『らぁめん再遊記 第三話~未来《スパイスガール》!!~』
ナンダカンダとキレイごとを言ったところで、ラーメン屋というのは所詮、商売だ。
金儲けのことを考えれば、どれだけ評論家やラーメンオタク共に酷評されようとも、大勢の客を招き入れるような一杯を作ることが大切だ。
この世は『売れたら勝ち』なのである。
これは、もちろん俺にも当てはまる。
俺の淡口らあめんは鮎の煮干しと比内地鶏・鹿児島黒豚を合わせたスープに、国産有機醤油と自家製麺…と。
こだわりに拘ってはいるが、売れなければ独りよがりな自慰行為に過ぎない。
一方で、そういう観点からすれば、小娘アンズの来々軒は完全に『勝ち組』だ。
屋台の客単価が六百五十円の中で、売上は日商五万円。
単純計算で一日あたり約七十五食、昼と夜の二部制で回している計算になる。
客単価・回転率ともに、屋台業態としては全国上位数パーセントに入る水準なのだ。
…俺が汗水垂らし、試行錯誤を重ねて『我がラーメン』を自答してる間に、奴は創意工夫皆無な一品でこの数字を叩き出している。
……言いようによっては天才のそれだ。
商売的な意味では間違いなく勝者に値するだろう。
──…そんな天才様()と凡人である俺との差は、もはや胃酸が込み上げてくる程だッ……。
「っ、おええぇええぇぇぇえ…ッ!!! ごぼっ、ごぼっ…、……ゔぉろろろろろろろろろろぉおえええええッ………!!!!──」
…はぁ、はぁはぁ………………っ。
「──……死ね!!」
…小娘アンズの陳腐なラーメンを試食され続け早十杯目……っ。
今、俺は奴の屋台から少し離れたコンビニ裏にて、地獄のデトックスタイムに見舞われている最中だ。
確かに俺は奴と出会った際、「最後までとことんサポートする」「お前の味と歩む覚悟だ」…とは言ったが……。
…限度というものがあるだろ…ッ! 限度が……ッ!!
『限度』という単語すら知らないであろう中卒無教養女の『一杯』は……(…というか十杯は)…、三角コーナーの野菜クズを口直しに貪りたい程の味である………。
「…ダメだわ………。どれだけ作り直しても…納得いく味にならないっ……!! …なんなの。芹沢さんとの差はなんなのよ!! もうっ…あの人を見るだけでムカムカしそうだわ!!」
「……………」
……おい、なに嫉妬しているんだこの女は。
不相応にも程があるジェラシーだろ! 俺のラーメンを同じ土俵にあげて語るな!!
……くっ。
………くそっ…。青筋絶叫娘め……。
んぐ、んぐっ……
「ぷはっ…………。はぁはぁ………」
…吐き散らして空っぽになった胃袋へ、俺は安物のウイスキーを流し入れる。
あぁ、勿論胃と食道が荒れることは承知済みだ。
だが飲まなきゃやってられんとはこの事……。
──五百円のブラックニッカに頼らなきゃいけないほど、今の俺は最大に追い込まれているわけだ……。
「…うん、ごちそうさま。美味しかったよ、アンズさん」
「あっ! ありがとう佐野!! ま、礼なら私のおじさんやおばさんに言ってよね! あくまでこの一杯は来々軒の味を受け継いだまでなんだから!! …へへへ~!!」
「……それで、あの…。…もう行ってもいいよね?」
「へ? いや、なんでよ佐野!!」
「…なんで、って……。私は瞳さんって【仲間】を探さなきゃならないから……。さっきもそう言ったんだけど……。だから、…うん」
「あ、そっか~…。…じゃあ、そういう訳でちょっといいかしら!!──」
「──隣に置いてるラーメン…。これは芹沢さんの分なんだけど、…伸びそうじゃない? だから食べてから行きなさいよ! ね~!!」
「え。何が『じゃあそういう訳で』……??」
………。
俺の身代わりというか、屋台にはたまたま通りかかった『佐野』という女が毒牙の餌食と化しているが……。…まぁそいつはどうでもいい。
アンズのラーメン拷問よりも、
佐野がペットのタランチュラを卓上に乗せてギャーギャー騒がれてる煩さよりも、
──俺を追い詰めている物………。
「………ちっ、とうとう来たか………」
それは、吐いている途中の俺に突如落ちてきた──、
「…………『ハル』のやつめっ……!!」
──イクラを肥大化させたかのような、『ボール』だった…………。
「…『拝啓 芹沢達也さんへ。アンズさん、佐野さんとご一緒に、このボールを押して、【ライブ中継】をご覧ください』……だと…?」
未来人──ハルからの、ボール。
…ご丁寧にもボールにはメッセージ付きでだ。
要するに、このオレンジボールはライブ配信を移す未来の映写機といった代物らしいのだが。
ぐむぐむ…
ズンッ
──パッ
ジジジ────ッ、ガガガガ────ッ、
「…………」
…未来のインターフェイスのセンスが俺にはさっぱり分からない………。
◆
calling…
future…
calling…
future…
──────【𝔸𝕌𝕏】──────────────────
🅲🅰🅻🅻
ᴘᴜꜱʜ ꜱᴇʟᴇᴄᴛ
─────────────────────────────────
◆
…
……
………
(芹沢)『…あ?!』
────お久しぶり…ですかね、芹沢さん。…アンズお姉さん、佐野さんからしたら初めまして。
(佐野)『…あ、はい。初めまして…』
(アンズ)『……えっ、アンタ誰よ……。まさ…、』
(芹沢)『いや待て待て!! バカか!? 俺もお前のことなんか知らん!! …お前は誰だ!!?』
────ハハハ、どんな御冗談を。ま、丁度よいので自己紹介に入りますね。ボクはハル。超能力者検体No.12。
────……つまりはアンズお姉さんと遠い親戚にあたるわけです。…超人会製ではないのですがね。
(アンズ)『な、なによそれ…。つまりアンタは未来…、』
(芹沢)『嘘をつくなっ!! だから誰だと聞いているだろ!!!』
(アンズ)『ちょっと芹沢さん!! さっきから私の言葉に被せてこないでよ!!』
(芹沢)『黙れお花畑!!』
(芹沢)『…いいか、ガキ』
────ええ。
(芹沢)『確かに以前、俺の元にボールが落ちてきて、お前同様『ハル』と名乗るガキが来たものだ……』
(芹沢)『お前とそのハルの決定的な違いが分かるか? …口で一々説明するのも馬鹿らしい、極めて単純なものだがな…』
────そこはご教示いただきたいたいものです。
(芹沢)『…俺が会ったのは男だ!! 真っ裸の少年なんだよ!! …なにが『ボクはハルです』だ……?! お前みたいな小娘知るかっ!!』
(佐野)『え? …裸の…少年……??』
(アンズ)『…芹沢、最低ね…ッ』
(芹沢)『お前らは口を挟んでくるなと言っただろ!! …というかアンズ、お前はコイツと同じ類なんだから裸になる仕組みくらい知っているだろうが………』
(芹沢)『くっ……。俺はてっきりハルの奴がバトル・ロワイヤル攻略のアドバイスでも持ってきたものだと思っていたのだがな………。おい自称ハル…』
(芹沢)『お前の目的は……なんだ?』
────…あぁ、なるほど。そういう訳でしたか。単刀直入に申します。ボクは【ハル】です。
(芹沢)『その単刀は俺の理解には全く刺さってないがな…』
────そして芹沢さんがお会いしたというその娼少年もまた【ハル】。ボクなのですよ。
(芹沢)『あ…??』
(佐野)『…娼少年………』
────はい。単刀では物足りないようですので、聖剣エクスカリバーでご説明いたしますね。まず、初めになんですが……。えー、どれどれ。
ペラッ
────…あーはい、なるほど。…とりあえず、皆様が今いる場所はシブヤ【B-2】エリアで間違いないですよね?
(アンズ)『…へ? びーつー…? も、もちろんよ! 当り前じゃない!』
(芹沢)『いや絶対分かってないだろお前…。……おい自称ハル、B-2だのC-3だの言われても俺達は分からん。具体的名称ではっきり言え』
────あ、はい、申し訳ありません。B-2は目の前にファ●リーマートがあると思うのですが、間違いないでしょうか。
(芹沢)『………』
(佐野)『あ、はい。…それなら、確かにここはB-2ってことに……なりますね』
────それは良かった。話が早いです。
────史実では、今から十秒後に、エリアB-2・ファ●リーマート店前にて隕石が落下します。
(アンズ、芹沢、佐野)『『『…え?(は?)』』』
────他区域での戦闘が誘発したものでして……ええ、直径一キロのクラスです。避けようはありませんね。
(芹沢、アンズ)『『はぁ?!』』
────一応、ダメ元で使ったほうがよろしいかと。
(アンズ)『えっ、え? え?? …え?? な、何をよっ?!!』
(芹沢)『バカかお前!! お前の力……エスパーだか念動力だかを使えと言っているんだっ!!』
(アンズ)『え?? あ、そっか……!! で、でも…どこから……、』
(芹沢)『黙れ!!! さっさとしろォオオオオオオオオぉぉ…、』
ヒューン…
──コツン
(佐野)『わ、痛っ…』
(芹沢)『………は?』
(アンズ)『…………………え、小さ』
(アンズ、佐野、芹沢)『…………は??』
────…ご無事で何よりです。なにはともあれ、この通り降ってきたでしょう。隕石が…!
(芹沢)『アンズ、映像の切り方を教えてくれ。ボールをまた押す感じでいいのか?』
(アンズ)『さあ。適当に川に捨てればいいんじゃないかしら』
────おっと、これは厳しい御冗談ですね。でもこれはボクが接続を絶えるまで切れない仕組みですので…、
(アンズ、芹沢)『やかましいッ!!! 冗談じゃないのはこっちだ!!! 何が隕石だ!! ふざけるなッ!!!!』
────…ボクも冗談は苦手な質なのですがね。皆さん落ち着きましょうよ。
(芹沢)『お前のせいだろっ!!? …クソ…!! 貴重な時間を浪費させられた……。どいつもこいつも…俺は未来人()にはうんざりだっ…!!!』
────いえいえ。だから落ち着いてくださいって。隕石は本当に、史実通りならAM.05:32:25に落ち、壊滅的被害をもたらしたんです。
(佐野)『……たしかに、ちょっとは痛かったけども…』
(芹沢)『…壊滅的か、それは結構。ならば俺は未来人ってカテゴリを壊滅させるのが道理だろうな。……全くお前は……ッ』
────はい、その通りです。貴方には未来を壊滅させてほしいんですよ。…ボクはそのために過去へ来た。
(芹沢)『壊滅してるのはお前とアンズの頭だけだ!!! ふざけるな!!!』
(アンズ)『…え?』
(芹沢)『人をおちょくるのも…ッ……、いい加減にし……、』
────芹沢さん、失礼ながらもしかして数分前に、嘔吐をしませんでしたか?
(芹沢)『…あ?』
────…ハハ、やはり。その影響で、隕石は空中で破裂し、小さな石ころと化したんですよ。
────分かりましたか? ボクが少女に『書き換わった』理由。
────…それは【バタフライ・エフェクト】によるものなんです。
(アンズ)『…ばたふらい……えふぇくと………?』
(芹沢)『いやそんな聞き慣れない言葉でもないだろ……』
(アンズ)『はぁっ?!』
(佐野)『あの…。小さな出来事が、時間を経て予想外に大きな結果を引き起こす現象のこと……だよ。…アンズさん』
(アンズ)『へえ~! 佐野は物知りねぇ〜』
(芹沢)『お前以外全員知ってる言葉だがな。さてアンズのせいでテンポはグズついたが、さっさと説明しろ。…ハル』
(アンズ)『なによそれっ?!』
────はい。明確なバタフライ・エフェクトの起点は十日前。過去に戻ったボクが芹沢さんと干渉した瞬間が期でしょう。
(芹沢)『……』
────佐野さんの説明通り、過去という歯車はほんの少しの綿埃を噛み挟んだ程度でも、動きが大きく歪むものです。そのため、ボクの住む未来では政府の公認外でのタイムトラベルは極刑となっているのですがね。
────それはともかくとして。事実、【堂下浩次】という参加者は、現時点ではまだ生存しているはずですよね?
(???)『三嶋先生ェエエ!!! 私、堂下浩次は大変感動しましたァアアア……っ!!!』
(佐野)『わっ!!』
しましたぁぁぁ………
……ましたぁぁぁ…………
……たぁぁぁ…………
(芹沢)『………。…史実ではどうなっているんだ。その堂下と言う男は…』
────えーどれどれ…。…はい、『第一回放送深夜にて、…Sに誤射され死亡』。一時間十三分の寿命となっていますね。
(芹沢)『…別に個人名をあげていいものを、わざわざ『S』と仮名したのは引っかかるぞ……』
(アンズ)『………配慮したってわけよ。……ね? 犯人のS沢さんッ…!』
(芹沢)『何が【…ギロリっ】──だっ、アンズ!! お前はさっきから俺になんの恨みがあるんだ………』
────…ともかくです。この通り些細な出来事で簡単に未来は変わってしまう。言うなれば、殺し合いを根本から瓦解させるだけのエネルギーを持つ唯一の策が、バタフライエフェクトというわけですよ。
────蝶の羽ばたき一つが、戦争をも、全宇宙すらもひっくり返す…【バタフライエフェクト】。ボクが皆様三人を集めた理由は、もう言うまでもありませんね?
────今から、僕の指示通りに行動していただきたいのです。
────…汐見閣下と終身名誉ゲームマスターAから、未来を救うため。
(アンズ、佐野)『………』
(芹沢)『……………っ』
(アンズ)『…ところでアンタ、なんで浜辺から中継してるのよ。その場所チョイスはなに?』
(芹沢)『…マイペースかお前、アンズ……』
────浜辺? いえいえ、ワイキキビーチとお呼びください。第三次世界大戦戦勝記念のバブル景気で、小旅行中なんですよ、ボク。
(アンズ)『はぁああ?!』
(佐野)『人がこんな目に遭ってるというのに……旅行………』
────まぁ骨休めも仕事の一つですから。アンズお姉さん、ハワイのマクドナルドにはラーメンが売っていることをご存知ですか? その値段わずか500ラー。もはや激安の殿堂ですね。
(芹沢)『ラーってなんだ。ラーとは…』
────未来の日本の通貨単位です。麺歴三年以降、円は廃止され『ラー』に変わりました。
(芹沢)『……『メン』でいいだろっ………』
────まぁそこは汐見閣下のブランディングセンスですので。何とも言えませんね。
(芹沢)『……………バカがっ…』
────話を戻します。それでは第一に、皆様三人にはある参加者へ会いに行ってもらいたいんです。
(佐野)『…なんとなく黙ってましたが……私も巻き込まれているんですね……』
────えぇ勿論。後々欠かせないピースの一つになりますから。……佐野さんも、【車で10km引きずり回された末、皮膚欠損で死亡】だなんて死因は勘弁でしょう?
(佐野)『……っ』
(アンズ)『…え? なによそれ?? じゃあ私は史実じゃ…どうなっちゃうわけよ』
────あー、はい。アンズお姉さんは【壺の中にて遺体が発見された】との記述がされています。……タコ壺ですか?
(アンズ)『え? 壺?? いや…はぁああ???!』
(芹沢)『……ぶふっ!! ………くふふ…』
────話が逸れました。それで、そのある人物とは、B-3・横断歩道前にて怪我を抱えつつ放心状態です。
────彼に三人そろって接触し、仲間に引き入れることで。はじめて【惨劇】を未然に防ぐ下地が整うんですよ。
(芹沢)『…結論から話せハル。誰だ、そいつは……』
────はい。『新田義史』さん。その人です。
(アンズ、佐野)『…え?!』
(アンズ)『……新田…………!?』
────勿論存じ上げていますよ。山中藤次郎の拡声器で、新田さんが殺人者の危険人物と広められた現状は、計算上、史実通り。
(アンズ)『違うッ!!! 違うんだからぁッ!!! 新田は悪いやつなんかじゃないわよッ!!!』
(芹沢)『おいアンズ、話の腰を折るな』
────いえ芹沢さん。彼女の言う通り、新田さんは人畜無害。全ては山中の浅はかさが招いた風評被害です。
(芹沢)『あ?』
────彼は野原ひろしに見捨てられ、早坂愛には除き魔と誤認され、そして逃げた先では西片に…と、今、心身ともにボロボロの状態です。……もちろん、それで暴走するような彼ではありませんが、とにかく今の新田さんは(哀しい意味で)危険なのです。
────そんな新田さんに接触できるかどうかが、あなた方が【史実の惨事】から救われる一歩になるんですよ。
(佐野)『…史実の惨事…って何なんですか………? 車とか…壺とか…さっき言ってましたが…それが何に…、』
────申し訳ありませんが説明は割愛させてください。……なにせ、もう時間がないんです。
────AM.05:37:00、ちょうどその時刻に、あなた方にはB-3へ向かっていただく必要があります。
(アンズ)『え?! …五時三十七分って……』
チラッ
(アンズ)『あと十分もないじゃないっ!!!』
(芹沢)『それは湿度計だバカ!! ………つまりは三分後、か…』
────その通りです。また、移動に際してお願いが。三人で、【ぴったり百五十八歩】で歩いてください。早歩きや遅歩きで調整して、なんとかきっかりに。
(芹沢)『…その具体的歩数は何を意味する』
────…説明する時間は、もう無いんですよ、芹沢さん。
(芹沢)『………くっ…』
────では一旦はこの辺にて。必ず、指示を守った上で行動をお願いしますね。
────…未来というのは、たった一歩で思いもよらぬほど大きく、塗り替わるものですから………。
(芹沢、アンズ、佐野)『……』
──ねぇ〜ハルちゃーん!! はやく来て一緒に泳ご〜〜っ。
(アンズ)『は?』
────あ。…うん、分かった、分かったってば。とりあえず、水着に着替える時間だけはくれないかな~皆。
────…ごくごく、ぷは〜〜。うん、ハワイに来たからにはトロピカルカクテルを飲まないと始まらないや。
──も~~、ハルちゃんたら〜っ!!
──きゃははは~~~!!
(芹沢)『…は?』
────では皆さん。この一歩が、未来の希望になると信じて。…今、塗り替えましょう。
────では失礼します。
………
……
…
プツンッ………
◆
「新田………」
「………私…関係ない…はずじゃ………?」
「………グッ…」
…未来は、塗り替えられる……だと。
…冗談じゃない。…ふざけるなッ。
いかにも未来人共の傲慢が溢れたセリフじゃないかっ。
仮に俺が1930年の日本に放り込まれたとしてだ。
「このまま戦争をすれば、広島で多くの人間が焼かれることになる」
「だから満州事変など起こさず、国際協調路線を取るべきだ」──そう進言したとして。
──歴史は、果たして変わるか?
…笑わせるな。
当時の人間に、そんな理屈が通用するはずがない。連中は理解すらせず、俺を特高警察に突き出すのが関の山だ。
そして十数年が経ち──ようやくのこと、誰かが言うだろう。「アイツは、正しかったのかもしれない」とな。
未来の人間がどれだけ知識を振りかざそうと、歴史の盤上で駒を動かせるのは、その時代に足をつけて生きた者だけだ。
結果を決めるのは情報量や、誰が駒を動かすかじゃない。紛れもなく、『駒自身』なのだ。
「………っ」
………時計は残酷だ。指定時刻まで、残り一分を切る。
…くっ、ふざけたことを言いやがって………。
ぬくぬくとビーチで寝転がり、特に説明もせず新田という輩に会えとは………。
──……大概にしろ……ハル……ッ!!
──…未来人共がッ…………!!
「……だが礼は言うぞハル。俺はまだ終わるつもりではいないからな……」
「え…?」
「それに、アンズと佐野。…お前らも少しは思ったことだろう?」
「何を…ですか…?」 「何をよ…」
「映像の終わり際。ハル背後に、妙な黒服の連中が近づいて──次の瞬間、映像がぷつりと切れた。あの瞬間……。──」
「──少しスカっとはな?」
アンズが俺用に出した試食ラーメンへ、
「…え?」 「え?」
胡椒を…
──ドォバババババババババババババババババッババッバッババッバババババババァァァッァァァッァァァァァッッ──────!!!!!!!!!!!!!!!!!
「はぁあ?!!」
伸び切った麺を一気に…
──ズズズズズッズズズッズズズズッズズズズズズズズズルズルズルズルウウウウウウウウウウウウウッッッ─────!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
──マズイッ、マズイッ、マズイッ
「はぁああああ!!!??? ちょ、ちょっと!? 芹沢さん何してんのよッ!!!」
プハッ!!
「…うん、まずい。だが胡椒で味をごまかしたらウンザリしたスープも飲み込めたじゃないか。……アンズ、これは新境地の扉が開かれたんじゃないのか?」
「はぁあぁぁああああああああああああああああっ??!!!」
──はい、完ッ食ッッ!!!!
「いや私のラーメンっ!!!!! 私の作ったラーメンなんだけどォォォォ────ッ!!!! 何してくれてんのよォオオオオオ────ッ!!!! うわぁあああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うるさいぞプッツン女!! 南国の鳥かお前は…」
……あぁそうだ。
未来は、そこに住む者も建物も文化も、何もかも全てが空疎で最低品質。終わりきっている。
俺も実際にこの目で見た以上、確信を持って言えるものだ。
話は変わるが一方で、臭い消しのコショウはラーメンの風味を飛ばしてしまうと俺は考えている。
にも関わらず、ただ慣習で卓上コショウを置くのは悪臭でしかない。
──つまりは、『未来』とはコショウ同然の、邪智すべき存在なのだ。
「どんなゲテモノでも、カレーをかけりゃ大抵食える代物になる、それもまた事実だ。…スパイスというやつは時として食材の罪まで塗り潰してくれるのだな。──」
「──……俺はこういう誤魔化しの食法を長らく邪道と断じてきたが……さしずめ『邪道』はバカとハサミ同様、使いようというわけだ」
「ふ、ふざけるんじゃないわよぉおおおっ!!!! 私のラーメンんんんんんんんんん~~~~~~~~~~!!!!!」
「あの…アンズさん、ちょっと落ち着いて……」
「もがあぁあああああああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
…だが、それがどうしたという話だ。
どんな最低品質の代物も、少しこちらで手を加えるだけでマシにはなることは実証済みだ。
──この、学食以下のラーメンのようにな…!
「おい佐野!! そいつ係はお前に任せる。…行くぞ」
「え…?」 「はぁ?? そいつ係ぃぃぃ〜〜っ?!」
「時間だ。……忘れるなよ、『百五十八歩』。…きっかり、な?」
「は、はい………!」 「え?? ちょ、いやちょっと待ちなさいよっ!?」
一歩、二歩、三歩………。
足並みをそろえ、俺達は前へと進み続ける。
未来だの何だの…。陳腐なSFごっこを仕向けてきて、ガキの使いじゃないんだぞとは言いたいところではあるが。
俺は一つの『疑念』を、次なるハルへ晴らすため。今はただ、残りの歩数を淡々と刻むまでだ。
「待って…!! 待ちなさいってばぁああ~~~~!! …この……ラーメンハゲエエエエ──────っ!!!!」
疑念。【Question】.
──数多いる参加者の中から、なぜ『俺』に白羽の矢を立てたのか?
未来人が俺に期待を託した、その理由。
ヒントは『汐見ゆとり閣下』が最大の鍵となっているだろう。
──……それは、つまり。──俺が………────。
「……ふん…」
…とな。
◆
………
……
…
「…うぷっ……!! おえっ…」
「あ!! せ、芹沢…さん………!!」
◆
【ラーメン界の第一人者・芹沢達也 〜本日の名言〜】
──コショウは邪道だ。ただし使い方次第では一定の効果あり。
──俺はこういうコショウでの食法を長らく邪道と断じてきたが、さしずめ『邪道』はバカとハサミ同様、使いようというわけだ。
〜バトル・ロワイヤルを経て学んだ『ラーメン道』 アンズメモ〜
①まずいラーメンには胡椒で応戦!! 卓上調味料、バカにしちゃダメ…らしい。
②ということは味噌ラーメン用に卓上に一味唐辛子も見当。ただし、かけすぎには注意よ~!! 辛すぎて口から火を吹いたら…アウト!!
③ハワイのマクドナルドにはラーメンがあるらしい……。何味なの?! チャーシューはさしずめパティかな?
◆
【外部介入】
【ハル(過去改変二巡目)@ヒナまつり 死亡確認】
【1日目/B2/屋台『とんずラーメン』前/AM.05:37】
【芹沢達也@らーめん才遊記】
【状態】嘔吐中、満腹限界(大)、心労(大)
【装備】???
【道具】いくらボール@ヒナまつり(使用済み)
【思考】基本:【生還狙い】
1:アンズの念動力を利用し生還。
2:どんな卑劣な手段を取ってでも生き残る。
3:未来からの使者『ハル』の次なる通信を待つ。ハルのバトロワ攻略法の元、動く。
4:新田義史に会う。
5:…新田。…アンズの陳腐な店に週四で訪れるその男……。なんだこいつは罰ゲーム中か?!
【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:芹沢さん、佐野と協力して打倒主催!!
2:殺し合いを終わらせるほどのラーメンを作りたい!!
3:新田に会う。…待っててね、私が全部疑惑を晴らしてあげるんだからっ…!!
4:『未来』は一体どうなってるわけ………?
5:ばたふらいえふぇくと……。よくわからないけど気をつけなくちゃ!! …今度、瞳に意味を再確認しないと!!
【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『三嶋瞳』がいる渋谷デイリーマンションに行きたかった。
2:…それだというのに、私はなぜ少年の妄想を聞かされていたんだろう。
3:それを芹沢さんたちが真剣な顔で聞いてるのが、輪をかけて怖いんだけど………。
4:【仲間】に会いたい。…できれば来生さんとも…ね。
最終更新:2025年08月06日 18:03