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ワイナミョイネン
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ワイナミョイネン/Vainamoinen
フィンランドの叙事詩『カレヴァラ』に登場する英雄・老詩人。
母は水の母イルマタル(ルオンノタルとも)。天から降りたイルマタルが海原で波間を漂っていると、嵐が起きて海が激しく沸騰した。その風に吹かれていると彼女の胎内に生命が宿ったが、子を産むために休息する土地が見つからないまま7世紀の間も子を産めなかった。苦しみから逃れようと至高神ウッコに訴えると、1羽の鴨(あるいは鷲)がやって来て彼女の膝に卵を産んだ。3日後にイルマタルがそれを海中に落とすと、それが天・大地・太陽・月・星・雲になった。それから10回目の夏が訪れた時、イルマタルは海から頭を出し、世界創造を行った。しかし更に30回の夏の間、30回の冬の間も、子であるワイナミョイネンはイルマタルの胎内にいた。しかしやがて、狭く暗い胎内から出ることを望み、彼が月や太陽、大熊星に訴えたがそれらは聞き入れられず、とうとうワイナミョイネンは自ら誕生した。海中に産まれ落ちたワイナミョイネンはそのまま大海原の中で8歳まで待ち続け、やがて陸地に膝をつき、腕を支えにして立ち上がった。
ワイナミョイネンは島に住居を作り暮らすことにした。ペッレルオイネンに命じ、不毛だった島に植物をもたらしたが、カシワの木だけは育たなかった。そこで4人の乙女と英雄トゥルサスの助けを借りて木を生やしたが、今度は育ちすぎて天を覆ってしまった。彼がイルマタルに祈ると小男が現れ、それは目の前で大男に変じてカシワの大木を切り倒した。こうして世界に再び日が降り注いだため、荒れた地に植物が生い茂った。しかし大麦だけは育たなかった。ワイナミョイネンは浜辺を探し歩き、7つの大麦の種を見つけ、リスや貂の毛皮にそれを包んでおいた。そして斧で木々を切り倒して土地の開墾を始めた。鳥の休息のために1本の樺の木だけ残したところ、感心した鷲が火を起こして木々を焼き払ってくれた。こうして出来た土地に種を蒔き、ウッコに祈ると、1週間後に大麦が育った。樺の木が残されている理由を郭公に聞かれると「鳥の休息のためだ」と答え、土地がより栄えるように鳴くことを命じた。
ワイナミョイネンは毎日歌を歌った。彼の賢さの噂を耳にしたヨウカハイネンは、彼に挑むためカレワラ(ワイナミョイネンの領土)へ向かったところ、その地を橇で駆けていたワイナミョイネンとぶつかってお互いの橇が絡まった。両者は互いに名を名乗り、ヨウカハイネンはどちらがより賢いかの勝負を持ちかけた。ヨウカハイネンは知恵を披露したが、イルマタルが行ったはずの世界創造すらも自らの行いだと言ったことでワイナミョイネンの怒りを買い、彼の魔法の歌でヨウカハイネンの軛は若樹に、肩当は柳に、手綱は赤楊に、橇は湖水に、鞭は芦に、馬は石に変えられてしまった。ヨウカハイネン自身は地面に埋められる。彼は命乞いをし、自らの持ち物を差し出すことで許しを請うた。しかし弓・舟・駿馬・宝物・穀物のいずれもワイナミョイネンは受け取ろうとせず、さらにヨウカハイネンを深く埋めた。そこでヨウカハイネンは妹のアイノを捧げると言うと、喜んだワイナミョイネンはようやく彼を解放した。
ワイナミョイネンとアイノは、彼女が森へ浴み刷毛を採りに来た時に対面した。しかし老人と結婚することを嫌がったアイノは、泣きながら逃げ出す。アイノは悲嘆の末に入水自殺してしまい、それを伝え聞いたワイナミョイネンは死を悼み、悲しんで涙した。
眠りの神ウンタモに彼女の居場所を尋ねると、霧の絶えない島の近くの海底にいるという。そこでワイナミョイネンは、釣り道具を携え、海に舟を出した。そうしてある日、1匹の魚を釣り上げた。それは鯡(ニシン)より滑らかで、鱒(マス)より黄色く、グツよりも灰色で、鮭やスズキに似た魚だった。これを小刀で捌いて食用にしようとした瞬間、水中に飛び込んでしまった。魚は水面から顔を出し、自らがアイノであることをワイナミョイネンに告げる。ワイナミョイネンは彼女に自分の元へ帰ってくるよう説得するが、魚は身を翻して水中に消えてしまった。ワイナミョイネンは網を編んで再び魚を捕らえようとしたが無駄に終わり、悲嘆にくれる。するとイルマタルが墓場から蘇り、海底から北の国ポホヨラ(=ラップランド)の娘を婚約者に迎えるよう助言した。
ワイナミョイネンは母の言葉どおり、ポホヨラを目指すために薄黄色の馬に乗り旅に出た。馬は海上を駆けたが、ルオトラ湾の入江あたりにやって来たところでヨウカハイネンの放った毒矢が馬に当たり、落馬して何日もの間、海の中を漂う羽目になった。すると鷲がやってきて、彼をポホヨラまで連れて行ってくれた。鷲は、以前ワイナミョイネンが鳥の休息のために樺の木を1本残しておいてくれた恩を覚えていたのだ。ポホヨラの海辺に辿り着いたワイナミョイネンは、傷だらけで髪も髭も汚く伸びていた。彼は湖のほとりを彷徨いながら、故郷を思って何日も泣いていたが、その泣き声を聞いたポホヨラの乙女がポホヨラの女主人ロウヒに伝えたところ、ロウヒが彼を見つけて介抱してくれた。回復したワイナミョイネンはロウヒの歓待を受けたが、やはり故郷に帰ることを要求した。ロウヒはそれを受け入れ、サンポを鋳造すれば娘と結婚させてやると約束した。ワイナミョイネンはロウヒによって橇に乗せられ、カレワラへの帰途についた。
帰り道、虹の上にある、大空の門にいたロウヒの娘(乙女)を口説くが、娘は難題をいくつかふっかけて結婚を躱そうとする。ワイナミョイネンは、乙女の要求どおり「刃の無い小刀で馬の毛を切り、結び目が見えないように自分に結び付けること」「1欠片も散らさずに石の皮を剥ぎ、氷塊を砕くこと」を叶えてみせた。「紡錘と梭の欠片を用いて小舟を作り、触れずに舟を進めること」との要求を叶えるために舟作りを進めていた3日目のこと、誤って斧を岩に当ててしまい、跳ね返った斧で膝を負傷してしまった。苔や土で傷を塞ごうとしたが血は溢れるばかり。鉄の斧によってできた傷は、鉄に対する呪文によって止められるため、ワイナミョイネンは橇を走らせて、呪文を知る老人を探し当てた。
老人は呪文を唱え、その間に息子に軟膏を作らせた。ワイナミョイネンは痛みで気を失っていたが、やがて目を覚まし、ウッコに感謝し、驕った気持ちで舟を作ることは危険だと戒めの言葉を残した。
それから栗毛の馬に橇を走らせ、3日経てカレワラの地に帰郷した。そこで魔法の歌を歌い、金の松の木を生やしてその枝に月と大熊星をかけた。鍛冶師イルマリネンに「サンポを造れば乙女と結婚できる」と勧める。しかし断られると、枝に月や大熊星がかかった不思議な松の木があると唆した。イルマリネンが木に登って月に手をかけようとした時、ワイナミョイネンは魔法の歌を歌い、嵐を起こして彼をポホヨラまで飛ばした。
やがて帰って来たイルマリネンが、サンポ鋳造に成功したが、娘との結婚に失敗したことを聞くと、ワイナミョイネンはポホヨラへ向かう船を造るため、ペッレルオイネンに命じて資材を集めさせて、魔法の歌で船を造った。しかし、舷・船首・艫を正しく造る魔法の言葉を知らなかったため、船は進水しなかった。白鳥の頭・鵞鳥の肩・燕の脳やトナカイの舌・リスの口の中などに呪文があると考えたワイナミョイネンは、それらの動物を殺して探したが見つからなかった。そこで死の国マナラにあるトゥオニの館に魔法の言葉が隠されていると思いつき、マナラへ向かった。黒い水が流れる死の川に着いた彼は、渡し守であるトゥオニの娘に舟を渡すよう呼びかけたが、死者以外は渡し船に乗せないという掟があった。ワイナミョイネンは娘を何とか説き伏せ、舟に乗って館に辿り着いた。そこでトゥオニの妃トゥオネタルから、黄金の杯に注がれた強い酒を出されたが、酒瓶を覗き見ると中には黒い蛙・毒蛇の子・蜥蜴や虫などが蠢いてたため、体よく酒を断り、呪文を教えてほしいと頼んだ。トゥオネタルはこれを拒み、カレワラに帰すわけにはいかないと言って彼の頭上で眠りの杖を振り回すと、ワイナミョイネンは深い眠りについてしまった。その間に、歯の抜けた魔女と、3本指の男魔法使いが鉄や銅の網を作り、トゥオニの子がそれを死の川に張り巡らせてワイナミョイネンが通れないようにした。深い眠りから覚めたワイナミョイネンは、魔法で変身して網の目をかいくぐった。翌朝、トゥオニの子が鉄の熊手で網を引き揚げたが、そこに彼の姿はなかった。カレワラに帰ったワイナミョイネンは、人々に冥界の様子を語り、ここを訪れてはいけないと戒めの言葉を残した。
未だ呪文を入手できていないワイナミョイネンは、羊飼いから得た情報を元に、アンテロ=ウィプネンという巨人から呪文を得ようと考え、イルマリネンに鉄の靴・篭手・肌着・杖を作ってもらう。眠っていたアンテロ=ウィプネンの体に生えた樹木を切り倒し、口の中に鉄の棒を突き立てて巨人を起こしたが、足を滑らせて飲み込まれてしまった。彼は身につけた小刀から舟を作って巨人の体内を漕ぎまわり、鉄の肌着を用いて鍛冶場を作って槌を振り回し、暴れた。巨人は彼を止めるために長々と訴えたが、ワイナミョイネンは「目当ての呪文を聞きだすまでは動かない」と言った。観念した巨人から全ての知恵を授かると、口から脱出し、呪文を用いてようやく舟を完成させた。
娘に求婚するためポホヨラを目指すワイナミョイネンは、舟を赤く塗り、メッキや銀で飾って海を渡った。それを知ったイルマリネンの妹アンニッキに問い詰められ、最初は「鮭を釣りに行く」「鵞鳥を探しに行く」と嘘をついたが、それがバレると正直に話した。アンニッキは兄にこれを話し、イルマリネンはワイナミョイネンを橇で追いかけた。2人は、どちらが結婚相手になるか、あくまでも娘の意思を尊重することを誓い合った。娘の元へ先に辿り着いたのはワイナミョイネンだったが、彼女はイルマリネンを結婚相手に選び、ワイナミョイネンはうなだれてポホヤを後にし、「自分より若い者と争って乙女に婚を求めるべからず」と戒めの言葉を残した。
イルマリネンと娘の結婚式が始まると、ワイナミョイネンは歌い手として大いに歌った。新郎新婦はイルマリネンの家で迎えられ、ここでもワイナミョイネンは祝いの歌を歌った。橇に乗って帰る途中、橇が壊れてしまう。そこで再びトゥオネラに赴き、マナラの館から大錐を持ちだし、魔法の歌で森を出現させて新しい橇を造った。
後に妻を喪ったイルマリネンから、金銀で造った花嫁を押し付けられると、これを拒み、炉の中に入れるか、ロシアかサクソン人に与えることを提案する。
イルマリネンが、最初の妻の妹を娶る為に向かったポホヨラから帰ってくると、ワイナミョイネンは彼を訪ね、ポホヨラがサンポによって潤っている様子を聞いた。そして、妻の妹を連れていないことを不思議に思って尋ねると、妹から侮辱され、彼女を鴎に変えてしまったことを聞く。
ワイナミョイネンはイルマリネンにサンポ奪還を提案し、武器製造を頼む。2人が旅のための駿馬を確保していると、浜辺で木の舟が泣いているのを見つける。訳を尋ねると、舟は進水を焦がれて泣いていた。舟が旅に適していることを認めると、馬を棄て、ワイナミョイネンは魔法の歌で多くの漕ぎ手を出現させ、美しい外観にした。2人が船で出発すると、途中で旅の目的を聞いたレンミンカイネンが仲間に加わる。
道中、舟は巨大なグツの背に乗り上げて座礁してしまう。ワイナミョイネンは剣でグツを刺し、船内に引き上げると小刀で捌いて乗組員の女たちに料理させた。そしてグツの顎骨で造った竪琴を演奏すると、あらゆる者が音楽に耳を傾け、聴いた者はみな感涙にむせび、ワイナミョイネン自らも涙を流した。その涙は水に落ちると青真珠になった。
ポホヨラに到着した一行は、ロウヒにサンポ奪還に来たことを告げる。ロウヒは激昂するが、ワイナミョイネンが竪琴を演奏するとポホヨラの人々はみな眠りについた。一行はその隙にサンポを盗み出し、舟に乗って脱出を試みる。ワイナミョイネンは湖水の中から、ポホヨラの刺客イク=トゥルソを見つけて引き揚げると、水中に投げ返した。その後に舟は嵐に遭い、竪琴が海中に落ちてしまう。
やがてロウヒは一行に追い付くと、鷲に変身して一行との戦った。その結果、サンポは砕けてしまったが、その欠片は浜辺に流れ着き、ワイナミョイネンはこれを喜んだ。ロウヒは呪いの言葉を吐くがワイナミョイネンは意に介さず、帰郷して浜に流れ着いたサンポの欠片を集め、カレワラに撒いた。
その後、失くしてしまった竪琴を探すため、イルマリネンに鉄の熊手を造らせ、舟に乗って探しに行ったが見つからなかった。すると森の中で泣いている樺の木に出くわし、その訳を聞くと「伐採されるのが怖い」という。そこで木を説得し、そこから新たな竪琴を造り出した。郭公の口から流れ出た金や銀から螺子を造り、荒野で歌っていた乙女に分けてもらった髪から弦を造った。こうして再び竪琴を手にすると、ワイナミョイネンはそれを演奏した。
サンポによってカレワラが栄えているのを妬んだロウヒは、ロヴィアタルに9人の子供を産ませてカレワラに送った。子供たちはカレワラの人々を様々な病気にして殺していった。ワイナミョイネンはこれを退治するため、浴場に湯を張り、その湯気の中でウッコに祈った。その後、病人に湯を注いだり湯気を当てたり、薬草で作った9種の軟膏・8種の妙薬や香油を塗って人々を治した。
ロウヒは次に、大熊オトソを送ってカレワラの人や家畜を食い殺させようとした。ワイナミョイネンはこれを退治すべく、イルマリネンに三つ又の槍を造らせ、歌を歌ってオトソが悠然と見ている隙に槍で突き殺した。剥いだ皮は蔵の敷物に、肉は鍋料理にした。熊退治を記念して祝宴が開かれると、ワイナミョイネンは竪琴を演奏した。
太陽と月がその演奏を聴くために木の上まで降りてくると、ロウヒはそれ奪ってポホヨラに隠した。更にロウヒはカレワラの家々から火を盗んでしまった。これに対してウッコが新しい火を作った。ワイナミョイネンとイルマリネンは舟を造り、その火を探しに行った。道中にイルマタルから、火はあちこちを焼いた後に魚が呑み込んだことを聞くと、榁の木の内皮を柳の汁に浸して網を造り、魚を捕らえようとしたが失敗に終わった。
より目の細かい亜麻の網を造る為、地中から亜麻の種を採り出し、アルエ湖畔に蒔いて育った亜麻を持ち帰り、一家総出で網をこさえた。この網で火を呑んだ魚を捕らえたが、魚の腹から取り出す際に火は激しく燃え上がり、ワイナミョイネンの髭やイルマリネンの頬や手を焼いて、あちこちを焼き回った。ワイナミョイネンは火を追い、赤楊の木の朽ち株でようやく見つけて、火を竈に移し、再び家々に火が灯るようになった。
御籤により、太陽と月がポホヨラの山中に隠されていることを知ったワイナミョイネンは、ポホヨラへ向かった。ポホヨラの河の前まで来ると、薪を燃やし、舟を渡すよう大声で呼びかけたが、ポホヨラの子らに「渡し舟は無い」と言われたため、自ら泳いでポホヨラの家に入った。そこでポホヨラの者と戦い、殺した。太陽と月を探す道中、石の割れ目の中でビールを飲む毒蛇の群れを見つけると、その首を刎ねた。しかし隠し場所の閂は呪文で封じられており、開けることが出来なかった。それを開けるために、イルマリネンに12個の手斧と1束の鍵と長柄の槍を造らせていると、鳥に変身したロウヒがやって来て何を作っているのか尋ねた。イルマリネンが「ポホヨラの老婆の首輪だ」と答えると、ロウヒはついに観念して太陽と月を解放した。ワイナミョイネンは太陽と月に挨拶し、今後の不変を望んだ。
後にマリヤッタという少女が処女懐胎すると、誕生した子の審判を求められたワイナミョイネンは、赤子を殺すよう裁きを下した。すると赤子はワイナミョイネンを激しく詰り、かつてイルマリネンを騙してポホヤへ送ったことや、アイノを死に追いやったことを持ちだして罵倒した。他の皆はその子に洗礼を施し、カレリア国の王とすることにした。怒ったワイナミョイネンは国を発つことにする。魔法の歌で舟を造ると、「我はサンポや竪琴を造るため、また太陽と月をもたらすために再び人々に仰望されるだろう」と歌いながら去って行った。こうしてワイナミョイネンは海の彼方の国へ消えていった。
母は水の母イルマタル(ルオンノタルとも)。天から降りたイルマタルが海原で波間を漂っていると、嵐が起きて海が激しく沸騰した。その風に吹かれていると彼女の胎内に生命が宿ったが、子を産むために休息する土地が見つからないまま7世紀の間も子を産めなかった。苦しみから逃れようと至高神ウッコに訴えると、1羽の鴨(あるいは鷲)がやって来て彼女の膝に卵を産んだ。3日後にイルマタルがそれを海中に落とすと、それが天・大地・太陽・月・星・雲になった。それから10回目の夏が訪れた時、イルマタルは海から頭を出し、世界創造を行った。しかし更に30回の夏の間、30回の冬の間も、子であるワイナミョイネンはイルマタルの胎内にいた。しかしやがて、狭く暗い胎内から出ることを望み、彼が月や太陽、大熊星に訴えたがそれらは聞き入れられず、とうとうワイナミョイネンは自ら誕生した。海中に産まれ落ちたワイナミョイネンはそのまま大海原の中で8歳まで待ち続け、やがて陸地に膝をつき、腕を支えにして立ち上がった。
ワイナミョイネンは島に住居を作り暮らすことにした。ペッレルオイネンに命じ、不毛だった島に植物をもたらしたが、カシワの木だけは育たなかった。そこで4人の乙女と英雄トゥルサスの助けを借りて木を生やしたが、今度は育ちすぎて天を覆ってしまった。彼がイルマタルに祈ると小男が現れ、それは目の前で大男に変じてカシワの大木を切り倒した。こうして世界に再び日が降り注いだため、荒れた地に植物が生い茂った。しかし大麦だけは育たなかった。ワイナミョイネンは浜辺を探し歩き、7つの大麦の種を見つけ、リスや貂の毛皮にそれを包んでおいた。そして斧で木々を切り倒して土地の開墾を始めた。鳥の休息のために1本の樺の木だけ残したところ、感心した鷲が火を起こして木々を焼き払ってくれた。こうして出来た土地に種を蒔き、ウッコに祈ると、1週間後に大麦が育った。樺の木が残されている理由を郭公に聞かれると「鳥の休息のためだ」と答え、土地がより栄えるように鳴くことを命じた。
ワイナミョイネンは毎日歌を歌った。彼の賢さの噂を耳にしたヨウカハイネンは、彼に挑むためカレワラ(ワイナミョイネンの領土)へ向かったところ、その地を橇で駆けていたワイナミョイネンとぶつかってお互いの橇が絡まった。両者は互いに名を名乗り、ヨウカハイネンはどちらがより賢いかの勝負を持ちかけた。ヨウカハイネンは知恵を披露したが、イルマタルが行ったはずの世界創造すらも自らの行いだと言ったことでワイナミョイネンの怒りを買い、彼の魔法の歌でヨウカハイネンの軛は若樹に、肩当は柳に、手綱は赤楊に、橇は湖水に、鞭は芦に、馬は石に変えられてしまった。ヨウカハイネン自身は地面に埋められる。彼は命乞いをし、自らの持ち物を差し出すことで許しを請うた。しかし弓・舟・駿馬・宝物・穀物のいずれもワイナミョイネンは受け取ろうとせず、さらにヨウカハイネンを深く埋めた。そこでヨウカハイネンは妹のアイノを捧げると言うと、喜んだワイナミョイネンはようやく彼を解放した。
ワイナミョイネンとアイノは、彼女が森へ浴み刷毛を採りに来た時に対面した。しかし老人と結婚することを嫌がったアイノは、泣きながら逃げ出す。アイノは悲嘆の末に入水自殺してしまい、それを伝え聞いたワイナミョイネンは死を悼み、悲しんで涙した。
眠りの神ウンタモに彼女の居場所を尋ねると、霧の絶えない島の近くの海底にいるという。そこでワイナミョイネンは、釣り道具を携え、海に舟を出した。そうしてある日、1匹の魚を釣り上げた。それは鯡(ニシン)より滑らかで、鱒(マス)より黄色く、グツよりも灰色で、鮭やスズキに似た魚だった。これを小刀で捌いて食用にしようとした瞬間、水中に飛び込んでしまった。魚は水面から顔を出し、自らがアイノであることをワイナミョイネンに告げる。ワイナミョイネンは彼女に自分の元へ帰ってくるよう説得するが、魚は身を翻して水中に消えてしまった。ワイナミョイネンは網を編んで再び魚を捕らえようとしたが無駄に終わり、悲嘆にくれる。するとイルマタルが墓場から蘇り、海底から北の国ポホヨラ(=ラップランド)の娘を婚約者に迎えるよう助言した。
ワイナミョイネンは母の言葉どおり、ポホヨラを目指すために薄黄色の馬に乗り旅に出た。馬は海上を駆けたが、ルオトラ湾の入江あたりにやって来たところでヨウカハイネンの放った毒矢が馬に当たり、落馬して何日もの間、海の中を漂う羽目になった。すると鷲がやってきて、彼をポホヨラまで連れて行ってくれた。鷲は、以前ワイナミョイネンが鳥の休息のために樺の木を1本残しておいてくれた恩を覚えていたのだ。ポホヨラの海辺に辿り着いたワイナミョイネンは、傷だらけで髪も髭も汚く伸びていた。彼は湖のほとりを彷徨いながら、故郷を思って何日も泣いていたが、その泣き声を聞いたポホヨラの乙女がポホヨラの女主人ロウヒに伝えたところ、ロウヒが彼を見つけて介抱してくれた。回復したワイナミョイネンはロウヒの歓待を受けたが、やはり故郷に帰ることを要求した。ロウヒはそれを受け入れ、サンポを鋳造すれば娘と結婚させてやると約束した。ワイナミョイネンはロウヒによって橇に乗せられ、カレワラへの帰途についた。
帰り道、虹の上にある、大空の門にいたロウヒの娘(乙女)を口説くが、娘は難題をいくつかふっかけて結婚を躱そうとする。ワイナミョイネンは、乙女の要求どおり「刃の無い小刀で馬の毛を切り、結び目が見えないように自分に結び付けること」「1欠片も散らさずに石の皮を剥ぎ、氷塊を砕くこと」を叶えてみせた。「紡錘と梭の欠片を用いて小舟を作り、触れずに舟を進めること」との要求を叶えるために舟作りを進めていた3日目のこと、誤って斧を岩に当ててしまい、跳ね返った斧で膝を負傷してしまった。苔や土で傷を塞ごうとしたが血は溢れるばかり。鉄の斧によってできた傷は、鉄に対する呪文によって止められるため、ワイナミョイネンは橇を走らせて、呪文を知る老人を探し当てた。
老人は呪文を唱え、その間に息子に軟膏を作らせた。ワイナミョイネンは痛みで気を失っていたが、やがて目を覚まし、ウッコに感謝し、驕った気持ちで舟を作ることは危険だと戒めの言葉を残した。
それから栗毛の馬に橇を走らせ、3日経てカレワラの地に帰郷した。そこで魔法の歌を歌い、金の松の木を生やしてその枝に月と大熊星をかけた。鍛冶師イルマリネンに「サンポを造れば乙女と結婚できる」と勧める。しかし断られると、枝に月や大熊星がかかった不思議な松の木があると唆した。イルマリネンが木に登って月に手をかけようとした時、ワイナミョイネンは魔法の歌を歌い、嵐を起こして彼をポホヨラまで飛ばした。
やがて帰って来たイルマリネンが、サンポ鋳造に成功したが、娘との結婚に失敗したことを聞くと、ワイナミョイネンはポホヨラへ向かう船を造るため、ペッレルオイネンに命じて資材を集めさせて、魔法の歌で船を造った。しかし、舷・船首・艫を正しく造る魔法の言葉を知らなかったため、船は進水しなかった。白鳥の頭・鵞鳥の肩・燕の脳やトナカイの舌・リスの口の中などに呪文があると考えたワイナミョイネンは、それらの動物を殺して探したが見つからなかった。そこで死の国マナラにあるトゥオニの館に魔法の言葉が隠されていると思いつき、マナラへ向かった。黒い水が流れる死の川に着いた彼は、渡し守であるトゥオニの娘に舟を渡すよう呼びかけたが、死者以外は渡し船に乗せないという掟があった。ワイナミョイネンは娘を何とか説き伏せ、舟に乗って館に辿り着いた。そこでトゥオニの妃トゥオネタルから、黄金の杯に注がれた強い酒を出されたが、酒瓶を覗き見ると中には黒い蛙・毒蛇の子・蜥蜴や虫などが蠢いてたため、体よく酒を断り、呪文を教えてほしいと頼んだ。トゥオネタルはこれを拒み、カレワラに帰すわけにはいかないと言って彼の頭上で眠りの杖を振り回すと、ワイナミョイネンは深い眠りについてしまった。その間に、歯の抜けた魔女と、3本指の男魔法使いが鉄や銅の網を作り、トゥオニの子がそれを死の川に張り巡らせてワイナミョイネンが通れないようにした。深い眠りから覚めたワイナミョイネンは、魔法で変身して網の目をかいくぐった。翌朝、トゥオニの子が鉄の熊手で網を引き揚げたが、そこに彼の姿はなかった。カレワラに帰ったワイナミョイネンは、人々に冥界の様子を語り、ここを訪れてはいけないと戒めの言葉を残した。
未だ呪文を入手できていないワイナミョイネンは、羊飼いから得た情報を元に、アンテロ=ウィプネンという巨人から呪文を得ようと考え、イルマリネンに鉄の靴・篭手・肌着・杖を作ってもらう。眠っていたアンテロ=ウィプネンの体に生えた樹木を切り倒し、口の中に鉄の棒を突き立てて巨人を起こしたが、足を滑らせて飲み込まれてしまった。彼は身につけた小刀から舟を作って巨人の体内を漕ぎまわり、鉄の肌着を用いて鍛冶場を作って槌を振り回し、暴れた。巨人は彼を止めるために長々と訴えたが、ワイナミョイネンは「目当ての呪文を聞きだすまでは動かない」と言った。観念した巨人から全ての知恵を授かると、口から脱出し、呪文を用いてようやく舟を完成させた。
娘に求婚するためポホヨラを目指すワイナミョイネンは、舟を赤く塗り、メッキや銀で飾って海を渡った。それを知ったイルマリネンの妹アンニッキに問い詰められ、最初は「鮭を釣りに行く」「鵞鳥を探しに行く」と嘘をついたが、それがバレると正直に話した。アンニッキは兄にこれを話し、イルマリネンはワイナミョイネンを橇で追いかけた。2人は、どちらが結婚相手になるか、あくまでも娘の意思を尊重することを誓い合った。娘の元へ先に辿り着いたのはワイナミョイネンだったが、彼女はイルマリネンを結婚相手に選び、ワイナミョイネンはうなだれてポホヤを後にし、「自分より若い者と争って乙女に婚を求めるべからず」と戒めの言葉を残した。
イルマリネンと娘の結婚式が始まると、ワイナミョイネンは歌い手として大いに歌った。新郎新婦はイルマリネンの家で迎えられ、ここでもワイナミョイネンは祝いの歌を歌った。橇に乗って帰る途中、橇が壊れてしまう。そこで再びトゥオネラに赴き、マナラの館から大錐を持ちだし、魔法の歌で森を出現させて新しい橇を造った。
後に妻を喪ったイルマリネンから、金銀で造った花嫁を押し付けられると、これを拒み、炉の中に入れるか、ロシアかサクソン人に与えることを提案する。
イルマリネンが、最初の妻の妹を娶る為に向かったポホヨラから帰ってくると、ワイナミョイネンは彼を訪ね、ポホヨラがサンポによって潤っている様子を聞いた。そして、妻の妹を連れていないことを不思議に思って尋ねると、妹から侮辱され、彼女を鴎に変えてしまったことを聞く。
ワイナミョイネンはイルマリネンにサンポ奪還を提案し、武器製造を頼む。2人が旅のための駿馬を確保していると、浜辺で木の舟が泣いているのを見つける。訳を尋ねると、舟は進水を焦がれて泣いていた。舟が旅に適していることを認めると、馬を棄て、ワイナミョイネンは魔法の歌で多くの漕ぎ手を出現させ、美しい外観にした。2人が船で出発すると、途中で旅の目的を聞いたレンミンカイネンが仲間に加わる。
道中、舟は巨大なグツの背に乗り上げて座礁してしまう。ワイナミョイネンは剣でグツを刺し、船内に引き上げると小刀で捌いて乗組員の女たちに料理させた。そしてグツの顎骨で造った竪琴を演奏すると、あらゆる者が音楽に耳を傾け、聴いた者はみな感涙にむせび、ワイナミョイネン自らも涙を流した。その涙は水に落ちると青真珠になった。
ポホヨラに到着した一行は、ロウヒにサンポ奪還に来たことを告げる。ロウヒは激昂するが、ワイナミョイネンが竪琴を演奏するとポホヨラの人々はみな眠りについた。一行はその隙にサンポを盗み出し、舟に乗って脱出を試みる。ワイナミョイネンは湖水の中から、ポホヨラの刺客イク=トゥルソを見つけて引き揚げると、水中に投げ返した。その後に舟は嵐に遭い、竪琴が海中に落ちてしまう。
やがてロウヒは一行に追い付くと、鷲に変身して一行との戦った。その結果、サンポは砕けてしまったが、その欠片は浜辺に流れ着き、ワイナミョイネンはこれを喜んだ。ロウヒは呪いの言葉を吐くがワイナミョイネンは意に介さず、帰郷して浜に流れ着いたサンポの欠片を集め、カレワラに撒いた。
その後、失くしてしまった竪琴を探すため、イルマリネンに鉄の熊手を造らせ、舟に乗って探しに行ったが見つからなかった。すると森の中で泣いている樺の木に出くわし、その訳を聞くと「伐採されるのが怖い」という。そこで木を説得し、そこから新たな竪琴を造り出した。郭公の口から流れ出た金や銀から螺子を造り、荒野で歌っていた乙女に分けてもらった髪から弦を造った。こうして再び竪琴を手にすると、ワイナミョイネンはそれを演奏した。
サンポによってカレワラが栄えているのを妬んだロウヒは、ロヴィアタルに9人の子供を産ませてカレワラに送った。子供たちはカレワラの人々を様々な病気にして殺していった。ワイナミョイネンはこれを退治するため、浴場に湯を張り、その湯気の中でウッコに祈った。その後、病人に湯を注いだり湯気を当てたり、薬草で作った9種の軟膏・8種の妙薬や香油を塗って人々を治した。
ロウヒは次に、大熊オトソを送ってカレワラの人や家畜を食い殺させようとした。ワイナミョイネンはこれを退治すべく、イルマリネンに三つ又の槍を造らせ、歌を歌ってオトソが悠然と見ている隙に槍で突き殺した。剥いだ皮は蔵の敷物に、肉は鍋料理にした。熊退治を記念して祝宴が開かれると、ワイナミョイネンは竪琴を演奏した。
太陽と月がその演奏を聴くために木の上まで降りてくると、ロウヒはそれ奪ってポホヨラに隠した。更にロウヒはカレワラの家々から火を盗んでしまった。これに対してウッコが新しい火を作った。ワイナミョイネンとイルマリネンは舟を造り、その火を探しに行った。道中にイルマタルから、火はあちこちを焼いた後に魚が呑み込んだことを聞くと、榁の木の内皮を柳の汁に浸して網を造り、魚を捕らえようとしたが失敗に終わった。
より目の細かい亜麻の網を造る為、地中から亜麻の種を採り出し、アルエ湖畔に蒔いて育った亜麻を持ち帰り、一家総出で網をこさえた。この網で火を呑んだ魚を捕らえたが、魚の腹から取り出す際に火は激しく燃え上がり、ワイナミョイネンの髭やイルマリネンの頬や手を焼いて、あちこちを焼き回った。ワイナミョイネンは火を追い、赤楊の木の朽ち株でようやく見つけて、火を竈に移し、再び家々に火が灯るようになった。
御籤により、太陽と月がポホヨラの山中に隠されていることを知ったワイナミョイネンは、ポホヨラへ向かった。ポホヨラの河の前まで来ると、薪を燃やし、舟を渡すよう大声で呼びかけたが、ポホヨラの子らに「渡し舟は無い」と言われたため、自ら泳いでポホヨラの家に入った。そこでポホヨラの者と戦い、殺した。太陽と月を探す道中、石の割れ目の中でビールを飲む毒蛇の群れを見つけると、その首を刎ねた。しかし隠し場所の閂は呪文で封じられており、開けることが出来なかった。それを開けるために、イルマリネンに12個の手斧と1束の鍵と長柄の槍を造らせていると、鳥に変身したロウヒがやって来て何を作っているのか尋ねた。イルマリネンが「ポホヨラの老婆の首輪だ」と答えると、ロウヒはついに観念して太陽と月を解放した。ワイナミョイネンは太陽と月に挨拶し、今後の不変を望んだ。
後にマリヤッタという少女が処女懐胎すると、誕生した子の審判を求められたワイナミョイネンは、赤子を殺すよう裁きを下した。すると赤子はワイナミョイネンを激しく詰り、かつてイルマリネンを騙してポホヤへ送ったことや、アイノを死に追いやったことを持ちだして罵倒した。他の皆はその子に洗礼を施し、カレリア国の王とすることにした。怒ったワイナミョイネンは国を発つことにする。魔法の歌で舟を造ると、「我はサンポや竪琴を造るため、また太陽と月をもたらすために再び人々に仰望されるだろう」と歌いながら去って行った。こうしてワイナミョイネンは海の彼方の国へ消えていった。
別名
参考文献
- 山北篤著『西洋神名事典』新紀元社
- 山北篤監修『東洋神名事典』新紀元社
- D・リーミング,M・リーミング著/松浦俊輔訳『創造神話の事典』青土社
- 森本覚丹訳『フィンランド国民的叙事詩カレワラ(上)』講談社学術文庫
- 森本覚丹訳『フィンランド国民的叙事詩カレワラ(下)』講談社学術文庫
- 新紀元社編集部編『幻想人名辞典』新紀元社