その1
最終更新:
homuhomu_tabetai
-
view
そのケージの中は、異様な空気に包まれていた。
人間たちが『控え室』などと呼んでいるそれは、通常では考えられないほどの大きさで、800cm四方もあった。
天井こそ開けているものの、壁は高く、頑丈な造りで微動だにしない、さながら猛獣の檻である。
ただし、住んでいるのは猛獣などではない――ほむほむだ。
成熟したほむほむから、若いほむほむ、妊ほむ、まだ幼い仔ほむや、めがほむ、でぶほむ、中にはまどまどまで――
ほ食種を除いた、幾数匹ものほむほむたちがひしめきあっているのだ。
これらは、元は同じ群のほむほむたちであった。
さて、ここに数匹のほむほむがいる。
一匹は、年若いほむほむ。まだ一人立ちしていくらも経っていないようにも見え――事実、その通りであった。
残りの数匹は、さらに若い――どころか、産まれて一週間も経っていないような仔ほむばかりである。
このほむほむたちは、親仔であった。
仔ほむ1「ホミュ……」オカーサン……
仔ほむ2「ホミュゥ……」コレカラドーナルノ……?
仔ほむ3「ホミィィ……」コワイヨォ……
仔りぼほむ「……ホミャ」スリスリ
親ほむ「ホム、ホムムゥ」
周囲からの無遠慮な視線をひしひしと感じながらも、懸命に仔どもたちを慰める親ほむ。
本来、ほむ種は人間よりも遥かに協調性があり、仲間想いであり、同族意識が強い生き物である。
それを裏付けるように、このケージの中のほむほむたちも身を寄せ合っているのだが――
このほむ家族の周囲だけが、ぽっかりと穴が空いたように空白で、どこか避けられているようにも見えた。
親ほむ「ホムー……」ギュゥゥゥ ポロポロ
どうしてこんなことになってしまったんだろう……
座り込んだまま、短い手を精一杯伸ばして仔どもたちを抱き寄せ、涙する親ほむ。
冷たい鋼鉄の感触を感じながら、心は自然と幸せだったあの頃に戻っていった――。
親ほむ――いや、母となる前の仔ほむの生まれは、見滝原の郊外にある緩やかな山の麓。
元は動物の巣穴だったであろう地面の広大な空洞に、朽ちた流木を利用してつくられた出入り口。ここがほむほむの巣だ。
いくつかのほむほむ、まどまどの番による群が、この巣の住民たちであった。
その巣の中、今――ひとつの部屋で、とあるほむほむの初産が行われていた。
ほむほむ「ホヒュッ……ホヒュー……」ウ、ウマレルゥー
まどまど「ホムラチャンッ!!」ガンバッテ!
妊婦であるほむほむは、番のまどまどの励ましを受け、そして――
ほむほむ「ホヒュー……! ホムァ!! ホムゥゥゥゥゥゥーーーーーー!!!!」
ポトッ ポトポトポト……
仔ほむs「ホミャァァァァァーーーーー!!! ホミャァァァァァーーーーー!!!」
まどまど「マドッ!マドマドォ!」ガンバッタネ!
ほむほむ「ホムッ!ホムホムゥ!」ウン! アリガトウ!
まどまど「ウェヒヒッ♪ マドォー ///」コドモタチ///
ほむほむ「ホムホムー ///」カワイイネ///
見事出産を終え、歓喜に震えるほむほむは、番のまどまどと、愛らしい我が仔たちを抱く。
しかし――
小さな仔ほむ「ホミャァァァァーーーー!」
一匹だけ、他の仔ほむたちよりも一回り小さな仔ほむが居た。未熟児のようで、鳴き声も小さく、いかにも弱弱しい。
他の野生動物の中には、弱い仔を見捨てるものもいるが、ほむ種は情に厚い生き物である。
この仔どもにも、変わらない愛情を注いで育てるのだろう。
まどまど「マドマド……」ゴメンネ…… ナデナデ
ほむほむ「ホムゥ……」ワタシタチノセイデ…… ペロペロ
小さな仔ほむ「ホミャァー♪」オカーサン♪
誕生から数日が経ち、仔ほむたちも順調にすくすくと育っていった。
それは、あの小さな仔ほむも例外ではない――のではあるが、それはあくまで単体として見ればの話。
他の姉妹たちと比べれば、その貧弱さは疑いようもなかったのである。
仔ほむs「ホミャァ!ホミホミィ♪」
ほむほむ「ホム? ホムホー♪」
まどまど「ウェヒヒッ♪ マドマドー♪」
まだまだ両親にべったりの姉妹たちだが、この仔ほむだけは違った。
とはいっても、静かな場所や孤独を好んだという訳ではない。
幼いながらに劣等感と、自分が他の姉妹とは違うことによる寂寥感に苛まれていたのだ。
小さな仔ほむ「ホミュゥー……」ショボン
未熟な仔ほむが、大きく育つことができていないのは、その食生活に問題があるせいでもあった。
社会性に富むほむ種であるため、小さな仔ほむだけが食にあぶれたりすることはないものの、群全体が餌に困窮しかけているのが現状である。
と、いうのも、いくつかの番が寄り集まってできたこの群ではあるが、実はそのほとんどが、近辺のほむほむ牧場から逃げ出した食用ほむなのだ。
野生のほむほむに比べて、筋力、体力、耐久力、瞬発力の全てに劣り、しかも狩りなどしたこともないような、本能の衰えた者ばかり。
迂闊に巣から出ようものなら、昆虫や、ほ食種を含む野生動物たちの格好の餌食となってしまうのである。
よって、主食は土に含まれるきゅうべえや、近くを流れる川によって育った雑草などに頼るしかなく、やがて干上がってしまうのは目に見えていた。
群が転機を迎えたのはそんな時だった。
りぼほむ、白まどの番と、その仔である仔白まどをはじめとする数匹が新たに群に加わったのだ。
人に飼われていたペットだったのか、野生のものだったのかは定かではないが――
翼を持ち、ほ食種を撃退できる弓矢を持ち、人間の食料を盗めるルートも知っていた一家は、群にとって救世主とも言える存在となった。
そしてそれは、あの小さな仔ほむにとっても――
仔白まど「ホミュラチャーン♪」トテトテ
小さな仔ほむ「ミャドカー!?」
どういう訳か、この仔白まどは小さな仔ほむによく懐き、まるで実の姉のように、何かと世話を焼いてくれた。
今も、その小さな両手には、どこかから持ってきた瑞々しいさくらんぼが乗っている。
気が急くのか、さくらんぼの重さに前のめりにバランスを崩しかけながら、しっかりと小さな仔ほむに手渡す仔白まど。
仔白まど「ミャド!」アゲル!
小さな仔ほむ「ホミィ……?」イイノ……?
仔白まど「ミャーリョ!」モチロン!
お礼を言って、遠慮がちに受け取った仔ほむ。
そのまま小さな口に持っていこうとして――何を思ったのか、仔白まどの眼前にさくらんぼを差し出す仔ほむ。
小さな仔ほむ「ホミュホミュー♪」ハンブンコ♪
仔白まど「ミャリョ!? ミャドォ♪」アリガトウ♪
球形のさくらんぼを両側からちょびちょび食べていき、時折唇同士が触れ合い、慌てて離れ、の繰り返し。
いつの間にか大きかったさくらんぼは、種を残して、2匹のお腹の中に収まっていた。完食である。
小さな仔ほむ「ホミィー///」オイシカッタネ/// スリスリ
仔白まど「……ミャド///」……ウン/// スリスリ
この分であれば、小さな仔ほむの栄養不足も解消されていくのだろう。
幸せそうな二匹を、姉妹たちの羨ましそうな瞳が見つめるのだった。