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ロキ(1)
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ロキ/Loki
北欧神話に登場する神。
主神オーディンの義兄弟。父は巨人族のファウルバウティ、母はラウフェイ。兄弟にはビュレイストとヘルブリンディがいる。妻シギュンとの間にヴァーリとナルヴィという息子を儲ける。女巨人アングルボダとの間には、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルを儲けた。
ロキは美しい容姿をした小柄な男神だとされる。神々の敵とされる巨人族の出身だが神々と生活を共にし、アース神族(-しんぞく)の一柱として数えられる。
美しい容姿を持つ。邪悪で術策に頭の回転が速く、気まぐれな性格でよく嘘をつく。その知恵により神々を救う場合もあるが、多くの場合は困難に陥れる、トリックスターのような神である。
変身能力を持ち、神話では馬・虻・蠅・蚤・鮭に姿を変えている。フレイヤやフリッグから借りた衣を使って鷹にも変身している。また雌馬や女巨人など性別を変えることもできるほか、空飛ぶ靴を所持する。
ロキの呼称としては、「ずる賢い者」「悪戯者」「変身者」「偽りの父」「空を旅する者」「人々の恐れ」がある。
ロキはトリックスターのような立ち振る舞いをするため、多くの神話に関わっている。
神々がヴァン神族(-しんぞく)との戦いで壊れたアースガルドの城壁をどうするか困っているところに、城壁を再建しようと提案する石工が馬に乗ってやってきた。石工は太陽と月、そしてフレイヤを妻として貰うことを代価として求めた。神々は難色を示したが、ロキはこれを利用しようと神々に提案した。建築期間が18ヶ月かかる見込みのところを、6ヶ月で完成させられれば代価を払うことにしようと言うのである。たった6ヵ月では城壁は完成しないし、そうすれば代価を払うことなく半分まで完成した城壁を手に入れることが出来る。ロキの提案に不安を覚える者もいたが、彼のアイディアに唸る者もいた。オーディンが石工に条件を伝えると、石工は追加の条件として、自らの愛馬スヴァディルファリの援助を得ることを持ちだした。オーディンは最初拒んだが、ロキはこれを許可した。しかし石工とスヴァディルファリは怪力の持ち主で、城壁は順調に完成に近づいていった。太陽・月・フレイヤが奪われることを恐れた神々はロキを問い詰めたが、ロキは「同意したのはお前らだ」と喚いた。オーディンが「何とかしなければ命を奪う」と彼の体を押さえつけて脅すと、ロキは何としても解決することを約束した。その日の夕方、ロキは牝馬に変身し、スヴァディルファリを誘惑して作業を滞らせた。その結果、城壁は完成されず、神々に騙されたことに気付いた石工は変身を解いて巨人の姿になり、神々に怒号を浴びせたがトールのミョルニルにより頭を砕かれて死んだ。数ヶ月後、ロキはアースガルドに戻り、自らが牝馬として産んだスレイプニルを持ち帰った。オーディンはロキにえらく感謝したという。
ロキは妻シギュンに満足せず、ヨーツンヘイムに赴いて女巨人アングルボダと関係を持ち、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルを儲けた。『古エッダ』「ヒュンドラの歌」では、アングルボダの心臓を食ったロキが、自ら女巨人に変身して孕み、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルを産んだという。
ロキはオーディンとヘーニルとの旅の途中、腹が減ったため肉を焼こうとしたがいつまでたっても焼けない。それは鷲に変身した巨人シアチの仕業で、ロキは怒って鷲を杖で叩きつけたが、杖は鷲の背にピッタリくっついてしまい、ロキはそれを手放すことが出来なくなった。鷲はロキを杖ごとくっつけたまま飛び回り、彼を引きずり回した。痛みに耐えられないロキが放してくれるよう頼むと、鷲はイドゥンと、彼女が管理する黄金の林檎を盗んでくるよう言った。黄金の林檎は神々の不老不死を司る存在だ。ロキがそれを約束すると、杖と彼の体は鷲から離れた。7日後、ロキはイドゥンを見つけると、「ビフレストの向こうの森の奥に、黄金の林檎が成る木を見つけたから、貴女の持つ黄金の林檎と比べてみましょう」と持ち掛け、イドゥンを騙してビフレスト橋に連れてきた。すると待ち構えていた鷲は彼女と林檎を掴み、ヨーツンヘイムに飛び去った。黄金の林檎が奪われたことで神々は老化が進み、衰えていった。ヘイムダルの召使いの情報によりロキの仕業と気づいた神々は、イドゥンの野原で寝ていたロキを見つけ出し、オーディンの前に連れ出した。オーディンはイドゥンと林檎を取り返さなければ、「背中に血染めの鷲(背中を割って肋骨を翼のように広げる刑罰)を描く」と脅した。怒るオーディンに慄いたロキは、フレイヤから借りた鷹の衣で鷹に変身し、シアチの館であるスリュムヘイムに赴いた。シアチは留守だったが、煙が立ち込める部屋でイドゥンを見つけたロキは、ルーン(魔法の言葉)を唱えて彼女を胡桃に変え、鉤爪で掴んで飛び去った。それに気づいたシアチは鷲に変身して追いかけたが、アースガルドで見ていたオーディンは召使いに合図を出し、用意した薪に火をつけさせた。急に止まれなかったシアチは火をくぐってしまい、地面に落ちたところを神々に殺された。ロキは無事イドゥンと林檎を持ち帰ることができた。
後にシアチの娘スカジがアースガルドを訪れ、父の殺害を許す条件として夫を得ることと、自分を笑わせることを持ちだした。夫にはニヨルドが選ばれ、オーディンは彼女を笑わせる担当にロキを選んだ。ロキは、山羊を自らの睾丸と結びつけ、山羊と綱引きをして彼女を笑わせることに成功した。
シフが寝ている間、ロキはその寝室に忍び込み、曲がった小刀で彼女の髪を刈りこんだ(あるいは、シフの愛馬たちを去勢してしまった)。怒ったトールに脅されたロキは、「イーヴァルディの息子たち」という2人の小人に魔法の金糸を紡がせて償うことにした。小人は金糸と共に、フレイにスキーズブラズニルという船を、オーディンにはグングニルという槍を作った。ロキは3つの宝物を持ち帰る途中、ブロックとエイトリという小人の家に立ちより、「この3つよりも見事な宝物が作れたら自らの頭をくれてやる」とけしかけた。ブロックとエイトリはロキに蜜酒の入った角杯を持たせて待たせておいた間に、オーディンにはドラウプニルという腕輪を、フレイにはグリンブルスティという黄金の猪を、トールにはミョルニルという槌を作ったが、それらの作業中、ロキは虻に変身して邪魔をした。虻に目を刺されたブロックが血を流しながら作業したため、ミョルニルは柄が少し短くなった。イーヴァルディの息子たちか、ブロックとエイトリか、どちらの宝物が優れているかの判定はオーディン、フレイ、トールがすることになったので、ロキはそれらの宝物を抱え、ブロックと共にアースガルドに戻った。オーディンたちはブロックが作ったミョルニルを高く評価したため、ロキは賭けに負けた。ブロックに頭を要求されたロキは、水の上や空を歩くことが出来る靴を履いて勢いよく逃げ出したが、すぐにトールに捕まった。しかし「頭はやると言ったが首はやらない」と強弁したため、ブロックはロキの口を縫い付けることにした。ブロックがナイフでロキの唇に穴を開けようとしたが、うまくいかなかった。ブロックが「兄貴の錐さえあれば穴が開けられるのに」と言うと、エイトリの錐が目の前に現れた。ブロックはその錐で唇に穴を開け、革紐を通して口を縫い付けた。グラズヘイムから走り去ったロキは革紐を切り裂いたが、その痛みで悲鳴を上げた。以降彼の口元には傷が残り、復讐のことを考えたために唇は捻じれた。
また、フレイヤが首飾りを得るために4人の小人と関係を持ったことを知ったロキはオーディンに報告した。オーディンは激昂し、首飾りを奪ってくるようロキに命じた。ロキは蝿に変身してセスルームニル(フレイヤの館)に忍び込み、蚤に変身して寝ているフレイヤの体を飛び回り、彼女に寝返りを打たせて首飾りの留め具を表にした。そこでロキは元の姿に戻り、首飾りを奪い取った。
トールのミョルニルが盗まれてしまった際は、再びフレイヤから鷹の衣を借りて鷹に変身し、ヨーツンヘイムを訪れて霜の巨人スリュムがミョルニルを盗んで隠したことを聞き出した。スリュムはミョルニルを返す条件として、フレイヤを花嫁として要求した。アースガルドに戻ったロキは、トールにこれを伝えた。トールとロキはセスルームニルを訪れてフレイヤにこれを話したが、彼女は激昂してスリュムの花嫁になることを拒んだ。神々の話し合いの結果、フレイヤの代わりにトールを花嫁として偽装する作戦が決まった。ロキはその侍女としてヨーツンヘイムに同伴した。スリュムは花嫁が来たことを喜んでご馳走を出したが、空腹だったトールはがっついて貪り食ってしまった。スリュムがそれを訝しむが、ロキは「婚礼を楽しみにするあまり花嫁は何も召しあがらなかった」と答えた。スリュムがキスしようとして花嫁のヴェールの下を覗き込むと、トールの燃えるような凄まじい目に驚いた。ロキはそれを「婚礼を楽しみにするあまり寝付けなかった」と言ってごまかした。
ロキはトールのウトガルド遠征に同行した。彼らはまず戦車に乗ってミッドガルドを訪れ、シアルヴィとロスクヴァという人間の子供を旅のお供にした。一行は小舟で海を渡り、森の中を彷徨った。宿を探すシアルヴィは大きな館を発見し、そこに泊まることになったのだが、館だと思っていたのはスクリューミルという巨人の手袋だった。スクリューミルは食物に飢えた一行に食事を与えると言ったが、それはスクリューミルの意地悪で、彼が渡した食物入りの袋はトールでさえほどけない紐で結ばれていた。巨人に翻弄された一行は食事にありつけないまま夜を明かした。森を後にした一行がウトガルドの砦に到着すると、ロキは先立って門をくぐって中に入った。その後にシアルヴィとロスクヴァ、トールが続いた。館に入ると巨人の王ウトガルド・ロキがおり、ロキは進んで大食い・早食いの対決を申し込んだ。ウトガルド・ロキは対戦相手としてロギ(2)を呼んだ。玉座には切り刻まれた大きな肉の塊が、木の大皿に盛られた状態で運ばれてきた。木皿の一端はロキの席に、もう一端はロギ(2)の席の前に置かれ、ウトガルド・ロキの号令の下に対決が始まった。両者とも食べるにつれて椅子を前の方へ進めていき、ついに中央で両者がぶつかる形になった。しかしロギ(2)は肉についていた骨や木皿までも食べ尽くしていたため、ロキの負けとなった。続いてシアルヴィとトールも巨人たちと勝負したが負けた。しかしウトガルド・ロキはトールの力を認め、一行を歓待した。翌朝、ウトガルドを後にする際、すべてはウトガルド・ロキの作った幻影で、ロキと勝負したロギ(2)は野火であったことが明かされる。一行はミッドガルドを経由してアースガルドに帰還した。
『スヴィプダーグのバラード』でのフィヨルスヴィドの発言によると、ロキは「傷つける魔の杖」と呼ばれるレーヴァテインという魔剣を造り、ニヴルヘイムの門でルーンを唱えて鍛えたという。レーヴァテインはレーギャルンという大箱の中に収納され、9つの錠とシンモラの番により守られているらしい。また、同じくフィヨルスヴィドは、ヨーツンヘイムにあるリュルという館は、ロキがウニとイリ、バリとヤーリ、ヴァルとヴェグドラシル、ドリとオーリとデリングに手伝ってもらって造ったものだと語っている。
ロキはアースガルドでの毎日に退屈し、フリッグから鷹の衣を借りて変身してヨーツンヘイムまで飛んで行った。ヨーツンヘイムのある館の窓際に止まっていると、館の巨人ゲイルロドが鷹を見つけ、召使いに捕まえるよう命じた。ロキは一度は召使いの伸ばした手をかわしたが、館の茅葺き屋根に移ったところでゲイルロドの魔術にかかり、身動きが取れなくなったところを召使いに捕まってしまった。ゲイルロドは手の中に鷹を入れると、その眼が赤と緑に輝いたことから何者かの変身だと見破り、「お前は何者だ」と問い詰めた。しかしロキは答えなかったため、ゲイルロドは手を握りしめた。鷹は甲高い叫び声をあげて喘いだが、それでも答えなかった。ゲイルロドは巨大な錠つきの箱に鷹を閉じ込め、空腹で口を割らせようとした。3ヵ月が経ってからゲイルロドが箱を開けると、ロキはようやく名乗った。ゲイルロドは命を助ける条件として、「トールを武器を持たない状態で館までおびき出すこと」を提案した。ロキは、「ゲイルロドの2人の娘ギャルプとグレイプがトールに会いたがっている」「ゲイルロドの館は、足下がはずむような緑の草原だ」と嘘をつき、トールをゲイルロドの館まで連れ出そうとした。道中、女巨人グリッドの家に泊まった際、ロキが寝ている隙にグリッドは、トールにゲイルロドの本性を話し、自身の力のベルト・鉄の手袋・折れない杖を与えた。翌朝、トールがグリッドの武器を持っているのを見たロキは、ゲイルロドのことをどこまで聞いたか訝しんだ。やがて深い血の川であるヴィムル川につくと、トールは力のベルトを締め、グリッドの杖をつきながら、ロキを体にしがみつかせて川を渡り始めた。2人がゲイルロドの館に到着すると、ロキはまず館の前の川で身を洗うために出て行った。ロキが川から戻るとトールは既にギャルプとグレイプを殺した後で、すぐにゲイルロドも鉄球で倒してしまった。ロキは一目を盗んで館から逃げ出したが、トールはロキに対する恨みをいつか晴らすことを誓った。
春、オーディンとヘーニルとロキはミッドガルドへ旅に出た。道中、季節外れの吹雪に遭った後、ロキは鮭を獲ろうとしていたカワウソに石を投げて仕留めた。一行は宿をとるため、農場に立ち寄った。農場は魔法使いフレイドマルのもので、ロキに夕食だと見せられたカワウソは、フレイドマルの息子オッタルだった。フレイドマルはオッタルの兄弟ファヴニルとレギンと共に復讐するため、魔術でオーディンたち3人の力を奪い、手足を縛った。オーディンがオッタルの賠償金の支払いを申し出ると、フレイドマルはオッタルの皮を金でいっぱいにし、それを更に金で覆うことを命じた。ロキはオーディンとヘーニルを人質として残し、その賠償金の調達を買って出た。フレイドマルはロキの緊縛をほどき、ロキは外に出てフレスエイ島へ向かい走った。しかしオーディンとヘーニルが手足を縛られて自分を待っていることが面白くなり、わざと遅く島に向かった。島の海底の館にいる海神エーギルとラーンを訪ね、「溺死の網」を借りた。そして黒妖精の世界に向かい、地下の洞窟の池で「溺死の網」を広げると、カワカマスに変身していたアンドヴァリを捕らた。ロキはアンドヴァリを脅し、彼の全財産である黄金と指輪を奪った。しかしその黄金と指輪にはアンドヴァリの呪いがかけられており、所有者の身を滅ぼすという。ロキがフレイドマルの元に戻り黄金を渡すと、フレイドマルはオーディンとヘーニルの緊縛をほどいた。ロキは、自身で黄金を皮に詰め込むようにフレイドマルに指示した。そして自分たちで皮を黄金で覆うと、フレイドマルは認め、彼らを解放した。しかしロキはアンドヴァリの呪いの言葉を叫び、所有者を滅ぼすことをフレイドマルたちに告げた。
バルドルは、万物に対して「自分を傷つけるな」という契約を交わしたため、無敵となっていた。神々はバルドルに石などを投げつけてその無敵状態を楽しんでいた。これを面白く思わなかったロキは、老女に化けてフリッグの館に行き、彼女からヴァルハラの西に生えているヤドリギだけがこの契約から外れていることを聞き出した。そしてその小枝の皮をむき、先端を尖らせてベルトで磨いた。やがてグラズヘイムに戻ると、召使いから差し出されたワインを飲み、バルドルの兄弟で盲目の神ヘズに「神々の遊びに加わらないのか」と尋ねた。ヘズは、バルドルがどこにいるかもわからないし、武器も持っていないと言った。そこでロキはヤドリギの小枝を手渡し、ヘズの手を引いて小枝を投げた。ヤドリギはバルドルに刺さり、彼は命を落とした。神々は使者を送り、万物に対してバルドルの死を悼み、涙を流すよう頼んだ。使者がアースガルドに帰ってくると、洞穴に座っているセックという女巨人を見つけた。使者が彼女にも涙を流すよう頼むと、セックはこれを拒み、侮辱するような言葉を述べた。神々は、セックの正体がロキの変装であると考えた。
ロキはその後、神々が集うエーギルの宴で、エーギルの召使いフィマフェングとエルディルがよく働いているのを神々が褒め称えていると、これを面白く思わず、フィマフェングをナイフで刺し殺した。ロキは神々に館の外に追いやられ、フレスエイ島の森まで逃げ去ったが、すぐに館に戻った。戸の外でエルディルを待ち伏せ、神々が宴で各々の武器の自慢をし合っていることを聞き出すと、宴に戻った。ロキはそこで神々を順番に侮辱し、彼らに宣戦布告した。
アースガルドを発ったロキは、ミッドガルドのフラーナング滝近くに岩で隠れ家を造った。しかし神々に見つかることを恐れ、鮭に変身して川に隠れたりもしていた。ある日、ロキは長い亜麻の糸を弄んでいる内に、立派な網を発明した。しかし神々の追手に気付き、驚いて網を火の中に投げ入れた。そして家を飛びだして坂道を駆け下り、鮭に変身して水中に逃げた。神々の内の1人クヴァシルは、網の灰の模様からその精巧な網を思いつき、明け方に大網で川を浚った。しかし鮭に変身したロキは丸石の間に身を隠し、網にかからなかった。神々は網に重りをつけ、より下まで網にかかるようにして再挑戦した。これに対してロキは、川面から飛び上がって網を跳び越えた。しかし3回目は、跳びはねたところをトールに捕まってしまった。ロキはミッドガルドの洞窟に連れていかれた。神々はその間に、ロキの2人の息子ヴァーリとナルヴィを探し、ヴァーリを狼の姿に変えた。ヴァーリはナルヴィの喉に噛みつき、体を引き裂くとヨーツンヘイムに去っていった。神々はロキの体を岩板に横にし、ナルヴィの腸で肩や腰を縛って固定した。ロキが縛られた時に腸は鉄のように固くなった。次にスカジは毒蛇をロキの頭上の鍾乳石に繋いだ。ロキの妻シギュンが木鉢で毒を受け止めるが、鉢がいっぱいになると、岩の窪みに毒液を捨てる。その瞬間はロキが無防備になるため、蛇の毒が顔にかかり、苦痛に悶え苦しんで大地が震える。これが地震なのだという。ロキの拷問はラグナレクの日まで続くのだという。
ラグナレクにおいてロキは自由の身になり、予言どおり宿敵ヘイムダルと相打ちになるという。ラグナレクに登場する火の巨人スルトはロキの化身だとする場合もある。
「トールの所有する山羊の1匹を、片足を引き摺るようにしてしまったことがある」と描写されることもあるが、これはシアルヴィのエピソードと混同された結果だろうか。
ロキの存在は古代北欧より後、詩人たちによって付け加えられた。その後キリスト教の影響で悪意の擬人化と見なされるようになった。ロキの美しい容姿は天使時代のサタンの姿に影響を受けたものだとか、バルドル殺害の罪で洞窟に縛られた話は、キリストにより最後の審判までの1000年間地獄に拘束されているサタンの話を参考にしたとする場合もある。元々は火あるいは森林の火事の神格化と考えられていたが、神話の伝承に伴いその要素が薄れていったと思われる。
『ニーベルンゲンの指環』には、ロキをモチーフとしたローゲという火の神が登場する。
名は古ノルト語で「火」の意味だと思われ、そこから転じて「巨人」を意味する名だと考えられる。
主神オーディンの義兄弟。父は巨人族のファウルバウティ、母はラウフェイ。兄弟にはビュレイストとヘルブリンディがいる。妻シギュンとの間にヴァーリとナルヴィという息子を儲ける。女巨人アングルボダとの間には、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルを儲けた。
ロキは美しい容姿をした小柄な男神だとされる。神々の敵とされる巨人族の出身だが神々と生活を共にし、アース神族(-しんぞく)の一柱として数えられる。
美しい容姿を持つ。邪悪で術策に頭の回転が速く、気まぐれな性格でよく嘘をつく。その知恵により神々を救う場合もあるが、多くの場合は困難に陥れる、トリックスターのような神である。
変身能力を持ち、神話では馬・虻・蠅・蚤・鮭に姿を変えている。フレイヤやフリッグから借りた衣を使って鷹にも変身している。また雌馬や女巨人など性別を変えることもできるほか、空飛ぶ靴を所持する。
ロキの呼称としては、「ずる賢い者」「悪戯者」「変身者」「偽りの父」「空を旅する者」「人々の恐れ」がある。
ロキはトリックスターのような立ち振る舞いをするため、多くの神話に関わっている。
神々がヴァン神族(-しんぞく)との戦いで壊れたアースガルドの城壁をどうするか困っているところに、城壁を再建しようと提案する石工が馬に乗ってやってきた。石工は太陽と月、そしてフレイヤを妻として貰うことを代価として求めた。神々は難色を示したが、ロキはこれを利用しようと神々に提案した。建築期間が18ヶ月かかる見込みのところを、6ヶ月で完成させられれば代価を払うことにしようと言うのである。たった6ヵ月では城壁は完成しないし、そうすれば代価を払うことなく半分まで完成した城壁を手に入れることが出来る。ロキの提案に不安を覚える者もいたが、彼のアイディアに唸る者もいた。オーディンが石工に条件を伝えると、石工は追加の条件として、自らの愛馬スヴァディルファリの援助を得ることを持ちだした。オーディンは最初拒んだが、ロキはこれを許可した。しかし石工とスヴァディルファリは怪力の持ち主で、城壁は順調に完成に近づいていった。太陽・月・フレイヤが奪われることを恐れた神々はロキを問い詰めたが、ロキは「同意したのはお前らだ」と喚いた。オーディンが「何とかしなければ命を奪う」と彼の体を押さえつけて脅すと、ロキは何としても解決することを約束した。その日の夕方、ロキは牝馬に変身し、スヴァディルファリを誘惑して作業を滞らせた。その結果、城壁は完成されず、神々に騙されたことに気付いた石工は変身を解いて巨人の姿になり、神々に怒号を浴びせたがトールのミョルニルにより頭を砕かれて死んだ。数ヶ月後、ロキはアースガルドに戻り、自らが牝馬として産んだスレイプニルを持ち帰った。オーディンはロキにえらく感謝したという。
ロキは妻シギュンに満足せず、ヨーツンヘイムに赴いて女巨人アングルボダと関係を持ち、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルを儲けた。『古エッダ』「ヒュンドラの歌」では、アングルボダの心臓を食ったロキが、自ら女巨人に変身して孕み、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルを産んだという。
ロキはオーディンとヘーニルとの旅の途中、腹が減ったため肉を焼こうとしたがいつまでたっても焼けない。それは鷲に変身した巨人シアチの仕業で、ロキは怒って鷲を杖で叩きつけたが、杖は鷲の背にピッタリくっついてしまい、ロキはそれを手放すことが出来なくなった。鷲はロキを杖ごとくっつけたまま飛び回り、彼を引きずり回した。痛みに耐えられないロキが放してくれるよう頼むと、鷲はイドゥンと、彼女が管理する黄金の林檎を盗んでくるよう言った。黄金の林檎は神々の不老不死を司る存在だ。ロキがそれを約束すると、杖と彼の体は鷲から離れた。7日後、ロキはイドゥンを見つけると、「ビフレストの向こうの森の奥に、黄金の林檎が成る木を見つけたから、貴女の持つ黄金の林檎と比べてみましょう」と持ち掛け、イドゥンを騙してビフレスト橋に連れてきた。すると待ち構えていた鷲は彼女と林檎を掴み、ヨーツンヘイムに飛び去った。黄金の林檎が奪われたことで神々は老化が進み、衰えていった。ヘイムダルの召使いの情報によりロキの仕業と気づいた神々は、イドゥンの野原で寝ていたロキを見つけ出し、オーディンの前に連れ出した。オーディンはイドゥンと林檎を取り返さなければ、「背中に血染めの鷲(背中を割って肋骨を翼のように広げる刑罰)を描く」と脅した。怒るオーディンに慄いたロキは、フレイヤから借りた鷹の衣で鷹に変身し、シアチの館であるスリュムヘイムに赴いた。シアチは留守だったが、煙が立ち込める部屋でイドゥンを見つけたロキは、ルーン(魔法の言葉)を唱えて彼女を胡桃に変え、鉤爪で掴んで飛び去った。それに気づいたシアチは鷲に変身して追いかけたが、アースガルドで見ていたオーディンは召使いに合図を出し、用意した薪に火をつけさせた。急に止まれなかったシアチは火をくぐってしまい、地面に落ちたところを神々に殺された。ロキは無事イドゥンと林檎を持ち帰ることができた。
後にシアチの娘スカジがアースガルドを訪れ、父の殺害を許す条件として夫を得ることと、自分を笑わせることを持ちだした。夫にはニヨルドが選ばれ、オーディンは彼女を笑わせる担当にロキを選んだ。ロキは、山羊を自らの睾丸と結びつけ、山羊と綱引きをして彼女を笑わせることに成功した。
シフが寝ている間、ロキはその寝室に忍び込み、曲がった小刀で彼女の髪を刈りこんだ(あるいは、シフの愛馬たちを去勢してしまった)。怒ったトールに脅されたロキは、「イーヴァルディの息子たち」という2人の小人に魔法の金糸を紡がせて償うことにした。小人は金糸と共に、フレイにスキーズブラズニルという船を、オーディンにはグングニルという槍を作った。ロキは3つの宝物を持ち帰る途中、ブロックとエイトリという小人の家に立ちより、「この3つよりも見事な宝物が作れたら自らの頭をくれてやる」とけしかけた。ブロックとエイトリはロキに蜜酒の入った角杯を持たせて待たせておいた間に、オーディンにはドラウプニルという腕輪を、フレイにはグリンブルスティという黄金の猪を、トールにはミョルニルという槌を作ったが、それらの作業中、ロキは虻に変身して邪魔をした。虻に目を刺されたブロックが血を流しながら作業したため、ミョルニルは柄が少し短くなった。イーヴァルディの息子たちか、ブロックとエイトリか、どちらの宝物が優れているかの判定はオーディン、フレイ、トールがすることになったので、ロキはそれらの宝物を抱え、ブロックと共にアースガルドに戻った。オーディンたちはブロックが作ったミョルニルを高く評価したため、ロキは賭けに負けた。ブロックに頭を要求されたロキは、水の上や空を歩くことが出来る靴を履いて勢いよく逃げ出したが、すぐにトールに捕まった。しかし「頭はやると言ったが首はやらない」と強弁したため、ブロックはロキの口を縫い付けることにした。ブロックがナイフでロキの唇に穴を開けようとしたが、うまくいかなかった。ブロックが「兄貴の錐さえあれば穴が開けられるのに」と言うと、エイトリの錐が目の前に現れた。ブロックはその錐で唇に穴を開け、革紐を通して口を縫い付けた。グラズヘイムから走り去ったロキは革紐を切り裂いたが、その痛みで悲鳴を上げた。以降彼の口元には傷が残り、復讐のことを考えたために唇は捻じれた。
また、フレイヤが首飾りを得るために4人の小人と関係を持ったことを知ったロキはオーディンに報告した。オーディンは激昂し、首飾りを奪ってくるようロキに命じた。ロキは蝿に変身してセスルームニル(フレイヤの館)に忍び込み、蚤に変身して寝ているフレイヤの体を飛び回り、彼女に寝返りを打たせて首飾りの留め具を表にした。そこでロキは元の姿に戻り、首飾りを奪い取った。
トールのミョルニルが盗まれてしまった際は、再びフレイヤから鷹の衣を借りて鷹に変身し、ヨーツンヘイムを訪れて霜の巨人スリュムがミョルニルを盗んで隠したことを聞き出した。スリュムはミョルニルを返す条件として、フレイヤを花嫁として要求した。アースガルドに戻ったロキは、トールにこれを伝えた。トールとロキはセスルームニルを訪れてフレイヤにこれを話したが、彼女は激昂してスリュムの花嫁になることを拒んだ。神々の話し合いの結果、フレイヤの代わりにトールを花嫁として偽装する作戦が決まった。ロキはその侍女としてヨーツンヘイムに同伴した。スリュムは花嫁が来たことを喜んでご馳走を出したが、空腹だったトールはがっついて貪り食ってしまった。スリュムがそれを訝しむが、ロキは「婚礼を楽しみにするあまり花嫁は何も召しあがらなかった」と答えた。スリュムがキスしようとして花嫁のヴェールの下を覗き込むと、トールの燃えるような凄まじい目に驚いた。ロキはそれを「婚礼を楽しみにするあまり寝付けなかった」と言ってごまかした。
ロキはトールのウトガルド遠征に同行した。彼らはまず戦車に乗ってミッドガルドを訪れ、シアルヴィとロスクヴァという人間の子供を旅のお供にした。一行は小舟で海を渡り、森の中を彷徨った。宿を探すシアルヴィは大きな館を発見し、そこに泊まることになったのだが、館だと思っていたのはスクリューミルという巨人の手袋だった。スクリューミルは食物に飢えた一行に食事を与えると言ったが、それはスクリューミルの意地悪で、彼が渡した食物入りの袋はトールでさえほどけない紐で結ばれていた。巨人に翻弄された一行は食事にありつけないまま夜を明かした。森を後にした一行がウトガルドの砦に到着すると、ロキは先立って門をくぐって中に入った。その後にシアルヴィとロスクヴァ、トールが続いた。館に入ると巨人の王ウトガルド・ロキがおり、ロキは進んで大食い・早食いの対決を申し込んだ。ウトガルド・ロキは対戦相手としてロギ(2)を呼んだ。玉座には切り刻まれた大きな肉の塊が、木の大皿に盛られた状態で運ばれてきた。木皿の一端はロキの席に、もう一端はロギ(2)の席の前に置かれ、ウトガルド・ロキの号令の下に対決が始まった。両者とも食べるにつれて椅子を前の方へ進めていき、ついに中央で両者がぶつかる形になった。しかしロギ(2)は肉についていた骨や木皿までも食べ尽くしていたため、ロキの負けとなった。続いてシアルヴィとトールも巨人たちと勝負したが負けた。しかしウトガルド・ロキはトールの力を認め、一行を歓待した。翌朝、ウトガルドを後にする際、すべてはウトガルド・ロキの作った幻影で、ロキと勝負したロギ(2)は野火であったことが明かされる。一行はミッドガルドを経由してアースガルドに帰還した。
『スヴィプダーグのバラード』でのフィヨルスヴィドの発言によると、ロキは「傷つける魔の杖」と呼ばれるレーヴァテインという魔剣を造り、ニヴルヘイムの門でルーンを唱えて鍛えたという。レーヴァテインはレーギャルンという大箱の中に収納され、9つの錠とシンモラの番により守られているらしい。また、同じくフィヨルスヴィドは、ヨーツンヘイムにあるリュルという館は、ロキがウニとイリ、バリとヤーリ、ヴァルとヴェグドラシル、ドリとオーリとデリングに手伝ってもらって造ったものだと語っている。
ロキはアースガルドでの毎日に退屈し、フリッグから鷹の衣を借りて変身してヨーツンヘイムまで飛んで行った。ヨーツンヘイムのある館の窓際に止まっていると、館の巨人ゲイルロドが鷹を見つけ、召使いに捕まえるよう命じた。ロキは一度は召使いの伸ばした手をかわしたが、館の茅葺き屋根に移ったところでゲイルロドの魔術にかかり、身動きが取れなくなったところを召使いに捕まってしまった。ゲイルロドは手の中に鷹を入れると、その眼が赤と緑に輝いたことから何者かの変身だと見破り、「お前は何者だ」と問い詰めた。しかしロキは答えなかったため、ゲイルロドは手を握りしめた。鷹は甲高い叫び声をあげて喘いだが、それでも答えなかった。ゲイルロドは巨大な錠つきの箱に鷹を閉じ込め、空腹で口を割らせようとした。3ヵ月が経ってからゲイルロドが箱を開けると、ロキはようやく名乗った。ゲイルロドは命を助ける条件として、「トールを武器を持たない状態で館までおびき出すこと」を提案した。ロキは、「ゲイルロドの2人の娘ギャルプとグレイプがトールに会いたがっている」「ゲイルロドの館は、足下がはずむような緑の草原だ」と嘘をつき、トールをゲイルロドの館まで連れ出そうとした。道中、女巨人グリッドの家に泊まった際、ロキが寝ている隙にグリッドは、トールにゲイルロドの本性を話し、自身の力のベルト・鉄の手袋・折れない杖を与えた。翌朝、トールがグリッドの武器を持っているのを見たロキは、ゲイルロドのことをどこまで聞いたか訝しんだ。やがて深い血の川であるヴィムル川につくと、トールは力のベルトを締め、グリッドの杖をつきながら、ロキを体にしがみつかせて川を渡り始めた。2人がゲイルロドの館に到着すると、ロキはまず館の前の川で身を洗うために出て行った。ロキが川から戻るとトールは既にギャルプとグレイプを殺した後で、すぐにゲイルロドも鉄球で倒してしまった。ロキは一目を盗んで館から逃げ出したが、トールはロキに対する恨みをいつか晴らすことを誓った。
春、オーディンとヘーニルとロキはミッドガルドへ旅に出た。道中、季節外れの吹雪に遭った後、ロキは鮭を獲ろうとしていたカワウソに石を投げて仕留めた。一行は宿をとるため、農場に立ち寄った。農場は魔法使いフレイドマルのもので、ロキに夕食だと見せられたカワウソは、フレイドマルの息子オッタルだった。フレイドマルはオッタルの兄弟ファヴニルとレギンと共に復讐するため、魔術でオーディンたち3人の力を奪い、手足を縛った。オーディンがオッタルの賠償金の支払いを申し出ると、フレイドマルはオッタルの皮を金でいっぱいにし、それを更に金で覆うことを命じた。ロキはオーディンとヘーニルを人質として残し、その賠償金の調達を買って出た。フレイドマルはロキの緊縛をほどき、ロキは外に出てフレスエイ島へ向かい走った。しかしオーディンとヘーニルが手足を縛られて自分を待っていることが面白くなり、わざと遅く島に向かった。島の海底の館にいる海神エーギルとラーンを訪ね、「溺死の網」を借りた。そして黒妖精の世界に向かい、地下の洞窟の池で「溺死の網」を広げると、カワカマスに変身していたアンドヴァリを捕らた。ロキはアンドヴァリを脅し、彼の全財産である黄金と指輪を奪った。しかしその黄金と指輪にはアンドヴァリの呪いがかけられており、所有者の身を滅ぼすという。ロキがフレイドマルの元に戻り黄金を渡すと、フレイドマルはオーディンとヘーニルの緊縛をほどいた。ロキは、自身で黄金を皮に詰め込むようにフレイドマルに指示した。そして自分たちで皮を黄金で覆うと、フレイドマルは認め、彼らを解放した。しかしロキはアンドヴァリの呪いの言葉を叫び、所有者を滅ぼすことをフレイドマルたちに告げた。
バルドルは、万物に対して「自分を傷つけるな」という契約を交わしたため、無敵となっていた。神々はバルドルに石などを投げつけてその無敵状態を楽しんでいた。これを面白く思わなかったロキは、老女に化けてフリッグの館に行き、彼女からヴァルハラの西に生えているヤドリギだけがこの契約から外れていることを聞き出した。そしてその小枝の皮をむき、先端を尖らせてベルトで磨いた。やがてグラズヘイムに戻ると、召使いから差し出されたワインを飲み、バルドルの兄弟で盲目の神ヘズに「神々の遊びに加わらないのか」と尋ねた。ヘズは、バルドルがどこにいるかもわからないし、武器も持っていないと言った。そこでロキはヤドリギの小枝を手渡し、ヘズの手を引いて小枝を投げた。ヤドリギはバルドルに刺さり、彼は命を落とした。神々は使者を送り、万物に対してバルドルの死を悼み、涙を流すよう頼んだ。使者がアースガルドに帰ってくると、洞穴に座っているセックという女巨人を見つけた。使者が彼女にも涙を流すよう頼むと、セックはこれを拒み、侮辱するような言葉を述べた。神々は、セックの正体がロキの変装であると考えた。
ロキはその後、神々が集うエーギルの宴で、エーギルの召使いフィマフェングとエルディルがよく働いているのを神々が褒め称えていると、これを面白く思わず、フィマフェングをナイフで刺し殺した。ロキは神々に館の外に追いやられ、フレスエイ島の森まで逃げ去ったが、すぐに館に戻った。戸の外でエルディルを待ち伏せ、神々が宴で各々の武器の自慢をし合っていることを聞き出すと、宴に戻った。ロキはそこで神々を順番に侮辱し、彼らに宣戦布告した。
アースガルドを発ったロキは、ミッドガルドのフラーナング滝近くに岩で隠れ家を造った。しかし神々に見つかることを恐れ、鮭に変身して川に隠れたりもしていた。ある日、ロキは長い亜麻の糸を弄んでいる内に、立派な網を発明した。しかし神々の追手に気付き、驚いて網を火の中に投げ入れた。そして家を飛びだして坂道を駆け下り、鮭に変身して水中に逃げた。神々の内の1人クヴァシルは、網の灰の模様からその精巧な網を思いつき、明け方に大網で川を浚った。しかし鮭に変身したロキは丸石の間に身を隠し、網にかからなかった。神々は網に重りをつけ、より下まで網にかかるようにして再挑戦した。これに対してロキは、川面から飛び上がって網を跳び越えた。しかし3回目は、跳びはねたところをトールに捕まってしまった。ロキはミッドガルドの洞窟に連れていかれた。神々はその間に、ロキの2人の息子ヴァーリとナルヴィを探し、ヴァーリを狼の姿に変えた。ヴァーリはナルヴィの喉に噛みつき、体を引き裂くとヨーツンヘイムに去っていった。神々はロキの体を岩板に横にし、ナルヴィの腸で肩や腰を縛って固定した。ロキが縛られた時に腸は鉄のように固くなった。次にスカジは毒蛇をロキの頭上の鍾乳石に繋いだ。ロキの妻シギュンが木鉢で毒を受け止めるが、鉢がいっぱいになると、岩の窪みに毒液を捨てる。その瞬間はロキが無防備になるため、蛇の毒が顔にかかり、苦痛に悶え苦しんで大地が震える。これが地震なのだという。ロキの拷問はラグナレクの日まで続くのだという。
ラグナレクにおいてロキは自由の身になり、予言どおり宿敵ヘイムダルと相打ちになるという。ラグナレクに登場する火の巨人スルトはロキの化身だとする場合もある。
「トールの所有する山羊の1匹を、片足を引き摺るようにしてしまったことがある」と描写されることもあるが、これはシアルヴィのエピソードと混同された結果だろうか。
ロキの存在は古代北欧より後、詩人たちによって付け加えられた。その後キリスト教の影響で悪意の擬人化と見なされるようになった。ロキの美しい容姿は天使時代のサタンの姿に影響を受けたものだとか、バルドル殺害の罪で洞窟に縛られた話は、キリストにより最後の審判までの1000年間地獄に拘束されているサタンの話を参考にしたとする場合もある。元々は火あるいは森林の火事の神格化と考えられていたが、神話の伝承に伴いその要素が薄れていったと思われる。
『ニーベルンゲンの指環』には、ロキをモチーフとしたローゲという火の神が登場する。
名は古ノルト語で「火」の意味だと思われ、そこから転じて「巨人」を意味する名だと考えられる。
別名
参照
参考文献
- 山北篤著『西洋神名事典』新紀元社
- 大林太良,伊藤清司,吉田敦彦,松村一男編『世界神話事典』角川選書
- 山北篤,佐藤俊之監修『悪魔事典』新紀元社
- ブルフィンチ著/野上弥生子『ギリシア・ローマ神話』岩波文庫
- フェルナン・コント著/蔵持不三也訳『ヴィジュアル版ラルース 世界の神々神話百科』原書房
- K・クロスリィ-ホランド著/山室静,米原まり子訳『北欧神話物語』青土社
- アーサー・コッテル著/左近司祥子,宮元啓一,瀬戸井厚子,伊藤克巳,山口拓夢,左近司彩子訳『世界神話辞典』柏書房
- クロード・ルクトゥ著/篠田知和基監訳/広野和美,木村高子訳『北欧とゲルマンの神話事典 伝承・民話・魔術』原書房
- 山北篤著『幻想生物 西洋編』新紀元社
- サー・ジェームズ・ジョージ・フレーザー著/メアリー・ダグラス監修/サビーヌ・マコーマック編/内田昭一郎,吉岡晶子訳『図説 金枝篇』東京書籍
- ライナー・テッツナー著/手嶋竹司訳『ゲルマン神話 神々の時代 上』青土社
- 久保田悠羅とF.E.A.R.著『ドラゴン』新紀元社