幾千光年孤独 ◆gry038wOvE
──さてお待ちかね。侍戦隊シンケンジャーが宿敵、外道衆の御大将
血祭ドウコクであります。日は夜に向け、眠る用意を始め、島が戦場となってからはや十五時間。殿様も散り、家臣も散り、はぐれ外道も散り、謀反の外道も全て散り、残る侍、あと二人。シンケンゴールド、
梅盛源太は何処へやら。しかし、血祭ドウコクは此処にあり。いまはまだ日照りの街を、彼は一人で歩いていたのであります……。
「……」
血祭ドウコクは乾いた街中を一人歩く。その姿はまさに豪将。
ただ歩いているだけにも関わらず、周囲を威圧する不気味な影を帯び、般若のような面構えは、見た者を怯えさせる。
見た者はそのまま殺されるのではないかという邪気をその眼光は放っているのだ。
異形の怪物はただ一人、街を往く。
今歩いているのは、ドウコクの記憶によれば、現在地は確か、以前杏子たちを取り逃がした場所である。
「……チッ」
ドウコクは、その場に舌打ちをして一瞥した。
驚くほど何もないその場所だが、ここであった出来事を思い出すと苛立ちが湧く。
しかし、大暴れするほどの怒りはこみ上げてこなかった。
ただ、少し忌々しく思っただけだ。何もない場所に苛立ちを沸かせたところで、心も何も満たされない。
これから先、いつでも暴れる事はできるのだ。
「……これが今の人間どもの店か……」
それから数分、何事もなく街を歩いて、ドウコクが見つけたのは、明かりのついた建物だった。中には書物のほか、傘などが置いてあり、全て硝子張りになっている。よく目を凝らすと、硝子戸の向こうには幾つもの道具が並んでいる。看板には「酒・たばこ」と書いてあったので、おそらくこの中は酒があるのだろう。
「随分変わったな」
生きて人の世にも行けぬ外道衆である彼が、こんなものに来た事はない。
もとより、人間界に来てから周囲の物に興味を持った事はないので、これまでも平然としていたが、よく見てみれば、やはり随分前に先代のシンケンジャーと戦った時よりも姿は変わっている。それから復活するまでには随分時間をかけたので、人間界が変わっているのは当然かもしれないが、まあ結局、街や人など全て沈める予定なのでどうでもよかった。
いま、欲するのは略奪や破壊による人の嘆き。それによる三途の川の増水。人間がどう変わろうが、ドウコクには興味も湧かないものであったし、彼らにとってここは異世界そのものだ。自分の住む世界でもないのに興味はわかない。
三途の川こそがドウコクたち外道衆の世界である。
かつてから、ドウコクたち外道衆は周囲の建物や物体に大きな興味を抱く事はなかったし、何かを得ようともしなかった。
ただ、今のドウコクとしては、やはり酒が欲しかった。
「……酒はどれだけあるんだろうな」
数時間前に飲んだ人間界の酒。あれは美味かった。
人を狂わせるだけの魅力が込められたなかなかの旨みだ。気を紛らわせるにも丁度良い。
人間はこういう所から酒を手に入れるのだろうか。
……まあいい。
とりあえず、適当に探してみれば酒も見つかるだろう。
ドウコクは降竜蓋世刀を刀から出し、硝子戸の前で振り下ろそうとした。この硝子戸を破壊すれば開くと思ったのだ。取っ手のようなものはないので、人間がどうやって出入りしているのかはわからないが──
「何……っ!?」
しかし、振り下ろそうとされる前に硝子戸はピロリン、ピロリンという軽快な音楽とともに真横に開いた。
まるでドウコクを避けたかのようにそれは道を開ける。
このまま刀を振り下ろしていれば素振りしていた。
「……なるほど。こいつが今の人間どもの考えた絡繰りってわけか。おもしれえ」
自動で開く硝子戸(自動ドア)。──まさか、こんなものが人間界にあるとはドウコクも思うまい。
更に言えば、綺麗に並んだ書物や食べ物。
よくこれで人間たちは略奪し合わないものだと思いながら、ドウコクはとりあえず酒らしきものを探す。
酒もまた、店の奥で綺麗に並んでいた。
「……随分種類があるみてえだが……腹に入っちまえば全部同じか」
ドウコクは適当に酒を掴んではデイパックの中に入れた。
種類は問わない。瓶には様々な名前が書いてあるようだが、そんなものも関係ない。
ただ、ある物を適当に必要量だけぶちこみ、あとはどうもしない。
「……後で試してみるか。人間どもが作る酒を飲むのは最後になる」
生き死にする人間たちの創りだした酒。
その中にも、職人の悩みや葛藤、壁や絶望が織り込まれており、また同時に、人間たちの逃げ場としての意味がある。
酔いでしか払拭できない孤独や恨みや絶望を一時でも逃がすための酒に、人間も外道もない。
「……結局、こんなもんはいずれ全部川の底に沈んじまうからな」
目的を終えたドウコクは、また自動で開く硝子戸を通って街を歩き出した。
そこから先、街中で目立った物を見つける事はなかった。
△
街を出て、少し歩くとすぐにドウコクの前に三途の“池”と、それを覆う炎が見えた。
それは行く手を阻み、ドウコクをここから一歩も進ませまいと森を燃やす。
「誰がこんな事をしやがった……」
三途の池の周囲に燃え盛る炎。
それは今もなお、消える事なく周囲を巻き込んで木々を燃え尽くしている。
ン・ダグバ・ゼバが放った物だったが、彼がそんな事を知る由もない。
軽く山火事になっていたが、ドウコクにとってはこの程度の炎は大したものではなかったはずである。
「……派手に暴れやがったな」
ドウコクは降竜蓋世刀を振り上げ、目の前の炎に向けて×字を描く。
そのクロスはそのまま疾風となり、目の前の炎に一直線に進んでいく。風は一瞬でその場所の炎を吹き飛ばす。その一か所だけがドウコクに道を開けるかのように炎を消していた。その周囲はいまだ、めらめらと炎をあげている。
更にドウコクはそこに出来た炎の隙間へと平然と歩いていく。
「あれは、三途の川……いや、池ってとこか。随分準備がいいな」
ドウコクは、自分の故郷である三途の池に足を入れ、腰まで浸かった。
六門船がないのは残念だが、元はこうしていた事に違いない。
ドウコクたち外道衆は本来、この水がなければ生きてはいけないのだ。太夫の身体を取り込んだからこそ、ドウコクはこの水無しでも生きていけた。
だが、ドウコクが束ねる仲間たちはそうもいかない。
「足りねえなぁ……この程度じゃあ、全然……」
何度でも、何代でも自分たちの目的を阻むシンケンジャーに対する怒りがこみ上げる。
この戦いの中でも、嘆きがあれば三途の池の水は増すだろうか。
だが、この程度の池が人間界にあったところで、外道はこの世界に長居もできない。
「足りねえんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
ドウコクはその名の通り慟哭する。
ドウコクの身体を弾くように、三途の池の水が波打つ。波は波を巻き込み更なる高さになる。周囲の炎を消すほどの高さへと昇り、地上へ落ちる。
彼の咆哮が水を振動させ、その水は一瞬にして周囲の木を覆い、飲み込んでいったのである。
三途の川の圧倒的な水量は、一瞬で周囲を燃やし尽くしていた炎が、消えていった。
「……はぁ……はぁ……」
ドウコクの真上に大雨が降り注いでいた。
三途の池だった場所はすぐになくなり、ドウコクの足元に踝ほどまで飲み込む巨大な水たまりだけになった。
しかし、かなり広い範囲を、まるで大雨が降った後のように洪水させていた。
三途の川の水のシャワーはなかなかに心地よかった。水は、在るべき場所に戻ろうと、ゆっくりと波を引いていった。すぐにドウコクの膝のあたりまで水かさが増す。
「……さっさと行くか……」
目標は志葉屋敷だ。
こんなところにいつまでもいるわけではいかない。
ドウコクが目標とする場所はかなり遠くにある。そこまで、ただ歩いていくのみだ。
途中で昇竜抜山刀の持ち主に出くわせば、倒すのみだ。
(真っ直ぐ行けば禁止エリアってやつか……)
このまま真っ直ぐに進めば禁止エリアになってしまう。
厄介なのはこの首輪というもので、主催の説明が確かなものであれば、ドウコクたち外道衆さえも殺すだろう。
そのうえ、二の目もなく、ドウコクは完全に死ぬであろう事は間違いない。
(めんどくせえものつけやがって……さっさと外さねえとな)
ともかく、どういう形であれ、厄介な物は外したい。
優勝という形でゲームを終わらせるのもいいかもしれないが、首輪などというものをいつまでも付けられているのは不愉快だ。
ドウコクはそのまま、誰にも会う事なく歩いていく。
「ここでも誰かが暴れたみてえだな……」
次にドウコクが見つけたのは何もない焦土だ。
そこにはほとんど何もない。
ほんの数時間前まで、ここでは
相羽タカヤと
相羽シンヤによる激戦が繰り広げられ、シンヤの死体があったはずだが、それはもう京水によって埋葬されている。
ここは完全に何もない土地であった。
何もないからこそ、誰かによる戦いがあったと思わせる。
「ここでも誰かくたばったか……? まあいい……興味もねえ。行くか」
ドウコクは、他人事のように口にして、またゆっくり歩き出した。
そして、気づけば夕日は西でもう暮れかけていた。
──状態表のあと、みんなで一緒に歌を歌おう!
【1日目 夕方】
【F-6 焦土】
【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、胴体に刺し傷
[装備]:降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:姫矢の首輪、支給品一式、ランダム支給品0~1、大量のコンビニの酒
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:志葉屋敷へと向かう
1:首輪を解除できる人間を捜す
2:昇竜抜山刀を持ってるヤツを見つけ出し、殺して取り返す
3:シンケンジャーを殺す
4:加頭を殺す
5:杏子や翔太郎なども後で殺す
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
【備考】
※G-7の火は消えました。
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最終更新:2014年03月19日 00:36