彼らは知らない ◆LuuKRM2PEg




「要するに君は、それだけの怪我をしておきながらフェイトって娘を連れてここまで来たってのか……!?」

『I-5』エリアに建築された巨大な図書館の一室で、椅子に座った左翔太郎は絶句している。
 ユーノ・スクライアと共に膨大な量の本を調べながら情報交換していた最中、二人の少女が入ってきた。一人はユーノの友人であるフェイト・T・ハラオウンと、佐倉杏子という名の見知らぬ少女。
 彼女達はここに来る前に殺し合いに乗った怪物達に遭遇したらしく、それで怪我をしたらしい。特に杏子の方は胸に拳サイズの穴が開いていた。

「ああ、あたしなら大丈夫だ。元々身体が丈夫に出来てるからな……」
「そんな身体で、大丈夫なわけねえだろ!」
「あたし達魔法少女ってのは、慣れればそういうもんなんだよ」

 明らかに狼狽している翔太郎を余所に、杏子は平然と答える。その態度に翔太郎は違和感を感じざるを得なかった。
 魔法少女。図書館に置いてあった本によると、願いを一つだけ叶える代償に魔法を使って魔女という怪物達と戦う存在らしい。一見すると仮面ライダーとよく似ているかもしれないが、システムに根本的な違いがある。
 まず魔法少女となった人間は身体の一部が吹き飛ばされても死ぬことはないが、一度なってしまっては二度と元の人間に戻ることは出来なかった。仮面ライダーはガイアメモリさえ手放せばその姿になることはないが、魔法少女は一度なってしまったら死ぬまでその運命を背負わなければならない。
 しかもあのソウルジェムとかいう奴が無いと、魔法少女は動くことが出来ないようだ。だからこそ、自分達に付けられている首輪は首に無く、ソウルジェムに付けられている。
 すなわち、あれが破壊されることは佐倉杏子の死を意味していた。

「そんなんでいいのかよ、君は……」
「とっくに覚悟は決めたんだ。今更どうこう言う気はねえよ」
「けどよ……!」
「なあ兄ちゃん、あたしの心配もいいけどそれならグリーフシードをとっととくれないか? そうしないと、あたしだってやばいんだから」

 杏子は溜息を吐きながら翔太郎の言葉を遮った。
 すると翔太郎の横に座るユーノは傍らに置いたデイバッグのファスナーを開けて、中に右手を入れる。
 彼はその中から、銀色の装飾が飾られた黒い宝石を取り出した。

「グリーフシードって……これの事だよね?」
「そうだよ、それそれ!」
「フェイトを助けてくれたことは、本当に礼を言うよ……ありがとう」

 ユーノのデイバッグから現れたグリーフシードを見て、杏子の表情は明るくなる。

「だから僕は君にこれを渡すよ。杏子は信用出来るかもしれないから」
「そっか、サンキュ!」
「君がフェイトの力になったみたいに、これからは僕も出来る限り君の力になるよ」

 そう言いながらユーノはグリーフシードを杏子に渡した。
 彼女はそれを懐から取り出した黒く汚れた宝石、ソウルジェムに当てる。するとソウルジェムはグリーフシードを一瞬で吸い込み、ルビーのような赤い輝きを放った。
 恐らく、魔力が回復して戦いのコンディションを整えたのだろうが、翔太郎は喜ぶことは出来ない。こんな歳の少女が戦いを強いられているという運命なんて、あまりにも悲しすぎる。
 どうか救ってやりたいが、今の翔太郎にはその方法がまるで思いつかなかった。

「……そうだ、ちょっとフェイトの様子を見に行っていいか? そろそろ起きてるかもしれないしな」
「何だったら、僕も一緒に……」
「あたし一人で大丈夫だ。二人はここで調べ物を続けてくれ」

 杏子はそう言いながら椅子から立ち上がり、部屋のドアを左手で開ける。そのまま彼女が部屋からいなくなるのを、翔太郎はただ見守っていた。




(へっ……まさかあんなお人好しの奴らと出会えるなんて、幸先が良いぜ)

 図書館の廊下を歩きながら、佐倉杏子は笑う。
 つい先程、フェイト・テスタロッサを連れて牛の化け物からここまで逃げ出した。するとその矢先にこの殺し合いを打ち破ろうという男と少年と出会う。傷ついたフェイトを背負っていたからなのか、自分をそれほど警戒していなかった。
 しかもユーノ・スクライアという奴はあのフェイトの知り合いらしく、先程の戦いについて話したら自分の事をあっさり信用した上にグリーフシードまで渡したので、実に都合がいい。

(一時はどうなるかと思ったけどよ、やっぱりフェイトと手を組んで正解だったか)

 唯一の誤算があの二人が魔法少女について知っていることだった。どうやらこの図書館に魔法少女について記されている本があって、それで二人は知識を得たらしい。
 何故そんなのがここにあるのかなど、杏子にとってはどうでもよかった。むしろ魔法少女という存在である事で二人の同情を誘えたことの方が、何倍もプラスに感じている。
 あの二人と一緒にいれば、今後の行動も少しは楽になるかもしれなかった。これからまだ戦いが続く以上、少しでも利用出来る奴は多くいてくれた方がいい。
 それにユーノがフェイトを信頼していると言う点は、プラスにすることも出来た。あのフェイトが信用出来るような奴かと一瞬だけ疑問に思ったが、元々フェイトがユーノの事を騙しているという可能性だってある。
 ならば、それを続けるように上手く話を合わせればいい。いざとなったら二人を切り捨てることも出来る。
 現状の行動方針を決めた杏子は、フェイトが眠る部屋のドアを開いた。
 自分より年下の金髪の少女は未だに静かな寝息を立てながら、部屋の中に備え付けられたソファーの上に横たわっている。それは殺し合いという状況にはまるで合わない程に、穏やかな顔だった。
 しかしさっきの化け物がここにも来る可能性があったので、いつまでも休ませるわけにはいかない。杏子が起こそうとした瞬間、フェイトの瞼がゆっくりと開く。そして彼女はゆっくりと起き上がった。

「……あれ、ここは?」
「ようやく起きたか、このボンクラ」
「杏子……何で、私はこんな所に?」
「お前が倒れたからに決まってるだろ」

 目をパチクリと瞬かせるフェイトを見て、杏子は呆れた様に頭を乱暴に掻きながら溜息を吐く。

「まあいいや、今はそんな事よりお前に言う事がある」
「言う事?」
「あたしはさっき、お人よしの奴らに取り入った。この殺し合いに生き残るためにな」

 フェイトは未だに状況を飲み込めておらずに口をぽかんと開けているが、そんな事を気にせずに話を続ける。

「で、そいつらはあたし達の事を信用している……それもその内の一人はお前を知ってるユーノってガキだ」
「ユーノ?」
「ああ、あたしはお前を助けた大恩人って思ってるみてえだ。そこを利用するんだよ……」

 そして杏子は悪意に染まった笑みを、未だに無表情を貫いているフェイトに向けた。

「いいか、あいつから何を言われても上手く誤魔化せ……いいな」
「……うん」
「よし、それなら行くぞ。あいつらはあたし達を待ってるみたいだからな」

 フェイトが淡々と頷くのを見た杏子はデイバッグを取り、翔太郎達の元へ戻るために歩き出す。
 彼女は気付いていなかった。ここにいるフェイト・テスタロッサはユーノ・スクライアについてほとんど知らない事を。そしてユーノ・スクライアも今のフェイトがユーノが知る心優しい少女ではない事を。
 違う時間から連れてこられた。ただそれだけの、あまりにも超越した現象による悪すぎた偶然だった。




「フェイト、大丈夫!?」
「うん、私なら大丈夫だから……ありがとう、心配してくれて」
「良かった……君が無事で」

 ユーノ・スクライアは佐倉杏子が連れてきた親友を見て、心の底から安堵する。
 フェイトの身体には至る所に傷が見えるが、幸いにも致命傷には届いていないように見えた。

「あとはなのはを見つけるだけだね。彼女だって、こんな殺し合いを止めるために頑張っているはずだから」
「……そうだね、なのはも早く見つけないといけないね」
「えっ?」

 あまりにも力が感じられないフェイトの答えに、ユーノは思わず怪訝な表情を浮かべる。
 彼女が物静かな性格であることは前々から知っているが、どうしても違和感を感じてしまった。まるで、彼女はなのはの事をあまり知らないように思えて。

「どうかしたの、もしかしてまだ怪我が……」
「そうじゃないの。ただ、今の状況を信じたくないだけ……だって、こうしている間にも誰かが死んでいるかもしれないから」
「あっ……」

 そう語るフェイトの顔はとても沈んでいる。それを見て、ユーノの顔もまた暗くなった。
 大勢の人が殺される。それは心優しいフェイトにとって何よりも嫌な事のはずだった。
 そんな分かりきったことも気付けなかった事で、ユーノの中で自己嫌悪の感情が湧き上がっていく。

「いや、そんな事はさせねえよ」

 しかしその感情の噴出は、翔太郎の声によって塞き止められた。

「君達も、君達の友達も俺は絶対に助ける……それにこんな馬鹿げた戦いだって止めてやるよ」
「翔太郎さん……」
「でも、どうやって……?」
「みんなで力を合わせる事だ」

 暗い表情のままでいるユーノとフェイトに、彼はそう告げる。

「きっと、君達みたいに殺し合いを望んでいない人はまだいるはずだ、なのはって子みたいにな。だからそういった人達を一人でも多く探して、加頭の企みを止める……それが今、俺達が出来る事のはずだ」

 力強く言葉を紡ぐ翔太郎の顔は、力強い笑みが浮かんでいた。
 それを見て、ユーノもまた表情を明るくしながら思い出す。自分の使命はなのはやフェイト、翔太郎や杏子のように信頼できる人物の力になることだ。
 だから今やるべきことは、翔太郎の言うように少しでも多くの友好的な人物を探してサポートをする事からだ。ここで落ち込んでいたって、何にもならない。
 この状況でも尚、希望を捨てない名探偵の姿を見たユーノもまた、彼のように希望を胸に灯した。




「さて……とりあえずこれからどうする? いつまでもこんな所にいるわけにもいかないからな」

 図書館のロビーで、翔太郎は三人に問いかける。
 思春期の少女とまだそれにも年齢が及ばない少年と少女の三人。この場では一番年上である自分が三人を守り、上手く導かなければならない。
 かつて鳴海荘吉は幾度となく、依頼人を危険に晒してはならないと言った。だからここでは三人を守る義務がある。

「あ、それなんだけどあたしに考えがある」
「何だ? 言ってみろよ杏子」
「やっぱり、人を探すのなら町に行くのが一番じゃないのか? ほら、ここからそんなに遠くないしよ」

 そう言いながら杏子はデイバッグから地図を取り出し、ここから東の方角にある市街地の方を右手の人差し指で差した。

「どうせ探すんだ。なら、少しでも他の奴らが集まってそうな場所から行ったほうが手っ取り早いだろ?」
「私も杏子に賛成……もしかしたら、なのはだっているかもしれないし」

 にんまりと笑う杏子に、フェイトは静かに同意する。

「そっか……じゃあ、ユーノはどうする?」
「僕も二人と同じ意見です。町には人が集まりそうな分、殺し合いに乗った奴らと遭遇する危険もありますが、それはどこも同じかもしれませんし」
「じゃあ、決まりだな」

 そうして、四人は闇に覆われた孤島を進んだ。
 翔太郎は知らない。今、自分が守ろうとしている少女達が殺し合いに乗っていることを。そして、隙があれば自分達を切り捨てようとしている事を。
 彼はまだ、知らなかった。




【一日目・黎明】
【I-5 図書館前】



【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:健康
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ランダム支給品1~3個(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、フィリップを救出する
1:まずはこの三人を守りながら、市街地に向かう
2:仲間を集める
3:出来るなら杏子を救いたい
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女についての情報を知りました。


【ユーノ・スクライア@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:体力消費(小)、魔力消費(小)
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~2個 (本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、企画者たちを捕らえる
1:ここにいるみんなの力になる
2:三人と一緒に市街地に向かう
[備考]
※参戦時期は闇の書事件解決後です
※ガイアメモリはロストロギアではないかと考えています
※検索魔法は制限により検索スピードが遅く、魔力消費が高くなっています
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※不明支給品の一つはグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカです。
※魔法少女についての情報を知りました。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、左胸に大穴、下腹部に貫通した傷
[装備]:槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、ランダム支給品1~3(本人確認済み、グリーフシードはない)
[思考]
基本:殺し合いに優勝する
1:フェイトと手を組んで殺し合いを有利に進める
2:今は翔太郎とユーノを上手く利用する
3:他の参加者からグリーフシードを奪う
[備考]
※魔法少女まどか☆マギカ6話終了後からの参戦です
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています
※魔法少女の身体の特性により、少なくともこの負傷で死に至ることはありません


【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、魔力消費(中)
[装備]:バルディッシュ@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いに優勝してジュエルシードを揃える
1:今はこの三人と一緒に行動する。
2:左翔太郎とユーノ・スクライアを上手く利用する。
3:何かを聞かれたら、出来るだけ誤魔化す。
[備考]
※魔法少女リリカルなのは一期第十話終了後からの参戦です


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最終更新:2013年03月14日 22:28