ホワイト&ローズ ◆2lsK9hNTNE
男は首を振り、なのはは礼を言ってまた別の男に尋ねる。そんなやりとりをもう何度も繰り返してきた。
家を飛び出してから数時間。ずっとフェイトを探しているが、未だ手掛かりは得られていない。
考えてみれば当然だった。見えない壁で仕切られているとはいえ、聖杯戦争の舞台は狭くない。
フェイトも、自分が追われていることを知って、どこかに隠れているかもしれない。なのは一人が考えなしに探したところで見つかるわけがなかった。
足の裏が痛む。
今からでも念話でキャスターに協力を頼もうかとも思ったが、今も聖杯戦争の解析をしていると思われる彼に、さらに負担を強いるのは躊躇いがあった。
やっぱり一人で探そうと決意したところでお腹が、ぐう、となった。そういえばまだお昼を食べていなかった。
いざというときに空腹で倒れたりしたら元も子もない。辺りと見ると民家ばかりの中に一見だけ小さなラーメン屋があった。
中に入るとお昼時だけあってそこそこ人がいる。なのは適当に開いているカウンター席に座った。
家族や友達を連れずに飲食店に入るのは初めてだったので、少し緊張した。
メニューを見て、一番安い醤油ラーメンを注文する。
「あの、この子しりませんか? フェイト・テスタロッサって名前なんですけど」
店員に聞いてみたが「知らないっすねぇ」と言って厨房に戻っていった。
周りの客にも聞いてみたが、芳しい返事は得られなかった。
「隣り、よろしいでしょうか」
すぐ横から女性の声がしてなのはは「どうぞ」と答えた。遅れて声の方に視線をやり、その姿にぎょっとした。
今は春だというのに、その女性は黒く長いコートで全身を隠し、頭をフードで覆っていた。ハッキリ言って怪しい格好だった。
なのはは相手を注意深く見る。と、ぼんやりと頭の中に画が浮かび上がってきた。
前にも見たことがあるような画だった。あれは初めてキャスターとあった日、聖杯から与えられた記憶を便りにキャスターのステータスを見ようとして……
――サーヴァント!
なのはは心の中で叫んだ。間違いない。これはサーヴァントをステータスを表す画だ。
つまりこの女性はサーヴァント。それもクラスは対魔力を持つアーチャーだ。
隣りに座られて、なのはは慌てて正面を向いた。
魔法で戦うなのはでは高い対魔力を持つ相手には太刀打ちできない。
次元連結システムを使えば別だが、あれはなのはにも制御しきれない。こんなところで使えば大惨事になりかねない。
それ以前に人のいるところで戦闘をすること自体、なのはにとっては論外だ。絶対にマスターであることがバレてはいけない。
だがそんな思いを打ち砕く言葉がアーチャーの口から発せられた。
「フェイト・テスタロッサを探しているようですね」
反射的にレイジングハートに伸びそうになった手をアーチャーが掴んだ。
瞬きよりも速い一瞬だった。なのはは自分の手が締め付けられる感触がして、初めて掴まれていることに気づいた。
「そう構えないでください。戦うつもりなら声をかけたりしませんよ」
そう言ってアーチャーが手を離す。注文を聞く店員に味噌ラーメンを頼むんだ。
なのはは瞳に警戒の色を浮かべて言う。
「それじゃあ……なんのようですか?」
「フェイト・テスタロッサのことを聞いてまわっているそうですね」
ドキリとする。あんな探し方をしていたら、いずれ他の参加者の耳に入ることはわかっていたが、こんな早いとは思っていなかった。
「フェイト・テスタロッサを探すのは変なことではありません。
しかし道行くに人にたずねて回るというのは、令呪欲しさにしてはリスクの高いやりかたです。
あなたは個人的にフェイト・テスタロッサのことを知っており、彼女を守るために探している。違いますか?」
心臓の鼓動が速くなっていく。なのはは何も答えられない。沈黙をイエスと受け取ったのかアーチャーが続ける。
「そこで提案なんですが……私と協力しませんか?」
「え?」
「協力と言っても難しい話ではありません。フェイト・テスタロッサを見つけたらお互い連絡しよういうだけです」
「ちょ……ちょっと待ってください! えっと、それはつまりあなたもフェイトちゃんを守りたいってことですか?」
「はい」
本当ならなのはにとっては願ってもない申し出だった。ついさっき一人で見つけるのは難しいと考えたばかりなのだ。
しかしだからといって簡単に信用することはできない。フェイトは今すべてのマスターから狙われてもおかしくない立場なのだ。
このアーチャーもなのはから居場所を聞いたあとで裏切るつもりかもしれない。
「私はかつてこの聖杯戦争と同じくらい……いえ、それよりも悲惨な催しに参加していたことがあります」
そんななのはの思いを察したのかのようにアーチャーが口を開く。
「勝ち残ったところで報酬があるわけでもなく、負ければ死ぬ。
途中で抜けることも許されず、生きるには他の誰かを犠牲にするしかない。地獄のような殺し合いです。
私の目の前でもまだ若い男の子がひとり死にました。そして私自身もその戦いで……
あんな理不尽な出来事は絶対にあっては行けません。
ルーラーがなぜフェイト・テスタロッサを捕まえたいのかはわかりませんが、聖杯戦争など取り仕切る輩がまともとは思えない。
フェイト・テスタロッサの居場所を教えたくないなら、あなたや他の誰かがサーヴァントに襲われたときでも構わない。私を呼んでくれませんか。
私はもう誰かが死ぬのを見たくないのです」
アーチャーから語られる光景の凄惨さは今のなのはではいくら考えても想像できない。
だがアーチャーの声から彼女が戦いの中で感じた悲しみが、そして今の彼女を悲壮な想いが、伝わってくるような気がした。
なのは両手を握りしめ決心した。この人を信じようと。
こんな悲しい声を出す人が嘘をついているはずがない。
「わかりました。一緒にフェイトちゃんを探してください」
「ありがとうございます」
アーチャーはそう言って手を差し出す。なのは一瞬それが何を意味しているのか考え、すぐにその手を握り返した。
キャスターのときとは違う。アーチャーが求めているのは間違いなく握手だった。
「それでは――」
「お待たせっしたぁー、ご注文のしなぁいじょでおそろいでしょかー」
アーチャーの言葉を遮るようにラーメンが置かれる。彼女は肩を竦めた。
「込み入った話はあとにしましょう。そういえばあなたの名前は?」
「
高町なのはです」
それから二人はラーメンを食べながらいろんなことを話した。好きな食べ物とか趣味とか、そういった他愛もない話だ。
途中でキャスターの忠告を思い出して、こんな話をしていていいのだろうかと思ったが、アーチャーは「できるときに心をリラックスさせるのも大切ですよ」と言った。
会計のときになってアーチャーが手持ちがないことを思い出し、なのはがお金を払った。小学生には痛い出費だった。
外に出たあとアーチャーは「それでは連絡方法を決めましょう」と言った。
「私は生憎、通信に使えるようなものは持っていないので、何かあったときは公衆電話か誰かの携帯を借りて連絡します。あなたは――」
「あ、わたしの方はたぶん大丈夫だと思います。えっと……」
『聞こえますか?』
なのはは念話でアーチャーに話しかけた。僅かに覗いたアーチャーの顔が驚きに染まっていた。
「驚きました。あなたは自分のサーヴァント以外にも念話ができるのですか?」
「はい。サーヴァントとする普通の念話とは原理が違うとちょっと違うんですけど、一応」
「それはそれは……」
一瞬、僅かに覗いたアーチャーの顔が残念そうに見えた。
しかしそんな顔をする理由も思い当たらなかったので、気のせいだろうと思いすぐに忘れた。
「では私はフェイト・テスタロッサの捜索に戻ります。また会いましょう」
「あの、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」
立ち去ろうとしたアーチャーが足を止める。振り向かず、背中を向けたまま言った
「なんでしょう」
「どうしてそんな格好をしてるんですか?」
「ああ、これですか」
アーチャーが振り向いた。指でフードを持ち上げ、中を見せる。そこには青い薔薇の花があしらわれていた。
「なにぶん目立つ容姿をしているで隠してるんですよ。まあこれはこれで目立つんですが」
そう言い残し、今度こそアーチャーは立ち去った。
なのははアーチャーが見えなくなったあと、小さく「よし」と言った。改めてフェイトを見つけることを固く決意する。
しかし気がかりが一つだけあった。
「ねえレイジングハート、やっぱりいつもみたいに話さない?」
キャスターは隙を作るからやめろと言ったが、アーチャーはリラックスするのも大事と言った。
それならやっぱりなのははレイジングハートと話したかった。
『いいえ』
レイジングハートは機械的に答える。レイジングハートはキャスターの意見に賛成なのだろうか。
◇
アーチャーが高町なのはに接触できたのは、人並み外れた聴覚を持つ魔法少女の中でも並外れた聴覚のおかげだった。
フェイト・テスタロッサの名を何度も口にする少女の声を聞き、十中八九、聖杯戦争の関係者と判断し接近。
セイバーにしたように殺気を飛ばしても、マスターのすぐ側まで近寄っても現れないことから、サーヴァントはいないと判断し協力を持ちかけたのだ。
あとは簡単だった。
呼吸や鼓動、声色などから相手の精神状態を分析し、魔法で感情を揺さぶる声を出して信頼を得る。
魔法少女を一人ひとり、スカウトしていたときにはよく使っていた手だ。特に理屈よりも感情で物事を判断する子供にはよく効く。
もっともフェイト・テスタロッサを守るというのはあながち嘘でもない。
アーチャーはフェイト・テスタロッサを狙って集まってくるサーヴァントとの闘争を求めている。
結果的にだが彼女を守ることにもなるだろう。あくまで彼女を囮として使った上での話だが。
しかし実に惜しい、とアーチャーは思った。
先頃のセイバーのマスターといい、高町なのはといい、素晴らしい素質を持っていた。
魔法少女になり鍛えればどちらも優秀な戦士になれただろう。しかしあの性格で聖杯戦争を生き残れるとは思えない。
本当に惜しい。できるなら生きているうちに会いたかったものだ。
アーチャーはひと気のない路地に辿り着いた。
ビルの壁に足を掛け、反対の足で地面を蹴る。そのまま壁面を垂直に駆け上がり、屋上へと登った。
サーヴァントであり魔法少女でもある彼女は人を探すのに、地道に地上を走り回ったりはしない。その優れた視覚と聴覚を持って高所から探す。
盗んだコートが風にはためいた。これは着たままにしておく。また誰かと接触したくなったときに役に立つかもしれないからだ。
屋上から屋上へ。黒い影が飛び移っていった。
【C-4/ラーメン屋の側/1日目 午後】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]決意
[令呪]残り三画
[装備]“天”のレイジングハート
[道具]通学セット
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻る。
1.フェイトを探し、話をする。
2.フェイトを見つけたらアーチャー(
森の音楽家クラムベリー)に連絡する
3.もし、フェイトが聖杯を望んでいたら……?
4.キャスターの聖杯戦争解明の手助け。
5.『死神様』事件の解決。小学校へ向かう。
【C-4/ビルの屋上/1日目 午後】
【アーチャー(森の音楽家クラムベリー)@魔法少女育成計画】
[状態] 健康
[装備] 黒い、フード付きコート
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: 強者との闘争を求める
1. 敵を探す。差し当たってはフェイト・テスタロッサを巡る戦乱に乗じる
※フェイト・テスタロッサを見つけてもなのはに連絡するつもりはありません
最終更新:2016年06月21日 19:22