とある真冬のあんさや家族 その2
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さやさや「サヤーヤヤ」ヒョコ
仔あん「アニュッ!!」ガバッ
仔さや「シャヤァー!」テテテッ
待ちかねた親の帰還に仔あんと仔さやが駆け寄ります。さやさやが抱えるたっぷりのお肉を目にして、仔ども達は我先にとかぶり付きました。
自分の親の成れの果てとも知らずに。
ガブッ
ブヅギッ
仔さや「チャヤヤーッ♪ チャヤァ♪」モグモグ
仔あん「アニュアニュ! ……アニュ? キューカイ?」ングング
さやさや「サヤァ」フルフル
色々なものをすり減らしたさやさやには、最早食べる元気もありませんでした。食べないのかと気遣う仔あんを置いて、一人寝床に入ります。
仔さや「チャヤヤチャヤッ? チャヤ? チャヤ?」
仔あん「アニュ? アニュニュアニュ?」
さやさや「サヤーサヤッサヤ」ゴロン
あんあんはどうしたのか、という問には『遠くに食べ物を探しに一旦別れた。自分は獲物を捕れたので先に帰ってきた』と説明しました。
普段の仔ども達ならおかしいと思ったかもしれません。けれど、焦燥しきったさやさやの様子を見て聞くことを遠慮したようです。
空腹の所にようやくありつけた食糧に、今はそれどころではないと思ったのかもしれません。
子供達に背を向けて、耳を塞ぎながらさやさやは目を閉じました。愛していたあんあんが子供達に齧り付かれている光景が目に入らぬように、咀嚼されている音が耳に入らぬように。
アニュコッ♪
グチャグチャッブチャグチャッ
チャヤヤァ♪
ニチャクチャクチャムシャッ……
仔あん「アニュッ! アニュアニュコッ!」ユサユサッ
仔さや「チャーヤチャヤーッ!」ペシベシ
さやさや「……サヤァ?」モゾッ
仔さや「チャヤチャヤッチャチャヤ!!」
仔あん「アニュー! アニュゥゥゥ!」
さやさや「サヤヤ……」ムニャムニャ
団子のように丸まって眠っていたさやさやは、仔さや達に揺り動かされて目を覚ましました。時刻は夜が明けてすぐ、ぼんやりと辺りが薄明るくなってきたくらいでしょうか。
仔さや達は、一夜開けても帰ってこないあんあんの事が心配でさやさやを起こしたようです。
しかし、その心配はさやさやにとっては的外れもいいところです。だって、あんあんはもう巣の中に戻ってきていて、大半は仔さや達のお腹の中、一部は巣の中に転がっているのですから。
さやさや「……サヤッ。サヤサヤヤッ」ムクリ
仔あん「アニュゥ?」
さやさや「サーヤサーヤ。サヤヤサヤ」ザッザッザッ
仔さや「チャヤァ……」
といっても、さやさやは真実を仔さや達に伝えるつもりはありませんでした。
仔ども達にあんあんを探しに出ると伝えて巣を出ていきます。行き先は、昨日あんあんの残りを埋めた場所です。
さやさや「……」ザッザッザッピタッ
あんあんを埋めた場所は巣からそう遠くなく、雪と地面を掘り起こした跡があるのですぐ見つかりました。早速さやさやは土を掘り起こしていきます。
ザクッ……ザクッ……ザクッ……
ボコッ
さやさや「サヤ……」パッパッ
程なくしてあんあんの首が出てきました。冷たい土の中にあったあんあんの首は未だ腐敗しておらず、土と血で汚れている以外は生前のままです。閉じられた眼が開かれることは二度とありませんが。
さやさやは、あんあんを探している最中にこのあんあんの首を見つけたと説明するつもりなのです。いくらあんあんの死を隠しても、帰ってこない以上あんあんは死んだということは誤魔化せません。
ならばせめてその死を仔ども達が納得できるよう、食べ物を探す最中に襲われ息絶えたのだろうと、この首を見せて説明しようと考えているのでした。
さやさや「ッ……」グスッ
涙がこぼれそうに鳴るさやさやですが、唇を噛んでこらえます。あんあんを殺した自分に、泣いている時間も資格も自分にはありはしないのですから。
早く仔どもたちの元へ向かうべく、元来た道へ向き直ります。
――仔さやと仔あんと目が合いました。
さやさや「サ!?」
仔あん「アッ……アニュッ……」ワナワナ
仔さや「チャ、ヤッ――」ガタガタ
どうやら仔さや達はさやさやの様子が違う事を察してついてきてしまったようです。
さやさやが昨夜持ってきた、丁度大人のあんあん一匹分程の肉。土の中に埋められたあんあんの首を掘り返すさやさや。
これらの状況から、おおよその事を察するだけの知能を、仔さや達は既に有していました。
さやさや「サッサヤヤッッ!? サヤァ――」ス……
仔さや「チャヤヤァァァ!!」ダッ!
仔あん「チャヤカッ!? アッ、アニューーーッ!!」バタタッ!
さやさや「サヤサヤーーーッ!?」ザダダッ!
さやさやが仔さや達に近づこうとした途端、ニ匹は一目散に逃げ出しました。必死に逃げる仔ども達を、さやさやもまた必死に追いかけます。
この雪の中、自分たちを狩ろうとする生物は少ないですが、そもそもこの気温で下手にうろつこうものなら凍死します。幼い仔さや達ならなおさらです。
さやさや「サヤァッ!」ガシッ!
仔あん「アニュコッ!? アニュアニュゥゥゥ!!」ジタバタッ!!
なんとか仔あんに追いついて捕まえることができたさやさやですが、仔さやの方は見失ってしまいました。
さやさやとしてはすぐにでもさやさやを追いかけたいのですが、恐慌状態に陥っている仔あんを残していくことは出来ません。
仔あん「アニューーッ! アニュゥーッ!」ビシッバシッ
さやさや「サッサヤッ! サヤヤァ……」
仔あん「アニュアニュァアアアアアッ!! アニュコーッ! アニュアニュコォォォッ!!」ビェェェェ
さやさや「……」ギリッ
自分の親を殺したさやさやに怯えきった仔あんは、さやさやの説得にまるで耳を貸さず、拘束から逃れようと目茶苦茶に暴れています。
いつものさやさやなら、泣き叫ぶ仔あんをピシッと躾けて大人しくさせることが出来たでしょう。
しかし、今のさやさやは、餌が摂れないことによる飢餓感、あんあんを殺した罪悪感、さやさやを探さねばならない焦り、といった負の感情が溜まっていました。
さやさや「サヤッサササヤヤヤ!!」ベキィ!!
仔あん「アニ゙ュェッ!?」ベシャッ
さやさや「サヤサヤァ! ヤサヤヤア!? サーヤヤヤァア!!」ゴスン! ドゲッ! ボグム!
仔あん「アニュバッ!? ア、アッニュベッ!? ァビャアアアアアアン……!!」
さやさや「サヤアアアアアアアアッ!!」グシャッ!!
仔あん「アグェ――」ブパッ
淀んだ感情が爆発したさやさやが、全く大人しくなる様子のない仔あんに取った行動は、拳での殴打でした。
当然、殴られて痛い仔あんは泣き叫びます。その声に逆上してさやさやは仔あんを殴りつける。そんな繰り返しが生じています。
不毛なループは、仔あんが泣き声をあげられなくなるまで続きました。時間にして三分ほど、仔あんはさやさやに殴られ続けていたことになります。
仔どもが体格面で圧倒的に勝る親に殴られ続けた結果、どうなるかというと――
さやさや「……サ、サヤッ!?」ハッ
仔あん「ア゙……ニュ、ゴ……」ピクッピクッ
さやさやあ「サヤサヤァ! サヤァァァァッ!!」ポロポロポロ
ようやく我に帰ったさやさやが見たのは、顔面を血まみれにしている自分の娘と、その娘を一方的に嬲って血に塗れた己の両手でした。
痙攣している所を見ると、仔あんは生きてはいますが深手です。自分のしたことの愚かさに泣きながらも、さやさやは仔あんを抱え、一旦自分の巣に戻るのでした。
さやさや「サヤ……サヤッ」ペロペロ
仔あん「アニュゥゥ――」
野生動物であるさやさや達は無論傷薬など持っていませんので、怪我をしても負傷者自身の治癒力に任せるしかありません。さやさやにできるのは、仔あんの傷を舐めてやることくらいです。
できることなら目を覚ますまで、いえ傷が治るまでずっと舐めていたいところですが、さやさやには他にもやらねばならないことがあります。逃げてしまった仔さやを探すことです。
さやさや「サヤサヤァ。サヤヤン」ビリビリィ キュッ
さやさやは自分の残りのマントを引き裂き、仔あんの両腕両足を縛り付けました。
怪我をしてる仔あんに酷な仕打ちですが、こうでもしないとさやさやが仔さやを探している間に、目を覚ました仔あんが再び逃亡するかもしれません。それでは元の木阿弥です。
さやさや「アニュコ……サヤヤァ」クルッ
仔あん「――」
未だ眠っている仔あんに背を向け、さやさやは巣の外へ飛び出しました。仔さやに逃げられてそれなりの時間が経っています。一刻も早く見つけねばなりません。
仔さやが走っていった方向に向かってさやさやは走ります。幸いなことに雪の上に仔さやのものと思しき足跡が残っています。これなら探すことも可能なはずです。
しかし、仔さやを見つけても、何とかあんあんの事を受け入れてもらわなければ根本的内解決にはなりません。どうやって説明したものかと、頭を悩ませながらさやさやは走ります。
チャヤアァァァァァァァァッ!?
さやさや「サヤァッ!? チャヤカーーッ!!」ダッ!
足跡を追っていたさやさやの耳に絹を裂くような悲鳴が届きました。聞き間違うはずもありません、自分が産んだ仔さやの声です。
声の様子からしてただごとではありません。自分たちと同じように餌を求める動物に襲われたのでしょうか。
不安で矢も盾もたまらず、自分の足の疲労を無視してさやさやは最高速度で悲鳴の方向へ駆け出しました。