ライバル!!誰?(前編) ◆gry038wOvE
ラブは真っ直ぐに走っていく。
村に続いていく道を真っ直ぐに、真っ直ぐに。
黒岩省吾が向かった方向に、彼の足跡を探しながら。
おそらく村に向かったのだろうが、その中途でも必死に叫んだ。
「黒岩さん! いますか!?」
精一杯に声を張り上げて、その名を呼ぶ。
誰が引っ掛かってもいい。とにかく、彼を────黒岩省吾を先ほどの男やマミのような死体にしたくなかったのだ。
既になっているかもしれないという不安が胸を刺すが、マイナス思考にはならずにただただ必死で、彼を捜す。
死体などにはしない。絶対に、させない。
「黒岩さーん! 私はここです!」
誰が来たって構わない。
たとえそれが味方でも敵でも、この戦いから救い出したい。
できれば味方であってほしいけど……その保証は既に100パーセントじゃないのだ。
もう何人も死んでいるし、ラブ自身が何度も襲われている。
それでも、それは悲しいことだし、出来るのなら救い出したいと彼女は思っていた。
「黒岩さーん!!」
果たして、その声は、彼女の叫びは天へと届いたのか────
ただ、できるのなら、天には彼女の想いに応えて欲しい。
真っ直ぐに他人の幸福を願ってくれる少女の想いに。
★ ★ ★ ★ ★
────そう、確かに天にいる三人の男女にその声は聞こえていた。
三人同時に能力で巻き込んでいることや、他者が対応しにくい能力であることから、上空での活動はある程度制限されていたのだ。
具体的には、真下への攻撃が大幅に弱体化し、スピードも落ちるなどの制限である。
ゆえ、彼らはあっさりとラブに追いつかれてしまったらしい。
「知り合いがお呼びですよ、黒岩さん」
ウェザー・ドーパントは真下の地面で黒岩省吾の名前を呼び続ける少女の姿を見て言う。
井坂深紅郎自身もその相手は知っている。勿論、先ほど
ティアナ・ランスターが交戦した彼女だ。
たしか、キュアピーチとか言ったか。まあ、彼女が追ってくるのは当然である。黒岩と接触があり、彼を逃がしたくらいである。
井坂としては、教会ごと潰れてくれていれば良かったものを、どうやら生きてこちらまで来てしまったらしい。
一応、井坂は黒岩に訊いた。ああも大声で呼びかけられては、流石にここに居る誰もが聞こえているだろう。
「一度下ろしましょうか?」
「……しかし、突然空から我々が降ってくれば彼女も驚くでしょう」
黒岩は少し躊躇った。
確かに、いまこの場で下降して彼女と会うのはタイミング的には悪くない。行動が遅れれば遅れるだけ、彼女には不審がられることになる。
この時に近くにいたことが、何らかの理由で発覚すれば、どうして姿を現さないのかと疑われたり問い詰められたりするわけで、その際の言い訳を考えるのは面倒。つまり会うならば早い段階、つまり今であった方が良い。
それに、万が一、ラブと会おうとしなければ、今度は井坂らも不審がるに決まっている。
黒岩を必死に呼ぶ者に対し、一切応じずに会おうともしないというのは、不自然極まりない行為。避けている様子も薄く、やり取りとしては友好的な者同士という感じだっただろう。
だが一方で、現在は井坂やティアナとラブの間で板ばさみされる形になってしまっているわけだ。おそらく彼らとラブとは同時に行動はできないし、行動する相手をコロコロ変えると、またすぐに面倒なことになる。
そんな黒岩を後押しするのは、意外な人物の言葉であった。
「すぐに会った方がいいと思いますよ。近くで下ろしますから」
ティアナである。
黒岩に対する敵意を仄めかしていた彼女が何故────と思うような、清清しい笑みと言葉であったが、どうにも彼女の様子は怪しい。
不機嫌で無愛想だったはずの彼女が、どういうわけかこの時ばかり友好的だったというのが問題なのである。
黒岩はティアナに対する注意警戒をした上で返答した。
ラブ以上に、彼女の様子には気をつけた方がいいように思う。
「私たちの事は気にしないでください」
「……わかりました。お願いします」
桃園ラブ────ともかくは、彼女に対する信頼を得ておかねばなるまい。
黒岩も別に彼女をチームとして見捨てたわけでも、切ったわけでもない。
まあ、利用している相手ではあるが、彼女は女。黒岩の敵ではない。
ウェザーは近くの森に黒岩とティアナを下ろすと、黒岩をそちらへ向かわせた。
★ ★ ★ ★ ★
…………で、その頃、
涼村暁はようやく廃教会に到着していた。
はっきり言えば、この時間までに廃教会というのは充分なペース。疲労を兼ねたうえで行けたのは凄い。
とは思うのだが、実は走るというより山の斜面に足を持っていかれていただけだったようにも感じる。同時に目的地にしっかり向かっていたのは彼の偉いところだった。
禁止エリアなどというものとスレスレの中で生存したがゆえ、彼も首に巻いている物に恐怖を感じ始めていたし、それが原因で疲れていても禁止エリアから非常に遠い廃教会へと向かわせたのだろう。
もしかしたら、シャンゼリオンの力を持つ彼にとって一番恐ろしいのは禁止エリアかもしれない。
あれには先ほど心臓をヒヤッとさせられたし、はじめに三人の男性の吐きそうなくらいのグロ死体を見せられ動転させられたしで、もう彼の恐怖はそこに全て詰まってるといえよう。
現実的に考えて、他人よりもコレが怖い。人間は説得で何とかなる相手だろうが、首輪はただ命令通り機械的に暁を殺す。
爆発が近いと死を伝えるカウントまでして、恐怖を煽る始末だ。
ゆえに、彼はとりあえず禁止エリアからある程度離れている教会エリアに向かったのである。
「…………ふぇー。もーう疲れた! もうダメだ~。少し休んでやる……」
全身は汗まみれ。既に着用してるものはズボンも含めて色が変わっている。
たぶん、近寄られたら相当臭いだろう。
爽やかな汗という感じではなく、真夏のようにジットリとしている。
椅子に背中を任せたはいいが……体にまとわりつく汗は非常に気持ちが悪い。だが、足の疲労を考えたら、やはり座る場所が欲しい。
彼はそこでペットボトルの水を一本ガブ飲みした。
先ほど、川の水を何となく飲んだが、それに比べると温くて不味い。
「しっかし、……誰もいないな、この教会」
せめて教会のような特殊施設に来れば誰かいると思ったのだろう。
だが、その期待は大外れだ。ここには誰もいない。
だいたい、暁のように疲労困憊などで特殊な精神状態に無い限りは、真先に気づくことがあるはずだ。
そう────
「ていうか、……なんかボロくないか? …………まっいいか!」
ギギギギギギギギ………
この教会が半壊していて、そんな音を立てていることに。
ましてや彼の場合、ここに来る時に壁にもたれながら歩いたり、あまつさえぶつかったりと、とんでもなく教会にダメージを与えるやり方をしていたのだ。
彼がここに来たのは、崩れるための良い手助けとなっていた。振動した教会は、ゴソゴソと崩れる準備を始めていた。
「え? やっぱりなんか変な音が……」
暁が教会の中で寂れた椅子にもたれてしばらくすると、ようやく奇妙な音が聞こえ始めた。
木と木が軋んでいるような、変な音。まるで腐った床を踏んでいるような音。
しかし、ここには自分以外の参加者はいないから……。
「って、まさか、この教会が崩れようとしてるんじゃ……!」
そんな思考に、暁はたどり着く。
──そうだ、この教会は明らかにボロい!
──今にも崩れそうで、もしここで戦いが起これば間違いなくオレは死ぬ!
──よく見れば天井に穴が開いて光が差し込んでいるじゃないか!
そう気づいた彼は、すぐにデイパックを持ったまま教会を出ようとする。
「えっと、入り口入り口……あれ? 出口か? ってそんなことはどうでもいいー!!」
入り口を探すのも一苦労。そのくらい切羽詰った状態である。何故自分がこんな状態の教会に気づかなかったのかと思う。やはり疲労が原因なのだろう。
右に行けばいいのか、左に行けばいいのか、とにかく死にたくないから混乱する頭を必死で正常な状態にしつつ、入り口を見つける。そういえば、あそこから入ったんだっけか。
そんな簡単なことさえ、この極度の疲労と混乱の状態ではわからない。
彼の走る床はミシミシと音を立てる。タイガーロイドの体重が一度乗った場所で、そこから砲撃が発せられたのだ。床そのものもダメージを受けている。
もうこの教会は長くないようだ。
「クソッ! なんだって俺ばっかりこんな目に……!」
と思って、ようやく教会を出た彼は適当な方に走り出した。
禁止エリアの次は、暁を潰そうとするオンボロ教会だ。これでは、殺し合い以前の外敵な要因で死んでしまう。
来た道を戻るとなると、山を登る必要がある。それは面倒だし、と行くあてを必死に探す。
「えっと、あっちは来た道だから…………よし、こっちだ!」
暁の真後ろで、教会の一部がまた崩れ落ちた。元から天上は光が差し込んでいるような教会である。その巨大な穴から、ばらばらと周囲の天上が降り注いだのである。
それは、つい先ほどまで暁の頭上であった場所だ。
教会自体が大きく崩落することはなかっただろうが、あそこにいれば暁は死んでいた可能性が高い。……いや、もしかすれば頭を打ってマトモになる可能性もあるが、常識的に考えれば死ぬ可能性が大半。
そんな事は知る由もないとはいえ、あそこに居続ければ間違いなく自分は死んでいたろうと考える彼が、無我夢中で走った先には────
「え!? 女の子!?」
『黒岩』という名前を呼ぶ奇天烈な髪形の女の子がいた。
今は、ほむらと出会ったときのような余裕はなく、女好きな彼とてナンパができる状態ではないというのは理解していたものの、やはり他の参加者がいてくれるなら、声をかけるべきだろう。
襲撃はしない。そこまで積極性を持って殺し合いをする気はないからだ。
ただ、とにかく今は声をかけたい。
救いが欲しいのだった。
その直後、彼の真後ろで、教会は音を立てて崩れた。
★ ★ ★ ★ ★
桃園ラブという少女に導かれてやって来た二人の男性────
片方は、古臭い長髪を揺らす汗だくの男・涼村暁。
もう一人は、紳士的で爽やかな印象をもたらす男・黒岩省吾。
彼らがラブの目の前に現れたのは、ほぼ同時であった。
しかし、ラブの目に真先に目に入ったのは勿論知り合いである黒岩だ。
「あ! 黒岩さん……。良かったぁ……」
ラブはまず黒岩の方を見て安心した様子を見せるのだが、それよりも黒岩は別の場所を見ていた。そう、目に入らずにはいられない。
そう、元の世界の知り合い(というか敵)であるシャンゼリオン────暁が。
「っ…………!!?」
黒岩は、また面倒なヤツが現れたものだと思って、露骨に不機嫌な顔をした。
というか、このタイミングで暁が出てくるというのは厄介にも程がある。
ダークザイドという正体も含め、全てが彼女に発覚してしまうではないか。
その他、あらゆる黒岩の本性が全て手に取るようにわかってしまう。
「…………疲れたぁ~。ちょっとそこのお姉さん、あ、そっちのお兄さんでもいいから水くれません?」
「おい、何をふざけている! シャンゼリオン!」
……と、正体を隠したかったところなのだが、先に怒号が出てしまう。
暁は黒岩を明らかにスルーしているのだ。明らかに心身ともに「あっぱらぱー」な状態であるとはいえ、流石に黒岩には反応するだろうと思っていた。普通に考えればそうなのだ。
黒岩は少なくとも、暁を「バカ」であるが、「脅威」と考えていた。「ライバル」でもある。
バカではあるが、確かにシャンゼリオンの存在はダークザイドにとって脅威に他ならないし、自分のライバルでもある。この男のバカさ加減を利用した打開策は幾らでもあるにせよ、なんだかんだでここまで生き残っている相手だ。
そいつが、自分を無視するのが許せなかったのだ。
「あ、あの……黒岩さん、シャンゼリオンって? というか、この人とお知り合い……?」
名簿にシャンゼリオンなんていう名前は無かったので、ラブはその言葉の意味がわからない。
ただ、ああして呼んでいるところを見ると、彼のあだ名か何かだというのもわかる。ラブでいうのなら、「キュアピーチ」のようなものだろうか。「ブッキー」、「美希たん」、「せっちゃん」のようなものではないのは、ニュアンスでわかる。
「桃園さん、彼には近付かない方がいい。バカがうつる」
「……ちょっ!? あんた、初対面の相手にいきなり失礼だろ」
この時、暁としては「初対面」とは暁と黒岩の事だったのだが、この時は黒岩はそれを暁とラブの事と捉えることもできた。…………が、やはり暁の態度には違和感も否めない。
何というか、黒岩に対しての態度も余所余所しく、敵意さえまるで無いように見えたのだ。そう、まるで他人のように扱ってる。
ゆえ、彼は試しに、怪訝そうに訊いた。
「……待て。貴様は確かにシャンゼリオンだよな?」
「あ、いや、やっぱりわかる? 俺は正義のヒーローシャンゼリオン! …………けど、あんたなんでそれを知ってんの?」
「…………フム」
「どうかしました? 黒岩さん。…………っていうか、黒岩さん! 流石に失礼ですよ! いきなり人に対して……」
周囲の煩さを無視しながら、黒岩は少し考えた。
「この暁」は、明らかに黒岩のことを知らない。……そう、それは何となくそう見えないというのではなく、どう見ても黒岩に対する敵意は薄く、「何故シャンゼリオンについてコイツが知っているのか?」という顔までしている。
そう、つまり、彼は────
「ついに完全に頭がおかしくなったらしいな」
と結論づけてしまったのである。
★ ★ ★ ★ ★
『トリガー!』
森の中でその電子音を聞いた井坂は、ティアナの方を見た。
彼女の顔が目を大きく見開いたまま、不気味に笑っていたのである。
そうか、彼女は要するにラブにリベンジしたいわけなのだな……と思った。
黒岩も巻き込まれる形になるのは間違いなし。
『トリガー!』
だが、構わない。
黒岩のように優秀な人間がこの場に幾らでもいることは既に井坂にもわかっているのだ。
一人くらい犠牲にしても、大きく場は動かないに決まっている。
というよりもむしろ────
(彼の持つ特殊な力、見られるかもしれませんしね)
自分はただの人間だと言い放った黒岩だが、彼は明らかにただの人間ではない。
もしかすると、ドーパントでないにせよ特殊な能力を持つ戦士なのかもしれない。
だから、彼は、その姿も見たがっていたのだ。一度、ドーパント以外の存在に対する対策も練っておく必要があるだろう。
キュアピーチに、それから黒岩に妙な男────ティアナには明らかに劣勢となる組み合わせだが、彼は実際に見てみたくなった。
一度、ウェザー・ドーパントの変身を解き、彼はトリガー・ドーパントを見送る。
トリガー・ドーパントは森を出て走っていく。
キュアピーチが、そして彼女の大切な人がいるのだ。
まずは黒岩、それからもう一人の男、そしてキュアピーチを甚振る。
既に彼女はそれを望むようにまでなっていた。
★ ★ ★ ★ ★
「死ねぇーーーっ!!」
────刹那
不意に黒岩たちを襲ったのは、そんな声と銃声。
その銃口は黒岩を的確に狙い、そして発射される。
突然ではあったが、黒岩はティアナや井坂のいた森に警戒を示していたので、回避には成功していた。
ティアナの様子に気づいていなければ蜂の巣になるまで撃たれていたであろう。
「くっ……!」
黒岩が真横に飛んで避けたところを、また今度はトリガーの銃が発射される。
そんな彼の真横で、ラブや暁が奇襲に驚き慌てふためいていた。
「黒岩さん!」
「……ひええええええ!!! だ、ダークザイド!?」
ラブが黒岩を助けようとリンクルンを手にする。一方、暁は自分はもう少し安全なところへ向かおうと逃げ込んでいた。
暁はともかく、目の前の二人を助けようとするラブの思いは確かである。救える命は絶対に救いたかったのだ。
彼女は、プリキュアに変身するために変身ポーズと掛け声を取った。
「チェインジ! プリキュア、ビーーートアーップ!!」
大きく手を広げると、彼女の体が、光とともにプリキュアの衣装に包まれる。
彼女の全身にプリキュアの衣装が着用されたとき、
「ピンクのハートは愛あるしるし!」
手で作ったハートを弾くように、彼女は手をポンと叩いた。
「もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」
ラブはキュアピーチへと変身完了する。
だが、キュアピーチへと変身した彼女を無視して、トリガー・ドーパントは黒岩に銃口を向け続けた。
しかし、そこにキュアピーチが跳び、庇うように銃弾の前へ立つ。腕をクロスしてガードしたまま、黒岩が弾丸をあびないようにしたのだ。
プリキュアとなった彼女の腕の前で、幾つかの弾丸が弾けていく。強化された体に跳ね返されているのだ。
「うおっ! なんだありゃあ!?」
一方の暁は回避の体制に入ってはいたが、その変身に驚きの声をあげる。ここに来てから、変身者というものは何人と見たが、こんなに何人も何人もいるとは驚きだ。
ともかく、暁は目の前で女の子が戦っているのに、それを無視するような男ではなかった。
感嘆の言葉をあげるとともに、彼は立ち上がる。
自分の方に弾丸は飛んでこないので、絶好の燦然日和というところだった。
「……俺も負けてらんないって! ……燦然! シャンバイザー!」
変身ポーズを取った彼の目を隠すようにシャンバイザーが現れる。
すると、彼の体はクリスタルパワーにより、シャンゼリオンへと変わっていく。
黒岩も勿論見覚えのある姿であり、何とも忌々しい姿に見えた。
キラキラと輝く体表は、今は太陽を反射させていた。
「大丈夫か、オッサン! それにキュアピーチ!」
シャンゼリオンは二人の前に駆け寄り、転がっていた黒岩を起き上がらせた。
黒岩を守る、もう一人の盾となる。
そんな暁の姿にキュアピーチは驚いた。
「……え!? あなたも変身するの!?」
「あはは……」
ともかく、彼女にも暁が味方のように見えるのは確かだろう。
初対面だが、これは共闘の流れだ。暁と黒岩を逃がそうとしたキュアピーチも、今は彼の力を借りることにする。
「一人くらい増えたところで同じよ!!」
キュアピーチとシャンゼリオンの二人の壁が現れたのに対し、トリガー・ドーパントは分身することで対応する。
四体ものトリガー・ドーパントに対し、変身者二人というのは一見すると不利にも見えるだろう。……が、仮にもキュアピーチ一人に圧倒された相手である。
とはいえ、ラブサンシャインを浴びないよう三人の周囲を囲い始めた。
今度は一人一人倒すしかないということだ。
「おいおい、なんか増えたぞ!?」
「大丈夫! 二人で力を合わせよう!」
黒岩を見つけたことによってある程度精神が晴れたのか、この時ばかりはキュアピーチもしっかりと返事をした。
多くの死を忘れることにはならないだろうが、今は目の前で力を合わせてくれる存在への喜びが彼女を戦わせてくれる。
「………うん、まあ………オッケーイ!」
一方、シャンゼリオンは「そういえば自分は優勝するために殺し合いに乗る予定だったんだっけ」などと唐突に思い出しながら胸に手を翳した。
まあいい。とにかく、今はキュアピーチたちと一緒に黒岩を助け、この大群を倒すのだ。
それが、黒岩を人間だと思っている現在の暁の小さな正義感だった。
「ガンレイザー!」
遠くから銃で攻撃してくる今回の敵にはガンレイザーだ。
目には目を、歯には歯を、銃には銃を……という単純な理由である。
あるいは、西部劇のような撃ち合いを期待していたのかもしれない。
「ディスク装填! ハッ!」
シャンゼリオンの手元のガンレイザーからトリガー・ドーパントに向け、ビームが飛んでいく。
一発、二発と、別の相手に撃ったものだが、命中したのは一発であった。
その一発が当たったドーパントはそのまま消えるだけで、何ということもない小さな痛手でしかない。
それはあくまで幻でしかないのだから。
「おいおい、本当に分身かよ!」
「だが奴は攻撃を受ければ消えるとわかった。敵は残る三体。全て消し去ればいい!」
黒岩はシャンゼリオンにアドバイスを送りつつ、スーツの懐で自身の支給品であるデリンジャーを密かに手へと持ち変える。
シャンゼリオンやキュアピーチにさえ気づかれぬように、ひっそりと。手のひらよりも小さなデリンジャーだからこそ、誰にも悟られずに胸に仕舞うったり、手に持ったりすることができるのだ。
あくまで、それは護身用であり、これで裏切るようなことはしない。
今はシャンゼリオンやキュアピーチの援護や助けをありがたく思うことにしておこう。
「……よし!」
キュアピーチは前に跳ぶと、前方の二体のトリガードーパントを殴り、蹴る。
しかし、それも外れである。
残るは一体となったが……
「おりゃっ! おりゃっ!」
シャンゼリオンのガンレイザーがなかなか命中しない。あっさりと避けられてしまうのである。
「直接行って倒してやる!! シャイニングクロー!!」
シャイニングクローを装着したシャンゼリオンがそちらに向かって走って攻撃し、その一体もほぼ同時に消えていた。
ガンレイザーが当たらなかった割には、随分とあっさりした終わり方である。
…………全てが幻。そう、ここで襲撃したトリガー・ドーパントは消し去られ、この場からトリガー・ドーパントが完全に消えてしまったのだ。
それでは、あいつも何故襲撃してきたのかわからない。強さにおいて、これだけの差があったというのだ。
シャンゼリオンは、キュアピーチは、黒岩は、周囲を見回す。
「………………そうだ!」
その時、キュアピーチはある事実に気づいた。
そう、よくよく考えれば自分が先ほど戦ったトリガー・ドーパントは五体だった。
なのに、この場で交戦したトリガー・ドーパントは僅か四体。一体足りないのである。
つまり、何処かにもう一体が隠れている。
「気をつけて! どこかにもう一体隠れてるよ!!」
と、キュアピーチが呼びかけたまさにその瞬間である。
「死ねぇっ!!」
ドン!
銃声が鳴る。
その音が聞こえたのは、近くの木の上であった。森と呼ばれる木の群れの中に、トリガー・ドーパントが一体混ざっており、的確に狙いを定めていたのである。
トリガーことティアナは最初から、分身を使って黒岩からキュアピーチを遠ざけ、その隙に黒岩と暁を殺し、最終的にはキュアピーチも殺そうという算段で動いていたのである。
暁がシャンゼリオンに変身したのがティアナにとっても、少し予想外だったが、分身がある程度多かった為、シャンゼリオンも遠ざけることができた。
一体はあっさり消滅したが、もう一体は遠距離攻撃を避け、近距離攻撃に向かわせることに成功したのであった。
銃声が鳴り、キュアピーチもシャンゼリオンも、真先に木の上を見てトリガー・ドーパントの姿を確認してしまった。
だから、黒岩がどういう状態なのかを知るのが一瞬遅れる。
二人とも、こういう状況に遭遇したことがなかったから、すぐに銃声を優先して見てしまったのだろう。
一瞬遅れて、そちらを見ると────
────其処にあったのは、黒岩省吾という男ではなく、弾丸を一刀両断した暗黒騎士ガウザーの姿であった。
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最終更新:2013年03月15日 00:23