最後の六時間 ◆gry038wOvE



『皆の衆、ご機嫌いかがかな? 拙者は脂目マンプク。第五回放送を担当する者だ。
 今回は重要な報告があるが、まずはいつも通り、死亡者の報告から始めさせて頂く』

 天道あかねが山道を歩いていると、ふとそんな放送が耳を打った。
 今度の放送もまた別の人間が担当するらしい。あかねにとって、放送は命綱だ。
 多くの参加者にとっては、現状辛うじて聞き逃しても問題はない物だが、死亡者や禁止エリアに関する情報を一切得ていないあかねにとっては、情報を得るのに必要不可欠である。
 彼女自身は知る由もないが、現状、単独行動をしているのは彼女のみで、繋がりを一切持っていないのも彼女だけであった。

 とにかく、彼女は名簿と地図を出して、一体どんな内容の放送が行われるのか待っていた。
 今頃そんな体勢で放送を待っていたのは、おそらく彼女のみである。
 既に他の参加者は自分以外の参加者のスタンスも把握し、生者死者も一目でわかるほどである。禁止エリアに関する下調べも全く不要であった。
 彼女自身も、自分がどれほど道化であるのかも知らぬまま、ペンを取り出していた。

『今回の死亡者は、三名。ゴ・ガドル・バ、冴島鋼牙、結城丈二──以上だ。
 残る人数は十四名。前回と同じく、禁止区域はない』

 あかねは、ペンを持つ手をいずれかの名前に近づけようとしていたが、その手をすぐに止める。

 ────ゴ・ガドル・バ?

 ダグバの仲間であるあの怪物が、もう既に殺されてしまった? この放送が本当ならば、そういう事になる。
 あかねにとって、ガドルこそが残る最後の「仇」であった。ゴオマもダグバも死んだ現状、唯一、あかねが自らの手で必ず殺さなければならない相手であった。
 グロンギを殺し、仇を討つ事が当面のあかねの目標であった。
 結局、あかねは誰も「仇」を殺せていないというのか──?
 自分は今も、ガドルを殺す為にホテルを出て、こうしてここまでやって来たのだ。

最初の一人の名前を聞いて、そこから先の名前は耳に入らなかった。残りの二人の名前は彼女が意識を向けるほどではなかった。

(嘘……うそ……)

 それならば、何故……自分はこんなに……。
 頭の中が真っ白になるが、それでも放送は重要な情報を伝え続ける。

『さて、ここからが本題だ。
 多くの者はわかると思うが……積極的に殺し合いをしている参加者は、最早少数。このままでは殺し合いの続行そのものが危ぶまれる状況でござる。圧倒的多数が首輪を解除し、殺し合いを拒否している状況では、こちらもどうする事もできないのだ。
 不服だが、この状況だ。拙者たちもおとなしく負けを認めよう。この殺し合いは、現在生き残っている人間たちの勝利でござる』

 勝利。
 聞こえのいい言葉だが、あかねはまだ勝利と呼べるような事は何もしていない。
 あるのは、むしろ敗北感だ。殺し合いに乗り、首輪もつけているあかねはかなりの少数派なのだという。ゴオマもダグバもガドルも、どこか見知らぬ場所で死んでいってしまった。
 これから戦っていく事に、価値はあるのだろうか?
 これまでの戦いにはどれだけの価値があったのだろう。……ガドルも結局、誰かが殺してしまったという。
 自分から仇を奪う何者かがいた。
 許せるはずがない。……そう。



『──────即ち、最後の一人が決まらない状況でも、生きている全員で元の世界に帰還する権利を与える』



 生還? ……いや、自分はそんな事は望んでいない!
 一つの大いなる目的があって、そのために殺し合いに乗っているのだ。
 殺し合いがどんな目的で行われているかは全くわからないが、向こうの提示した目的の為に必死で働いて来た。

 ある意味、殺し合いに乗るという事自体は主催への奉仕でもある。
 その厚意を突き放して、勝手に殺し合いを中断するなど許されるはずがない。
 今生きている人間が全員生き残ってどうする? 仮に全員が生き残ったとして、死んでしまった人間はどうなる?
 死んだ人間の為に殺し合いをする自分は、利用するだけ利用されて捨てられてしまうのか?


『皆の衆には嬉しい報告だろう。これぞ勝者の証だ。
 ……ただし、これまた最後に、たった一つだけ、ちょっとした条件がある。
 その条件とは、【残り人数が正午までに十名以内になった場合に限る】という事だ。
 それから、もし、その方法で生き残った場合、こちらからの報酬は残念ながら与える事はできない。報酬を受け取ろうという意思ある者は、正午までに全員を殺せば報酬を与える』

 その瞬間、思わずあかねは叫んだ。
 空中に映る脂目マンプクの肥満体に向けて、声を張り上げて叫んだ。
 喉の奥から、叫びは自分の意思に反して押し出されていく。

「報酬が与えられない!? それってどういう事よ……!!!! 私が欲しいのは、ただの生還じゃない……!!!! こんなの、裏切りじゃない!!!!!!!!!!」

 ただ帰るだけではない。
 誰かの為に戦わなければならない。
 あかねの目的は優勝。
 それだけは揺らがない。

 残り参加者は何人だ?
 あと六時間でそれを全員?
 無理だ。どう考えても。
 しかしやらなければならない。
 時間が惜しい。
 何でもいい。
 全部殺さなければ。

「うわあああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!」

 あかねの中の憎しみが膨らんでいく。
 あかねの体を、一瞬で黒き戦士に“変身”させる。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 伝説の道着は、その瞬間を見て、思わず逃げ出そうとした。
 邪気があかねの体を変貌させ、非人へと変える。

「ヴヷォ゙ア゙ル゙ァ゙ァァァァァァァァァァァ」

 あかねはプロトタイプアークルの力を無意識下に発動したのである。
 あかねの体が白いクウガへと変身した後、今度は黒へ。
 凄まじき戦士、と呼ばれた新たなる体へと。
 刺々しくなった体つきは、既にあかねの面影などどこにも残していなかった。
 人間としての理性を残さず、ただ参加者を狩るべく、己の意思を捨てた姿。
 真っ黒な瞳が朝方の森に小さな闇を作る。



「…………ッガァァァ!!!!! ウガアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!!!!」



 ────あらゆる物への憎しみが、すぐに彼女を怪物へと変えていくのに時間はかからなかった。
 既にそこに天道あかねはいない。
 天道あかねを取り込み、伝説の道着を取り込み、メフィストの闇を取り込み、その瞬間に巻き起こった裏正の無念や後悔さえも全て取り込み、飲み干した。
 まさしく、それは狂戦士。

 彼女を救える物はどこに────。


【2日目 朝】
【D-7 森】
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:アマダムの力暴走、アマダム吸収、メフィストの闇を継承、肉体内部に吐血する程のダメージ(回復中)、ダメージ(極大・回復中)、疲労(極大)、精神的疲労(極大)、胸骨骨折(回復中)、 とても強い後悔と悲しみ、ガイアメモリによる精神汚染(進行中)、自己矛盾による思考の差し替え、動揺、「黒の二号」に変身中(自分で解除できない)
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW、二つに折れた裏正@侍戦隊シンケンジャー、ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、プロトタイプアークル@小説 仮面ライダークウガ
[道具]:支給品一式×4(あかね、溝呂木、一条、速水)、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、双眼鏡、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品1~2(溝呂木1~2)
[思考]
基本:"東風先生達との日常を守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:暴走
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパント、メフィスト、クウガに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
※黒岩が自力でメフィストの闇を振り払った事で、石堀に戻った分以外の余剰の闇があかねに流れ込みメフィストを継承しました(姿は不明)。今後ファウストに変身出来るかは不明です。
 但し、これは本来起こりえないイレギュラーの為、メフィストの力がどれだけ使えるかは不明です。なお、ウルトラマンネクサスの光への執着心も生じました。
※二号との戦い~メフィスト戦の記憶が欠落しています。その為、その間の出来事を把握していません。但し、黒岩に指摘された(あかね自身が『機械』そのものである事)だけは薄々記憶しています。
※様々な要因から乱馬や良牙の事を思考しない様になっています。但し記憶を失っているわけではないので、何かの切欠で思考する事になるでしょう。
※ガミオのことをガドルだと思い込んでいます。
※プロトタイプアークルを吸収したため仮面ライダークウガ・プロトタイプへの変身が可能になりました。
※自分の部屋が何者かに荒らされていると勘違いしています。おそらくガドルやガミオだと推定しています。
※どこに向かうのかは後続の書き手さんにお任せします。


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最終更新:2014年08月29日 21:25