はずかしい。ああはずかしい。
──少年は走った。
はずかしい。ううはずかしい。
──先ほど上手く話せなかったゴーレムのような男を探して。
はずかしい。ひゃあはずかしい。
──周りの様子もよく分からない森の中を走り続けた。
はずかしい。きゃあはずかしい。
──そこで、ようやく少年は気付いたのだった。
はずかしい。はずかしい。
どうやらダルケルを追いかけるには、方向を間違えていたらしい。
『はずかしい呪い』に侵されたイレブンは一人相撲で全力疾走していたことへの恥ずかしさに顔をサッと覆う。
あの巨体だからすばやさはそう高くないはず。少し走って追いつけないのなら方向が違うのだというくらい気づけそうなものなのに、追いかけるのに夢中でそのようなことは考えておらず、かなりの距離を走っていた。はずかしい。なんてはずかしい。
さて、どこまで走ってきたのだろうか。
周りをキョロキョロと見渡してみるものの、木々ばかりで目印となりそうなものは見当たらない。
仕方なく地図を開き、「北の廃墟から走ってきて、未だに森の中なら今はだいたいこの辺りか……」と自分の大まかな居場所の目星をつける。
(さすがにもうあの巨人には追いつけないだろうなあ……)
ナイトゴーストのマジックバスターによってMPが空っぽになっているイレブンとしては、是非ともダルケルに追い付いてエルフの飲み薬を頂きたいところだったのだが、見失っては仕方ない。
とりあえずは安全そうな場所で休息を取ろうと決めた。
さすがに眠るわけにはいかないので元の世界での宿屋や女神像のようにMP全快とまではいかないだろうが、休息をとればいくらかは回復するだろう。
地図によると、近くには自分の故郷であるイシの村が近くにあるようだ…………
ってそんなはずがない。イシの村が位置するのはデルカダール地方の南部。こんなところにあるはずがない。
こんな間違った地図を堂々と支給してウルノーガははずかしくないのか。
しかし最初の会場で感じたウルノーガの魔力が、以前戦った時よりも大きくなっていたのは事実。もしかしたら町一つを丸ごと移動出来るような芸当もできるかもしれない。
もしイシの村ごとこの殺し合いに巻き込まれたのなら、幼なじみのエマも巻き込まれているかもしれない。まずはイシの村を目指そうとイレブンは決めた。
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「ねえランラン、あの森まで競走しようよ。」
「…………?」
ポケモントレーナーになりたての少女ベルは、傍らのモンスターと共に予定とは違う冒険に踏み出していた。
それでも彼女は変わらない。
ポケモントレーナーとして、『ポケモン』と共に旅をする。
それは彼女の世界の常識だ。
まだ他の参加者と出会っていないこともあり、ベルにとってこの殺し合いの世界は今や元の世界の旅の延長上。
彼女は隣にいるモンスター【ランタンこぞう】をポケモンの一種だと思っている。
「ポケモン図鑑があればキミのこともっと分かるのにねえ。」
「…………」
「まあいっか。じゃあ行くよお。よーい、ドン!」
「…………!?」
ベルは陽気に走り出す。
ランタンこぞうは突然走り出したベルの行動に驚きながらも、ふよふよと漂いながらベルの背中を追いかける。
元の世界の相棒、ポカブのポカポカを探さなくてはならない。
自分が殺し合いに巻き込まれた時に両隣にいたトウヤとチェレンも巻き込まれているのなら、2人も探さなくてはならない。
することはたくさんあるけど、とりあえず今は目の前のパートナーとの絆を深めたい。
追いかけっこはそのためにベルが始めた遊びであった。
友達と一緒にポケモンを貰ったら、そわそわを抑えきれずにすぐ戦わせてみたり。次の町に着くまでに何匹ポケモンを捕まえたか勝負してみたり。
こういった競争ごとというのは絆を深める──少なくともベルはそう思っているのだった。
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ちょうどイレブンは、エマのことを思い出していた。
16年間、一緒に育ってきた幼なじみのエマ。
デルカダール王に化けていたウルノーガの策略でイシの村が滅ぼされて以来、彼女の行方はしばらく分からなかった。
無事に再会出来た時はどれだけ嬉しかったことか。
あの時だけは、「はずかしい」の気持ちを忘れられていた気がする。
もし彼女もここに招かれているのなら、何としても自分が守らないと……
そう決意した、その時だった。
「きゃー!!」
木々の奥から聞こえてきた、女の子の悲鳴。
そして……木々の間からふと見えた、魔物に追い掛けられているように見える暗闇でも目立つ金髪の女の子。
夜の暗さで顔はハッキリ見えなかったため、イレブンは最悪の想像をした。
「エマ!!」
イレブンは弾かれたように、女の子の前に立ち塞がる。
「えっ……?」
「…………!」
突然自分とベルの間に立ち塞がったイレブンに対し、ランランはベルを守るためにメラを放つ。
小さな火球がイレブンの胴を焼いた。しかしそんな攻撃、かの邪神ニズゼルファの放つ終末の炎をいなしながら倒してきたイレブンにとってダメージとも呼べないものであった。
「エマから……離れろッ!」
イレブンはランランに向けて一喝する。
そしてイレブンはいつものように、その背に背負った勇者のつるぎを引き抜き────あっ………
……その右手は空を掴んで引き抜いた。その時イレブンは、自分の装備品が全て没収されていたことを思い出した。
はずかしい。
まったくもってはずかしい。
──イレブンはなんだかはずかしそうだ!
「やめたげてよお!」
……結局ベルの一声で、動けないイレブンと勝てないランランの戦いは仲裁されることとなった。
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「そっか!私がこの子に襲われてると勘違いしたんだよね!」
事情を察したベルが話しかけるも、イレブンからの返事は帰ってこない。
元々はずかしい呪いのせいで誰かとまともに話すのは苦手なのだ。
さらには夢中で「エマから離れろ」なんて叫んでしまったのを見られたこと。早とちりをしてしまったこと。色々な要因でイレブンの思考は『はずかしい』で埋め尽くされてしまった。
「えへへ、ごめんねえ、紛らわしかったよね。」
どうやら最初の悲鳴は恐怖による悲鳴ではなく、ランタンこぞうと一緒に走っていることでの歓喜の悲鳴だったようだ。
その点に関してはイレブンはこの上なく安心している。
しかしそれとこれとは話が別だ。
ダルケルに話しかけられた時のように、イレブンは完全にフリーズしてしまった。
「あれ?どうしたの?」
これでは駄目だ。
ダルケルの時の二の舞だ。
頭では理解しているものの、イレブンは動けないし話せない。
「もしかして……怒ってるの?」
きっと彼女も、ダルケルのように痺れを切らしてこのまま自分の元を去るのだろう。
「ねえ、返事してよお。」
「えっとねぇ、私はベルっていうの。ついさっきポケモントレーナーになったばっかりなんだよお。」
「あ、それとねそれとね。トウヤとチェレンっていうお友達がいるの!」
「トウヤは優しくって、私が遅刻してもいっつも笑ってくれるんだあ。」
「チェレンはね、すっごくクールで物知りでねえ。でもたまに私に厳しい時もあるの。」
「そんな2人は、私のすっごく大事なお友達なんだよ!」
「それとねそれとね、この子はランランっていうんだけど…………………」
…………前言撤回。
ベルのマイペースは無敵だった。
イレブンの元を決して離れず、何分間でも話し続ける。
「…………あの」
そして長い長い時間が経過した後、ついにイレブンは口を開くことが出来た。
「………喋るの、はずかしい………」
その言葉がベルに届いた時、彼女の顔がぱあっと明るくなった。
「なーんだ!よかったあ、無視してるんじゃなかったんだね!」
伝えられた。
ようやく自分の意思を伝えられた。
それだけで、イレブンはどこか感動を覚えた。
「えーと、ゆっくりでいいよぉ。お名前教えて?」
「…………イレ…ブン。」
「えへへ。イレブン、よろしくね。」
イレブンはエマと初めて出会った時のことを思い出していた。
かつてのエマもこのように、自分がコミュニケーションが苦手であることを理解してくれて、話のペースを合わせて根気強く付き合ってくれた。
ダルケルとは上手くいかなかったけれど、この子とならある程度しっかり話ができる気がする。
「あっそうだ!さっきイレブンが言ってた、エマってだぁれ?」
…………再び前言撤回。
はずかしい。やっぱりはずかしい。
【A-3/森/一日目 黎明】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:HP減少(微小) MP0 恥ずかしい呪いのかかった状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個、呪いを解けるものはなし)
[思考・状況] ああ、はずかしい はずかしい
基本行動方針:
1.イシの村で休み、MPを回復する
2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。
3.はずかしい呪いを解く。
※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランラン(ランタンこぞう)@DQ11 不明支給品0~2個
[思考・状況]
基本行動方針:
1.ポカポカ(ポカブ)を探す。
※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ランタンこぞうをポケモンだと思っています。
最終更新:2021年01月17日 12:13