機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc
0:
かつて町を震撼させた連続殺人鬼
チェーンソー殺人鬼
姿を消したかと思われた奴が今
再びそのチェーンソーを震わせる!
1:
くしゅん、と英国貴族の伊達男としては似つかわしくないくしゃみを、アサシン――ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドはあげた。
サーヴァントは体調を損なうことはない。であるならばこのくしゃみはなにかの予兆か、――幸か不幸か、『くしゃみをするのは噂をされている印』というこの国で冗談交じりに話されるジンクスを彼は知らなかったが――、などと益体もなく思う。
(さもありなん。と言ったところかもな)
街は噂に溢れていた。
既に知っている『
チェーンソー男』や『包帯男』、アサシンがその正体である『火吹き男』に留まらず。
不審者や怪事件、都市伝説の類いの噂を探そうとすれば、おそらく数日は事欠かない。
(魔都だな、こりゃあ。
――『バネ足』の跳び回ってた頃のイギリスに、よく似ているじゃあないか)
呼び出されたサーヴァント達。傑物、英雄、あるいは怪人。
好き勝手に暴れまわる彼等によって、街全体が、幾らか暗い雰囲気を帯びている。
それが、アサシンがここ数日街を見回って直観として得た感想だった。
(だが、それだからこそ、いい話も聞けるってものだ)
口さがないおしゃべりに夢中になったり、誰かになにかを話したくて仕方がない人間は、どこにだっているものだ。
それは18世紀の英国だろうと、現代の日本だろうと変わりはない。
市民劇場の付近の通り。
歴史ある、――ウォルター流に口さがない言い方をしてしまえば、古びてくたびれた――、建物の多い一角で、話好きな大人や老人たちから、色々と話を聞き出すことができた。
中でも興味深かったのが、どうやら小学校に通う子供を抱えているらしい女が話した『死神様』の噂。
生贄を捧げて『死神』を呼び出すと、憎い相手を殺してもらえる。今時珍しいくらいの古臭い形式の黒魔術だ。
興味深いのは、そんなあまりにも錆び付いた手法が、小学校という子供達の学び舎で噂され、実際に行われているらしいこと。
(――面白いじゃないか)
十中八九にして、これは聖杯戦争の絡んだ噂だとアサシンは判断した。
サーヴァントの仕業だとするなら、魂喰いが目的か、あるいはその回りくどさから考えて他の目的があるか。
どちらにしろ、小学校を調べてみる価値はある。
そう当面の方針を決定し、市民劇場から西の方角にある小学校へと向かおうとした瞬間。
不意に感じた気配に、アサシンはその足を止めた。
◆
(くだらん街だ。聖杯によって作られたと聞いたが、大したモノではない)
キャスター――
木原マサキがこの街を見て回って一番に得た感想とは、それであった。
無論、これだけの空間を構築し、そこに住む住人を用意する手腕と技術は大したモノではあるが、それとは別に街の様子はキャスターを失望させるに足るモノだった。
今通っている裏通りも確かに歴史こそあるのだろうが、逆に言えば、キャスターからすれば古臭い寂れた商店や公共の建物が並ぶだけに過ぎない。
実際、人通りもほとんどなかった。この街の中でも寂れた区画に当たるのだろう。
(元よりマスターのガキどもを欺くための舞台装置に過ぎんか。
……まあいい。主題はそこではない)
キャスターの目的は、己の『冥王計画(プロジェクト)』の条件を満たすマスターを探すこと。
そのためにも、キャスターに無用な散策に時間を費やしている時間はない。
自己保存の特性《スキル》により滅ばぬ自らを餌にして、食いついてくる連中から新たな『
木原マサキ』の素材を選別する必要がある。
今とて、無為にキャスターは行動しているわけではない。
確固とした目的地を持って、キャスターはとある場所を目指している。
早朝に
ルーラーからキャスターのマスターである
高町なのはへ――そして、おそらくはこの聖杯戦争の参加者である全てのマスターへ――送られてきた電子メール。
捕縛命令が下された
フェイト・テスタロッサの事に注意を惹かれ、
高町なのははその全文をしっかりと確認することはなかった。
だが、キャスターは違う。
(『みんなのアイドル
諸星きらりだにぃ☆』、
――フン、間抜けばかりでもないらしい)
くくく、とキャスターが嗤う。
ルーラーが電子メールに記載していた、聖杯戦争参加者のための掲示板のURLアドレス。
戯れにアクセスしたキャスターの目に入ったのは、露骨なまでの個人攻撃だった。
(中々に趣味がいい奴がいるようだ。――ひとつ利用させてもらうとしよう)
諸星きらりがクロかシロかなど、キャスターには興味がない。
ただ、あのスレッドを見た連中の一部は、間違い無くアレに喰いついてくる。
その連中の前に出ていき、嘲笑い、品定めをするのも悪くはない。
既にニュースサイトの内容から検索して、キャスターは事件の起きた高校の住所を調べ終わっている。
マスターである
高町なのはの家から、そう遠くもない場所。
いや。もっと言えば、彼女の通う小学校の近辺だった。
(あのガキに嗅ぎ付かれるのは避けたいが)
……当然だが、これはなのはに類が及ぶのを危惧しての考えではない。
もしも戦いの気配を嗅ぎつけた
高町なのはがレイジングハートを使うことがあれば、聖杯戦争の盤面が変わるような事件が高確率で発生する。
いつかは間違いなく起こる事態とはいえ、準備ができていない状況でキャスター自ら盤面を加速させる理由はない。
故にサーヴァントやマスターを引っ張り出すとしても、小学校からは引き離すべきだ。
歩きながらそこまで考えを纏めていたキャスターは、ふと感じた違和に、足を止めた。
†
(この辺りが目的ってわけじゃあ、ないらしいな)
市民劇場から幾らか離れた裏通り。
不意に気配を感じ取ったサーヴァントらしき男を尾行しながら、アサシンは内心でそう呟いていた。
このくたびれた市街に目立った建築物といえば、ララの歌う市民劇場くらいのものだ。
故に、サーヴァントがこの周囲を訪れるのならば、市民劇場の噂を聞き付けて調べに来たのではないかという危惧をアサシンは抱いていたのだが。
(方角から察するに、ただの通り道ってところか)
ならば、彼のマスターであるララの存在が嗅ぎ付けられることはまだない。
余裕を持って尾行を続けよう、とアサシンは判断した。
『気配遮断』と『阻まれた顔貌』。この二つの特性《スキル》を同時に発動させたアサシンは、サーヴァントとしての気配を完全に消した上で、更に一般人としての気配も殺した状態にある。
こうなったアサシンを捉えることは、特殊な手段を使わない限り非常に困難だ。
そしてこの二つの特性《スキル》により、アサシンは情報収集に徹することができる。
ある時は気配遮断を解いてNPCと会話し、ある時は気配を遮断し会話を盗み聞く。
そしてまたある時は、今こうしているようにマスターやサーヴァントを尾行することもできた。
(しかし、なんでコイツは霊体化を解いている?)
一見無防備に背中を晒しているサーヴァントらしき男の後を追いながらも、アサシンの内心には一つの疑問が芽生えた。
移動するだけならば、障害物をすり抜けられる霊体の方が便利だ。
先程のアサシンのようにNPCから話を聞き出したりしているのならばわかるが、目の前のサーヴァントらしき男にその様子はない。
霊体化もせず、実体を持って気配を巻き散らす姿は、同じサーヴァントの目から見れば、明らかに目立ってしまっている。
……いや、アサシンの目には、むしろ"意図的に目立とうとしている"としか見えなかった。
(ふん。面白い、いいじゃないか)
元々アサシンも、品行方正とは程遠い破天荒な人物だ。
明らかに道理に合わない、一見無意味を通り越して不利益な行動。
それを堂々と行うこのサーヴァントらしき男に、アサシンはある種の好奇心を抱いていた。
(暴いてやろうじゃないか。お前の企みをな)
◆
キャスターが差し掛かった十字路、その前方の袋小路。
コンクリートの塀で作られた、灰色の突き当たりに、標識が一本立っている。
"これを見るものは
これを進入禁止の標識として反応せよ"
標識を視覚が認識した瞬間、五感がそう理解"させられる"。――のを、キャスターは自覚した。
(暗示かなにかか?
――くだらん仕掛けだ)
かけられた本人がそうと自覚できる時点で、暗示としてのランクは高くない。
キャスターのようなサーヴァントのみならず、マスターにすら容易く破られる類のものだ。
(せいぜい木偶除けががいいところか。違和感にさえ気付けば、この程度の暗示を破るのに特別な手段など必要ない)
袋小路へと入り込んで、キャスターは意識し標識へと目を凝らす。
その結果として、標識の傍に宙に浮く人形、――童話の妖精のような――、がいるのを、キャスターは発見した。
「なんだ、お前は」
「行き止まりです。行き止まりの世界です。
見えるでしょう? 進入禁止の標識。だからここは行き止まりなのです。
行き止まりの世界なのです」
「莫迦なことを言うな。NPCのような木偶人形ならばそれで騙せるのかもしれんが、この俺には通じん。
もう一度聞く。貴様はなんだ。使い魔か」
妖精は、キャスターの問いには答えなかった。
その代わりに、――"道"が、開いた。
「これは"その他の注意"。
"この先さいはて"の標識です。お気を付けて」
何処にも続いている筈のない、灰色の袋小路。
その先に、ぽっかりと、黒い"道"が、開いていた。
そしてその"道"へ、躊躇無くキャスターは踏み込んだ。
「――さて、鬼が出るか、蛇が出るか……この俺を招き入れるならば、少しは楽しませてみせろ」
2:Positive Unhappy Crimson Edge
"道"を抜けたキャスターがまずはじめに見たのは、土の地面と、生い茂る木の他には何ひとつない雑木林だった。
林の向こうには、先程までいた裏通りとは明らかに様変わりした町が見える。
(固有結界、という奴か)
固有結界。
術者の心象により、世界を塗り替える大魔術。
本来
木原マサキの世界にはなかった用語だが、サーヴァント、それも魔術師《キャスター》として召喚された彼は、その知識を聖杯から手に入れていた。
この推測が当たっているならば、今キャスターが立っているここは敵の陣地だ。本来ならば警戒し、一旦離脱を試みるのも手ではある。
しかし自己保存の特徴《スキル》を以てすれば、余程の例外がない限りどのような状況だろうと自らに危険が及ぶことはない。
そして、――『
木原マサキ』の器を探すという本筋とは逸れるが――、この固有結界はキャスターにとって非常に興味深いモノだった。
その理由は2つ。科学者としての知的好奇心、と――
(ここならば、"天"の力を発揮したとて表の街には及ぶまい)
マスターである
高町なのはの持つ、"天"のレイジングハート。
その力をフルに発揮すれば、間違いなく街は壊滅する。
別に、キャスターに街への被害を慮るような良心などは存在しない。
だが
ルーラーから下されるかもしれない罰則と、他の主従から目を付けられるリスクはある。
そこで上手くこの固有結界を戦場にしてやる事ができれば、キャスターにとっての懸念の一つは軽減される。
(後ろに"道"は……あるか。ならば撤退のルートは一先ず確保できていると見ていいな。
結界内の様子を探るとしよう)
雑木林の中を、キャスターが一歩踏み出す。
そして、
チェーンソーの音が、鈍く響く。
鉄塊は爆音と共に回転し、紅い光を撒き散らす。
純粋な殺意。破壊欲求。あるいは機械的な存在意義の遂行。
原動力がその内のどれかはわからないが――それが引き起こす結果は、ソレと対面した者ならば誰もが理解する。
死。
その"死"そのものが――そんな"死"を両手にぶら下げた怪人が。
いつの間にか、キャスターの目の前をに立ち塞がっていた。
(……なんだ、こいつは。いつ現れた)
異様な風体の男だ。
上半身は半裸、下半身にはカーキ色のズボンと靴を身に着けている。
瞳は空ろ、頭には切れ込みのような傷が走っていた。
明らかにコレは尋常のモノではない。
ならばコレがこの結界の主か。
だが、その瞳に大魔術を扱うだけの理性の光は無い。それにあるのはただ、殺意、あるいは虚無。
(結界の主が配置した門番、あるいは排除役といったところか。関わっている時間は無いな)
自己保存の特徴《スキル》があるとはいえ、明らかに害意を持っている――そして情報を得る余地もない相手に対して悠長に突っ立っているほどキャスターは間抜けではない。
踵を返し、即座に逃走準備に入る。
一歩を踏み出す――いや。それよりも早く、チェーンソーの怪人が動いた。
両腕を振り上げ、勢いを付けて振り下ろす。
それだけの単純動作。しかし結果は、やはり明白。
何の守りもできない男は、鉄塊によって両断される――そう、両断される、筈だった。
空を切る音。
――如何なる偶然の結果か。チェーンソーの回転刃はあらぬ方向へと逸れ、キャスターの身体に触れることもなく地面に突き刺さるのみ。
いや、キャスターはこれが偶然でないと知っている。
自己保存の特徴《スキル》によって、マスターである
高町なのはが死なぬ間、彼は消滅することはないのだから。
――とはいえ、キャスター本人に戦闘能力がない以上、チェーンソーの怪人に対して彼が取れる手段もまた無い。
故にキャスターは逃げの一手。だが、彼の顔に屈辱の色は無い。
(如何に謀ったつもりだろうと、最後に笑うのはこの俺だ)
キャスターの勝利とは、元よりその計画の先にあるもの。
命を奪えもしない短期的な勝利など幾らでもくれてやればよい。その間に、キャスターは己の計画を進めればよいのだから。
(調査はまたの機会で構わん。それこそなのはを連れてきて薙ぎ払わせてもいい)
そうして背を向けて走るキャスターを、怪人は追わない。ただ、鉄塊を振り上げる。
(……何のつもりだ?)
自らの肩越しに怪人の様子を確認しながら、キャスターは内心で首を傾げた。
たとえ自己保存のスキルがなくとも、あの位置からキャスターに刃は届かない。
なにかの策かフェイント? いや、あの理性の無い瞳から考えればそのような小回りが利くとは考えづらい。
思考を巡らせながらも走るキャスターの後方、怪人の持つチェーンソーが撒き散らす紅い光が、その存在を誇示するかのように輝きを増す。
回転刃の延長に紅光が伸び、――まるで剣のように――、像を作る。
そのまま袈裟斬りの軌道。
紅い斬撃の軌跡が、空間を突っ走った。
「……何ッ!?」
半ば反射的にキャスターは飛び込み前転。
紅刃は彼の身体を逸れ、代わりにと言わんばかりに周囲の木々を薙ぎ払う。
巻き起こる土埃、紛れて起き上がり低い姿勢で駆けるキャスター。
「成程、大した手品だ」
少し驚きこそしたが、結局のところはチェーンソーの射程が延びたのみ。
単なる物理的な攻撃手段ならば今のキャスターを傷付けることは困難だ。
(だが、ああも暴れられると少々面倒だな……、……む?)
土埃が晴れた先。
キャスターの眼は、つい先ほどまでは間違いなく誰もいなかった林の中に、突如として人影を捉えていた。
金髪に碧眼、痩身大躯の一人の男を。
†
チェーンソー男の放った、――それを知る者には『マ剣』と呼ばれる――、紅の刃による斬撃。
その余波は、意外なところに現れていた。
そう――不審な挙動を見せたサーヴァントらしき男を追ってきたアサシン、ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドであるとか。
(面倒な事になったな)
気配を遮断しながらサーヴァントを尾行し、見たこともない、――そう、この街の地理は大まかに把握している筈のウォルターが、それこそ『全く見た事もない』――、奇妙な場所に入り込んだまでは良かった。
瞬きの間に現れた怪人。それが放った周囲を巻き込むような不意の一撃を回避した拍子、アサシンの気配遮断は解けていた。
つまり――今まで尾行していたサーヴァントの男と、そしてあの怪人に、見つかった。
(ここは何処だ? あのチェーンソーを持った男が街の噂になっている『
チェーンソー男』なのか?)
――機械式の回転鋸を振り回し、人を襲う異形の巨漢。唐突に現れ、唐突に空を飛んで消える怪物。そして、不思議と顔の印象が記憶に残らないという。噂では、それは「少女」と戦っているのだとも――
確かにその噂と、目の前の怪人は似通っている。だが。
(……何かが違う。顔の印象が残らないってわけでもないし、戦っている筈の少女とやらの姿も見えねえ)
違和感があった。
しかしその違和感を突き詰めるよりも早く、怪人が回転鋸を振り上げる動作を見て、アサシンは舌打ちした。
(どっちにしろ、奴が危険なのは同じか)
アサシンにとって重要な問題は、チェーンソー怪人の正体よりも、この危機を如何に切り抜けるか。
長々と考えている時間はない。
(あのサーヴァントは……もういないか。
逃げられたな……この怪人を押し付けられた形になっちまった)
アサシンは構えた。手に提げたスーツケースが消えて、『ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド』は『バネ足ジャック』になった。
チェーンソーの音と馬車の軋むような笑い声が、同時に響いた。
§
――ここまでの顛末を見たのなれば、あるいは疑問を呈する者もいたかもしれない。
最初に見つけたキャスターよりも、気配遮断が解けているとはいえサーヴァントとしての気配を断ちNPCとして振る舞っていたはずのアサシンを、何故チェーンソー殺人鬼は優先して襲うのか? と。
その疑問の答えは簡単だ。
"自己保存"の特徴《スキル》。
『自らのマスターが無事である限り、殆どの危機から逃れることができる』。
ならば、その逃れられた危機は何処へ行くのか?
その被害を――擦り付けられる形で、アサシンは受けたのだ。
3:Chain saw player kill
カギ爪とバネ足の怪人が、回転鋸の怪人と対峙する。
――あきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!
バネ足が軋み、アサシンが跳ねる。
一瞬の後に紅の刃がその残像を撫で、更にその後を追って木々が切り倒される。
(……丸太を軽々作っちまうか。あの紅い刃がどういうカラクリかは知らんが、まともに受けるわけにはいかねえ)
木々の間を跳ね回り、アサシンは回転鋸の怪人の動きを観察する。
(動きは間違いなくこっちの方が速い。だが、力で負けてるのは否めん)
再び振るわれた紅い軌跡を、アサシンは低空ジャンプ軌道で回避。その間際、上から引っ掛けるようにカギ爪で回転鋸怪人に一撃。
だが、浅い。回転鋸怪人の瞳はダメージを意に介さないかのように、――あるいは、そのダメージを理解する知能を持たないかのように――、終始虚ろ。
太い枝の一つに飛び移ったアサシンは、その様子を見て舌を打った。
(埒が開かないな)
かわしながらのアサシンの攻撃は深い傷を付けられず、有効打を与える為に火を吹くか深く踏み込むかすれば、逆にこちらが捉まり致命的な一撃を受けかねない。
このままでは徐々に不利。
ならば。
「"帰ってきて"と、言われてるからな……ッ!」
乾坤一擲。アサシンはそのバネ足と木の枝を強く撓ませ、今までよりも疾く跳ぶ。
跳ぶ先には回転鋸怪人――、いや。その頭上を越え、もっと遠くへ、アサシンは跳んだ。
予期した軌道との違い故か、回転鋸怪人の対応が一瞬遅れる。その遅れの間隙を突いて、アサシンは更なる大跳躍。
雑木林の頂点を、跳び越した。
◆
「……撒いたか」
背後から迫っていた、圧力のような殺気は感じない。それを確認して、キャスターは走っていた足を止めた。既に周囲の風景は、寂れた街の裏通りにへ戻っている。
人影は無い。キャスター以外には、チェーンソーの怪人も、あれも。
「……都合は良かったが、不愉快だな」
逃れる際に現れた存在。
あれにチェーンソーの怪人の注意を擦り付ける事によって都合良く逃がれる事ができた。が、あれが本当にキャスターに都合良く現れてくれただけの存在とは思えない。
尾行されていた、と見るのが普通だ。出てくるまでキャスターが全く気配を感じ取れなかったことから考えれば、アサシンのサーヴァントか。
更に言えば、キャスターはしっかりとその姿を見た筈なのに、既にその情報が記憶から消えている。
明らかに異常。おそらくは、スキルか宝具の効果か。それもまた、キャスターを苛立たせる。
「奴のマスターを探り当て意趣返ししてやれば、少しは愉快かもしれんな……」
如何にアサシンのサーヴァントであっても、あまりマスターから遠く離れればマスターが襲われた際に危険だ。この近くに、あのサーヴァントのマスターがいる可能性はある。
が、確実ではない。マスターは何処か遠くに籠っており、キャスターの捜索が徒労に終わる可能性もあるし、そうでなくともあの怪人をあしらってサーヴァントが戻ってくる可能性もある。
元より、高校に向かうという目的もある。そちらを放棄して上手く行くかもわからない行動を取る必要があるだろうか?
どちらを選ぶにしろ、早急に選択しなくてはならないが。
【D-3/寂れた市街の裏通り/午前】
【キャスター(
木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。
1.推定アサシン(ウォルター)のマスターを探すか、高校へと向かうかを選択する。
2.予備の『
木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。
3.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『
木原マサキ』の触媒とする。
4.ゼオライマー降臨のための準備を整える。
5.余裕があれば、固有結界らしき空間を調査したい。
6.なのはの前では最低限取り繕う。
[備考]
※
フェイト・テスタロッサの顔と名前、レイジングハート内の戦闘記録を確認しました。バルディッシュも「レイジングハートと同系統のデバイス」であると確認しています。
※天のレイジングハートはまあまあ満足の行く出来です。呼べば次元連結システムのちょっとした応用で空間をワープして駆けつけます。
あとは削りカスの人工知能を削除し、ゼオライマーとの連結が確認できれば当面は問題なし、という程度まで来ています。
※『魔力結晶体を存在の核とし、そこに対して次元連結システムの応用で介入が可能である存在』を探しています。
見つけた場合天のレイジングハートを呼び寄せ、次元連結システムのちょっとした応用で
木原マサキの全人格を投影。
『今の』
木原マサキの消滅を確認した際に、彼らが
木原マサキとしての人格を取り戻し冥王計画を引き継ぐよう仕掛けます。
※上記参加者が見つからなかった場合はレイジングハートに人工知能とは全く別種の『
木原マサキ』を植え付け冥王計画の遂行を図ります。
※ゼオライマーを呼び出すには現状以下の条件のクリアが必要と考えています。
裁定者からの干渉を阻害、もしくは裁定者による存在の容認(強制退場を行えない状況を作り出す)
高町なのはの無力化もしくは理解あるマスターとの再契約
次元連結システムのちょっとした応用による天のレイジングハートへのさらなるエンチャント(機体の召喚)
※街の裏に存在する固有結界(さいはて町)の存在を認知しました。
※アサシン(ウォルター)の外見を確認しました。が、『情報抹消』の効果により非常にぼんやりとしか覚えていません。
†
「……撒いたか?」
"バネ足"の装備を解き、ウォルターとしての顔に戻りながら、アサシンは大きく息を吐いた。
周囲の風景は、もはやアサシンの知っている風景ではない。
雑木林を飛び越え、空き地を抜けて、アサシンは何処とも知れぬ、建物の影もまばらな通りに転がり込んでいた。
(どうにか脱出しないとな……しかし、此処はどこだ)
夜な夜な街中を跳び回り、周囲の地形の把握に努めていたアサシン。
それが全く見覚えの無い場所など、この都市に在るとは考えにくい。
(……ならここは、『都市ではない土地』、ってとこか)
可能性として高いのは、キャスターのサーヴァントが作る陣地。
あの回転鋸の怪人は、その番人か。
(追ってきたあのサーヴァントに誘い込まれた……いや、様子を見るにそれはないだろう)
あの目つきのワルい、――ウォルターに言えた義理はないだろうが――、男のサーヴァントにとっても、あれは予想外の状況のハズだ。それを上手く使われたのは、アサシンにとっては業腹だったが。
無論アサシンとて、やられたまま黙っているようなタマではない。
(だがその前に、この状況をどうにかしなけりゃならん。
……あの回転鋸野郎は追いかけてこないみたいだが、どういう事だ?)
先ほどまでアサシンを追いかけていた、回転鋸の怪人の姿は、今は影すら見えない。
あれが番人だというのなら、それこそこの陣地にいる限りは地獄の果てまで追いかけてきても不自然ではない。
(不自然……と言っちゃ、この陣地もだ。まるでホンモノの町みたいだ。
ご丁寧に、町人まで再現されていやがる)
脱出路を探すアサシンの横を、見知らぬ男性が通り抜ける。
強い魔術の気配はない。それはつまり、サーヴァントでもなく、使い魔としての属性も持っていないという事。
ここまで広大な陣地を築き、さらに無駄な町人まで用意するとなれば、消費する魔力はそれこそ莫大なモノとなる筈だ、というのがアサシンの見識なのだが。
(わからねえ事だらけだな)
目立つ事は承知で通りすがりの幾らかの町人に質問してみたが、出口についての情報は得られなかった。
わかったのは、ここが『さいはて町』と呼ばれる町のまんなか区と呼ばれる区であるらしい事、『昔はさいはて町にも電車が通っていた』事。
(駄目元で線路の跡とやらに行ってみるか? それとも……)
今は追っ手もかかっていないが、人目の付かない場所に移動すれば、また襲われる可能性も否定はできない。
ならばまんなか区の中を探すのも、安全を考える上では悪くない。
どちらを選択するか? 夜までには、あの人形の少女の下へアサシンは帰らなければならない。
【???/さいはて町・まんなか区/午前】
【アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)@黒博物館スプリンガルド】
[状態] 健康、スキル「阻まれた顔貌」発現中
[装備] バネ足ジャック(バラした状態でトランクに入っていますが、あくまで生前のイメージの具現であって、装着を念ずれば即座にバネ足ジャックに「戻れ」ます)
[道具] なし
[所持金]一般人として動き回るに不自由のない程度の金額
[思考・状況]
基本行動方針:マスター(ララ)のやりたいことに付き合う。
1. この陣地(さいはて町)から脱出する。
2. 街で情報収集をしながら、他の組の出方を見る。
3. 夜までには帰ってきて、ララの歌を聴く。
4. 『
チェーンソー男』『包帯男』に興味。
[備考]
※「
フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。
※「バーサーカー(
チェーンソー男)」及び「バーサーカー(
ジェノサイド)」の噂を聴取しました。サーヴァントに関連する何かであろうと見当をつけています。
※街の地理を、おおむね把握しました。
※劇場の関係者には、ララの「伯父」であると言ってあります。
※キャスター(
木原マサキ)の外見を確認しました。
※さいはて町の存在を認知しました。
※さいはて町の番人、『チェーンソー殺人鬼』を確認しました。『
チェーンソー男』との類似を考えていますが、違う点がある事もわかっています。
4:Loneliness girl and shut-in NEET
その日の玲は、とても興奮していた。
「火吹き男?」
「火を吹いて飛び跳ねてあきゃきゃきゃきゃきゃって笑ってカギ爪でぶんぶん振り回してカニ道楽!?」
「いやカニ道楽じゃないと思う」
場所はさいはて町まんなか区、住宅地。
腕をぶんぶんと振り回しながら主張する玲に、話し相手は諌めるような声色で返す。
「夜になるとバネ足のおばけが街中を飛び回って、火を吹いて、カギ爪で悪戯するんだってさ。
すごいよね」
「まあ、すごいね。すごい変態だよね」
話の内容も奇妙だが、その"話し相手"も、奇妙といえば奇妙の極みだった。
一言で言えば、宝箱。その中から、少女らしき声が響いている。
奇人四天王、"ひきこもりの桃本"。
何故彼女がひきこもっているのか、知る者はさいはてにほとんどいない。何故宝箱なのかも。
「あー……でもいたね、さいはてにも。そんなの」
「ほんとに!?」
「チェーンソー殺人鬼ってやつ。何人やったんだっけ、4人? いやもっとだったかな」
「こ、怖いよ!? ホラーだよ!? ダメだよそんなの!」
「火吹き男はホラーとは違うのかね……? まあともかく、そういうのに逢いたくないならひきこもろうぜ!
外に出ちゃうからそういうのに出会っちゃうんだからさ!」
桃本は玲に出会うたびに、さいはてにひきこもることを勧めてくる。
記憶を失った玲が街に一人ぼっちだった時、さいはて町について教えてくれたのも桃本だった。彼女は玲にとても親切にしてくれている。けれど、『ひきこもった方がいい』の勧めだけは聞く気にはなれない。
どこかに閉じ込められていた記憶だけがある彼女にとって。同じくどこかに閉じこもるなんて、絶対に耐えられないから。
「その……ごめんね、桃本」
申し訳なさげな。
しかし、はっきりとした拒絶の意志の言葉。
「……まあ、仕方ないね。でも、夜になる前にはさいはてに帰って来ること。
あと、変な人に襲われたりしたら助けを呼ぶこと。
ほら。魔法少女とか、助けに来るかもしれないし」
「うんっ!」
仕方ない、と溜息を吐いた、――宝箱に入っている以上、玲にはその様子は見えなかったけれど――、桃本が玲に約束を促す。
向日葵のような笑顔で、玲は頷いた。
そんな、一見無邪気な会話で、この話はおしまい。
×××
×××
この聖杯戦争のために作られた都市の裏に、貼り付くような形で存在する固有結界、『最果ての殻、最果ての町、最果ての病院』。
さいはて町とその住民はそれ自体でワンセットで、そしてさいはて町は
ある少女の一部だ。維持そのものに、現界以上の魔力は必要ない。
さらに内部の環境の操作も、少量の魔力で行える。
問題はその権限が落ちている事。
本来3人いる開拓者、それが
ある少女1人しかいないのが原因だ。本当ならば開拓者が敗北した時も権限は残った者に委譲されるのだが、"基から存在しない"事にされた影響か、権限は3分の1のままだった。
あるいは、それが聖杯から
ある少女に課された制限なのか。
ともあれ、最大の問題は権限の低下により、さいはて町と外部を完全に遮断しきれていない事だった。
権限の不完全な主の影響によって、さいはて町にはところどころ穴が開き、外部の街の各所にその入り口を作ってしまっている。
一応の認識阻害はしてあるが、マスターやサーヴァントにかかれば、すぐに解けてしまってもおかしくはない。
そして、入って来たサーヴァントやマスターにさいはて町を荒らされたとして、
ある少女はそれを修復する権限さえ失っていた。
不安定なさいはて町は、破壊されれば破壊されただけ傷つき、崩壊の深度を深めていく。
さいはて町のそうぞう主であり支配者の
ある少女にとって、明確な弱点がそれだった。そうぞうは、暴力に抗する術を持たない。
故に、さいはての番人、あるいは守護者が必要だった。
その最初の番人が、過去にさいはてを荒らした殺人鬼、『チェーンソー殺人鬼』。
何故彼が選ばれたのかは、単に玲の会話で連想した、強力な存在だったからというだけに過ぎない。
元々の出現が夜間のみだった事から、"町人のいる場所には出現できない"という弱点こそあるが、破壊力だけならばサーヴァントにも比肩し得る。
そして
ある少女の弱点が、もう一つある。
玲だ。
無防備にさいはての外を出歩き、聖杯戦争に勝つ意思のない彼女は、明確に
ある少女にとってネック。
しかし、
ある少女に彼女を切り捨てるようなつもりはない。
彼女に課せられた運命を思えば、玲を見捨てるような事はできるはずもない。
だから
ある少女は、玲が危険になれば、それが例えさいはて町の外でも駆けつけなければならない。
「……二人でずっと、"聖杯戦争"の中に引きこもれたらいいんだけどねえ」
けれども。それが単なる願望に過ぎないことを、エンブリオは既にわかっていた。
【???/さいはて町/1日目 午前】
【玲@ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス】
[状態] 健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:街で日常生活を楽しむ。聖杯戦争を終わらせたくない。
1.街に出て散歩する。
[備考]
※聖杯戦争についてはある程度認識していますが、戦うつもりが殆どありません。というか、永遠に聖杯戦争が続いたまま生活が終わらなければいいとすら思っています。
【エンブリオ(
ある少女)@さいはてHOSPITAL】
[状態] 魔力消費(小)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:引きこもりながら玲を見守る。
1.さいはて町の守護者を作り、さいはて町を破壊から守る。
2.玲が緊急事態に陥った場合はさいはて町から出るのもやぶさかではない。
[備考]
※『チェーンソー殺人鬼@さいはてHOSPITAL』を召喚しました。さいはて町内の人気のない場所に現れます。強さは平均的なサーヴァントには劣る程度です。
※現状紳士の昼食会はまだ一人もさいはて町にはいません。召喚できないのか、まだしていないだけなのかは後続にお任せします。
最終更新:2020年06月28日 00:10