UNDER THE SKY ◆7pf62HiyTE
それは――遥か遠き記憶、
『テメェら……ハメやがったな……仁義はどうしたんだよ!? 仁義はどうしたんだよぉ! あぁっ!!』
『この渡世に……そんなもん30年前からあるか』
裏切りに遭い刺され――
『アアァッ! アァッ……』
そのまま散りゆく所で――
『アッ、誰、このイケメン……?』
『こんな連中忘れちまえ……お前は俺のもんだ』
『俺』は『彼』と出会い――
『ステキ……アァッ……』
その言葉と凛々しさに惚れて『俺』は――
『アナタに……刺されたかった……ス……テ……』
『私』になっ――
「キー!!! アーッ! ヤバイ!! また人生振り返っちゃってる!!
アッ、走馬燈だコレ、走馬燈!! これは酵素切れで死んだんだわ、死んでしま……アッ、また死んでる、死んでるのに死んでるってどういうこと?
デスとデス、死んでしまうんデース!!」
「一々叫ぶな! 頼むから少しは黙っててくれ!!」
突然の泉京水の叫びに相羽タカヤはうんざりそうに声を荒げる。
「あっ、なんだか今ちょっと剛三ちゃんの事思い出しちゃったわ」
「今の流れでどうしてそうなる!?」
そんなタカヤのツッコミに構う事無く京水は自身のデイパックの中を探る。それを見て東せつなが問いかける。
「京水さん、何を……」
「アレよ、説明したと思うけど私達NEVERは定期的に酵素を打たないと死人に逆戻りしちゃうのよ、戻っちゃうのよ」
「二回も言わんで良い……」
京水は普通の人間ではない。死人がある技術によって蘇生された存在NECRO-OVER通称NEVERである。
高い耐久力と再生能力を持つ反面、定期的に細胞維持酵素を注入しなければ死体に逆戻りするのだ。
先程の反応はどうやら酵素切れの兆候らしく、京水は呆れる2人を余所に細胞維持酵素を探していた。
「全く……」
「そういえばタカヤさん、本当に良いんですか?」
その最中、せつながタカヤに問いかける。
「何がだ?」
「その……シンヤさん……家族と戦う事です」
せつなが気になった事、それはタカヤの弟である相羽シンヤについてだ。
この殺し合いに巻き込まれているタカヤの知り合いは4人、相羽ミユキ、シンヤ、モロトフ、そして見せしめとして殺されたフリッツ・フォン・ブラウンだ。
タカヤによるとシンヤ、モロトフ、フリッツの3人と敵対しているという話だが、名字から見てシンヤが家族だという事は明白だ。
当然、互いの知り合いについて情報交換した際にも聞かれたわけだが、
タカヤはその際、自分達がラダムによってテッカマンにされてしまい、父親である相羽孝三によって完全に支配される前に脱出させられた自身と不完全なテッカマンとして排斥されたミユキ以外は皆地球の敵になったと説明はした。
その事情は把握はしている。それでもせつなはかつての仲間や家族同士で殺し合う事は受け入れがたかった。出来うる事ならば止めたい所ではある。
無論、タカヤもせつなが言おうとしている事は理解出来る。
「わかっている……だが俺はもう後戻りは出来ないんだ……」
そう、孝三の遺言があったとはいえ、ここまで戦い続けてきたのは全てタカヤ自身が選んだ道。
そして、テッカマンとしてラダムと戦い続ける道を選んだからこそ――
「キタァーッ!! 非常に身体に染みますね」
――話の流れを寸断するかの様に京水が絶頂の声をあげる。無事に5本分の酵素を見つけ、その内の1本を打ち込んだのだ。
「京水さん!?」
「それよりあなた、タカヤちゃんの個人的な事情に口出しするんじゃないわよ!」
「いや、でも……」
「でもじゃないわ、あなただって触れられたくない事の1つや2つあるでしょ、私だって乙女の秘密を幾つも抱えているわ! もう胸のがパインパインになるぐらいに!!」
「誰が乙女だ!?」
「もしかしてそうやって世話焼いてタカヤちゃんの気を惹くつもり!? 私が酵素を打っている隙をつくなんてなんていやらしいのかしら!!」
「いや、途中から論点がずれている様な……」
「ともかく、タカヤちゃんだってシンヤちゃんと戦うのはよっぽどの考えての事なんでしょ、何も知らない素人の小娘が口を挟む事じゃないわ!」
「シンヤにまでちゃん付けするな!」
このままでは話が進まないとタカヤが話を進めようとする。
「大体、あんたの方こそ大丈夫なのか? あんたと克己は仮面ライダーと敵対していたんじゃないのか?」
京水の知り合いは同じNEVERである大道克己、そして克己達NEVERが引き起こそうとしている事態を止めようとしている探偵左翔太郎、刑事照井竜の2人の仮面ライダー。
更に厳密には面識は無いもののNEVERの研究を廃止に追い込んだガイアメモリの関係者である園咲琉兵衛の関係者とも言うべき園咲冴子に園咲霧彦の両名。
「そうですよ、その克己さんは殺し合いに……」
「お黙りなさい、少なくとも克己ちゃんは戦いたくもないのに無理矢理戦わされている人を殺すような悪趣味な事はしないわ!」
京水の脳裏にある大きな出来事が浮かぶ。それを考えるならば少なくとも無差別に殺すという事は無いだろう。
「それにさっきも説明したけど、あの加頭って男は克己ちゃんにとっても敵よ、殺し合いに乗るかどうかはともかく加頭を倒す事に関してはまず保証して良いわ」
「財団Xだったか……」
「あれ、でも確か数年前に克己さんが倒したって……」
「NEVERの技術でも利用して生き延びたんでしょ、自分達で見限っておきながら都合が悪くなったらそれに頼って……本当に悪趣味ったらありゃしない、プライドが無いのかしら、プライドってものが」
「その口でプライド言うな」
勿論、必ずしもNEVERの技術を使ったという確証はなく、別の技術を使った可能性もあるし、運良く生き残ったという説もあるだろう。
何にせよ、NEVERを見限りある一件でも敵対した財団Xの幹部である加頭を倒す事を考えるならば十分共闘は出来るだろう。
「だが、あんたらと仮面ライダーが協力出来るとは思えないが……」
「それは大丈夫よ、克己ちゃんだって仮面ライダー、それにあの2人のイケメンも仮面ライダー、きっと助け合う事が出来る筈よ」
「その根拠は?」
「イケメンで強い上下3色に分かれた仮面ライダーが言っていたわ! 『ライダーは助け合いでしょ』! おっしゃる通りだわー!!」
「どんな理屈だ!!」
「そんな仮面ライダー本当に居たんですか?」
余談だが、京水はその直後上下3色に分かれた仮面ライダーの一撃を受けそのまま完全に消滅する筈だった。
が、気が付けばあの場にいたという状況だ。
なお、あの時点で克己を除くNEVERの仲間達はほぼ全滅状態ではあったが、京水自身彼らが散る現場を見たわけではない為、元の世界では皆何とか無事でいると考えている。
「……あれ京水さん、その手に持っているのは何ですか?」
ふとせつなが京水の手に何かが握られているのを見つけ聞いてみる。
「酵素を探している途中で見つけたのよ、確か『伝説の道着』って説明書きには書かれていたわ、伝説! なんか心地よい響きだと思わない!? 伝説の仮面ライダー! 伝説のテッカマン! もうゾクゾクしちゃう!!」
身体をくねらせながら悦に浸る京水である。
「頼むから、落ち着いてくれ……」
出会ってから1時間以上、相変わらずな京水のテンションにタカヤもうんざりしていた。
ちなみに説明書きによると着た者は潜在能力を引き出す事が出来るらしいが道着が認めた者以外は着る事が出来ないとある。
「伝説……ってどう見てても京水さんが着るようなものじゃ……」
また、それ以前にサイズ的にどう考えても京水が着れるようなものではない。着れそうなのは十代ぐらいと考えて良いだろう。
「そうね、実際に着たわけじゃないけどおっぱいが大きい私じゃきっと無理! 私よりおっぱい小さい人じゃないと無理!」
「それ以前の話だろうが」
「……その服、なんか私に助けを求めている様に見えるのは気のせい?」
ふと見ると京水が握りしめている道着がせつなの方を見て頷いている様に見えた。
「違うわ、きっと違う、きっとこの子は私が着る事が出来ないから嘆いているのよ! そうに違いないわ!」
「それだけは絶対に無い」
「大丈夫、この子はタカヤちゃんと同じツンデレなのよ! 間違いないわ!」
「だから俺を一々引き合いに出すな!!」
その道着が本当に自分の意志を持っているかはともかくとして、せつなとしてはこのまま放置するのは心苦しかった。
「京水さん、それ着ないんでしたら私に支給されたものと交換しませんか?」
そこで自身に支給されたものと交換する事を提案した。
「別にあなたのものなんて欲しいとも思わないわよ! 見くびらないでちょうだい、私はそんな安いレディじゃないわ!!」
予想するまでもない京水のリアクションを余所にせつなは自身のデイパックを開けて交換出来そうなものを探す。
そして何の変哲もなく使い古され焦げた跡もあるハーモニカを出すが、正直これを渡しても仕方ないと思い更に中を探すが――
「ちょっとあなた、今出したもの見せなさい!!」
「!?」
予想外に京水が反応しせつなからハーモニカを取り上げしげしげと見つめる。
「間違いないわ……どうしてあなたがこれを持っているのよ!? 克己ちゃんのハーモニカを!!」
「どうしてって言われても……たまたまデイパックに入っていただけじゃ……」
「ちょっと待て、それは本当にそいつのハーモニカなのか?」
「間違いないわ、この色と焼け焦げ具合、それに……」
と、ハーモニカを加え軽く吹く。すると甲高くどことなく優しい音が響く。
「アァッ! この調べに音色、間違いなく何時も克己ちゃんが弾いていたハーモニカの音よ! 克己ちゃん、コレである曲吹いてそれを聞いていると落ち着くって言っていたわ! あっ、もしかして今しちゃった!? 間接キ……」
「わかったわかった、それでどうするんだ?」
「あの、仲間の物だったら無理に……」
交換の申し出をしたとはいえ、流石に相手の仲間の物を交換材料に使う事はしたくはない。せつなとしてはそのまま京水に渡すつもりであったが、
「わかったわ、わかっているわ! 私、仁義を通す乙女なの、大事にしてね、この子の事……しなかったら承知しないから!!」
そう言って道着をせつなに渡した。
「はぁ……ありがとう……ございます……」
「仁義って……あんたのキャラじゃないだろ」
「でもね……これで勝ったと思わないことね、次は負けないわ! 次は私が勝つわ!」
「え? 何時の間に私が勝った事になってるの?」
「何と戦っていたんだあんたは!!」
かくして京水が酵素を注入する為だけに足を止めていた筈の3人は再び歩き出す。
「(まぁ……そこまで酷い人じゃないわよね……)」
京水の言動には正直引き気味ではあるもののせつなからの印象はそこまで悪くはない。
少なくとも仲間想いな所はこれまでの言動から十分理解出来たし、自分を嫌っている様だったがハーモニカを受け取る代わりに道着を渡してくれた所を見ると通すべき所は通す人だというのはよく解った。
元の世界では事件を起こす側、つまりは悪い人だったらしいがかつてラビリンスの幹部イースとして人々を不幸にしてきた自身が強く責める事は出来ない。
少なくとも現状は人々の幸せを守る――とは違うだろうが、主催者を打倒しようとしている事から、十分信用――
「タカヤちゃーん、さっきから疲れている様だけど大丈夫かしら?」
「誰のせいだ、誰の」
「あの、京水さん。私は全然平……」
「あなたには聞いていないわ!」
――していいのだろうか? それでも、色々な意味で敵には回したくはないとは本気で思った。
一方で、実の弟と血で血を洗う戦いを繰り広げようとするタカヤの事も気がかりだ。
無論、京水も言っていたとおり、タカヤの事情を何も知らないせつなが口を出せる道理は全くない。
だが、敵対しているとはいえかつての同胞と戦う事が辛い事なのはせつな自身も知っている。
せつなの知り合いは友達にしてせつな同様プリキュアである桃園ラブ、蒼乃美希、山吹祈里の3人、そしてラビリンスの幹部であるノーザである。
当然の事だがラブ達が危機に瀕している事を考えると心配なのは言うまでもない。
だが、一方である2人の名前が無かった事でせつなは安堵していた。それはラビリンスの幹部、つまりかつてのせつなことイースの同僚とも言うべきウエスターとサウラーの両名である。
無論、せつながラビリンスから離れプリキュアとなった後も2人は人々を襲い不幸にしている為、敵対している事に違いはない。
だが、死んで欲しいかというとそうではない。出来うるならば2人を大事にしないラビリンスの総統メビウスの元から離れて欲しいと思っている。
そういう自身の事情を踏まえて考えたら、仲間どころか双子の兄弟で殺し合うタカヤとシンヤの戦いは出来れば止めたいのが本音ではある。
ラダムによって敵になったという話ならば、そのラダムから解放出来ればあるいは――
――とは思うものの、タカヤの事情にばかりかまけてもいられないのが実情だろう。
前述の通り参加者の中にはラビリンス最高幹部であるノーザがいる。
真面目な話、加頭に素直に従うとは全く考えていないが、それはイコール危険人物では無いという事には成りえない。
ノーザの事だ、狡猾な手口で今も他の参加者を次々に不幸にしつつ最終的には加頭を出し抜こうと目論んでいるのは想像に難くはない。
シフォンを助ける為に不幸のゲージを破壊する為占い館に向かった時、ノーザは自分達を悲しみの世界に飛ばしたり、自分達を互いに戦わせ自滅させようとしたのだ。
タルトとシフォンが一歩遅かったらノーザの目論見通り自滅していただろう。
自身の影からイースの姿をしたナケワメーケを産み出した事のあるサウラーよりもずっと狡猾で邪悪なのだ(こう書くとサウラーも十分邪悪なのだが、せつな自身イース時代に相当な事をしていたのでそこまでは言わない)。
ノーザの手口をある程度知っている自分達はともかく、他の参加者達はそういうわけにはいかない。平然と同士討ちをし向ける事は容易に考えられる。
しかも狡猾なだけではなく、素の戦闘力も最高幹部に相応しく非常に高いものだ。力を合わせれば勝てるとはいえ、ラブ達と離ればなれな現状では厳しいと言わざるを得ない。
それを考えればノーザの魔の手から他の参加者達を守りつつ早くラブ達といち早く再会したいと考えている。
辿り着いた街に都合良くいてくれれば良いが小さいながらも広い島、そうそう都合良くはいかないだろう。
また、殺し合いに乗っている危険人物に遭遇する可能性も否定出来ない、プリキュアに変身すればそう簡単に殺される事は無いだろうが絶対に大丈夫という可能性は皆無。
故に今は彼女達の無事を精一杯願う事しか出来ないだろう、出来れば自分同様、信頼出来――
「ねぇ、それタカヤちゃんの支給品? もっとよく見せてくれる?」
「くっつくな!」
――る(?)人達に出会える事を――
そんなせつなの不安を余所に、京水自身はせつなから受け取ったハーモニカを握りしめつつ考えていた。
無論、外見上はアレにしか見えないだろうが内心は至って真剣である。
普通に考えれば克己のハーモニカなのだからこれを克己の元へ届けようと思うだろう。
だが、京水は今更克己がハーモニカを受け取るとは思っていない。
克己にとっては最早ハーモニカは過去の遺物でしかなく、未来だけしか見ていない克己にとっては必要の無いものなのだ。
それでもハーモニカを何も知らないせつなが持ったままにしておくよりは自分が持っておきたかったのだ。
かつて、克己達NEVERは財団Xに見限られたNEVERの有用性を見せつけるべく各地で戦い続けていた。ガイアメモリに負ける事など許されないと考え――
その最中、超能力を持つ少女ミーナと出会う事となった。
ミーナ達超能力者は、財団Xがスポンサーをしているプロジェクトの1つ超人能力つまりは超能力を増幅させた処置を受けた兵士クオークス候補として、世界中から浚われビレッジと呼ばれる施設に閉じこめられていた。
克己達NEVERは徐々に過去の記憶や人間らしい感情を喪失していく、その関係もあり過去を失っていく克己は誰よりも明日を欲していた。
だからこそ生きている人間の未来が奪われる事や、未来を諦めてしまう事が容認出来なかった。
故に克己達はミーナ達を解放すべく彼女達を支配しているドクター・プロスペクトそして加頭順を打倒せんとした。
ハーモニカはその時にミーナに渡したのだ。克己自身はもう殆ど覚えていないが母マリアから送られたプレゼントであったハーモニカを――
その戦いの最中で克己自身馬鹿にしていた筈のガイアメモリの1つ、エターナルと惹かれ合い仮面ライダーエターナルとなった。
エターナルと克己の相性は何よりも絶大、クオークスとしても絶大な力を持ち同時にミュージアムでも幹部クラスしか持てないゴールドクラスのメモリを使いユートピア・ドーパントに変身した加頭を一蹴した。
だが、その果てに待つ結末は最悪と言えるものだった。
ドクターの変身するアイズ・ドーパントの力によりビレッジの敷地内から出た者は皆死する仕掛けが施されていた。
そう、それによりビレッジから出ようとしたミーナ達は――
『克己……助けて……』
――皆死を迎える事となったのだ。ミーナの手には死に際に発した炎で微妙に焼けたハーモニカが握られたまま――
『お前等が連中を皆殺しにしたんだよ――』
ミーナの亡骸を抱える克己に響く悪魔の声。その瞬間、克己の中で何かが切れた――
『俺とした事が一瞬忘れちまってたぜ、人は皆……悪魔だという事を……』
その後、エターナルに変身した克己、そして京水達によってドクター達クオークスは倒された。
だが、試作品のエターナルメモリは破損し、最後に手元に残ったのはロストドライバーだけだった。
羽原レイカがミーナをNEVERにしてはと提案はしたものの克己は未来だけ見ていれば良いとそれを拒否、
ある決意を以てその地を去った――
克己達との記憶を失いながらも奇跡的に一命を取り留めていたミーナに気付く事はなく――
さて、長々と説明したがその一件によって克己の中の良心は完全に消え去ったと考えて良い。
克己に対し全面的に心酔している京水もその変化には気付いている。
そう、克己が目的の為ならば他の参加者はおろか仲間である筈の自分達すらも平然と切り捨てる悪魔に成り果てている可能性があるという事だ。簡単に言えば優勝を狙うという事だ。
なお、この事についてはタカヤ達に説明はしていないが京水自身明確に気付いたのはハーモニカを見た事でその時の克己を思い出したからだ。
それを説明しなかった事についてせつなはともかくタカヤには多少は悪いとは思うがこれ自体は可能性レベルの話だ、優勝狙いか、殺し合いに乗らず加頭打倒を目指すかどうかを断定しきる事が出来ない以上明言出来なくても仕方はない。
一応、自分達が仮面ライダーと敵対している側の悪人側にいる事は説明はしている。
頭の中が何処かお花畑のせつなはともかく、雰囲気から見ても幾度かの修羅場を潜り抜けているであろうタカヤならば全面的に信用したりせずに下手を打つ真似はしないだろう。
とはいえ加頭のした事は明らかに克己の妨害である。それを考えれば克己のスタンスがどうあれ最終的に加頭をこのまま放置する事だけはあり得ない。
奴がNEVERの技術を都合良く使って地獄から戻ってきたのならば尚の事、今度こそ二度と戻れない様に地獄に送り返さねばなるまい。
ここまで説明した通り、今の克己ならば京水すらも捨て駒にする可能性は十分考えられる。
だが、京水はそれでも構わないと考えている、自分が使えないなら平然と捨てられる事に何の異論もない。
かつて杯を交わした者達の事など殆ど覚えてはいない――
NEVERだからというだけじゃない――
あの時、只死ぬだけだった筈の『俺』は『彼』に出会い『私』となった――
あの瞬間、『彼』の言葉通り『私』の全ては『彼』のものとなったのだ――
『心』も『躰』も――『命』すらも――
あの時誰かが言っていた気がする、仁義なんてのは30年前から無いと――
だが、少なくとも自身の中にはある。克己に対する仁義が――
それを通せるならば克己に殺されたって構わない――
いや、むしろあの初めて出会った時感じた様にそれこそが望みだ――
時々走馬燈として見える出会った頃の記憶、それも何れは幻の様に消えていくだろう。
それでも今手元には克己の分身とも言えるハーモニカがある。間違いなく錯覚だろうが持っているだけで克己を感じられる気がした。
「克己ちゃーん! 待っててねー! デンジャラスなレディ、Dレディになって貴方に会いに行くわー!!」
「頼むからいきなり叫ぶな、もうこれで何度目だ!?」
傍目から見たら口やかましいオカマにしか見えない京水にもう何度目とも知れないツッコミを入れつつタカヤは呆れ果てていた。
正直、デンジャラスという意味では十分デンジャラスだろと内心思っている。
とはいえ、京水がどちらかというと現状味方というのは有り難かったというのも事実だ。主催者である加頭達財団Xの事をある程度把握出来たからだ。
ただ、元の世界では大きな事件を起こしていた事を考えると全面的に信頼して良いかどうかは微妙ではある。
克己が殺し合いに乗っていないという確証は何処にもなく、仮に克己が乗っていた場合、彼に心酔している京水が裏切る事になるのは明白だ。
とはいえその辺りは京水自身もちゃんと言及はしている事だ。京水が保証したのは主催者である加頭達を倒す所までだからだ。
それでも克己と遭遇するまでは断定しきれない以上はこのまま共に行動していくしかないだろう。
「(……それはつまり、それまではずっとコイツに付きまとわれるという事なのか……)」
それを考えると心底気が重くなる。いや、自分の知り合いにもオカマ系の仲間ともいうべきレビンがいた。だが、レビンもここまで酷くはなかった。
そんなタカヤの心労を余所に京水は大事そうにハーモニカを握っている。
「(確かある曲吹いたら落ち着くって話だったな……)」
戦場で奏でられる音楽――そういう意味でタカヤはある人物を思い返していた。
「(バーナード軍曹……)」
その人物はラダムに占拠された所にある宇宙艇に向かった軍の特殊部隊を救助する任務を受けた際に出会ったその特殊部隊を率いていたバーナード・オトゥール軍曹である。
しかし、バーナード達はやるべき事があると拒否、賭けに負けたタカヤことDボゥイは彼らに付き合わされる事となった。
当時、軍のやり方に対し嫌悪感を持っていたDボゥイは当然の事だが彼らに良い印象を持たなかった。
だが、彼らのやるべき事はそこで死したバーナードの仲間達を歌や酒などで弔う事だったのだ。
そこでバーナードから生きて帰って仲間の命を守り続ける事という戦場の掟を教えられた。
ちなみにその任務の最中、バーナードは歌をペガスに教えていたのだ。
その後もDボゥイはテッカマンブレードとして戦い続けてきたが、不完全なテッカマンであった事に加え度重なる激闘の果てに肉体の組織崩壊が進行しテッカマンとして戦えない状態に陥った。
無論、普通の人間として生きるならば何の問題もない。だが、これまでテッカマンとして戦い続ける事を選んできたタカヤに後戻りをする事など出来なかった。
故にDボゥイはやらなければならない事をやる為、ブラスター化の処置を受ける事を選んだ。
だが、その処置が完了するまで後数分というタイミングでモロトフことテッカマンランスが襲撃してきたのだ。
仲間達が応戦したもののテッカマン相手ではあまりにも無力としか言いようがない。
その状況の中でバーナードは後僅かという時間を稼ぐ為決死の行動に出て――
ブラスター化は完了した。バーナードが命を賭け時間を稼いだお陰で――
そのお陰で肉体崩壊の問題はクリア。事前の説明では成功率は決して高くは無く成功しても寿命を大幅に縮めるという事が明言されていた。
しかし、その問題すらも見られないという事だった。それは非常に嬉しい誤算だった。
だからこそタカヤは死したバーナードに誓った。必ずラダムを打倒する事を――
さて、何度も触れているがこの殺し合いに巻き込まれたタカヤの知り合いはシンヤ、ミユキ、モロトフ、そしてフリッツと全てテッカマンである。
アキやノアル達が巻き込まれていない事に安堵する一方、まだ向こうにはテッカマンソードことフォン・リー、そしてテッカマンオメガこと相羽ケンゴがいる。
他の参加者を殺し合いから守り加頭を打倒する事は当然の事だが、向こうにいる仲間達を守る為にも必ず生きて戻らなければならない。
それはバーナードから教えられた事でもあり、彼に誓ったラダム打倒を果たす為でもある。
その最中気になるのはミユキとモロトフの名前だ。見せしめとして殺されたフリッツもそうだが、2人とも既に死した筈である。
いや、モロトフに関してはブラスター化した自身のボルテッカを何とか回避し逃げ延びた可能性もあるだろうがミユキに関しては間違いなく死んでいる筈だ。
それが加頭達財団Xの技術力を示すものなのは京水からの説明で把握した。死んだと思ったミユキが生きていてくれた事に関しては一応は嬉しく、可能であれば今度こそ守りたい所だ。
だからといって感謝する気などない、何しろ蘇生させたにせよどうせよ殺し合いに巻き込む為だからだ。
特にフリッツに至っては名簿に名前が無かった事から最初から見せしめとして殺す為だけに連れてきたあるいは蘇生させた事になる。
確かにラダムに支配されたフリッツは敵だった。だがかつては同じアルゴス号に乗っていた仲間だったのだ、それを無惨に殺す事など到底許せる事ではない。
他にもせつな達といったミユキよりも年下の少女達を殺し合いに巻き込んでいる以上、必ず倒さねばならないだろう。
しかしやはりそれは難しいだろう。克己のスタンスも不明瞭であり、財団Xがスポンサーをしている園咲家の名を持つ2人が加頭に協力している可能性もある。
更にせつなによるとノーザは狡猾にして残忍、人々を不幸にする存在らしい。
また言うまでも無いがシンヤとモロトフにしても加頭に従うとは思わないが、人々の殺戮を躊躇するわけがない。ラダムのテッカマンである以上、彼らを倒すのは自分の役目だ。
危険人物が数多くいる以上、ミユキ達と無事に合流するのも容易ではないだろう。今は街に向かい他の参加者と接触しなければならない。
その際に出来れば京水とは離れたいが、他の参加者に押しつけるのも良心が痛む、本気で頭が痛くなりそうな話である。
その最中、タカヤは自身に支給されていたものについて考えていた。
それはメモリーキューブと呼ばれるものだ。説明書きによればZXのベルトに入れるものらしい。
ZXが何かは不明だが京水達と色々話した所、ベルトを使っている事から仮面ライダー関係のものと考えて良いだろう。
とはいえ、実の所タカヤが気にしているのはそこではない。
メモリーキューブ、それはその名の通り記録、あるいは記憶に関係する事なのは明らかだ。
それに納められた記録、あるいは記憶をZXに与えるというのは説明書きを読めば誰にでもわかる。
そう、『記憶』――それが重要だったのだ。
さて、タカヤに課せられた使命である仲間や家族との戦いは非常に辛いものだ。タカヤ自身それを望んでいるわけではない。
それ故、スペーツナイツの面々と出会った当初は自ら記憶喪失の振りをし、彼らとも壁を作っていた。
Dボゥイというあだ名はその時の態度があまりにも危険、つまりはデンジャラスだったが故にノアルによって付けられた名だ。
そして以後はDボゥイと名乗りラダム、そしてかつての仲間や家族が変身したテッカマンと戦い続けている。
さて、ここまでの話を読んで違和感を覚えなかっただろうか?
この地に来てからタカヤはDボゥイと殆ど呼ばれていない、その事を不思議だと感じていなかったか?
少なくとも、ラダムと戦い続けている限りは相羽タカヤではなくDボゥイとして戦い続けていた筈である。
無論、ミユキからはタカヤと呼ばれてはいるが、ラダムのテッカマンからは基本的にテッカマンとしての名であるブレード(勿論、元々の関係もありタカヤと本名側で呼ばれる事はある)、仲間達からは前述の通りDボゥイと呼ばれていた。
にも関わらず、この地において京水に呼び方を聞かれた際はどっちでも構わないと答えていたし、せつなや京水からは普通にタカヤと呼ばれている。何故、タカヤはタカヤと呼ばれる事に抵抗を持たなかったのだろうか?
そう、あったのだ。ブラスター化による弊害がそこにあったのだ。
前述の通りブラスター化によって肉体崩壊の問題はクリアできた。だが、今度は肉体崩壊による負担が全て脳神経に向かってしまうという事態を迎える事となったのだ。
つまり――ブラスター化して戦う度に、記憶障害を引き起こすという致命的な弱点を抱えてしまったという事なのだ。
実の所、ブラスター化直後。タカヤはアキに自分の事はタカヤと呼んでくれという風に語っていた。
それはタカヤ自身に心境の変化があったわけではなく、Dボゥイと呼ばれていた事を忘れていたからに過ぎない。
面倒な事にタカヤ自身その事を自覚しているわけではない。それ故、タカヤではDボゥイと呼ばれる事にすら憤りを感じるという状態となったのだ。
とはいえ、この異常事態をアキ達が放置するわけもない、構わずラダムと戦おうとするタカヤにその事実を伝えた上で止めようとした。だが、自身の置かれている状況を理解出来ていないタカヤがそれを聞く筈も無かった。
皆が止めるのも聞かずテッカマンエビルことシンヤと戦う為に出ようとしたタカヤだったが、そんな彼をバルザック・アシモフは連れ出した。
『なぁDボゥイ』
『D……ボゥイ……あぁ、みんなが俺につけたニックネームだったな』
確かDはデンジャラスだったか、そう考えていた中、
『Dボゥイ、止めても無駄な様だから止めはせんが、その代わりアキの為にDボゥイという言葉だけは忘れるな。
お前は確かに相羽タカヤさ、だがなアキ達はDボゥイって名前のお前と戦ってきたんだ、Dボゥイって名前のお前とな。
今のお前にとっちゃどうでも良い言葉かもしれない、だがアキにとっては自分とお前を繋ぐ大事な言葉なんだ、それだけは覚えておくんだな』
そしてテッカマンエビルことシンヤを倒すべく彼の元へ向か――おうとした矢先にこの殺し合いに巻き込まれたのだ。
その経緯もあり、最初に出会った京水とせつなに自己紹介した際には相羽タカヤとDボゥイ、2つの名前を名乗ったのだ。
Dボゥイと呼ばれていた事を覚えているわけではない。だが、バルザックの言葉通り、アキの為にもDボゥイという言葉を捨てる事は出来なかったのだ。
ともかく、この時点ではまだ自身の記憶を喪失している事を自覚したわけではない。
それでも、メモリーキューブを見る度にどことなく穏やかではない感情を感じた。
『記憶』――大切なものを失っているのではなかろうか――
「(いや、俺はまだアキやノアル達スペースナイツのみんな、それにミユキ達の事を忘れていない……バーナードの事だって……そして何より、ラダムに対する憎しみは全く消えちゃいない……
俺は何処も……おかしくない筈だ……!)」
どんなに強がっても、その兆候はタカヤが気付かない所で少しずつ現れている。
タカヤ自身の手元にあるテッククリスタルもそうだ、彼のそれはフリッツことテッカマンダガーとの戦いで破損し以後はペガスの力を借りてテックセットを行っている。
つまり、タカヤの手元に完全な状態のクリスタルがある事自体あり得ないのだ。しかしタカヤはその事を忘れている。
もっとも、この時点ではペガスを使えばテックセット出来る事は覚えている為、大きな問題にはなっていない。
しかし、どちらにしても手元にクリスタルがあるという事は明らかな異常事態ではある。普通ならば気付かなければおかしい筈の事態にタカヤは気付いていない。
無論、今はまだ良い。だが、この地ではブラスター化しなければ対応仕切れない強敵が数多くいる。
ブラスター化すれば対応出来るかもしれない。しかしその度にタカヤは次々と大事な記憶を失っていくだろう。
記憶はいわば人が生きる為の原動力、それを全て失うという事は――死んだと同じ事だろう。
全ての記憶は幻の様に消え去っていく――
『自覚していないDボゥイに事実を伝えるのは難しい』
見果てぬ場所が何処だったのかと気付いてももう届く事はなく――
『でも、アイツ本人が自覚した時にはもう遅いんだ……もう……』
ただ、空のなき舞台を歩み続ける――
「風都キタァーッ! 克己ちゃんやシンヤちゃんにモロトフちゃん、私が愛してあげるわー!!」
「だからシンヤまでちゃん付けにするな! あとモロトフもだ!!」
「落ち着いて下さい、2人とも! 今の時間は……2時少し前……みんな大丈夫かしら?」
【一日目/未明】
【F-9/市街地】
【相羽タカヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:健康
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、メモリーキューブ@仮面ライダーSPIRITS、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:主催者を倒す。
1:他の参加者を捜す。
2:俺はいつまでコイツ(京水)と付き合わなければならないんだ……
3:シンヤ、モロトフを倒す。ミユキと再会した時は今度こそ守る。
4:克己、ノーザ、冴子、霧彦を警戒。
5:記憶……か。
[備考]
※参戦時期は第42話バルザックとの会話直後、その為ブラスター化が可能です。
※ブラスター化完了後なので肉体崩壊する事はありませんが、ブラスター化する度に記憶障害は進行していきます。なお、現状はまだそのことを明確に自覚したわけではありません。
【泉京水@仮面ライダーW】
[状態]:健康
[装備]:T-2ルナメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、細胞維持酵素×4@仮面ライダーW、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ランダム支給品0~1
[思考]
基本:剛三ちゃんの仇を取るために財団Xの連中を潰す。
1:タカヤちゃんが気になる! 後、シンヤちゃんやモロトフちゃんとも会ってみたい! 東せつなには負けない!
2:克己ちゃんと合流したい。克己ちゃんのスタンスがどうあれ彼の為に全てを捧げる!
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーオーズに倒された直後です。
【東せつな@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康、困惑
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、伝説の道着@らんま1/2、ランダム支給品0~2
基本:殺し合いには乗らない。
1:友達みんなを捜したい。
2:ノーザを警戒。
3:可能ならシンヤを助けたいが……
[備考]
※参戦時期は第43話終了後以降です。
【支給品解説】
メモリーキューブ@仮面ライダーSPIRITS
相羽タカヤに支給された。
村雨良の記憶が封じ込められており、村雨良ことZXのベルトに納める事で記憶を取り戻す事が出来る。
なお、BADANの大首領JUDOの魂と入れ替わるのを防ぐ力もある。
克己のハーモニカ@仮面ライダーW
東せつなに支給された。
克己の母マリアが少年時代の克己にプレゼントしたもの。
RETURNSで克己がミーナに渡した後、ミーナは克己達の死後もずっとそれを所持していた。
伝説の道着@らんま1/2
泉京水に支給された。
認められた者にしか着る事が出来ないが着たものはその潜在能力の全てを引き出す事が出来る。
作中ではあかねが認められ乱馬を圧倒する程の力を見せる。
ちなみにらんまも着ろうとしたものの胸と胴のサイズが合わなかった為着る事が出来なかった。
自分の意志で動く事が出来、その性格は女好きである。
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最終更新:2014年03月11日 22:11