暁とラブ 胸に抱く誓い! ◆LuuKRM2PEg



 太陽が沈んできたことで空はどんどん暗くなっていく。夜になると寒くなるけど、その頃になれば濡れた身体は乾いているかもしれない。だからそこまで心配する必要もなかった。
 それに、今は数時間前に別れた桃園ラブと再会できている。ここで不安な表情を浮かべたら彼女は心配するだろうし、何よりも俺の性に合わない。そう涼村暁は考えていた。
 一文字隼人という男の死を見てしまったラブの悲しみは癒えたかもしれないが、まだ完全ではないかもしれない。いくら元気になってくれたとしてもラブはまだ女子中学生だ。そんな彼女に人の死を乗り越えろと言われたって無理だろう。
 暁美ほむらだって表面上では強がっていたが、心の中ではいつだって泣いていたはずだった。
(このまま行くと、一文字って奴の所を通るんだよな……)
 暁とラブは市街地を目指して歩いている。だけど、それはラブが通ってきた道だ。もしも一文字の死体を見てしまったら、ラブはまた泣いてしまうかもしれない。
 先程は彼女を諭すことができたが、今度はどうなるかわからない。人の死体を前にして悲しむなと言うのは、いくら毎日をいい加減に生きている暁でも不可能だった。不謹慎などと言う話ではない。
 現に、ラブの表情は曇ってきている。一文字の死体を素通りするのも一つの手だが、それはそれでモヤモヤしてしまう。
 だから今は適当に話をして、少しでも気持ちを紛らわせるしかなかった。
「ねえ、ラブちゃんって好きな人とかいるの?」
「す、好きな人!? いきなり何を言ってるんですか!?」
「だってラブちゃんくらいの年頃の女の子って、普通は青春真っ盛りでしょ? だから恋愛の一つや二つ、あったっておかしくないよ! 俺だってちょっと前は青春バリバリで、たくさんの恋物語があったもんだよ!」
「恋物語って……」
 ぽかんと口を開けるラブの頬はほんの少しだけ赤くなっている。効果はあるようだった。
 落ち込んでいる様子はもう見られなかった。
「恋は英語でLOVE(ラブ)! だからラブちゃんだって、ラブラブなストーリーを体験してるんじゃないかな~?」
「ええっ!? っていうか、あたしの名前はそういう意味じゃないです!」
「え、そうなの?」
「そうです!」
 ラブは怒ったのか、頬を風船のように膨らませてしまう。
 もしかしたら、言ってはいけないことを言ってしまったのか? 暁の中で後悔が生まれる。女心は複雑と決まっているが、女子中学生もそれは変わらない。
 ラブっていう名前は普通と比べて変わっている。そんな名前を付けるのなんて普通はありえない。もしかしたら、特別な理由があるかもしれなかった。
 その考えに至らなかったことが申し訳なく思うが、悔やんでいたって仕方がない。
「……そっか。ごめんね、変なことを言っちゃって」
「えっ? う~ん、そこまで怒っていませんけど……あたしの方こそ、ムキになってごめんなさい。暁さんは知らないのに」
「いいっていいって! それとよかったら、聞いてもいいかな? ラブちゃんの名前の意味」
「はい!」
 ラブはすぐに満面の笑みを浮かべてくれた。
 やっぱり、女の子は落ち込んでいるより明るい顔を向けてくれる方が似合っている。下心ではなく、純粋にそう思っていた。
 もしかして、俺は先生にもなれるんじゃないのか? 美人の教師や女子生徒に囲まれて、時に生徒の悩みを聞きながら毎日を楽しく過ごす先生……それもいいかもしれないと、暁は思った。
「ラブって名前は、あたしが小さい頃におじいちゃんが付けてくれたんです! 将来、愛情いっぱいに何かを成し遂げる子になって欲しい。そして、その気持ちが広い世界にも伝わって欲しい……そんな想いが込められているんです!」
「へえ、それは凄いね!」
「はい! この名前を付けてくれたおじいちゃんを裏切らないよう、毎日を一生懸命生きていこうって決めました! 自分をもっと好きになれるように頑張りたいとも思っています!」
「そっか……なら、頑張りなよ! 俺は応援するからさ!」
「ありがとうございます!」
 そんな凄いセンスを持つ爺さんとなら是非とも会ってみたいと暁は思う。
 少なくとも、無理難題を押し付けるような爺さんとは絶対に会いたくない。例え莫大な遺産を持っていようとも、無茶を言う老人なんて好きになれるわけがなかった。そんな爺さんからの頼みを受けたって、どうせ碌な事にならない。報酬として幻の埋蔵金が入っている千両箱を渡されても、中身は変な写真と石ころだけ。
 何となく、暁はそう感じていた。
「あっ! そういえば……ラブちゃんの恋愛について、まだ聞いてなかった! それについても、教えてくれないかな~?」
「え、ええっ!? あたしは、別にそういうのはまだ……」
「恥ずかしがらなくていいんだよ! 君みたいな年頃の子は、そういう経験をしてもおかしくないんだから! あ、別に恋愛をしてないと駄目って訳じゃないよ? 将来、俺みたいないい男と会えるかもしれないんだし!」
「はぁ……」
 こういうデリカシーの無い質問は女に対してしてはならないと暁自身思っている。そんなことはしたら女の子から嫌われてしまうけど、今は少しでも暗い気分を吹き飛ばしたかった。殺し合いなんて下らないことに巻き込まれたら、普通は気分が悪くなる。
 憂鬱などを吹き飛ばすには、どんな話題でも会話を続けるしかなかった。
「あたしの好きな人か……」
「おっ、やっぱりいるのかな? じゃあ、もったいぶらずに言っちゃいなよ! 大丈夫、誰にも言ったりなんかしないからさ!」
「ええ~?」
 ラブは疑っているような目つきで暁のことを見つめてくる。
「……本当ですか?」
「本当に本当! 俺が嘘をつくと思う?」
「そりゃあ、暁さんが嘘をつくとは思いませんけど……」
 言葉が続くかと思われた瞬間、ラブはその場で足を止めてしまう。
 アイドルのように愛らしい表情も急に固まってしまったので、不審に思った暁もその場に止まった。
「……ラブちゃん、どうしたの?」
「あ、あ、あ……」
 暁は尋ねても、ラブから返ってくるのは気の抜けた返事だけ。彼女の表情は絶望で染まっていた。
 彼女は一体何を見たのか。不審に思った暁は、ラブが見ている方角に振り向くと、男の死体を見つけてしまった。
 腹部には風穴が空いていて、深い裂傷が両腕に刻まれている。大量の血が流れ出ている傷口からは機械のコードのような物が剥き出しになっていて、そのグロテスクさに暁も思わず表情を顰めた。普段は明るく振舞っているが、目の前に広がる光景はあまりにも凄惨すぎて、暁でも耐えられなかった。
 そして、ここで死体となった男が一文字隼人であることを暁は察する。
「一文字隼人……」
 思わず暁は呟いてしまう。
 何故、一文字の名前を呼んだのかは暁自身もわからない。目を覚ましてくれることを信じていたのか、まだ助かる可能性を期待していたのか、ひょっとしたら最初から死んだふりをしているだけじゃなかったのかと考えていたのか。普通なら、縁もゆかりもない男のことなんてどうでもいいはずなのに、今はそう思えない。自分達の為に戦ってくれたからか、それともラブと一緒にいた男だからなのか。考えても、疑問は増えていくだけだ。
(あんたがラブちゃんを守ってくれたんだな……その事、結城にきちんと伝えておくぜ)
 暁は結城丈二のことを思い出した。
 もしも一文字の死を知ったら結城はどう思うのかが気になったのだ。悲しむのか。それとも、それを振り切って誰かの為に戦おうとするのか。彼が泣き崩れてしまう姿は想像できないので、きっと殺し合いを止めることを第一に考えるだろう。楽しいことを一切考えもせずに。
 彼みたいな正義感は自分を疎かにする。他人のことばかりを考えて、遊びや恋愛なんて物は一切考えない。知り合いの速水克彦という男だってそんな奴かもしれなかった。そういう生き方もありかもしれないが、暁にとっては御免だった。
 正義の味方に目覚める暁が現れる。そんなの、この世界が変わらない限りはありえなかった。
(ラブちゃん、やっぱり辛そうだな……早くどうにかしないと)
 隣にいるラブの儚げな表情を見て暁は思う。
 一文字の死体をこのままにしておくわけにはいかない。放っておいたらラブは悲しむだろうし、暁自身も胸の中に蟠りが残ってしまう。こんな嫌な空気は一刻も早く変えたかった。
 その為にも暁は懐からシャンバイザーを取り出して、額に当てる。そのまま変身ポーズを取りながら大きく叫んだ。
「燦然!」
 その言葉に答えるかのように、暁の身体はクリスタルパワーに包まれていく。するとクリスタルパワーは光り輝く鎧へと形を変えた。
 超光戦士シャンゼリオンとなった涼村暁は闇を照らすように光り輝いていた。
「暁さん……?」
 ラブは怪訝な表情を浮かべながら訪ねてくるがシャンゼリオンは振り向かず、ガンレイザーを手元に出現させる。銃口を地面に向けてレーザーを放ち、爆音を響かせながら穴を空けた。
 大の男が一人で入るには充分すぎる大きさだ。普通ならそんな穴を掘るのに一時間以上は必要だが、今はシャンゼリオンに変身している。その力さえ使えば容易だった。
 それからすぐに一文字の遺体を抱えて、ゆっくりと穴の中に降ろした。
「あんたの分まで俺達が頑張るからさ、ゆっくりと休んでくれ。今まであんたはたくさん頑張ったからさ」
 永遠の眠りについた一文字を前に、シャンゼリオンの仮面の下で暁は微笑みを浮かべていた。
 一文字は笑っている。最期に何を考えていたのかはわからないけど、少なくとも心の中が充実していたのは確信できた。ほむらも笑顔のままで旅立つことができたが、ここにいる一文字みたいに心の中が満たされたのだろうか。
「もしも生まれ変われるのなら、またいい男に生まれ変わるさ。この俺みたいにさ! そうしたら、俺と友達になろうぜ! 友情のアイテムもプレゼントするからさ!」
 シャンゼリオンがそう告げると、一文字の笑顔がもっと穏やかになったように見えた。
 一文字とは話すらもしていないが、生きている内に会えたら気が合うかもしれない。何となくだがそう思えた。
「一文字さん。さっきはごめんなさい……一文字さんのことを、見捨てたりして。一文字さんはあたしのことを励ましてくれたのに」
 後ろからラブの声が聞こえてくる。
 振り向いてみると、彼女からは未だに悲しそうな雰囲気が感じられる。だけど、笑っていた。泣き出しそうなことには変わらないけど笑ってくれている。
「あたし、一文字さんのことを忘れません。一文字さんがあたしの為に教えてくれたことや、一文字さんが今までみんなの為にやってきたこと……一生覚えています。ご飯だってたくさん食べます。友達のことも大切にします。笑顔だって忘れません。それに、どんな時でも絵本みたいなハッピーエンドを目指すことだって……忘れませんから!」
 崩れ落ちてしまいそうなほどにラブは儚げだったが、もうそんなことはない。普通の女子中学生のように元気が溢れていた。
「きっとこれからも辛いことがあるかもしれません。だけどあたしは全てを終わらせるまで、絶対に倒れません! 諦めませんし、負けたりもしません! 涙だって流しませんから! 一文字さん、マミさん、せつな、ブッキー……もしも聞いてくれるならお願い! みんなのことを見守っていて!」
 初めて出会った時のように彼女の声は明るさを取り戻している。いや、もしかしたらもっと輝いているかもしれなかった。
 ラブのことが心配なことに変わりはない。でも、もしも彼女に何かがあったら支えればいいだけだ。
(もしかして、運命が俺をラブちゃんの所までに導いたのかな? この娘が何かあったら助けられるように……って、あんまり考えても仕方がないか。ラブちゃんも元気になってくれたことだし)
 一時はどうなるかと思ったがその心配は杞憂だったようだ。
 ラブが悲しむ前に暁はできるだけ明るい雰囲気で一文字に別れの言葉を告げた。死人を前に暗くなるなんて御免だし、一文字だって喜ばないはず。相手は男だが今回は特例だ。
(俺っていつの間にか男にも気を遣うようになったのかな……いつもならそんなのありえないのに。でも、たまにはいいかな? 涼邑とだって結構楽しく話すことができたし)
 結城と一緒にいる涼邑零はどこで何をしているのかが急に気になってしまう。こんな殺し合いの中では生きるのは厳しいかもしれないが、どうか元気でやっていると信じたい。
 石堀光彦。
 西条凪。
 黒岩省吾。
 結城丈二。
 涼邑零。
 誰一人として欠けることがなく、みんなで集まれる時が来て欲しかった。
「ラブちゃん、もういいかい?」
「……大丈夫です」
 何がいいかなんてわざわざ聞くつもりはない。ラブも察してくれていたからだ。
 シャンゼリオンは周りの土を一文字の身体に被せていく。ほむらの時のように周囲に川が見当たらないから、一文字の為にできることは埋葬しかなかった。それに一文字を弔うことでラブの心も少しは軽くなるかもしれない。少なくとも放置するよりはずっとマシだった。
 一文字の身体が完全に埋もれた後、暁はシャンゼリオンの変身を解除する。必要な時が来る時以外、こんな重い鎧は着たくないのが本音だった。
「さようなら、一文字さん……」
 ラブは笑顔を保ったまま、大地の下で眠りについた一文字に別れを告げる。
 彼女は泣いていなかった。やはり、女の子は泣いているより笑っている方がいいと暁は思った。
 二人は黙祷を捧げる。それを終わってから、一文字が持っていたと思われる支給品を暁は回収した。中を見てみると手榴弾と思われる物や奇妙な貝殻、そして人が死ぬ光景が映し出された写真がある。
 残酷な写真を見た暁は思わず表情を顰めた。こんな時に嫌な写真は見たくないし、悪趣味な物を支給した主催者への憤りが強くなってしまう。そんな嫌な雰囲気を一刻も早く忘れる為にも、暁は写真をバッグの奥に収めた。
 本来なら、この場にはもう一つだけモロトフの支給品もあった。しかしモロトフが自爆した際にそれら全ても爆発に巻き込まれてしまい、跡形もなく消滅している。もっとも、暁がそれを知ることはないが。
「行こうか、ラブちゃん」
「はい」
 涼村暁と桃園ラブは一文字隼人が眠る場所から去っていく。
 二人は市街地を目指して歩き続けた。そこには沖一也が待っているのだから、先輩である一文字の死を伝えなければならない。
 他の仲間達も街に辿り着いていることを信じたかった。




 涼村暁が一文字隼人を埋葬してから大分時間が流れる。あれから、もう一時間以上は経っていた。それでも目的地である街はまだ見えない。
 既に図書館があったエリアを通り過ぎている。巴マミや東せつなの命を奪ったテッカマンランスと戦った、忘れられないあの場所を。
 テッカマンランスの最期を桃園ラブは忘れることができない。彼を説得しようとしたけど、想いは届かなかった。それどころか、ラビリンスの総統・メビウスのように自爆するまでに追い詰めてしまった。それはラブにとって最も望まない結末だったし、マミやせつなも望まないかもしれなかった。
『私が桃園さんの命を繋いで、桃園さんが他のみんなの命を繋ぐ……そして、平和になった世界でみんなが笑っていられれば、私は何の悔いもないわ』
 マミが残してくれた言葉を思い出す。
 もしかしたら彼女はテッカマンランスのことも止めて欲しかったのかもしれない。彼女が守ろうとした人たちの中には彼も含まれているかもしれなかった。
 せつなだってテッカマンランスの命を奪おうとしなかったはず。何を思って戦ったのかは知らないけど、優しい彼女だったら命の大切さを説いていたかもしれない。
 二人の気持ちを裏切った。それに後悔を感じるが引き摺ったりはしない。マミもせつなもそんなことを望まないだろうし、落ち込んでいては駄目だと暁から言われたばかりだ。
「そういえばさ、ラブちゃんは将来の夢とかあるの?」
 そして今、そんな暁が声をかけてきた。
「将来の夢ですか?」
「うん。俺もラブちゃんくらいの年には色んな夢を持ったよ! プロスポーツ選手でしょ、大企業の社長でしょ、芸術家でしょ、ゲームプログラマーでしょ、映画監督……とにかく、でっかい夢を持ったよ!」
「へえ……でも、今は探偵ですよね?」
「そうそう! 色々考えた結果、俺の才能を生かせる職業はこれしかないって思ったのさ! 世の中や人の為、そして俺の為にもね! だって、やりたい仕事をやるのが一番でしょ?」
「それはわかります! やりたくもないことをやったって誰の為にもならないと思いますし!」
「でしょ? ラブちゃんはどんな夢を持っているかな?」
 暁の朗らかな笑顔を見て、ラブはカオルちゃんのことを思い出す。
 謎だらけのドーナツ屋であるカオルちゃんもいつも大げさなことを言ってみんなを驚かせて、そして笑顔にしていた。今の暁も色んなことを言ってラブを笑顔にしてくれている。
 もしかしたら暁もカオルちゃんみたいに何でもできる凄い男かもしれない。カオルちゃんのような謎めいた雰囲気は感じられないけど、一緒にいて楽しくなれる。だから本音で話し合うことができた。
「あたしの夢ですか……あたしはプロのダンサーになることが夢ですね!」
「プロのダンサー? ラブちゃんは踊ることが趣味なの?」
「はい! あたし、ミユキさんっていうダンサーのことを尊敬していて、その人みたいになりたいとずっと思っています! その為にも毎日練習していますよ!」
「それは凄い! 俺も一度、ラブちゃんの踊るダンスを見に行ってもいいかな?」
「もちろん! 暁さんだけじゃなく、みんなも呼びましょうよ! 黒岩さんも、石堀さんも、石堀さんと一緒にいた女の人も! いっぱい呼べばもっと楽しくなれますから!」
「オッケー!」
 暁は左手の親指を立てて、ラブに向ける。それを見て、ラブも暁の真似をした。
 やっぱり、みんなと一緒にいたいのは暁も同じだ。人間は誰だって独りきりでは生きていられない。ラブだって、もしもマミや暁達と出会えなかったら独りぼっちのまま泣いていたかもしれなかった。
 本当なら祈里やせつな達ともまた会いたかったけど、彼女達はもういない。それは悲しいのは今も同じだけど充分なくらいに泣いた。思いっきり泣いてから、前を歩くと彼女達に約束した。だから今はもう泣かない。泣くとしても、殺し合いを止めて全てを終わらせてから。
 今は前を進む。まだ生きているみんなを見つける為に足を進めている。強い想いを胸に抱いて歩き続けていると、目の前に広がる道が焦げているのが見えた。火はもう見当たらないけど、この場所で何かが燃えていたことが想像できる。
「な、何だ? ここで誰かがキャンプファイアーでもしたのか?」
「キャンプファイアー? でも、それにしたって広すぎませんか? こんなに広いキャンプファイアーなんて見たことありませんよ」
「だよな。焚き火は……もっとないよな」
「焚き火か。そういえば、秋になったら焼き芋とか作りますよね……」
「焼き芋か……でかい火を使ったら一体どれだけ作れるかな……」
 暁とラブは呑気に話し合いながら焦げた土の上を歩いた。
 周りを見渡しても一本の雑草すらも見当たらない。テッカマンランスとの戦いで破壊された図書館の周りと酷似した風景だった。辛い戦いを掘り返されてしまうような気分になるが、ラブはそれを振り払っている。嫌なことを思い出すより楽しい話をしていた方が良かったからだ。
 しかし、そんな想いはすぐに打ち砕かれることとなってしまう。
「おいおい……嘘だろ!」
 少し前を歩いていた暁が急に足を止めて、そして声を荒げた。
 一体何があったのかを聞きもせず、ラブは思わず前を見る。すると、ここから少し離れた道の上で横たわっている少年と少女を見つけてしまった。
「そ、そんな……!」
 ラブは急いで二人の元に駆け寄った。しかし、二人は既に死んでいて、もう二度と動くことはない。マミや一文字と同じで、もう助かることはなかった。
 かつて出会った千香という女の子やジェフリー王子と同じ年頃の子ども達が死んでいる。そんな残酷な事実を前にラブは何も言えず、悲しみの余りに涙を流すしかなかった。視界が自然に滲んでいき、呼吸が荒くなっていく。
「ラブちゃん!」
 ショックの余りによろめきそうになったが、その直後に暁の声が聞こえた。それを聞いたラブは我に返り、反射的に暁の方を振り向く。
 そこにいる暁はどこか寂しそうな雰囲気が感じられたが相変わらず笑っていた。そんな表情を見て、暁から教わったことをラブは思い出した。
 人が死んだら悲しいけど、それでも笑わないと人生は損してしまう。それに死んだ人達だって、生きている人達が悲しみを引きずるのを望まないかもしれない。少なくともラブはそうだった。
 名前も知らない少年と少女が何を想っていたのかをラブは知らない。だけど、彼らの為にやることは悲しみに溺れていることではなかった。二人の分まで頑張って、それから残された人達に彼らの死を伝えることだ。
「暁さん……ありがとうございます」
 ラブは溢れ出る涙を拭って、暁に笑顔を向ける。この状況でそれは不謹慎なのはわかっているが、笑顔を忘れることだけはしたくなかった。
「大丈夫だよ。それよりも、この子たちも眠らせてあげないと」
「はい。でも、今度はあたしにやらせてください……さっきから暁さんに頼ってばかりだから」
「わかった」
 暁は静かに頷く。
 それからラブは懐からリンクルンを取り出して、そこにピルンを差し込む。ピルンを横に回しながら、彼女は叫んだ。
「チェンジ! プリキュア! ビート・アーップ!」
 その言葉に答えるようにリンクルンから眩い輝きが発せられる。その光に飲み込まれたラブは一瞬でキュアピーチに変身した。
 キュアピーチは、つい先程シャンゼリオンがやったように地面に二つの穴を掘る。その中に少年と少女の遺体をそれぞれ乗せた。
 少年は腕が無くなっていて、少女はお腹に大きな穴が空いている。それを見るのはキュアピーチにとって辛かった。彼らがどんな痛みを感じていたのかを考えるだけでも、悲しくなってしまう。一体誰がこんなことをしたのかが気になったが、ここでいくら考えてもわかる訳がない。
 今は二人を弔うことが最優先だった。
「二人とも、ごめんなさい……助けてあげられなくて。お姉ちゃんが君達のことを助けないといけなかったのに」
 その小さな体を埋める前に、キュアピーチは二人に謝る。
 もしかしたらこの二人は仲のいい友達かもしれなかった。こんな戦いさえなければ、二人は元の世界で幸せに過ごしていたかもしれない。一緒に遊んで、一緒に勉強をして、一緒に笑いあう。そんな穏やかで温かい日常を過ごせていたかもしれなかったのに、加頭達はそれを壊した。
 考えれば考えるほど、やるせなくなってしまう。
「君達。お兄ちゃん達はすぐに行くよ。でも、お兄ちゃん達は君達のことを忘れないから……どうか、安らかに眠ってくれ。お兄ちゃんは君達の仇を取るからさ」
 暁も二人に声をかける。
 彼の気持ちはキュアピーチと同じだった。こんな小さな子ども達が死ぬのを悲しんでいるから、普通にいい人だ。
 殺し合いに乗ったとは言っていたけど、暁がそんなことをするなんてやはりありえない。改めてラブはそう思った。
「さようなら、二人とも……」
 最後にそう言い残してから、キュアピーチは二人の死体を埋める。
 できるならきちんとした葬式をやるべきだろうし、二人の墓だって作りたかった。だけど、ここではこんな形でしか二人を弔うことができない。せめて、精一杯の気持ちだけでも込めるしかなかった。
 また、約束が増えた。みんなの分まで戦うだけではなく、弔った二人の分まで生きなければならない。この命を粗末にすることなんかできない。命がある限り、一度でも倒れるわけにはいかなくなった。
「あたし達、頑張るからね」
 この大地に眠る少年と少女……ユーノ・スクライアとフェイト・テスタロッサに、キュアピーチはそう強く誓う。
 島には再び夜の闇が迫り来るがここにいる二人はそれに負けたりなどしない。胸の中に熱い意志が宿る限り、絶望することはなかった。
 もうすぐ、主催者達によって行われる三度目の放送が始まる。それを聞いた桃園ラブと涼村暁が何を思うのかはまだ誰にもわからない。


【1日目 夕方】
【I-7/平原】


【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3
[道具]:支給品一式×3(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、八宝大華輪×4@らんま1/2、ランダム支給品0~2(ミユキ0~2)、
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:市街地に向かう。
1:別れた人達(特に凪のような女性陣)が心配、出来れば合流したい。黒岩? 変な事してないよな?
2:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。
3:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。


【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(小)、決意、キュアピーチに変身中
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:暁とともに市街地に向かう。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
6:ダークプリキュアとと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、サラマンダー男爵が……?
8:石堀さん達、大丈夫かな……?
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。


【共通備考】
※I-5エリアに放置されていた一文字隼人の遺体と、I-7エリアに放置されていたフェイトとユーノの遺体は埋葬されました。
※モロトフの持っていた全ての支給品は爆発に巻き込まれています。


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最終更新:2014年02月24日 16:51