昔々、わるい王族によって支配されていた国にふらデレラというかわいい女の子がおりました。ふらデレラにお母さんはおらず、家も裕福ではありませんでしたが、お父さんと二人で質素に仲睦まじく暮らしていました。
十数年前まで、この国は良い王様が統治していた良い国だったのですが、わるい魔女によって王様が操られてしまい、今では民を苦しめるわるい国になってしまったと言われていました。
ある朝、ふらデレラが目を覚ますと、家の前にたくさんの兵隊さんが集まっており、ふらデレラのお父さんを探していました。
お父さんはふらデレラを家の床下に隠すと
「いいかい、足音がなくなって、おとなりのニワトリが三回鳴くまで絶対にここから出てはいけないよ」
と言いました。
ふらデレラが言いつけを守って外に出ると、お父さんはいなくなっていました。ふらデレラが悲しんでいると、屋根裏からふらデレラの友だちの物知りな白ネコが出てきて言いました。
「ふらデレラ。君のお父さんはお城に連れ去られてしまったよ。お父さんを助けたいなら、街を出たところにある暗闇の森に行くといい。きっといいことがあるよ。ぼくもついて行こう」
暗闇の森には王様を操ったわるい魔女が住んでいると言われていて、誰も近寄りません。でもふらデレラはお父さんを助けるため暗闇の森に向かいました。
暗闇の森は暗くて不気味でしたが、夜目の効く白ネコが案内してくれるので、ふらデレラはついて行きました。しばらく行くとボロボロの木でできた家があり、中からボロ切れを被った赤い巻髪の魔女が現れ、言いました。
「ふらデレラ。そこにいるんだろう?おいで。おなかが空いているだろう。大丈夫だ。何にもわるいことはしないよ」
ふらデレラが悩んでいると、白ネコが飛び出して行きました。
魔女は白ネコを抱き上げると言いました。
「おお、よしよし。しっかりふらデレラを守ってくれたんだね」
白ネコは言いました。
「ふらデレラ。大丈夫だよ。この魔女はいい人だよ」
ふらデレラはなぜか魔女の声を聞いて懐かしい気持ちになったので魔女の前に出ていくことにしました。
魔女の家に入ると、魔女はリンゴのジャムを塗ったパンを焼いてくれました。魔女のジャムは毒入りだと聞いていましたが、空腹に抗えず食べてみると、毒など入っていませんでした。それどころか、そのジャムを食べたふらデレラはなぜかまた、とても懐かしい気持ちになりました。
魔女は言いました。
「ふらデレラ、私はわるい魔女だと言われているが、あれは嘘だ」
そう言うと、魔女は古い写真を取り出してふらデレラに見せました。その写真に写っていたのは、豪華な服を着た若いお父さんと魔女、そして魔女の腕には赤ん坊のふらデレラが抱かれていました。
そして魔女はふらデレラに昔の話をしました。
魔女は昔、いじわるな継母と二人の姉にいじめられていた優しい女の子でした。ある日、魔女の住む家に「お城で王子様の結婚相手を決める舞踏会がある」と報せが届きましたが、魔女は舞踏会に行けず、家で任された家事をしながら泣いていました。
しかし、妖精が現れて魔女に魔法の力を授けることで魔女は舞踏会に行き、いろいろあって魔女は王子様と結婚してお姫様になり、ふらデレラも生まれました。
ですが、何の後ろ盾もなく、平民の生まれだった魔女は他の貴族たちに疎ましく思われてしまいました。
そしてある日、魔女を疎ましく思う貴族たちが、異国からやってきた呪術師に頼んで魔女を追放させようとしたのです。
呪術師は言いました。
「この女は魔女だ!魔法で王子を操ってこの国を乗っ取ろうとしている!余がその証拠を見せてやろう!!」
呪術師が杖を振ると、魔女が持ってきた嫁入り道具は全てその姿を変えました。
ガラスの靴は毛皮の靴になり、馬車は腐ったかぼちゃになり、それを引いていた白馬は白ネコになってしまいました。
これにより、魔女と王子と幼いふらデレラはお城を追放され、呪術師は呪いで貴族たちを操り、国を乗っ取ったのでした。
王子は幼いふらデレラを育てるために身分を隠して街に住むことにしましたが、魔女はわるい噂が流れていたため、隠れて暮らすことになりました。
ふらデレラに全てを語り終えて魔女は言いました。
「次の満月の夜、またお城で舞踏会が開かれる。私が魔法でふらデレラを中に入れてあげよう。そしてお父さんを助けるんだ」
次の満月の夜、魔女の魔法で豪華に着飾ったふらデレラは舞踏会にやってきました。玉座に座っているのは王子に化けた呪術師でした。
呪術師はふらデレラを見て言いました。
「そこの美しい娘よ、もっと近うよれ」
ふらデレラは呪術師の下へと歩いて行きました。
呪術師はふらデレラを舐め回すように見て言いました。
「このような美しい娘がいたとは、お前、どこの貴族の娘だ?まあよい。余と踊ろうではないか」
呪術師が強引にふらデレラの手を取ろうとした時、ふらデレラは懐から取り出したナイフで呪術師を刺しました。
呪術師は倒れ込み、周りの貴族たちが気づいて騒然となります。
ふらデレラが光に包まれると、一瞬で魔女の姿に変わりました。
「あの人のエスコートはもっとロマンチックだったよ」
実は舞踏会に来ていたのはふらデレラに化けた魔女だったのです。舞踏会で魔女が騒ぎを起こしている間に本物のふらデレラは地下牢に閉じ込められているお父さんを助けていました。
逃げ惑う貴族たちに倒されたロウソクやランプの火がカーペットやテーブルクロスに燃え移り、パーティ会場は炎に包まれました。
呪術師が苦しみながら言います。
「その赤い髪は、貴様、あの時の姫……生きていたのか。だが、これだけ炎に包まれればもう余もお前も助からんぞ。残念だったな」
魔女は言います。
「いいのさ。私の役目はあの子のためにある」
一際大きな炎が燃えて、パーティ会場からはそのあと何も聞こえなくなりました。
一夜が明け、呪術師の呪いが解けた貴族たちはふらデレラとお父さんを見つけると、それはもう平身低頭、五体投地で謝り続け、もう絶対に魔女に対してしたようなことはしないと誓いました。
そしてお父さんは正式な王様に、ふらデレラはお姫様になり、お城で民のために良い統治をしました。
しばらく経ったある日、ふらデレラの元に白ネコが手紙をくわえてきました。手紙には赤い巻毛がついていて、こう書かれていました。
「ふらデレラへ、お城の生活が嫌になったら森へおいで。リンゴのジャムを作って待っています」
ふらデレラはお城と、時々森で幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
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