曲紹介
確かにこの目に焼き付いている幻、もしくは夢について。
その両手で掬いとって、水を汲み取るように。
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曲名:『微睡み』(まどろみ)
- Natrium氏の4作目。
- ボカコレ2023夏ルーキー参加曲。
歌詞
死にたいと願うことは悪いことじゃないと誰かがそう耳打ちをした気がした。
海の底で、水の泡が弾ける音がする。
瞳を開けば、仄暗い青の中に頭上から薄明かりが差して、
ぼやけた視界の向こう側に誰かがいる気がした。
その誰かはゆっくりと僕の周りを泳ぐ。
そうして、
影は僕の耳元でどうして死にたいのと言った。
掠れたソプラノのような音だったと思う。
もう思考もままならなくて、
上手くそれには答えられなかった。
君のことを忘れたくなかった。
いつまでも覚えていたかった。
だけど、
人間の記憶というものは勝手に抜け落ちていくものだ。
意志とは反対に忘れてしまう。
それなら、
覚えているままに死んでしまいたいと思った。
忘れる自分を許せなかった。
君が死んだのは元々の病だったと聞いたけれど、
僕はその事を知らなかった。
あんなに一緒にいたのにひとつも分からなかった。君がいれば毎日が幸せだったし、
君がいるだけでその思い出さえも綺麗に見えた。
ある時から中々会えなくなって君に怒ったこともあった。
その事を知ってからはくすんで仕方ない。
あの綺麗なものの裏には計り知れない苦しみがあった。
虚しくて、苦しくて仕方なかった。
生きていても、君がいない世界で生きていても仕方ないと思って、気づいたら海にいた。
2人で歩いたときのことを思い出してまた息がしにくくなる。
そんな風な使命感で海へとすすんだ。
影はしばらく黙っていた。
答えられない僕を見て悲しそうに笑った気がした。それからまた同じように耳打ちして、
消えた。
僕はその言葉を反芻しながら、意識を手放した。
「海は記憶を連れ去るよ。死は全部をなくすんだよ。だから、結局忘れるのと変わらない。君は、まだ死んじゃダメだよ。」
視界に白い灯りが差す。空気を感じる。
それで分かった。死に損なった。
目が覚めてからしばらくは記憶も曖昧でそんなふうなことを思っていたようだった。
けれどもひと月がたって秋が来た。
毎日意味もなく眠っていた僕の夢枕に
あの影が立った。
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最終更新:2026年08月12日 12:24