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  • ネメシス神の骸

ここだけ神の骸を巡るSFファンタジー@ウィキ

ネメシス神の骸

最終更新:2025年06月05日 15:04

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

プロフィール

名前 ネメシス神の骸
出自の神話 ギリシャ神話

概要

鬱蒼とした森の中、星無き新月の深夜がどこまでも広がり続けている骸。

空気には常に霧と瘴気が満ちており、洋館へ近づけば近づくほど濃度も上がっていく。

ネメシスという女神に関する伝承があまりにも少ないことが由来しているのか、森の最奥に聳え立つ巨大な洋館から離れた場所は「曖昧」になっており、その「曖昧」へ足を踏み入れすぎれば最後探索者も「曖昧」の一部となってしまう。

骸の内部に滞在している間は時間感覚が狂い、外傷や病魔等の外的要因に晒されない限り擬似的な不老不死になるらしい。

内部環境

森

常に薄い霧がかかっている森。洋館に近づけば近づくほど霧の色が黒く濁っていき、そして濃くなっていく。


湖

洋館から少し離れた場所にある湖。
水面は鏡のように空を映すが、時折夜空ではなく水面を覗いた者の過去の風景を映すことがある。
水に手を浸せば罪を犯した記憶が鮮明に蘇るだろう。

美しい白鳥に延々と追いかけられるガチョウがいたりする。

ネメシス神の骸の内部で一般的な野生動物の存在は湖の二種を除いて確認されていない。

墓場

洋館裏にある。
素人の手で彫られたであろう墓石が●●●基ずらりと並んでおり、供えられた食べ物や花の一部には腐敗の兆候が確認されている。

番外
 スコップで土を掘り起こす。カン、と先端に硬いものが当たれば手で少し掘り返し、石やら何やらを取り除いた後は再度スコップを手に取る。掘る。その繰り返し。
 星無き深夜は静かだった。音無く吹く冷たい風が頬を撫で、ザクザクと地面を掘る音のみが鼓膜を震わせる。
 人一人収まる深さまで掘れば、手袋についた土を払い落としてスコップをその辺の木に立てかける。穴の横に積み上げられた黒々とした土から香る湿った匂いが周囲に漂い鼻をくすぐる。
 穴を掘り終えた彼岸が一歩穴の淵へと近づき、そしてその中に降ろすべきものへと視線を泳がせた。
 それは知らない探索者だった。名も知らず、言葉を交わしたこともない、生前に出会っていたとしても会釈すら交わすことなどなかったであろう男性。貸しがあるわけでもなければ遺言を託されたわけでもない、そんな他人。
 けれど、彼はここで死んだのだ。運良く逃げられた彼岸と違い、彼は瘴気に蝕まれながらケーレスの「復讐」に貫かれて呆気なく命を落とした。だから生き残った者として、「骸の循環の一部」として埋める。それだけのことだった。
 お世辞にも体格が良いとは言えない彼岸と反して、今から埋める彼の体躯は流石探索者というべきかガッシリとしていた。身長は180を優に超えるだろう。対して彼岸は170も行っていない。長く引き締まった手足は死後硬直が進みつつあるからか固まっていて動かすのにも一苦労しそうだ。現に、館の二階で息絶えていた彼を見つけた時は冒涜的だと思いながらも腕を引っ張って館の裏にまで引きずったものだ。

「……すまないな」

 そう小さく呟いて、瘴気の影響かただ血色が抜けているだけか、仄かに灰色を帯び始めた遺体の腕を取る。片方ずつずるずるとゆっくり引っ張って穴のすぐ近くへと。ある程度の位置まで運んだら、今度は足元に回り込んで繰り返す。そして横から遺体を押して穴の中へと落とした。彼の所持品も一緒に穴の中へと入れた。
 スコップを再度持って、積み上げた土の山を穴の中へと放っていく。ザク、ザク、ザク、と、少し柔らかくなった土で遺体を包み込む。彼の顔は最後に埋め立てることにした。
 一仕事終えた後は拙いながらも小さめの墓石を彫り、埋め立てた穴の上に置く。

「どうか、安らかに」

 そうして手を合わせて目を伏せる。別れの言葉もなければ、語れる思い出もない。それでも祈ることはできる。せめてこの死が報われるものであれと。
 瘴気に飲まれながらも、「骸の一部」として死を拒むこととなった者として。

「花は……すまない、今は持ち合わせがなくて。後で摘んでくる」

 今まで何十人埋めただろうか。数歩下がり、ずらりと陳列する●4基もの墓を見渡しながら、そんなことを思う。
 これから後何十、何百人埋めることになるのだろうか。土で汚れたスコップを見下ろしながら、掠れた理性でそんなことを考える。
 そして、止めどない頭痛を無視してふらふらと徘徊に戻った。

洋館

木々と霧に囲まれたスティック様式の3階建て。だがそれは外からの観測結果であり、内部は探索された限りでも●2階あることが確認されている。地下室もあるようだが入り口は発見されていない。

内装

エントランス

序章
 幽遠たる真夜中で止まったネメシス神の骸、その大半を埋め尽くす青い森の最奥に佇む小綺麗なスティック洋式の屋敷。奥へ奥へと歩みを進める程に濃くなって行く瘴気に当てられながらも、唯一の旅の目的を拠り所として掲げて歩き続けた赤髪の探索者は館の入り口───重厚な両開きの扉の前で立ち尽くしていた。細やかな金の装飾が施されたそれは不自然に清潔であり、けれども一部塗料が剥がれた箇所やカンテラで照らせば浮き出る幾つもの小さな傷もあって、まるで見捨てられたかような退廃感も覚えるようなものだ。
 手袋に包まれた手のひらで扉にそっと触れる。布越しにでも伝わる冷たさは、この館が、ひいてはこの骸が日が昇らぬ小さな世界で悠久の時を過ごしたのだということを改めて認識させるようなものだった。ふう、と小さく息を吐いて、カンテラを一旦地面に下ろした探索者が両手を扉につけて押し開く。ギィ……と静寂を切り裂く不協和音を響かせながら開いた扉の奥にあったのは、何十何百本ものろうそくの光で照らされた広大なエントランスホールだった。
 異様な高さの天井に自然と関心が引き寄せられれば、その中央では損傷の目立つ豪奢なシャンデリアが不安を煽るように僅かに揺れていた。燭台には細長いろうそくが無数に並び、揺らめく炎がホール一帯に長い影を落としている。そんなシャンデリアを見上げながら、片手に杖を、もう片手には切ったカンテラをぶら下げて、一歩、また一歩と色褪せた赤い絨毯の上を踏み出していく。無風でありながらどこか冷たい空間で暖を求めるように見上げたシャンデリアの光とそれに作り出された影を好奇から目で辿り始めれば、自然と絵画や肖像画で埋め尽くされた壁へ興味が移った。夕暮れと山を描いた最も大きな絵画を前に、お世辞に教養があるとは言えない探索者の心にいまいち言語化し難い妙な感動が沸き上がってきた。
 そんな得も知れぬ感動を台無しにするように、背後で鈍い音が伽藍堂のホールに響く。音の反響が止まぬうちから探索者は杖の先端をその方角に向けながら咄嗟に振り返った。
 館の出口が、ひとりでに閉ざされていた。

序章 2
 半開きの扉が閉ざされ、冷たい風と外からなだれ込んできた瘴気がエントランスホールを満たした。幽閉及び処刑の合図か、それともこの館の主が客人を凍えさせぬよう不可視の召使に手配した配慮だろうか?赤髪の探索者は僅かに目を細め、思考を巡らせる。
 脳を回す。
 考える。
 瘴気で麻痺しつつある脳を精一杯働かせて、考える。
 ただ離れた先で扉が鈍い音を立てながら閉じただけだというのに心臓はこんなにも早鐘を打っていて、なんだか情けなく感じる。鼓動が鮮明に聞こえる。杖を握る手のひらが手袋の中でじんわりと湿っていくのを感じる。
 肺と腹の奥底に沈殿した焦燥感を深い深い一息と共に吐き出した。考えるのは時間の無駄だと悟ったのだ。
 気分転換に少し歩いて、壁の中央に飾られていた一等大きな肖像画を見上げた。ふわりと波打つドレスを纏った女性が優雅な仕草で豪奢な椅子に腰掛けているものだ。ドレスの色は純白だったのか、ワインレッドだったのか、スカイブルーだったのか。今となっては判別がつかないほど色褪せてしまっている。彼女の手には一輪の花が。しかし、その花も時の流れと共に色を失い、もはやなんの花だったかすらもわからない。彼女の端正な顔立ちはどこか儚げな美しさを醸し出している───はずだった。顔があったであろう部分には深い引っ掻き跡が残されていた。その傷はきっと、何者かが悪意を以て削り取ったのだと直感的に察せられる。
 探索者が更に一歩肖像画の前へと踏み出すと、頬を切り裂くような冷気が周囲を満たした。背筋をなぞるような悪寒と極寒……だがそれはただの予兆だったらしい。
 前触れもなく、ホールに冷たい風が吹き荒れた。
 探索者が思わず目を伏せた次の瞬間、足元の絨毯が舞い上がるほどの突風が吹き抜ける。耳を劈くような業風の悲鳴、風に煽られガタガタと震える絵画の数々、風で狂った手元を離れたカンテラがカンカンと硬い床に当たる音、シャンデリアがギィギィと軋み、装飾がキリキリと擦れ合う音。突風と雑音の中で探索者は杖を両手で握りしめて耐えていた。

───そして、静寂が戻る。

 探索者がゆっくりと目を開けると、先ほどまで壁にかけられていた肖像画はそこになく、代わりに身の丈を優に超えるほどの鏡があった。歪んだ金の装飾であしらわれた額縁にはめ込まれた鏡面はこまめに手入れされているかのような輝きを見せる。
 磨き上げられた鏡の中の自分とふと目を合わせる。鮮やかな赤髪、黄金を流し込んだかのような瞳、ケープを纏った、普段と変わりない探索者が映っている。
 息を呑む。一歩後ずさろうとした。
 次の瞬間、鏡の中の「探索者」が口を開いた。

序章 3
『アナタの罪を数えよ』

 冷ややかな微笑みを湛えた鏡の中の「探索者」が、自分のものでないひしゃげた声でそう語りかけてきた。
 鏡の反射がひとりでに動き、その上語りかけてくるなどという超常現象は神の骸では決してありえないことではない。かつての権能と神秘、名状しがたい狂気を孕む朽ちた神の体内では、そこに足を踏み入れた者への圧倒的理不尽も、物理法則を無視するような現象も、起こったとて何ら不思議ではないのだから。故に、そんな超常を目の当たりにしながらも探索者は表情ひとつ変えない。ただ背筋に這い上がる微かな警戒心に従って一歩後ずさるだけ。
 異常事態が発生した時、後先考えず下手に動くよりはその場に留まり周囲を警戒した方が良いのだ。この持論は探索者が神の骸という神秘的で悍ましいダンジョンへ何度も足を運んできた経験から導き出したものだった。だがそれにも当然例外もある。例えば津波のごとく溶岩が眼前に押し寄せてきた時、地面が今にも真っ二つに割れそうになっている時、巨大な狼が丸呑みにせんと大きく口を開きながら飛び込んできた時、天の使いがラッパを吹く音を耳にした時などなど───それならば脱兎の如く逃げるべきだ。
 今にして思えば、この状況もまた「後先考えず下手に動いた方が良い」例だったのだろう。神の骸では存外多いのだ、例外というものは。

『アナタの罪を唱えよ』

 長考する探索者のことなど気にも留めず、ゆらりと鏡の中の「探索者」が僅かに身を乗り出して探索者に命じる。
罪。
 一体何の話をしているのかすらわからず困惑の表情を見せる赤髪の探索者を前に、もはや鏡の反射を取り繕うことをやめたのか「探索者」は嘲笑いながら杖先の鉱石を眺めたり指先に髪を絡ませたりと自由に振る舞っていた。

「……つ、み?」

 唖然としたまま掠れた喉から絞り出すように問い返した。何かをやらかした覚えがあるわけでもなければ犯罪行為の片棒を担いだつもりもなく、咎められるようなことをした記憶もないし、咎められたことだってない。幼い頃夕食前にピーナッツバタークッキーをつまみ食いしたことがバレて叱られたことをカウントしない限り(そしてそれをカウントするほど器が狭いワケもなかろう)、探索者が唱えるべき罪などないのだ。鏡の中の「探索者」は模範解答のヒントすら与えずにただ探索者を見つめ返している。
 ふらふら、ゆらゆらと揺れ動く「探索者」と反して、その場に立ち尽くしたままカラカラと乾いてきた喉に唾を流し込む。

「罪とは何の事だ?」

 少し眉を顰めながら今度は声を明瞭にして尋ねたが、しかしそれでも「探索者」はあっけらかんとした様子で見つめ返すのみ。その目にはまるで探りを入れるような光が爛々と宿っていた。
 言葉に詰まった。元から口が達者な方ではないものの、だからかよりいっそうこの状況に受け身にならざるを得なくなっているのだ。
 そもそもこの問に答えなどあるのだろうか?あったとしても何を罪として問われているのかわからないのだから、どうしようもないのかもしれないが。
 鏡の中の「探索者」はどうにもお調子者なようで、困ってる様子を楽しんでいるかのように目を細め笑い、再度口を開いた。

『自覚を失うか。それもまた、アナタの罪だ』

 失望から吐き捨てるようにそう言った鏡の中の「探索者」が片手を鏡面につけた刹那、ピシピシと震える無数の亀裂が鏡面に駆け巡り───砕け散った。
 絹を裂くような鋭い音が響き渡る。鏡の破片が宙を舞い、ろうそくの光を反射してぎらぎらと蠢いている。その向こう、暗闇の裂け目から夥しい数の黒い手がぬるりと波打ちながら探索者の方へと伸びてきた。飛び退くには遅かった。瘴気を纏って冷たくなった指が探索者の腕を、足を、首を絡め取る。腕を形作る蜂蜜のように粘ついた瘴気が探索者の身体へと染み込んで行く。
 五感が錯乱する。視界は歪み、耳鳴りは止まず、肌をなぞる悪寒に苛まれて。
 抗う間もなく、探索者は腕に引きずられていき───割れた鏡の中へと誘(いざな)われていった。

『偉大たるネメシスの遺骸を踏みにじり、死者の眠りを乱し、骸の理を侵す罪深き探索者よ。復讐の名を以て今───』

 薄れ行く意識の中、そんな声が聞こえた……気がする。


大広間

一章
 パチパチと火花が弾ける音、冷えた身体に染み渡る暖かさ。固く閉ざされた瞼の奥で揺らめく橙の光、煤けた匂い。

「……?」

 瞼がわずかに震えてゆっくりと開かれ、黄金の双眸が外気に晒された。ぼやけた視界の中で最初に目に映ったのは豪奢な意匠を施された天井と柔らかい火を点した暖炉だった。どうやら気を失っていたようだと直感的に察する。一先ず身体を起こしあげるべく手を床につこうとしたが……やけに柔らかい。
 体重をかけた分だけ手が沈んでいく感触に違和感を覚え、ようやく自分がソファに横たわっているのだとわかった。それと同時に何かが身体を覆っている事に気付いた。意識がハッキリしてくるにつれ、薄い布らしき感触がじんわりと身体に馴染んでくる。毛布だ。少し解れが目立つ見覚えのないそれが、眠る幼子を優しく包み込むように肩口から膝下まで丁寧にかけられていた。

「なんだ……?あ、たま……痛い、私は……」

 のそのそと上体を起こして辺りを見渡す。まず目に入ったのはソファの直ぐ側に立てかけられていた杖だ。先端にはめ込んだ紫の鉱石も傷ついている様子もなく、ほっと胸を撫で下ろす。
 杖とひとえに言っても、おとぎ話に出てくる魔法使いの道具でも特別な加護を授かったものでもない。探索者自身も魔法使いに相応する超常的加護を授かっているわけではないので、今のところは杖先の鉱石を鈍器の頭のように扱うことしか出来ない代物だ。若気の至り───といってもほんの四年前の話だが、『ハンター』加入祝いに武器を錬成してもらうことになった時、担当の職人には素直に剣や槍などを選んだ方が良いと忠告された上で当時の探索者は「どうしても杖が良い」とだだをこねた末の産物。本当にただの若気の至りだったか、単に厨二病を拗らせただけと笑い飛ばすべきか……
 閑話休題。
 視界の端で揺らめく橙の光に目を向ける。煤っぽい暖炉の中で燃える火はついさっき着けられたのか誰かが追加の薪をくべたのか、どちらにせよしばらく鎮火することはないだろう。改めて火と向き合うとじんわりと感じていた温もりが更に身に沁みていく。何とはなしに毛布を羽織ってみれば最後、さながらここは暖炉で火がパチパチと燃える一月の冬のリビングだ。和みや安らぎ、ノスタルジアがいっぺんに押し寄せ、グラス一杯のミルクとクッキー、母の朗読が恋しくなってきてしまった。
 だが今は幼い頃の思い出に耽っている場合ではない。

「…………寂しいな」

 ぽつり、瘴気の立ち込める空気に消え入るような声で一言。けれどそんな雑念を振り切るようにソファから立ち上がった探索者は杖を片手に散策することにした。

一章 2
 ぐるりと見渡す限り、ここはいわゆる大広間だろうと推察出来る。格式張っているようでいて、手入れの手が抜かれているような気配が見え隠れする広大な部屋。裂けたテーブルクロスが敷かれたロングテーブルの上には、まるで誰かがかつてこの場で宴を催していたのだと言わんばかりにホコリを被った銀食器が無造作に並んでいた。
 冷えた喉から息を吐いて、見上げる。エントランスのそれよりも小綺麗な黄金のシャンデリアが眩い光でこの広々とした淋しい空間を照りつけていた。眩しさに目を細めていれば視界の端で鈍い銀色の光が見えて、自然と関心がそこへと向かう。
 鏡だ。それも探索者を引きずり込んだモノと全く同じような意匠を施されていたモノ。色褪せながらも暖炉の火を反射し煌めく金のフレームに絡みつく蔦の装飾、そこにはめ込まれたヒビも歪みもない鏡面の前へと何とはなしに立ってみた。しかし───そこに探索者は映っていなかった。
 位置関係を考慮しても、ソファが映っているのだから探索者が映らないわけがないのだ。

「……まあ、そういうこともある……か」

 と口では納得したとはいえ。
 鏡に映らない存在というものは往々にして幽霊や吸血鬼のように『肉体と魂の結びつきが薄い、あるいは無い者』であり、この怪奇現象が神の骸におけるただの超常的出来事であったとしても気分が良いものではない。こうして鏡越しに自身の背後にあるソファを見ていると、なんだかやるせなくなるのだ。気を散らすために鏡から目を背けてもう一度周囲を見渡そうとした。
 そこで。

『何故目を逸らしたのです?』

 背後、耳元、すぐそこ。木霊する乾いた声に潜められた粘っこい嫌悪感が背筋を伝う。刹那、バサバサと布が翻る音に囲まれた。部屋の温度が一気に下がったかのような悪寒に浸されていき、ひゅ、と喉から情けない音を漏らしながら、探索者は振り返った。
 そこに『ソレ』は浮いていた。
 漆黒のフードを被った、ヒトの形をした到底ヒトではないナニカ。顔はひび割れた白い仮面で覆われており、灰の如く煤けた煙が割れ目からじんわりと流れて空に溶けている。四肢はマントの内側か、あるいは無いのか。
 黄金のシャンデリアの光さえ吸い込む深淵を纏う者。ネメシス神の骸に巣食う『復讐』の代行者、そのひとり。

「───ケーレスか」
『おや、ご存知で?』
「この骸は『本命』だったからな、時間がなかったなりに念入りに下調べをした。……この骸の性質や空間変化への脆弱性は多様な資料や論文に書かれていたが、ともかく、貴方『達』の名称は古い資料にしか記載されていなくて探し出すのに苦労したものだ」
『まァ、そこまでして我らを求めていたのですか』

 求めていたなどという言い回しに探索者は小さくため息をついた。

「すまない……主目的は貴方達ではないんだ。私は『ハンター』異常対応部の特殊調査員、ネメシス神の骸で検知された空間変化と因果撹乱、瘴気濃度と性質の調査を命じられここに派遣された。だが……そうだな、きっと貴方達も調査対象になるだろう」
「おやま、そうでしたか。ではそんな調査員さんに一つ質問を!」

 残念だと言わんばかりに涙を拭うような動作を取ってから首を捻ったケーレスがやけに軽快な声色で返す。

「そうペラペラと素性を明かして良かったのですか?」
「…………何が言いたい?」
「だって、ここがアナタの墓場になるのですから」
「はっ───」

 舌を切られたかのように言葉を止めた探索者の周りをクスクスと笑うケーレスがふよふよと泳ぐように飛び、そして二周三週と回って探索者の背後で止まった。骨ばったを通り越して骨を死んだ色の皮で覆っているかの如く細長い指を探索者の首元にそっとあてがう。その指のひんやりとした感覚が伝わったコンマ数秒後、探索者が杖でケーレスを薙ぎ払いつつ跳ね跳んで相手との距離を取った。

「なかなか素早い反応ですね。おみそれしましたよ、調査員さん……ああ、ここで死んでしまうなんてなんとも名残惜しい。ですが我らは『復讐』を担うもの、悲しみを飲み込まねばならないのです」
「はっ、口ではなんとでも言えるというものだ」

 カン、と杖先を床に叩きつけながらケーレスを見上げる。『悲しみを飲み込まねば』などと宣ったヤツだが、その態度にも声色にも悲しみの感情を一切感じなかった。

「貴方が……貴方達が、私を殺せるとでも?」

 曇りなき黄金の瞳に好敵手を映しながら不敵に笑う。……とはいえ、そう啖呵を切ったものの、杖で咄嗟にケーレスを殴打したあの一瞬、探索者は一切の『手応え』を感じなかったのだ。まるで干された布を棒で横薙ぎにしたかのようで───

(アレには中身がなかった。いや、無いならあの手は何だって話になるからあるにはある筈だけど……こちらからは干渉できないってことだろうか?)

 頭を回す。高濃度の瘴気は今も尚屋敷を漂い探索者を蝕み続けている。深く考えると頭が痛くなる。けれども、だからと脊髄反射のみに身を委ねるわけにはいかない。
 神の骸では己の肉体も大事だが、何より理性が無いと生き残れないのだから。次はどう動くだろうと、汗を滲ませながら探索者がまた一歩下がった。
 パン、と手を叩く乾いた音が一回、がらんとした大広間に響く。

「?」
「アハハッ、なァんて冗談ですよ! 言ってみたかったんですこういうの。今この瞬間、アナタの所属する組織の敵に値する機関がアナタを包囲していますよって展開の予示、ゲームや小説でたまァにあるでしょう?」
「……は、はあ…………」

 なんだか情けない気持ちになって、ふと壁際の歪んだ鏡に再度目をやった。己の姿がその反射に映らぬことも、ケーレスの掴みどころのない態度も依然として不快だった。

「せっかくです、麗しき調査員さん。少しワタシとお茶をしませんか?」

 ケーレスがロングテーブルを指差す。いつしか新品同然のテーブルクロスが敷かれていたテーブルの中央にはケーキスタンドが数台、ティーポットと人数分のティーカップとカトラリーが丁寧に置かれており、散々な状態で放置されていた食器や破れたテーブルクロスは面影すら残していなかった。

一章 3
 光景の様変わりに唖然としているうちに流されるまま席に座らされた赤髪の探索者の元にケーレスが紅茶を差し出す。赤みがかった橙色が白磁器のティーカップの中で静かに揺れている。覗き込めば、ささやかな湯気と芳醇な香りが探索者の顔をくすぐった。

「……」
『どうなさいました? ああ、人間に有害な物質を混入してたりはしませんのでご安心を。胃に入れたら最後永遠にここの住民になる、なんてこともないので!』
「な、ああいや、そういうわけじゃない……」
『おや?』

 一旦紅茶から目を離してケーキスタンドの方を見る。バスクチーズケーキやパウンドケーキ、ミルフィーユが乗ったそれらはさながらおとぎ話のティーパーティーのようだ。特に何層もある長方形のチョコレートケーキは、そのシンプルかつ上品な見た目からどこかの高級店のデザートにでもサーブされそうな一品だと思った。

(そういえば、ここに来てから抗瘴気汚染薬しか飲んでないな)

 骸に潜ってから何日経っただろうか、チョコレートケーキに見惚れながらもふとそんなことを考える。外周の森は資料で読んだよりも存外広く、四方の『曖昧』に行き着くまでに少なくとも二週間は費やしたと記録している。その間支給された携行食を食べた回数は片手で数えるに満たないということも記憶に新しかった。
 ネメシス神の骸の特徴の一つとして、食欲、睡眠欲、排泄欲の遮断が記載されていた覚えはあるが、ただ遮断されているだけで身体がそれらを必要としているのなら探索者は今頃どこかでパッタリと衰弱死しているだろう。そうして身体の健康を維持するにあたって必要な生理的欲求がその必要性と共に失われているのだと結論付けたのは八日目のことだった。

(お腹が空いてないのに、栄養のためと無理矢理口の中に詰め込まなくて済むのはありがたいけど)

 食事を取らず、飲まず、眠らず、出すものもない。資源が限られた中での長期間の探索においては都合がいいが、人として生きていくにあたって必要なことを着実に忘れていくのは怖いものだ。
 欲を失う恐ろしさは想像を絶するものなのだから。

「……食べないと」
『なにか仰りましたか?』
「なんでもない」
『ふぅん? 隠し事なんて他人行儀なことをしなくても。我々はこれから長〜〜〜い時間を共にするのですから、もう少し態度を和らげては?』

 そんなことを抜かすケーレスが小指を器用に立てながら空っぽのティーカップを口元(があるであろう位置)に近付ける様を見てほとほと呆れながら、探索者はすぐ気まずそうに目を泳がせた。

『それはそうと、アナタがさっきまで見ていたそちらはオペラ、ガトーショコラの一種でビターなチョコレートとコーヒーの風味が合わさった極上のケーキです。長い間外でせっせと動き回って、大層腹を空かしていらしてるでしょう? お一ついかが?』
「あっ、いや、お腹は空いていない。……この骸の性質については貴方が一番わかってるだろうに」
『はい?』
「……まあいい、一切れいただこう」
『ふふ。ええ、もちろん! 紅茶と合わせてお食べになられてください』

 妙に上機嫌なケーレスがふわふわと席から立ち上がり(浮かび上がり)、オペラケーキを皿によそって差し出した。ふんふんと鼻歌を奏でながら席に戻ったケーレスが探索者をじっと見つめる。……穴も空いていないまっさらな仮面越しでも、得も言われぬ威圧感から凝視されていることがなんとなくわかるのだ。手元のフォークで端を少し切り分け一口。セミスイートチョコレートのコクと口の中に広がるほろ苦さ、濃厚な舌触りと口溶けは適度に腹を空かせていればそれはそれは極上の逸品だ。舌の上に乗った瞬間はたしかに甘く、美味だった。
 けれど、それは『味わう』だけで完結してしまった。喉が動こうとしなかった。脳が、喉が、胃が、この甘味を飲み込むことを拒んだ。だが見られている中で吐き戻そうものなら失礼に他ならず、どうにか紅茶と流し込む形で飲み込んだ。
 口直しの紅茶はアールグレイだろうか?柑橘系の爽やかさが口の中の甘ったるさを洗い流してくれたおかげで、脳と胃が少しでも食べ物を求めていればすぐ二口目を口の中に放っただろう。

「…………んぐっ……」
『おやおや、どうなさって?』
「……すまない、やはり食欲がどうしても湧かなくて」

 軽く食べられる菓子ならともかく、しばらく食べ物を口にしていなかった探索者の胃に濃厚なケーキはあまりにも重たすぎた。

(何かを食べたいとは思ったけど、せめてもう少し軽いものを食べたい……)

 バツが悪そうに探索者が口元を拭おうと近くのナプキンに手を伸ばそうとした。

『は?』

 その一瞬、ケーレスの仮面にヒビが入ったと思えば突如鋭い風が探索者の頬を掠め、一拍置いて暖かい液体が頬を伝う感触を覚えた。

『そんなわけないでしょう、ワタシが丹精込めて作ったというのに。アナタ達のところで言う神獣だからとそこまでコケにするつもりですか? それに、調査員だなんてまるで我々の世界が異常だと仰ってるかのように』

 前触れもなく、ケーレスの声がきしむように割れ、ノイズが走る。

「何だ、急に……」
『しらを切らなくてもいい。どうせアナタ達は今後我々の駆除に来るのでしょう? 我らは偉大なるネメシス神の骸、其(ネメシス)の復讐の権能の代行者としてひっそりと暮らしているだけだと言うのに。調査員などという名目で我らの聖域に踏み込み、アナタ達が知らなくてもいいことを追い求めて不躾に散策するなど、ああ、これが罪、これがアナタの罪だ! 道理で他の探索者達と違ってアナタはエントランスから直通でここに連れてこられたわけです、ああ卑しい、ああ穢らわしいッ!』
「ま、待て、なんだ……!? ひとまず落ち着いて───」

 パリン、ガシャン。
 何十枚ものガラス陶磁器が砕け散るような破裂音が同時に轟く。頭上の巨大なシャンデリアが一瞬きらめいたかと思うと、鈍く唸るような音と共に頭上のシャンデリアが光を失い大広間はこの一瞬で暗闇に包み込まれた。ケーレスを中心に激しい風切り音と共に凍てつく風が吹き荒れ、縦横無尽に探索者を切りつける。

「くっ、なんで……っ、なにが貴方を……」
『耳障りです』

 叩きつけるようなケーレスの言葉と同時に、ヒュンッ、と風が何かを固いものを断ち切る音がすぐ上から響く。
探索者が振り仰ぐと、頭上から軋むような金属音が。脳をギリギリと締めつける不愉快な音を耳にした探索者の本能が「退け」と叫んだ。

「嘘だろ───」

 コンマ数秒後には後方へ大きく飛び退いていた。
黒い闇の中、彼とケーレスの間に置かれた長いロングテーブルに───ドン、と世界を割るような重音、それに続くギシャッ、と固いものが潰れる音が。
シャンデリアが落下したのだ。床石に叩きつけられた鉄とガラスが跳ね、破片が刃のように飛び散っている。
耳鳴り。煙。焼けるような鉄と油の臭い。

『主たるネメシスの遺骸を踏みにじり、死者の眠りを乱し、骸の理を侵す罪深き探索者……ワタシの、我らの威厳を損なわせたアナタにお似合いの裁きを!』

 到底理解し得ない怒りと憎悪に飲み込まれたケーレスを中心に、竜巻がシャンデリアの破片を巻き込みながら激しく渦を巻く。探索者の頬を裂き、裾を裂き、肺にまで冷たい空気が入り込む。

(これは……逃げないと)

 痛みは生存本能のアクセル。脳が逃走を決断するより先に、探索者の両足は無我夢中に動いていた。

廊下


一章 4
 カーペットで僅かに殺された足音と探索者の浅い呼吸が響き続ける。けれど、この廊下がどこへ繋がっているのか、逃走に意味があるかなんて、探索者には分からなかった。すぐ後ろからは荒れ狂う風、壁や天井に衝突し耳をつんざく音を上げながら散らばる破片の数々。頭上の照明は不規則に明滅を繰り返している。もうしばらく走り続けている筈だというのに曲がり角も階段も見かけないもので、まるで延々に同じ場所を走らされているようだ。壁にかけられた肖像画や絵画を確認する余裕はない。一秒でも足を止めてしまえば、今にも探索者を裁かんと躍起になっているヤツの餌食なのだから。
 浅く息を吸い続ける。雑じり気のない粘っこい瘴気を、今この身体を生かすためにも吸い上げる。乾いた咳が赤い体液と共に口から吐き出されても走り続け、縺れそうな足にムチを打つ。

(地雷を踏まれたかのような変貌だったけど……なんなんだ、一体)

 視界が滲んで痛い。涙からか、汗からか、他の何かかなんてさっぱりわからないし、どうでもいい。とにかく拭って前へ走ることだけが最優先事項だ。
だがこの屋敷は逃げることすらも許さないらしい。
突如、探索者の足元がぬるりと沈んだ。靴底を飲み込むようにカーペットが液状化し、膝を折り体勢を崩したところからなんとか身体を持ち上げ前を向いたその瞬間───廊下そのものが『捻れた』。天井が左右へ傾き、壁が波打ち、踏みしめるべき床は今や流砂の如く脆い。進行方向の先がぐにゃりとひしゃげ、折れ、まるでこれ以上進むのを拒絶するかのように迫りくる。これこそがネメシス神の骸での調査対象となっていた局所的な空間変化だろう。
 咄嗟に振り返った探索者の視界の中心には黒い裂け目のようなものが。無を切り裂いて現れたはフード姿のナニカ……ケーレスだ。それもひとりだけではなく、ふたり、さんにんと、次々と骨のような大きい手で裂け目を押し広げながら這い出て探索者を囲う。

「っ……」

 ひとりと視線が合った。厳密に言えば仮面で覆われた顔と目を合わせることは出来ないが、直感的に「目が合った」と思わせてくるような圧迫感。仮面の奥でニタニタと嘲笑しているのが明らかで、背筋を這い上がる歪な悪寒とケーレス達の包囲を前に探索者は動きを止めた。動きは止めたが、周囲に突破口がないかをひたすら探し続けた。
 正面からは襲来する竜巻、周囲には今にも命を狩らん爪を伸ばすケーレス達、背後の廊下は捻じれ、すでに通ではなくなってしまった。
 絶たれている。出口がない。でも、探さないといけない。周囲を見渡す。見渡す。目から溢れる液体を拭ってひたすら見る。

(……!)

 視界の端に、黒く煌めく鏡を見た。
鏡───この骸で、鏡は特異な力を秘めている。吸い込まれたり、姿が映らなかったりと、流石は神の骸と言うべきか、常識の通じない異物なのだ。ヤツらと同じくらいに警戒すべき存在。だが同時に、状況を打開する鍵になる可能性だってある。それに探索者の目に映っているソレがなんの変哲もない鏡ならば、この骸に転がる屍がひとつ増えて終わるだけ。
どのみち他に道はない。ならば───この鏡に賭けるしかない!

─────────飛び込め!

二章
 黄金の瞳は割れた鏡を───一縷の希望を、ただひとつ、真っ直ぐに見据えていた。体勢を低く構え、杖を両手で握り締め、その先端を床に突き立てる。次の瞬間、身体ごと勢いよく押し出すようにして駆け出した。まるで自分自身をこの場所から叩き出すかのように、強引に……深淵への穴が口を開けたかのような虚ろな鏡へと、頭から飛び込んだ。
 冷たい泥に腕から飲み込まれていく感覚と、体内に何匹もの蛇が潜り込んでいくような嫌悪感。エントランスの鏡に引きずり込まれたときとあまりにも似ていたそれに、またも苛まれる。

「…………おねがい……」

 探索者は神を信仰しているわけではない。けれど、この瞬間だけは、祈る。
 特定の名も形も持たない『何か』に───この命を繋ぎとめてくれるかもしれない、どこかの上位存在に、救世主に。
祈るというより、縋る。己の声すら届かないかもしれない虚空へ向かって。
 必死に。


図書館


大食堂


礼拝堂


二章 2
……刹那、気が遠くなったかと思えば、巨大な何かに捕まれ、床に乱雑に投げ捨てられたかのような衝撃が全身を駆け巡った。
 どうにか意識を手繰り寄せた頃には、探索者はどういうわけか仰向けの状態でまたも見知らぬ空間にいた。着地に失敗したのかと思う程に、全身を強く打ちつけたような焼けつくような痛みが押し寄せてくる。

「っ、痛ぁっ……! はっ、はあ、わた、しは……ここは……やっぱり、転移…………」

 繰り返し浅く息継ぎしながら身体を起こし、見回す。視界に飛び込んできたのは、等間隔に並べられた長椅子の列。乾いた木の香りは当に溶けてなくなっており、代わりに漂うのは微かに鉄臭いような湿った埃の匂いだった。
 天井は高く、光の差さない礼拝堂の中は薄暗い。窓のステンドグラスはひび割れ、外と内の境界が曖昧になっている。祭壇の奥にあるべき神像は失われたまま、台座の上にただ無数の割れた鏡片が突き刺さっていた。
 神を崇拝するための場所……礼拝堂だろうか。空間を支配する瘴気はいっそう重たく、目に見えるほどに空気を濁らせていた。息を吸うたび肺の奥に澱のような冷たさが残る。木の床に手をついた探索者の指先が、黒く乾いた染みの上に触れた。

───ここはもう祈りの場ではない。

 かつて神の言葉が降りたとされる聖域は、いまやただ、死者と瘴気と忘れられた崩壊の残滓だけが支配していた。探索者は椅子の列を縫うように歩く。踏むたびに軋む木の床が、ひどく遠く感じられる。瘴気のせいか、重力すら歪んでいるような圧迫感がある。
 祭壇の傍、神聖さを携えた荘厳な像が立っていたはずの場所───そこには、今はただ、巨大な石板がぽつんと残されていた。人の背丈ほどの高さがあり、表面には何かが彫り込まれている。
 足元の割れた鏡の破片に気をつけながら近づき、石板に触れた。指先でなぞった線は見慣れぬ形をしている。

「古代文字?」

 判読は困難だが、どうにか一部だけ読み取ることが出来た。

 ネメシス。
 生きる行為が、人の原罪。
 人への復讐。
 無知への復讐。

 読めたのは、断片的なこれだけだった。けれど──それだけでも、十分すぎるほど。

「ネメシス……復讐の神である以上仕方がないが、ここまで人間を下に見ているなんて」

 その瞬間、誰かに見られているような感覚が背筋を伝った。振り返っても誰もいない。ただ、ひび割れたステンドグラス越しに、濁った光だけが礼拝堂を照らしている。

「……げほっ……そこに、いるんだろう」

 前髪をかきあげ、滲む脂汗を拭いながら探索者が呟く。

「わかっているんだ、貴方がここにいるってことは……」
『もう口を閉じてもらっても結構です』

 脳内に声が直接響き渡った。

「はは……やっぱり。かんしゃくは済んだのか?」
『今からでもいいのでその口の利き方を改めた方がいいですよ、調査員さん』
「はあ。なんの用だ」 

 ツン、と言い放った直後、冷たい風が探索者の頬を掠める。

「……ああ、私にとどめを差すのか」
『いいえ? つまらないでしょう、そんなの。それに、アナタには知りたいことがたくさんあるのだから、答えてあげたいのです』
「冗談か?」

 クスクスと愉悦に満ちた声が礼拝堂に響く。

『アナタは面白い人ですから。まさかあそこで鏡に突っ込むことにしたなんて……普通は囲まれたときに死を受け入れるなり、その場で暴れるなりするものでしょう? 現に今までここに来た皆様、死に顔が醜かったのです』
「まあ、経験は人並み以上に積んでいるからな」
『ええ……流石ですよ! なのでここで殺すより、飼い殺した方が面白いかと思ってね』
「ああ。……はは、悪趣味な……けほっ、ごほっ……っ!」

 スルリ、と、探索者の首元に骨と皮だけの細長い手だけが現れ、ループタイのストーンを掬い上げた。目の色が太陽ならば、ストーンは夜空の色だ。

『そろそろ限界なのでは?』
「……まだ、薬が5錠残ってる。8時間に1錠服用するものだから、40時間は猶予がある」
『なるほど。ですがその薬も汚染を遅らせるのみで完全に瘴気を遮断できるわけではないでしょう。現にアナタ、今にも死んじゃいそうですよ。それに、アナタはテセウスの鏡で転移を二回もしてしまったでしょう? そこで一気に汚染が進んでしまった』
「テセウ、スの……? はっ、あ……う」
『おや』

 石板に片手をつけて俯く。激しい咳き込みの音と嗚咽の後に、液体がびちゃびちゃと床に撒き散らされる音が続いた。

『あーあーあー、当に廃れたとはいえここは礼拝堂だというのに、なんと無礼な』
「…………すまない……」
『いいですよ。殆ど胃液と血なので、掃除も楽でしょうしね』

 涙も拭ってくださいと、いつの間にか全身を可視化させていたケーレスが背中を丸めて踞る探索者へハンカチを差し出していた。

二章 3
 ふう、ふう、と項垂れたまま深呼吸を繰り返した探索者がベルトポーチから小瓶を取り出し、中の錠剤を口に放った。

『我らが主の骸が放ち続けている瘴気を相手にその場凌ぎの耐性をつけてもねェ』
「その場凌ぎでいいんだ、長くとも2日以内にはここを出るから」
『そうですか。出られるといいですね』

 ケーレスの声に期待は込められてなかった。

「……それにしても、さっきは見苦しいものを見せた」
『お気になさらず。ときに、この後はどうするおつもりで?』

 口元と目元を拭う探索者へケーレスが問う。

「『まずは』テセウスの鏡について、貴方に聞きたい」
『は?』
「繰り返さないといけないか? テセウスの鏡だ、私はそれで転移したのだと貴方が言ったことをもう忘れたのか」
『おや……調査員だからといって優先順位が狂ってますね。身の安全の確保や屋敷からの脱出方法など、他に考えることはたくさんあるでしょうに』

 ケーレスが声をあげて笑う。けれど、どこかひきつってるように聞こえた。

「だって、殺されない限り私は死なないだろう?」
『おや』
「この骸は私を生かしてくれている。食事を取らず、水分補給もせず、眠らず……それでも私は生きている。瘴気は今も尚私を蝕んでいるし、健康被害を齎してはいるが、フグが自分の毒で死なないように致命的にはならないと私は結論付けた」
『随分と分析と結論付けがお早いですね』
「ふふ、特殊調査員の肩書きは伊達じゃないだろう? 多少は誇りに思っているんだ」

 探索者が口角を上げた。この骸に潜ってから表情筋一つ動かさないか顔を強張らせてばかりだった探索者が、今、やっと表情を緩めた。

「私にはわかるんだ。貴方は私を逃さないだろうと……それならこの時間を有効活用させてもらおうかなって。それに、頭がぼうっとしてきたから、まだ考えをまとめられる内に記録を残したい。いずれ私のようにこの骸を訪れる者達のためにも」
『……献身的で、蛮勇が過ぎると思います。人間は単独ではなにも出来ない、群れることしか出来ない脆弱な生き物だというのに、よくそこまで無駄に命を張れる』
「そうだな……」

 探索者がひとつ重たく息を吐いた。

「人は弱い、それは事実だ。一人ではなにも出来ず、群れることで生き延びてきた……そう、私達は共存し、協力することで進化してきたんだ。前人の努力を受け継ぎ、過去の人々が撒いた種を他の人が育てられる……貴方はそれを弱さだと呼ぶが、これは人間にしかなし得ない強さだろう?」
『ふん、そんな耳障りの良いことをよくつらつらと……』
「言えるよ。だって私が今、この骸の調査結果という種を撒いているのだから」

 探索者がそう言い終えると共にケーレスがしばらく黙り込んだ。ひび割れた真白の仮面越しに、探索者をまるで鑑定するかのようにじっと見つめている。

「な、なんだ?」
『……綺麗な目だ。この限られた時間の中、アナタの名誉のためにワタシが答えられることをなんでも答えてあげましょう』
『本当か? 助かる。ありがとう』
『そんな目で見るのはやめてください。確かにテセウスの鏡についてでしたね?』
「ああ、よろしく頼む。だが立ち話も何だし、少し座ろう」

 そう告げて、探索者が最前列の長椅子に腰掛けた。

「レコーダーをオンにさせてくれ、後で書き記す」
『外の世界には便利なものがたくさんありますねぇ』
「ああ。……いつでも始めてくれ」

 録音機の電源を着けた探索者がケーレスに促す。

『さて、どこから話しましょうか……テセウスの鏡、そう、世界の縫い目……ワタシたちが鏡の裏側と呼ぶものを通って、別の場所へ、時には別の時間軸へも跳ぶことが出来る便利なモノ。便利すぎて壊れるんですけどね、心も、身体も、世界の構造も』
「神話兵器だろうか……続けてくれ」
『一応言いますが持って帰ってはダメですよ? さて、続けますが。ここ(ネメシス神の骸)でいう鏡の裏側はいわば瘴気の海。人間の時空間における不要部分、デバッグで取り除かれるような余分なデータが堆積したゴミ溜め。テセウスの鏡を通るというのはズバリ、そのゴミ溜めを泳ぐことで強引にショートカットを取るってことです』

 ケーレスが言葉を止めて少し、探索者は無言で続きを催促した。

『……一度や二度なら、運が良ければ五体満足で帰ってこれるでしょうけど。でもアナタ、これで何回目でしたっけ?』
「ん……?2回だろう?」
『いいえ』

 ケーレスが壁にかけられた割れた鏡の方を見る。顔の一切を覆う白い仮面の奥に秘められた目には何が宿っているのだろうか。

『32回目ですよ』
「……どういうことだ?」
『簡単に説明しましょう。アナタは他の人間と同様、この骸にとって異物そのものなのです。その上瘴気汚染に抵抗するための薬を飲んでいるとなれば、ワタシ達原生生物と違って瘴気の海を泳ぐのも一苦労する。現に、ワタシの手下にアナタを大広間に『招待』するよう手配した時、気絶させたというのにアナタの身体は大きく抵抗してみせました。あそこで9回ほど瘴気の海を行き来して、10回目でやっと引きずり出せたことが記憶に新しい』
「そう、だったのか」

(汚染がひどくなってきたのは……耐性がついて抗瘴気汚染薬の効果が薄くなってきただけかと思ってたけど、そんな背景があったなんて)

 道理で身体が異様に重たいなと、探索者がため息をついた。

『いやあ、人間ってすごいですね? 薬の効果を借りてるとはいえまだまだ耐えてるなんて! 想像以上に頑丈なようです。やっぱり有無を言わさずに殺すより見ている方が楽しい!』
「殺されるつもりなんて毛頭ないけど……けほっ、まだ聞きたいことがあるから、もうしばらく付き合ってほしい」
『ふふ。お好きにどうぞ、こちらとしても都合がいいのでね』
「? 次はこの屋敷で観測される局所的な空間変化について話してもらいたい。あの時イカれた貴方が私を追い回していたとき、廊下が不自然に私の行く手を阻んだだろう?」
『ああ、そうですねえ、そんなこともありましたねェ……』

 煙に巻くような言葉と共に、ケーレスが祭壇付近に散らばる鏡の破片を引き寄せてくるくると指先で回す。超常能力の行使に探索者はつっこまなかった。

「大丈夫、貴方が急に栃狂った理由は後で聞くから。この空間変化は常に観測されてたものか?」
『なんだかインタビューみたいになってますね』
「れっきとした調査用のインタビューだからな」
『わかりましたわかりました。ええ、そうですね、不規則的にこの屋敷の内装は変化していっています。例えば、外ではどれだけ見積もっても3階建てに見えるこの屋敷、たまに42階まで出来てたり逆に1階しかないときとかがあるんですよ。それに加えて図書館が縮んだり、中庭と大食堂が融合したりと散々で。肝心の理由はわかりませんが……』

 と、そこでケーレスが言葉を止めた。

「なんだ?」
『傾向としては、テセウスの鏡を使用してから30分から6時間後に歪むことが多いかと。便利な代物ですが、あれは確実に因果干渉してますからね』
「ああ、さっき話してくれたな。瘴気の海は本来触れてはならぬ領域……そこに強引にアクセスすることで不具合が発生するということだろうか」
『不思議なワードチョイスですね。それと、これはただの憶測ですが……我らが主の怒りが屋敷の構造を不安定にしている、といった話もあります』
「主?」

 探索者が聞き返そうとした瞬間、ごう、と何かが軋む音がした。天井の装飾が微かに鳴り、床下から這い上がるような低い唸り声が壁を伝って響き渡る。探索者が言葉を紡ごうとしたその瞬間、床がわずかに沈むような感覚とともに、視界が斜めに傾いた。
 部屋全体が、否───

「──屋敷が揺れている?」

 まるで屋敷全体が意志を持ち、息をするかのように、重々しくその構造を揺り動かしている。目に見えぬ亀裂が、空間の端に走った気がした。

『おっと。やっと始まりましたか』
「……やっと?」

 ケーレスは薄ら笑いを浮かべながら、指先で回していた鏡の破片をぱちんと弾いた。それは空中を無重力状態のごとくゆったりと漂い、やがて床に触れずに宙で止まる。

「チッ……時間を稼がれたか」
『大丈夫ですよ、まだ崩れるわけじゃない。異物(アナタ)に対するほんの小手調べです。……主の意思が、また気まぐれを起こされたようで』
「……その主というのは」

 探索者の問いに、ケーレスはわざとらしく首をかしげた。

『聡明なアナタならもうわかってるでしょうに、確証を得られないと不安ですか?』
「時間稼ぎも大概にしてくれ!」
『ハイハイ、わかりましたよ』

 だがケーレスがいよいよ答える前に、祭壇の奥にあったはずの石壁が、次の瞬間にはないものになっていた。右手を見れば見知らぬ廊下、奥には歪な曲線で構成された柱、上から滴る液体のような影。部屋の、屋敷の構造そのものが、「主」によって塗り替えられていく。
 突如、廊下の奥で鈍い爆ぜるような音がした。空気が反転する。視界が波打ち、空間がめりめりと歪んでいくのが見えた。壁と床が互いに食い合いながら絶え間なく構造を変えている。

「うぐ……このままじゃここが崩れるのも時間の問題か」
『面倒ですねェ。空間同士の繋がりが一斉に入れ替わってる……ワタシも正直、今どこがどこと繋がってるのかわかりません』

 そんなことを言いつつ状況を楽しんでいるようなケーレスを無視して探索者が床を踏みしめた途端、床板の継ぎ目から黒い煙が噴き出し、煙の間からはスライドショーのように異なる階層の景色が前から奥へと流れていく。だが感慨に浸っている場合でも、足踏みしている場合でもない。今もなおミシミシと壁に亀裂が入り、そこから煙が更に吹き出しているのだ。

「んっ、煙は吸わないように───ん?」

 壁のひとつが裂けた隙間の向こうに、探索者は開きかけの部屋の扉を見つける。今から向かえば辛うじて滑り込めそうだ。

「寝室? 内装は……比較的荒れてないな。近いし、跳べば行けそうか」

 動きあぐねていた(動かなくても無事でいられるから敢えて留まってるのかもしれないが)ケーレスを置いて探索者は一人煙の層を踏み越える。蜃気楼のごとく揺らめく半開きのドアを蹴り開き、自身を部屋の中へ投げるように放り込んだ瞬間、世界がちぎれていくような音が轟いた。

ダンスホール




中庭

番外 2
「救われるには、私はあまりにも恵まれている」

 広大で、美しく、寂しい中庭の一角にて。星無き深夜の下静かに生きる花壇の草花をカンテラの光で照らしながら、彼岸が一人口ずさんだ。

「私は今もこうして生きている。ここを訪れ、長居しすぎた人々は皆瘴気に飲まれ狂っている間にケーレス達に殺された」

 水で満たした如雨露(じょうろ)を傾け、草花に水をやる。光合成すらままならないというのに、それでも強かに上を向く花に感銘を受け、それから度々水をやっているのだ。最初は水筒で水をやっていたが、それでは非効率だと思い図書館で如雨露の組み立て方を頭に叩き込んだのがおよそ●4年前の話。剥がれそうな壁や床、屋敷の外の森に落ちていた物をやりくりして必死に如雨露を作っていたあの時の記憶も、既に磨耗してしまっているのだが。

「この命も、ただの気まぐれで繋ぎ止められてるのだろうな」

 どうして生かされているか。それもずっと昔に忘れてしまった。そもそも答えを得てないのかもしれないが、今となっては知るよしもない。

「いや……私に課せられた任務は忘れてない。これだけは、忘れないようにしないといけないから」

 特殊調査員として彼岸に課せられた任務。その為の『長期間』における探索で、ネメシス神の骸についてのデータは遠い昔に粗方揃った───揃っていた。

(でも、それも全部忘れてしまった。データの取り方すら、私はもう……情けないものだ)

 装備品は磨耗してもう使い物にならなくなってしまった。一から仕切り直すのにも限界があるわけで、そうなれば一時的に離脱する必要がある。なんせ、調査の機会は今後いくらでも見繕えるが、命はひとつしかないのだ。

「だから、正直なところ、今すぐにでもここを出たいところなんだ。……何度も、ここを……骸を、出ようとしたんだ」

 花へ語りかけながら水を与えている内に、いつの間にか鮮やかな青色の羽の蝶が彼岸の周囲に集まってきていた。外側の黒い縁が青色の光沢を更に際立たせており、屋外灯の光を反射する青は発光しているかのように綺麗だった。

「……許されなかった。弾かれて、空間が捻れて、出られなくて。『既に骸の一部だから』と、ケーレスには言われたが……正直、どういう意味かはさっぱりだ」

 ひとつため息をこぼしながら水が尽きた如雨露を花壇に置いて、その隣にそっと腰かける。中庭の中央に悠然と立ち尽くす巨木を見上げながら、彼岸の周囲を離れようとしない蝶の群れへと話し続けた。

「そうだな……ここに来て何年目かは、もう数えるのをやめた。私が使わせていただいている寝室の壁にも日記帳にも空きがなくなって、数えられなくなって───タリーマークの線一つ一つを大きく書きすぎたからかもしれない」

 はは、と、喉奥から絞り出したような、乾いた笑い声をあげた。自嘲めいたそれは誰にも届かず冷たい空気に溶け、彼岸本人ですらその声をすぐに忘れた。

「…………私はまだ、喋れてる。喋り方は忘れてない。まだ、声はなくなってない。声がなくなってないなら、私はまだ……記録を、残せる」

 とうに消耗しきったボイスレコーダーを取り出し、電源を入れようとしてみた。だがボタンがカチカチと短くなるばかりで、ノイズすらも走らない。

「これも直さないとだけど……図書館に精密機械についての本があるか探す必要があるかな」

 彼岸がゆっくり立ち上がると同時に、周囲の蝶が散り散りにその場を離れた。最後の一羽が深夜の闇に溶けて見えなくなってから、ふらふらと覚束ない足取りで屋敷の中へと戻っていった。


────

『モルフォ蝶は腐敗したものに群がるんですってね』

 窓から中庭を見下ろしながら、そんなことをケーレスが一人呟く。

『死体ばっかり埋めてるアナタに引っ付いた死臭と、アナタ自身が漂わせてる死臭に惹き付けられてるとなると、なんとも哀れです』

 哀れみの一切を感じさせない声でそう言い終えてから空のティーカップを口元に運んだ。

『……ボイスレコーダーの直し方は一昨日も(・)覚えたでしょうに』








『むしろ、アナタが記憶を全く失ってなければ、今頃一人で列車くらいなら組み立てられるでしょうね』

×××の部屋

二章 4
 蹴り開けた扉の向こうは、思わず息を呑んでしまうほど静まり返っていた。
 埃っぽい重厚な空気。床に厚く積もった塵が、ひどく長い間誰もここに来なかったのだということを物語っている。外は星一つない深夜なはずだというのに、閉められたカーテンの隙間から見え隠れする真っ白な眩い光が家具の輪郭を鈍く浮かび上がらせていた。右を見れば、鈍い光を反射させる古びた金属のベッドフレームが。その上にはボロボロな状態のマットレスが吹きさらしの状態で雑に設置されていた。色褪せた枕が二つ、そのどちらも大きな鉤爪で引き裂かれた痕跡を残している。一脚欠けて今にも崩れそうなサイドテーブルには月と太陽の彫りが印象的な燭台が置かれており、蝋燭はもう一度火を灯すには頼りない長さだ。遠い昔誰かがここを使っていたのだろうか。
 窓を経由して部屋の左側を見る……またも割れた黒い卓上鏡が、周囲と比べ異様に清潔な鏡台の上にある。直ぐ側には斧かなにかが振り下ろされたのだと言わんばかりの破損が目立つクローゼットと空っぽの本棚があった。

(ここ、ボロボロだな……)

 ふと、赤髪の探索者はそう思う。だけど鏡台だけは、気持ち悪いくらいに綺麗だった。
 後ろ手で扉を閉めた瞬間部屋の中で燻っていた空気と埃がふわりと舞い、まるで泥水の中に沈んだような感覚と圧迫感が全身にまとわりついた。

「けほっ……私が喘息持ちじゃなくてよかった」

 パタパタと口元を手で仰ぎ、換気するべく再度ドアノブに手をかけて回そうとしたが───ガチャガチャと乾いた音だけが部屋に響き、ドアノブはびくともしなかった。

「あ~~……どうして…………もう」

ずるずると扉に寄りかかって、何度目かわからないため息をつく。力が抜けきったところで呆けながら部屋を再度見渡し、ふと窓に視点を合わせた。風が吹いているわけでもないのに不自然にはためくカーテンの隙間から差し込む目障りな白い光は、今は一筋の希望の光といったところ。

(……まあ、最悪、窓割れば出られるかもだ)

 窓の外がどこへ続いてるかなど知るわけないが、少なくともこの部屋に幽閉されたままよりはマシだろうと。利き手に収まった杖に期待を込めた眼差しを向けた後、探索者が部屋の中へと踏み入って鏡台の前で立ち止まる。真下の床や隣接する壁も新築同然だったもので、いよいよこの鏡台が秘める何らかの秘密に好奇心を掻き立てられた。卓上の鏡はケーレスが言っていたテセウスの鏡と大きさ以外は瓜二つ。自分の姿はさも当然のように映らないし、ひび割れから漏れ出る瘴気の冷たさが周囲の空気を凍りつかせている。けれど、この鏡からは本能が拒絶する、名状しがたい禍々しさを感じるのだ。
 だが、それでも……触れることすら冒涜的であろうほどに、白く、美しかった。周囲の薄汚さと目に見えるほど泥々に濃い瘴気の霧がその清潔さを更に際立たせている。尤も、鏡台『だけ』が綺麗なのではなく、その周囲、目測20cmの床や壁に天井が新築同然にピカピカなのがやはり奇妙ではあるのだが。やはりことネメシス神の骸に於いては「鏡」が特別なモノらしい。
 ある程度の観察は済んだので、調査に入ることにした。……怪しいものに易々と触れるほど探索者としての勘が鈍っているわけではない。まるで粗い鑢のような瘴気の呪いに着実に削られていっている理性ではあるが、危険を感知するための本能はまだ健在だ。引き出しを開けようと杖の石突きをハンドルに引っかけて開いてみると、乾いた音を立てて案外すんなりと開いた。中は……予想よりも整っていた。乱雑に詰め込まれた物はなく、むしろ誰かが丁寧に仕舞ったかのように、薄いファイル状の紙束が一冊、中央に鎮座している。
 その表紙には、薄く擦れたインクでこう記されていた。

「第一調査隊N-wATT調査ログ 瘴鏡」

 見覚えのないコードだ。だが、『瘴鏡』の字面が、目の前の鏡と無関係であるはずがないと告げている。探索者が慎重にそれを取り上げ、表紙を捲った。

『これは、鏡に『映ったもの』ではなく、『鏡に映らなかったもの』の記録である』

 文頭から、既に常軌を逸していた。続くページには、過去にこの鏡を調査した探索者たちの手記が断片的に綴られており、その内容は次第に支離滅裂になっていく。
 誰かが「触れずに調査できるはずだと思った」と記していた。
 別の誰かが「鏡の周囲が清潔なのは、穢れが鏡に吸い込まれているからだ」と記していた。
 また別の誰かが「持ち帰って本部で調査することはほぼ不可能だろう」と記していた。
 狂気に陥った誰かが「酸のような海が見える」と乱雑に記していた。
 続いた四人が書いたであろうミミズが這った跡のような文字は解読不能だった。
 その後には何枚、何十枚もの白紙が続いていた。そして、最後の一ページにはこう書かれていた。

『今これを読んでいるあなた、あるいは読もうとしていたあなたへ。どうか、ここから出られな○のならば鏡を調べてわかったこ■をこのログに、出られ××ならこれをハンター本■××-■○×へ■○×いっ××○』

 後半に行くにつれ、青黒いシミで読めなくなっていった。

「……神話兵器か。読みは……しょうきょう、だろうか?」

 数多の人々を帰らぬ者にした骸、その奥に鎮座する呪いを秘めた鏡に向き合う。やはり自分の姿は映らな───

「……私?」

 鏡には一寸変わらない自分が映っていた。目を凝らしてもう一度見てみる。……どこからどう見ても、自分だった。

二章 5
「でも、私は映らないはず」
『エントランスでも映ってましたよ、アナタ。まあ屋敷の異常性に曝される前だったからでしょうけど』
「誰だッ!?」

 右耳のすぐそばで囁かれた探索者が反射的に杖を両手で握って横に薙ぐ。だが今度は布を透かしたような感触さえ残らず、薙いだ場所にはなにもいなかった。

『アハハッ! ワタシはこっちですよ』

 すると今度は鏡の方角から同じ声。一際大きなため息を吐いて振り向けば、そこには『自分』がいた。自分の形を借りた、ケーレスが、いた。

『来ちゃいました、今からアナタの醜態を見るためにね』 
「……また貴方か?」
『イヤですか? そんなにワタシに会うのが』
「……そりゃあ……」
『そりゃあ? ……なあに、続きをどうぞ? そりゃあ、貴方なんてもう二度と見たくない、とか?』

 空間に染み込むような声だ。それに男女の区別もなければ、感情の輪郭も曖昧で、ただ探索者の耳元に、心底嬉しそうな嫌悪を落としていく。

「……貴方は、私ではない。だが、また私の姿を借りている。どうして?」
『アナタがそれを見たいから。見たがってるから。自分という輪郭を、ほら、ずーっとずっと見たかったんでしょ? まだアナタはそこにいるんだって確信、ほしくなかった?』

 鏡の中の『自分』が、まったく同じ仕草で首を傾ける。違うのは眼差しだけ。生気がないわけでも、敵意があるわけでもない。ただ、こちらの破滅を心待ちにしているような、濁りのない期待。

『そこの記録、読んだんでしょう? みぃんなアナタと同じだった。鏡に触れずに済むなら……と、願った。でもね、アナタたちは「見てしまった」の。自分が映るところを』
「……私は映らないはずだ」
『だからこそ、映った時点でおかしいと気づくべきだった。なのに、確認したでしょう? アナタ、自分の顔をちゃんと「見た」でしょう?』

 ぞわりと背筋に冷たい何かが這い上がる。何が言いたいんだ、と口答えしたかったが、その声は喉を通る寸前に悪寒に押し戻された。確かに、さっき探索者は鏡に映っていた。それは見間違いじゃない。

「……試してるのか?」
『試してる? 違いますよ。ただ、これで「確定」したんです。アナタ、選んじゃったんです。本当は、心の中ではずっと「鏡に映りたい」って思いながら覗いてたでしょう? それで、アナタは不幸───失礼、幸運にも映れた。映ってしまった』

 声が、耳の奥でひときわ響く。それから関心をそらすように身体を窓のある方へと向けた。

『ネタバラシしてあげましょう。この鏡は「ネメシスの秤鏡」、我らが主の名を冠した神話兵器。ここを探索する者達にとっての「本命」と言えるであろう素晴らしいモノ』

 鏡の中の『自分』が両手を広げる。

『触れたもの、鏡に映ったものにそれはそれはおぞましい量の瘴気を浸透させ、記憶を溶かして奪う。そうして奪った記憶は、先程話した瘴気の海に沈みます。もう取り戻せない形で、この雄大な鏡の中に保管されるんです』

 簡単なオモチャの構造を解説しているかのように浮わついた声色で鏡の中の『自分』が語る。

『鏡に映る条件はただひとつ。「映りたい」と思うこと。……大して強く思わなくっても良いのは、流石神の慈悲ですね? 祈るものの意思を汲み取ってくれるなんて、我らが主ネメシスは素晴らしい神だと思いませんか?』
「……そんなの、慈悲なんかじゃ」
『あっ、言い忘れてましたけど』

 探索者が話すことなど心底どうでもいいよと言わんばかりに言葉を遮った。

『同じくテセウスの鏡を通る度にその奪われた記憶の一部が頭の中に行ったり来たりして、ついでに自分の記憶もちょっぴりどっかに行っちゃうんですよね』
「…………さんじゅう、にかい……か」
『……ふふ、アナタ、今何を覚えてます?』

 途端、頭が熱に冒され、くらりと身体が鏡台の方へと崩れそうになる。そして、咄嗟に鏡に手をついた。自分自身の反射と嫌でも向き合う形になれば、その『自分』の愉悦と失望に満ちた表情と対面させられる。

『お疲れさま、我らが主直々に残した瘴気にここまで長い間耐えた9人目のお方』

 鏡面がぐにゃりと揺らぎ、『自分』が崩れ始める。

『確か……「前人の努力を受け継ぎ、過去の人々が撒いた種を他の人が育てられる」でしたっけ? それじゃあさっそく記録の続きを書いてね。アナタの気づいたこと、ワタシが教えてあげたことを。ここから出られないなら、誰かに託してって。次はアナタの番ですよ? ペンはそこにあるでしょう?』

 『自分』がそう告げた、その時だった。

「っあ゛っ……!?」

 何の前触れもなく、探索者の両目から、とろりと青黒い形態が流れ出す。水飴のように確かに頬を引きずりながら顎へ滴るその液体は、見るものの正気をじわじわと削るような色合いと気配を纏っている。思わず身じろぎ、鏡台から一歩離れる。

『あ、これもうダメですね』

 崩れた『自分』がひどく冷静にそう言った。

「いた、いたい……溶ける、みたいな……」
『出た出た、出ましたね。触ったのでね、アナタの中に染み付いていた瘴気が、鏡の奥の海に引き寄せられるかのように、形を持って漏れ出していく。相変わらず立派なものです』

 『自分』はいつしかケーレスがつけていた仮面を被っていた。仮面の奥の唾棄すべき喜びの表情がなんとも憎たらしく思えた。どんな表情か、想像するだけで心にわだかまりが積もる。視界の端で粘つく液体が鏡台に、床に、ぽたぽたと落ちていくのをただ見ていた。音が遠くなってきた。視界がぼやけてきた。四肢の感覚が鈍くなってきた。まるで水の中で、身動きを自由に取れないかのようで……

「……痛くな、い」

 感覚が、もう認識できない記憶と共に、抜けていく。
 指先の温度さえわからない。空気の寒さも重さも、自分の身体が今この空間のどこにあるのかさえ曖昧になってきた。
 どこか懐かしい声が、脳の奥で最後響いた気がした。息が浅くなる。指先が痺れる。視界の端が黒く染まっていく。なのに、心のどこかだけが、異様な静けさに包まれていた。

 ───母親の名前は?

 声がした。誰のものかわからない、いや、わからないことの方が当たり前だった。問いの意味は理解できた。それでも。

「……誰?」

 その言葉が喉から漏れた瞬間、自分の声が自分のものではない気がした。まるで人形が口を動かしているみたいだ。

 ───初めて手を引いて歩いた道のこと、覚えてる?

 細く、けれど深く刺すような問いが、脳に染みる。だが、何も浮かばない。ただ、どこかで何か大事なものが失われたことだけが、はっきりと痛覚のように残る。

 「わからない……」

 言葉にして、改めて気付かされる。

 ───ほら、これがその証拠。記録から、抜けたね。

 『自分』が愉快そうに笑う。仮面の奥のその口元が、まるで死神のように歪んでいる気がした。

 「誰?」

 探しても、輪郭はない。名前もない。声も、姿も、何一つ残っていない。だが、胸の奥が冷たくて仕方なかった。無くしたと知ることすら赦されない、喪失の痛みだけがそこにあった。

「……声が、もう」
『声……あぁ、大切な記憶だったはずでしょうに。どんな記憶を一緒に失くしたんでしょうかねぇ……悪夢を見ちゃって眠れなくなった夜一緒に寝てくれた記憶とか、転んだときに抱きかかえてくれた記憶とか、一緒にクッキーを焼いた記憶とか、そういうものでしょうか』

 くぐもって、遠く聞こえるケーレスの声だったが、やけに楽しげに跳ねていることは嫌なほどわかった。

『もっと溶けて、もっと鏡に浸されていく。アナタ自身が溶けて混じって垂れ流されて、記憶が吸い取られていって、最後には何が残るんでしょうか?』

 探索者は目を見開いたまま口を動かそうとして───何を言おうとしたのかすら、その場で忘れてしまった。

『やっぱり他の野蛮なヤツら(ケーレス)はこの美をわかっていない。人が人でなくなる瞬間は、一概に爪で全身ズタズタにされることでも、焼却炉の中で焼かれることでも、酸で溶かされるだけではないんだってわかってないんです』

 仮面の下で歪んだ笑みを浮かべる『自分』は、ただただ探索者を満足そうに鑑賞していた。散々青黒い液体を垂れ流し続けた探索者はついに鏡台にもたれかかり、それと同時に液体は止まった。

『傑作です』

そうして、まるで芸術鑑賞を終えたかのように、ケーレスが満足げに息を吐く。

『空っぽになったとまではいきませんが……人格形成の根元的な記憶が飛ばされたのです、もはやアナタは数分前のアナタではない』

 探索者がゆっくりと目を開ける。焦点の合わない視線が、虚空を泳いだ。

「……ケーレ、ス?」

 かすれた声は、確かに言葉になっていた。だがそれ以上の言葉が出てくるまでには、ずいぶんと時間がかかった。

「私は……あ、ああ、私にはまだ、やるべきことが」

 探索者が何とか立ち上がろうとした瞬間、仮面を被った『自分』が、ふと眉をひそめたような気配を纏った。

『その姿でなお立ち上がるとは、つくづく……滑稽で、愛おしい』

 言葉には皮肉が含まれていたが、どこか本当に憐れむような、あるいは祈るような響きすらあった。

『……哀れですねえ。もう母のことも、友の顔も、自分が愛した何かさえ思い出せない。けれどアナタは、なお立とうとする。空っぽで、壊れて、それでも───何かを背負って』

 探索者は目を伏せ、ぽつりとつぶやいた。

「……私には、まだ……」
『うーん、でもこれじゃあまるで寝起きの赤子のようですね。とはいえ、まだ喋れて、動けて、意識を保てる。存外頑丈ですね。今までの8人だってここまで長いこと鏡と接触した後は廃人になっていた』

 ふむふむと、いつしか鏡をするりと抜けていたケーレスが探索者の少し後ろで考え込むように顎に手を添える。

『これならアナタの組織が課した任務も、ワタシの方から指示さえ出せばきっとやってくれるでしょう。なにをすればいいかは知りませんけど、アナタの使命感だけは、ちゃんと奥底に残ってそうですし』

 探索者が体勢を立て直そうとしてよろめいた。鏡からいつの間にか抜けたケーレスが背後から肩を支える仕草を見せる。

『……もう「感じる」ことはあんまりなさそうだ。指の温度も、呪いの痛みも、嬉しさも、寂しさも』
「……何をすれば、良いんだったか……そうだ、調査、を……」
『ええ、ええ、そうですそうです、ここを、この鏡を、調べるんですよ。どうぞどうぞご自由に! 気が済むまで存分に触ってもらって構いません』

 ケーレスが骨のような細指で鏡を指す。

『まあ……ここを訪れた今までの皆様がアナタに託した悲願が叶うと良いですね』



生息する神獣+α

ケーレス

ネメシスの「復讐」の権能を代行する者達。森と洋館の均衡を守るためだけに存在しているのか、基本的に意志疎通は図れない。
神話においては女神であったり悪霊であったりするケーレスだが、ネメシス神の骸の内部では悪霊扱いらしい。

赤い墓守

ネメシス神の骸で命を落とした人々を洋館の裏に埋葬するだけのしていた者。
ケーレスが「復讐」し、墓守が彼らを弔う。それがネメシス神の骸における自然循環の一環だった。

ボイスレコーダーに残っていた音声データ
【荒く苦しげな息遣い】

掠れた声: 最後に少し、一緒に話してくれないか?静かな場所で死ぬのは、怖いからさ……

落ち着いた声: ……私で良ければ。

掠れた声: ありがとうな。……なぁ、急だけどさ、赤い墓守ってあんたのことなのか?

落ち着いた声: 赤い墓守……? 外で私はそう呼ばれているのか。

掠れた声: あぁ、きっとあんたのことさ。赤髪の誰かが、探索者の死体を館の裏に運んでるとこを見たとか……ゲホッ、スコップ片手に森を、歩いてる姿を見たって……ここを生きて出たヤツらが酒場で話すもんだから。

【しばしの沈黙】

落ち着いた声: ……知らなかった。私はここをしばらく出ていないから。

掠れた声: しばらく、か。あんたにとってのしばらくってどんくらいだよ?

落ち着いた声: ……わからない。

掠れた声: やっぱり変なヤツだな。知ってるか?あんたの噂話ってな、俺のじいちゃんのじいちゃんの……とにかく、百年以上も前から話されてんだよ。

落ち着いた声: ……長い歴史があるのだな。

掠れた声: なに、あんたがここで生きた時間よりは短いさ!

【風の音が強まり、1分13秒間音声認識不能に】

掠れた声: 夜明け、見たことあるか? この呪われた館の外の……ちゃんとした、朝を……

落ち着いた声: もうずいぶん長いこと見てないな、ここでは太陽が登らないから。

【ノイズが走る】

掠れた声: ……知ってる、だから聞いたんだよ。

落ち着いた声: そうだったのか。

【小さい笑い声、それに続く激しい咳】

掠れた声: あんたはここを出ないのか?

落ち着いた声: わからない。

掠れた声: おいおい、どういう意味だよ?

落ち着いた声: 出る意味はないが、出ない意味はある。私はこの骸の「一部」なんだ。人を埋める、それが私がこの骸で与えられた使命で……だから私はここに居続けなければならない。

掠れた声: ……あんたはそれでいいのか?

【しばしの沈黙】

掠れた声: ここから普通に出られたら、出るだろ? それとも……理由がないと絶対に出ないってのか?

落ち着いた声: ……きっと。

掠れた声: じゃあ、さ。ここを出る理由、ひとつ教えてやるよ。夜明けを、夜明けの太陽を、ケホッ……見るんだ。

落ち着いた声: 夜明け───か。

掠れた声: あぁ! 夜明けはな、あんたの黄金の瞳みたいに綺麗なんだぜ。

落ち着いた声: 私の目?

掠れた声: そうとも。変に聞こえるかもしれねえけどよ、あん時ケーレスに裂かれた腹も、あんたの目を見てると痛まないんだ。

落ち着いた声: ……それはもう感覚が残っていないだけだろう。

掠れた声: ははっ、そうかもしれないな。だけど……あんたの目が綺麗だってのは本当さ。

【しばしの沈黙、微かに衣擦れの音】

掠れた声: だって、さあ……こんな寂しいとこで、たった一人で、ずっと人埋めてくなんて……可哀想だ、あんたは……

【不明瞭な声】

落ち着いた声: ……ありがとう。

【しばしの沈黙、土が靴に擦れる音】

落ち着いた声: いい夢を見てくれ。

【しばしの沈黙、重たいものを引き摺る音、遠ざかっていく足音】

神話兵器

現在、いずれの神話兵器も骸の外へ持ち出された報告はない。

テセウスの鏡

ネメシス神の骸に現時点で16枚が確認されている神話兵器。鏡同士が繋がったワープゲートとなっており、入ると「ランダムで」他のテセウスの鏡の内一枚の元へ瘴気の海を辿って一瞬で移動できる。

ネメシスの秤鏡(しょうきょう)

触れたもの、あるいは鏡に映ったものの身体に想像を絶する濃度と量の瘴気を浸透させ、記憶を溶かして奪う。鏡が奪った記憶は瘴気の海に沈み、取り戻せなくなる。



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