第五回放送Z ◆gry038wOvE
二日目。午前六時。本来ならば、目覚めの時刻に近い。普通なら一日の始まりの時間なのだろうか。
だが、その時間、殺し合いの参加者たちは眠りの床に就く事もなく、ただ不安に目を覚ましていた。眠気や疲労は彼らの体をどれほど蝕んでいる事か。あと一日続いたら、勝手に倒れる者が次々出てくるかもしれない。
彼らに休息の時間はない。
このままでは、あと一日経つ事なく、参加者の体力にも限界が来る。
第五回放送──最後の放送が始まる。
これまで首輪を通して行われていた放送は、大多数の人間の首輪解除に伴い、今度は念話を使って行われた。
空に現れたのは、残る参加者では
血祭ドウコクのみがよく知る、
脂目マンプクなる怪人だった。
◇
「皆の衆、ご機嫌いかがかな? 拙者は脂目マンプク。第五回放送を担当する者だ。
今回は重要な報告があるが、まずはいつも通り、死亡者の報告から始めさせて頂く。
今回の死亡者は、三名。
ゴ・ガドル・バ、冴島鋼牙、
結城丈二──以上だ。
残る人数は十四名。前回と同じく、禁止区域はない。
さて、ここからが本題だ。
多くの者はわかると思うが……積極的に殺し合いをしている参加者は、最早少数。このままでは殺し合いの続行そのものが危ぶまれる状況でござる。圧倒的多数が首輪を解除し、殺し合いを拒否している状況では、こちらもどうする事もできないのだ。
不服だが、この状況だ。拙者たちもおとなしく負けを認めよう。この殺し合いは、現在生き残っている人間たちの勝利でござる。
──────即ち、最後の一人が決まらない状況でも、生きている全員で元の世界に帰還する権利を与える。
皆の衆には嬉しい報告だろう。これぞ勝者の証だ。
……ただし、これまた最後に、たった一つだけ、ちょっとした条件がある。
その条件とは、【残り人数が正午までに十名以内になった場合に限る】という事だ。
それから、もし、その方法で生き残った場合、こちらからの報酬は残念ながら与える事はできない。報酬を受け取ろうという意思ある者は、正午までに全員を殺せば報酬を与える。
尚、参加者として登録されていない者は人数に含まないが、もし【残り参加者数が十名を切らなかった場合には、我々もこの世界に全員を放置して離脱】する。即ち、永遠にこの世界に閉じ込められる事になるのでござる。元の世界に帰る事もできず、限りある島の食料で死ぬまで暮らし続ける事になるだろう。
外からの助けも待つだけ無駄だ。
……拙者としても、ここまで我々を手古摺らせ、楽しませてくれた諸君たちには是非とも生き残ってもらいたい。せめて、周囲の人間を蹴落として最後の十人となってくれ。
健闘を祈る」
◇
この放送と共に、脂目マンプクの映像と声は消えた。
脱出の可能性を報せると同時に、そこに残酷な犠牲を要するこの放送。
果たして──。
◇
第四回放送終了から六時間経過し、第五回放送が始まった。
参加者は三名減った。──一見すると少ない数字だが、この殺し合いを開いた男は、その六時間に対して、そこまで大きな不満を抱く事がなかった。
彼──
カイザーベリアルの目的は充分に達成されていたからである。
「思った以上だな……」
この六時間で溜まったエネルギーの量を見て、カイザーベリアルは呟いた。この星の反対側で行われている殺し合いの結果、かなり膨大なエネルギーがベリアルの手に渡りつつある。
侵略の為のエネルギーの補填はこの段階で加速度的な進行を見せていたのである。参加者たちの首輪が続々解除された事により、放出された変身エネルギーは十五名分。微弱なエネルギーしか放出しなかった者もいれば、これまで集めた分と同量のエネルギーを放出した者もいる。数百光年分のエネルギーが補填され、全世界侵略へのカウントダウンは既に始まっている。
後は、流れに任せて殺し合いの終了を待っていれば、そう間もなくゲームは終了する。
確かに、殺し合いの観戦を楽しむ趣向もカイザーベリアルは持っている。だが、それはもはや宇宙の侵略に比べれば小さな事だ。結局、これは「殺し合い」でなくても良かったのである。こちらの一方的な虐殺でも何ら支障はないが、彼の部下──メフィラス星人・魔導のスライの提案で、こちらの手を汚さずに勝手に殺し合ってくれる状況を作り出す事を受け入れただけである。
彼らがどんな意思で殺し合っていようが知った事ではない。
たとえどんな理由で殺し合っていようとも、どれだけ強い想いが彼らを動かしていたとしても、ベリアルにとって、それは些末な事なのだ。
絶望や変身エネルギーを作り出す為の歯車であり、選ばれたのが彼らでなくとも、ベリアルにとっては、全く支障がない。
時折、切羽詰まった殺し合いの中で多少面白いエピソードを見る事ができるのが、唯一これを「殺し合い」にして良かったと思うポイントであった。
しかし、ベリアルは充分に楽しんだ。
「このまま行けば、もう間もなく全宇宙は必ず俺様の手に入る」
この宇宙にも別れを告げ、宇宙の全てを屈服させる絶対的な力を得るのだ。殺し合いに現を抜かし続ける場合ではない。
ベリアルに刃向かったウルトラ戦士たちは勿論の事、仮面ライダー、プリキュア、スーパー戦隊、宇宙刑事、セーラー戦士……ベリアルが知る異世界のあらゆる戦士たちも支配下に置く事ができる。
実のところ、この殺し合いに参加しているたった六十六名の事などどうでもいい話なのだ。ベリアルにとっては、都合良く利用しただけの、ありあわせの駒である。
参加している六十六名はベリアルにとっては取るに足らない存在でしかない。
しかし、それを希望と信じている人間が世界の外にいくらでもいるのがこの方法の最も意味深い部分なのだ。
未だ外世界の連中は、我が子の帰りや仲間の生還を信じられるだろうか。
大事な人間が死んだ事に一切絶望していないだろうか。
希望と信じていた者が役に立たず、倒れてしまった事に何も思わなかっただろうか。
そんなはずはない。だから、こうして膨大なエネルギーがベリアルの手にあるわけだ。
(しっかし、帰りが遅えな……)
彼の部下たちは今、外宇宙で
ウルトラマンゼロを初めとするウルトラ戦士と戦っている。
メフィラス星人、魔導のスライ。
ヒッポリト星人、地獄のジャタール。
テンペラー星人、極悪のヴィラニアス。
デスレ星雲人、炎上のデスローグ。
グローザ星系人、氷結のグロッケン。
彼らが外宇宙に行ってから数日。未だ帰還しないが、彼らのお陰で外宇宙からの介入は未然に防がれているだろう。元々、こちら側にはごく少数の選ばれた人間のみが存在を許され、外宇宙から他の存在がやって来る事はできないらしいが、念押しの為であった。
彼らならば、こちらの世界に来てしまう恐れもあると踏んだからだ。
未だに彼らの介入はなく、その点においてはベリアルも安心しているが──。
もしや──と、ベリアルは不安になった。
彼らは、最初は駒のつもりで扱っていた部下である。だが、今はそれだけではない。
これ以上ないほどに、自分を慕い、永久に自分についてきてくれる腹心だ。
あるいは、同胞と呼んでもいい。
ウルトラの星にいた時ならば絶対に得られなかった、自分を満たす存在であった──。
なるほど、この気分を外の奴らが感じているのか。
だが、犠牲はやむを得ない。己の野望の為に部下の犠牲が生まれる事もまた、必然の事実なのだろう──。
彼らもきっと、ベリアルの天下を喜ぶに違いない。命を賭けてでも──。
◇
【備考】
※主催側はゴ・ガドル・バが死亡したと判断しています(首輪による生死判別ができず、監視によって生死を確認している為)。
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最終更新:2015年08月11日 22:13