MY FRIEND ◆gry038wOvE




 速水と冴子は立ち止まって速水の荷物を確認していた。
 冴子自身は既に自らの支給品を粗方確認し終えていたのだが、同行者の速水がそれを一切行っていなかったからである。確認を怠った理由はただ単純に、加頭への怒りに身を震わせていたら時間が経過し、冴子と会うまでの時間に支給品を確認できなかったとかそんなところだろう。
 不自然な行動をしたわけでもないし、詳しい理由は聞かない。どうせ大したことでもなさそうだ。冴子は速水に支給品を確認するよう促すのみである。
 共に行動してもらう以上、速水の支給品を確認するのは当然であり、また自分が何を武器に戦えばいいのかを確認してもらうのも大事だと思われた。


「…………で、その結果がコレというわけね」


 彼らが速水のデイパックから取り出した武器はいずれも用途不明のものばかりである。形が何かに似ているようにも見えたり、文字が書いてあるように見えたりと、一瞬何かを思わせる要素があるのだが、結局思い出そうとしてもただのガラクタとして思考を停止する。
 冴子のデイパックと共通してある道具を除いていくと、最早速水の道具に武器らしい武器はない。水の入ったペットボトルの方がまだ武器になるかもしれない。無論、殺し合いでなくお菓子の取り合い程度の喧嘩ならば。


 ──武器か、武器でないか。
 その二択以前に、そもそも用途がわからないもの。それを支給した加頭の意図がわからないもの。────そんなものばかりなのだ。
 本来、殺し合いをさせるべき加頭は、何故武器にさえならないものを支給したのか?
 彼の遊び心だとしても、武器と一切の関係がないものを支給して何になるか。どうせなら、ピコピコハンマーや水鉄砲など、なんとなく武器に関連させるガタクタを支給した方が、一応武器を支給した気になるのでないか?
 まあ、あんな何を考えているのかわからない人間の心情を考察するのは速水の言葉よりも馬鹿らしい。
 そもそも殺し合いを開催する時点で意図がわからないのだから……。


「心当たりのあるものはある?」


 思考に区切りをつけて、速水の支給品に心当たりはないかと声をかける。
 わざわざこんなことを聞いたのは、冴子にとって心当たりのある「ガイアメモリ」がこの場において誰かに支給されてると加頭が発言したからだ。
 あれは使い方を知らない者にとっては、何だかわからないだろう。USBメモリにしてはサイズがおかしい。
 それと同じで、ここにある用途不明の支給品の中にも速水の知る物がないかと聞いた。意味のわからないものを支給しているというのなら、それは参加者によって心当たりのある物という可能性がある。
 速水はそれに答えた。


「ひとつだけあります」

「どれ?」

「これです。でも、何故これがこんなところに……?」


 と速水がつまむように持ち上げたのは気色悪いムカデのキーホルダーである。お土産などで売っているのを見かけたかもしれないが、買うのは大概性質の悪い男子だ。速水のようなタイプがこれを買うのは想像できない。
 それに冴子としては、「心当たりのあるもの」というのは、できれば「用途不明のもの」であってほしかった。
 その他の意味不明な物体に何らかの用途を示してほしかったのだが、こんなキーホルダーへの心当たりを語られても困る。
 このキーホルダーを初めて見た冴子も、これにキーホルダー以上の用途があるとは思えなかった。
 このキーホルダーのパーソナルデータや思い入れを聞きたいわけでもない。
 しかし、速水は何かを思い出していくように語る。少し前の記憶を手繰り寄せていき、やがてそれが感情的な言葉へと変わっていった。


「これは暁が俺に押し付けてきたキーホルダーだ……。思い出すのも懐かしい……そして、腹立たしい! あいつ、こんな気色の悪いものを俺に押し付けて!」


 どうやら、これはかつて涼村暁の所持品だったものを速水が譲り受けたものらしい。
 本人曰く、押し付けられたとのことだが……まあ、こんなものをプレゼントされたところでまごころは感じないだろう。
 速水も欲しがったわけではなさそうだ。


「だが! このキーホルダーのお陰で俺が闇生物にならずに済んだも確かだ……」


 誰も聞いていないのに、速水は一人でこのキーホルダーに込められた過去を語り始めた。
 暁の台詞や闇生物となった自分の心情にいたるまで克明に……。


 ──そうだ、速水! 君にあげよう! 友情の印だ!──

 ──速水、これを見ろ! 忘れたのか! 俺たちの友情のキーホルダーだ!──


 こんなシャンゼリオンの言葉が胸を打ち…………ではなく、このキーホルダーを押し付けられた苛立ちから速水の心の闇が頂点に達して闇生物と分離したことによって速水は助かったっらしい。
 まあどういう理由であれ、暁がこのキーホルダーを差し出したことによって速水は闇に堕ちずに済んだとのことである。


「…………それは、何ていうか…………やっぱり友情のキーホルダーなんじゃない?」


 冴子は速水が語るそのいきさつに戸惑う。
 普通は、こういうときに友情で眼が覚めると思うのだが、逆に憎しみや苛立ちのような負の感情によって闇から解放されるとは。
 正直言って、戸惑うというより寧ろ呆れているのかもしれない。溜息がでそうになったことを考えると、やはりすなのだろう。
 本人がキーホルダーを疎ましく思っていることを考えると反応にも困る。あんまりそのキーホルダーのことを褒めるのも何だし、かと言ってけなすタイミングでもない。ほどよく呆れた様子を口に含ませている。


 ……しかし、こうして聞いていると暁という男への評価が少し変わる。
 友人である速水やエリを助けるために戦いへと向かい、友情のキーホルダーで速水を闇から解放したヒーロー。
 この話だけ聞くとそういう風にも評価できる。
 速水曰く、人を不安にさせるヒーローとのことだったが、この話を聞いていて暁がおかしいと感じられるのはこのキーホルダーを速水に押し付けたことくらいだ。
 それも、暁がゲテモノ好きで、つい速水にあげたくなったのかもしれない。
 ……いや、それは流石にないか。


 ともかく、冴子が聞いたこのエピソードで原因となっているのは速水の憎しみや負の感情であり、暁が悪いようには思えなかった。
 まあ、ここに来るまで暁が速水にどんなことをしてきたのかを細かく聞いたわけではないし、もしかしたら暁は速水にもっととんでもないことをしてきたのかもしれない。
 加頭に連れてこられたあの場において、暁の姿は一度見てはいるが、しっかりした人間でないというのはなんとなくわかっている。
 この話だけでは彼らの人柄をしっかりは判断できないか……。


 というか、話を聞いてて思うんだが本当は暁と速水って本当に仲が良いんじゃないか?
 そんなことはどうでもいいか。



「で、このキーホルダーはいいとして、他の支給品は何に使うのかしら?」

「さあ……武器には思えませんが」


 速水が手に取ったのは、「真」という字の書かれた手のひらほどの四角い物体。
 それと共に、CDや五十円玉のように中央に穴の開いた円状の平たい物体も支給されている。まあ、これは先ほどCDと表現したのはおそらく的を得ている。冴子にも速水にも硬貨よりディスクであるように思えたのである。


 彼らは知らないが、これはインロウマルとスーパーディスクである。
 参加者のうち二名がこれを使えば、スーパーシンケンジャーという強化形態に変わることができる。
 本来はシンケンジャーに支給されるべき物だが、二人の参加者に対し一つしか存在しないためか、ランダムで支給されていた。


「まあいいわ。あとは……」


 ぱらっ、と速水の手から最後のひとつの支給品がめくれ上げていく。小さな風が吹いたのだ。
 最後の支給品は他の支給品のように、風で僅かでも動かないだけの重みは持たない。
 幾枚もの紙の束……。
 ひとつひとつに絵と台詞が描かれた、「漫画」。
 相変らずその意図がわからない。
 タイトルは「ハートキャッチプリキュア」。────彼らは知らないが、プリキュアという存在がここにある以上、多少のヒントや情報として受けることもできる。


「プリキュア……? 素人が描いた少女漫画のようね」

「ええ。しかし、プロほどじゃないけど、そこそこ上手に描けてるなぁ」

「まさか、加頭が描いたんじゃないでしょうね」


 と、恐ろしい想像をしつつ呆れたように肩を落とす冴子を前に、速水はおもむろにその内容を読み始める。
 とりあえずこうして支給されたからには何らかの形でメッセージが隠されているかもしれない、と少し期待したのである。
 冴子もその可能性を考慮してはいた。
 まあ、冴子に少女趣味はないので、とりあえず解読は速水に任せることにした。これを読んでいる自分の姿など想像するだけでも鳥肌が立つ。

 …………まあ、目の前でむさ苦しい男がこれをまじまじと読んでいるのだが。


「…………なんてことだ」


 それから暫く経った。
 数分でそれを読み終えた速水はわなわなと体を震わせ、顔を強張らせている。
 何か思うところでもあったのだろうか。
 加頭を倒すヒントが……。
 冴子は速水が一体何を発見したのか教えてくれるのを待った。


「なんて素晴らしい友情のストーリーなんだ! 俺は今、モーレツに感動している!」


 放っとこう。


「俺にはわかる……これは決して加頭が描いた漫画なんかじゃない!」

「……」

「そうだ……きっと、漫画家を目指す中学生くらいの女の子が毎日徹夜でコツコツとこれを描いてきたんだ……そうに違いない! 俺にはわかる……! なんてことだ……加頭め! そんな健気な気持ちのこもったこの漫画を殺し合いの場に利用するなんて!」


 実はこれはクラスの番長が描いたものなのだが、速水は知る由もない。
 こういう思い込みの激しい男で、思い込んだら勝手に話を進めてしまう。
 正義感が強いのは確かだが、一度何かに感動すると暴走してしまうのだ……。


(頭おかしいんじゃないかしら……)


 ひとり感動して勝手に話を進める速水を前に、早く井坂と合流して家に帰りたいと思う冴子であった。



【一日目・未明】
【C-3/森】
園咲冴子@仮面ライダーW】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、タブーメモリ&ガイアドライバー@仮面ライダーW、ランダム支給品1~3(本人確認済み)
[思考]
基本:井坂先生に命を預け捧げる。
1:井坂先生を捜し出して、後の判断を仰ぐ。
2:加頭を殺す。
3:速水がかなり面倒臭い。
[備考]
※仮面ライダーW35話終了後からの参戦です。
※ダークザイドについてや、速水が一度闇生物になりかけた話などについて聞きました。


速水克彦@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:健康、とても感動
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:冴子を守る。
2:冴子と共に井坂を捜す。
3:暁は後回しだ。
[備考]
※超光戦士シャンゼリオン第36話終了後からの参戦です。
※紀州特産の梅干し(超光戦士シャンゼリオン38話に登場した物)は壷に複数個入っています。
※『ハートキャッチプリキュア!』の漫画によってプリキュアについて知りましたが、物語としてしか知りません。
※『ハートキャッチプリキュア!』の漫画の作者について多大な思い込みを感じています。


【支給品解説】

【ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン】
「超光戦士シャンゼリオン」の第29話「速水はヤミに!」に登場したムカデのキーホルダー。
暁の秘書・桐原るいが大量に購入してきたもので、暁もドン引きして速水にひとつ押し付けた。
速水も全く気に入っていないが、暁曰く「友情のキーホルダー」らしい。


【『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!】
文化祭で番ケンジが配布していたどうz……漫画。
キュアムーンライトは登場しない。



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最終更新:2014年06月14日 18:03