見滝原のどこかにあるさやほーむ。その中で今日もほむほむの悲鳴が響いていた。 その2
最終更新:
homuhomu_tabetai
-
view
コッケコッコー!
さやさや「サヤ?」
目が覚めると、さやかはさやさやになっていた。
さやさや「サ、サヤヤッ!? サヤヤヤヤ!?」アタフタ
さやさやは混乱していた。
確かに昨日まで自分は人間だった。ほむほむを適当に食べて虐めた後、入浴して就寝したことまでハッキリ思い出せる。
が、目が覚めて自分の体を確認すると、さやさやだったのである。まるで胡蝶の夢のように。
訳が分からないさやさやの上に、ふと何かの影が指す。何が影になったのか見上げると、そこには。
りぼほむ「……」バサァッ
さやさや「サヤサヤ!?」
まず目に映るのは、黒い翼。両翼を広げているので30cmはありそうだ。
羽根の中心には小型の人型。翻るカラスの濡羽色の長髪。頭には真っ赤なリボンがひらめいている。
間違いなく、幻とまでとまで謳われている伝説のほむほむ、りぼほむだった。
理解が追いつかずにさやさやが呆然としている内に、黙ってりぼほむは弓を引いている――
りぼほむ「……」キリリリッ――
さやさや「サヤァ!?」ダダッ!
ビョウッ
ドズン!
さやさや「サ……サヤヤヤヤヤ――」サァァ
一瞬前までさやさやが居た位置には深々と矢が突き刺さっている。咄嗟に遮蔽物に隠れたが、少しでも逃げるのが遅かったら……とさやさやは青くなった。
りぼほむが放つ矢は人間でも死に至ることがあるという。さやさやになってしまった自分が食らえばひとたまりもないだろう。
バズン!
さやさや「サヤ!?」ビクッ
遮蔽物を突き破って、目の前にりぼほむの矢が突き出てきた。
駄目だ。ここに隠れていても壁ごと射抜かれる。しかし近くに隠れられそうなところは無い。戦おうにも相手は空を飛んでいて届かない。活路を見いだせそうなのは開いたままの窓くらいか。
ふと、視界の横になにか光るものが見えた。それはすごい勢いで自分へと向かって――
さやさや「サヤァ!?」ガバッ
シュドッ!
全速で伏せた自分の上を、再度りぼほむの矢が襲ってきた。自分が入ってきた隙間から矢が飛び込んできたのだ。しかし、そこにりぼほむの姿は見えない。
どうやらあのりぼほむは、矢の軌道を曲げて討つという曲芸じみたことまで出来るらしい。
このまま隠れていればなぶり殺しにされる――! さやさやは覚悟を決めた。
さやさや「サヤーッ!」ババッ!
一息に遮蔽物から飛び出す――事はせず、着ていた服を脱いで入ってきた隙間から放り投げた。
ズバム!
服が飛び出た瞬間、服は一瞬で穴だらけになった。さっきまでの攻撃はさやさやを誘いだすためのものだったらしい。そのまま飛び出していれば蜂の巣になっていただろう。
これで一瞬とはいえ、隙ができたはず。ほむほむの方を振り返る間もなく、さやさやは一目散に開いている窓から外へ飛び出した。
さやさや「サヤァーーッ!!」ピョーンッ
さやさや「サヤー……」フラフラ
あちこちを走り回ったが、りぼほむがいる様子はない。どうにかこうにか撒くことができたようである。
外に出てしまってはりぼほむ空を自在に飛ぶほむほむの思う壺……ということは実は無い。
りぼほむは都市圏に置いては超希少種であり、めったにお目にかかれない。そのレアリティに比例するように味、栄養価共に素晴らしく高い、らしい。見たのは今日が初めてなので噂でしか無いのだが。
よってりぼほむが迂闊にそこらを飛び回ろうものなら、すぐに人間に捕獲されてしまうはずである。あのまま部屋の中にいるよりは安全だったろう。
さやさや「……サヤサヤッ!」ガツン!
助かったことが自覚できると、この状況に対する怒りが沸き上がってくる。
なぜ自分がさやさやになってしまったのか、また何故りぼほむは自分を襲ってきたのか。
考えても原因はわからない。とにかくこうなった以上、なんとか人間に戻る手段を探さねばならない。その為には安全に過ごせる場所が必要だ。
が、自宅に戻るのは無理だ。あのりぼほむが居る可能性がある。何とか逃げ延びたものの、何度も狙われて無事生き延びることが出来るとは思えなかった。
ならば友達の家はどうだろう、とさやさやは思案する。真っ先に浮かんだのは、まどかの家だった。
しかし、彼女の家はほむほむの愛食家。さやさや等の動植物にほむほむを食われるのを防ぐため、まみあんさやホイホイが常設されていると聞いたことがある。今の自分が行けばそれの餌食だろう。
杏子の元へ向かうのも却下。彼女はホテルを転々としている住所不定少女なので、連絡手段がない今、探している間に他の人間に見つかってしまえばアウトだ。
更に言うと、彼女は好き嫌い無く何でも食べる。ほむほむだろうとさやさやだろうと、見つけたときにおなかがすいていればそのまま丸齧り。とてもじゃないが危険過ぎる。
ということで、さやさやはマミに賭けることにした。聖母の如きあのマミさんなら何とかしてくれるかもしれない、と。
さやさや「サヤッ!」グッ
目標が決まった以上行動あるのみ。誰にも見つからないよう祈りながら、さやさやはマミほーむに向かうのだった。
さやさや「サヤー……サヤー……」ゼーハーゼーハー
さやさやにとって、恐ろしく長い道のりだった。身体が縮んだので道が今まで通ったことの無い物に見え、また自分が動かねばならぬ距離も大幅に増えている。
太陽で熱された道路は自分を焼き焦がそうとするように熱く、途中で会った黒猫には食べられそうになった。
さやさや「……サヤ!」キッ
それでもどうにか、日が暮れる前にマミのマンションに辿りつくことができた。
人間では入れないような隙間をくぐり、階段をよじ登り、今立っているのはマミルーム前。
幸運なことに、マミの部屋の窓が開いている。さやさやは一も二もなくそこに飛びついた。
さやさや「サヤッサヤッサヤッ♪」ピョンピョン
これで一安心、とさやさやは跳ね回る。次はマミに会おう、と彼女を探していると、部屋の中に何かがいることに気づく。それは3匹のほむほむだった。
ほむほむ「ホムゥ!? ホ、ホムー! ホムムーーッ!!」ズサササッ!
ほむほむはさやさやの存在に気がつくと、怯えたように騒ぎ出す。
その怯える様子を見て、さやさやの中に暗い感情が湧き上がってきた。今日一日の理不尽な出来事によるストレス、りぼほむへの恨み、目が覚めてから一度も食事を摂っていないこと。
それらが合わさって、目の前のほむほむ達を無性に嬲りたくなっていた。
さやさや「サヤァァァ……」ジリジリ
ほむほむ「ホムーー!! ホムゥゥー!!」ガタガタ
部屋の角で怯える哀れなほむほむ達。あぁ、お腹が空いた。決めた、こいつらは全員ずたずたにして動けなくした上で生きたまま食い尽くしてやる……!
マミ「どうかしたの、あなた達?」ガチャッ
ほむほむの声に気づいたらしく、部屋にマミが入ってきた。
さやさや「サヤヤーッヤ!」ピョーン
ようやく会えた嬉しさで、食欲を忘れてマミに飛びつくさやさや。
マミ「――ふんっ!!」
べぢぃん!
さやさや「ザヤァッ!?」ゴブッ
それを両手で叩き潰すマミ。
マミ「やだもう、どこから入り込んだのかしら……あ、窓が開きっぱなし!」ピシャン
さやさやをつかんだまま窓を閉めるマミ。これで出口はなくなった。
ほむほむ「ホムー! ホムゥゥゥーー!」ギュウッ
マミ「大丈夫だった!? ――よしよし、怖かったね、食べられるかと思ったわね」ナデナデ
どうやらこのほむほむ達は、マミの飼いほむだったらしい。そこへ忍び込んだほむほむの天敵、さやさや。歓迎されるはずが無かったということである。
なんとか逃げ出そうともがくのだが、身体を叩き潰された影響は大きく、すぐには再生してくれない。
おまけにマミはがっしりとさやさやの身体を掴んでいるため逃げられない。
さやさや「サヤ……サヤァ……」
マミ「私の家族を食べようだなんて、どうしてあげようかしら……そうだ!」
マミがさやさやの身体を片手で固定し、腕をしっかりと摘んだ。マミの自分を見る目に、さやさやの背筋が寒くなる。その目は、いつか見たマミが蚊を潰すときの目と同じで――
マミ「よいしょっ」
ぶづびじゅぃっ
さやさや「ザ!? ――ヤアアアアアアアッ!?」
マミはさやさやの手足を軽く引きちぎると、ぽいっとゴミ箱に捨ててしまった。
いくらさやさやの治癒能力が高いと言っても、ちぎられた部位を再生するようなことはできない。
ちぎれた部位をくっつけておけばある程度は動くなるようになるのだが、早々にゴミ箱に手足を放りこまれてしまってはそれもできない。
さやさやの悲鳴などどこ吹く風で、マミはさやさやを皿に乗せ、ほむほむ達の前にことりと置く。
マミ「さ、おあがり。ほむほむ」
ほむほむ「ホム!?」
さやさや「サヤァ!?」モゾモゾ
なんと、マミはさやさやを逆にほむほむに食わせようとしているらしい。
冗談ではない、と逃げようとするさやさやだが、腕も足もない今はもぞもぞと芋虫のように転がるしか出来ない。
マミ「この子はあなた達の仲間をさんざん食い散らかす挙句、あなた達まで食べようとした憎き仇よ。その恨み、ここで晴らしてあげなさい」
さやさや「サヤァァァッ! サヤーーッ!!」モゾモゾッ!
ほむほむ「……」ジーッ
さやさや「テンコーセーッ! テンコーセェェェッ!!」ガアァ
ほむほむ「……」ジリジリ
さやさやが反撃できない事を理解して、警戒しながらもじりじりと距離を詰めていくほむほむ。必死でさやさやがほむほむ怒鳴りつけるも、効果ががあるようにはみられない。
そしてついに。
がづっ
さやさや「ヒァァァァ!!」
ほむほむ「……ホェェ」ペッペッ
マミ「さやさやは苦目だからあんまりおいしくないかしら? でも我慢して食べるのよ! さやさやの苦さは身体にもいいのよ! ほ食者をを食べて強くなるのよ!」
ほむほむ「ホムゥ……」イヤイヤ
マミ「後でケーキあげるから! 生クリームたっぷりの甘~いやつよ!」
ほむほむ「ホムッ!!」ピコン
マミ「さやさや単品で食べにくいのなら、香りのいいおくた節を振って……」ハラハラ
ほむほむ「ホムッ!?」キラキラキラ
マミ「さぁ、もう一度!」
さやさや「ザ、サヤァァァッ! テンコーセッイィィッ!?」モゾモゾッ!
ほむほむ「ホムゥッ!」ハグッ
さやさや「ヤァァァァァァァァァアッ!?!?」
まぐまぐまぐまぐ
さやさや「ザャヤアアアアアアアア!! サヤッサヤッサヤァァァァ!!」
ぐもぐもぐもぐも
さやさや「サヤ……!? ヤァァーーッ……」
がりがりがりがりがりがりがりがり
さやさや「――イアァ」カクン
ほむほむ「ホムゥ」ケップ
マミ「よしよし、よく食べたわね。お口直しのケーキの登場よ」ジャンッ
ほむほむ「ホムホムー♪」トテテテ
マミ「うふふ、たーんと召し上がれ♪」
散々さやさやの身体を齧って腹が膨れたのか、ようやくほむほむがさやさやから離れた。
片方だけ残った目で自分の体を見てみると、あっちこちが漫画で見たチーズのように穴が開いている。ところどころ見えている白いのは骨だろうか。
これでも死なないのはさやさやの高い再生能力ゆえだろうが、痛みは感じるままなのでショックの方で死んでしまうかもしれない、いやむしろ死にたい。このまま痛みが続くのなら。
そう思考するさやさやの身体が浮翌遊感に包まれる。マミに身体を持ち上げられているようだ。
さやさや「サ……サヤ……サ」
マミ「もう、さやさやって本当しぶといのよ、ねっ」
ぱぎん
ぽいっ
ぼすっ
ぱたん
さやさや「ア゙――」
マミ「明日は燃えるゴミの日だからこれで良し。みんなー、ケーキの味はどうかしらー――」
さやさや「――」
さやさやは首を捻られた後、ゴミ箱に放りこまれた。マミの声が遠くなっていく。ほむほむの元へ向かっているらしい。
最早自分の体がどうなっているのかわからない。身体が動かないどころか、痛みも感じなくなってきた。
視界も触覚も聴覚も意識すらも、何もかもが黒く塗りつぶされて――
「個体名美樹さやか、という人間をさやさやと呼ばれている種族に変える。それが君の願いだね?」
「ホムッ」コクン
「願いは君が決めることだけど、それでいいのかい? まどまどと結ばれたいとか、優しい人間に飼われたいとか、君自身が繁栄する願いでも――」
「ホムホムゥ」フルフル
「変える気は無し、か。ならば契約は成立だ。君の想いはエントロピーを凌駕した」パァァ
「ホムッ!」ビクン!
「受け取るといい、君の魂……ソウルリボンだ。一度結んだら決して解いてはいけないよ」ヒラリン
「ホムッホムッ」ギュッギュッ
「もう行くのかい? え、美樹さやかの家にいるほむほむ達を助ける? そうかい、なら気をつけて行くことだ。りぼほむになったと言っても、人間は君たちにとって恐ろしい存在であることは変り無いんだからね」
「ホム!!」バサァッ バヒュン
「……美樹さやかがさやさやになっても死ぬとは限らないし、美樹さやかひとり居なくなったところでほむほむ全体の死亡率は全く下がらないっていうのに。それでもこういう契約をする辺りが感情を持つ個体ということなのかな。訳がわからないけど」
終!