I am(後編)◆7pf62HiyTE
PART.4 バトルルネッサンス
早乙女乱馬にとって一番の好敵手といえば誰であろうか?
乱馬はここに至るまで数多の強敵と戦い続けその殆どに勝利していた。本人自身格闘と名がつけば負けたことが無いと口にし、実際に勝利し続けてきた事からその実力が確かなものなのはおわかりいただけるだろう。
その強敵の中でも一番の好敵手と言えるのは響良牙であると考えて良い。
良牙は元々家族全員が重度の方向音痴である事を除けば至って普通の家庭で育った普通の人間である。
乱馬やあかねの様に格闘家の家系であるとか道場があるという事も無く、シャンプーの様に武術に長けたある村の一族という事も無く、
パンスト太郎の様に生まれた時に呪泉郷の水を産湯として浴びた事で怪物へと変身する力を得たという事も無い。
つまり、ある意味で言えば上記の4人、いやそれ以外の知り合いの大半は幼少の頃から格闘家としての特異な背景を持っていたと考えて良いだろう。
だが、良牙はそうではない。方向音痴であったお陰で旅やサバイバルに適した力を得たがそれは格闘と直接関係があるとはいえない。ある程度の力は持てても所詮はその程度レベルでしか無い。
恐らく本人は決して認める事はないだろうが高校においての乱馬との出会いが無ければ今の良牙の姿は無かったと言っても良い。
それこそあかねやあかりとの出会いすら無かったであろう――
良牙が通っていた高校で2人は出会った。
『きさま……名をなのれっ!!』
『早乙女乱馬』
『早乙女乱馬、カレーパンの恨み忘れんぞ』
その後も度々昼食のパンを巡り争い続け、ある時勝負をする事となった。
だが、良牙は方向音痴故に約束の場所(良牙の家から一直線に500m進んだ所にある空き地)に来ることが出来なかった。
その後中国に渡った乱馬を追い良牙自身も中国に渡ったが――
そこで(乱馬と玄馬の所為で)呪泉郷に落ち黒い子豚に変身する体質となったのだ。
良牙にとっては悲劇としか言い様の無い話だ。だが、幸か不幸かあかねは黒い子豚状態の良牙をとてもよく気に入り、Pちゃん(PigのP)と名前を付けて可愛がってくれた。
ちなみにあかねはPちゃんの正体が良牙である事を知らない。また、あくまでもあかねは良牙の事を『良い人』あるいは『友達』として好意を持っている事を付記しておく(つまり恋愛感情は皆無といえばわかりやすい)。
その経緯もあり、良牙は度々乱馬に果たし合いを挑んだり、あかねの元にPちゃんとして戻ってきたりしていたのだ。
更に言えばあかりとの出会いに関してもブタが関係している。
ブタが大好きなあかりが初めて好きになった男性、それが良牙だったのだ(その切欠自体は彼女の家で育てているブタ相撲の横綱カツ錦に勝ったからなのだが)。
当初はブタ呼ばわりしていた事からからかわれている(あかりにしてみれば悪意は皆無でむしろ最大級の賛美のつもりなのだが)と思った良牙は彼女の好意を信じることが出来なかった。
だが、切欠はどうあれ彼女が本気で良牙に好意を向けているのを理解した良牙は自身の体質を許してくれるならとも考える様になった。
そして彼女は良牙が豚に変身する事を知っても変わらぬ――いやむしろ理想の男性と断言したのだ。その後も順風満帆とはいかないまでも2人の付き合いは続いている。
なお、良牙はあかねへの想いを諦めているわけではない。
だが、これらは全て乱馬との出会いがもたらしたものである。
同時にその出会いがあったからこそ度々良牙と乱馬は勝負を繰り返していた。
時には乱馬の圧倒的な力になすすべ無く敗れた事もあった、だがその時は良牙自身が修行し強くなった。
時には良牙が習得した技で乱馬を打ち破った事もあった、だがその時は乱馬自身がその技を習得した上で良牙を倒した。
象形拳を極めしジャコウ王朝のライムとの戦いの時、その力と打たれ強さに圧倒されてはいたが、
『スピードは乱馬ほどじゃねぇや! ふっ、乱馬よ……貴様との日頃の小競り合い、結構役に立ちそうだぜっ』
そう良牙は考えていた。このことからもわかるとおり、乱馬との戦いが無ければライムに勝てる道理も無かっただろう。
乱馬との戦いが良牙をここまで強くしたという事だ。
森の中を赤い影が飛び回る、その中央には良牙が身構えている。
「どこだ……どこから来る?」
次の瞬間、良牙の背後にゼクロスが現れその拳を――
「ぐっ!!」
良牙は今一度両腕を組み防御姿勢を取りゼクロスの繰り出す拳を受け止める――
だが、そのまま後方数メートル飛ばされ樹木へと身体を叩き付けられた。
一方のゼクロスは次の一撃で決めるべく良牙へと迫るが、
「獅子咆哮弾!」
良牙の両手から気の塊が飛び出しゼクロスは僅かに後方へと押し戻された。
「まだ……戦うというのか……」
「テメェの一撃なんざ全く効いてねぇんだよ! 小学生に蹴られたぐらいのもんだ!」
そう言いながらゼクロスの眼前に迫り、
「爆砕点穴!」
ゼクロスのすぐ足下の地面を爆砕し土砂を吹き出させ、
「でりゃぁ!」
すぐさまその背後に回り込みその顔面へと拳を叩き込む。だが、ゼクロスは敢えて避けようとせずそれを受け止める。
「……この程度か?」
そのまま良牙の両腕を掴み高く放り投げた。
「がぁっ……」
そして空中を舞う良牙にゼクロスが接近してくる。
「ちぃっ……獅子咆哮弾」
だが、ゼクロスが仕掛けてくる前に良牙は再び気の塊を放出しゼクロスに命中させると共に体勢を立て直し地面へと着地した。
それでもなおゼクロスが迫るが、
「爆砕点穴!!」
完全に迫る前に地面を粉砕し吹き上がる土砂を直撃させると共にそれを目くらましにしてゼクロスとの間合いを維持していく。
「(ちっ……確実に入った筈なのに全然効いてねぇ……いや、パワーに打たれ強さだけじゃねぇ……スピードまで乱馬以上となると……)
おい、エターナルの時に使った武器はどうした!?」
「必要無い……」
「(しかもあの野郎……一応殺す気はないらしく、あれで手加減してやがる……そして仮面ライダーは本気を出したコイツ以上……どうやらコイツに勝てなきゃどうにもならねぇのは本当らしいな……)」
強がってはいても良牙の受けたダメージは決して軽くはない。爆砕点穴の特訓などのお陰で凶悪的なまでの打たれ強さを身につけてはいてなお全身に痛みを感じている。
いや、むしろその逆、その特訓で打たれ強さを身につけていなければ既に気絶させられていただろう。
「お前の方もその技(爆砕点穴)を何故俺に直接打ち込まない?」
「それで倒させるつもりもねぇんだろ?」
良牙はこう答えたものの実際は効果が無いからだ。
爆砕点穴は万物に存在するという爆砕のツボを押す事で文字通り爆砕する技だ。だが本来は土木用の技故に人体には全く効果が無い。
つまり(全身の殆どが人工物故に実際の所は不明瞭だが)ゼクロスに使っても効果は無いと考えて良い。
とはいえ実際に出来てもそれをそうそうさせてくれる相手とも思えないのもまた事実。
「(やはり泣いているか……)」
ゼクロスの視線には彼にしか見えない女性がまたしても涙を流していた。
こんな戦いなど望んでいないかの様に――
「(……俺にもわからん……何故戦っているか……)」
実の所ゼクロス自身も何故良牙と戦っているのかがわかってはいなかった。
そもそも、良牙一人が生きようが死のうが今更どうでも良かった筈なのだ。
だからこそこのまま一人行かせても別に構わない筈だった。
だが去りゆく良牙の背中を見て思ったのだ。
――カメンライダーに遭遇すればなすすべ無く殺される――
エターナルになすすべ無く倒される良牙の姿、そしてカメンライダー1号と2号によって仕留められたミカゲの姿が重なった。
そう思った瞬間、身体の方が勝手に動いていた。
だが頭でも考えなかったわけではない、理由はわからないがこの男を奪われたくは無いと――
普通の人間の身体を奪われても喜び、怒り、悲しみ、楽しみの感情を浮かべ話す男――
自分同様奪われまいとする為に戦おうとする男――
そして何より、自身が失った『名前』や『記憶』を取り戻す切欠を与えてくれたこの男――
このやり方を女が望むわけがないのはわかっている。だが、他にどうすべきかわからなかったのだ――
勿論、その命を奪うつもりは無い。故に武器は一切使わず力と技だけで良牙を無力化させるつもりだ。
重傷を負ったとしても例の苔の力を信じるならば十分治療は可能だろう。どうせほぼ全身改造された自身には無用の長物だ。惜しくは無い。
それに別の目的もある。調整不足故に不調のこの身体、どこまで出来るかを再確認する意味合いもある。
後に控えるカメンライダーとの戦いで突如不全に陥っては只奪われるだけだ。
その相手として良牙はある意味適当な相手と言えよう。
「行くぞ……!」
木々が倒れ、地面から土砂が吹き出す音が幾度となく響き渡る――
「爆砕点穴、ていっ、爆砕点穴、でりゃ、爆砕点穴、だりゃ」
良牙が次々と地面を粉砕、木々を折り倒してはゼクロスに投げつけていく。
ゼクロスの猛攻を受けては勝てないと考えた良牙は爆砕点穴で吹き上がった土砂を盾あるいは目くらましにしつつ木々を投げつけゼクロスを足止め兼攻撃を仕掛けていた。
「ぐっ……これじゃ乱馬みたいな戦い方じゃねぇか……」
思い返すのは乱馬の姿だ。
乱馬は爆砕点穴と強靱な打たれ強さを得た自身に対抗するべく敵前大逆走を――
要するに逃げながら反撃手段を考えようとしたという事(但し玄馬に言わせれば案外難しいとのこと)だ。
あまりにも卑劣な手段を自分自身が似た様に使ってしまっている状況に憤りは感じるが四の五の言ってはいられない。
「だが奴を倒す方法はわかった……」
とはいえ、あの打たれ強いゼクロスを撃破する方法は一応浮かんだ。
勝算が高いとは言えないが十分に試してみる価値はあるだろう。
と、そうこうしている内に良牙の背後に川の流れる音が響いてきた。
「川……水を浴びると子豚になるんだったな……逃げ場は無いという事だ」
良牙は丁度川岸に追い詰められた形となった。
川に落ちる、あるいは攻撃の余波で川の水が飛び散り良牙にかかった時点で子豚となり戦闘は終了となる。
「逃げる? 悪いが俺も次で決めさせて貰う」
そう言いながら近くにあった大岩と移動する過程で確保した巨木をそれぞれ片手に抱える。
「……!」
そんな良牙の反応などお構いなしに無言でゼクロスは叩く飛び上がる。
「今だ!」
良牙は空高く大岩と巨木を放り投げた。
「何処に投げている……?」
だがそれらはゼクロスから大きく外れていく。一方のゼクロスは両腕を構えポーズを取り、
「ゼクロス……キック」
右脚を光らせた状態で蹴りを決めるべく良牙へと迫っていく。
無論、その直撃を受ければ良牙であっても致命傷なのは明白だ。
だが、ゼクロスは良牙自身に当てるつもりはない。良牙の足下の地面に直撃させその衝撃だけで川へと落とす算段だ。
光るタイミングは十分に測ってある。着弾タイミングで光が消失することは無い。
例え爆砕点穴あるいは獅子咆哮弾で迎撃しようともその攻撃ごと打ち破れるだろう。
一方の良牙はゼクロスの右脚が光ったのを見て危機を察知する。
普通のパンチやキックならば爆砕点穴か獅子咆哮弾で目くらましをすれば済むがあのキックではそれごと打ち破られる。
「まずい……」
ゼクロスの力を見誤った――良牙は自身の失策を呪った。
そしてふと考えた。もしかつて自身の腹部に描かれた拳印が描かれたままなら十分対抗できたであろう事を――
が――
『マヌケなラクガキ。』
『バカみたい!!』
自身(但し、Pちゃん状態)の腹部のラクガキを見たあかねの反応を思い出し、重く沈んだ気持ちになっていく。
「! 待てよ……!」
そして何かに気づき再び意を決し、
「獅子咆哮弾!!」
両腕から気を塊を放出――但しその方向はゼクロスでは無く地面――
本来、獅子咆哮弾は爆砕点穴同様の土木技である。爆砕点穴よりも大量の岩石を一度に吹き飛ばす程の力を持っている。
そして、今良牙はかつて遭遇した自身にとって不幸な出来事を思い出し重く沈んだ気持ちとなった。
獅子咆哮弾は不幸などといった重い気を打ち出す技、それゆえ不幸であればある程その力を増す技である。
故に、今はなった獅子咆哮弾は先の戦いではなった完全版ほどではないものの絶大な力を発揮するということだ――
「何……!!」
獅子咆哮弾で砕かれ舞い上がった土砂がゼクロスへと降りかかる。無論そのダメージ自体は大したものではない。
だが、地面に着弾する直前、ゼクロスの右脚の光が消失する。大量の土砂により勢いを大分相殺され、さらに地面が崩された事で着弾タイミングが遅れてしまったのだ。これでは通常のキック程度の力しか発揮しない。
その一方、良牙の姿が消失した事に気が付いた。まさか川に落ちて自滅したのか? そう思いながらゼクロスは周囲を見回すが
「爆砕点穴!!」
次の瞬間、自身に石の雨が降り注いできた。
「まさか……さっきの岩は……」
この瞬間、ゼクロスは良牙の狙いに気が付いた。
良牙が最初放り投げた大岩、それは自身のキックを爆砕点穴などで目くらまししつつ回避した後、そのまま高く飛び上がり空中で岩を粉砕し砕かれた岩石群をぶつける為のものだったのだ。
「! だとすれば……!」
となると最初に放り投げた巨木は何か?
「これで終わりだ、■■■!!」
次の瞬間、胸部に強い衝撃を感じた。
「がばっ……」
遠い視線の先に巨木が落ちていくのが見える。だが、良牙の投げた軌道からは外れている――
そう、爆砕点穴を決めた後そのまま巨木の方へと向かい、巨木を足がかりにして再び跳んでその勢いでゼクロスに蹴りを叩き込んだのだ。
無論、それをもってしてもゼクロスの受けるダメージは通常なら軽微である。
しかし今のゼクロスはエターナル戦での負傷により胸部を損傷しており今現在もそのダメージを完全に回復させたわけではない。
そこに強力な一撃を――
「だりゃ!」
いや、更に拳を叩き込んだ。いかに強靱な肉体を誇るゼクロスといえども負傷した所に立て続けに強力な一撃を叩き込まれたのだ。ダメージが通らないわけもない。
「どうだ、思い知っ……たか……」
と勝ち誇る良牙だったが、自身のいる位置に気が付き再び我に返る。
「あ゛!!」
両者の攻防が繰り広げられたのは川岸、そこで相手を蹴り飛ばしてみろ。そのまま川に落ちてしまっても不思議ではあるまい。
そう、良牙とゼクロスは既に川の真上まで跳んでしまったのである。
ゼクロスには飛行能力があるとはいえ良牙の猛攻でほんの一瞬意識を飛ばしてしまった。
故に――
ぼっちゃーん
PART.5 I am
「全く、酷い目に遭ったぜ」
「……」
ゼクロスが意識を取り戻した後、2人は再び岸に戻り双方共に元の姿に戻り十数分前と同様に面と向かい合う。
「それで……また俺を止めるつもりか?」
その良牙の問いに対し男は瓶を投げ渡す。
「……こいつは?」
「傷が重いのなら使え……その説明が正しいかまでは知らんが……」
その瓶『生命の苔』と書かれた瓶の中には苔が入っている。
「まさかこいつがここにあるとはな……」
「……? 知っているのか……?」
「ああ……」
それを語る良牙の顔はどことなく遠い目をしていた。
流幻沢の森に沸く泉、それは生命の泉と呼ばれるものだった。
その森にあった動物園から脱走した珍獣がその水を飲むことにより次々と巨大化し森へと棲み着いていった。
さて、あかねはかつてその森に迷い込んだ時に巨大化した珍獣に襲われた事があった。
その時に森を管理していた真之介に助けられたがその際に瀕死の重傷を負った。
幸い生命の泉の水のお陰で一命を取り留めたもののそれ無しには生きられない身体となったのだ。
そんなある時、生命の泉が枯れるという事態が起こる。これは珍獣達の危機でもあり、真之介の命の危機でもある。
助ける方法は1つ、生命の泉の水源は珍獣中の珍獣ヤマタノオロチの巣、そのオロチの身体に生えている苔のエキスが水に溶ける事で生命の水となる――
つまり、その生命の苔こそが生命の水の源であり真之介の命を助ける為に必要なものだったのだ。
そしてあかね、良牙、乱馬、真之介、真之介の祖父の5人は泉の水源を塞ぎ枯れさせたオロチに挑み無事に苔を手に入れオロチの方も再び眠りについた事で泉も元に戻ったのだ。
(注.ちなみにあかねはPちゃんが来ていた事に気付いていても良牙が来ていた事には気付いていない)
ともかく、手に入れた苔は真之介の古傷を消し完治させたのを良牙(Pちゃん状態)自身間近で確認している。それを踏まえれば苔の効果は絶大と言える。
「……だがそれを使う程、傷が重いわけじゃない。あんたが持っていろ」
良牙は男に瓶を投げ返す。
「……俺に効くものではない……」
「俺が動けないほど重傷負っていたら俺自身使えない、それに……」
そこで出会った真之介、彼はあかねに好意を持っており何度も告白した。(注.何度も告白したというのは真之介のもの覚えが悪い為でしか無く、最終的には告白した事すら忘れていた。)
一方のあかねの方も真之介の告白に対しまんざらでもない様な反応を見せた。それは決して『お友達』の域を出ることの無い良牙にとっては羨む事である。
実際の所は助けられた時に瀕死の重傷を負い、その傷が元で死にかけていたからその責任を感じてというのが真相ではある(とはいえ好意は確実にあった)。
そしてオロチに単身引きつけ危機に陥ったらんまを助けに行く時、
『乱馬を助けに行く!! あたしの許嫁なの!!』
そうはっきりと言い切ったのだ。
「……それでも俺はあかねさんを守り抜くぜ、決定的にフラれてわかった……それでも後悔しないぐらい好きだって……フラれたって平気だ……平気だよぉぉ~~いおいおいおい」
「……大丈夫か?」
どこか儚げかと思ったら突然泣き出す良牙に対し流石に声をかけてしまった男だった。
「……そういやアンタ、さっきの技は未完成なのか?」
「さっきの技……ゼクロスキックの事か?」
「ああ、光ったと思ったら消えたみたいだったからな。未完成の技を使ったんじゃないかと思ってな……」
「……只の調整不足だ、万全な状態ならこうはならなかったが……随分と衰えてしまったらしい……それでもまだ十分に戦える……」
そう答える男であったが、
「調整……ああ、バダンに身体をどうこうって言っていたな」
「そうだ、もう長いこと調整を受けていない」
「だが記憶を奪った連中の所に戻るつもり無いんだろ?」
良牙の問いに無言で頷く。
「調整のアテがないなら、修行でも特訓でもして技を完成させるしかないんじゃないのか?」
「特訓……」
良牙の指摘通り調整不良を解消する手段が無い以上、今後もこの不完全な状態で戦う、いやそれどころか衰えていく状態で戦わざるを得なくなるだろう。
その上でカメンライダーを打ち破るには技、あるいは戦い方を見直す必要がある。圧倒的に戦闘力の劣る良牙が自身の意識を一瞬でも飛ばさせた様にやりようはいくらでもある。
どのみち今のままではカメンライダーを破るのは難しい、最低でも確実にゼクロスキックを決められる様にしなければ戦い様がないだろう。
「ところで、この川に沿って上流に進めば東に進めるんだな?」
「……行くのか呪泉郷に?」
「ああ、俺の知り合いが向かうとしたらそこだろうからな、それともまた止めるつもりか?」
勿論、良牙自身男との戦いで自身の力では厳しい事は身をもって理解した。それでもあかね(ついでに乱馬)を守るという目的に変わりは無い。
いや、むしろ力の差を思い知らされたからこそ一刻も早くあかね(ついでに乱馬)と合流しなければならないだろう。
その良牙の心中を察したかどうかは不明瞭だが今度は男に止める様子はない。
「じゃあな、無事に記憶が戻る様祈っているぜ」
そう言いながら良牙は歩き出した。そして残された男は、
「『守る』か……」
静かにそうつぶやく。あの良牙という男はあかねを何よりも守ろうとしているらしい。
彼女の事を語る良牙は感情豊かで生き生きとしていた。
そして良牙の話からそのあかねは乱馬という男を守ろうとしていたらしい。
守るものがあるならば、人は生を実感できるのだろうか?
だが――男にはそれがない。
かつてはミカゲという友がいたが今はもう――仮にこの地で生きていても今更共に戦う事も無い以上、やはり違うだろう。
「『名前』も『記憶』も『感情』も無い俺には……」
ふと度々姿を見せる女性の姿を思い浮かべる――だが、彼女が何者かわからない以上はそれがそうなのかすらわからない。
「俺は……」
奪われまいとする為にカメンライダーを倒す、しかしそれはミカゲを奪われた罪の意識からに他ならない。
それは『守る』事とはどこか違う気がする。
どれぐらいの時が過ぎただろうか?
1分? 2分? 3分?
いくら考えても答えなど出るわけもなかろう――
「行くか……」
ならば動くしかないだろう。このまま只時たま見える女性の幻に惑わされていても意味は無い。
完全ではないもののエターナル戦で受けた傷もある程度回復した。良牙との戦いで胸の傷が開いたものの戦いに支障が出るレベルではない。
そう思った矢先――
「おっ、アンタ……ん? 俺は確か川沿いをずっと歩いていた筈だが……」
良牙が戻ってきたのだ。
「お前は何を言っている?」
「どうやらどこかでまた道を間違えたらしい……」
「………………何処に間違える要素がある?」
先の激闘で出来たクレーター等川の水が流れた事により結果としてごくごく小さな川が形成され、良牙はそれに沿って歩いて行き気が付けば気付かずにUターンしてしまった。
そして小さな川(もともと戦いで出来た穴や割れ目に流れ込んだだけなので)が途切れた後は本来の川(その流れの方向に気付かずに)にそって歩き逆走してしまったのだ。
(余談だが高原でのデートの時も湖に沿って歩くだけの道のりであったにも関わらず、そこから流れる川に沿ってしまい全く別方向に進んでしまった事があった、要するにそれと同じ理屈である)
男の問いかけに構う事無く良牙は向き直り再び歩き出す。
「まずいな……大分時間を……ん?」
振り向くと男がついてくるのが見えた。
「なんだ、まだ何か用があるのか?」
「……カメンライダーを探す」
「それで俺についていくっていうのか? 大体呪泉郷に仮面ライダーが向かう保証なんて何処にもないだろう?」
肝心な問いに対し男は答えない。
「相変わらず無愛想な奴だ。まあいいさ、言っておくがアンタを待つ気はないからな、もたもたしているなら置いていくぜ」
「……『村雨良』だ」
「……アンタ……そうか、なら勝手にしろ……良」
「ああ、そうさせてもらう……良牙」
かくして響良牙、そして男――村雨良は川沿いを歩き出す。
何故、男は良牙の後をついて行く事にしたのだろうか?
あの瞬間――良牙がゼクロスに一撃を入れる時の叫び、
『これで終わりだ、良!!』
その叫びはゼクロスの中を大きく揺さぶったのだ。
記憶が戻ったわけではない、それでも――何かを感じたのである。
無論、それが何かはわからない、それでも――良牙とこれ以上戦う気など起きなかった。
良牙が『守る』事を――自分が奪う気にはなれなかったのだ。
そして一度は去った良牙を見た時に考えたのだ。
このままこの男を――失った記憶などを取り戻すヒントをくれた男を、そして何より『守る』為に戦う男を死なせたくはないと思ったのだ。
そんな事に何の意味がある? そんなことなどわかるわけがない。
だが、良牙について行けばもしかしたら見つけられるかも知れない。
自分が失った記憶の断片を――
それにもしかしたらカメンライダーに遭遇する可能性もある。
もともとアテの無い道行だ、何処に向かっても大した違いは無く、道中を1人で行こうが2人で行こうが違いはあるまい。
その最中、ふと空を見上げる――
「……これでいいんだろう?」
そこには例の女性が悲しみながらも笑みを浮かべているのが見えた――
十数分後――
「おかしい、川沿いを歩いていた筈なのに今度は川が無くなっているぞ? 川は何処だ?」
「さっき……曲がらなかったか?」
【1日目/早朝】
【D-4/森】
【響良牙@らんま1/2】
[状態]:全身にダメージ(小)、負傷(顔と腹に強い打撲、喉に手の痣)、疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:水とお湯の入ったポット1つずつ(お湯変身2回分消費)、秘伝ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ガイアメモリ@仮面ライダーW、支給品一式
[思考]
基本:天道あかねを守る
1:天道あかねとの合流
2:1のために呪泉郷に向かう
3:ついでに乱馬を探す
[備考]
※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。
※現在の進行方向は不明です(また途中で方向転換する可能性があります)。
※良牙のランダム支給品は2つで、秘伝ディスクとガイアメモリでした。
なお、秘伝ディスク、ガイアメモリの詳細は次以降の書き手にお任せします。
支給品に関する説明書が入ってる可能性もありますが、良牙はそこまで詳しく荷物を調べてはいません。
※シャンプーが既に死亡したと知りました。
※シャンプーの要望は「シャンプーが死にかけた良牙を救った、乱馬を助けるよう良牙に頼んだと乱馬に言う」
「乱馬が優勝したら『シャンプーを生き返らせて欲しい』という願いにしてもらうよう乱馬に頼む」です。
【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:負傷(右肩に切り傷、左胸から右わき腹までの深い切り傷、左前腕貫通、胸部破損、いずれも回復中)、疲労(大)
[装備]:電磁ナイフ、衝撃集中爆弾、十字手裏剣、虚像投影装置、煙幕発射装置
[道具]:支給品一式、生命の苔@らんま1/2、ランダム支給品0~2個
[思考]
基本:カメンライダーを倒す。主催の言葉に従い殺し合いに乗るつもりは無い。
1:良牙の後をついて行く(あくまでもついて行くだけ)、『守る』……か。
2:エターナルを倒す。
3:特訓……か。
4:ミカゲに対して?
[備考]
※参戦時期は第二部第四話冒頭(バダンから脱走中)です。
※衝撃集中爆弾と十字手裏剣は体内で精製されます。
※能力制限は一瞬しかゼクロスキックが出来ない状態と、治癒能力の低下です(後の書き手によって、加わる可能性はあります)。
※本人は制限ではなく、調整不足のせいだと思っています。
※名簿を確認しました。三影についてはBADANが再生させたものと考えている一方、共に戦う事は出来ないと考えています。
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最終更新:2012年07月05日 00:41