没・第三回放送 ◆OmtW54r7Tc



時刻は午後六時を指し、夕闇に染まる空は徐々に暗い色を見せ始めている。
この殺し合いが始まってから18時間。
既に3度目となるそれは、始まった。


「参加者の諸君、よくぞここまで生き残った。私の名は片桐一樹、またの名を闇将軍ザンダーという」


現れたホログラムの人物は、歳は見たところ三十代から四十代あたり。
おそらく泉京水が生きていたならば興奮していたであろう、精悍な顔つきの男だった。


「貴様らの中には愚かにも反抗を企てているものもいるようだが、全ては無駄なことだ。貴様らが我々に歯向かうことなど、不可能なのだからな」


参加者たちを見下すような態度をとる片桐。
反抗は無駄だと、厳しい表情を崩さぬまま参加者一同に伝える。


「まずはこれまで通り、この6時間で死亡した者の名を発表する。相羽タカヤ、アインハルト・ストラトス、泉京水、一文字隼人、梅盛源太、西条凪、大道克己、バラゴ、溝呂木眞也、村雨良、モロトフ、ン・ダグバ・ゼバ。…以上12名だ」


淡々と死者の名を読み上げていく。
そこには死んでいった者達への哀悼の念などない。


「次に、禁止エリアを伝える。今回は19時に【G-9】、21時に【F-5】、23時に【E-3】だ。どこかのバカのように、禁止エリアで眠ってしまうことがないよう、気を付けることだな」


そのどこかのバカというのは、片桐もよく知る人物なのだが、そこまで語ることはしない。


「そして今回のボーナスだが…一言でいえば【情報】だ。21時にとある情報網の拡張を行う。一部の参加者には既にヒントが伝えられていると思うが、有効に使う事だ」


結城丈二と涼邑零にはおぼろげに伝えられた【地球の本棚】の拡張。
それが今回のボーナスであった。
ただし、結城達のもとに届けられたメモにあった地球の本棚やダブルドライバーという固有名詞は使わずにあくまで情報網の拡張ということを伝えるだけにとどまった。


「それと今回はとある制約についても伝える。19時以降、4人以上の参加者が百メートル圏内に集まった場合、首輪が点滅し、5分以内に離れなければ人数が3人以下となるように首輪を爆発させる!誰の首輪を爆発させるかはこちらの独断で決まる…くれぐれも必要以上に群れないことだ」

「ただし、参加者を二人以上殺した者はこの制約から外れ、密集人数の換算にも含まれないものとする」


これは、殺し合いに反対する対主催が集結しつつある状況を見ての主催側のバランス調整であった。
しかしこの制約を全員に設けた場合、対主催と殺し合いに積極的なマーダーの接触すら阻害する恐れがあるため、マーダーとしての実績があるものは制約から逃れるものとしたのだ。


「ちなみに現在この制約を外れているものはたったの3人だ。この話を聞いてどうするかは貴様らの自由だが、賢明な判断をすることだな」


皮肉のこもった嘲る口調でザンダーは語る。
ようするに彼が言いたいのは、「制約から逃れたければ殺せ」ということであった。


「これで放送を……ん?なんだ?」


突然、ホログラムが消える。
かと思えば、しばらくして再び現れる片桐の顔。


「…最後に一つだけ貴様らにありがたい情報をくれてやる。間もなく、【究極なる者】が眠りから覚める」


究極なる者。
その言葉を聞いても、何のことなのか分からない者がほとんどだろう。
片桐の、次の言葉を聞くまでは。


「その者は、【ン】の名を持つ化け物だ。精々醜くあがくことだ」


そういうと再びホログラムは姿を消し、三度姿を現すことはなかった。


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「お疲れさまです。片桐さん」

放送原稿を担当する青年、吉良沢優は放送を終えた片桐にねぎらいの言葉をかける。

「すみません、途中で放送を中断することとなってしまって。彼らから伝えられた情報も伝達しておくべきだと判断したので」

そう述べる吉良沢の隣にいたのは、バルバとドルドであった。
あの時、一度放送が中断になったのは、吉良沢の指示であった。
吉良沢は、放送中部屋に入ってきた二人から究極なる者の復活を聞き、急遽放送の伝達内容に加えるよう片桐に指示したのだ。

「ふん、別に構わんが…貴様らが言っていた条件とやらを満たしたということか」

そういって片桐は放送の一時中断の原因となった二人の方を見る。
究極なる者。
グロンギ遺跡に眠り、バラゴにより封印が解かれたことは片桐や吉良沢も把握していたが、その存在が眠りから目を覚ます条件はバルバ達二人しか知らなかった。

「その通りだ」

2人の内、女の方――バルバが口を開く。
彼女の短い返答を引き継ぐ形で、ドルドが語る。


「究極なる者、ン・ガミオ・ゼダが目覚める条件――それは封印が解かれた後十三の命が散った時だった」
「なるほど、つまり復活の引き金となったのは――ダグバということですね」


吉良沢の言葉にバルバがコクリと頷く。
バラゴが封印を解かれる以前、既に殺し合いの場では32人の参加者が命を落としていた。
その後相羽シンヤが死んで放送を迎え…その後も死者の数は増えていき、そして数分前のン・ダグバ・ゼバの死をもって封印解除後十三番目の死者となった。

「まさか同じンの名を持つ王、ダグバの死が新たなンを目覚めさせることとなるとは…」
「旧き王は倒れ、新しい王が目覚めたというわけか…」

ドルドとバラゴは感慨深げにつぶやく。
彼らの言うように、皮肉にもグロンギの王の死が、新たなグロンギの王を生み出したのだ。

「ふん、くだらんな…私はモニター室へ戻らせてもらう」

片桐一樹こと闇将軍ザンダーは、放送室を後にする。
彼の役目は、モニタールームでの参加者の監視であった。


「新たな王、ン・ガミオ・ゼバか…」

2人のグロンギの話を聞いた吉良沢は、デスクに肘をつきながら、思案顔となる。
数分前に死亡したン・ダグバ・ゼバ。
バルバ達によれば思ったよりも振るわなかったという話だが、その実力は確かであり、早乙女乱馬によるベルト破壊による弱体化がなければあの場で倒されていたかもわからない凶悪な存在。
そして今、そのダグバと同等の力を持つ者が蘇ろうとしている。


(みんな、負けないでくれ…)


その事実を前に、彼が出来るのはただ祈ることだけであった。
心に光を持つ者達が、強大な闇に押しつぶされないようにと。



「エクストリームメモリの監視、お疲れ様です。サラマンダー男爵」

そうねぎらいをかけるのは、財団Xに所属する男加頭順。
が、言葉とは裏腹にその無感情な表情からはねぎらう様子がまるで感じられない。

「あんた、それでねぎらってるつもりなのか?」
「そうは見えませんか?」
「いやいいよ。あんたがそういうヤツだってのはとっくに知ってるし」

はあ、と思わず男爵は溜息をつく。
何を考えているのか、心が見えにくいこの男はどうにも苦手だ。

「それで、一体何の用だ?」
「はい、あなたのエクストリームメモリの監視任務ですが…間もなく終了となります」

加頭の言葉に、男爵は目を丸くする。

「おいおい、仕事クビってわけか?」
「はい、そうです。3時間後、このエクストリームメモリは殺し合いの会場に転送します」
「…ああ、例の情報開示って奴と関係あるのか?」
「はい、他世界の情報を閲覧するには、このメモリで変身する必要がありますから」

エクストリームメモリを用いた仮面ライダーWの最強フォーム、サイクロンジョーカーエクストリーム。
W世界以外の他世界の情報を検索、閲覧するにはこのフォームの体中央にある「クリスタルサーバー」によるデータベースへのアクセスが必要であった。
つまり、変身しなければ拡張した情報を閲覧することは出来ないのだ。

「なるほどなぁ。それで、このメモリは3時間後どこに転送するんだ?左翔太郎の所へか?」
「いえ、メモリはある人のデイバックに転送させることにしました」
「ある人?」
「ええ、実はニードルさんが面白い趣向を考え付きましてね」

そう語る加頭の表情には面白そうな印象は感じられず、いつも通りの無感情な表情だった。
そんな彼を見て、やはりこいつは苦手だと感じるサラマンダー男爵であった。



「おい、ゴハット!ゴハット!どこにいるのだゴハット!」

モニター室に戻った片桐は、部下の名を叫んで部屋の中を歩き回っていた。
下っ端の一人にすぎないにも関わらず、自分以外に主催側としてこの場に呼ばれたもう一人の同士、ゴハット。
片桐は彼と共に監視作業を行っており、放送の間は監視と留守番を任せているはずであった。


「フフ…彼ならここにはいませんよ」


その時、誰かがモニター室に入ってきた。

「お前は、ニードル…」
「フフ…片桐さん。モニターをよく見てみてください」

言われて、片桐は各参加者の姿を映し出したモニターを見る。


「なに!?」


モニターの一つを見て、片桐は驚愕する。
そこに映っていたのは…闇生物、ゴハットの人間姿だった。


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「到着!これで生のヒーロー達に会えるんだなあ!感激だなあ」

闇生物ゴハットは、非常にウキウキしていた。
これまで、モニター越しでしか見られなかったヒーロー達を、直接この目で見ることができるのだ。

「やっぱまずはシャンゼリオンかなあ?それとも仮面ライダー?あるいは…」
『ゴハットさん。目的を忘れてはいけませんよ』

通信機から聞こえてきたのは、ニードルの声。

「分かってるって!ヒーロー達を脅かす悪者として、がんばっちゃうよ~」
『その意気です。それでは頼みましたよ』

そこで通信は切れた。

「そういえば、デイバックの中に役に立つ者を入れてるって言ってたっけ…」

ゴハットは、デイバックを探る。
出てきたのは、

「おお、これは!」

それは、本来参加者に支給する予定だったが、結局支給されることのなかったものだった。

「イエーイ!これでボクもヒーローだ!」

その支給されなかったものの正体は――


―JOKER!―


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「そういうわけで、ゴハットさんにはジョーカーとして殺し合いの舞台に乱入することとなりました」
「何がそういうわけだ!ふざけるな!貴様、何を考えている!?」

しれっとした顔をするニードルに、片桐は怒りの形相でつかみかかる。

「いえいえ、この殺し合いを盛り上げようと考えたまでですよ。加頭さんの了承も得られましたしね」
「部下である私に断りを入れるのが、筋ではないか!?」
「まあまあ、考えても見てください。現在の参加者達の状況は対主催者が俄然有利な状況で進んでいます。あなたも、そのような状況は好ましくないでしょう?」
「む…」

確かにニードルの言う通り、現在殺し合いに乗っているものと乗っていない者…どちらに状況が傾いているかと言われれば、後者であった。
殺し合いに乗っているものや危険人物は、数・質ともに決して悪くはない。
ただ、状況がまずいのだ。

対主催は、そのほとんどが市街地を目的地としている。
これは、一文字隼人の市街地合流の話がかなり多岐に渡って伝わったためだ。
一方でマーダー・あるいは危険人物と呼ばれる参加者は、市街地から離れたり、そちらに向かおうとしない奴らが多い
一応制約により大人数チームは作れないルールは敷いたが、これも首輪が解除でもされれば無意味なものとなり、実際に大チームを形成しているその場所では首輪の分析も行われようとしている。
いくら強力なマーダーが残っていると言えども、彼らにタイマンで互角に近い戦闘能力を持つ対主催者も多くおり、数の暴力に屈しかねない。

「だが、ゴハットをわざわざ連れてこなくとも、バルバの話ではまもなく究極なる者が…」
「ゴハットさんとこの話をした時には、ダグバもまだ死んでいませんでしたし、そもそも復活の条件すら聞かされてませんでしたから。いつ復活するかも分からない者を待つよりも、こちらで先に手を打とうと考えたまでですよ…フフ」
「ぐう…」

どうにも上手く言いくるめられているようで癪に障る。

「ち…話は分かった!俺は仕事に戻るから、貴様は出て行け!」
「フフ…ではごきげんよう、片桐一樹さん」


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加頭順が去った後も、サラマンダー男爵はエクストリームメモリの監視を続ける。
残り3時間の仕事を。

「ゴハットねえ」

加頭の話では、このエクストリームメモリは3時間後、彼のデイバックに転送させる予定らしい。
まあ、他の参加者のもとに渡すよりは、イレギュラーな彼の手元に置いた方がある意味公平性は保たれるかもしれないが…

サラマンダー男爵はふと、一回目の放送の直前に彼と会話した時のことを思い出す。
仮面ライダーやら、プリキュアやらについて聞いてもいないのに熱烈に語ってきて、気持ち悪い奴だった…
そういえば、こんな話もしたな

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『それにしても、キュアムーンライトは最低のプリキュアだ!プリキュアなのに殺し合いに乗った上に仲間を殺すなんてヒーロー失格だ!』

あの言葉を聞いたとき、何故かイラついたのを覚えている。
それで、今までただ聞いてるだけだったのに、つい口を出してしまった。

『彼女だって、プリキュアである前に家族を想う一人の少女だったということだろう』
『ダメダメダメ!そんなんじゃダメなの!ヒーローっていうのは、ヒーローになったその瞬間から、小市民としての幸せは捨てるものなの!おたく、そこんとこ分かってる!?』

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「ヒーローは小市民としての幸せを捨てるもの…ね。俺にはそうは思えないがね」

ゴハットとの会話を思い出しながら、サラマンダー男爵は一人つぶやく。
プリキュアとの戦いに敗れ、オリヴィエと再び旅に出る前に、男爵はプリキュア達のファッションショーを見た。
そこにいたのは、伝説の戦士なんていう大仰な姿は感じられず、人としての営みを謳歌する…ただの少女達であった。

「あんたはどうなんだ?囚われの王子様」

エクストリームメモリの中のフィリップに声をかける。
当然、反応などあるはずがない。


「聞こえるわけないよな…まあ、残り3時間の付き合いだ。離れるときにはお別れくらい言わせてくれよな」


返答などないことを承知でメモリに話しかけながら、サラマンダー男爵はのんびりとした様子でメモリの監視作業を続けた。


【全体備考】
※主催側に【片桐一樹@超光戦士シャンゼリオン】と【ゴハット@超光戦士シャンゼリオン】がいます。モニター室で参加者の動向を監視するのが役目です
※ゴハットはジョーカーとして殺し合いの場に転送されました
 基本支給品以外の所持品として、通信機、T2ジョーカーメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーWが判明しています。
※条件を満たし、究極なる者ン・ガミオ・ゼバが蘇りました。
 間もなく復活すると思われます。
※エクストリームメモリは、21時以降ゴハットのデイバックに転送されます
 CJXに変身することによりW世界以外の世界の情報について閲覧できるようになります

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最終更新:2014年03月19日 23:00