大事なもの

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作者:qU2CVG/wo

423 名前:大事なもの[sage saga] 投稿日:2012/03/26(月) 15:39:19.66 ID:qU2CVG/wo



杏子は正しかったんだ。あの時のアタシには理解出来なかったけどね。
杏子の言ってた事は、正しかったんだよ……

あの時、杏子の言う通りにしてたら、
恭介はいつまでも、アタシの隣にいたはずなんだもん……


── 惚れた男をモノにするなら、もっと冴えた手があるじゃん ──
── 今すぐ家に乗り込んで坊やの手足を潰してやりな ──
── アンタ無しでは何もできない身体にしてやるんだ ──


アタシってほんとバカ。気がつくのが遅いよね。
どうしてあの時、恭介の手足を潰さなかったんだろ……

「アンタもそう思うよね? ほむほむ」

「…ホムゥ」モソモソ…

しばらくこの子と暮らして、それがよく分かったんだ。
愛情さえあれば、手足なんか必要無いって事もね。

アタシなら絶対に、手足の無い恭介だって愛せるよ。
恭介のお世話なら何だってしてあげられる。
ご飯も、お風呂も、トイレのお世話も、アタシなら喜んでしてあげられる。
だって、この子でいっぱい練習したんだもん。

「ホ…ムゥ」モゾモゾ

「あっ、ほむほむ。背中が痒いの?」

「ホム」ウン

「ごめんね、気がつかなくて。掻いてあげるね」チョイチョイ

「ホムムゥ///」キモチイイ

この子は、自分で自分の背中を掻く事も出来ないんだよ。
この子の手足は生まれてすぐに、母親と一緒にハンバーグになっちゃったからね。

……そう。この子はアタシがいないと何も出来ない。
アタシがしっかり世話をしてあげないと、すぐに死んじゃう儚い命なんだ。

でもね、アタシは絶対に、この子を死なせたりはしないよ。

気まぐれで飼いはじめた、食用ほむほむの未熟児だったけど……
手足も無くて、ただ寝転がって、一日中「ホムホム」言って過ごしてる達磨さんだけど、
この子はすっごく可愛いんだもん。この子は私を必要としてくれてるんだもん。

この子は絶対に私に逆らわないんだ。私無しじゃ三日と生きられない身体だしね。
だからこの子は、絶対に自分からいなくならないんだ。

……つまりこの子は絶対に、私から逃げられないんだよ……

「ホムゥ?」

「あっ、ごめんね。考え事してたんだ……」ナデナデ

「ホムッ♪」ニコニコ

「後で一緒にお風呂に入ろうね。ほむほむ」

「ホムホムッ///」モソモソッ

……杏子は正しかったんだよ。大事な物は、絶対に手放しちゃダメなんだよ……

例え少し壊してでも、多少形を変えちゃってでも、
大事な物は、自分でしっかりと持ってなきゃダメなんだ。

アタシはバカだったから、恭介はもう仁美にとられちゃったけど……
もう二度と、同じ失敗はしたくないんだよ……

だから大事な物は……。大事な物はさ……

…………まどか…………マミさん…………杏子…………

「…………杏子」

──完──




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