り直し、すぅっと息を吸った。

「俺はレッド! Nの城に用があって来たんだ。あんたらは?」
「あたしはね、ベルっていうの! こっちはイレブン!」
「…………よろしく、お願いします」

 かくして名乗りを終えた三人。
 危険人物に囲まれながらも奇跡的に合流できた彼らは、互いの情報を交わしながらNの城へと足取りを進めた。


【C-2/Nの城付近 草原/一日目 日中】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP4/5、恥ずかしい呪い
[装備]:七宝のナイフ@ブレワイ、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@ニーア
[思考・状況]
基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい
1.レッドと話をする。
2.ブルー以外の他のオーブを探す。
3.ひとまずNの城を拠点にする。

※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポケモン世界の情報を得ました。

【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:気疲れ(小)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
1.イレブンについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。
3.レッドって、なんか聞き覚えあるかも……。

※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ドラクエ世界の情報を得ました。

【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】
[状態]:全身に火傷、疲労(大)、左腕に深い咬傷、無数の切り傷 (応急処置済み)
[装備]:モンスターボール(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、ランニングシューズ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー、モンスターボール(オーダイル)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こんな殺し合い止める。
1.イレブンと話をし、Nの城でピカを回復させる。
2.トレバーへの警戒心。何が目的なんだ!?

※支給品以外のモンスターボールは没収されてますが、ポケモン図鑑は没収されてません。
※シロガネやまで待ち受けている時期からの参戦です。


【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康、MP消費(小)
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ・ギラ・メラミ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.ベルに褒められて嬉しい。

※トレバーとの戦闘を経てレベルアップしました。

【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???

※Eエンド後からの参戦です。

【ピカ(ピカチュウ)@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:HP 1/3、背中に刺し傷
[特性]:せいでんき
[持ち物]:アンティークダガー@Grand Theft Auto V(背中に刺さっています。)
[わざ]:ボルテッカー、10まんボルト、でんじは、かげぶんしん
[思考・状況]
基本行動方針:レッドと共に殺し合いの打破
1.睡眠中

【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.ようやっと城についたか。
2.元のご主人(シルバー)はどこなんだ?




◾︎




「……遅いわね」

 ミリーナが出てから既に一時間以上経過している。
 軽く辺りを散策するにしては長い時間だ。ぽつりと零したマルティナに一抹の不安がよぎる。

「心配しているの?」
「ええ。彼女の身が危ういということは、私たちにも危険が迫っているということだから」

 それが本心か否か確かめる術はない。
 しかしエアリスにとってはミリーナがいないこの状況はありがたい。まだマルティナならば話を聞いてくれる可能性がある。
 実力はマルティナの方が上なのかもしれないが、隙をつけるかどうかでは話が違ってくる。画策の下、エアリスは己の腕を突き出した。

「ねぇ、これ解いてくれない?」
「……なぜ?」
「食事がしたいの。ここに来てから何も食べてないわ」

 じろりと睨むマルティナの目に一瞬どきりとしたが、少しの沈黙のあと手枷が外された。
 長らく縛られていたせいで手首が痛む。赤い跡を軽く擦りながら辺りを見渡した。

(道具は全部没収されてる……けど、マテリアはあそこね。邪気封印で動きを止めて、スリプルで眠らせれば────)

「ありがとう、マルティナは食べなくていいの?」
「私はもう済ませたわ」
「そう……悪いけど私のバッグを取ってくれない? その中にごはんがあるの」
「そうね、構わないわ」

 自分の支給品を取りに行くためマルティナが背を向ける。少なくともこの瞬間、彼女は気を弛めているはずだ。


 ────今だ。このタイミングしかない。


 溢れんばかりの魔力を両手に集中させ、邪気封印の狙いをマルティナの背中へと定めた。


「やめておきなさい」


 エアリスの思惑は露と消える。
 なぜ、マルティナはまだ背中を向けているはずなのに。この瞬間エアリスは彼女への認識を改めざるを得なかった。

「今の私に油断はないわ。さっきまでと違ってね」
「……っ!」

 なにがきっかけなのかわからないが、マルティナはさきほどまでの雰囲気とは一線を画している。
 自分と会話を重ねていた時間が懐かしく思えるほどだ。蛇に睨まれた蛙のように身動きを封じられたエアリスは、目前に投げられるデイバッグに視線を移すことしかできなかった。

「どうぞ」

 数瞬の静寂。
 作戦が呆気なく散ったことに落胆の色を見せるエアリスはもはや食事なんてする気にもなれず、口を噤んだ。

「あら、食べないの?」
「……ううん、いただきます」

 半ば脅される形で食料品の入ったパックに手をつける。中からは肉汁の滴る骨付き肉が出てきた。
 世間的に見れば当たりなのかもしれないが正直嬉しくはない。今は何を食べても同じ味に感じるだろうから、もっと食べやすいものがよかった。
 形式だけの食事を早めに済ませようと口元へと運ぶ。口を開いた瞬間、勢いよくドアが開かれ驚いたエアリスは骨付き肉を落としてしまった。


「────ミリーナ!?」


 マルティナの声に釣られるようにドアの方へ視線を向ける。ミリーナの姿を見た瞬間、マルティナが声を荒らげた理由を理解した。
 壁にもたれかかり、息を乱すミリーナの華奢な身体には幾箇所にも及ぶ切り傷が目立つ。刃物で切りつけられたような傷とは別に、必死で走ってきたせいか転んだような擦り傷が足を中心に広がっていた。

「マル、ティ……ナ……」
「誰にやられたの? とりあえずここで治療しましょう」
「……そんな、悠長なこと……言ってられないわよ!」

 肩を支えようと近寄るマルティナへ苛立ちをぶつけるような一喝を浴びせ、ミリーナはエアリスのデイバッグを乱暴に拾い上げる。
 あ、と漏らした声は届かない。慌ただしく支度を整えるミリーナへマルティナは怪訝そうに顔を顰めた。

「ミリーナ、どうしたの? ちゃんと説明をして」
「うるさい! ……いえ、ごめんなさい。……とりあえず南下しましょう。Nの城は危険よ」
「その傷も城の人間にやられたの?」

 こくり、と頷くミリーナ。
 ならば自分が行けば戦えるのではないか。人質のエアリスもいる今優位に立ち回れるはずだと申し出たが有無を言わさず却下される。

「私を攻撃したやつは……とても、話の通じるやつじゃなかった……! 人質なんて意味ない! それに、そいつだけじゃなくて他にも大勢いるのよ!」
「徒党を組んでいたということ?」
「……ちがうわ。首輪探知機を使ったのよ。そいつの近くにも五、六個反応があったわ」
「…………そんなに」

 具体的な数を聞いたマルティナは眉を顰める。ミリーナがこれほど言う相手がいるのに加えてそこまで多数の参加者がいるとなるとリスクが大きい。
 イシの村を目指したかったが、道のりが険しすぎる。反発する理由の見当たらないマルティナは自身も支度を整え、武器代わりのポールを手に取った。

(Nの城……ゲーチスの向かった場所ね。……そんな危険なところなんて)

 一人、支給品を再度奪われたエアリスは思考を巡らせる。Nの城は目的地のひとつとして候補に入れていたが、話を聞く限り相当危うい。
 ゲーチスの身を案じるが、もう自分の手の届く範囲にはいない。監視を緩めるつもりもないのだろう。ミリーナとマルティナに挟まれる形で民家からの退去を強制させられた。



◾︎



 南へ下る三人。
 先頭を歩くミリーナの足は落ち着かない。後続の二人のことなど考えない競歩じみた足取りだ。
 当然だ、今の彼女に他人を気遣う余裕などない。それほどまでにミリーナは心身共に消耗していた。


(────逃げるので精一杯だった……! なんなの、あの子供……っ!)


 思い返す。

 あの帽子の少年との邂逅。最初こそ反撃を試みようとしていたが、頭数でも実力でも敵わずまるで太刀打ちできなかった。
 逃走に全力を注いでこのザマ。あんな年端もいかぬ少年に蹂躙されたという揺るぎない事実がなけなしのプライドを傷つけた。
 もしかして自分が敵う相手などほとんどいないのではないか。本気でそう思わせられたことへ行き場のない怒りが暴発寸前の地雷の如く熱を帯びる。

(……まぁ、いいわ。おかげでマルティナを説得する手間が省けた……)

 そう思わないとやっていられないとばかりに負の思考を無理やり正す。
 状況的にあの少年は城を目指していると考えるのが自然だ。となれば探知機に反応した数多の参加者たちとも接触するだろう。イレブンもその中に含まれるはずだ。
 せいぜい潰し合えばいい。そうであってくれと切に願う。

(今に見てなさい……! 絶対、絶対に……生き延びてやるわ……っ!)

 もはやなにもかもが鬱陶しい。
 マルティナも、エアリスも。都合よく使い潰した挙句に切り捨ててしまおう。

 それぐらい許されるはずだ。
 自分は一番不幸な少女なのだから。
 人の心を持ち合わせていたところで価値なんてない。なにもかも利用して、生き残ってやる。


 この瞬間、ミリーナ自身も気づかなかった。
 イクスを救うためという目的が、自分を正当化するための免罪符となっていることに。




【C-2/D-2付近/一日目 日中】
【ミリーナ・ヴァイス@テイルズ オブ ザ レイズ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、全身に擦り傷、苛立ち(大)
[装備]:魔鏡「決意、あらたに」@テイルズ、プロテクトメット@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品×2、不明支給品0~2、首輪探知機(一時間使用不可)@ゲームロワ、王家の弓@ブレワイ、木の矢(残り二十本)@ブレワイ
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1.トウヤから逃げるため、そしてマルティナとイレブンを会わせないために南下する。
2.マルティナと共に他の参加者を探し、殺す。
3.エアリスを人質として利用する。
4.イレブン以外のマルティナの仲間を、マルティナに殺させる。その方法は具体的に考えておきたい。
5.マルティナのことは残り二十人前後で切り捨てる。現状は様子見。

※参戦時期は第2部冒頭、一人でイクスを救おうとしていた最中です。
※魔鏡技以外の技は、ルミナスサークル以外は使用可能です。
※春香以外のアイマス勢は、名前のみ把握しています。


【マルティナ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:ダメージ(小)、左脇腹、腹部に打撲
[装備]:ポール@現実
[道具]:基本支給品、キメラの翼@ドラクエⅪ、折れた光鱗の槍@ブレワイ、ランダム支給品(0~1個)
[思考・状況]
基本行動方針:イレブンと合流するまでミリーナと協力し、他の参加者を排除する。
1.心を黒に染める。
2.ミリーナと共に他の参加者を探し、殺す。
3.エアリスを人質として利用する。
4.カミュや他の仲間も殺す。

※イレブンが過ぎ去りし時を求めて過去に戻り、取り残された世界からの参戦です。イレブンと別れて数ヶ月経過しています。


【エアリス・ゲインズブール@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:MP消費(小)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:バレットや信頼出来る人を探し、脱出の糸口を見つける。
1.マルティナとミリーナから逃げるチャンスをうかがう。
2.千早を捜索したい。カームの街とNの城は一旦後回し。
3.セフィロス、および会場にあるかもしれない黒マテリアに警戒
4.クラウド、ティファ、ザックス……。

※参戦時期は古代種の神殿でセフィロスに黒マテリアを奪われた~死亡前までの間です。
※ゲーチスからポケモンの世界の情報を聞きました。





◾︎





「……逃げられたか」


 鬱蒼と茂る木々の中、少年の声が溶ける。
 無機質という言葉はこのために存在しているのだろうと思わせるそれは、敢えて色を付けるのであれば〝落胆〟だ。
 言うまでもなく矛先はいましがた逃したミリーナという獲物に対して。

 追う気分になれない。
 不可能だからではない。追ったところで自分を満足させられるとは到底思えなかったから。
 魔法という未知の攻撃に最初こそ興味を示したものの、冷静に見極めてしまえば脅威ではなかった。身も蓋もないことを言ってしまえばポケモンのわざに似たことを人間がしているだけなのだから。

「まぁ……少しだけ勉強になったかな。それよりも────」

 木々の隙間を縫うように向けられた視線の先には、やはりというべきか見慣れた城が鎮座している。
 戦いの影響で移動してしまったため遠ざかってしまった。どうやら目を離している間に状況が変わっているようで、城の上空にヘリコプターが飛行しているのが見えた。

 その下では人影が二つ。遠目でも片割れがベルであることに気がついた。生存していることは放送で知っていたが、まさか邂逅することになろうとは。
 とはいえ彼女にバトルセンスは期待できないし、今はポケモンの治療がしたい。視線を外そうとした瞬間、情けない叫び声が鼓膜を刺激した。

(…………あれは)

 見れば少年がヘリから落下している。
 年は自身とそう変わらないだろう。急速に地面に落ちてゆくその姿は一瞬しか見えなかったはずなのに、トウヤは確信する。

「……ふっ、……」

 思わず笑みを漏らす。
 まさか本当にこの場に集まるとは。それもほぼ同じタイミングで。これを偶然と片付けるには少し勿体なく感じる。
 間違いない────神が見たがっているのだ。チャンピオン同士の戦いを。


「先に待ってますよ、レッドさん」


 それだけを言い残し、トウヤは踵を返す。
 向かう先は当然Nの城──押し寄せる高揚感に鳥肌が立つ。こんな感覚は久しぶりだ。
 膨らむ期待が少年から落ち着きを奪う。躍る心を止める術が見当たらない。



 それは、荒れ狂う風のように。
 それは、燃え盛る炎のように。



 枯れたはずの大地は、命の芽吹きを報せた。




【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷(小)、高揚感(大)、疲労(大)、帽子に二箇所の穴
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケモンBW、モンスターボール(ジャローダ)@ポケモンHGSS、チタン製レンチ@ペルソナ4  
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケモンBW、カイムの剣@DOD、煙草@MGS2、スーパーリング@ドラクエⅪ
[思考・状況]
基本行動方針:満足できるまで楽しむ。
1.Nの城でポケモンを回復させ、レッドを待つ。
2.自分を満たしてくれる存在を探す。
3.ポケモンを手に入れたい。強奪も視野に。

※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
※名簿のピカチュウがレッドのピカチュウかもしれないと考えています。


【ポケモン状態表】
【オノノクス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:HP1/8
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.ジャローダと話がしたい。

【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]HP:1/10  人形状態
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:もうどうでもいいのでトウヤの思うが儘に
1.???


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127:Lacquer Head 時系列順 129:クロス八十神物語
投下順
114:これから毎日小屋を焼こうぜ? ゲーチス 131:タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風
イレブン
ベル
127:Lacquer Head レッド
117:強い女 マルティナ
ミリーナ・ヴァイス
エアリス・ゲインズブール
116:シルバームーン トウヤ 131:タイプ:ワイルド ──赤い炎、緑の風


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最終更新:2025年06月05日 21:26