楽園の裏では少女が眠っている ◆EAUCq9p8Q.
☆キャスター
「あなたには一度、会いたかったの。聖杯戦争とはまた別に」
最初に主催者―――プレシア。テスタロッサと卓を囲んだのはキャスターだった。
出会いがしらの彼女の一言は、キャスターにとっても興味を引かれる一言だった。
『運命』。彼女は確かにそういった。
キャスターのマスターである
高町なのはのことを指したような口ぶりではなかった。
「それは、俺にか? それとも俺の逸話にか」
カマをかけるように問いかければ、プレシアはさして迷った様子もなくその手の内を晒してきた。
「あなたについて、調べさせてもらっているわ。遺伝子操作による『人間の生成』や『人格の形成』を行ったことがあるそうね」
奥に控える培養液の中の彼女の娘らしきものを一瞥し。
「懐かしい話だ。娘の蘇生を行う時に俺の逸話に行き当たったか。
だが、結果は伴わなかったようだな」
「そのようね」
その一言で思考を切り替える。
受け答えがまるで他人事だ。つまり、プレシアは人体の生成を行っていない。あそこに居る娘は人体の生成とは関係がない。
ただ、傍観者として
木原マサキの逸話を探っている。
そこで思い出す。彼女の口にした『巻かなかった世界』という単語について。そして、
フェイト・テスタロッサについて。
キャスターはフェイトについてすべてを知っていたわけではない。
そもそも、レイジングハートに収納されていた情報から読み取れたのは『
フェイト・テスタロッサについて』とそれに関するいくつかのことだ。
プレシア・テスタロッサについてはなのは同様『事故で娘を失った人物』であり『フェイトと同姓である』ということしか知らない。
プレシアとフェイトの関係についても、いくらかの予想は立っていたが確信には至っていなかった。
だが、ここに至ってすべては確信に変わった。しかも、ある程度詳細な部分まで予測も立てられた。
プレシアにとってのフェイトはマサキにとっての八卦衆と同様だ。
必要だから用意した肉人形にすぎない。
違うところがあるとすれば、そこに情だの愛だのの下らぬ感情がはさまれているかどうか、というところだろう。
キャスターが『
木原マサキの当て馬』として八卦衆を用意したように、プレシアは『死んだ娘の代替品』としてフェイトを用意した。
だが、そのプレセアは『この』プレセアではないのだ。
聖杯の知識を通してキャスターも理解していた。この世界にはいくつもの並行世界が存在するということを。
彼女の言葉とその前提に基づき考察するならば、人体生成を行ったのは別世界の……彼女の言う『巻かなかった世界』に分類されるプレシア・テスタロッサであるのだろう。
そして、その『巻かなかった世界』のプレシアが人体生成に失敗した結果が
フェイト・テスタロッサであり、彼女が万能の願望器をめぐる聖杯戦争に身を投げ入れた理由でもある、と考えられる。
プレシアがキャスターを調べたのはなんらかのきっかけで『別世界の自身の娘の身代わり=フェイト』の存在を知り、人造人間の逸話を探り、造物主(クリエーター)たる
木原マサキに行き会ったということ。
「それで、お前は何を知りたい?
ここで俺の生体工学研究について詳細を聞いて、『巻かなかった世界のお前』と同じ道を進みたいわけではなかろう。
ならば何故俺に会おうと思った」
プレシアの目が、やや大きく広げられる。
そして、「そこまで予想がついているのなら話は早い」と話を進める。
「……思い通りの人間を作り上げた稀代の科学者(マギウス)、マサキ・キハラ。ひとつ聞かせてくれないかしら」
「なんだ」
「人間を作るとき、あなたが100を目指したとして……出来上がった人間は、100にどこまで近づいていたの?」
ぼこりと音がひとつ。
音とともに培養液の少女の口元からこぼれた泡は、大きな柱型の水槽を、上へ、上へと上っていく。
言葉を反芻し、意味を探る。
彼女の100がどこを指すのかが不明瞭だ。『人間』を作り上げれば100なのか、あるいは『人物』を作り上げれば100なのか。
それとも、人間も人物も超えた『個人』を作り上げれば100なのか。
「聞き方が悪かったわね。あなたの作った人間は、どの程度あなたの理想通りになったの?
例えば……『心』は、あなたの思い通りに作れるのかしら」
「無論作れるさ。簡単なことだ。DNAをちょいといじってやれば、人間なんて、思うがままの思考回路を与えてやれる」
「それは『思考回路』でしょう」
その一言で理解できた。
面倒な女だ、と思う。
彼女の中で答えは決まっている。キャスターがなんと答えようと、意にそぐわない答えには迎合することはないだろう。
「成程、心の複製、あるいは復元が可能ということか。
あの植物状態の娘が生前と同じ『心』を持てるか、というわけだな」
「……」
プレシアの眉間に浅く皺がよる。どうやら大正解らしい。
「確かに、俺ならば0から100を作り上げることは出来る。100に限りなく近づけることも不可能ではないだろう。
だが、もともとあった100とまったく同一の100を作るのは不可能に近い」
まったくの嘘だ。
『
木原マサキ』の複製を生み出すことが可能なのだから、対象者に関する詳細な知識と相応の技術があれば不可能ではない。
だが、それをプレシアに伝えたところで彼女はまた別の前提を追加してキャスターへの問いを続けるだろう。
結局、彼女が欲しいのは『肯定』と『否定』だ。
この聖杯戦争を開くに至った彼女自身の道程の肯定と、そんな彼女の目の前に現れた彼女の道程を無意味にする存在(フェイト)の『否定』を欲しているのだ。
「……そう」
納得したらしい。
これで、彼女の言う『運命』は終了だろう。
「それで、どうだ? 『巻かなかったお前』の娘は気に入ったか?」
「……どうかしら。話してみないと分からないわ」
答えはきっと決まっている。そのくせこんな態度をとるのだから、まったく、面倒だ。
まあ、娘一人のために聖杯戦争ほど大掛かりな儀式を行うのだから、面倒な性格だなんて分かりきったことなのだが。
「話はそれだけか?」
「そうね、私的な話はここまで」
大淀と呼ばれてきた少女が運んできていた紅茶を一口含み、口元を抑え咳をひとつ。
プレシアは、長い私用を追え、ようやく聖杯戦争の管理者としての対応に取り掛かった。
「令呪はあなたのマスターに渡せばいいのかしら。だとすると、あなたのマスターを……」
「いや、お前の娘……違うな、『
フェイト・テスタロッサ』に渡せばいい」
マサキが笑みを交えて返せば、紅茶を置こうとしていたプレシアの手が止まった。
「……あなたも、なにかの狙いがあって私の元に来た、ということ?」
ようやく本題だ。
マサキとしても想定外のことがややあったが、マサキがここに来た狙いは変わっていない。
それどころか、相手がプレシアと分かって更に付け込みやすくなった。
「お前がどういう意図で聖杯戦争を開き、どう動きたいのかはだいたい理解できた。
そして、お前になにが足りていないのかもな」
笑いがこぼれそうになるのを堪えながら、肘掛に肘をつく。
成功は確信している。彼女には、キャスターの申し出を断れない理由がある。
「協力者なら足りているわ。
ルーラーが居れば、それだけでうまく回るようにできているから」
「クッ、裁定者が聞いて呆れるな。結局はお前の思い通りにこの聖杯戦争を進めるための手駒か」
ルーラーが管理者に加担している、というのも想定内だ。
でなければ、フェイトの捕獲令など出さない。
「だが、この聖杯戦争をお前の望む形で完遂するとなれば、
ルーラーだけでは足るまい」
プレシアの眉がやや持ち上がる。食いついたのは一目瞭然だった。
「これは俺の推測でしかないが、お前は娘の復活のために聖杯戦争を完遂する必要がある。聖杯の有無は関係なく、だ。
だが、聖杯戦争に抗う者は必ず存在する。
命惜しさに戦闘から逃げ続ける奴、争いをやめろと喚きちらす奴、この町から抜け出す道を探す奴も居るだろう。
「……まあ、ただ聖杯戦争を完遂するというならば、特に問題はない。今朝のように
ルーラーを使ってそいつらの始末を参加者に触れ回ればいい。
せいぜい一週間か二週間、決着が延びる。たったそれだけだ」
たったそれだけ。その一言は余程プレシアに刺さったらしい。
表情の少し変わった彼女にしっかりとした手ごたえを感じながら、キャスターは交渉の札をひとつ晒す。
「しかし、お前に残された時間はどうだ? この聖杯戦争が長引いたとして、用意した結末を見届けるのに足りるか?
『たったそれだけ』を乗り越える力が、今のお前には残っているか?」
フェイトたちが入ってきたときから何度か咳をしているのは、単にのどの調子が悪いわけではないだろう。
重く沈んだ司書室の空気にはかすかにではあるが血の臭いが残っている。口を覆ったプレシアの手元には、所々に赤黒い染みが残っていた。
聖杯戦争という自爆の可能性もある強攻策に打って出たのは、『それしか方法がないから』というわけではなさそうだ。
そこを見越し、そこに付け込む。
「……逸話以上ね」
「逸話に残る俺なぞ、所詮紙の上に書ききれた部分だけだ。
実物は逸話を容易く上回る。いつの時代の誰であろうとな」
冷めた目線がキャスターの目に向けられる。ようやく、プレシアはキャスターに向き合った。
成功の証だ。あとはキャスターが迂闊に手の内を見せなければそれでいい。
「見返りは?」
「特別なことじゃない。情報をくれればいい。俺の用意する条件を満たす参加者の情報をな」
「何のために」
「俺のためにだ。俺は聖杯はいらんが、どうしてもやらなければならないことがある。
そのためにはなによりも情報が要る。俺はサーヴァント、マスター問わず情報を集めなければならない」
「英霊の枠を超えて、もう一度冥府の王になるとでも言い始めるつもり? 言っておくけれど」
「『娘に害を与える可能性があるならば相応の対処をする』、か?
下らん脅しはよせ。なにか不都合があればそれを切るだけだろう」
それ、と言われてプレシアが右手を押さえる。
プレシアはキャスターを自由に出来る権利を有している。それを切られれば、キャスターは彼女に逆らうことは出来ない。
裸で踊れと言われれば裸で踊る。宝具を破壊しろと言われれば破壊する。自殺しろと言われれば自殺する。
事の絶対的決定権はプレシアが有している。その安心感が、キャスターとの同盟への後押しになる。
キャスターの思惑通りに、同盟を結ばせるための楔となる。
「俺がこの舞台の時計を進めてやる、お前の望む結末のために。
だから俺と組め、プレシア・テスタロッサ! 生きて娘に会いたいならば、俺を利用しろ!」
プレシアを見つめ、力強く告げる。
プレシアはやはり死人のような目でキャスターを見つめ返してきた。
「利用しろ……物は言いようね。あなたも私を利用したいだけでしょう」
「ギブアンドテイクだ。もっとも、まずお前が頷かなければギブもテイクも発生しないがな」
しばらくの沈黙。キャスターの中ではすでに、答えは見えている。
プレシアもまた、答えは決まっているはずだ。
「……話は分かったわ。ただ、あなたが私の協力者として適切かどうかは、まだ分からない」
「御託はいい。結果で示せと言うなら、さっさと指示を出せ」
再び沈黙し、プレシアはついにキャスターに対して一つの依頼を口にした。
「そうね……だったらあなたには、神様を一人、殺してもらおうかしら」
簡易的な防音魔術が張られているようで、フェイトの側からプレシアとキャスターの会話の内容はまったく分からない。
ただ、この聖杯戦争の管理者相手に不遜なままのキャスターと、どこか空ろな母が、流れる水のように会話を交わしているのはなんともおかしな光景に見えた。
キャスターが席を立ち、プレシアに背を向ける。必然的にフェイトと向き合うことになる。
喜べ、と高圧的に言われても素直に喜ぶことはできない。
フェイトとしても身を切る思いでここまで来た。それで何もなしなら、キャスターへ抱いている複雑な感情は怒りで総括されていたことだろう。
「そして、約束どおり、俺もお前に協力してやる」
キャスターが持ちかけた『協力』とはとても分かりやすい物だった。
キャスターの手に入れた他主従の情報をフェイトとも共有するというもの。
「割に合わないか。この程度の『協力』では」
沈黙で答える。
強く期待していたわけではない。指名手配に近い形を取られているフェイトにとって、情報を交換できる相手が居るというだけでもありがたい。
それでも、心のどこかでは期待していたらしい。
キャスターも察していたと言わんばかりにフェイトと、フェイトの傍にただ立っているランサーを一瞥して言葉を続けた。
「お前の英霊は使い勝手があまり良くないだろう。
だが、お前はその英霊で勝ち続ける必要がある。果たして、それは可能か?」
キャスターにランサーの戦闘を直接見られた覚えはない。
だが、あのチェーンソーのバーサーカーとの戦いでおおまかな戦闘能力について知られてしまったらしい。
ランサーが戦闘には不向きと言うこと。宝具の解放には多大な魔力が必要であり、魔力を消耗している現状では発動に令呪が必要だと言うこと。
「だからと言って、お前の魔装一つで戦い抜くわけにもいかない。いつか必ず限界は来る」
自身の装備について考える。
バルディッシュは強い。だが、あの黒衣のアーチャーのような相手と一対一で勝てるほどではない。
これからフェイトは戦いを続け、いずれはあのアーチャーに並ぶような敵と戦う時が来る。
その時にランサーとバルディッシュで勝てるのか。
おそらく不可能だ。キャスターの言うように、勝てない相手とぶつかることが絶対に起こる。
そういった敵とどう戦うか。いつかは考えなければならないことだ。
暗い未来を示されて影の射したフェイトに対して、キャスターは得意な表情でこう宣言した。
まるで考えて居なかった協力の申し出に、一瞬反応が遅れてしまう。
息を呑んだせいで言葉がうまく紡げない。
「強化……どう、やって」
「クク、なに、俺は生前名の知れた科学者でな、そういった類の武器を扱うのも得意なんだ。
お前が望むのであれば、お前が聖杯を得られるように『協力』してやる。そう約束したはずだ」
キャスターの逸話は知らない。何が得意かも、どういう人物かもフェイトにはまったく想像がつかない。
だが、身のこなしや戦闘に積極的ではないことから単なる魔術師ではないのではないか、というのはフェイトの頭にもあった。
もし、科学者だというのなら、その点については納得がいく。
そして、もし本当に科学者であるならば、英霊として記録されているほどの科学者であるならば、バルディッシュの性能を向上させることも容易だろう。
「更に速く、更に鋭く。簡易の魔力路も搭載し、お前にとって、そのインテリジェンス・デバイスにとっての『最強』を作り上げる。
お前が望むのであれば人を超え、音を超え、光の速度まで対応できるよう、俺が『エンチャント』してやる」
「それって……」
圧倒されるフェイトに、キャスターの言葉が放たれる。
「―――“雷”のバルディッシュだ」
その一言は、まるで雷鳴のように、フェイトの中で木霊した。
あまりに予想からかけ離れた協力の要請に、フェイトはただただ波にもまれるような心地でキャスターを見つめるしか出来ず。
そうやって十数秒何も言えずに居ると、キャスターの方(珍しく)が気を利かせたのか、こう続け始めた。
「とはいえ、諸手放しで信用はできんだろう。
もともとは敵同士だ。俺が何かを仕込むかもしれない、という懸念も捨てきれまい」
言われるとおりだ。
魅力的な協力の提案ではあるが、キャスターの得体が知れないことに変わりはない。
フェイトに報酬の令呪の譲渡をしたとはいえ、罠にはめるつもりである、という可能性もなくはないのだ。
「お前はいずれ俺のマスターと会い、俺の手が加わった装備の力を見ることになる。
そして、俺のマスターと会えばおのずと分かるだろう。俺が真に聖杯を欲さない……いや、そもそも『欲せない』ということが。
その時に決めればいい。俺の手による改良を受けるか、否か」
またしても、真意の分からない言葉が放たれる。
フェイトが出会えば理解できるとはどういう意味なのか。
言葉の通りならば聖杯を望んでいないということだが、ならばキャスターのマスターの装備の力を見る……つまり、彼のマスターが戦闘に巻き込まれると何故分かるのか。
そして何より。
「……何故」
「なに?
「何故、私とその人が出会うと言い切れるの」
「何故……何故、か。クク……」
キャスターは口の端を歪め、そのままフェイトに背を向けて歩き出す。
そして、堂々とした背中に自信すら感じさせる声色で、こう言い残した。
「確信しているからだ。俺が、そうなると」
丁度のタイミングでエレベーターのドアが開き、キャスターを飲み込む。
まるで狙い済ましたように。よく出来た演劇のように、綺麗にこの舞台の上から退場した。
本当に、得体の知れないキャスターである。
「……彼が生前著名な科学者であったというのは本当よ」
意外な声が、意外な言葉で沈黙を破った。
振り返れば、声の主である母は、まるで『何も言っていない』とそらとぼけるように紅茶のカップを傾けていた。
「……少し、時間が経ちすぎてしまったわね。
遅くなってしまったけれど、夕飯でも食べながら、話しましょうか」
【D-2/図書館 地下司書室/一日目 夜】
【
フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態] 疲労(中)、困惑、ストレス、魔力消費(極大)、右肩負傷(中)
[令呪]残り三画
[装備] 『バルディッシュ』
[道具]
[所持金]少額と5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1.プレシアと食事……?
2.“雷”のバルディッシュ……
[備考]
※キャスター(
木原マサキ)と念話が可能になりました。
※キャスター(
木原マサキ)からバルディッシュのエンチャントを申し出られました。返答は保留中です。
【ランサー(
綾波レイ)@新世紀エヴァンゲリオン(漫画)】
[状態] 健康、霊体化中
[装備]
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う
☆キャスター
『殺してほしい神様』。
その情報は、マサキにも心当たりのあるものだった。
曰く、町の裏にもう一つの町を作るエクストラクラスのサーヴァント。キャスターが今朝丁度行きあったシチュエーションだ。
そのサーヴァントは強い力を有していながら聖杯戦争に消極的で、マスターともども自身の『町』に引き篭もっているばかりだとか。
ルーラーが調べたと言っていたが、それが本当なら確かにプレシアにとっては目の上の瘤でしかない。
キャスターに与えられた任務はそのエクストラクラス・エンブリオと呼ばれているサーヴァントの討伐だ。
キャスターもあの町には丁度用事があった。渡りに船とはこのことだ。
「アリシア・テスタロッサ……」
さらに、キャスターがもぎ取ったのはプレシアとの協力体制だけではない。
会話を通して、会話には上がらなかった情報もいくつか入手できた。
大きな収穫はアリシア・テスタロッサの蘇生方法についてだ。
あそこまでこだわりを見せている以上奇跡を用いた単なる蘇生というわけではない。
十中八九『聖杯またはそれに近い力を在りし日の魂をトレースする』あるいは『魂を復元する』という方法が本線と考えられる。
「……クク」
妙案が浮かんだ。
聖杯を踏みにじり、奇跡を汚し、『
木原マサキ』が冥府の王として君臨する意外の策が。
「あるじゃないか。とびきりの『抜け道』が!」
魂なき少女、アリシア・テスタロッサ。
この聖杯戦争の結末は、肉体のみがこの地に残された彼女の復活。
彼女の『魂』……つまり、人としての『核』が外部で作られて彼女の中に注ぎ込まれるということ。
その魂の中に……『魔力核』に対してキャスターのエンチャントを用いて『
木原マサキ』を刻んだなら?
勿論、聖杯戦争中や聖杯戦争終結直後は彼女が『
木原マサキ』であるそぶりは一切見せない。
だが、プレシアの死後アリシア・テスタロッサは『
木原マサキ』として覚醒し、次元連結システムを用いて世界を冥府に変える。
思いつく限りでこの聖杯戦争の最悪にしてキャスターの求める最高のエンディングだ。
「クックック……ハッハッハッハッハ!!」
何も約束は違えていない。
キャスターがアリシアを害することはない。アリシアは問題なく復活し、健やかに暮らし続ける。
ただ、アリシアは目覚めるだけだ。
長い夢から覚めるように、ある日突然、
木原マサキとして。
プレシアが死ぬまでは、きっと理想的なアリシアとして暮らし続ける。不可能だろうとそう仕組む。
そして約束を果たしたあとでようやく、『
木原マサキ』の冥王計画は完璧な形で現世に蘇る。
無論、アリシアが生きながらえられなかった時のために幾つかの保険は必要だろうが、最も理想的な形はこれ以外にない。
「踊れ踊れ。貴様の存在もまた、冥府への道を飾る石に過ぎん」
じわじわと、キャスターのための駒が手中に集まってきている。
“天”のレイジングハートを持つなのは。彼女の目的であるフェイト。
そして二人に対して念話を送ることで、彼女らの遭遇を操ることの出来る自分。この二人を利用して、多少は思い通りに戦闘を起こすことが出来る。
プレシアとの密約。情報の譲渡を賭けた依頼。アリシアを除く『
木原マサキ』の予備を効率よく探すことが出来る。
そして、楽園の裏で眠り続ける少女、アリシア・テスタロッサ。彼女の存在という大きな情報は、きっと『
木原マサキの予備』以上の意味を持つ。
時計を進めよう。冥王計画の時計を。
少女たちの地獄を抜け、醜い大人は仮初の天国に到達し……そして、その後に世界は冥府に変わる。
カウントダウンは始まった。刻まれていく足音は、まず楽園を目指す。
【D-2/図書館前/一日目 夜】
【キャスター(
木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。
1.可能な限りさいはて町を偵察。
2.予備の『
木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。アリシア・テスタロッサを奪うのも一興。
3.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『
木原マサキ』の触媒とする。
4.ゼオライマー降臨のための準備を整える。
5.フェイトから要請があればバルディッシュをエンチャント。
6.なのはの前では最低限取り繕う。
[備考]
※プレシアの願いが『アリシアの蘇生』であり、方法を聖杯に似た力を用いた『魂の復元』であると考察しています。
同じく、その聖杯に似た力に干渉すれば復活するアリシアを『
木原マサキ』に変えることが可能であると仮定しています。
※フェイトとの念話が可能になりました。これにより、好きなタイミングでなのはとフェイトをぶつけることが可能です。
また、
情報交換を約束しました。ただし、キャスターが事実を話すとは一切約束していません。
※プレシアから個人的な依頼を受けました。
- 内容:さいはて町の破壊およびさいはてのサーヴァント『エンブリオ』の抹殺。
- 達成条件:エンブリオの魔力が座に戻ったことをルーラーが確認する。
- 期限:依頼達成は二日目16時まで。報酬受け取りは図書館司書室にて二日目20時まで。
- 報酬:マサキの望む条件のマスター、あるいはサーヴァントの情報。
二日目終了時点でエンブリオが生存していた場合、キャスターとプレシアの司書室での一切はなかったこととなる。
また、どのタイミングにおいても、キャスターがアリシア復活を妨げる可能性があると判断した場合、プレシアは令呪をもって彼を自害させる。
最終更新:2020年06月22日 23:39