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『Good Morning Bein' Friends!』







「はぁ……っ、がぁッ……はぁ、ぁあッ…………っ」

「……もう、十分だろう。これ以上は危険だ!! オルル!!!」

「あが、あああッ……。ま、まだまだ……まだ触り続けてよッ! ライオス……ッ!!!!」

「……見てられない……。だが君が望むなら……俺は最後まで見届ける覚悟だっ!!! ──行くぞっ!!」


 ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリィィィィィィィィィィィィッ!!!
  ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ──────────ッッッッッ!!!
 ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリィィィィィィィィィィィィッ!!!
  ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ──────────ッッッッッ!!!
  バリバリバリバリバリバリバリィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!
   バリバリバリバリバリバリバリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ──────────ッッッッッ!!!


「ぐううっがああっぁっがばばばっばあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「頑張れオルル!! 呪いなんかに負けるなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「がばばばばばばばばばばばばばばばばばあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァァァァ…………──────。



 ……わたしが二番目に嫌いなのは、眠るとき。
夜がなによりも苦手だった。

ベッドに横たわるたび、瞼の裏から過去が次々と浮かび上がってくる。
イヤな過去、イヤな過去、イヤな過去、イヤな過去、──捨ててしまいたい過去。
何度寝返りしようとも、記憶は色褪せずに蘇ってくる。
……どうせなら羊さんでも飛んでくれればいいのに。いつもいつも跳ねてくるのは、痛みのカタチばかり。
意識がまだ現実に縛られたままの数分間。
夢と現の境界で息をするあの時間が、わたしはどうしようもなく嫌いだった。


 そして、わたしが一番嫌いなのは、自分自身。
どれだけ鍛錬を重ねても、『悪魔の呪い』のせいで何の役にも立たないこの身体が嫌いだった。
今もなお、来生さんも、矢口のヤツも。誰ひとり守れる自信がなく、わたしは足を引っ張るだけな存在でいる。


──あまつさえ、ライオスのことを未だ信じきれず、
──『悪魔()の耐性をつける為』なんて、もっともらしい建前で偽って、
──自分への戒めに、何度も何度も彼の手を取らせ続けている。


そんなわたしが、



 ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリィィィィィィィィィィィィッ!!!
   ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリィィィィィィィィィィィィッ!!!
     ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリィィィィィィィィィィィィッ!!!
       BiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBiliBili
 ──SMAAAAAAAAASH!!!!!!!!!!


「がああっ……っ、があ……がぁぁぁぁ、ぁぁぁ……ぁ。──」



「──(……おと……さ…………お父さ……っ…………!)」



 ──バタリッ……





……どうしようもなく、嫌いだった。







──ᴳᵒᵒᵈ ᴹᵒʳⁿⁱⁿᵍ ᴮᵉⁱⁿ' ᶠʳⁱᵉⁿᵈˢ────!
  ──悪夢の目覚めは、ヤなキミが────。




………………
…………
……


 ──ガチャッ

「あっ!! お、オルルちゃん!!? ちょっとライオスなにしてんのっ?!」

「なに?? なにこれ?! 少し目ぇ離した途端これ!!? ふっざけんなよテメェー!!」

「あ、ハルオにキスギ。……何を言っても言い訳になる。だが俺は正しいことをしたつもりだよ。オルルは呪いの……、」

「言い訳は署でしなさいよっ!! この鎧バカ一代がっ!!!!!」

 ──ガンッ

「ぐへっ」


「いいやコイツを裁く署や裁判所が気の毒だわいっ!!! 即極刑だタコっ!!!」

 ──ヨガ・パンチッ
  ──POWッ!!

「ぐへがっ」




………………
…………
……



 カラン、と石ころを蹴る音。
どこか遠くで、風にちぎれて流れてくるオーケストラの調べ。
ポカポカした日差しが気持ちよくて、意識がやさしくとけていく。



『参加者の皆さん、お疲れさまでした────』

『これより、第一回《死者定時放送》を開始いたします────』

『繰り返します。これより、第一回《死者定時放送》を開始いたします────』



「……なんで君が代流れたかと思ったら、死者放送の出囃子かよっ」

「選曲チョイス、ほんっと舐め切ってるわよねぇ……」


 まるで乳母車に揺られる赤子みたいに、一定のタイミングで揺れ動くわたしの身体。
温かな背中に身を預けている感覚がある。
たぶん今のわたしは、誰かにおぶわれているのだろう。

誰がわたしを運んでくれているのか、重たい瞼が邪魔をして確かめることができない。
ただひとつ確かなのは、わたしはその背にしっかりと腕を回し、安心しきった子どものように眠っているということ。
警戒も恐怖もそこにはない。
少なくとも、敵にさらわれている最中ではないようだった。

……ライオス、なのか。
いや、違う。
もし彼だったなら、あの電撃が身体中を走るはずだ。
来生さんでもない。彼女にわたしを背負えるほどの力はないはずだから。

…………そうなると、このぬくもりの正体は──、


「なぁ来生ハラ減んねぇー? マック行こうぜマック」

「さすがに同意ー……。でも矢口君の場合、今やってるストⅡコラボバーガー目当てなんでしょ?」

「おうよ大正解。胃の中のガイルさんがよー『もう待ちガイルではいられぬッ!!』ってうるせぇのなんの」

「……なにそれダサっ……!」


「つーかもう、ヘットヘトだわ~……。ガキンチョ重すぎ。なんで俺がこんな役割担ってんだよ~オイ~~……はぁはぁ……」

「ちょっと矢口君! オルルちゃん起きてるかもしれないんだから、そういうこと言わないの!!」



──…………。……大っ嫌い。
──……矢口ハルオ。

なにがぬくもりだ。
この男は、廃墟に放置されたゲーム筐体みたいな冷たい性格じゃないか。
男子たるもの、本来もっと凛々しくて、率先して仲間を守る存在であるべきなのに、矢口はなよなよしくてムカっとくる。

大っ嫌い。
大っ嫌い。
大嫌い大嫌い大嫌い、大っっ嫌い。

頭の中はゲームのことばっかで……大っ嫌い。
マヌケ面のくせにわたしにマウントばっかり取ってきて……大っ嫌い。
わたしはかつて、矢口を襲った張本人だというのに、あいつは忘れたかのように許していて…………大嫌い。
勝手に信頼して、勝手に子供扱いしてお守り気取りで、そのくせ文句ばかり。
今だって、ライオスがわたしを気絶させたのは誤解だというのに、事情も聞かずに怒鳴って、置いていってるんだから……。

……ほんとうに、矢口なんかっ、大っきら──、



「よし! だったらハルオにキスギ、『まっく』で一休みといこう。……肉がちゃんと牛だったらいいよな」


────ぃ……。


「は?! なに言ってんの、怖っ……!?」

「口開けばいちいち不穏だなぁ!! ライオスさんよぉ!! ……はぁ、はぁ……」



……嫌いだ。

自分自身のことが、なによりも。



「ところでキスギ、俺は常々……っていたんだが、鍋の……ゼリーの…………」

「…………………るなぁっ!! ちょっともう矢口君~……ライ…………の………………」

「…………ってだろ。お前ぇーは…………」



 この前、悪魔のメムメムが『十年後のわたし』を見せてくれた。
呪いを断ち切り、まっすぐに前を見据えた、『強いわたし』。
……あと何年待てば、わたしはその未来へ辿り着けるんだろう。
そもそも、どうしてこの殺し合いは、……今のダメなわたしを選んだんだろう。



「……………だ!! ちょっと……ててくれ…………………………オ!!」


「…………うする?」


「やらせとけ………………もう……たわ、………………ぜーー………………………」




イヤなことは、成長したわたしに先送りでいいのに。




「…………………だ………………………………なっ!!」




……わたしは、自分の弱さを先送りにするような人間なのに。




「…………………………………、…………………………………………」



みんなのために何の力にもなれないのが寂しい。
積み重なった過去のせいで、人を信じることすら怖くなった自分が虚しい。

他力本願なのはわかっている。
それでも、たまたま通りすがりの誰かがわたしにぶつかって、その拍子に一歩。
ほんの一歩でいいから、人生に転機が訪れてほしかった。



「…………………………………………………………………………………………………………─────────」




眠りたくない。


もう、夢は……、

見たく…………なかっ……た。



…………………………
……………………
………………
…………
……





……毎週、月曜日──。
……朝の四時ちょうど──。
……教会中に響き渡るクラシックの旋律で、憂鬱な目覚めが始まる──。


【Bach: Solo Cello Suite No. 1 in G Major (BWV 1007) 】



 ──“ハレルーーヤ、”

  ──“ハレルーーヤ、ハレルーーヤ、”


 『……はぁっ、はぁ……っ。ハレルー…………──』

 『──……ャ……………』


 バタリッ



 ──ざわ、ざわざわ

  ──ヒソヒソ……


─『どうした、オルル』

 『……お父……さま…………』

─『教会は神聖なる場。神の御前に立ちながら、無礼な態度とは思わないのか。……まさか礼拝歌ひとつ唱えることすら、顔を青ざめさせるほどの苦行だというのか』

 『…………』

─『お前も年頃だ。構ってほしい気持ちは察そう。──』

─『──だが、くだらぬ感情は神を鈍らせ、悪魔を呼ぶ。ルーヴィンス家の末として自覚を持て。──』

─『──さぁ、早く立ち上がりなさい。オルル』


 『…………はい』




……学校で友達を作って──、
……放課後、一緒に遊ぶのが夢だった──。


 ──「ねぇ~オルルって子、いっつも体育サボってない?」

 ──「それな。体弱いアピじゃないの?」

 ──「マジ、知らないの? あいつ悪魔狩り()の子だから休まなきゃいけないんだって~~」

 ──「いやボッチだから組む相手いないだけっしょ。マジうける~~」


 ──「ほんと、あの子すごいよねぇ。外人だからウチらもそーゆーイジリ系で接してあげてもノリ悪いし」

 ──「わかる。めっちゃ塩対応。馴染む気ないなら学校来んなよって感じだわ」

 ──「てかさなんで急にあの子の話?」

 ──「えーー、だって担任の山口が言ってきたんだもん。『あの子と友達になってあげて』って。愚痴りたくなるじゃん?」

 ──「いやそれ聞いてより一層無理になったんだけど~~」

 ──「ほんとそういうとこキツいって~。あはははは~~~」



 『……………………』




……テレビゲームをしてみたかった──、
……漫画も読んでみたかったし、お菓子というものを味わいたかった──、

……あの日々、与えられたのは剣術と魔術、聖なる教養の詰め込みだけだった──。



 ─「オルル様、そろそろお部屋からお出になってください。お稽古の時間で……、」

 『もう嫌ッ!!! ひぐっ……うぅ…………!!』

 ─「…………オルル様、ですが……、」

 『わたしの気持ちなんか分からないくせに……!! プルは黙っててッ!!!!』

 ─「……」


 『なんでわたしだけいっつも……いっつもいっつもこんなことしなきゃいけないのッ!! 悪魔とかもう知らないッ!!! 悪魔狩りのせいで……学校でも家でも辛い事ばかり……!!!──』

 『──もう嫌……逃げ出したい……、嫌なのよ……!! もうっうんざりなのよっ!!! うぅっ…………。──』

 『──うぅっ、うわぁあああああああんっ!! あぁあああああああああああっ!!!!』


 ─「…………お聞きくださいオルル様。お父上様も、表面上は厳格であられますが、そのことを誰よりも気に病んでおられるのですよ」

 『…………ひぐっ、うぅ……』

 ─「……これは、本来お伝えしてはならぬ話なのですがね。内緒にしておいてくださいよ? オルル様。──」


 ─「日曜日、お父上様が遊園地に連れて行ってくださるご予定です」

 『…………え?』

 ─「あくまで気分転換にと。もちろん、悪魔との修行を意味する隠語ではありません。本当の、としまえんとのことです」

 『……ほ、ほんと…………? としまえん!?』

 ─「まるで飴と鞭……と言ったらそれまでですが、愛ゆえの行動というのはまた事実」




……あの頃のわたしは、ただ必死だった──。
……悪魔狩りの末裔として血を守りたいとか、困ってる人を助けたいとか、そういう大層な理由じゃない──。
……ただ、お父様に認められたい──。
……雁字搦めの人生の中で、唯一、あの方に抱きしめられたかった──。
……その思いだけを頼りに、わたしは修行を続けていた──。

……嫌いじゃなかった──。
……お父様のことは決して、嫌いじゃなかった──。




……ほんとに、嫌いじゃなかった──。
……あの頃のわたしはまだ──。




 ─「それまでの一頑張りとして、……いかがでしょう、オルル様」 


 『…………う、うんっ!!』






……『日曜日』が嫌いじゃなかった──────。





 ザァァァァァァァァ……

  ……ザァァ……ザァァァ……


 ─「オルル様。お墓への納骨、完了しました。これにて葬儀はすべて終了でございます」

 『……』

 ─「……雨も酷い。これ以上の長居はお身体に冷えます。さあ、帰りましょう」


 『…………ねえプル。……このお葬式、誰のだったわけ』 

 ─「さあ……私も詳しくは存じませんゆえ。ただ、悪魔狩りとして名を馳せた遠縁の方であることは確かです」

 『……そう。それとさ、あの日。わたしとプルで協力して、初めて悪魔を倒したでしょ。……あの時のこと、切り取られたみたいに何も覚えてないんだけど。なにがあったの』

 ─「さあ……」

 『さあさあ、って……なにそれ。……ねえ、お父様って今も元気にしてる? 願いを叶える悪魔を倒すとか出てって以来、音沙汰ないんだけど』

 ─「…………オルル様、続きはお屋敷で……、」


 『ねえッ!!! 【悪魔狩りで名を馳せた遠縁】って誰なのッ!! 説明してよッ!!! このお墓は誰のなのッ!!!!』



  ザァァァァァァァァ


 ─「…………」


   ……ザァァ……ザァァァ……


 ─「……今は明かせません。オルル様が成長された暁、改めてお話ししましょう」

 『……ッ!!! なにそれッ!!? 明かせない事情ってなんなのよッ!!!!』

 ─「明かせぬものは明かせぬのです」

 『…………いい加減にッ……いい加減にしなさ……、』

 ─「ただ、ひとつだけ答えるなら。お父上様は別れ際、こうおっしゃっていましたよ」



 ─「“オルルが娘で、よかった”────と」



 『………………え……』



 ─「……傘に入りましょう。……ね、オルル様」

 『………………』




 ……ザァァァ………………




……J.S.バッハの《無伴奏チェロ組曲》──。

……冷たい床、重たい空気、祈りを強いられたあの憂鬱な時間──。
……静寂の中で鳴る低音が、胸の傷を撫でるようで、嫌だった──。



……どうして──、
……なんで、よりにもよって──、

……この曲が、あの時のお葬式で流れたんだろう────。




胸に残り離れない苦い旋律が、わたしは嫌いだった。





……
…………


 ポク、ポク、ポク──。
木魚の音が、湿った畳に吸い込まれていく。

南無妙法蓮華経──、南無妙法蓮華経──。
僧の声が、一定のリズムで降り注ぐ。

遺影に映るのは、知らないおばあさん──だったり、若い男の人だったり。
ときには、こちらを睨む警察官だったり。
気づけば遺影そのものが消えていたりもして、視線を逸らすたび、顔ぶれがころころと変わっていた。


 わたしは今、全く知らない人のお葬式にいる。
知らない参列者に囲まれて、知らない家の、知らない和室で。
畳の上で正座して、ただお経を聞き続ける。そんなお葬式。
ふと斜め前を向くと、わたしと同じぐらいの歳の少年が座っている。
青い服を着るその少年のことも当然、わたしは知るよしがなかった。

──そしてわたしは、その『異常』な動きをする背中に、戦慄の一点を突かれていた。


手をこすり合わせながら一心不乱に体を激しくくねらせ、まるで踊っているかのような奇妙な動きをする、その少年。
一体……何者なんだ、あいつは。
近所の子どもなのかも知れない。
仮にそうだとして、誰の許可を得て入ってきたのだろう。
第一、あの水俣病患者を思わせる、狂ったような激しい体のくねりは一体なんなんだ。

絶対に、目を合わせたくない。
本能的がそう告げていた。

いつこちらに気づいて振り返ってくるのか、それが怖くて、わたしは畳に目を落としたままじっとしていた。
でも、どれだけ「見るな」「見るな」と念じても、気づけば顔はそちらに向いていて。
慌てて目を伏せても、次に瞬きをしたときには、また見てしまっている。
まるで、誰かに頭を掴まれて、無理やり向けられているかのように見てしまう。

周りの参列者は誰ひとり気づかない。
何を考えてるかも分からない仏頂面で、前だけを見ていて、……わたしだけがあの得体の知れないものに囚われている。


────そんな『悪夢』を、今見ている。



 ……お父様が魔物討伐で姿を消して以来、この夢を、何十回も、何百回も、何千回も見てきた。
そしてそのたび、何億回も、何兆回も、心の中で「早く目覚めてッ」「早く目覚めてッ」と唱え続けた。

この夢が、なぜこれほどわたしへ執拗に纏わりつくのか、わからない。
アパートの五木杏という子に『夢占い』の話をされたとき、思い切ってこのことを打ち明けようかとも思ったけど、……わたしはしなかった。
夢判断で『不安の現れ』なんて言われるのが、嫌で。
不安で、怖くて。
救いの可能性があったかもしれないのに、わたしは結局告白することができなかった。


  ポク、ポク、ポク──。

   南無妙法蓮華経──、南無妙法蓮華経──。


夢が終わるタイミングはいつも違う。
お経の途中で目が覚めることもあれば、最後まで聞き終えてもまだ続くことがある。
最後の南無妙法蓮華経が流れ、鐘が響く。
──今回は、お経が終わってもなお、夢を閉じてくれない様子だった。


目を食いしばって、現実に戻ることだけを願いながら、
今、わたしは、この悪夢を受け入れ続ける。



 カーン、

  カーン、


 カーン──…………。




「ブラボーっ!!!! いやぁ~、本当に素晴らしい!! 肺活量、音域、響き……どれを取っても完璧な歌声でした!!!!──」

「──ブラボーー!!!!」


 パチパチパチパチ……



「……え?」



 ……あまりにも場違いすぎる一人の拍手に、わたしは思わずビクっとさせられてしまう。
ぽつり、ぽつりと視線が動き、他の参列者たちもようやくその異様さに気づく。
みんなが同じ方向──わたしの隣を、嫌そうな目で見ていた。


──『違う』。


「やっ! やっ! お集りの皆さん……せっかくだしこれもいい機会だ! よければ『コレ』をどうぞ!!」

「…………え」


──いつもの夢と、『違い過ぎる』。



この場で完全に浮いていた、隣の『そいつ』。
うねる少年とはまた違う。
やつは、真面目な伝記映画にティム・バートン映画のキャラが出てきたかのような浮きっぷりだった。

完全部外者のわたしでさえ、いつの間にか黒い喪服を着せられているというのに──その男だけは、鎧に甲冑という信じがたい格好で、堂々と立っている。
周囲の冷たい視線をまるで気にも留めず、ニコニコと『鍋』の中身を切り分け始めるその男。
どす黒く粘ついた何かを参列者全員に配り始め、みな顔をしかめて断るとなれば、
そいつは──、


「……う~ん。……あ、そうそう!! やあ! ……まぁ返ってくる答えは分かっているけど、一応聞くよ」

「……え」



「『首輪型魔物ゼリー』……食べるかい? ────オルル!」


「ら、ライオスっ………………」



────ライオス・トーデンは、わたしに絡み出してきた。





  ──ピッ

  ──BGMチェンジ



「え??! え?!」

「ハハっ。BGMを変えれちゃう自由さが、夢のまた醍醐味だよな。──」


『にしても暗い夢だな……。こういう雰囲気が好きな人もいるんだろうけど、俺は明るい方が性に合うよ』
──等と、ふざけた発言を添えながら。
どこかで聞いたことのあるBGMを、まるで祝福の雨みたいに全身で受け止めだすライオス。
彼は、わたしの怯えた目をまっすぐ捉え、まるで語り部のように延々と話を始めた。


「──ところでオルル。……よく落ち着いて聞くんだ。これから言うことが、どんなに信じがたくても……受け止めるんだよ」

「……えっ……?!」


「──…………実は、今この景色はすべて……君が見ている『夢』なんだ……っ!」


…………。


「……余命宣告みたいな前置きされたから、身構えちゃったじゃない……。そんなこと知ってるわよ……」

「そうか! なら話が早い。……ただ一点、問題がある。──」

「──……いいかい? この夢はすべて、魔物の産物──『夢魔《ナイトメア》』によるものなんだ」

「…………え、…………ま、魔物……?」

「ああ、魔物さ。さてオルル。……よく落ち着いて聞くんだ。これから言うことが、どんなに信じがたくても……受け止め……、」

「そういうのはいいから早く話しなさいよっ!!!」

「あっ……すまない。夢魔というものはね────、」


 「早く話しなさいよ」なんて言ってしまった自分が、どれほど愚かだったか──。
そのことをのちのち思い知ることになる。

葬式の重苦しい空気などまるで気にせず、ライオスはやたらと大きな声で『夢魔』について語りはじめた。
同じ話を何度も繰り返したり、途中で脱線して別の逸話を挟んだり。
どうやら自分の語りに酔いしれているらしく、わたしの反応など一切気にしていない。

ライオスの水でたっぷり薄めたみたいな長話を要すると、夢魔という魔物は、
『ひどく疲れた人間を獲物とする』、
『睡眠中に悪夢を見せて感情を喰らう』、
『悪夢に囚われ続ければ衰弱死する』。
──そして、『取り憑かれた者は、寝息荒くうなされるのが特徴』──という内容だった。


「すなわち、君を助けるため、俺はこの夢の中へはせ参じた……────そういうわけさ」

「…………」



…………なによ、それ。

……分からないっ。
……まったく、分からないっ。



「……わけが、分かんないんだけどっ…………」

「ああ、やっぱりファリンがシュローの夢に入った話はピンと来ないか。まぁ内輪ネタだからね。つまり説明すると……、」

「いやその話じゃないわよバカ!!」

「…………バカはないだろう、バカは……」


わけがわからない……。
それは別に、夢魔というモンスターが突拍子もなさすぎて理解できないとか、どうして人の夢に入り込めるのか、そんな理屈の話じゃない。
ライオスの支離滅裂な説明に反論するつもりはなくて、そういうのじゃなくて、


“『君を助ける』”
────…………ってなに。


「ふざけるのも大概にしなさいよッ!!!」

「……なんだい」



 ……わたしは、この悪夢を何年も何年も見続けてきた。
攻略法も、努力の起点も見当たらない、病んだ悪夢。
だから夢もまた、自分の一部として受け入れ、耐え忍んぶことを選んだ。

……それだというのに、

『助かる方法』って…………なんなの。
わたしは一言だって「助けて」なんて言っていない。
なのに、どうして勝手に弱ってるって決めつけて、救いに来たの。

わたしは耐えられる。
まだ堪えれるというのに、人の気持ちなんて考えることができないサイコパスは、ずけずけと上がりこんで──ッ。
英雄気取りで、わたしを囚われもお姫様みたいに扱って──ッ。


わたしは、こういう人間が一番──ッ。
一番ッ──大嫌いだったッ────。



「なにが救うよっ!!! 人の夢に入ってきて……気持ち悪いっ!!! ……もう嫌ッ!! 帰ってよッ!!! ライオ……、」

「夢ってすごいよなぁ」

「……はぁ?!」

「どんな罪でも許されるしどんな悲鳴も届かない。理屈も、道徳も全部消えていく。──俺はさ、魔物の次に夢を見るのが好きかもしれない」

「……なに言ってるのッ……。は、話を遮るんじゃ……、」

「前に俺、言っただろう? もし仲間を突拍子なく殺してみたら、みんなどんな顔をするんだろうって。──」

「──それよりもオルル。……フフ! ──あの『少年』、面白い動きをしてると思わないか……フハハっ!!!」

「………………え。……な、何を言って……、」


……そんな大嫌いなアイツは、
わたしがここまで、『何』に目を逸らしてたかなんて、まったく察することもせず、



 ──シュッ────パァンッ


「あ…………」



──あの少年の首めがけて、剣を一閃。



「…………よく誤解されるんだが、俺はサイコパスじゃない。人を殺したい衝動も、痛めつけたい猟奇性も俺にはないんだ。──」

「──ただ、ね。──」



宙を舞う、少年の白い首。

たまたま──その顔と目が合ったとき。
顔という顔、頬も額も、すべてに大小さまざまな眼球がびっしりと埋め込まれていた、
無数の瞳孔にわたしが映った、そのとき。



──わたしとライオスの周りを、
──参列者全員が裂けんばかりの笑みのまま、取り囲んでいることに、……気付いてしまった。



『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』
『オメデトウ、オメデエ トウ』『オメデトウ、オメデエ トウ』
『オメデトウ、オメデエ トウ』『オメデトウ、オメデエ トウ』『オメデトウ、オメデエ トウ』
『オメデトウ、オメデエ トウ』
『オメデトウ、オメデエ トウ』
『オメデトウ、オメデエ トウ』『オメデトウ、オメデエ トウ』

『ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ』



「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!」

「ただ、夢となれば殺しも……う~ん、自分でも何が言いたいのか分からなくなってきた。……とにかくオルル、この状況をハルオっぽく言うならこうだよ。──」




「────ここからが『FINAL ROUND』のようだ…………っ!」




……
 ──パッ────
……



「……え。……え?! な、なに……ここは……!?」

「落ち着くんだオルル! 夢はコロコロ場面転換するものだ。そこに意味なんて求める必要はない!」


 ……そんなことくらい、わたしだって分かっている。
ただ、暗いアパートの中にいきなり放り込まれたのだから、驚いて当然だと言いたいだけだ。

……暗闇は嫌いだ。
何が潜んでいるか分からない。
この息苦しさと不安が、どうしようもなく嫌で仕方ない。
大嫌いなはずのライオスに、ギュっと距離を詰めて、不安を和らげようとするほどだった。


「……恐れる気持ちは分かる。だけども、目の前を見失うんじゃないよ。真の恐怖とはそんなチッポケなものじゃない」

「……え、え……?」

「……ッ、ほら、見てくれ……! アレが……君の……『恐怖の化身』だっ!!」



 ──バ……ババ……ッ……

   ……バババババ……バババババババババ……

     ──ババババババババババババババババババババババババババババァァァァァッ──────ッ!!!


『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』


「ひっ!!!? い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!!!」

「…………くっ…………かっこいい…………ッ」


 ……もう、頭が恐怖でおかしくなりそうだった。
真っ暗な夜道の奥から、物凄い勢いで迫ってくる──それ。

式場にいた参列者たちの顔を、ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて焦がしたような肉の塊。
縫い合わされた目と口は、笑っているのか怒っているのかすら分からない。
六本の脚がカサカサと音を立て、ゴキブリのような節足で床を這い、こちらへとにじり寄ってくる。
……あんなのがわたしの心を巣喰っていたのだとしたら、理性が裂けそうになる……。


はち切れそうなほどの鼓動。
防波堤も軽く飲み込む心の波。

これのなにが『正シイ選択』なのか……。
ライオスは、こんなものを見せつけるためにやってきたというのか……。


わたしは…………。
わたし……はッ──────!!



「ただ一つ文句をつけるとしたら──アイツはあまりに……かっこよすぎるっ!!」

「……は…………?!」

「いや、なんというかね。俺のような魔物研究家は……なんだろう。もう少しお手頃な見た目の魔物が好みなんだよなぁ~。──」

「──……あそこまで見た目が奇抜だと……う~~ん、まるで『げーむ』の一面ボスのような滑稽さがかえって出る。──」

「──ハハ、俺の言いたいことが分かるかい。考えてみればここは君の夢の中。地の利は得ているわけさ。つまり、」


「……え?」



…………わたしは、
今、気づいた。

ハっとさせられた瞬間は、ライオスの言葉。
『ここはオルルの夢の中』。



「攻略可能な相手だとは思わないか? あの、恐怖の対象が!」


「………………え」



夢の中とは言え、
──わたしはライオスに触れてもまったく『感電』せず、

────悪魔の呪いが発動していなかった。




「……不思議だと思うか?」

「……えっ?!」

「そうだな、不思議なものさ。あれほど嫌っていた首輪魔物ゼリーが、この場になると何故だか恋しくなる……、」

「いや黙れバカ悪魔!!!」

「………………。……まぁいいや、──」


「──オルル、これは俺の持論だ。人間は恐怖に抗うことができない。……それは俺も同じだ。俺にも怖いものがあった。逃げ出したかった。──」

「──……ただ、厄介なことに人ってのは、恐怖を乗り越えなきゃ生きていけないんだ。……まるで食と一緒だね」

「…………なにが言いたいのよ……」

「そこでだ! 今回は特別に、古今東西有史以来……ありとあらゆる『恐怖』に打ち勝つ──『二つ』の方法を教えよう!!」

「……え」


「一つ目は──恐怖に向き合って戦うこと!!──」

「──……とは言っても、ただ孤高に戦えとは言わないぞ。そんなことができたら、そもそも相手は恐怖の対象じゃない。──」


「────心から信頼できる仲間と、一緒に戦うんだ」


「…………え、仲間…………?」



「さっき言っただろ? 『地の利は得ている』って。ここは君の世界、君の夢、──そして君の明晰夢だ。明晰夢は強く念じればなんでもできるワンダーランドなんだよ。──」


「──例えば俺を『別の信頼できる仲間』に変えること、だってね」

「………………え」

「……どうやら君は、まだ俺を信頼できる仲間とは思ってないよう……だから、さ……」



……な、なに言ってるんだろう。
『信頼できる仲間』って。
そんなこと、急に言われてパっと思いつくものじゃない。
そもそもライオスの持論を真に受けるのもどうかと思うし、
……ていうか、ライオスが自分のことを多少なりとも客観視できてたことのほうが衝撃なんだけども…………。


  ──バババババババババババババババババババババババババババババババババババッ──────


『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』
『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ』『ソレ ガ 正シイ 選択 ダダダダダ…………』


「……ッ!!」


今はあーだこーだ理屈をこねてる暇はなかったッ──────。




「じゃ……じゃあ、ライオス!!! お願いッ!!! わたしが一番……、──」

「──いま一番求めている人の姿に変身してッ!!!!」

「……望むところさ!!」



光が滲み、視界を白く染めていく。
大嫌いだったライオスが、その姿を、ゆっくりと光の中へ溶かしていく。

ポンッ。

眩しい閃光が収まったとき──そこに立っていたのは、



 ──指パッチン

  ──BGMチェンジ





────『矢口ハルオ』……だった。




「……ふぇっ?!」

「…………え?──」


「──……ハハハ……そりゃ、言ったもんな……。『わたしが一番求めてる人の姿に』って…………。ハハ、ハ……」

「なっ!!? ななナナナナナナ、なななああああ~~っ?!! ち、違うわよっ!!? 的外れな想像しないでバカ!!!!」

「……ハハ……」


………~~~~~~~~っ!!!!
なにこれなにこれなにこれなにこれ、なによこれぇぇぇぇぇっ!!!?
これじゃ……まるで──
わたしが、あのバカ矢口のことを想ってるみたいじゃないの!?

って、ライオスなにドン引いてんのよ!!
異常者の癖に、ヘンな目で見てくんなああああああああ!!!!


「……まぁいいさ!」


まぁいいで片づけるのも腹立つわっ!!!



「うん。これにて役者は揃ったことだ。……ムードも高まってきたことだし、俺からも追加オーダーさせてもらうよ」

「えっ?!」


「出てこいっ! 『トリオ・ザ・パンチ』のチンさん!!!」

 ──POW!!
『お呼ばれ したのぢゃ』



「続けてもう一体!!! 『チェルノブ』の主人公!!!」

 ──POW!!
『タコと原発が嫌いだ』



「最後に、『カルノフ』の主人公!!!」

 ──POW!!!
『暗黒の帝王を打ち倒す!!』



「以上三体!! たのしい仲間がPO・PO・PO・POW~~!! 彼らはね、ハルオの心から分かり合える『仲間』だそうだ」

「はぁ??! なにこの人たちっ!!?」


 左から順に、
生首みたいな中華風なおじいさん、仮面ライダーっぽい人と、上半身裸の太ったおじさん……。
無からPOWと現れたこの三人が、矢口の心の友だなんて絶対に信じたくない……。
──いや、矢口の性格上、それがありえることに何よりもムカムカするわっ!!!


「さぁオルル。あとは君だよ。君が仲間たちに命令して、恐怖に打ち勝つのさ」

「えっ?!」

『うむっ』 『笑止』 『ほっほっほ』


……しかも決定権はわたしにあるという始末。
ここまで好き放題しておいて、責任者はわたしってこと……!?
…………わからない。
わからないわからないわからないわからないっ!!! わからないっ!!!!
こんなヘンテコな連中使って、どうやってあの悪魔に勝てっていうのよ!!!


──ほんとにもう、このライオスのことがぁ……、


「じゃ、じゃあチェルノブ!!! 恐怖の化身に……攻撃してっ!!!」

『──了解────。フンッ!!!』

「おおっ!! 凄い!! 果敢に飛び出していったぞ!! さすが『げんしりょく』のヒーローだ!!!──」

「──……いや、待て……『原子力』…………。そうだぁ! 閃いたぞ!! ──オルル、そしてカルノフ」

「え?! な、なに……」 『むっ』

「恐怖に打ち勝つ『第二』の方法……。それを今教えたいんだけども……いいかい?」

「…………え?」

「恐怖を栄養として捉え……我が血肉とし喰らい尽くす……その方法は……、──」

「──カルノフ!! チェルノブに向かって火吹き攻撃だっ!!!」

「はぁああ?!!」 『……了解』



──……というか変な仲間しか出せない、脳みそアーケードぱっぱら~な…………、


「──方法は実にシンプル!! 『恐怖以上にぶっ飛んだことをする』っ!!! それだけさっ!!!!!」


──矢口のことなんかっ、大嫌いだっっっ!!!




『私は原子力発電所の爆発で生まれたヒーロー・チェルノブ!! 恐怖の化身よ。貴様などに、負けるわた……、』


ドッッッッッッッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァンンンンンンンン──────────ッッ!!!
バガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──────────ッッ!!!
ズッヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア──────────ッッ!!!



………………
…………
……



 仰向けに見上げる青い空。光る太陽。
浮かぶでも、落ちるでもなく、空中に『放り出された』という感覚がやけに生々しい。

わたしは今、大空のもとで急速に降下している。
核爆発で吹っ飛ばされたというのに、身体は無傷。五体満足。
……夢ってものは、ほんと侮れなかった。
ふと下を見れば、整然と並ぶビル群。
都市の中心で、天を貫くようにそびえる東京タワーが見えた。
このままの落下速度なら。あと数十秒で、わたしの腹部はその鉄の先端に突き刺さる。
ちょうど串刺しだ。


 ……きれいな、空。
あれだけ怖かった葬式会場が、まさかこんな晴天の下で行われていただなんて、今まで知る由もなかったなぁ……。

うるさいはずの風を切る音が、なんだか耳心地よく感じる。
強風ではためく三つ編みも、服もドレスも、生を撫でられるみたいな感覚でわずらわしくない。

数十秒後の死なんてもう恐れず、
わたしはただ、空をぼんやりと眺めていた。
ほんとうに、ぼんやりと。

ぼんやりと────。



「よ、オルル」

「…………」



……なんだ、まだいたんだ。
矢口──……じゃなかった、ライオスもまた、同じように落下しながらわたしの隣で話しかけてきた。


「……あーいいぜいいぜ? 俺のこと矢口って呼んでも。別に構わねーだろ夢の中だし」

「……こわ。心読んでこないでよ、もうっ…………。──」

「──(ていうか、口調まで矢口っぽくなってるのが余計怖いわっ……)」


「あんさ、せっかく……っつうか夢の中だし。俺……てか矢口に普段言えないこと、吐いてみたらどうよ?」

「……は?」

「大丈夫だって。誰にも言いやしねーからさ。ほれ、なんか不満とかあんだろ?」

「…………」


……不満、なんて。いっつも対面して喋ってるじゃん。
そんなことで、いつ覚めるか分からない夢の時間を無駄にしたくない。

……わたしが、矢口に言いたいのは──、


「じゃあ、命じるわ」

「あ? 命じるぅ~??」


「わたしをもう二度と見くびるなっ!!! ついでに騎士長様って呼べっ!!! お前のその舐め切った態度がうんざりしてたのよ!!!──」

「──『私めを貴方様の甲冑の一部にしてください』と言えっ!!! 『一生右腕としてお仕えします』と宣言しろっ!!!──」

「──わたしを立派な騎士長として崇拝し……そして一生っ!! 一生しもべとして。わたしが死ぬまで共に年を重ねろっ!!!!──」


「──それくらいしたら貴様を認めてやらんこともないっ!!! …………どうよ、引いた? これくらいあのバカにはイライラしっぱなしよ……」

「…………ほーん。……けどオルルさんよぉ」

「ダメ!! 軽口禁止!! ここはわたしの夢なんだから従いなさいよ!!」

「『オルルが死ぬまで共に年を重ねろ』って……。悪ぃけどそれだけはできねー相談だわ」

「だから軽口禁止ぃっ!!!」

「老衰でもなんでもいいけどよぉ。んじゃオルルが仮に死んだあと、俺ァどうすりゃいい? すぐ自殺しろってか?」

「はぁああ?! 自殺!? ふざけんじゃないわよ~!」

「だよな。俺がオルルよりも先に死ぬ。そんだけだぜ」

「…………へ? ……な、なに言ってんのよバカ!!! ……意味がわかんな……、」



「オルルのいない世界なんて、生きてる価値がねぇな」




──。

────────。


…………いつから。

どのタイミングで、
矢口はわたしの身体を抱きしめていたんだろう。

……わたしなんて、今気づいたばっかだというのに。


……。



東京タワーの赤い鉄骨を横目に、
わたしはあたたかい胸の中で、そっと目を閉じた────。



………………
…………
……





 夢を見た。

夢の具体的内容は誰にさえ話すつもりはない。
カウンターでハンバーガーを食べるライオスにも、ソファで寝ている来生さんにも、
…………そして、あいつにも。



「夢魔? 夢の中? ……なんだい? その話は……?」

「……え? だ、だから貴様は入っただろう!! わ、わたしの夢で……ほら!! お葬式の!!」

「…………? いや待てよ……夢魔か……。あれは第七階層以下を生息地にしてるから、シブヤにはいないはずなんだよ」

「…………え? ……え?」

「それにしてもオルル……。──ぐうっ!! 感動した!!」

「……ひっ?!」

「うぅ……! やっと君も魔物に興味を持ってくれたんだね!!! 俺はねェ!! 朝まで魔物と語り合える子を求めてたんだよっ!!」

「はぁ?! 勝手に仲間にすんなっ!!! てか握手してこないで!!! 痺れるから……、──あぐわっ!!!!」



……夢魔の話をしたとき、ライオスの顔が不自然にピクつかいた気がしたけど、……あの反応はなんだったのか。
それとも、見間違いだったのか。
この人はめちゃくちゃな思考回路の人間だから、まるで心を読むことができない。

でも、……うん。
なんだっていいや。


「………………ねえ」

「なんだい? オルル」

「……バカ。貴様には話しかけてない」

「…………そうか。ハハ!」



これから先、眠るたび。
また、あの葬式の悪夢を見るかもしれない。
何度も何度も、わたしのうつつ枕の中で、あの少年は付き纏ってくるかもしれない。
夢での体験で、恐怖とはきっぱり切り離せたという自信はなく、
……そう考えれば、体験したスケールに対して成長の度合いが少なすぎだろ、ってことかもしれないけど。

それでも、夢に入るまでの、あの数分間。
嫌な過去に抗う気持ちだけは、胸を張って断言するつもりだ。
わたしはそう信じたいし、……そして矢口たちのことももっと信じたい。



夢で見たラストは、『わたしの中にいたあいつ』との、二人だけの秘密だ────。




【オルル・ルーヴィンス@悪魔のメムメムちゃん 第一回放送通過】
【ライオス・トーデン@ダンジョン飯 第一回放送通過】
【矢口ハルオ@HI SCORE GIRL 第一回放送通過】
【来生@空が灰色だから 第一回放送通過】




【1日目/B4/マクドナルド店内/AM.06:20】
【ライオスさん隊】
【オルル・ルーヴィンス@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】首輪解除、右手裂傷(中/包帯処置)、全身の痺れ(軽)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:矢口、来生さん、ライオスと行動。……忌ま忌ましいメムメムの言葉を借りるなら『できる範囲で』守り切るつもりだ。
2:過去と決別したい。
3:……矢口を見ていたら、鼻の奥がツンと痛い。

【ライオス・トーデン@ダンジョン飯】
【状態】健康、首輪解除
【装備】鋼の剣『ケン助』@ダンジョン飯
【道具】クリスマスプレゼント・電マ@わたモテ、うなぎゼリーの鍋
【思考】基本:【対主催】
1:ハルオ、キスギ、オルルを守る。
2:主催者を倒し、ゲームを終わらせる。
3:キスギが特に気に入っている。彼女はシュローの親戚なのかもしれない……。
4:ハルオは心の師匠さ。ゲームのことはなんでも教えてくれるよ! データイーストの話とか!!

【矢口ハルオ@HI SCORE GIRL】
【状態】睡眠中、首輪解除、頬に切り傷(軽)、腹部裂傷(軽)、ダルシム@スト2技ラーニング
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:Zzz。
2:うげへぇ~~~……うーーん、インド人を右にぃ~~。

【来生@空が灰色だから】
【状態】睡眠中、首輪解除
【装備】アーミーナイフ@大東京ビンマニュ
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:Zzz。
2:……来んなぁ……ライオス近寄ってくんなぁ……う~~ん。



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077:『違うそうじゃないっ ライオス
077:『違うそうじゃないっ ハルオ
077:『違うそうじゃないっ 来生
最終更新:2025年11月23日 11:10
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