今、ゴッサムにおいて最も注目されている存在である自警団、グラスホッパー。
リーダー、
犬養舜二の手腕によって一月と経たずに莫大な活動資金を得た彼らはゴッサムシティの至るところに拠点を構えていた。
その中には犬養のサーヴァントたる
戦極凌馬が陣地作成スキルによって即席の工房とした場所が複数存在している。
今、車窓を覆面パトカーのように覆い隠した一台のバンが停車した貸倉庫もそういった工房の一つだった。
「戻ったか、成果は?」
「はい、持ち帰った果実の数は三十。しかし犬養さんの言う浸食点らしきポイントは未だ発見できません」
長大な槍を構えた戦国時代の足軽のような出で立ちの鎧武者がバンの運転手と話し合うという一種奇怪な光景があった。
しかしグラスホッパー内においては既に慣れた者も少なくない。
アーマードライダー。数日前から実働部隊に支給され始めた不可思議なベルトによって変身する戦士。
この倉庫はアーマードライダーに変身できる団員たちによって警備されていた。その人数たるや外だけで十人、中には五人。
「それにしてもこの変な果実が俺達の武器になってるっていうのもおかしな話だな」
「でもそのおかげでこの街の犯罪者や怪物どもを蹴散らせるんだから万々歳じゃないですか」
「はは、違いない」
運転手が運んできた
ヘルヘイムの果実をベルトを着けていない団員たちが慎重に荷台に移し替えて倉庫内に運んでいく。
果実が人体に有害であることはグラスホッパーでは周知の事実であるので変身した団員が誰も誤って果実を食べないよう見張っている。
ヘルヘイムの果実には食欲を誘発する作用があるためだ。
ここに集められた果実はやがて本部に運び込まれ新たなロックシードとして加工される予定になっている。
「そういえば聞いたか?何でも近いうちに新型の装備が支給されるらしいぞ」
「えっ?このマツボックリだって最新の装備でしょう?」
「まあそうなんだがな。噂じゃ一部の団員にはもう新しいやつが配られてるらしい」
現在クラスCのマツボックリアームズで活動しているトルーパー部隊だが、聖杯戦争の激化を見据えて既により強力なロックシードの投入が図られていた。
具体的にはクラスAのアームズウェポンが比較的扱いやすいとされるロックシードだ。
切り込み担当の班にオレンジやバナナ、その援護用にブドウといった具合の配分が決定している他、対物破壊に向いたパインやマンゴーも少数配備される予定だ。
本来果実をロックシードに変換する際、どのロックシードに変化するかは完全にランダムで決まる。
しかし戦極凌馬の道具作成スキルにかかれば任意のロックシードに変換することができる
。
僅かな期間で多くの団員にマツボックリロックシードを支給できたのもこのスキルの恩恵に依るところが大きい。
いずれは犬養の親衛隊を除く全ての実働部隊の装備をクラスAのロックシードに更新する予定になっている。
このように果実を一時保管する倉庫はグラスホッパーの今後を占う重要な拠点の一つである。
―――――――――故に、そこを狙う者が現れることもまた必然である。
「頂くわよ、その果実」
倉庫内で昏倒したアーマードライダーを見て微笑を浮かべる魔女が一人。
「それで、これが奪取してきた果実と戦極ドライバーか」
「はい」
場所は変わってユグドラシルコーポレーション、ゴッサム支部。
仕事が一段落した
呉島貴虎はキャスターからの念話を受けて彼女の工房である地下区画に足を運び、そこで暫し唖然とした。
キャスターの作業スペースに積み上げられたヘルヘイムの果実の山はこれまで採取した量とは比較対象にすらなり得ないほどだった。
さらにはイニシャライズが施された戦極ドライバーの現物までが飛び出した。
これで驚くなという方が無理な話であろう。
貴虎が仕事をしている間、キャスターはグラスホッパー所有の果実保管用の倉庫を発見していた。
ヘルヘイムの果実を利用する戦略を採る者が他にも存在することは憂慮すべき事態だが好機でもあった。
キャスターの考える策に必要な数の果実をわざわざ相手から用意してくれたのだから。
故に彼女は動いた。無論、他人に見られないようアサシンすら見逃すまいというほど緻密に練った索敵網を巡らした上で、だ。
「独断で動いたことについてはお詫びいたします。
ですが隠蔽は万全を期しています。私達の存在と位置を特定されることは有り得ません」
「君が隠蔽工作を怠ったなどとは私も思っていない。だがそういう問題ではない。
キャスター、人間の行動の痕跡を消すというのは極めて困難な行為なんだ。
どれほど入念に証拠隠滅を図ったとしても些細な切っ掛けで事が露見するなど当然のように起こり得る。
君が戦略に長けた英霊なら敵に回しているのもまた英霊、超常的な能力で次の瞬間には我々の潜伏位置を特定していてもおかしくはない。
今回は成果に免じて不問にするが今後は独断での行動は慎んでくれ」
「………はい、申し訳ありませんでした、マスター」
実際、キャスターは十分過ぎるほどに隠蔽を行っていた。
竜牙兵に大量の果実を運ばせるに当たり極力人通りの少ない最短ルートを選び、さらにルート周辺に人避けの結界も構築した。
ウェインタワーの上にいたサーヴァントが障害であったがヘルヘイムの植物が繁殖している場所へ向かったためにより事を運びやすくなったのは幸運だった。
戦極凌馬が用意した簡易ラボのセキュリティも迅速かつ的確に無力化し白昼堂々にも関わらず極秘裏に果実の強奪を成功させた。
ユグドラシルタワーの搬入口にいる警備員は元より暗示下にあり、外からの業者の出入り時間も事前に貴虎から聞いていたためすんなりと果実を運び入れることができた。
少なくともキャスターは自らの仕事に絶対の自負を持っていた。
だが、貴虎はキャスターの魔術に信頼を置きながらも懸念があった。
沢芽市でヘルヘイムの森に関する問題を隠蔽する部隊の指揮官だった彼は知っている。
人の残した足跡というものは発見するに易く完全に消し去るには難い。
完璧に思える機密や情報統制がふとした切っ掛けで漏れるなどざらにあることだ。
なればこそ、そも動かないということこそが敵から発見されない最良の手段だと考えたのだ。
いくらキャスターでも全てのサーヴァントから行動の痕跡を隠しきることは難しいだろう……彼はそう判断していた。
「まあ過ぎたことを言っても仕方ない。問題はこの戦極ドライバーだ。
キャスター、グラスホッパーが果実を蒐集し槍を持ったアーマードライダーに変身していたというのは本当だな?」
「はい、マツボックリの錠前を用いていました」
「まさかこのゴッサムシティに黒影トルーパーが存在するとはな……。
だが戦極ドライバーの生産を行うならそれなりの規模の設備が必要なはずだ。どういうことだ?」
地下施設に持ち込んだノートPCを起動する傍ら思案に耽る。
戦極ドライバーの生産ラインの確保はユグドラシルが心血を注いで整備したものだ。
使われる設備や技術には民間の数世代先を行く軍事用のそれも含まれている。
いくら犬養舜二の手腕とカリスマが優れていようとも民間人に過ぎない彼らグラスホッパーが戦極ドライバーを量産するなど物理的に不可能だ。
しかし不可能と断じようと現実にドライバーは貴虎の目の前に確かに存在しているのだ。
「マスター、そのことですがこのドライバーは全体が魔力を帯びています。
恐らくはサーヴァントの能力によって生成されたものなのでしょう
サーヴァントならば魔力を元手にドライバーを用意できたとしても何の不思議もありません」
「何だと?だとすれば、戦極ドライバーを作れる者がサーヴァントにいるということか」
「そう考えて間違いないでしょう。マスター、戦極ドライバーの発明、生産に関して英霊になり得る者に心当たりはありませんか?」
心当たりがあるなどというレベルではない。
戦極ドライバーを完成させ、量産軌道に乗せ更に発展型のゲネシスドライバーを開発したあの男しかいない。
研究者として彼の前任者にあたる者もいるにはいたが、逸話という観点ではさほど大きな実績はないのでこの可能性は考慮する必要はないだろう。
「…戦極凌馬。さっき話した私の友人だった男だ。
だが凌馬はまだ生きている人間だぞ。サーヴァントとして召喚されるなど有り得るのか?
サーヴァントとは過去の英霊をクラスという側面に当てはめて召喚する存在なのだろう?」
「厳密に言えば英霊の座に時間軸は関係ありません。
未来において英霊に名を連ねる者ならばサーヴァントとして召喚することも不可能事ではないでしょう。
無論、これだけの情報では確定には至らないでしょうが警戒はしておくべきかと」
「……なるほど、わかった。とにかくグラスホッパーの監視網には今まで以上に注意するべきだな。
もしあちらに凌馬がいるなら変身した姿を見られただけで正体が私だと気づかれる」
キャスターの言う通り凌馬の姿を確認できたわけでもない。
戦極ドライバーがあるという一点だけで凌馬=サーヴァントと断じてしまっては思わぬところで足元を掬われるかもしれない。
だが、もし本当に奴がサーヴァントとして聖杯を狙っているなら決して見過ごすわけにはいかない。貴虎自身の手で決着を着ける必要がある。
貴虎がサーヴァントと戦うにはキャスターの補助が不可欠だが決着までを彼女に丸投げすることはできない。
決意を固めながらも作業の手は止めず、起動したノートPCに先ほどキャスターの水晶球の前に置いていったタブレット端末を接続した。
その様子を見ていたキャスターが怪訝そうに尋ねてきた。
「マスター、何をなさっているのですか?」
「君も見てみろ。ちょうど今データの転送が終わったところだ」
キャスターがPCの液晶画面を覗き込むとそこには彼女が使い魔を通して水晶に映していたゴッサムシティの様子がそのまま映し出されていた。
画面の中では人気のない裏路地で対峙する蝙蝠めいた衣装の男と怪物のようなフォルムの白い機械的なサーヴァントの姿があった。
「これは……!」
「見ての通り君が水晶に映した光景、それをタブレットを通して撮影した映像だ。
こうして撮影し記録・保存しておけば何時でも見直して確認できるというわけだ」
貴虎は聖杯戦争のためだけに最新モデルのノートPCやタブレット及びその周辺機器を購入していた。
一つ一つが高額のこれら端末を現金一括払いで購入、さらにマイクロSDカードを大容量のものを二十枚、最新の無線LAN子機なども同じく現金払い。
金持ちの道楽としか思えないほどの充実ぶりだが、貴虎はこの投資すらもマスターとして当然の責務と捉えていた。
「やはり映像越しでもマスターに与えられたステータス透視能力は有効だったか。
この白いサーヴァントのステータスは脅威だな。モニターを通してすら威圧感が伝わるようだ」
「いえ、貴方が感じる威圧感は錯覚の類ではありません。私も同じ干渉を受けました。
サーヴァントにすら通じるほど強力な精神干渉……であればそれはあの怪物が持つ宝具か強力なスキルに由来する能力でしょう」
「そうか……高いステータスに相手を萎縮させ力を削ぎ落とす能力。これは難敵だな」
暫しの会話の後、蝙蝠男の先制から戦闘は幕を開けた。
現場の音声こそ拾えないもののサーヴァントという超常存在が行う戦闘行為の迫力は筆舌に尽くし難いものがある。
しかし繰り広げられる英霊同士の戦闘はキャスターならまだしも貴虎の眼で捉えるのは些か困難だ。
いや、アーマードライダー斬月へ変身するか眼球を含めた肉体を強化されていれば可能だろうが今は何の強化もない素の状態だ。
キャスターは当然その事実に行き着いており、進言しようとした。
だがその前に貴虎は映像の再生を止め、巻き戻し今度はスロー状態で再生を開始した。
一度見た映像を自由に止め、巻き戻してさらに再生速度も操作できる。
現代では当たり前の技術もキャスターにしてみれば驚愕に値する奇跡であった。
「そのままでは目で追えない動きであろうとこうしてスローで再生すれば克明に動きを分析できる。
君が魔術で各地の情勢を観察し私がそれを記録する。上手くすれば一方的に敵の能力を丸裸にすることも不可能ではあるまい」
キャスターの監視網は徐々に広がっており、遠くない内にゴッサムシティ全土をカバーできるようになる見通しだ。
そうなれば街で起こる戦闘は全て貴虎とキャスターの知るところとなる。
さらにその様子を動画に保存しておけば何時でも好きな時に敵の能力を確認できるに等しい。
のみならず残しておいた記録は他のマスターと対外交渉を行う機会があった時にも利用できる。
映像を餌にこちらの要求を呑ませるなり有力な敵主従に目を向けさせるなり用途には困らない。
一方、スローで流される戦闘の様子は予想通りと言うべきか、白いサーヴァントが終始蝙蝠男を圧倒していた。
時折場所を変えながら戦っているがキャスターの使い魔は二人に気づかれることなく追尾に成功したようだ。
理不尽なまでのステータスの差に加え白亜の怪物が放つ威圧感に生で晒されているだろうに、それでも蝙蝠男は地形や道具を駆使しながら挑み続けた。
しかし、力の差はあまりにも歴然。白いサーヴァントの機械的な装甲は蝙蝠男のあらゆる攻撃の悉くを弾いてのけた。
威力を乗せたキックを頭部に受けて尚崩れないとはますますもって難敵だ。
蝙蝠男は爆発物を用いて近づいてくる白いサーヴァントの隙を作り、無謀にも格闘戦を挑んだ。
だがあれほど絶対的な堅牢さを誇っていた白いサーヴァントはただの拳で動きを止められた。
即座に停止、巻き戻して再度スロー再生しもう一度確認。どうやら拳から電流らしきものを流し込まれたようだ。
それが蝙蝠男自身の固有スキルか、それとも武器や道具に由来する効果かは測りかねる。
されど猛攻もここまで、白いサーヴァントが放った波動めいた衝撃波によって蝙蝠男は吹き飛ばされビルの外へと投げ出された。
「何だ…今の攻撃は?ロシュオがシドに放った攻撃にも似ているが……」
「魔力放出の能力のようですわね」
僅かながら蝙蝠男に傾きかけていた流れは完全に引き戻された。
白いサーヴァントが一気に距離を詰め勝負が決まる―――かに見えた。
「何……?」
右手を変化させた剣が蝙蝠男の首筋を僅かに傷つけた、その直後。
あろうことか破壊神にしか見えない怪物は目の前の獲物にとどめを刺さず、そして当然のように蝙蝠男の反撃を受けた。
だがそれすらも意に介さず、やがて怪物は文字通りその姿を消した。恐らく霊体化であろう。
「何故とどめを刺さなかった……?」
「その答えならすぐにでもわかるでしょう。仮令霊体化しようとも容易く私の眼から逃れられはしない」
キャスターがゴッサムに放った使い魔は当然一匹や二匹ではない。
一匹の視界から逃れても別の場所にいる使い魔によって捕捉できるという寸法だ。
加えてキャスター自身が持つ絶大な魔術探知能力にかかれば
ジャスティスを追跡するなどわけもない。
気配遮断スキルを持ち追跡を撒くことに長けたアサシンなら話は違うだろうが、そうでないのならたかが霊体になった程度でキャスターの目は欺けない。
やがて映像に再び姿を現した白亜の怪物、首を斬り落とされたインベス、一般人らしき少女と一人のアーマードライダーが映り込んだ。
「光実……!」
「では、あのアーマードライダーが…」
貴虎は答えないまま食い入るように映像を見つめていた。
光実が変身している龍玄は蛇に睨まれた蛙のように震えていた。
ただ強敵が現れた、というだけならこうはなるまい。原因は白いサーヴァントが放つ威圧感だ。
突如、均衡が破れた。白いサーヴァントの眼前に何の前触れもなく爆弾が出現し爆発したのだ。
何が起こったのか。繰り返し巻き戻し再生するが何度見ても爆弾は突然その場に現れた、という風にしか見えない。
「何だ……何が起こった!?」
「……それが私にもわからないのです。恐らくこの後に出てくるサーヴァントの仕業であろう、ということしか……」
やがて高所から降り立ったらしき幼いという印象を与える黒い長髪の少女がその場に現れた。
同時に白いサーヴァントが爆炎を振り払って二人のサーヴァントが対峙。黒髪の少女は龍玄を守るような動きをしている。
「あれが光実のサーヴァントか……酷いステータスだな」
キャスターの言う通り、爆弾はこの少女のサーヴァントの何らかの能力によって仕掛けられたのだろう。
さらに少女は虚空から弓を生み出し白いサーヴァント目掛けて矢を連射し始めた。
それらは白いサーヴァントが形成した剣によって弾かれるが、逆に言えば弾く必要があるだけの威力はある、ということなのか?
惨憺たるステータスでありながら明らかに蝙蝠男を上回る火力を叩き出す弓矢の武装。確実にクラスはアーチャーであろう。
ともかくアーチャーは確かに白いサーヴァントの足を止めることに成功していた。
好機と見たかアーチャーは連射を止めた。新世代ライダーが放つ必殺技のように強い魔力を込めた技を撃とうとしているのだろう。
爆発。としか思えない踏み込みとともに白いサーヴァントが距離を詰めアーチャーを体当たりで吹き飛ばした。
アーチャーは白いサーヴァントを引きつけ必殺の一矢を撃ち込もうとしたのだろうが、それこそ白いサーヴァントの誘いだったということか。
アーチャーの危機を察した龍玄がブドウ龍砲から必殺技を放つも当然傷の一つさえつかない。
注意を引きつける効果はあったが果たしてこの状況で何の意味があるのか。
ゆっくりと白いサーヴァントが龍玄―――光実へと歩み寄る。
「光実っ……!」
アーチャーが龍玄を守るように立ちはだかるもその姿はあまりに頼りない。
このまま目の前で光実が殺されるのを見ているしかないのか!?
その時、白いサーヴァントの背後で震えていた少女が何かを叫んだ。正確にはそう見えた。
少女が白いサーヴァントへと駆け寄っていく。まさか彼女がマスターだというのか。
奇妙な硬直状態が続いた後、先の蝙蝠男が上空から降り立ち割り込んだ。
黒の乱入者は明らかに白いサーヴァント主従を標的にしている。
マスターが危険に晒された状態で二体のサーヴァントを相手取ることを不利と感じたか、さしもの怪物もマスターを連れて離脱することを選んだ。
無謀にも追撃を仕掛けようとした蝙蝠男へ龍玄が銃撃を見舞い注意を引いた。
「光実、お前は……」
あの怪物のマスターである少女を守ろうとしたのか?と言いかけて思い止まった。
それは弟を信じたい兄の欲目でしか有り得ない、と言い聞かせた。
もし現場の音声を拾うことができていたなら実際に光実が
前川みくを助けようとしていたことがわかっただろう。
しかしその仮定には何の意味もない。これは聖杯戦争、光実が何を思い行動していようとも最後は殺し合うしかないのだから。
「マスター、その映像にある白亜のサーヴァントについてお話があります」
不意にキャスターが神妙な面持ちで話しかけた。
何か重要な事を話そうとしていると感じ取った貴虎は一度再生を止め話を聞くことにした。
「何だ?」
「ご覧になった通り、彼のサーヴァントの力は圧倒的です。
今の映像にあった戦闘でその能力、宝具の全てを曝け出したなどということもないでしょう」
「そんなことは見ればわかる、だからこそ対策を講じる必要があるのだろう?」
キャスターは静かに首を横に振った。
そして微かな笑みを浮かべ驚くべきことを言い放った。
「あのサーヴァントを私達の支配下に置く手段がある、と言ったらどうなさいますか?」
「何…だと?同盟を組む、というのとは違うのか?」
「いいえ、そのような不確実な手段を取る必要などありません。
マスターとサーヴァントの契約は一種の魔術契約によって成り立っている。
私ならその契約に介入しマスター権と令呪を奪取することができます」
貴虎の目が驚愕に見開かれる。キャスターは聖杯戦争の定石を覆す、と言っているのだ。
サーヴァントは一人のマスターにつき一騎。これは聖杯戦争に参加する者なら誰もが弁えていることだ。
もしそれが覆され、一人のマスターが二騎以上のサーヴァントを従えることができたなら取り得る戦略、戦術は無限大に広がることになる。
しかし、しかしだ。果たしてそう上手くいくものか、と考え直す。
目先の欲に駆られて大局を見失うようなことはあってはならない。
「確かに魅力的な提案ではある、が、問題点もまた多いことは君もわかっているはずだ。
まずはそれを一つ一つ洗い出して潰していく。良いな?」
「はい」
貴虎はPCの文章作成用のソフトウェアを起動した。
重要性の高い作戦は文字に起こして確認できるようにするべきと判断したからだ。
「まずどうやってサーヴァント契約をこちらに移すかだが、まあこれは明らかだな」
「ええ、あのサーヴァントと契約するには力不足な一般人の少女であるマスターを狙うのが確実でしょう。
つまり二人を分断する状況を作り出せば事を成すのは容易い」
「とすれば契約の変更を行う都合上マスターを君が、サーヴァントの足止めを私が担当することになるな。
それ自体に異論はない……が、あの威圧感を放ち力を削ぐ異能力をどうにかしなければそもそも立ち向かうことすらできないぞ」
白いサーヴァントが放つ威圧感は映像で様子を見ていただけの貴虎とキャスターでさえ明瞭に感じられるほどの強烈さだ。
直接相対したとなれば映像越しの比ではないほどのプレッシャーを浴びることになるのは明白。
そのまま挑んだのでは玉砕以外の道は無い。
「それについては私に策があります。
まずあのサーヴァントが放つ威圧感の正体ですが、あれほど機械的な出で立ちならば魔術的な能力である可能性は低いでしょう。
となると考えられるのは魔術に依らず直接相手の精神、深層意識に干渉する能力、という線です。
であれば、対魔術ではなく対精神干渉に特化した礼装を準備すれば無効化ないし大幅な効力削減が可能です」
「なるほどな。相手の能力の正体と出所がわかれば対策は取れるというわけか」
キャスターは戦闘力に劣り騎士クラスが持つ対魔力に苦しめられやすいがその分陣地、道具作成スキルによって戦略的優位を築きやすい。
サーヴァントの力量にもよるが敵の真名や能力などが事前にわかっていれば対抗できる武装、礼装を準備できる。
言うなれば後出しジャンケンが許されるクラスということだ。
「礼装については他の作業と並行しても急げば今夜には準備できるでしょう」
「そうか。では次に相手の具体的な戦闘力、攻撃手段、正体についても詰めておきたい。
私が透視した範囲ではBランクの対魔力、Dランクの単独行動、それと君が言った通りBランクの魔力放出のスキルが確認できた」
「剣を使っていたようでしたが格の低さから見てセイバークラスとは考えにくいでしょう。
マスターが危険に晒された際騎乗宝具を出さなかった点からライダーも排除できます。
ランサーなら槍でなく剣を使うのは不自然、となればクラスは消去法でアーチャーでしょう」
音声を拾えずとも明らかに理性ある行動を取っていた以上バーサーカーでは有り得ない。
アサシンやキャスターには似つかわしくないし、もしこれらのクラスなら高位の対魔力など付与されるはずがない。
「となると奴は何らかの高火力の遠距離武装を持っていると想定すべきだな」
「ええ、ですがマスターの少女は魔力も無い脆弱な存在。十分な魔力提供など望むべくもない。
つまり強力な武装ないし宝具を持っていたとしても使えないのです。
現に二体のサーヴァントに囲まれた時も圧倒的な力を持ちながら真っ先に逃走という手段を取った。
これは魔力供給と内蔵魔力に不安を抱えているという証左でしょう」
「……確かに、な。今にして思えば魔力放出さえ出し渋っているように見えた。
それにああいう火力に優れる存在相手に時間を稼ぐには私のメロンアームズはうってつけだ」
メロンアームズの専用武器であるメロンディフェンダーは単なる実体盾ではない。
エネルギー、つまり光学兵器に反応する高性能センサーや電磁シールドを形成するユニットをも搭載している。
無論それだけであの怪物的サーヴァントに対抗できるとは思わないがキャスターの強化魔術による機能の底上げが加われば話は別だ。
ユグドラシルの最先端科学技術と神代の魔術の融合でサーヴァントに対抗するのが貴虎の基本方針である。
「まだある程度煮詰める余地はあるだろうが大まかな戦術、対策は固まったか。
だがまだ問題はある。策が成功して奴をこちらに引き込めたとして、あれを養えるほどの魔力はどう工面する?
それに奴をこの工房に入れることによってその存在を他の陣営に気取られては意味がないぞ」
「順番にお答えします。まず魔力については既にAランクのサーヴァントを十全に活動させることができるだけの量をこの工房に貯蔵しています。
さらに果実の解析が完了し魔力を抽出する術式が確立した暁には、次の段階として奪取した大量の果実を用いた魔力炉を作成する予定です」
「魔力炉だと?つまり、何だ……原子炉で発電を行うようなものか?」
「そう認識していただいて結構です。この方法ならば魂喰いを強化せずとも千人単位のマスターを持つに等しい魔力供給を得られる試算ですわ」
あまりに桁の違う数字に思わずギョッとした表情を見せる貴虎。
永い年月をかけてあらゆる星、あらゆる文明に滅びと進化を促してきたヘルヘイム植物はそれだけで強力な神秘を帯びている。
ヘルヘイムの果実が蓄える魔力量は三つも集めれば現代の成熟した魔術師一人分に近い量に達する。
適正かつ効率的に魔力を回収する術式を構築すればキャスター以外に三体のサーヴァントを従え全力戦闘させても問題なくなる見通しだ。
また稼働を開始した後でも採取した果実を投入できるよう設計には余裕を持たせておく予定だ。
とはいえキャスターと言えども今すぐ莫大な魔力確保を実現することはできない。
果実の解析、最適な魔力抽出方法の確立にはまだいくらかの試行・実験が必要だ。
「そ、そうか。無駄に血を流さず魔力を確保できるのなら喜ばしいことだな」
「ええ、そもそも魔力を得るためだけに生命を消費するなど非効率にも程がある三流魔術師の所業。
少なくとも魔術師の英霊に祀られる者のするべきことではありません」
現代の困窮した魔術師たちが聞けば憤死しかねないほどの発言であったがそれを咎める者はここにいない。
メディアにとって魔力、マナとは生命を奪ってまで手に入れるものではない、という認識だった。
「それからこの陣地に施した隠蔽の結界は万全です。
他にサーヴァントを招き入れたとしてもここに留めておく限り外に気配が漏れる心配はありません。
注意するべきはむしろ陣地に入れる時と出す時でしょう」
「ならば良い。残る問題は作戦を実行する際の他陣営の目だな。
サーヴァントをこちらに引き入れるところを目撃されては何の意味もないどころかマイナスでしかない」
「何故ですか?あれほどの規模のサーヴァントを奪えたならばほとんどの敵は恐れるに足りないでしょう」
首を傾げるキャスターに貴虎は強く首を横に振って否定する。
この懸念は貴虎自身の経験則、そして歴史を根拠にするものだ。
「戦争とはつまり数だ。聖杯戦争の主役がサーヴァントであることは言うまでもないだろう。
そのサーヴァントの数を増やせるのは一見して完璧な必勝法に見えるが……それを見た第三者がどうするか、というところまで考える必要がある。
仮令サーヴァントが一騎手に入ったとしても、他の陣営が四組、五組と大同盟を組んで攻め入られればどうにもならない。
この陣地にしてもそうだ。堅城や強固な要塞ほど時に容易く陥落することがあるのは歴史が証明している」
「確かに理屈の上ではそうかもしれませんが……誰もが敵という状況下でそのような大規模な同盟が成立するものでしょうか?」
「少なくとも私はそれを実現した者たちによって一度殺されかけた。
襲撃は誰にも事が露見しない状況にならない限りは見送る。これは絶対条件だ、良いな」
現代戦では情報を制する者が戦を制する。
貴虎はジャスティス鹵獲を秘密裏に遂行することが何よりも肝要と確信していた。
知られれば危機的状況を招くが、逆に言えば誰にも見られず作戦が成功すれば巨大な情報アドバンテージを得られるとも言えるのだ。
「……わかりました。それからマスター、一つ許可を頂きたいことがあるのですが」
「何だ?言ってみろ」
「知っての通りマスターはサーヴァントを失い令呪も無くなれば脱落、死を迎えます。
私達が白亜のサーヴァントの奪取に成功した場合マスターの少女は当然脱落となります。
ですが、一般人同然とはいえサーヴァントに魔力を捧げられるのならこれを利用しない手はありません。
レイラインに細工を施し疑似令呪と接続すれば聖杯に未だマスターであると誤認させ白亜のサーヴァントに魔力を供給させ続けることができるかもしれません」
「何だと!?それに、疑似令呪とは一体何だ?」
貴虎が今にも掴みかからんばかりの勢いで食いついた。
当然だ。こうも立て続けに聖杯戦争の根本を覆す提案をされれば混乱の一つもする。
「疑似令呪とは端的に言って私がマスターの令呪を解析して作った令呪の複製品です。
さすがに本物の代用品として使える段階には達していませんが魔術に素養のない一般人に埋め込めば任意の指令を確実に実行させることができます。
これを一般人の元マスターに宿し、サーヴァントとの魔力供給のラインと接続すれば生かしたまま魔力を提供する人形とできるかもしれません。
無論失敗に終わる可能性も低くはありませんが、最悪でも次につながるデータは確実に得られます」
貴虎の顔が綻んでいくのがありありとわかった。
彼は聖杯戦争に参加するマスターの命は諦めるしかないと諦念していた。
しかしもしキャスターの言う策が結実するなら少なくとも何人かのマスターの命は奪わずとも良くなる。
引いては光実を殺す必要がなくなる、というこの上ない希望にも繋がってくる。
「そうか、そうか……!わかった、その時が来たら是非実行してくれ。
徒労に終わる可能性も否めないが試す価値は十分ある。頼んだぞ」
「はい」
貴虎はキャスターがフードの下でほくそ笑んでいることに気づかなかった。
この提案にキャスターの邪な趣味が隠されていることに。
(ふふふ、あの娘は最上とはいかないまでも中々良い素材だもの。
着飾らせてやればさぞ見栄えするでしょうね。ただでさえ仕事が多いのだから少しぐらい息抜きをさせてもらわないとね)
キャスターは可愛らしい外見の少女や可愛い服装を好む。
自分では似合わないと思っているためしないがそういった少女をコーディネートしたいと思っていた。
キャスターが今回目をつけた少女、前川みくは直球ストライクとまではいかないまでもそれなり以上に良い「素材」であった。
故にキャスターは疑似令呪を用いた実験を可能な限り成功させたいと思っていた。
そこに人間らしい情はないが、女としての趣味と欲望は確かにあった。
【MIDTOWN COLUMBIA PT/1日目 午前】
【呉島貴虎@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]黒のスーツ、魔力避けのアミュレット
[道具]黒いコート、戦極ドライバー、各種ロックシード
[所持金]現金十五万程、クレジットカード(ゴールド)
[思考・状況]
基本:慎重に立ち回りながら聖杯戦争を勝ち抜く
0 光実を殺さずに済むのなら……
1 状況を見て白亜のサーヴァント主従(前川みくとジャスティス)を襲撃するか決める
2 グラスホッパーと武装勢力(
志々雄真実の一派)の争いを静観し、マスターやサーヴァントの情報を手に入れる
3 自分がマスターであることとキャスターがユグドラシルに潜んでいることを極力知られないようにする。特にグラスホッパーの監視には注意を払う。
4 準備が十分に整ったら打って出る。その際は斬月に変身して正体を隠す。
5 できるだけ市民(NPC)に無用な犠牲を出したくはないが……
6 凌馬がサーヴァントとして存在するならば決着を着けなければならない。
7 今後自宅に帰るべきか、帰らないべきか……
[備考]
※所持ロックシードの内訳は以下の通りです
メロン、ヒマワリ×4、マツボックリ
※キャスター(メディア)の魔術によって肉体及び斬月の機能を強化できます。
強化魔術が働いている間はサーヴァントにダメージを与えることができます
※ユグドラシル・コーポレーションの情報網から聖杯戦争に関係する情報を集めています
※グラスホッパーの内部にマスター、サーヴァントがいると考えています。
またそのサーヴァントは戦極凌馬ではないかと考えていますが確証までは掴んでいません
※武装勢力の頭領(志々雄真実)がマスターであることを把握しました
※
呉島光実、前川みくがマスターであることを把握しました
※ヘルヘイムの森及びインベスの存在を認知しています。これについては聖杯が意図的にヘルヘイムを再現したのではないかと考察しています
※魔力避けのアミュレットはDランクの対魔力に相当する効果を得られます
※現在前川みく、アーチャー(ジャスティス)を襲撃する計画を練っています。
ただし何らかの理由で秘密裏に実行することが困難だと判断した場合襲撃は見送られます
※ライダー(
バットマン)、アーチャー(
暁美ほむら)、アーチャー(ジャスティス)のステータスと一部スキルを確認しました
【キャスター(メディア)@Fate/stay night】
[状態]健康
[装備]ローブ
[道具]ヘルヘイムの果実(大量)、杖、
ルールブレイカー、量産型戦極ドライバー
[所持金]貴虎に依存
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れ、受肉を果たし故郷に帰る
1 今は貴虎の采配に従う
2 白亜のサーヴァント主従を鹵獲するための準備を整えつつ監視を怠らないようにする
3 陣地の構築や監視網の形成、ヘルヘイムの果実の解析、魔力炉の製作を進める
4 状況次第では貴虎を見限る………?
5 仕事が多いので潤いが欲しい
[備考]
※ユグドラシル・コーポレーションの地下区画に陣地を形成しています。
今はまだ工房の段階ですが時間経過で神殿にランクアップします 。
また工房には多量の魔力がプールされています
※陣地の存在を隠蔽する魔術が何重にも敷かれています。
よほど感知能力に優れたサーヴァントでない限り発見は困難でしょう
※現在ヘルヘイムの果実の解析を行っています。
解析に成功すれば果実が内包する魔力を無害な形で直接抽出できるようになります。
またさらに次の段階としてヘルヘイムの果実を材料とした魔力炉の製作を行う予定です。
※ユグドラシル・コーポレーションの支社長をはじめとした役員、及び地下区画に出入りする可能性のある社員、職員に暗示をかけ支配下に置いています
※使い魔による監視網を構築中です。
現在はユグドラシル・コーポレーションを中心としたゴッサムシティ全体の半分程度ですが時間経過で監視網は広がります
※グラスホッパー、武装勢力(志々雄真実の一派)、呉島光実、前川みく以外のマスター、サーヴァントに関わる情報を持っているかは後の書き手さんにお任せします
※魔力避けのアミュレットを貴虎に渡しました。
時間をかければより高品質な魔術礼装を作成できます。
※アーチャー(ジャスティス)対策のために精神防御に特化した魔術礼装の製作に着手しました。夜間の時間帯には完成する予定です。
※グラスホッパー所有のヘルヘイムの果実を保管する倉庫を襲撃し、大量のヘルヘイムの果実と戦極ドライバー一基を奪取しました。
※ウェインタワーの上にいたサーヴァント(
ジェダ・ドーマ)を視認しました。
「これはまた随分綺麗にやられたものだねえ」
ヘルヘイムの果実を保管、集積していた倉庫が何者かに襲撃された。
その凶報はすぐにグラスホッパー会長、犬養舜二の下に届いた。
サーヴァントが関わっていると直感した彼はキャスター、戦極凌馬を連れて現場の検証へと赴いた。
倉庫内部を検分したキャスターの第一声がこれであった。
「ただ内部を荒らさず果実を盗み出しただけじゃない。
仕掛けておいた監視カメラ、防犯センサーの類も見事に破壊されている。
というより、電源ケーブルが綺麗に切断されている」
「どうやら警備に当たっていた団員たちは誰も何も覚えていないらしいんだ。
今不審人物の目撃情報も募っているけど今のところ収穫はないね」
「だろうね。犯人がキャスターのサーヴァントならそんな手抜かりは期待するだけ無駄だよ」
ヘルヘイムの果実はグラスホッパーの今後の戦力に関わる重大なファクターの一つだ。
それが大量に盗まれたにも関わらず彼らは至って平常そのものであった。
「君が予想した通りだったみたいだね、キャスター」
「出来れば的中してほしくないタイプの予想だったけどね。
全く、聖杯戦争じゃ悪い予感ほどよく当たるジンクスでもあるんじゃないかと思ってしまうよ」
「けれど、これでハッキリした。僕たちにとって最悪の相性に当たる正統派の魔術師のサーヴァントが存在している」
「ああ、今の段階でそれがわかって良かったよ。
倉庫一つ分の果実を餌に使った甲斐があったというものさ」
そもそも今回生じた損害は彼らにとって予め予期された、想定内のことでしかない。
サーヴァントとなった戦極凌馬はヘルヘイムの果実が濃密な魔力を帯びていることに気づいていた。
であれば、自分たち以外に果実を利用した戦略を企てる者が出てくることは必定だ。
中でも最も可能性が高いのが自身と異なり、魔術を操る正道のキャスターだ。
同時にサーヴァント、戦極凌馬にとって最も相性が悪いタイプの敵である。
キャスターとしての戦極はドライバーやロックシードの量産を得意としている。
グラスホッパーの人海戦術と組み合わせることで対魔力を持つ三大騎士ですらアーマードライダーの物量で揉み潰すことが可能となる。
キャスターはセイバーら三騎士に弱い……そんな聖杯戦争の定理を覆す常識外れの英霊であるが代わりに絶大な弱点を抱えていた。
それは現代出身の科学者であるが故に魔術を知らず、魔術に抗する術を一切持たないということだ。
各クラス一騎ずつの尋常な聖杯戦争なら致命的と呼べるほどの弱点にはならなかった。
だがこのゴッサムには複数のキャスタークラスのサーヴァントが存在する。
その事実は戦極にとって何よりも恐るべき脅威であった。
故に、戦極と犬養は逆転の発想を実行に移した。
敵キャスターが果実を狙う可能性が高いのなら、奪わせてしまえばいい。
ゴッサムの複数個所に設置された果実の一時保管用の倉庫はキャスターを炙り出すリトマス試験紙の役割を果たす。
自分たちがキャスターに直接対抗する術を持たずとも、そういう存在がいると確信できれば手を打つことができる。
彼らは何よりも「正統派のキャスターがゴッサムシティにいる」という情報をこそ欲していた。
「果実に取り付けておいた発信機は?」
備えとして用意しておいた発信機はしかし戦極の手にあった。
「この通り、返却されてしまったよ。
どうやらこのキャスターは現代の機械についての知識も身に着けているらしいね。
マスターとの関係が上手くいっているのか、魔術で操り人形にしているのかまでは知らないが」
「白昼堂々の犯行なのにここまで足跡を消せるなんて……」
「ああ、間違いなく強敵だね。最悪神代クラスの魔術師ということもあるかもしれない」
どんな僅かな痕跡も見逃さないよう慎重に現場検証を続けていく。
直接正体を探り当てることはできずとも、考えることをやめてしまうことはできない。
「だとすると人海戦術で工房を探そうとしても無駄、かな」
「だろうね。一般人のガサ入れなんてキャスターじゃなくても魔術師なら簡単に追い払える。
というか工房の場所がわかったとしても私達じゃどうしようもないよ。
アーマードライダーは物理的な攻撃には強いが魔術にはどうしようもなく弱い」
何とも絶望的な話であるが、これは最初から覚悟していたことだ。
だが、わかっているのなら次の方針もまた明確だ。
「今必要なのは……他のマスターとの対外交渉」
「そう。探知能力に長け、対魔力に優れるサーヴァントを従えたマスターと同盟を組むべきだ。
アサシンや魔術の見識が深いサーヴァントという手もあるがこっちにその力を向けられるリスクを考えると次善にするべきだろう」
グラスホッパーは大規模な組織であり、よく目立つ。
逆に言えばそれだけ敵も多く、最近勢力を拡大しているというマフィアなどはその最たるものだ。
戦極の能力を以ってしても全ての敵に対処しきることはできない。
故に必要なのは自分たちにない能力を持ったサーヴァントを擁する陣営だ。
戦極ドライバーに団員たちによる諜報網……交渉材料に使える要素には事欠かない。
逸早く望む能力を持つサーヴァントを従えたマスターと組み、早急にキャスターを叩きたい。
「…………」
「どうしたんだい、マスター?何か気になることでも?」
顎に手を当て思索に耽る犬養に問いを投げる。
すると彼は珍しく歯切れが悪そうに口を開いた。
「うん、何というか……このキャスターの手口は女性的に思えたんだ」
「ほう?その心は?」
「必要もなく倉庫や物を壊して回る真似はせず、警備していた団員も魔術で昏倒させるだけで済ませた。
それにカメラやセンサーへの対処もひどく繊細……そう、全体的に手口がとても繊細なんだ。
確固とした根拠はないのだけど男性の犯行とは思えなかったんだ」
語る口調に普段の自信はない。彼自身がこの主張に確信を持っていないからだ。
しかし意外にも戦極は非論理的な犬養の考察を無下に否定しなかった。
「いや、案外その発想は重要かもしれないよ。
どんな科学も発明もインスピレーションなくしては始まらない。私はそういう直感を否定しない。
確かに根拠はないが、頭の隅には入れておいて損はないんじゃないかな?」
と、その時犬養のスマートフォンが鳴った。
話を中断して応対するマスターの様子を戦極はじっと眺めていた。
「……わかった。例の部隊に向ってもらおう。それじゃあ」
「どうしたんだい?」
「UPTOWNの中心部に特別強力なインベスが出たらしい。
だから訓練中の彼らに出動してもらうことにしたよ」
「ああ、試運転には丁度良いかもしれないね。
彼らがどれほどあのアームズの性能を引き出せるかデータが欲しかったところさ」
「確か、小玉スイカ…もといウォーターメロンだったかな?」
「うん、昔スイカアームズのプロトタイプとして作ったやつの改良型だよ。
……まあ、個人的にあれを改良とは認めなくないけどね。あんなのただの量産向けにデチューンしたものに過ぎないよ」
今後予想される対サーヴァント戦に際して正規品のクラスAのロックシードだけではまだ不足が生じる懸念があった。
さりとて機密の問題を考慮すれば全部隊にゲネシスドライバーやゲネシスコアを支給するわけにもいかず、スイカアームズも使う局面を選びすぎる。
そこで用意したのが数々のロックシードを開発したノウハウを駆使して出力を落とす代わりに装着者への負荷を軽減し安定性を増したウォーターメロンアームズだ。
元々は呉島貴虎ぐらいしかまともに動かせなかったじゃじゃ馬だがこの改良によりグラスホッパー内の一部のエース級なら扱える程度になった。
ウォーターメロンはデチューンされて尚スイカアームズに準じる出力と装甲を併せ持つ。
何よりの目玉はガトリングシールド型のアームズウェポン、ウォーターメロンガトリングだ。
オリジナルより一発あたりの火力は落ちたがその分反動は大幅に軽減され、必殺技も発動可能な水準になった。
「かつて精強を誇った武田騎馬軍団が長篠で織田の鉄砲隊に敗れ去ったように、銃や砲は戦争に革命を齎した。
火力や弾幕というものはそれだけで大きな力だ。上手く運用できればサーヴァントも抑え込めるだろう」
「まあ確かにそういう期待を込めて用意したのは事実だけどね。
ただ定石をひっくり返すイレギュラーなサーヴァントも往々にして存在するから気が抜けないのさ」
【MID TOWN COLGATE/1日目 午前】
【キャスター(戦極凌馬)@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[装備]ゲネシスドライバー
[道具]レモンエナジーアームズ
[所持金]マスターの犬養に依存
[思考・状況]
基本:聖杯が欲しい
0 キャスターには早々に退場してもらおう
1 ゲネシスドライバーの制作に取りかかってみるか
2 マスターには死んで貰っては困る。専用にチューンアップしたゲネシスドライバーを装備して貰う
[備考]
※キルプロセスの開発を終えています。召喚された時以降に制作した戦極ドライバーにもキルプロセスは仕込んでいますが、生前開発したものについては仕込まれていません
※犬養専用のゲネシスドライバーを制作しようとしています。性能はもしかしたら、斬月・真よりも上になるかもしれません
※ゴッサムシティに生前関わり合いの深かった人物四人(呉島兄弟、シド、湊)がいる事を認識しております。誰が聖杯戦争参加者なのかは解っていません
※召喚されて以降に開発した戦極・ゲネシスドライバー双方は、イニシャライズ機能がついており、転用が不可能になっています。もしかしたらキャスタークラスなら、逆に解析して転用が出来るようになるかも知れません
※主だったグラスホッパー団員達には既に戦極ドライバーが行き渡っています
※トノサマンモチーフのアーマードライダーが作れなくて残念そうです
※ウォーターメロンロックシード(改良型)を製作しました
【犬養舜二@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]スーツ
[道具]
[所持金]大量に有していると思われる
[思考・状況]
基本:聖杯戦争と言う試練を乗り越える
1 解っていたが、凌馬は油断できない
2 あと、趣味が悪いのかも知れない
3 魔術を操るキャスターに対抗できるマスターと同盟を組みたい
[備考]
※凌馬からゲネシスドライバーを制作して貰う予定です。これについては、異論はないです
※原作に登場したエナジーロックシードから選ばれるかもしれません。何が選ばれるかは、後続の書き手様に一任します
※もしかしたら、自分達が聖杯戦争参加者であると睨まれているのが解っているかもしれません
※凌馬が提起した、凌馬と生前かかわりのあった四人を警戒する予定です
※キルプロセスについての知識を得ました
※倉庫を襲ったキャスター(メディア)の手口を女性的だと考えています
※現在グラスホッパーの主力ロックシードはマツボックリです。
時間経過に従ってオレンジ、バナナ、ブドウ等といったクラスAのロックシードに更新する予定です
またパインやマンゴー、ウォーターメロン等のロックシードも少数配備する予定です
最終更新:2016年04月07日 18:29