とある真冬のあんさや家族 その1
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homuhomu_tabetai
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ヒュオォォォォォ……
例年通り冷え込みの厳しい冬の森。雪の中をつがいのさやさやとあんあんが狩りに出かけていました。しかし一向に獲物は見つかりません。
さやさや「サヤァ……サヤ……」ゼーゼー
あんあん「アンッ! アンアンアンッ」キョロキョロ
最後に食事を摂ったのは何時だったでしょう。秋口に貯めた備蓄は底を尽き、ニ匹とも三日は何も口にしていません。
けれど、ニ匹にとっては自身の飢えよりも大きな問題があります。それは巣に残している仔さやと仔あんのことです。
仔あん「アニュー……」ブルブル
仔さや「チャヤヤー……」カタカタ
一昨日、最後の食料を食料を仔あん達に与えてしまいました。今日獲物を見つけることが出来ねば、一家はみんな飢え死にしてしまうでしょう。
けれど朝から探しているのに、今日もほむほむどころか、ねずみ一匹見つけることができませんでした。太陽の位置は雪が降っているせいで確認できませんが、辺りがだんだんと暗くなってきたのを感じます。
完全な陽が落ちるまでに食べるものを見つけなければ、今日も何も食べられないことが決まりです。
さやさや「サ、サッヤヤァ――」ズシャッ
あんあん「サヤカッ!? アンッアンッ!」ユサユサ
さやさや「サーヤー……」グタァ
さやさやはもう歩く力も出ないのか、雪の上に膝を付いてしまいました。あんあんが励ましているようですが、さやさやが再び立ち上がる様子はありません。
直情的なさやさやは、落ち込んでしまうととことん落ちてしまうのです。しかし体力と気力が限界なのはあんあんも同じ。このままでは巣に帰ることなくニ匹揃って凍死か餓死の道を辿るでしょう。
あんあん「……アン」ドシャッ
さやさや「キョーコ……?」
あんあん「サヤカ。アンアアン」トントン
さやさや「サヤッ!?」ガバッ
あんあんがさやさやの前で寝転がり、自分の胸を指差しています。これはあんあんの最後のサイン。『自分を殺して食べろ』と言っているのです。
さやさやとあんあんを比べると、さやさやのほうが圧倒的に生命力の面では優れています。
まだ親の世話が必要な仔あん達がいて餌が取れないとき、生命力に劣る自分をつがいと仔あん達に食べさせるのがあんあんの習性なのです。
さやさや「サヤヤッ! サヤッサササヤ!」ブンブン
あんあん「アンコォ」フルフル
さやさやにとってあんあんは自分の大事なつがい。餌がないからと言って「はいそうですか」と殺せるはずもありません。
今度はさやさやがあんあんに説得を試みているようですが、あんあんは首を横に振るだけです。
さやさや「サヤアアア! サヤヤ――」
あんあん「アンガァ!!」
さやさや「!」ビクッ
あんあん「アンアンッ!! アンアンコアーン!?」
さやさや「サ、サッ、サヤァ……」ポロポロ
あんあんの一喝でさやさやも覚悟を決めたようです。涙を止め処なく零しながらも剣をとります。
さやさやも分かっているのです。餌が摂れなかった以上、誰かが犠牲になるか、全員で死ぬか選ばねばならないと。
逆手で振り上げられたさやさやの剣の切っ先はかちかちと震えていました。激しい震えは気温のせいではないでしょう。
さやさや「キョーコ……キョーコ、キョーコオォ……」ガチガチガチ
あんあん「――アンコッ」ニカッ
さやさや「――サヤアァァァァァッ!!」ブンッ
ドスッ
あんあん「アガッ」
さやさや「ヤアアアアアアアアッ!!」グリィッ
ズボッ
ブシュウゥゥゥゥッ
あんあん「ア――」カクン
さやさや「アアアアアアアアッ!!」ガバッ
ジュルルルルッ
ゴクッゴクッゴクッ――
急所を一突きして捻られたあんあんは一瞬で絶命しました。剣があんあんから引き抜かれると、鉄臭い噴水が噴出します。
さやさやはすぐに傷口に顔を当てて、血の噴水を飲み始めました。血も貴重な栄養で、あんあんの命そのものです。一滴も無駄にするわけにはいきません。
それに何より――久方ぶりの『栄養』です。長らく求めていたものがようやく手に入った事で、心が拒んでいても体中の細胞が歓喜しています。
普段なら鉄臭くて飲めたもので無い筈のあんあんの血液が、今のさやさやにはありったけの甘味を凝縮したような甘露に感じられてしまいました。
さやさや「ングッ、ングッ、ンギュッ、……サハァッ!!」プハッ
あんあん「――」
さやさや「キョーコ……キョーコオオオォォォッ!!」ギュウゥゥゥッ
たっぷり5分はあんあんの血を飲んでいたでしょうか、ようやく血が止まったらしくさやさやが顔を上げます。
その目に映るのは血の気をすっかり失い、動かなくなったあんあん。さやさやはあんあんの死体にすがりつき、慟哭しました。
しかし、いつまでも悲しんでいる暇はありません。あんあんの死を無駄にしないためには、この『肉』を巣に持ち帰らねばならないのです。
さやさや「――サヤ」ガシッ
ズルッ……ズルッ……
さやさや「サヤッ、サヤッ、サヤッ……」ハァッハァッハァッ
さやさやはモノとなったあんあんを背負って歩き始めます。かつて抱き合って温もりを感じ合った躰は冷たくなっており、血を失って生前より軽くなった筈なのに、むしろずっしりと重たく感じました。
来るときは二匹だった雪原を、今は一匹で進みます。ゆっくりゆっくり、一歩一歩。長い長い道のりを。
さやさや「サヤッ……サッ、サヤ……サヤァ……」ヒックヒック
泣きながら歩いているうちに、さやさやは自分の巣の近くまで辿りつきました。
すぐにでも仔どもたちに会いたいさやさやですが、その前にやらねばならないことがあります。それはあんあんの解体です。
さやさや「サッ……サッ……サヤッ……」ギラリ
自分の親のあんあんをそのまま餌として出されれば、仔あんも仔さやもひどいショックを受けるでしょう。メンタルの弱い仔さやなどショック死しかねません。
この肉があんあんだと分からないよう、原型を留めぬほどバラバラにする。それがさやさやの今日の最後の仕事でした。
さやさや「――サヤアアァアヤァァァァッ!!」ブオゥッ
ゾブリ
ブンッ
ボチュン
ズルズルズルブツッ
ビュシュッベチャベチャッ
さやさや「……ザヤァッ」カラン
剣を振り上げ、振り下ろす。押し切り、引きちぎる。返り血を拭い、また剣を振り下ろす。そんな作業を何度も何度も続けます。
さやさやが解体を終えた頃には、もうとっぷりと日は暮れていました。真っ白い雪はあんあんの血でそこら中が真紅に染まっています。
あんあんだったものは、幾つかのさやさやが抱えられる程度の肉塊に切り分けられており、もはやあんあんの面影は全く有りません。傷一つ無い頭部を覗いては。
さやさや「……」ゴシゴシ
あんあんの死を受け入れたのか、それとも涙が枯れてしまったのか、さやさやの目にはもう涙は有りません。
肉と食べられる内臓をマントで包み、残りの内臓とあんあんの首は土の中に埋めました。首を持って帰ればすぐにあんあんが死んだことがバレてしまうからです。
あんあんの肉を抱えると、さやさやはようやく巣の中へと帰って行きました。