「Eternal Flame」(前編)◆7pf62HiyTE




Chapter.06 妖刀裏正


 1本――


 また1本――


「……!」


 そしてまた1本木が切り倒される――


 志葉丈瑠の周囲には数多の木が倒されていた。
 その手に握られているのは妖刀『裏正』、
 丈瑠にとっての因縁の相手、腑破十臓の愛刀である。

「泣いているのか?」

 只、木々を斬り倒してきた裏正を見つめそう呟く。
 裏正は妖刀だけあって曰く付きの刀なのはいうまでもない。
 しかし只の妖刀であれば丈瑠が今更そう呟く事もない。
 裏正は筋殻アクマロがある野望、この世にあの世を顕現させる為に作ったもの、
 その野望を果たす鍵を握るのは人でも外道でもないはぐれ外道である十臓、そしてその十臓をその気にさせる為に裏正が存在するのだ。
 裏正にはある者の魂が込められている。それは十臓の妻、最期まで人斬りに走る十臓を止めたいと願い無くなった彼女の魂だ。

 彼女を救う為ならば十臓も協力するという算段というわけだ――

 もっとも、十臓はそれを承知の上でずっと裏正で人を斬り続けていた。
 本人に言わせれば外道になるという事はそういう事なのだ。
 アクマロ自身も十臓を本物の外道と言い切った、当然それでは条件から外れあの世を顕現出来るわけもない。

 余談だが、既に倒したはずのアクマロが参加者としてこの地にいる事が気にかかるものの、今の丈瑠はそこまで考えるつもりはない。
 加頭が何かの手段を使ったとしても関係ない。立ち塞がるならば斬る、それだけでしかない。
 それはシンケンジャーだからではない。今の丈瑠は志葉家十八代目当主、その影武者としての役目を終えたシンケンジャーですらない只の剣士、
 一剣士として生きる意味を全うする為、立ち塞がる相手と斬り合うだけである。

「今も奴を止めたいんだろうな……いや、奴と斬り合う俺に対してもか?」

 それは頭ではわかっている事。
 だが裏正、正確にはそこに込められた十臓の妻の魂が今も人斬りを続け外道に落ちようとする十臓を止めようとしている気がしてならないのだ。
 それはかつての家臣や幼馴染みとの絆を断とうとする丈瑠に対してのものでもある様に感じた。

「十臓はそれを振り切り外道に堕ちた、そして今俺も……」

 理解している、恐らく池波流之介、梅盛源太は自分を止めようとする。
 それでも最早立ち止まる事は出来ない。
 流之介や他のシンケンジャーの面々には仕えるべき、そして守り共に戦うべき本物のシンケンレッドである姫が居る。
 元々侍ではない為、シンケンジャーとして戦う必要が本来ならば無い源太にも親から受け継いだ寿司がある。
 だが、自分には何もないのだ、剣以外には何も。
 もし、剣すら取り上げられたならば――抜け殻そのものになってしまう。


『外道に堕ちるとはそういう事だ、最早コイツは一蓮托生』

 十臓はそう言って裏正でアクマロを斬った。
 止めようとする大切な想いすらも踏みにじって人を斬り続ける、それが外道に堕ちるという事なのだろう。
 そういう意味で言えばショドウフォンを何も知らない少年――
 いや、体付きから見て何かしらの武道の心得のありそうな少年早乙女乱馬に託した(正確には流之介と源太に伝言と共に渡す様に頼んだ)自身はまだまだ甘いと言わざるを得ない。
 だが、裏正で誰かを斬った時、自分もまた外道に堕ちる事になるだろう。
 迷いがないといえば嘘に――いや、最早同じ事を語る事はない。
 無駄な理屈など今の自分に必要ない、今は只一人の剣士としてこの戦いに望むだけだ。

 その中でも最優先は十臓だ、
 幾ら影武者としての役目を終えたとはいえ長年相手にしてきた外道衆の長血祭ドウコクの存在が気になるものの、それは流之介達に任せれば良い。
 立ち塞がるなら(倒せるかどうかは別にして)斬るが優先的に考える必要はない。
 だが十臓だけは話が別だ。十臓はずっと自分との真剣な斬り合いを望んでいた、そして剣以外の全てを失った自分を、自分の剣を認めていた。
 何より、その戦いの最中この地に連れてこられたのだ、奴との決着だけは最優先で着けねばならない。
 特にその愛刀である裏正が手元にあるのは尚の事、一刻も早く奴の元へ辿り着かねばならないだろう。
 とはいえ問題が無いわけではない。
 奴に会った際に裏正を返す所まではまだ良い、だがショドウフォンが無いが故にシンケンレッドになれない今の自分と戦ってくれるかは不明瞭だ。
 幾らその代替としてドーパントに変身出来るガイアメモリがあるとはいえ、それで奴が納得してくれるとも思えない。
 だからといって今更ショドウフォンを再び手にするつもりもない故、悩み所だ。

「……いや、考えても仕方がないか」

 が、それについては十臓と遭遇した時で良いだろう。どちらにせよ、奴が決着を望んでいる事に違いはない。
 互いに健在である限りは何れ決着を着ける時が訪れる。

 そんな時だった――森の中で轟音が響いてきたのは。
 すぐ近くというわけでもないがそう遠い場所でもない。
 もしかすると十臓、あるいは流之介に源太、はたまたドウコクかアクマロ、彼等が戦っているのかも知れない。
 いや、誰であろうとも関係ない。恐らくそこにいるのは相応の強者に違いない。
 誰であっても斬るつもりだが、出来れば強者である事を願いたい所だ。

「行くか……」

 ゆっくりと戦場へ足を進めていく、後方に倒れし無数の木々に振り返る事無く――







Chapter.01 ヒーロー!! あれ? シャンゼリオン 激走の1時間


「あの女ぁー! また消えやがった!!」

 そう叫ぶクリスタルの甲冑を纏った戦士――超光戦士シャンゼリオン涼村暁、
 彼は約1時間、ある少女――暁美ほむらを延々と追跡していた。

 例えばその理由がほむらを襲撃し殺す為、
 例えばその理由がほむらを保護し守る為、
 そういった理由ならば読者諸兄の大半は納得出来るだろう。
 しかし今この男がシャンゼリオンに変身し彼女を追っているのはそんな崇高な理由ではない。

 蔑む様な視線で銃を向けられ一方的に命令されて――

 その仕返しにちょっとイタズラしてやろうと考えた程度である。

 念の為に言っておこう、そもそもシャンゼリオンはダークザイドと戦う使命を持った戦士である。
 素人にも理解出来る様にわかりやすく言えば地球を救う為に戦うスーパーヒーローである。

 少なくとも、腹いせでイタズラする為に使う力では無い事は確かである。


 神様は何故この男なんかをシャンゼリオンにしたんだろう――


 話を戻そう。
 変身者の中身が脳天気なバカであってもそのスペックだけを見るならば通常の人間が相手になるわけもない。
 故に、外見上は普通の女子中学生相手ならば追いつく事はそう難しい事ではない。

 現実にすぐさまほむらの姿を確認し逆襲する事が出来た筈だった――

 だが、発見して舞い上がったその次の瞬間には消え失せていたのだ。
 目の錯覚かと思い探し直し再び見つけたが――やはり次の瞬間には消え失せていたのだ。
 そしてその繰り返しで今に至るというわけだ。
 気付いた瞬間に超スピードで動いているのか?
 何か催眠術をかけて発見したと思わせていたのか?
 もっと恐ろしいものの片鱗を――

「そんなに俺と付き合うのがいやなのかっつーの!」

 ――この男が味わうわけもなかった。
 化け狐につかまされた気分にすらならない、せいぜいバカにされている程度である。
 とはいえ、このままバカにされたまま引き下がれるわけもなく、再度捜索を開始する。

「それにしてもなんで電球みたいに消えたりするんだ?」

 さて、何度と無く消失を繰り返すほむらを見て幾らバカといえども流石に疑問に感じる。
 というより普通の少女がそんな事出来るわけもない。

「まさか……ダークザイドか?」

 となれば暁から見て異形の存在とも言えるダークザイドの疑いを持つのが自然だ。
 ダークザイドは人間の姿を借り、社会に潜み生体エネルギーであるラームを食する存在だ。
 つまり、ほむらはダークザイドの力で消失を繰り返しているというわけである――のだが、

「ま、ダークザイドだとしても俺には関係ないか」

 暁にとってはそんな事などどうでもよい。シャンゼリオンが連中と戦う使命を持つとしても暁には関係ない。この力で人生を楽しむだけだ。

「それにしても今度は何処に行ったんだ?」

 さて、周囲を見回すがほむらの姿は確認出来ない。
 そこは腐り果てても探偵、捜し物の技術が全くない訳でもなく、それ故に今まで何度も見つける事が出来ていた。
 しかし今度はその痕跡すら掴めないでいる。見つけられないぐらい遠くに逃げたという事は想像に難くない。
 ならば何処だろうか?

「……森か?」

 市街地に見切りを付けそこを離れ森に入った――
 確か人を捜していると言っていた気がする。そして今までの市街地を走り回り大体探し終えたとするならば森に向かったとしても不思議はない。

「ほむらちゃん、あんまり俺をイライラさせるないでくれよー♪」

 そう言って再びシャンゼリオンは走り出した。散々暁をバカにしたほむらに仕返しする為に――

 真面目な話、この男はこの殺し合いに乗り優勝を目指している――
 ――のだがこの男には全く殺意というものが無く、いつものノリで楽しんでいるだけでしかない。
 ただ、手元にある力と状況から舞い上がりすぎているだけでしかない。

 もう1度言おう、


 神様は何故この男なんかをシャンゼリオンにしたんだろう――







Chapter.02 ホムラデラックス!


『時間遡行者暁美ほむら、過去の可能性を切り替える事で幾多の平行世界を横断し君が望む結末を求めてこの一ヶ月間を繰り返して来たんだね。
 君の存在が1つの疑問に答えを出してくれた、『何故鹿目まどかは魔法少女としてあれほど破格の素質を備えていたのか?』、今なら納得いく仮説が立てられる』


「ようやく撒いたみたいね、流石にイライラするわ」

 そうほむらは周囲を見回しバカの存在を視認出来ない事を確認し安堵した。
 暁に拳銃を突きつけ追い返した所までは良い。だが、今度は妙にキラキラした、結晶の甲冑を纏って追いかけてきたのだ。
 子供が見る様なヒーロー番組に出る様な存在となって追いかけてきたという事だ。
 先に出会った山吹祈里がプリキュアなる未知の存在であった事を踏まえるとそういうヒーローが存在する事自体は今更驚くべき事ではない。
 だが、よりにもよってあのバカにそれを与えて良いのだろうか?
 もし、インキュベーターあるいはキュゥべえの類がその力を与えたとするならばそれこそわけがわからない。

 正直、戦う事はおろか真面目に付き合う事すら面倒だ。そうそうに自身の力で時間を止め視界から消える範囲まで待避した。
 だが、始末の悪い事に逃げても逃げてもどういうカラクリかはともかく何度も追いついてきたのだ。
 そういえば探偵なんて言っていたが、その肩書きは飾りでは無かったらしい。
 ともかくほむらは暁が諦めるまで何度も繰り返し時を止め距離を取り続けた。こんなバカ相手に武器を使う事すら勿体ない。
 一瞬だけだが『まぬけ』と書いた紙を置いておこうかとも考えたが、それで余計に絡まれてはかなわないためひたすらに逃げ続けたというわけだ。
 だが、暁は妙にしつこかった。確かに先にイラッときて銃を突きつけたのは自分だが、これ以上付き合うつもりもない。
 市街地を駆け回った所、守るべき人物である鹿目まどかの姿は確認出来ない。別の場所にいる可能性もある以上、一旦市街地から離れるのも悪い手ではない。
 そう考え、連続で時を止めて一気に移動し市街地を離れ森の中に辿り着いたというわけだ。

 暁との遭遇は悪い事ばかりではあったが、得たものが全く無いわけではない。
 繰り返し時間停止を行ったお陰でこの地に置ける制限をある程度把握出来たのだ。
 前述の通りほむらの魔法は時間停止である。魔法少女変身時に左腕に装備している盾の様なものが時計になっており、その時計を止める事で自分以外の周囲を止めるというものだ。
 ちなみに停止出来る時間は本来ならば比較的長時間であり、時間を止めている間に銃や爆弾を使い魔女や使い魔といった敵を倒すのがほむらの戦い方である。
 だが、この地ではどういうわけか長時間の時間停止は出来なかった。出来て数秒程度、その後ある程度時間をおかなければ再び停止させる事は出来ないらしい。
 また、自分達魔法少女の生命線ともいえるソウルジェムが濁るスピードも通常よりも早くなっている事にも気付いた。多用すれば命取りになる事は言うまでもない。
 とはいえ制限を課す理由自体は理解出来る。(実際は無限ではないが)ほぼ無限に時間を止められるならばこの殺し合いにおいてはあまりにも有利となってしまう。
 多人数で徒党を組んでいる連中が相手であっても時を止めている間に接近し1人1発ずつ銃弾を心臓に撃ち込みすぐさま離れれば、誰にも気付かれず簡単に事を成す事が出来る。
 つまり、ほむらの力は殺し合いのバランスを崩しかねない代物だという事だ。それを踏まえるならばこの制限もある意味仕方が無いだろう。



 ともかく、この事を把握出来た事は有り難い――のだが、バカの為に殆ど無駄にソウルジェムを消耗したことを考えると感謝する気は全くない。
 ソウルジェムの穢れを浄化するグリーフシードが手元に無い以上、無駄な消耗は抑えるべきである。無論、あった所で無駄遣いを避けるべきなのは言うまでもない。

 何にせよ思い出すだけでイライラが再燃しそうなバカの事はもう忘れよう、そう考え改めてこの殺し合いについて考える。

 まず、ほむら自身この殺し合いにはインキュベーターが拘わっていると考えている。
 彼等の目的は自分達の宇宙を存続させる為のエネルギーを集める事だ。
 その為に目を付けたのは感情、それをエネルギーに変換する方法を発明した。
 が、彼等自身は肝心な感情を持たなかった、故に別の星の人間達にそれを求めた。
 かくして希望溢れる魔法少女が絶望に堕ち魔女になった時に発生した膨大なエネルギーを集めているというわけだ。
 ちなみに、エネルギーさえ集まれば魔女によって地球が滅びようがインキュベーターにとってはお構いなし。
 自分達で賄えないエネルギーを人に賄わせて置きながら、必要が無くなったら後は放置――笑えない話である。

 さて、まどかが魔法少女となりその後魔女になった時に発生するエネルギーはそれこそインキュベーターのノルマを達成させる程だ。
 インキュベーターがまどかを魔女にする為にこの殺し合いを開いたのならばそこまで悪い手段ではない。

 しかしだ。冷静に考えると腑に落ちない点も多い。
 まず、プリキュアなどといった魔法少女とは全く異質の存在がいるという事実。
 話を聞いた限り魔女の存在すら知らないらしいし、最低限聞かされる筈の情報すら知らない所を見るとまず魔法少女とは全く関係ないと考えて良いだろう。
 そんな話など未だに信じられないものの、よくよく考えてもみれば銃を突きつけた状態で真剣に語ったであろう情報を頭ごなしに否定するのは良くない。
 かつて魔法少女の真実を語っても殆ど信じてもらえなかったほむら自身の経験も踏まえ、考慮の余地は十分にあるだろう。

「確かラビリンスがどうとかと言っていたわね……」

 今にして思えばせめて知り合いの名前程度は聞くべきだったかも知れないと多少は後悔した。
 ともかく、先に出会ったバカを含めプリキュア以外にも魔法少女とは全く異質の存在は多くいるだろう。それを踏まえるならばインキュベーターが黒幕だと断じるのは視野の狭い見解と言わざるを得ないだろう。

 また、もう1つ気になる事がある。
 それは自身の知り合いについてだ。名簿を見てもわかる通り、自身の知り合いはまどか、美樹さやか、佐倉杏子、巴マミの4人いる。
 だが、『ほむらが今居る時間軸』においてはまどか以外の3人は既に死亡している筈なのだ。
 勿論、ほむら自身の真の能力を踏まえるならば単純に主催側が時間軸を操る力を有する程度の話でしかない。
 だが、そこにこそインキュベーターが黒幕にいると言い切れない理由が存在する。



『ひょっとしてまどかは君が同じ時間を繰り返す毎に強力な魔法少女になっていったんじゃないのかい?』

 あの時キュゥべぇはまどかの魔力が膨大な原因をほむらが彼女を守る為に同じ時間を繰り返したことで彼女に因果を集めてしまったからなのではと語った。
 つまり普通の少女だったが繰り返しを重ねる事で彼女にかかる運命が大きくなり、最終的に救世主に匹敵する程の運命を左右する存在になったという事だ。
 なお、これは奴に指摘されるまでほむら自身気付かなかった事である。

『お手柄だよほむら、君がまどかを最強の魔女に育ててくれたんだ』

 何にせよ、キュゥべぇは繰り返し一ヶ月前に戻ってくるほむらの能力を最初から把握しているわけではなかった。
 何しろ、基本的には知る事が殆ど無い筈の魔法少女の真実を把握している事を不思議に思っていた筈だから知っていたという事はない。
 つまり、インキュベーターそのものには時間遡行の力は無いという事だ。
 そもそも、連中が最初から時間遡行能力を所持しているならばこんな殺し合いを開くよりもずっと効率的な方法を採る筈、それを踏まえても時間遡行――いやむしろ別世界に干渉出来る力は別の勢力からもたらされたものだろう。

 どちらにせよ、現段階の情報程度ではインキュベーターが関わっていると断じる事すら危ういだろう。
 勿論、ほむら自身の知らない所で効率的なエネルギーを手に入れる方法を得て、それを実践しているという可能性もある為、関わっている可能性も消えてはいない。
 だが、それも情報の不足している今の段階では断定すら出来ないだろう。

 そんな中、ふと気付いた事がある。
 前述の通り『ほむらが今居る時間軸』では死亡している3人がこの地にいるのは彼女達は違う時間軸から連れてこられたからだろう。
 だが、それは同時にそのまままどかにも当てはまる。
 ここ最近繰り返している時間軸ではほむらはそもそもまどかを魔法少女にさせない様にしている。しかし、その前の時間軸ではどうだろうか?
 それこそ魔法少女となっている、最悪魔女と化してしまった時期から連れてこられはしないだろうか?
 もしそんな状態のまどかと出会ったらどうすればよいだろうか?
 いや、魔法少女となったとしてもほむらがまどかを守る事に違いはない。少なくてもそんな彼女をそのまま見捨てるなんて事はあり得ない。無論、魔女にさせるつもりなど全くない。
 魔女になる前に殺すという選択? そんな選択肢などほむらに存在するわけもなかろう。

 出来うるならば、もう2度と自身の手でまどかを殺す時など訪れて欲しくない――

 では魔女になった場合は? 実の所、魔女となったまどかの力は絶大、10日程で星を滅ぼす程だ。

「……考えても仕方ないわね」

 だが、流石に魔女となったまどかの対処など何もない。戦って勝てる相手でも無し、実際に前に魔女になった時も再び繰り返しに入る以外の選択肢がなかった。
 それを踏まえてもそんな状態の彼女と遭遇しない事を願うしかない。


 ともかく今後の方針を決める為にもデイパックから地図を取り出し現在位置を確認していると――


「やぁ」





Chapter.03 遭遇


 どことなく空気がピリピリしているのを感じた。
 今ほむらの目の前にいるのはどことなく幼さすら感じさせる白い服を着た青年である。
 不穏な気配の元凶、それは間違いなく奴からである。

「白い服……イヤな色ね」

 そうほむらは呟く。白というだけであの悪魔を思い出すのもある意味酷い話ではある。
 が、逆を言えばそれを思い出させるぐらい目の前の青年の雰囲気が恐ろしいものだったのだ。

「何の話?」
「気にしないで良いわ、こっちの話よ……それで、貴方何者?」
「僕? 僕はダグバだよ」
「ダグバ……そういえば妙に特徴的な名前があったわね、ゴ・ガドル・バとかズ・ゴオマ・グとかいうのは貴方の仲間かしら?」
「別に仲間ってわけじゃない……まぁ君達リントにしてみれば同じ未確認生命体だけどね」

 目の前の青年――ダグバの口からは聞き慣れない単語ばかりが出てくる。『リント』? 『未確認生命体』? 何を言っているのだろうか?
 リントの方はダグバの言い方から考えるに普通の人間という意味で良いだろう。

「未確認生命体? キュゥべぇの様なものかしら……」
「僕からも1つ聞いて良いかな、クウガを見かけてはいないかい?」
「クウガ? 会ったのは私ぐらいの女の子とクリスタルの鎧を着たバカだけよ、その2人じゃないなら知らないわ。貴方こそ、私に会う前に誰と会った?」

 ここでまどかの外見の情報を晒すわけにはいかない。故に、言葉を選びつつダグバに問いかける。

「君よりも幼い金髪の少女のリント……ヴィヴィオって呼ばれていたかな、それから青い戦士に変身……ナスカに変身した青年のリント、そして君で3人目だよ」
「そう、なら――」

 ダグバの言葉が事実ならばまどかは奴と遭遇していない。それだけで十分に意義があった。

「もう1つ聞いて良いかな。君だったら僕を笑顔に――」

 それ以上言葉が紡がれる事はなく――

「もう用はないわ」

 その言葉と共に拳銃でダグバの身体に数発の銃弾を撃ち込んだ。
 そしてすぐさまダグバからデイパックを取り上げそのままこの場から立ち去ろうとした。

 ダグバと遭遇した時からずっと感じていた。
 この男はヤバイ、殺し合いに乗っている乗っていないでいうならば確実に乗っている。
 雰囲気だけで理解したのだ、目の前の相手があまりにも危険だという事を。
 どれぐらい危ないのか――それこそ脳裏に一瞬ワルプルギスの夜、あるいはそれ以上を連想する程の――
 それぐらい危険な相手を放置する等あり得ない。まどかを守る為にも絶対に排除しなければならない。
 この時点で確定出来る要素は何処にもない。だが、今回に関しては確実、そう判断する程のものを持っていたというわけだ。

 だからこそ、まどかと会っていないという情報(無論、嘘の可能性もあるが)を聞いた瞬間に時を止め、以上の行動に出たというわけだ。
 撃ち込んだ銃弾は5発、普通に考えればこれで確実に仕留められる筈だ。無論、仕留めきれなくてもすぐさま反撃には出られ――




「!?」


 周囲の空気がまた変わった気がした。


「――してくれのかな?」


 時が動き出した――


 だが、ダグバは何事も無かった様に言葉を続け、ゆっくりと着ていた服と同じ白い体色で金の装飾を纏った怪人の姿となり――


 撃ち込まれた銃弾をそのまま弾き出す。


「!!!???」



 それと同時にほむらの身体が急激に燃え上がった。あまりにも突然の衝撃に思わず持っていたデイパックを落としてしまう。


「それは返してもらうよ」


 そう言って、ダグバは奪われたデイパックを回収すべくほむらに迫る。
 その動きは早く、ほむらはそのまま後退を余儀なくされる。衝撃で思わず落としてしまった自身のデイパックに気を回す余裕すら無い程に。
 何とか間合いを取った時には燃え上がった身体の炎も大分鎮火した。

「ぐっ……」

 一体何が起こったのか? 突然自分の身体が燃え上がったのだ。現状そこまで致命的なものではないが決して軽いものではない。

「やっぱり面白い技を使うリントだね」

 一方のダグバは何て事の無い風に変わらぬ調子で語る。

「!? やっぱり?」

 ダグバが言っているのは時間停止の事だろう。だが、ダグバの前でこの力を使ったのは今が初めての筈だ。一体何処で見たというのか?


 ダグバがほむらの存在に気付いたのはほんのささやかな偶然によるものだった。
 手持ちの道具を確認し移動しようとした時、ふと何気なく周囲の様子を探った。
 ダグバの力は絶大、その感覚も非常に鋭く制限下においても比較的広範囲を探る事が出来る。
 そう、ほむらが近くまで来ていた事に気付いていたのだ。
 いや、厳密に言えば少し違う。ダグバは瞬間的に長距離を移動するリントの存在を察知したのだ。
 無論、これは暁を振りきる為に時を止めて移動したほむらの事である。
 だが、傍目から見れば限りなく短い時間で長い距離を移動した様にしか見えない。つまりは瞬間移動したと錯覚するのだ。
 真相はどうあれ、瞬間移動の出来るリントはダグバの興味を引くのに十分過ぎた。
 故にその足でほむらに接触したという事だ。

 そして気が付いた時には銃弾を撃ち込まれデイパックが奪われていた。
 だが、ダグバ達グロンギには一般に流通している銃器は全く通用しない。怪人体は言うに及ばず、人間体であってもその命を奪う事は出来ない。
 そして今の攻撃で確信した。目の前のリントは瞬間移動するのではなく自分以外の時を止める力がある事を。
 そう考えた後、すぐさま反撃として自身の持つ発火能力でほむらを燃やしデイパックを奪還、それどころか彼女自身のデイパックも手に入れる事が出来た。


「で、どうす……?」


 が、ダグバが気付いた時には既にほむらの姿は森の中に消えていた。


「……いいよ、折角だから少し遊ぼうか。リントの少女」






Chapter.04 BLACK OR WHITE ?


 何度も触れた通り、ほむらの魔法は時間遡行と時間停止であるが、この表現は実は正確ではない。
 先に説明したとおり、ほむらの装備している盾は時計になっている。だが厳密に言えばその時計は砂時計だ。
 砂時計の役割は本来その時計毎に定められた時間を計るものでしかない。
 砂が落ちきった時点で測定という役目を終えるが、ひっくり返し再び作動した時は再び測定を始める。

 その時間は約1ヶ月、つまりほむらがまどかと出会う直前からワルプルギスの夜戦後の間である。
 その期間を何度も最初から繰り返す事が出来るというだけの話なのだ。
 誤解しないで欲しいのはあくまでも戻せるのはそのおよそ1ヶ月程度、それ以外で時間を戻す事は不可能である。
 そして時間停止は落ち行く砂の流れを止める事で、その時に止めている時間だけ止めるという時間遡行の副産物というわけである。

 さて、他の魔法少女は槍や剣といった武器を使用し攻撃向きな魔法も所持している。
 だが、ほむらにはそういう気の利いた魔法はなく、時を止める、あるいは繰り返す為に戻すという事しかできない。
 その為、時間を停止している間に現実に存在する銃器や爆弾を使い攻撃をかけるというわけだ。
 ちなみに使用している銃器や爆弾は通常盾の中に収納されており、それらはは普段ほむらが暴力団や軍基地に時を止めて潜入し確保したものである(自作した経験もある)。

 それ故に、ほむらの攻撃力は所持している火器に依存する事になり、魔法少女としての攻撃力は決して高くはない。
 だが、それはほむらが弱いという事を意味するわけではない。
 何度も同じ時を繰り返しているという性格上、その間は延々と目的の為に戦い続けていた事になる。
 その間の経験はほむらの中には残り続ける、つまり繰り返される時間の中で得た戦闘経験こそがほむらの最大の武器という事になる。
 もっとも――それだけの経験をもってしても未だワルプルギスの夜を撃破する程の経験値は得ていないわけだが。
 この地にきたのは丁度今居る時間軸でのワルプルギスの夜戦前、今の状態でそれに勝利するのは――厳しいだろう。恐らく今回もまどかが魔法少女とならなければ倒せない。
 イコールそれは今回も失敗する事を意味する。だが、ほむらは決して諦めたりはしない、まどかを魔法少女にしないでなおかつ守りきる事こそがほむらの望みであり、ある時間軸でのまどかの願いであり、交わした約束なのだから。

 だが、それは決して報われる事はない。
 結局の所、魔法少女と成った事でもたらされた奇跡は都合の良いものではない。
 その奇跡の分、場合によってはそれ以上の呪いをもたらすのだ。
 それが一番わかりやすい形で現れるのは魔女と化した時なのはおわかりだろう。
 その魔女を倒す為に新たな魔法少女が現れる。そしてその魔法少女が魔女となり――その繰り返しだ。
 インキュベーターが宇宙を維持する為のエネルギーを集める為に作り出したシステムとしてはある意味では上手くできているといえる。
 ほむらの場合も決して例外ではない。
 ほむらが願ったのはまどかと出会う前に戻り今度は彼女を守る事、その祈りが時間遡行の力を与えたと言って良い。
 が、その力で繰り返し続けた結果、彼女に因果が集中する事となり、まどかの魔法少女としての力は増大し、同時に魔女としての力、そして魔女と化した時に発生するエネルギーも膨れあがった。
 インキュベーターがその膨れあがったエネルギーに目を付けないわけもない。
 つまり、ほむらの祈りが最強最悪の魔女を生み出す切欠となり、まどかに更なる宿命を背負わせる事となったのだ。
 言い換えればまどかの幸福を願ったが、その結果彼女をそれ以上の不幸に堕とす羽目になったという事だ。
 気付いた所でもう遅い、今更止める事など不可能。何しろ、全てが無駄だと否定された、つまりは絶望した時点で今度はほむら自身が魔女になってしまうのだ。
 それはほむら自身もまどかも望まない結末だ、だから諦める、立ち止まるという選択はありえない。
 しかも始末が悪い事に、この話を誰も信じてくれない以上全て1人で決着を着けるしかない。つまり彼女を救う為には延々と繰り返し続けるしかないのだ。
 そして繰り返すたびにほむらの時間だけが蓄積しまどかとのズレは大きくなっていく。それを続けてしまえばまどかにすら理解されない状態に陥ってしまう。
 決して誰にも理解されず、孤独な戦いを永遠に繰り返してしまうというわけだ――そしてそれが報われる事は決してない。




 だが、例えそうだとしても――


「(必ず貴方を救う……まどか……!)」


 連続で時を止めつつ森を駆け抜けダグバとの距離を取っていく。
 だが、ダグバの能力は凄まじく時が動き出した瞬間にすぐさま距離を詰めていく。
 隠れてやり過ごそうにもその感覚の鋭さからすぐに追跡されてしまう。
 つまり、このままでは何れ追いつかれそのまま一方的に蹂躙されてしまうしかないという事だ。

 だが、ほむらはダグバから逃げるつもりは全くなかった。
 仮に逃げ切ったとする、だがその後ダグバは他の参加者を殺し回っていくだろう。
 その中にまどかがいたらどうする? 何の力を持たないまどかが戦えるわけもない。
 魔法少女の状態でも同じ事、ワルプルギスの夜に匹敵しかねない相手をどうにかできるわけもなく結果は死か魔女化しかない。
 もし、魔法少女になる以外の戦闘手段があっても同じ事、それ以前にまどかにそんな危険な真似をさせる事自体ほむらの中ではあり得ない。
 つまり、ダグバは何としてでも仕留めねばならないという事だ。
 だが、拳銃の通じない相手を仕留め切れるのか? そんな都合の良い方法があるのか?

 いや、ある。この状況下たった1つだけその方法が。

「(例え無敵であってもこの地なら首輪の呪縛からは逃れられない……そこを仕掛ければ!)」

 参加者に殺し合いを強いる首輪、その中には確実に死に至らしめる爆弾が内蔵されている。
 無理に外そうとすれば当然爆発する代物だ。
 ならば、首輪を直接攻撃しその衝撃で爆発させれば――ダグバでも仕留める事が可能ではないだろうか?
 そして、ほむらにはそれを可能にするだけの力がある。それが自身の持つ時間停止の力だ。
 更にデイパックは奪取されても拳銃といった武器は手元にある為狙撃は可能。
 時を止めている間にダグバの首輪を撃ち爆発させる、確か首輪には時間停止の力は及ばない話だったから気付いた時には仕留めていたという事も出来る筈だ。
 問題は時を止められる時間が数秒程度という短時間である事、首輪を正確に撃ち抜くのは技術的にも難しいという事だ。
 そして何より――

「(くっ……やっぱり……!)」

 丁度今し方時を止めダグバの様子を確認した。
 だが、ダグバは上手い具合に手を構えていた。上手い具合に銃弾のコースを遮り、首輪を撃ち抜くのを難しくする様に。
 接近すればまだ狙えるものの止められる時間が短い関係上、外した時のカウンターのリスクが大きすぎる。
 故に現状ではそのチャンスを伺うしかない状況だ。

 考えてみれば当然だ、ダグバの側から考えても時間停止中に急所の首輪を攻撃する事は有用であり真っ先に警戒すべきだ。
 そうそう簡単に撃たせてくれるなら誰も苦労はしない。



「逃げてばかりだけどそれじゃ僕を笑顔にも出来ないし倒せもしないよ」

 ほむらの心中などお構いなく繰り出されるダグバの言動からは未だに余裕を感じさせる。
 笑顔にさせるつもりなど毛頭無いが、このままでは倒せないのも事実だ。

「これならどうかな?」

 その言葉と共にほむらの周囲が突然燃え上がる。

「くっ!」

 詳細はわからない。だが、先程自身を燃やした事も踏まえダグバには接触せずとも物体を燃やす力を持っているのだろう。
 炎は丁度ほむらの進行を阻む位置にある。迂回しなければその炎によるダメージを受けてしまう。
 しかし迂回すればその間にダグバが接近する隙を与えてしまう。
 故にほむらは臆する事無く炎を突っ切っていく。時止めを駆使し受けるダメージを最小限に抑えながらだ。
 それでも蓄積されるダメージは決して無視出来ない。
 このままでは何れ限界が訪れるし、倒せたとしてもグリーフシードが無ければ後が続かなくなる。
 ダグバの口振りでは後2人同じ様な未確認生命体なる危険人物がいる。彼等を放置する事が出来ない以上、ここで倒れるわけにはいかない。

 そうして何分か十数分かは不明だが追跡戦を繰り返し――その機会は訪れた。

「(見えた……!)」

 一瞬だけ振り向きダグバの首のガードが甘くなった事を確認した。
 前方などは未だ厳しいものの右横は大分がら空きと成っている。
 つまり今そこに仕掛ければ十分仕留める事は可能という事だ。
 問題は時を止めた数秒間でそこまで回り込み確実に撃ち抜く事が出来るかどうかだ。
 だが迷っている時間はない、この機会が恐らくは最後のチャンス。それを逃せば勝ち目はない。
 故に――


「(今しかない!)」


 ほむらはその時を止めた。この瞬間から数秒、ほむらだけの世界が始まる――


 振り返りながら何時でも撃てる様に拳銃を構える――


 そのまま左方向、つまりダグバの右横へと走り出す――


 途中炎が行く手を遮るも構わず駆け抜けていく――


 そして拳銃を構えダグバの首輪の右側を狙い――


 まず一発、しかし首輪どころか首にすら当たらない――


 さらに数歩進み一発、またしても銃弾は首を外れる――


 度重なるダメージの影響で照準が定めきれなかったか、夜の闇が狙撃難度を上げたのか――


 それでも構わずもう一発、今度は命中した。但し首輪ではなく鎖骨の辺りに――


 もう一発、首に命中した。だが首輪より数ミリ下だったが故に爆破には至らない――


 未だ命中には至らない。しかし接近した事もあり命中率は確実に上がっている――


 あと一発、それを撃てば確実に仕留める事が出来る筈だ――


 だが限界時間も迫っている、間に合うかどうかは紙一重といった所だ――


 しかしほむらに後退はない、全ての運命を歪めた元凶の一つとは言え純粋な祈り、それを果たす為に――


 迷うことなく首輪を狙い引き金を引いた――


 放たれた銃弾は吸い込まれる様にダグバの首輪へと――




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最終更新:2013年03月14日 22:29