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 取り立てて語ることの無い仕事だった。
 前もって受け取っていた情報に基づいて廃ビルの一室にて体制を整え、数百メートル先のホテルの入口から外へと踏み出したターゲットの眉間を撃ち抜いて、終わり。
 突然の凶行に慄いた人々が慌ただしく駆け寄るか逃げ回るのを尻目に、ジョンガリは手早く退却の準備を進める。
 聖杯戦争のマスターの資格と共に、ゴッサムの住人としての役割も課せられたジョンガリの今日の仕事はこうして容易く終わる。
 今回の依頼を受けたことについて、現状維持を理由とする説明は可能である。
 単純に最低限の金は必要なため。悪事こそ日常とするゴッサムという地に溶け込んで生活し、下手に悪目立ちしないため。生きた標的を訓練相手とすることで、狙撃の腕を少しでも鈍らせまいとするため。依頼内容自体は簡易な物であり、本領である聖杯戦争への対応を阻害するほどでもなかったため。
 しかし、状況の好転へと繋げられる理由は生憎と見当たらなかった。後に報酬を払う契約であるクライアント、凶弾に貫かれ既に命を落としたターゲット、その双方が聖杯戦争とは一切関係の無い人物であり、また今後の大きなバックアップ等も期待出来そうにない。

(手詰まりになるのもそう遠くないか)

 現実的な問題を言えば、ジョンガリとアサシンの一組だけで広大なゴッサムの戦争を勝ち抜くには限界がある。
 情報の入手量。継戦能力。戦力増強の余地。どの点を見ても、単体で行動を続けていてはいずれ頭打ちだ。
 ならば、他者と手を組むことが必要だ。
 戦力を質量ともに向上させられる。街を駆けずり回る人員を確保できる。いずれ敵対する相手でも、一時的にでも互いに持てる物を提供し合えれば事はスムーズに進められる。
 思考の中に過るのは、協力者の候補達の姿だ。聖杯戦争に関わるか否かは、一旦は脇に置くとする。

(誰と組むか、だな)

 大規模……を条件に挙げれば、「包帯男」が該当する。急激な組織の拡大を今も続ける彼の快進撃は、日陰に生きる者はおろか表の世界を生きる者ですら把握していたとしても何らおかしくはない。
 ろくに機能しない公安組織に代わる治安維持部隊のグラスホッパーもまた、今頃は彼の組織の拠点の一つを突き止め、「纏う果実」とやらを使って彼等と撃ち合っているのだろうか。
 接触は容易だろうが、悪目立ちするだけに手を組むならば身の危険を覚悟するべき相手となる。

 中規模または小規模……となると、未だ「包帯男」の息のかかっていない連中となる。市民でも名くらいは知る集団、裏の道を行くものでなければ実態を把握できない集団。枚挙に暇がないとは最早言えない程に頭数は減っているが、数は未だ残されている。
 特にその姿を知る者が少ないと言えば、あの醜く肥えたペンギン男……もとい、オズワルド・コブルポットがそれだ。とある有識者が市政に携わるために用意した傀儡としての側面は、全市民が察しているだろう。
 しかし、自らと同じ境遇の者達と結成したという犯罪組織の首領としての側面は、市民は愚か警察やグラスホッパーですらどこまで把握しているか不明瞭だ。尤も、当のジョンガリもまた噂に聞いた以上の実態を知らないのだが。
 彼等の組織が危機を逃れられるならば良いが、一方でいずれ組織自体が潰される可能性もあることを考えると、協力者としては大きな期待も持てなそうか。

 ジョンガリと同じく単体の戦力と言えば、フリーランスの暗殺者だ。行動力にはさほど期待できない一方で、接触が容易であるのが利点となる。
 ……と言っても、誰ともつるまないスタイルを選ぶジョンガリが組めそうな相手となると、何が面白いのかジョンガリと言葉を交わす機会のそれなりにあるレベッカ・リーが第一候補となってしまうのだが。
 この稼業を営む者に言うのは詮無きことだが、敵と見なせば即発砲となってもおかしくない相手に背中を任せるのは、やはり気が引ける。
 仮にあの女と手を組むならば、一定の距離を常に取っておきたいのが本音であった。

(何にしても、売れる物は手に入れておきたいか)

 いずれの相手と組むにしても、まずはこちらから提供できるメリットを見せないことには始まらない。
 狙撃手としての実力は当然として、他にはこれまでに得た情報であったり、またはジョンガリが兵力として挙げる確かな実績であったりと様々だ。
 そのためにも、ここで情報の精度を上げておくのが得策か。
 ジョンガリとアサシンの集めた情報の中でも、グラスホッパーに関する物を再度整理する。
 果実の形をした鎧で戦う。基本的には一般市民出身者で構成されている。そして、街に突然現れる奇妙な極彩色の果実に強く執心している。
 アサシンは偵察活動の中で目撃したという。その果実を食った者は瞬く間に怪物となり、理性無く暴れ始める。その姿を発見したグラスホッパーの団員達は、鎧を纏い怪物を迅速に討伐する。そして食われることの無かった果実を団員達は回収し、去っていく。
 グラスホッパーと果実の関わりは、これだけでも推定が可能だ。
 果実と怪物をグラスホッパーは狙っている。言い換えれば、果実の実る所にはグラスホッパーが現れ、怪物の蠢くところにはグラスホッパーが鎧を纏って現れる。
 となると、情報を求めるジョンガリの為すべきことは決まっている。

 ……依頼された仕事の遂行から一時間が経過し、現在は夜の六時を過ぎている。
 場所を改めたジョンガリの視線の先では、いくつもの果実が鮮やかな色を見せつけている。
 その色をジョンガリの目は識別出来ない。ただ、そこにあるというだけで十分だ。






 取り立てて語ることの無い仕事、のはずだった。
 また例の果実が出現したとの報を受けて自分達四人のチームで現場に急行し、また出現した例の化物を取り囲んで屠った時点で終わる話のはずだった。
 新型の戦闘スーツによって増大した筋力、堅固な装甲、数の優勢、どれを取っても失敗する要素など無かった。
 だから、いつものように化物の肉体が爆風と化するのを見届けて、やっぱこのスーツ凄いな、なんて自画自賛を潜ませた軽口を叩き合う。そんな自分達に一声かけるチームのリーダーとの間には、距離感らしい距離感も無い。
 そしてこれからも同じような流れが続き、そのうち街に巣食う害悪共を残らず駆逐する時を迎えられるのだろうなと想像しながら、揃ってスーツの装着状態を解除し、生身の姿へと戻った。
 化物を倒した時点で警戒態勢を取り続ける必要は最早無かったのだ。
 そんな判断が、間違いだったのだろうか。

「――お、ごっぉ」

 ぐちゅっ、と。突然、何かを抉るような音が聞こえた。続いて、小さく漏れるような声。
 二つが聞こえた方へと視線を移した時、見えたのはリーダーが訳の分からないといった表情を浮かべながら硬直している姿。
 その顔の下、首元にあったのは一つの小さな穴。
 穴から流れ出る液体は、赤黒い。口からごぽと吐き出される液体もまた同じく。
 頭が目の前の事態を理解するよりも早く、彼の身体は地面に身体を崩れ落ちた。
 何秒経過しても、動く気配は全くなくなっている。

「ねえ、ちょっと」

 何が起きたのかを理解したのだろう。
 撃たれた彼を除く二人のチームメンバーの団員の内、女の方が素早く前に出た。倒れたリーダーの生命を案じて駆け寄ったのだ。
 しかし、その右足が三歩目を踏み出そうとしたところでまた耳障りな音が響く。同時、彼女の右太腿から血液が噴き出した。
 悲鳴。また身体が地面にぶつかる音。両手で太腿を押さえつけ、激痛に泣き悶える彼女の姿。
 見間違えようも、聞き間違えようも無い事実がそこにある。
 誰かに、撃たれた。

「……二人を守れ! 救援も呼べ! 俺が前に出る!」

 硬直していた男の方の団員に向けて叫ぶ。混乱する頭の中で辛うじて出した判断だった。
 泣き出しそうになりながらも了解の返事をした男の団員は、震える手でドライバーに錠前をセットし、再びの変身を完了させる。
 すぐさま倒れた女の団員の方へ駆け寄り、身体を抱えて庇う体勢を取る。距離の問題もあって女の団員しか庇えないが、仕方が無い。そもそもリーダーの生命は……もう、とっくに尽きているとしか思えなかった。
 あとは彼が同胞への連絡をスムーズに行うのを祈るばかりだ。

「嵌めやがって、糞野郎……!」

 同じく変身を終えると共に、毒づく。
 遠距離からの銃撃によって自分達を襲ったのだろう何者かのやり口は、自分達への対抗手段としては腹正しいものであった。
 怪物という第三者との接触の場にて、恐らくは予め待機していた。
 交戦が終わったことで警戒心を弛緩させながら武装を解除し、生身を外気に晒した瞬間を狙い撃ち、即座に殺害した。
 残る三人の団員のうち一人に対しては脚を撃ち抜き、しかし生命を奪うことなく行動の余地だけを奪った。
 もう一人は撃たれた団員を庇うための防御態勢を取る以外の選択肢が無くなり、折角の優れた武装を宝の持ち腐れ同然にする羽目となった。
 事実上、戦えるのは自分一人だけとなっている。
 ……いかにも暗殺者の好みそうな、腹正しい程卑劣で、しかし腹正しいほど有効な戦法によって、アーマードライダーの絶対的な力を持つはずの自分達は容易く危機に陥らされている。
 しかし、幸いであったのは場所が人の寄り付かないトンネル内であったことだ。四方八方が見渡せる街中ならともかく、この場合は敵の位置の推測も容易。前方加工法のどちらかへとトンネルを抜けた先にいるのが間違いない。
 そして今回は、リーダーの撃たれた傷口の反対側に向かえば良い。駆ければいずれ敵は見つかる。

「はっ、効かねえって見りゃ分かるだろ」

 今度は自分を狙ったらしい。右肩に銃弾が一発当たり、しかし小気味良い音と共に跳弾する。
 アーマードライダーの装甲は、既存の現代兵器では到底破れない。大火力のバズーカ砲ならともかく、狙撃用のライフルの銃弾程度で破壊出来るわけが無い。
 それどころか、今の銃弾のおかげで敵のいる方向がある程度は推測しやすくなった。最初は得体の知れない敵かと思ったが、なんだ、単なる阿呆ではないか。
 槍の柄を握る手に力が籠もる。見つけ次第、徹底的に血祭りに上げてやらなければ気が済まなくなっている。早く俺の前に姿を見せろと、心が躍る。
 犠牲は出てしまったが、ようやく敵の死によって決着が付けられる。
 そのはずだった。

「あ、ああ、あああああああっ!?」
「は?」

 突然、後方から男の団員の叫びが聞こえた。
 何事かと振り返った先、東部のモニター画面越しに見えたのは、女の団員を抱くアーマードライダーの姿。女の額からは、赤がとろりと流れ出ている。
 直後、慟哭の声を上げながらアーマードライダーは自分とは反対方向へと駆け出した。
 ……どういうことだ。
 今自分が向かっていた方向から撃ったとしても、女の団員の額を撃ち抜けるはずが無い。男の団員は、女の団員の身体を抱える形で庇っていた。位置や角度を考えても、敵のいる方面から女の頭部は撃ち抜けないはずだった。
 当たり前だ。弾丸は、直線の一方向にしか進めないのだから。
 ならば、実は狙撃手が180度反対側にもう一人いたのか。もしくはたった一人の狙撃手が実はずっと近くにいるのか。それとも、弾丸が空中で軌道を変更したとでも言うのか。
 いや、それより狂乱するあの団員を早く止めなければ。今からでも落ち着いて力を合わせれば、敵を迅速に叩き潰せるに決まっているのだ。
 努めて冷静であろうとする頭で結論を出し、指示を出すため喉を鳴らそうとした、その時。
 向こう側に、アーマードライダーではない黒い影が一つ、すとんと降り立った。トンネルの出口付近の外壁に張り付いていたのが降りてきたかのように見えた。

「あっ」

 この口から間抜けな声が漏れるのも、仕方の無いことだ。
 その黒い何者かの右腕で銀色が煌めいた次の瞬間、アーマードライダーの首から上が無くなっていたのだから。
 いや、首から上は確かにあった。鮮やかに宙を舞い、赤い線を空中に引き、そしてコンクリートの地面にごとりに衝突する。ごろごろと転がり、やがて停止する。
 殺された黒いライダーの胴体が崩れ落ちるのと同時。殺した黒い何者かはそのガスマスク越しに足元へ視線を向けて、死した団員の頭部をサッカーボールのように軽く蹴飛ばした。いかにも邪魔そうに。

「……お前えええええっっ!!」

 感情が、一瞬で爆発する。
 離れていた距離など全力で駆けて埋めて、勢いに任せて黒いガスマスクの男に槍を突き出す。即刻息の根を止めてやる、その黒い激情のままに。
 しかし貫けない。左の腕にトンファーのように装備された銀のブレードが振り上げられ、突き出したこちらの穂先はあっさりと弾かれた。そしてがら空きとなったボディに、回し蹴りが叩き込まれる。
 無様に仰け反る自分の姿を、ガスマスクの男はただじっと見ていた。まるで退屈極まる見世物でも眺めるかのように。

「だったら、」

 すぐさま反対側に飛び退き、左手で目当ての物を掴み取った。
 それは、本来はリーダーに支給され、今は彼の懐から零れ落ちた一つの錠前。今の自分の装備となっているマツボックリ型の装甲よりも上位とされる力の源だ。
 今までの装備でガスマスクの男を倒せるか分からない。ならば、より強い装備を使うだけのことだ。

『ドリアン!』
「……ちょっと借ります」

 今に見せてやる。上級ロックシードの力を。

『ドリアンアームズ! ミスター・デンジャラス!』

 新たに纏われる、棘だらけの緑の装甲。両手に握るのは、両刃の鋸。
 危険性が増したと一目で分かるその姿を前にして、しかしガスマスクの男は大きな情動の一つも露わにしない。
 その素顔に浮かべる表情は、未だ読み取れない。

「おい、俺達を撃った奴の仲間かよ」

 男は、一言も応えない。

「……じゃあ力づくで聞き出してやる。そのムカつく仏頂面を剥ぎ落としてからな」

 己を振るわせるための挑発の文句と共に、大振りの鋸二つを向ける。応じるように、ガスマスクの男も両手のブレードを回転させて風を切り、そして構える。

「見せてやるよ。アーマードライダーの力を」

 直後、四の得物が激突した。






 ジョンガリは戦況を観察する。
 音を聴き、念話を聴き、風を感じ取りながら。

 奇妙な果実を食べた浮浪者が怪物と化し、その後に現れたグラスホッパーの武装部隊によって殲滅されるまでの一部始終を、気配遮断スキルを発揮しつつ身を潜めたアサシンが全て見ていた。その情報は、念話によってジョンガリに過不足無く伝達される。
 事を終えて油断した彼等を目標に据え、まずジョンガリが行動を起こした。
 手始めにリーダーと目される男を射殺。残る三人のうち一人は脚だけ撃ち、もう一人には庇わせ、最後の一人を隔離する。
 この過程の中で理解した事実は三つ。

 一つ。予想通りではあるが、彼等の黒い装甲の強度は高く、ジョンガリの持つライフルの弾丸で貫通することは叶わない。
 生身の時を狙うならともかく、一度あの装甲を纏われたらその時点でジョンガリ単独でグラスホッパーの団員を殺すことは不可能となる。厄介な話だ。
 尤も、彼等は決して四六時中あの装甲に身を包んでいるわけではない。街の住人の延長線上として生活する以上、いずれは素肌を晒さざるを得なくなる。ジョンガリからすれば、彼等を撃てるタイミングなど全く存在していないわけではないのだ。

 一つ。彼等の持つ装備は攻撃手段の汎用性には乏しくない。共通装備の槍は単なる刺突武器としてだけでなく、怪物を爆散させるほどの高エネルギーを纏わせることも可能だという。また装着プロセスに使用する錠前次第で装備も変わり、その錠前はドライバーを別にしても使用可能とする互換性がある。
 しかし、それだけだ。槍を装備した団員は槍しか持たず、遠距離を狙える装備を新たに調達することは出来ない。それが出来るなら、仲間を庇いながらでもこちらを攻撃しているはずだ。
 一種の錠前につき一種の武器。それは、一種のスタンドが持つのは一種の異能というスタンドの原則にも似通っている。

 一つ。スタンドビジョンはスタンド使いにしか見えないという原則は、聖杯戦争のために用意された肉人形同然の団員達にも適用される。
 魔術回路を持つアサシンは、マンハッタン・トランスファーの中継衛星の目視を可能していた。その時点で、スタンド使いでなくともマスター或いはサーヴァントであればスタンドビジョンをその目に映し出せるとの推測は可能であった。
 かなり強引な形ではあるが、魔術回路が精神エネルギーの代替物として機能してくれているのだ。
 ならば、マスターでもサーヴァントでもないゴッサムシティの大多数の市民達の場合はどうなるのか。
 その確認のため、ジョンガリを捕らえるために走り出した団員の視界内に、敢えて中継衛星を浮かばせてみた。もしもスタンドが見えているならば、中継衛星に目を向けるなり叩き落とすなりのアクションを起こすはず。
 結果、あの団員は何一つ反応を示さなかった。最初から彼の目にスタンドが見えていないのは明らかであった。そのせいで、ジョンガリが実は団員の向かっているのと全く反対側から弾丸を幾度も反射させて狙撃しているのだという事実にも気付けない。
 となれば、「スタンドが見えない者」はマスターではなく、「スタンドが見えている者」がマスターであるという判断基準を立てることも可能となるか。
 単なる部外者を私兵に変える装備品を造るサーヴァントの技術力は確かに驚異的だが、しかし齎されるのはあくまで外装でしかない。人の内に宿る精神エネルギーを本質とするスタンドの原則を、科学で超えることは叶わない。
 それが叶うのならば、空条承太郎とのコネクションを持つというあの財団がスタンド使いの人造をとっくに成功させているだろう。科学者のサーヴァントがこの地で成果を挙げるまでもなく、だ。

 もしもこの場に持ち出されているのがホワイトスネイクやスタープラチナのような人間型スタンドであるならば、団員がスタンドの存在を悟ることすら叶わないまま一方的な殴打のラッシュを存分に叩き込まれる……くらいの話は実現され得るだろう。
 しかし、ジョンガリの持つマンハッタン・トランスファーというスタンド自体には一切の攻撃力が無い。スタンド使い特有の有利な条件は、グラスホッパーの持つ外装の強度に打ち消される。
 それでも、問題は無い。
 何故ならば、ジョンガリはスタンド使いであると同時に、サーヴァントを従える聖杯戦争のマスターだから。
 そして、ジョンガリとアサシンは、共に「暗殺者」なのだから。

 四人いた団員のうち二人はジョンガリに撃ち殺され、一人はアサシンによって斬首され命を落とした。
 さて、残るは上級と目される鎧を纏った戦士が一人。
 丁度良い機会だ。彼のお望み通り、アーマードライダーの性能を見せてもらうとしよう。






 埒が明かない。
 得物のサイズならこちらが上だ。向上した腕力だって劣ってはいないはず。
 それなのにガスマスクの男を未だ仕留められていないのは、最小限の労力で斬撃のことごとくをいなされているためであった。
 始めに刃をぶつけ合った時、力関係は均衡していたと言える。そのことを察したのだろう、ガスマスクの男は攻撃を受け止めるのではなく受け流すように試み始めた。
 振り下ろされた鋸の刃にブレードをぶつけて軌道を逸らす。それを何度か繰り返し、隙を見てはブレードを突き出してこちらの装甲を裂こうとする。
 当然、受けてやる義理も無い。装甲の固さに物を言わせ、身体を逸らしてこちらも受け流す。
 たまにこちらからの攻めが決まれば、男の身体からどういうわけか血では無く砂が零れる。人間では有り得ない事態が起こることの真相を考えるほどの余裕までは無い。
 そんな攻防が、先程から一分以上も続いている。
 亡き仲間が既に救援を呼んでいる。到着までの時間は不明だが、いつかは来てくれるはずだ。そして、ガスマスクの男がそのことに気付いていないわけが無い。
 それにも関わらず一気に攻め込まない理由が何であるのか、今になって察しが付いた。

「ライダーの性能だけ身で感じたら今日はオサラバ……ってか」

 性能テストに、利用されているのだ。
 アーマードライダーの自分の方か、ライダーとは別種であれども明らかにまともな人間では無いガスマスクの男自身か。
 どちらか一方、あるいは双方の力関係を図ろうというのだろう。いずれ頃合いを見て撤退し、情報だけ持ち帰るのが大方の狙いか。
 ふざけるな。こちらに取り返しのつかない被害を出しておいて、自分だけ欲しい物を得た満足感を胸に住処へ帰るなどと。
 ……ああ、だったら欲しい物をくれてやる。今のこの男が欲する以上の物を、即ち「戦果」を。

「食らえよ」
『ドリアン・スカッシュ!』

 数歩下がり、ドライバーのカットブレードを作動。鳴り響く高らかな電子音声で、必殺の一撃を繰り出す合図を伝えてやる。
 警戒するように身構えたガスマスクの男目掛けて、大きく振りかぶり、鋸の片方を投げ飛ばす。間髪入れず、もう片方も投擲する。
 当然のようにブレードで弾き飛ばされ、そして今回の場合はこちらの無防備さを晒すこととなる。武器を捨てたのだ、こちらに出来ることはもう無い。
 好機と踏んだに違いないガスマスクの男が一気に距離を詰め、ブレードを一直線にこちらの首元へと突き出さんとするのを視界に捉えた。

「ふん、嵌められたなあ」

 直後、展開していたアームズを初期状態へと戻す。
 円形の果実型となった装甲が、上半身を守る。奴のブレードはアームズの装甲を貫き通せるだけの威力を持たない。呆気なく跳ね返される。
 ほら、こちらを放置しては拙いと恐れたことで、或いはこちらを討ち取れると思い上がってくれたおかげで、こうして距離を詰めてくれた。
 失敗のツケは、今ここで払わせてやる。

「……そらあああっ!」

 エネルギーを込めたアームズによる、頭突き。これがドリアンアームズの持つ第一段階の必殺技。
 振り下ろされる巨大な凶器は、奴の貧相な武器で防ぎきれるわけが無い。今更抗おうが、無駄だ。
 阻む物の無い奴の胴体に、アームズが衝突した。
 高ランクのロックシードに生み出される絶大な威力に耐え切ることは当然叶わず、圧され、削られ、何かの音がして。ガスマスクの男は大きく後方に吹っ飛んでいき、無様に地面へと叩きつけられる。
 その様を見た時に生まれたのは、苛立ちであった。
 例の怪物ならこの一撃でエネルギーの奔流に耐え切れずとっくに爆散しているだろうに、ガスマスクの男はと言えば未だ健在だ。
 あの男の肉体は、いったい何で出来ている。そもそも本当に生身なのか。少しよろめきながらも再び立ち上がるあの男は、まるで機械のようにも見えて。
 苛立ちと、そして薄気味の悪さ。その二つに駆られるまま、今度こそ本当に息の根を止めようとして。

「……………………へっ?」

 装甲が、いきなり消えた。
 アーマードライダーへの変身が、何の前触れも無く解除された。
 何故。敵を前にして臨戦態勢を解くような馬鹿になったつもりは無い。そもそも、必殺技の発動以外のためにドライバーを操作する暇など無かった。
 だったらどういうわけだと腹部へと伸ばした指先。そして、あるはずのない痕跡に触れる。
 それは、亀裂。或いは切れ目。
 ドライバーに装着されていたロックシードが、一刀で切り裂かれた跡。

「嵌められたのは俺かよ」

 奴の片方のブレードはアームズで防いだ。
 しかしもう片方のブレードは的確にロックシードに一撃を加え、その機能を停止させていたのだ。
 奴のブレードではアームズの防御力を破れない。が、ロックシードの硬度ならば破るには十分だった。
 先の必殺技で倒すことが出来なかったのは、奴の耐久力だけの話ではない。ロックシードが途中で出力不足を起こしていたためだったのだ。
 距離を詰めれば敵を倒せる。そう考えたのはお互いに同じで、そして無防備さではこちらが勝ってしまった。
 だから、勝てない。
 戦場で生身を晒した兵士の末路など、決まりきっている。

「先輩、すいません」

 視界のど真ん中を、一つの輝きが突き抜けてくる。
 こうして、三つ目の射殺体は完成される。






 単純なスペックも、必殺の一撃の火力も身を持って味わえた。
 実戦による情報収集としては及第点だろう。大きなダメージを食らったという目に見える証拠が出来たのも十分だ。
 そして、情報収集は次のステップへと進む。

 誰だって、「戦果」が欲しいに決まっている。

 ……きりきりと、ゼンマイが回転する音が聞こえる。
 歯車がゆっくりと、ゆっくりと回るのを感じる。






 他チームの団員が救援要請を出したとされるポイントに辿り着くと、そこには幾つもの死があった。
 喉を撃たれて死んだ男の亡骸。
 脚と額を撃たれて死んだ女の亡骸。
 首を切られて死んだ男の首だけの亡骸と、首が無い亡骸。
 破損したロックシードを衆目に晒しながら、額を撃たれて死んだ男の亡骸。
 後方に立つハイスクール通いの男子団員が堪えきれず嘔吐する音が聞こえた。

「なんで俺らが狩られてるんだよ。グラスホッパーだぞ、ライダーなんだぞ、俺ら」

 アーマードライダーを超える圧倒的な力を持つ怪物に殺されるなら、まだ納得は出来たかもしれない。
 しかし助けを求めた団員のたどたどしい通信越しの説明を聞くに、殺人者は大したことの無い手合いであったに違いない。
 たかが銃を武器とする雑魚の悪党であり、その雑魚の分際でグラスホッパーの者達を手に掛けたのだ。
 安堵した瞬間を突いた、遠距離からの銃撃。雑魚に相応しい卑劣なやり口なんかに陥れられて、正義のために戦う団員の尊い生命は何人分も奪われた。
 だから、悪は決して許されてはならないんだ。
 身を震わせる怒りを、今回の真犯人に真っ直ぐぶつけてやりたいのにそれは叶わない。その代わりと言うべきか、悪の仲間と思しき者なら少し距離を置いた先に横たわっていた。
 黒いガスマスクで顔を覆った、五つ目の亡骸である。
 両腕のブレードのそれぞれに僅かに付着した血は、団員の一人を殺害したのがこの者であると推測する根拠として十分だった。
 そして黒いボディに残された焼け跡は、一人のアーマードライダーが生命と引き換えにしてでもこいつに傷を負わせた証拠である。

「……うえっ」

 面構えを拝んでやろうとマスクを脱がせ、その直後に後悔する。
 この男の顔は、醜く壊れていた。瞼が無い。唇が上も下も無い。まともに表情も浮かべられないだろうグロテスクな有様は、気色悪いとしか言いようが無い。
 異常と言えば、この男の身体に刻まれた幾つかの傷口から零れる砂もだ。傷口から血液が流れ出るならともかく、どうして砂が零れているのだ。
 ……試しに、手に握る槍で腹を何度か突いてみた。砂が零れた。身体はぴくりとも反応しない。
 この男は素顔を見るに人間ではあるのだろうが、ただの人間では無い。砂の詰まった身体を駆る怪人とでも言うべきか。果実の怪物とは異なる、別種の異形の生物だ。
 せめてもの幸いは、身体に一撃を加えられた時の反応から察するに、この男が既に死んでいると改めて確信出来たことだった。
 ちゃちな狙撃手一人では成し遂げられないはずのアーマードライダーの小隊の全滅という惨劇に加担したに違いない怪人は、既に自分達の敵ではない。
 となれば、憂さ晴らしを兼ねてこの怪物に最大威力の必殺技を叩き込んで八つ裂きにする程度、許されて当然。正義の鉄槌を、この手で。

「おい」
「……ちっ、分かってるよ」

 同僚に肩を叩かれ、我に返ると共に胸の中の怒りを強引に静める。
 もしも完全に未知の外敵または物体等を確認し捕縛が叶った場合、今後の対策を立てるためにも一度こちらの手の内に置け。そんな指示がグラスホッパーのメンバー間に伝わっていることを、咄嗟に思い出した。
 黒のガスマスクの男は、その異様な生態の一点だけでもまさしく未知の外敵に該当する。そして反抗の可能性が無い以上、こちらで確保することは既に容易だ。
 となれば、今の自分達がするべきはこの男への八つ当たりでは無い。この男の身体の研究の準備、グラスホッパーの栄光への足掛かりなのだ。
 グラスホッパーは正義の味方。より多くの悪をぶち殺す為には、時には冷静さも不可欠だ。

「こいつはワゴンに乗せるぞ。死んだ仲間達と相乗りなんて反吐が出る」

 仲間と二人がかりで覆面男の身体を運び、車体の後部に放り投げる。
 仲間達が命と引き換えに自分達に与えた「戦果」を糧に、グラスホッパーはきっとまた勝利を飾ることになる。
 本来ならば経験せずに済むはずだった死への怯えも、ようやく薄らいだ気がした。

 死した兵士達は、ガスマスクの男は、こうして他者の手によって戦場を後にすることとなる。
 走り去るワゴン車のマフラーが吐き出した排気ガスが、風に揺られた。






 『機械仕掛の殺戮卿(モルト・マシーネ)』。
 それはアサシン、またの名をカール・ルプレクト・クロエネンが持つ宝具の一つであり、人間と機械の融合体と言うべきアサシンの肉体を象徴する胸のゼンマイ。
 このゼンマイを自ら正の方向に回転させることで、アサシンの身体能力は一時的に跳ね上がる。
 そしてゼンマイを逆の方向に回転させた時には、アサシンの肉体は一時的な活動の停止、即ち仮死状態に至ることが可能となる。簡単に言えば「死んだふり」である。
 尤も、サーヴァントになった現状では死んだふりは意味を成さないだろう。
 サーヴァントとは死した英霊の写し身。その身に生命を宿さない幻想の人形。極一部の例外を除けば、サーヴァントとは等しく死人。これが聖杯戦争の常識中の常識である。
 故に、聖杯戦争の知識を持つ者ならば、一見するとアサシン生命活動を停止したかのように見えようとも肉体を消滅させることなく存在し続けている事実が未だ健在である何よりの証拠ではないか……と、アサシンの姑息な演技を看破することが可能となる。
 マスターとサーヴァント同士の決闘の地では、『機械仕掛の殺戮卿(モルト・マシーネ)』の第二の機能など何の利益も生まない。
 生まないはずだったのだ。

 しかし、今この場面においては例外が存在する。
 その例外とは、犬養舜二とキャスターのサーヴァントが聖杯戦争での手駒として運用する、武装集団と化した自警団グラスホッパーである。
 攻守に優れたアーマードライダーの兵装を纏う彼等は、マスターはおろか戦法次第ではサーヴァントとも渡り合える可能性を秘めている。単純な戦力してみれば、十分に脅威と言えるだろう。
 しかし、彼等がマスターでもサーヴァントでも無いことは揺るぎない事実だ。言い換えれば、彼等は聖杯戦争の当事者としてあくせくと活動していながら聖杯戦争という儀式に関する知識を持たず、聖杯戦争の当事者となっていることの自覚も無い。
 下手に知識を提供したことで不必要な混乱、場合によっては私欲に基づいた反逆の可能性が生じることを危惧した犬養舜二が、自らの部下達に対して聖杯戦争という儀式自体の情報を極力明かさない方針を取っているためである。
 故にグラスホッパーの団員達は聖杯戦争を、聖杯という名の願望器を、そしてサーヴァントという名の存在を全く認識しないまま行動を続けている。

 だから、彼等はアサシンの「死んだふり」を見抜けない。
 死んだようにぴくりとも動かない。心音は聞こえず、得物で傷を負わされても痛がる素振りを見せない。つまり、こいつは本当に死んでいるのだろう……と、彼等なりの常識で判断する。
 サーヴァントという在り方さえ知っていれば決して下すはずの無い判断を、彼等は無知であるがために容易く下してしまう。
 こうして彼等は、本来ならば即刻排除しなければならない相手を「戦果」だと誤解したまま、自分達の領内へと無警戒に招き入れ、拠点の位置や貯蔵する武装の数々を敵に教えるなどという愚行を犯すに至ってしまう。
 スタンドもサーヴァントも全く知らない部外者達で結成した大組織を聖杯戦争に介在させたことの、弊害。それが、今回の顛末に繋がったと言っても過言では無いだろう。

 アサシンの胸のゼンマイが再び正方向に回転するその時、未だ何も知らない団員達はようやく知ることとなるだろう。自分達が、失態を犯したのだと。
 第二の惨劇の幕開けはそう遠くない。
 風が、何の前触れも無く吹き荒れる時は近い。



【MIDTOWN WEST SIDE/1日目 夜間】

【ジョンガリ・A@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]盲目、タクシーで移動中
[令呪]残り3画
[装備]白杖に偽装した狙撃銃
[道具]なし
[所持金]一万程
[思考・状況]
基本:聖杯による主君の復活を。
1.アサシンの向かうグラスホッパー所有の施設へ向かい、襲撃すると共に情報等を得る。
2.『黒いタールの殺人鬼』『赤覆面』『グラスホッパー』『ヤモト・コキ』『包帯男』に関する情報を得たい。
[備考]
[備考]
※職業はフリーランスの殺し屋です。裏社会に精通するマスターで顔見知りの相手がいる可能性もあります。
※セリューと知り合いました。サーヴァントであることには気付いていません。
※盲目のためにサーヴァントのステータスを視認することが出来ません。
※クロエネンが偵察で得た情報を聞きました。少なくともキャスター(デスドレイン)のことは聞いています。
 他にも情報を得ているかは後続のリレーにお任せします。
※グラスホッパーで配備されているアーマードライダーの存在を知りました。

【アサシン(カール・ルプレクト・クロエネン)@ヘルボーイ(映画版)】
[状態]魔力消費(小)、ダメージ(小)、仮死状態
[装備]ガスマスク
[道具]トンファー型ブレード×2
[思考・状況]
基本:聖杯による主君の復活を。
0.仮死状態。
1.ジョンガリと共にグラスホッパー所有の施設へ向かう。
2.敵を捕捉した際には暗殺も視野に入れる。
3.ニンジャのサーヴァント(デスドレイン)に警戒。
[備考]
※キャスター(デスドレイン)の外見・宝具『死の濁流』を視認しました。
※念話によってマスターとの意思疎通が行えます。
※ジョンガリに偵察で得た情報を伝えました。
 少なくともキャスター(デスドレイン)のことは伝えましたが、他にも情報を得ているかは後続のリレーにお任せします。
※気配遮断スキル発動中はセリューの『正義都市探知機』には引っ掛かりません。
※一定の距離が離れているため、セリューの気配は感じ取っていません。
※現在、グラスホッパーの輸送車に乗せられて移動中です。同乗している団員達はクロエネンが仮死状態であることに全く気付いていません。
 行き先はMIDTOWN区域内にグラスホッパーが所有する施設のいずれかですが、詳細は後続の書き手さんにお任せします。

[備考・その他]
※スタンドビジョンは、スタンド使い以外にもマスターやサーヴァント等の魔術回路を持つ者ならば見えます。
 そのためNPCが変身した黒影トルーパーはスタンドへの攻撃自体は可能ですが、視認が不可能となっています。
 この問題はあくまで「本人の体内に宿る精神エネルギー(或いはその代替物)の有無」が条件のため、戦極ドライバーの改良等による解決は不可能でしょう。



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アサシン(カール・ルプレクト・クロエネン)


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最終更新:2016年10月04日 00:09