Reach Out To The Truth(5) ◆dGUiIvN2Nw
◇◇◇
【??? 牢獄】
【??? 牢獄】
ゴールドはつい十分程前、突然牢屋から出された。
以前に牢屋へとやって来た男と、マルクの二人によってだ。
どうしたのかと聞いても、身体検査だとしか答えなかった。どこか二人とも気落ちしているようだったのは自分の気のせいだろうか。
マルクに自分の推理のことを話そうかとも考えたが、眼帯をした男が敵か味方か判断がつかなかったので止めておいた。
途中、いやずっと、何者かに殺意さえ感じる視線で睨まれているような気がしたが、結局それが誰だったのかは分からなかった。
しばらく歩かされ、髪の長い男の前で座らされると、杖を掲げられ、何かを入念に調べられた。奥の方でじっとこちらを見つめる女性がいたが、その底冷えする視線が恐ろしく、ずっと目を反らしていた。
以前に牢屋へとやって来た男と、マルクの二人によってだ。
どうしたのかと聞いても、身体検査だとしか答えなかった。どこか二人とも気落ちしているようだったのは自分の気のせいだろうか。
マルクに自分の推理のことを話そうかとも考えたが、眼帯をした男が敵か味方か判断がつかなかったので止めておいた。
途中、いやずっと、何者かに殺意さえ感じる視線で睨まれているような気がしたが、結局それが誰だったのかは分からなかった。
しばらく歩かされ、髪の長い男の前で座らされると、杖を掲げられ、何かを入念に調べられた。奥の方でじっとこちらを見つめる女性がいたが、その底冷えする視線が恐ろしく、ずっと目を反らしていた。
結局、彼らが探しているようなものは何も見つからなかったようで、すぐに牢屋へと帰されることとなった。ゴールドは、自分よりも先に連れられて行った二人が気になり、彼女達の安否を聞いたが、誰もその質問に答える者はいなかった。
牢屋へと戻り、今回のことが何かを調べるためだということまでは考え至ったのだが、その先はどうにもわからなかった。一体何を調べていたのだろうか。まさか自分の身体に爆弾でも仕込まれていたとでも考えているのだろうか。
ゴールドは、そんなことを思いながらどこか不安な気持ちを抑えられないまま、二人を待っていた。
しばらくすると、部屋へと入って来る者がいた。ローザか輝夜だろうと思って覗いたが、そこに二人の姿はなかった。
代わりに、銀の髪をした美しい女性がいた。彼女は肩を怪我しているらしく、眼帯の男に支えられてこの牢屋へと入れられた。
「少年」
突然その男に呼ばれ、思わず身構える。
「彼女が苦しんでいるようだったら、すぐに呼んでくれ。少し叫べば気付く所にいる」
それだけ言って、男は出て行った。
……もしかしたら、彼もマルク同様、良い人なのかもしれない。
「……う…く……」
苦悶の表情を浮かべる彼女を慌ててゴールドは介抱した。
巻かれた包帯からは痛々しく血が滲んでいる。
とりあえず横にして、毛布をかけてやると、幾分かマシになったのか、呻き声は聞こえなくなった。
「大丈夫? 僕はゴールド。何か用があればいつでも言って」
優しく声をかけるも、彼女は口を開こうともしない。喋れない程に衰弱しているわけではなさそうだが。
しかし、こういった場合はそっとしておくに限ると思い、それ以上は何も言わなかった。
牢屋へと戻り、今回のことが何かを調べるためだということまでは考え至ったのだが、その先はどうにもわからなかった。一体何を調べていたのだろうか。まさか自分の身体に爆弾でも仕込まれていたとでも考えているのだろうか。
ゴールドは、そんなことを思いながらどこか不安な気持ちを抑えられないまま、二人を待っていた。
しばらくすると、部屋へと入って来る者がいた。ローザか輝夜だろうと思って覗いたが、そこに二人の姿はなかった。
代わりに、銀の髪をした美しい女性がいた。彼女は肩を怪我しているらしく、眼帯の男に支えられてこの牢屋へと入れられた。
「少年」
突然その男に呼ばれ、思わず身構える。
「彼女が苦しんでいるようだったら、すぐに呼んでくれ。少し叫べば気付く所にいる」
それだけ言って、男は出て行った。
……もしかしたら、彼もマルク同様、良い人なのかもしれない。
「……う…く……」
苦悶の表情を浮かべる彼女を慌ててゴールドは介抱した。
巻かれた包帯からは痛々しく血が滲んでいる。
とりあえず横にして、毛布をかけてやると、幾分かマシになったのか、呻き声は聞こえなくなった。
「大丈夫? 僕はゴールド。何か用があればいつでも言って」
優しく声をかけるも、彼女は口を開こうともしない。喋れない程に衰弱しているわけではなさそうだが。
しかし、こういった場合はそっとしておくに限ると思い、それ以上は何も言わなかった。
「シルバー……」
突然、彼女の口から自分のライバルの名前が出た。思わず彼女の方を見つめる。
しかし彼女は、こちらを見ようともしなかった。
「シルバーが、どうかしたの? いや、それ以前に、どうして君はシルバーを知って────」
「死んだわ」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「ここの同居人、ローザっていう女性がいるのよね。彼女が愛するセシルと友人であるカイン。この二人は殺し合いに乗っている。そして、リディアという子はもう死んだ。カインに殺された」
「ちょ、ちょっと待って!! それ、どういうこと!?」
冗談とは思えない。嘘とも思えない。
こんなところで、冗談も嘘も言うメリットなんてない。
「他にもあるわよ。ジムリーダーであるタケシ、四天王であるキョウが死んだ。そして、レッドが殺し合いに乗った。タケシの死は、ほとんどレッドによるものよ」
信じ難い事実がどんどん顕わになっていく。確かに自分は、情報が欲しかった。ここから抜け出すために、どうにかして外の情報が欲しかった。それが思いがけず得られたわけだが、その事実がこれほどまでに重いものだとは思ってもみなかった。
突然、彼女の口から自分のライバルの名前が出た。思わず彼女の方を見つめる。
しかし彼女は、こちらを見ようともしなかった。
「シルバーが、どうかしたの? いや、それ以前に、どうして君はシルバーを知って────」
「死んだわ」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「ここの同居人、ローザっていう女性がいるのよね。彼女が愛するセシルと友人であるカイン。この二人は殺し合いに乗っている。そして、リディアという子はもう死んだ。カインに殺された」
「ちょ、ちょっと待って!! それ、どういうこと!?」
冗談とは思えない。嘘とも思えない。
こんなところで、冗談も嘘も言うメリットなんてない。
「他にもあるわよ。ジムリーダーであるタケシ、四天王であるキョウが死んだ。そして、レッドが殺し合いに乗った。タケシの死は、ほとんどレッドによるものよ」
信じ難い事実がどんどん顕わになっていく。確かに自分は、情報が欲しかった。ここから抜け出すために、どうにかして外の情報が欲しかった。それが思いがけず得られたわけだが、その事実がこれほどまでに重いものだとは思ってもみなかった。
(シルバーが死んだ? ぶっきらぼうで我が強くて、でもポケモンに対する愛情は人一倍強いあいつが? それにレッド。シロガネ山で切磋琢磨したあの人が、殺し合いに乗っているだって? あれほど心躍ったポケモンバトルはなかった。そう感じさせてくれたあの人が?)
ほとんど混乱に近い状態のゴールドに、永琳はしがみついた。
「姫が、いたでしょ。蓬莱山輝夜という。私が知る情報ならいくらでもあげる。だから、姫に会わせて」
「ま、待って。僕だって知らないんだ」
ようやく、それだけ返事することができた。だが、永琳はその言葉が聞こえていないようだった。
ゴールドの身体を揺すり、懇願を繰り返していた。
「お願い。お願いだから、姫と話を────」
突然、扉が開いた。
そこから入って来たのは輝夜でもローザでもない。イザナミだった。
ほとんど混乱に近い状態のゴールドに、永琳はしがみついた。
「姫が、いたでしょ。蓬莱山輝夜という。私が知る情報ならいくらでもあげる。だから、姫に会わせて」
「ま、待って。僕だって知らないんだ」
ようやく、それだけ返事することができた。だが、永琳はその言葉が聞こえていないようだった。
ゴールドの身体を揺すり、懇願を繰り返していた。
「お願い。お願いだから、姫と話を────」
突然、扉が開いた。
そこから入って来たのは輝夜でもローザでもない。イザナミだった。
「暗い顔してるね~」
いつもの軽口もどことなく重い。
永琳はゴールドから離れ、壁にもたれかかった。牢屋の外からイザナミが声をかけても、永琳は俯いた顔を上げることはなかった。
「……こんなことをしでかした理由、聞いてもいいかな?」
「あなたに言う必要はないわ」
ゴールドそっちのけで話し始める二人。しかし、彼らに割って入るほどの勇気をゴールドは持っていなかった。
それだけ、二人の間に流れる空気は重く暗いものだった。
「冷たいねぇ。……ま、いいけどさ」
イザナミは小さくため息をついた。
「君がどう思おうと勝手だけど、俺は君と敵対するつもりはなかった。できるだけ穏便に済ませたいと思ってた。だから内密に処理してたんだ。けど君は────」
「本当に、過小評価だったのかしら……」
ぼそりと呟く永琳。話の筋を完全に無視した言葉に、ゴールドは首を傾げた。
イザナミはじっと永琳を見つめるが、それ以上彼女の口から言葉が漏れることはなかった。
「……そうだ。おみやげがあるんだった。うん。とっておきのものだよ。少なくとも、そうして放心することはなくなると思うな」
そう言って、袋をがさごそと漁る。
そして、イザナミはそのおみやげを牢屋の前に置いた。
それを視認し、ゴールドは我が目を疑った。途端、胃の中にあったものが逆流する。慌てて口を押さえ、何とかそれを止めた。
「君がずぅっと会いたかった人との再会だよ。野暮な真似はしない。俺はさっさと消えるよ」
そう言うと、イザナミはすぐにその部屋を去って行った。まるで、逃げるように。
永琳はゆっくりと顔を上げた。
そこには美しい黒髪を靡かせた、蓬莱山輝夜の首があった。
絶叫が牢屋の中を木霊した。
いつもの軽口もどことなく重い。
永琳はゴールドから離れ、壁にもたれかかった。牢屋の外からイザナミが声をかけても、永琳は俯いた顔を上げることはなかった。
「……こんなことをしでかした理由、聞いてもいいかな?」
「あなたに言う必要はないわ」
ゴールドそっちのけで話し始める二人。しかし、彼らに割って入るほどの勇気をゴールドは持っていなかった。
それだけ、二人の間に流れる空気は重く暗いものだった。
「冷たいねぇ。……ま、いいけどさ」
イザナミは小さくため息をついた。
「君がどう思おうと勝手だけど、俺は君と敵対するつもりはなかった。できるだけ穏便に済ませたいと思ってた。だから内密に処理してたんだ。けど君は────」
「本当に、過小評価だったのかしら……」
ぼそりと呟く永琳。話の筋を完全に無視した言葉に、ゴールドは首を傾げた。
イザナミはじっと永琳を見つめるが、それ以上彼女の口から言葉が漏れることはなかった。
「……そうだ。おみやげがあるんだった。うん。とっておきのものだよ。少なくとも、そうして放心することはなくなると思うな」
そう言って、袋をがさごそと漁る。
そして、イザナミはそのおみやげを牢屋の前に置いた。
それを視認し、ゴールドは我が目を疑った。途端、胃の中にあったものが逆流する。慌てて口を押さえ、何とかそれを止めた。
「君がずぅっと会いたかった人との再会だよ。野暮な真似はしない。俺はさっさと消えるよ」
そう言うと、イザナミはすぐにその部屋を去って行った。まるで、逃げるように。
永琳はゆっくりと顔を上げた。
そこには美しい黒髪を靡かせた、蓬莱山輝夜の首があった。
絶叫が牢屋の中を木霊した。
◇◇◇
【??? 円卓】
【??? 円卓】
「……随分と勝手なことをしてくれたもんだね」
円卓会議。その椅子にどかりと座ってイザナミが言った。
「それはそなたの方だろう。あれだけのことをされておいて、何の処罰もしないなどと」
「その処罰がお姫様の処刑ってわけ? まったくふざけた話だよ」
永琳の処罰を決定したのはイザナミではない。だからこそ彼は怒りを感じているのだ。
「彼女の手は全て読んでいた。殺し合いの影響が少ないであろう時期に介入して破棄するつもりだった」
「ぬるい」
アスタルテは、イザナミの弁解をその一言で一蹴した。
「殺し合いに関しては俺に決定権があった。なのにあんたはそれを無視した。これはあんたの横暴だ」
「ならば他の者にも聞いてみるがよい。これは我々の総意であったはずだ」
少し間を置いて、ミュウツーの戸惑いがちな声が聞こえてきた。
────イザナミ。あなたの怒りも分からないではない。しかし、これは致し方ないことだ────
この円卓にいる者達にとって、永琳はイザナミの部下。その部下を勝手な判断で貶められたとなれば、イザナミの怒りもわかる。
イザナミが永琳の離反を伝える前に、アスタルテはセフェランからその情報を得ていた。八意永琳の重要性を説かれていたアスタルテは、それ故に彼女の大切な存在であるという蓬莱山輝夜を手にかけた。
それはほとんど彼女の独断と言ってもよかったが、確かにこれは円卓の総意ではあったのだ。
円卓会議。その椅子にどかりと座ってイザナミが言った。
「それはそなたの方だろう。あれだけのことをされておいて、何の処罰もしないなどと」
「その処罰がお姫様の処刑ってわけ? まったくふざけた話だよ」
永琳の処罰を決定したのはイザナミではない。だからこそ彼は怒りを感じているのだ。
「彼女の手は全て読んでいた。殺し合いの影響が少ないであろう時期に介入して破棄するつもりだった」
「ぬるい」
アスタルテは、イザナミの弁解をその一言で一蹴した。
「殺し合いに関しては俺に決定権があった。なのにあんたはそれを無視した。これはあんたの横暴だ」
「ならば他の者にも聞いてみるがよい。これは我々の総意であったはずだ」
少し間を置いて、ミュウツーの戸惑いがちな声が聞こえてきた。
────イザナミ。あなたの怒りも分からないではない。しかし、これは致し方ないことだ────
この円卓にいる者達にとって、永琳はイザナミの部下。その部下を勝手な判断で貶められたとなれば、イザナミの怒りもわかる。
イザナミが永琳の離反を伝える前に、アスタルテはセフェランからその情報を得ていた。八意永琳の重要性を説かれていたアスタルテは、それ故に彼女の大切な存在であるという蓬莱山輝夜を手にかけた。
それはほとんど彼女の独断と言ってもよかったが、確かにこれは円卓の総意ではあったのだ。
ゼロだけは何も言わず、ただ黙って事の成り行きを見守っていた。
イザナミはあからさまに舌打ちする。
「女神ちゃん。一つ忠告しておくよ。もしもこれ以上勝手な真似をするようなら、俺は全力であんたを潰すぜ。できない、なんてさすがに思わないよな」
「……当然だ。力の拮抗が円卓を成り立たせている。ここにいる誰もが、私を殺し得る。そこにいる人間以外は」
そう。ゼロだけは厳密に言えば神ではない。神の力を授かってはいない。
それはゼロ自身が固辞したことだ。
「……話はそれだけ」
言葉少なに、イザナミは円卓から席を立った。
イザナミはあからさまに舌打ちする。
「女神ちゃん。一つ忠告しておくよ。もしもこれ以上勝手な真似をするようなら、俺は全力であんたを潰すぜ。できない、なんてさすがに思わないよな」
「……当然だ。力の拮抗が円卓を成り立たせている。ここにいる誰もが、私を殺し得る。そこにいる人間以外は」
そう。ゼロだけは厳密に言えば神ではない。神の力を授かってはいない。
それはゼロ自身が固辞したことだ。
「……話はそれだけ」
言葉少なに、イザナミは円卓から席を立った。
部屋から出て、しばらく歩いたところで、ゼロがイザナミを呼び掛けた。
「これを返しておく」
そう言ってイザナミに手渡したのは防弾チョッキだった。神の加護を受けた防弾チョッキ。
イザナミは、永琳に離反の兆しがあるとあらかじめゼロに伝えていた。そして、その対策にこのチョッキを与えていたのだ。絶対に自分が説得する。これを着れば最悪の事態は免れる。だから少しだけ時間が欲しいと、イザナミはそう言ったのだ。
「……予想。外れて欲しかったよ」
防弾チョッキを受け取り、イザナミは苦笑する。
「仕方がない。過去というのは、どうしても付いて回るものだ」
八意永琳は月の民である。しかし、お姫様である蓬莱山輝夜を連れ、穢れ多い地上へと逃走した。自分が作ってしまった蓬莱の薬のために。
月の都。それを存続させるための犠牲として、永琳は生涯命を狙われるはめになった。世界を作る礎に、無理やり組み込まれた。
追手から逃げる毎日。その中で、彼女が世界を憎んだとしても何ら不思議ではない。どうして自分達だけがこんな目に遭っているのか。そう思い、“自分一人だけ世界を作り、他の全てを抹消しようと考える”のも、分からないではない。
イザナミから防弾チョッキを渡された時、永琳の過去を聞かされたゼロが抱いた感想がそれだった。
「今回のことは心から同情する。もし何かできることが────」
「おいおいおっさん。いきなりどうしたのさ。あれだけ俺を嫌ってたってのに」
ゼロは、イザナミを怪しむ者の筆頭といってもいい。監視組というイザナミに対する目を設けたのも彼だし、イザナミに対する力の制限や外に出られないという枷も、ゼロが引き出した妥協案だ。
「……仲間がいがみ合うのは、辛いものだ」
ゼロはそれだけ言った。
誰よりもビッグボスを尊敬し、同士として、友として敬ってきたゼロ。
その禍根がどれほど深くとも、その想いに変わりはない。だからこそ、ゼロはそう言った。
「……ま、とりあえず礼は言っておくよ」
イザナミはそれだけ言うと、ひらひらと手を振ってその場をあとにした。
「これを返しておく」
そう言ってイザナミに手渡したのは防弾チョッキだった。神の加護を受けた防弾チョッキ。
イザナミは、永琳に離反の兆しがあるとあらかじめゼロに伝えていた。そして、その対策にこのチョッキを与えていたのだ。絶対に自分が説得する。これを着れば最悪の事態は免れる。だから少しだけ時間が欲しいと、イザナミはそう言ったのだ。
「……予想。外れて欲しかったよ」
防弾チョッキを受け取り、イザナミは苦笑する。
「仕方がない。過去というのは、どうしても付いて回るものだ」
八意永琳は月の民である。しかし、お姫様である蓬莱山輝夜を連れ、穢れ多い地上へと逃走した。自分が作ってしまった蓬莱の薬のために。
月の都。それを存続させるための犠牲として、永琳は生涯命を狙われるはめになった。世界を作る礎に、無理やり組み込まれた。
追手から逃げる毎日。その中で、彼女が世界を憎んだとしても何ら不思議ではない。どうして自分達だけがこんな目に遭っているのか。そう思い、“自分一人だけ世界を作り、他の全てを抹消しようと考える”のも、分からないではない。
イザナミから防弾チョッキを渡された時、永琳の過去を聞かされたゼロが抱いた感想がそれだった。
「今回のことは心から同情する。もし何かできることが────」
「おいおいおっさん。いきなりどうしたのさ。あれだけ俺を嫌ってたってのに」
ゼロは、イザナミを怪しむ者の筆頭といってもいい。監視組というイザナミに対する目を設けたのも彼だし、イザナミに対する力の制限や外に出られないという枷も、ゼロが引き出した妥協案だ。
「……仲間がいがみ合うのは、辛いものだ」
ゼロはそれだけ言った。
誰よりもビッグボスを尊敬し、同士として、友として敬ってきたゼロ。
その禍根がどれほど深くとも、その想いに変わりはない。だからこそ、ゼロはそう言った。
「……ま、とりあえず礼は言っておくよ」
イザナミはそれだけ言うと、ひらひらと手を振ってその場をあとにした。
◇◇◇
【??? イザナミの部屋】
【??? イザナミの部屋】
「いやー愉快愉快。みんな面白いくらいに嵌まってくれるからさぁ。こっちも演技のしがいがあるってもんだよね」
自分の部屋。ソファーに座り、足を組みながイザナミは愉快そうに笑った。
「あんたも、いつもこういう気分だったのかな?」
『どうでしょうな』
電話の相手は、イザナミの恋人。イザナミにとって一番の切り札と言っても過言ではない存在だ。
「八意永琳はこれで潰れた。わざわざ泥を被って、ね」
イザナミは参加者にも最低限の希望、こちらに這い上がって来る可能性を僅かながらでも作る必要があった。だからこそ、八意永琳の行動を許容していたのだ。
そして、頃合いを見てマルクに掛けられた術をほんの少し解いてやる。それだけで、事態は面白いように自分の思う方向へと進んだ。
『今回の件で、あなたはより一層自分の身を危険に曝したことになりますね』
「まあゼロとは言わないよ。けど、最小限に抑えた。永琳のことはセフェランとビッグボスしか知らない。何の支障もないよ」
『しかし、セフェランは女神に報告を……』
「してないよ。セフェランが伝えたのは、“八意永琳が反旗を翻した”という事実だけ。永琳と彼らにあった情報の齟齬も、俺が何かとんでもない企みを持ってるかもしれないことも、誰にも言ってない」
『ほぉ。しかし、よくわかりませんな。セフェランの立場からすれば、主に全てを伝えるのは当然だと思いますが?』
「それが当然じゃないんだよねぇ。なにせ、女神ちゃんは頭がカチカチだから」
そう言って、イザナミはクックと笑う。
「たとえばさ。俺が何か他のことを企んでいると、誰かが女神ちゃんに吹き込むとするじゃん。そうすれば、彼女が取る行動は一つだけ」
『あなたの抹殺、ですか』
「その通り。しかしセフェラン側、いや女神ちゃん側からすれば、それは最終手段にしたいんだよねぇ。今回の殺し合いは俺が主体で動いてる。
俺を殺すってことは、この殺し合いを中止するってことに他ならない。なんだかんだで、あいつらは俺がいないとここまで計画を動かすことはできなかった。それは計画が佳境に入った今でもそうさ」
『自分達の願いを叶えるには、あなたにはまだまだ生きていてもらわないといけない』
「しかも、もしかしたら女神ちゃんが返り討ちにあう可能性もある。セフェランからすれば、そんな危険は冒せないよねぇ。彼女の死はセフェランにとって、希望そのものの死を意味するんだから」
セフェランは人間を全滅させ、本来の美しい世界を作ろうとしている。そのためには、絶対に女神に死んでもらっては困るのだ。
世界創世が成功したとして、その指針となる者はやはり女神以外にいないと考えているし、世界創世が失敗したとしても、女神さえいればラグズもベオクも滅ぼすことができる。
セフェランの願いには、必ず女神の存在が必要になってくる。
セフェランの願い。それはある意味、女神の命やその忠誠心よりも勝るセフェランの意思だった。
自分の部屋。ソファーに座り、足を組みながイザナミは愉快そうに笑った。
「あんたも、いつもこういう気分だったのかな?」
『どうでしょうな』
電話の相手は、イザナミの恋人。イザナミにとって一番の切り札と言っても過言ではない存在だ。
「八意永琳はこれで潰れた。わざわざ泥を被って、ね」
イザナミは参加者にも最低限の希望、こちらに這い上がって来る可能性を僅かながらでも作る必要があった。だからこそ、八意永琳の行動を許容していたのだ。
そして、頃合いを見てマルクに掛けられた術をほんの少し解いてやる。それだけで、事態は面白いように自分の思う方向へと進んだ。
『今回の件で、あなたはより一層自分の身を危険に曝したことになりますね』
「まあゼロとは言わないよ。けど、最小限に抑えた。永琳のことはセフェランとビッグボスしか知らない。何の支障もないよ」
『しかし、セフェランは女神に報告を……』
「してないよ。セフェランが伝えたのは、“八意永琳が反旗を翻した”という事実だけ。永琳と彼らにあった情報の齟齬も、俺が何かとんでもない企みを持ってるかもしれないことも、誰にも言ってない」
『ほぉ。しかし、よくわかりませんな。セフェランの立場からすれば、主に全てを伝えるのは当然だと思いますが?』
「それが当然じゃないんだよねぇ。なにせ、女神ちゃんは頭がカチカチだから」
そう言って、イザナミはクックと笑う。
「たとえばさ。俺が何か他のことを企んでいると、誰かが女神ちゃんに吹き込むとするじゃん。そうすれば、彼女が取る行動は一つだけ」
『あなたの抹殺、ですか』
「その通り。しかしセフェラン側、いや女神ちゃん側からすれば、それは最終手段にしたいんだよねぇ。今回の殺し合いは俺が主体で動いてる。
俺を殺すってことは、この殺し合いを中止するってことに他ならない。なんだかんだで、あいつらは俺がいないとここまで計画を動かすことはできなかった。それは計画が佳境に入った今でもそうさ」
『自分達の願いを叶えるには、あなたにはまだまだ生きていてもらわないといけない』
「しかも、もしかしたら女神ちゃんが返り討ちにあう可能性もある。セフェランからすれば、そんな危険は冒せないよねぇ。彼女の死はセフェランにとって、希望そのものの死を意味するんだから」
セフェランは人間を全滅させ、本来の美しい世界を作ろうとしている。そのためには、絶対に女神に死んでもらっては困るのだ。
世界創世が成功したとして、その指針となる者はやはり女神以外にいないと考えているし、世界創世が失敗したとしても、女神さえいればラグズもベオクも滅ぼすことができる。
セフェランの願いには、必ず女神の存在が必要になってくる。
セフェランの願い。それはある意味、女神の命やその忠誠心よりも勝るセフェランの意思だった。
『ビッグボスはどうなのですか? 彼ならば……』
「一体誰に言うよ。俺の息がかかってない信用できる奴なんて、あいつの周りにいるかい?」
ゼロ、という考えはビッグボスにはできない。そんな簡単に信用できるほど、彼らの溝は浅くない。一度裏切られた経験は、必ずビッグボスに付いて回る。
セフェラン側からしても、他の神に出し抜かれる可能性を考えれば知らせない方がいいと考える。
ミュウツーは論外だ。今の段階で、イザナミの間者である可能性が一番高いミュウツーに、二人がそんな重要な秘密を知らせるわけがない。
「彼らは、今回の情報を得たことで俺に一歩先んじたと考える。まさか俺が、敢えてその情報を渡したなんて考えない。その慢心が毒になる。
人はさ。希望に逃げたがるんだ。自分の行動が全て読まれているなんて、そんなこと誰も考えたくない。それが、何とか相手を出し抜こうとして取った一手なら尚更ね。でも逆に言えば、だからこそ考えなくちゃいけないんだ」
本当に相手を騙そうと思ったら、その人物が予期せぬところに偽りの真実を蒔いてやればいい。そんな初歩的なことを、セフェランは疎かにした。
「彼らは、今回の件が踊らされた結果であるとは絶対に考えない。えーりんはまったく逆の発想で俺に縛られていたわけだけど、俺からすれば彼女の方が、彼らよりも遥かに優れた存在だよ」
「一体誰に言うよ。俺の息がかかってない信用できる奴なんて、あいつの周りにいるかい?」
ゼロ、という考えはビッグボスにはできない。そんな簡単に信用できるほど、彼らの溝は浅くない。一度裏切られた経験は、必ずビッグボスに付いて回る。
セフェラン側からしても、他の神に出し抜かれる可能性を考えれば知らせない方がいいと考える。
ミュウツーは論外だ。今の段階で、イザナミの間者である可能性が一番高いミュウツーに、二人がそんな重要な秘密を知らせるわけがない。
「彼らは、今回の情報を得たことで俺に一歩先んじたと考える。まさか俺が、敢えてその情報を渡したなんて考えない。その慢心が毒になる。
人はさ。希望に逃げたがるんだ。自分の行動が全て読まれているなんて、そんなこと誰も考えたくない。それが、何とか相手を出し抜こうとして取った一手なら尚更ね。でも逆に言えば、だからこそ考えなくちゃいけないんだ」
本当に相手を騙そうと思ったら、その人物が予期せぬところに偽りの真実を蒔いてやればいい。そんな初歩的なことを、セフェランは疎かにした。
「彼らは、今回の件が踊らされた結果であるとは絶対に考えない。えーりんはまったく逆の発想で俺に縛られていたわけだけど、俺からすれば彼女の方が、彼らよりも遥かに優れた存在だよ」
現段階において、永琳がただの捨て駒であったことがばれたとしても、イザナミには何のデメリットもない。
そして結局、ばれたところでセフェランもビッグボスも動けない。
イザナミをどうにかしようと考えるなら、まず円卓の神達を招集し、その事実を伝えなければならない。発言権が拮抗している彼らを集め、協議しなければならない。
しかし二人は円卓に座る権利を持っていない。神達を招集する資格もない。だから結局、二人は何もすることができない。
事態は何も変わっていないのだ。
その単純な事実に、セフェランは気付かないだろう。イザナミを出し抜いたという気持ちは抜け切れない。先んじたという気持ち、優勢を維持したいという気持ちが、結局は行動を遅らせ、気付いた時には後手に回っているのだ。
しかし、永琳は慢心することはなかった。結果的に全てイザナミの予想通りに動いてくれたわけだが、彼女にはそれを覆す基盤があった。
だからこそ、イザナミは彼女を、唯一の敵だと評したのだ。
『しかし結局、誰もかれもあなたに絡め取られている。というわけですか』
「ここまでお膳立てを整えるの、なかなか大変だったんだぜ? 目障りなえーりんを黙らせる必要はあったけど、ゼムスの件を片付けてからじゃないとセフェラン達を誘導させられなかったからさ」
『蓬莱山輝夜が人質として機能しており、それを隠すためにゼムスは殺された。しかしそう考えさせること自体があなたの目的だった。いわば、ゼムスの離反とその抹殺。それこそがブラフだった』
「タイミングが良かったんだよねぇ。あまりにもゼムスの抹殺が早過ぎた。だからこそ、奴の存在は俺にとって何らかの価値があったはずだとセフェランは考える。
その疑問にうまくはまる答えを用意してやれば、それを真実だと信じてしまう。だからこそ、ゼムスは人質を連れて来るための捨て駒、運搬係だったとセフェランは確信したわけだ。
けど、実際は違うんだよな~。俺の目的は、ゼムスの魂を早い段階で確保することだった」
これが今回動いたメリットの一つ。既に邪魔者となった永琳を排除し、ゼムスの魂を確保する。誰にもその真意を気付かれず、イザナミはそれをやってのけた。
そして結局、ばれたところでセフェランもビッグボスも動けない。
イザナミをどうにかしようと考えるなら、まず円卓の神達を招集し、その事実を伝えなければならない。発言権が拮抗している彼らを集め、協議しなければならない。
しかし二人は円卓に座る権利を持っていない。神達を招集する資格もない。だから結局、二人は何もすることができない。
事態は何も変わっていないのだ。
その単純な事実に、セフェランは気付かないだろう。イザナミを出し抜いたという気持ちは抜け切れない。先んじたという気持ち、優勢を維持したいという気持ちが、結局は行動を遅らせ、気付いた時には後手に回っているのだ。
しかし、永琳は慢心することはなかった。結果的に全てイザナミの予想通りに動いてくれたわけだが、彼女にはそれを覆す基盤があった。
だからこそ、イザナミは彼女を、唯一の敵だと評したのだ。
『しかし結局、誰もかれもあなたに絡め取られている。というわけですか』
「ここまでお膳立てを整えるの、なかなか大変だったんだぜ? 目障りなえーりんを黙らせる必要はあったけど、ゼムスの件を片付けてからじゃないとセフェラン達を誘導させられなかったからさ」
『蓬莱山輝夜が人質として機能しており、それを隠すためにゼムスは殺された。しかしそう考えさせること自体があなたの目的だった。いわば、ゼムスの離反とその抹殺。それこそがブラフだった』
「タイミングが良かったんだよねぇ。あまりにもゼムスの抹殺が早過ぎた。だからこそ、奴の存在は俺にとって何らかの価値があったはずだとセフェランは考える。
その疑問にうまくはまる答えを用意してやれば、それを真実だと信じてしまう。だからこそ、ゼムスは人質を連れて来るための捨て駒、運搬係だったとセフェランは確信したわけだ。
けど、実際は違うんだよな~。俺の目的は、ゼムスの魂を早い段階で確保することだった」
これが今回動いたメリットの一つ。既に邪魔者となった永琳を排除し、ゼムスの魂を確保する。誰にもその真意を気付かれず、イザナミはそれをやってのけた。
『ゼムスが蓬莱山輝夜誘拐の口封じに殺されたと考えるセフェラン達は、その事実に重きを置き、自然と彼女以外の人質をブラフだと考える。これもあなたのシナリオ通り、というわけですね』
「ここに至って、俺が無駄に人質を持って来るわけないってのに。少し考えれば分かりそうなことだけどね」
『そう考えさせないために、敢えて情報をくれてやったのでしょう? それも、ゼムスの離反直後という最高のタイミングで』
「まあね」
セフェランはマルクの記憶を読んだ。それが自分の意思によるものと信じ込んでいるなら、全てが噛み合い符号する情報とその仮説に、疑問を抱く余地などない。
『しかし、ゼムスの魂を一体どう使うつもりなのですか? 少し早過ぎる気がしますが』
「うん。こいつにはもう一仕事してもらわないといけないからさ」
そう言って、ちらりと横を見る。そこには、口を布で覆われ、手を縛られ、ガタガタと震えるローザの姿があった。
「ゼムスの真価は、肉体から解放されて初めて発揮される。彼には監視役として動いてもらうつもりだよ」
『監視役?』
「そ。監視役。ビッグボスが誰かと協力しようと考えるなら、それはやっぱりえーりん以外にいないだろうからね。
囚われの身で、発言権もない彼女を味方につけたところでどうってことないけど、保険は必要だろ? そのついでに、彼なりの試練ってやつを与えてみようかと思ってる」
『神を選抜する?』
「その通り。紛い物の神じゃない。本物の、創世神を選抜する試練をさ」
そう言って、イザナミはせせら笑う。
誰も事実に気付かない。そのことを嘲るように。
『しかし、試練とは一体どんなものを? ミュウツーはゴールドという少年。アスタルテは負の女神ユンヌ。ゼロはビッグボス。監視役をさせることで、ゼムスにどんな試練を与えるつもりなのですか?』
「人とのふれあいさ。簡単に言うならね。これ以上は秘密。まぁ、俺の想像通りにいくとは限らないし、不確定要素が多いのは他の奴らも同じだからさ」
そう。不確定要素は多い。
ふざけた態度を取ってはいても、イザナミは一切油断はしていない。こうして電話をしている間も。
「ここに至って、俺が無駄に人質を持って来るわけないってのに。少し考えれば分かりそうなことだけどね」
『そう考えさせないために、敢えて情報をくれてやったのでしょう? それも、ゼムスの離反直後という最高のタイミングで』
「まあね」
セフェランはマルクの記憶を読んだ。それが自分の意思によるものと信じ込んでいるなら、全てが噛み合い符号する情報とその仮説に、疑問を抱く余地などない。
『しかし、ゼムスの魂を一体どう使うつもりなのですか? 少し早過ぎる気がしますが』
「うん。こいつにはもう一仕事してもらわないといけないからさ」
そう言って、ちらりと横を見る。そこには、口を布で覆われ、手を縛られ、ガタガタと震えるローザの姿があった。
「ゼムスの真価は、肉体から解放されて初めて発揮される。彼には監視役として動いてもらうつもりだよ」
『監視役?』
「そ。監視役。ビッグボスが誰かと協力しようと考えるなら、それはやっぱりえーりん以外にいないだろうからね。
囚われの身で、発言権もない彼女を味方につけたところでどうってことないけど、保険は必要だろ? そのついでに、彼なりの試練ってやつを与えてみようかと思ってる」
『神を選抜する?』
「その通り。紛い物の神じゃない。本物の、創世神を選抜する試練をさ」
そう言って、イザナミはせせら笑う。
誰も事実に気付かない。そのことを嘲るように。
『しかし、試練とは一体どんなものを? ミュウツーはゴールドという少年。アスタルテは負の女神ユンヌ。ゼロはビッグボス。監視役をさせることで、ゼムスにどんな試練を与えるつもりなのですか?』
「人とのふれあいさ。簡単に言うならね。これ以上は秘密。まぁ、俺の想像通りにいくとは限らないし、不確定要素が多いのは他の奴らも同じだからさ」
そう。不確定要素は多い。
ふざけた態度を取ってはいても、イザナミは一切油断はしていない。こうして電話をしている間も。
『この世に絶対という言葉はない。しかしあなたは、よりそれに近い形に今の状況を持っていった。それは見事に成功している』
「でもそれもいつ崩れるかわからないよ。最後までもってくれるといいんだけどねぇ。俺達の悲願達成まで」
『我々の最終目的ですか。神の魂をもって世界を作る。そのための分霊ですからね』
ゼムスとミュウツーは、既に神と同等の存在となっている。彼らの外来魂に宿した神霊は、彼らの魂を神のレベルにまで引き上げることに成功していた。
「みぃんな自分の都合の良いように真実を置き換える。だからこそ、自分達が“生贄”のために呼ばれたなんて考えない。
まぁ当然だよね。何もかも制限された神が、まさか後ろで糸引いてるなんてまず考えない。力も、移動手段も、彼らを呼んだ時点でもはや俺には必要ないっていう簡単な事実に誰も気づかなかった」
『しかし、ゼロだけが問題だった』
ゼロは、イザナミの真意にこそ気付かなかったものの、イザナミを決して信用しようとはしなかった。ゼロがアスタルテにいらない事を吹き込まなければ、もっと楽に事態は動いていただろう。
「だが、それももう終わりだ。今回の件で、ゼロは俺の見方を変える」
『確信がおありで?』
「人間にはさ。俺達神からすれば、それはそれは理解できない同情と共感っていう感情があるからね」
今のゼロが持つ情報からすれば、八意永琳の離反は完全にイザナミを裏切る行為だ。仲間であるイザナミを。
ビッグボスと仲違いし、彼が離れて行ってしまった時、ゼロは極度の人間不信に陥った。それだけビッグボスの存在が大きかった。ゼロにとって彼は尊敬できる同士だったのだ。
イザナミと永琳。それに彼らの関係を匂わせるだけのカバーストーリーを与えてやれば、ゼロは理屈よりも感情を優先する。
最初は疑心もあったかもしれない。防弾チョッキを渡され、そんな話を聞かされ、作為的だと感じたかもしれない。
だが裏切られて尚永琳を庇うイザナミを見て。女神アスタルテによって勝手に輝夜を殺され、それを永琳に見せつけなければならなかったイザナミを見て。
彼がどのように考えを改めていったか。イザナミは想像に難くなかった。
「でもそれもいつ崩れるかわからないよ。最後までもってくれるといいんだけどねぇ。俺達の悲願達成まで」
『我々の最終目的ですか。神の魂をもって世界を作る。そのための分霊ですからね』
ゼムスとミュウツーは、既に神と同等の存在となっている。彼らの外来魂に宿した神霊は、彼らの魂を神のレベルにまで引き上げることに成功していた。
「みぃんな自分の都合の良いように真実を置き換える。だからこそ、自分達が“生贄”のために呼ばれたなんて考えない。
まぁ当然だよね。何もかも制限された神が、まさか後ろで糸引いてるなんてまず考えない。力も、移動手段も、彼らを呼んだ時点でもはや俺には必要ないっていう簡単な事実に誰も気づかなかった」
『しかし、ゼロだけが問題だった』
ゼロは、イザナミの真意にこそ気付かなかったものの、イザナミを決して信用しようとはしなかった。ゼロがアスタルテにいらない事を吹き込まなければ、もっと楽に事態は動いていただろう。
「だが、それももう終わりだ。今回の件で、ゼロは俺の見方を変える」
『確信がおありで?』
「人間にはさ。俺達神からすれば、それはそれは理解できない同情と共感っていう感情があるからね」
今のゼロが持つ情報からすれば、八意永琳の離反は完全にイザナミを裏切る行為だ。仲間であるイザナミを。
ビッグボスと仲違いし、彼が離れて行ってしまった時、ゼロは極度の人間不信に陥った。それだけビッグボスの存在が大きかった。ゼロにとって彼は尊敬できる同士だったのだ。
イザナミと永琳。それに彼らの関係を匂わせるだけのカバーストーリーを与えてやれば、ゼロは理屈よりも感情を優先する。
最初は疑心もあったかもしれない。防弾チョッキを渡され、そんな話を聞かされ、作為的だと感じたかもしれない。
だが裏切られて尚永琳を庇うイザナミを見て。女神アスタルテによって勝手に輝夜を殺され、それを永琳に見せつけなければならなかったイザナミを見て。
彼がどのように考えを改めていったか。イザナミは想像に難くなかった。
「で? セフェラン達は、えーりんが参加者に接触したことは知ってるのかな?」
『いいえ。その時間はビッグボスと今後の相談をしていたはずです。それもあなたの予想通りなのでしょう?』
「まあね。じゃあそろそろ教えてもらおうか。えーりんの仕掛けた切り札を。ゲーム機、マスターボール。あともう一つは何があった?」
永琳が参加者に支給したという切り札を彼女自身に喋らせる。それは、以前に与えた永琳のミスリードを利用したもの。
彼女は、イザナミにとって重要な役割を瀬多総司が担っていると勘違いしていた。だから自分がどうにかなる前に、絶対に瀬多とだけは連絡を取らなければならないと考える。
そんな彼女が、ここで参加者への接触を試みないわけがない。
それも、今回動いたことに対する重要なメリットの一つだ。
『ええ。瀬多との会話の最中に洩らしていましたよ。どうやら博麗霊夢の持つIpadがそれのようです』
「他には?」
「それだけのようでした」
「……本当にそれだけ?」
「何か心当たりがあるので?」
イザナミは逡巡した。しかしすぐに思考を切り替える。
この男は瀬多の声しか聞いていない。全ての情報を把握できるとは限らない。
だからこそ、永琳の反応から怪しいと感じたクリスタルを調べさせた。万が一にも洩れのないように。
「心当たりなんてあるわけないじゃ~ん。なんのためにお前がいるんだよ」
この会話は平行線。それを察してなのかは知らないが、男はすぐに話題を変えた。
『いいえ。その時間はビッグボスと今後の相談をしていたはずです。それもあなたの予想通りなのでしょう?』
「まあね。じゃあそろそろ教えてもらおうか。えーりんの仕掛けた切り札を。ゲーム機、マスターボール。あともう一つは何があった?」
永琳が参加者に支給したという切り札を彼女自身に喋らせる。それは、以前に与えた永琳のミスリードを利用したもの。
彼女は、イザナミにとって重要な役割を瀬多総司が担っていると勘違いしていた。だから自分がどうにかなる前に、絶対に瀬多とだけは連絡を取らなければならないと考える。
そんな彼女が、ここで参加者への接触を試みないわけがない。
それも、今回動いたことに対する重要なメリットの一つだ。
『ええ。瀬多との会話の最中に洩らしていましたよ。どうやら博麗霊夢の持つIpadがそれのようです』
「他には?」
「それだけのようでした」
「……本当にそれだけ?」
「何か心当たりがあるので?」
イザナミは逡巡した。しかしすぐに思考を切り替える。
この男は瀬多の声しか聞いていない。全ての情報を把握できるとは限らない。
だからこそ、永琳の反応から怪しいと感じたクリスタルを調べさせた。万が一にも洩れのないように。
「心当たりなんてあるわけないじゃ~ん。なんのためにお前がいるんだよ」
この会話は平行線。それを察してなのかは知らないが、男はすぐに話題を変えた。
『つくづく、あなたには驚かされますね。これほど用意周到な計画を、私は今まで見たことがない。心の隙を最大限に利用し、真実を覆い隠している。全てのピースがうまく噛み合い、膠着状態を作っている』
「そりゃどうも。仕事がなけりゃ酒でも奢ってやるところだけど、そんな機会はたぶん来ないだろうね」
『しかし、ピースが多ければ多いほど、ちょっとした綻びから全てが瓦解する。八意永琳を殺さなかったのは、あなたらしからぬミスですね。彼女がもしも立ち直ることがあれば、我々にとってかなりの障害になります』
「そりゃそうだ。俺にとっての敵は、今のところ彼女だけだからね」
そう言って、イザナミは笑う。
『……私は時々、あなたが何を考えているのか分からなくなります』
「えーりんはさ。ずっと分を弁えてたんだ」
『分、ですか?』
「俺がマルクを嗾けて人質の様子を見せた時にね。彼女は聞いたはずなんだよ。おそらくは、彼女が考えているであろう最高の“かけ橋”の在り処をね。なのに、彼女は実行しなかった」
まぁ、もし実行していたとしても失敗してたんだけどね。と、イザナミは呟く。
電話の相手の反応をイザナミは注意深く観察する。しかし、大した変化は見られない。
(当然か。この程度のことで動揺するような人間なら、こんな重要な役割を担わせようなんて思わなかった)
イザナミは構わず話を続ける。
「今回も、あくまで自分が死ぬことで場を収めようとした。その献身的な行為は、神の身にも届いた。サクリファイスってやつさ。それを見て、彼女は世界の為に死ねる者だと俺は認識した。今回の件で、彼女はようやく神の仲間入りを果たしたのさ」
『……なるほど。彼女もまた、候補の一人ということですか。それで監視役を?』
「俺達の目的に気付く者がいるとしたら、それはまやかしの真実に捉われない奴だ。仮初めの希望を信じず、絶望を経験し、それでもただひたすらに真実へと歩もうとする者だけ。
彼女は今回、希望なんて信じられない程の絶望を経験した。もしも俺達の目的に気付く者がいるとしたら、それは彼女に他ならない。あとは……」
そう言いかけ、「なんでもない」と言ってイザナミは言葉を濁す。その後に続く言葉は、イザナミにとってあまり信じたくないものだからだ。
「そりゃどうも。仕事がなけりゃ酒でも奢ってやるところだけど、そんな機会はたぶん来ないだろうね」
『しかし、ピースが多ければ多いほど、ちょっとした綻びから全てが瓦解する。八意永琳を殺さなかったのは、あなたらしからぬミスですね。彼女がもしも立ち直ることがあれば、我々にとってかなりの障害になります』
「そりゃそうだ。俺にとっての敵は、今のところ彼女だけだからね」
そう言って、イザナミは笑う。
『……私は時々、あなたが何を考えているのか分からなくなります』
「えーりんはさ。ずっと分を弁えてたんだ」
『分、ですか?』
「俺がマルクを嗾けて人質の様子を見せた時にね。彼女は聞いたはずなんだよ。おそらくは、彼女が考えているであろう最高の“かけ橋”の在り処をね。なのに、彼女は実行しなかった」
まぁ、もし実行していたとしても失敗してたんだけどね。と、イザナミは呟く。
電話の相手の反応をイザナミは注意深く観察する。しかし、大した変化は見られない。
(当然か。この程度のことで動揺するような人間なら、こんな重要な役割を担わせようなんて思わなかった)
イザナミは構わず話を続ける。
「今回も、あくまで自分が死ぬことで場を収めようとした。その献身的な行為は、神の身にも届いた。サクリファイスってやつさ。それを見て、彼女は世界の為に死ねる者だと俺は認識した。今回の件で、彼女はようやく神の仲間入りを果たしたのさ」
『……なるほど。彼女もまた、候補の一人ということですか。それで監視役を?』
「俺達の目的に気付く者がいるとしたら、それはまやかしの真実に捉われない奴だ。仮初めの希望を信じず、絶望を経験し、それでもただひたすらに真実へと歩もうとする者だけ。
彼女は今回、希望なんて信じられない程の絶望を経験した。もしも俺達の目的に気付く者がいるとしたら、それは彼女に他ならない。あとは……」
そう言いかけ、「なんでもない」と言ってイザナミは言葉を濁す。その後に続く言葉は、イザナミにとってあまり信じたくないものだからだ。
「ま、えーりんが真実に気付いたところで、こっちとしてはどうでもいいんだよ。もはやえーりんに発言権なんてないに等しいんだし。たとえ万が一ビッグボス辺りに真実を洩らし、それが広まりそうになったとしても、監視役が事前に教えてくれるって寸法さ」
アスタルテの永琳に対する処遇が輝夜の抹殺であったことも、イザナミには想像の範囲内だった。円卓の神達には、永琳の重要性は既に説いてある。
イザナミが勝手に連れて来て、さらに反旗を翻した。その事実は確かに重いが、彼女の代わりを探す労力を考えれば、牽制として輝夜を殺すという結論に至るのは至極当然である。
そして、その判断はおそらくセフェランによるものだということもイザナミには分かっていた。セフェランだけは、イザナミの考える役割に当てはまらない。
彼はアスタルテの付属物であり、アスタルテの頭脳である。だからこそ、イザナミはセフェランを操る。それがアスタルテを操ることに繋がるのだから。
アスタルテの永琳に対する処遇が輝夜の抹殺であったことも、イザナミには想像の範囲内だった。円卓の神達には、永琳の重要性は既に説いてある。
イザナミが勝手に連れて来て、さらに反旗を翻した。その事実は確かに重いが、彼女の代わりを探す労力を考えれば、牽制として輝夜を殺すという結論に至るのは至極当然である。
そして、その判断はおそらくセフェランによるものだということもイザナミには分かっていた。セフェランだけは、イザナミの考える役割に当てはまらない。
彼はアスタルテの付属物であり、アスタルテの頭脳である。だからこそ、イザナミはセフェランを操る。それがアスタルテを操ることに繋がるのだから。
イザナミはいつか永琳を排除しようと考えている。そう彼は想定しているはずである。ならばどうにかそれを妨害したいと考えるのは当然だ。その結果が、拘留というものだった。
そこまでわかっていたイザナミだからこそ、監視役という保険を用意する準備を整えておいたのだ。
そこまでわかっていたイザナミだからこそ、監視役という保険を用意する準備を整えておいたのだ。
「自分の命より大切なお姫様が死んだ。ここで立ち直れるかどうか。えーりんの試練にはもってこいじゃないか」
『しかし、少しは申し訳ないと思わないのですか? 彼女には、神になる意思はなかった』
「意思なんて、あとでいくらでも付いて来る。俺がそうであったようにね。問題は、その人となりと矜持。自分の信念を、どこまで曲げずにいられるか。
何を正しいとするかは人によって千差万別だよ。それが本当に正しいものかどうか、そんなことは誰にもわからない。だからこそ、俺はこんなしちめんどくさいことをしてるんだぜ」
『あなたがそう言うなら、そうなのでしょうね』
「……お前は殺し合いのことだけ考えていればいい。わかってるな? 神を殺すのに、あの会場は最適だ。役割のない神には早々に退場してもらわなきゃいけない」
先程までとは違い、冷え冷えとする口調でイザナミは言った。
『参加者はどうするので?』
「彼らの役割はユンヌをここに連れて来ることだけだ。しかし、それだけでは飽き足らずに這い上がり、神に刃向うっていうんなら……。まぁ、認めてやろうじゃないか。少なくとも試練の一つとしては使える」
『あくまで参加者は道具というわけですか』
「そんな当然のことをいちいち聞かないでほしいね。とにかくお前はうまく動いてくれよ。ボールに潜んでいるふざけた神を世界の糧にする。ipadを破壊する。それを誰にも気取られずに協力してくれ。
セフェランから色々と命令がくるだろうけど、臨機応変に対応してくれよ。参加者はあくまでも全滅させるつもりで」
『奴らの意思で、ですか?』
「そう。奴らの意思でだ。生きるか死ぬか、抗うか諦めるかは奴らが決める。俺達は、それを眺めていればいい」
『傍観者として?』
「その通り。メダリオンに関してはこっちで説得するよ。どうせユンヌだけじゃ何もできないんだ。事実を言ってやれば、奴らも納得するだろうよ。もはや円卓の過半数は俺の味方だからね」
様々な事件が起こり、そのどれもがイザナミの評価を上げるものだった。頭の固いアスタルテは頷かないだろうが、他の二人が賛同してくれればそれでいい。
『そういえば。一つ聞きたかったことがあります』
「なに? 今はそれなりに上機嫌だから応えてあげてもいいよ」
『真実を知る者は少なければ少ないほど好都合。なのに、何故イゴールに教えたのですか?』
イザナミはいつになく真剣な様子で黙り込んだ。
『彼は、あなたの示す役割を何も果たしていない。完全に個人で動き、しかも真実を参加者に教えようとまでしている。
そもそもクリスタルは殺し合いを助長させるためだけのものだったはずです。血の契約も、全ては彼の独断。このデリケートな計画にこんな不確定要素を放り込み、放置する理由は何ですか?』
「……それはまた今度。あいつはちょっと特別なんだ。一応、部下という体裁は取っているけどね」
『特別? 彼を使うことに何か理由があるのですか?』
「……良心の呵責、かな」
『それはまた訳のわからない話で』
「そう。訳のわからない関係なんだよ」
しばらくの沈黙。
『まさか八意永琳に誤った推測をさせたのは、彼のお気に入りを排除するためでもあるのですか? セフェランを使って』
「どうだろうねぇ。御想像にお任せするよ」
『……まあいいでしょう。こちらとしても、きちんと報酬をもらえるというのなら、課された任務は全うします』
「そこは信用してもらいたいね。彼は駒の一つではあるが、ちゃんと君の願い通りにするよ」
『しかし、少しは申し訳ないと思わないのですか? 彼女には、神になる意思はなかった』
「意思なんて、あとでいくらでも付いて来る。俺がそうであったようにね。問題は、その人となりと矜持。自分の信念を、どこまで曲げずにいられるか。
何を正しいとするかは人によって千差万別だよ。それが本当に正しいものかどうか、そんなことは誰にもわからない。だからこそ、俺はこんなしちめんどくさいことをしてるんだぜ」
『あなたがそう言うなら、そうなのでしょうね』
「……お前は殺し合いのことだけ考えていればいい。わかってるな? 神を殺すのに、あの会場は最適だ。役割のない神には早々に退場してもらわなきゃいけない」
先程までとは違い、冷え冷えとする口調でイザナミは言った。
『参加者はどうするので?』
「彼らの役割はユンヌをここに連れて来ることだけだ。しかし、それだけでは飽き足らずに這い上がり、神に刃向うっていうんなら……。まぁ、認めてやろうじゃないか。少なくとも試練の一つとしては使える」
『あくまで参加者は道具というわけですか』
「そんな当然のことをいちいち聞かないでほしいね。とにかくお前はうまく動いてくれよ。ボールに潜んでいるふざけた神を世界の糧にする。ipadを破壊する。それを誰にも気取られずに協力してくれ。
セフェランから色々と命令がくるだろうけど、臨機応変に対応してくれよ。参加者はあくまでも全滅させるつもりで」
『奴らの意思で、ですか?』
「そう。奴らの意思でだ。生きるか死ぬか、抗うか諦めるかは奴らが決める。俺達は、それを眺めていればいい」
『傍観者として?』
「その通り。メダリオンに関してはこっちで説得するよ。どうせユンヌだけじゃ何もできないんだ。事実を言ってやれば、奴らも納得するだろうよ。もはや円卓の過半数は俺の味方だからね」
様々な事件が起こり、そのどれもがイザナミの評価を上げるものだった。頭の固いアスタルテは頷かないだろうが、他の二人が賛同してくれればそれでいい。
『そういえば。一つ聞きたかったことがあります』
「なに? 今はそれなりに上機嫌だから応えてあげてもいいよ」
『真実を知る者は少なければ少ないほど好都合。なのに、何故イゴールに教えたのですか?』
イザナミはいつになく真剣な様子で黙り込んだ。
『彼は、あなたの示す役割を何も果たしていない。完全に個人で動き、しかも真実を参加者に教えようとまでしている。
そもそもクリスタルは殺し合いを助長させるためだけのものだったはずです。血の契約も、全ては彼の独断。このデリケートな計画にこんな不確定要素を放り込み、放置する理由は何ですか?』
「……それはまた今度。あいつはちょっと特別なんだ。一応、部下という体裁は取っているけどね」
『特別? 彼を使うことに何か理由があるのですか?』
「……良心の呵責、かな」
『それはまた訳のわからない話で』
「そう。訳のわからない関係なんだよ」
しばらくの沈黙。
『まさか八意永琳に誤った推測をさせたのは、彼のお気に入りを排除するためでもあるのですか? セフェランを使って』
「どうだろうねぇ。御想像にお任せするよ」
『……まあいいでしょう。こちらとしても、きちんと報酬をもらえるというのなら、課された任務は全うします』
「そこは信用してもらいたいね。彼は駒の一つではあるが、ちゃんと君の願い通りにするよ」