あなたが遺してくれたもの ◆LuuKRM2PEg



 満天の星が輝いているが、彼女はそれに目を向けていない。芸術品のように美しさを醸し出していても、今の彼女はそれを尊いとは思えなかった。
 これから先にある道は暗闇に包まれているが気にしていない。恐怖は消えていないが、それを吹き飛ばしてくれる激情が胸の中に宿っていた。
 闇のように暗い炎が燃え上がっている限り、この足は止まらない。どこまでだろうと走り続けることができる。
 行くあてもなく会場を駆け抜けているのは、天道あかねと言ううら若き少女だった。

「──はっ、はっ、はっ」

 彼女は息を吐きながら、マラソン選手のように規則正しく走っている。しかし、その速度は人間の領域を遥かに凌駕していた。
 それも当然。伝説の道着やアンノウンハンド、そしてプロトタイプ・アークルによってあかねは異様なまでの力を手に入れている。
 故に、数キロメートルを一瞬で走り抜けるなど造作もない。例え、身体に莫大な疲労とダメージが残っていたとしても。

(どこなの……どこまで逃げたの!? ダグバの仲間は!?)

 ホテルの部屋を荒らした人物を倒す為に、あかねは外を走っている。
 しかし、見つからない。それどころか、周囲には人の気配が全く感じられなかった。それに苛立ちを感じてしまい、あかねは足に力を込める。
 速度は上がるが、他の誰とも会えない。より一層、鬱憤が無意味に溜まってしまう。
 あかねは知らない。部屋を荒らしたのは他の誰でもない、あかね自身であることを。寝相の悪さのせいで滅茶苦茶になったのだが、それを知らせてくれている者は誰もいない。
 唯一、伝説の道着だけがその場面を見ているのだが、それを伝える手段を持っていなかった。いくら意思を持っていたとしても、他者にそれを伝える方法を持ち合わせていない。喋ることもできなかった。

(隠れていようとも無駄よ。どこまで逃げようとも、あたしが絶対に見つけてあんたを倒すから……覚悟しなさい!)

 それが無意味であることを知らないまま、あかねはいるはずのない相手に怒りを燃やし続ける。
 この鬱憤を晴らしたかったけど、相手がいない。元の日常に帰る為に戦わなければいけないけれど、誰とも出会えないのがもどかしい。こんな所で無意味な時間を潰している暇などないのに。
 感情ばかりが積み重なっていくだけで、それをぶつける相手がいない。そんな空しさしか感じられなかった。
 どこを走っているかなんて考えていないし、地図だって確認していない。そんな行動すらも取れないくらい、少女は憎悪に囚われていた。
 今、どこのエリアを走っているかなんてわからない。例え、禁止エリアに接近して生命の危機に陥ったとしても、突入するまで気付かないだろう。

 しかし、幸いにも彼女は禁止エリアに突入する気配を見せない。
 あかねは今、広大なる森林の中を駆け抜けていた。暗闇の中に入る抵抗は残っているが、もしかしたらまだ誰かが隠れているかもしれない。その可能性を信じて、再び森の中に行くことを選んだのだ。
 例え怪物やお化けが襲いかかってこようとも、返り討ちにしてやればいい。それだけの強さを持っているのだから、何の問題もなかった。
 ダグバだろうと、ガドルだろうと、エターナルだろうと……また、仮にこの三人が同時に挑んできたとしても負ける気がしない。そんな確信が今のあかねにはある。
 これだけの力さえあれば、残った参加者だってみんな倒せる。そう思いながら駆け抜けていると、周囲の風景が一変する。

「えっ……? ここって……」

 あかねは怪訝な表情を浮かべた。
 そこは、森の中にしては至る所が焼け焦げていたのだ。あるはずの植物はどれもまともな形を留めていなくて、黒い塊と成り果ててしまっている。地面だって至る所が砕け散っていた。
 一目見ただけで、ここで何かがあったと推測できる。少なくとも、焚き火が行われたとは思えない。それはあかねでも理解できた。
 誰かがここで戦っていた。そんな思考が芽生えるのと同時に、あかねは先程の戦いを思い出す。煌びやかなコスチュームを纏った二人の少女とエターナルは、ガドル(実際はン・ガミオ・ゼダ)と戦っていた。その戦いによって周囲が吹き飛んでいる。
 辺りを見渡すが、戦いはもう終わったので誰もいない。人の気配だって感じられなかった。
 あの時、逃げ出したりしないで戻ってきていれば、ガドル達を倒せたのかもしれない。そんな後悔が生まれるが、すぐに振り払う。過ぎたことを悔んだ所で時間は戻ってこないし、何よりもそんな余裕などない。
 あかねはすぐにこの場から立ち去ろうとした。だが。

「……っ!」

 その足はすぐに止まる。
 彼女の目前には男の死体があった。身体のあちこちに傷が刻まれていて、胸に大きな穴が開いている。
 男のことをあかねは知っていた。

「十臓……さん……」

 そう。腑破十臓だった。
 エターナルと戦って、そして死んでしまったあの男だ。二十時間以上前に死別した男だが、あかねは忘れていない。
 ここは、エターナルと初めて戦ったあの場所だったのだ。ガミオと戦ったエリアからそう離れていないので、偶然にもまた通ってしまっている。

「…………」

 十臓の死体を前にあかねは何も言えず、ただ表情を顰めるしかない。凄惨に傷付けられた遺体は、彼女にとって毒だった。
 呼吸は荒れてしまい、それによって上半身が震える。視界も定まらなかった。どれだけ人外の力を付けていようとも、それで精神力が強くなったわけではない。本質的には恐怖を克服できていなかった。
 そして、彼女の中である感情が唐突に吹き出してくる。

「……どうしてよ」

 それは疑問。
 彼女は十臓に問いかけるが答えは返ってこない。相手は死人なのだから当然だった。

「どうして……笑っているのよ」

 目の前で倒れている十臓は笑っていたのだ。まるで、最期の瞬間は満ち足りていたかのように。
 あかねにはそれが許せなかった。自分はこんなに苦しみながら戦っているのに、どうして化け物ばかりが笑っているのか。あのダグバだって、笑いながら大切な『何か』を奪っていた。
 まともな人間は次々と傷付いていき、化け物ばかりが笑う。そんな不条理など認められるわけがない。
 これでは、そんな奴らしかいない所に放り込まれた自分が、馬鹿みたいに思えてしまう。

「許せない……!」

 憎悪を言葉に込めながら、あかねは折れた裏正を握り締める。刃が掌に食い込んで痛みを感じるが、構わない。
 この化け物の笑顔を奪えるのなら、何てことはない。
 十臓は人間のふりをしていた化け物だ。エターナルと戦っていた時に、ドーパントのような姿に変わったのが証拠だ。

「あんただけが笑うなんて……!」

 だから倒さなければならない。
 この笑顔を潰す。
 こんな奴が笑うなんてあってはいけない。
 壊したい。
 壊してしまいたい。
 人間じゃない化け物は消してしまいたい。
 あまりにも身勝手で歪んだ決意を胸に抱いて、あかねは腕を振り上げる。そのまま、裏正を振り下ろそうとするが……

『寿司屋、お前は邪魔だ。その娘を連れてさっさと離れろ』

 その途端、脳裏に十臓の言葉が蘇る。
 それは、エターナルと戦っていた十臓が遺してくれた言葉だった。続くように、あの戦いがフラッシュバックしていく。
 十臓は確かに化け物になって、同じ化け物であるエターナルと戦い、そして死んだ。

「あ、あ、あ……」

 脳裏に過ぎる思い出のせいで、あかねの腕は震えている。
 十臓を傷付けたいと言う憎悪と憤怒は残っているが、胸の中に宿る記憶がそれを阻害していた。それどころか、思い出は留まる気配を見せない。

『なら、その娘は巻き添えとなって死ぬだろう……お前がそうしたいのなら、俺は別に構わないが』

 彼の言葉は続く。 
 チャンスはいくらでもあったはずなのに、十臓は自分達のことを傷付けたりなんかしなかった。心がない化け物であるにも関わらずに、指で触ることもしていない。
 エターナルから、自分達を守る為に戦ってくれたのだ。本当なら、寿司を食べ終わった後に殺すことだってできたはずなのに、それをしなかった。
 それどころか、源太と力を合わせてエターナルとも戦ってすらいたのだ。白い化け物である、エターナルと……

 白い化け物。
 それはあのダグバも同じだった。
 ダグバはその圧倒的実力でシンケンゴールドに変身した源太や、アインハルト・ストラトスを追い込んでいた。二人だけでは、絶対に倒せなかっただろう。
 なのに、どうして源太とアインハルトは生き残っているのか? そして、どうして自分も生き残ったのか?
 自分達が力を合わせてダグバを倒した……そんな記憶はない。それだけで倒せるのなら、こんな苦労はしない。

 ……そうだ。他にも誰かが戦っていたのだ。
 エターナルと戦った十臓のように、自分達を逃がす為にダグバと戦った。そして、死んでしまった。
 それは一体、誰なのか。とても強い『誰か』の命は、ダグバによって奪われてしまった。知っているはずなのに、思い出せない……そのもどかしさが、また襲いかかってきたのだ。
 その『誰か』とは戦ったことがある。伝説の道着がなかったら、勝つことができなかった。それを覚えているのに、相手が誰なのかがわからない。

『あかねさん。……さんには、おそらくあの怪人にも弱点がある……ということを教えました』

 続いて蘇るのは、アインハルトの言葉。
 ダグバの弱点はベルトであると教えてくれた。でも、それはあかねと源太だけでなく、他の『誰か』にも伝えている。それが誰なのかが、わからない。
『誰か』は獅子咆哮弾を使って、ダグバと戦っていた。不幸を原動力とする、あの技を……

『俺だ……良牙だ……』

 獅子咆哮弾は、良牙と名乗った『誰か』も使っていた。
 良牙と、ダグバと戦った『誰か』は戦っていた気がする。顔を合わせれば、毎度のように喧嘩をしている。傍から見れば、あまりにもくだらない理由で。
 でも、本人達にとって、それは大切な日常だったはず……

「…………ッ!」

 そこまで考えた瞬間、凄まじい頭痛が襲いかかった。
 記憶が掘り出される度に激痛が広がってしまい、あかねは反射的に頭を押さえる。だが、それで収まる訳がない。
 十臓への殺意と憎しみも忘れさせてしまうほど、それは激しい苦痛だった。

「あ、あ、あ……あ、あ……ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 やがてあかねは咆哮と共に走り出し、その場を去っていく。
 ここにいたら、忘れてしまいたい記憶を掘り出されてしまうような気がして。触れられたくない物を、見せられているような不快感に襲われてしまい、留まりたくない。
 動揺と焦りが噴水のように溢れてきてしまい、あかねは逃げるように走るしかなかった。



 腑破十臓という男は己の快楽だけに戦い、人を斬り続けた心からの外道だった。
 どれだけ家族が止めようとしても、その純粋な想いを裏切って戦いに身を投じた。それは今までも、そしてこの世界でも変わらない。現に流ノ介は斬られ、なのはも傷付けられそうになった。
 しかし一方で、十臓が戦ったことで救われた命が確かに存在した。源太とあかねは、彼がいたおかげでエターナルに殺されずに済んでいる。
 そして同じように、アインハルトと力を合わせた『誰か』……早乙女乱馬はダグバと戦い、源太とあかねを守ることに成功した。
 もしかしたら、あかねは無意識の内に被らせてしまったのかもしれない。だが、その真相はあかね自身もわからなかった。
 救いようはなく、和解の余地もない外道であるのが十臓だった。だけど、十臓によって遺されたものは確かにあった。
 それが救いになるのか、それとも更なる呪いになるのかは誰にもわからない……



【2日目 早朝】
【D-7 森の中】

【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、自己矛盾による思考の差し替え、動揺
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×4(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1~2(溝呂木1~2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:この場から離れたい……
1:ガドルや部屋を荒らした奴を倒す。
2:ダグバが死んだ……。
3:ネクサスの力……
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い~メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。
※自分の部屋が何者かに荒らされていると勘違いしています。おそらくガドルやガミオだと推定しています。
※どこに向かうのかは後続の書き手さんにお任せします。


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最終更新:2014年08月10日 10:43