2-3 最後の悪 - 崩壊学園wiki

すべてが片付き、今回の事件は完全に解決した。しかし、しばらくして、学校の屋上でペルセポネーがある人を静かに待っていた……。

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バビロン学園、屋上に続く階段、開け放たれたドア。
晴れ渡る空から、すべての罪を洗い流すかのように太陽の光が降り注いでいる。
ペルセポネーは階段を1段ずつ上がっていった。上に行くほど、日差しも強くなる。
そして、彼女が完全に屋上に上がったとき、遮るもののない朝日が彼女の体をすっぽりと包み込んだ。
明るい日差しの中、ペルセポネーは目を細めていると、ようやく目が太陽に慣れてきた。そして振り向いた。
思ったとおり、その人物はそこにいた。
——彼女は影の中に立ち、ほほ笑みを浮かべながらこちらを見ている。

ペルセポネー
……エーリヴァーガル、やっぱり来たわね。

その少女はかすかに首をかしげ、あの日、ショッピングモールでは見せなかった美しい笑みを浮かべた。

エーリヴァーガル
ペルセポネーからのデートのお誘いなら、来ないわけにはいかないでしょう？
だって……あんたはあたしの恩人なんだからね。

「恩人」という言葉はとても重く、ペルセポネーの心を一気に揺さぶり、何も言えなくなってしまった。
彼女は首を横に振った。

ペルセポネー
……私はあなたの恩人ではないわ。

エーリヴァーガル
謙遜することないよ。
だって、ペルセポネーがいなかったら、あたしはまだいじめられ、不良と言われ、皆から非難され、バビロン学園のようなお嬢様学校で孤独に過ごす哀れな生徒のままだったでしょうね。
もしかしたら、今頃、万引の罪で退学になっていたかもしれない。

エーリヴァーガルは、あの嫌な思い出をまた思い出したかのように、目に悲しみの色をにじませた。

ペルセポネー
……そんなことないわ。

しばらく沈黙した後、ペルセポネーは再び否定した。
エーリヴァーガルは思わず笑い出した。

エーリヴァーガル
アハハ。これは一体どういうこと？今日、「銀の謎解き人」さんがあたしを屋上に呼んだのは、まさかあたしを否定し続けるためなの……？
あぁ、悲しいなあ……何か恋愛漫画みたいな展開になるのかと思ってたのに……

ペルセポネー
……
エーリヴァーガル、万引事件が終わった後、アイエルガーとブリカは退学になり、みんなもあなたが無実の罪を着せられていたと知った。そして、学校内でのあなたの人気は急上昇したわ。
それと同時に、あなたもこれまでのような人との付き合い方とは異なり、誰であろうと、来る者は拒まないスタンスを見せ、明らかに相いれないような人とも仲良くしている。
あなたはあっという間に学園のスターとなり、この学校で無視できない存在になった——先生も生徒も、誰もがあなたに一目置いているわ。

エーリヴァーガル
もう、二番目に好きなペルセポネーにそうやって褒めてもらえるなんて、少し恥ずかしいよ。一番好きなシィルにもそうやって褒めてもらったら、舞い上がっちゃうでしょうけど。

エーリヴァーガルは曖昧な口調で話し、目にはうっすらとした笑いを浮かべ、その本心は読み取れなかった。

ペルセポネー
別にあなたを褒めているわけではないの……ただ、どれが本当のあなたなのか聞きたいだけなのよ。

エーリヴァーガル
へぇ、ペルセポネーはあたしの変化が大きすぎて、驚いたみたいだね？
だけど、それも無理ないと思うよ……自分でこんなこと言うのも変だけど、あたしは今までずっと「さなぎ」みたいだった。でも、ついに殻を破って蝶になれた気がするんだ。

ペルセポネー
……蝶か……。
私にはむしろ……毒蛾のように思えるわ。
……最初からね。

エーリヴァーガル
えっ？

二人の間に急に沈黙が訪れた。
陽の光が徐々にペルセポネーの頭上から後ろにずれていく。しかし、エーリヴァーガルは、より深い影に包まれていった。

ペルセポネー
エーリヴァーガル……万引事件の後、アイエルガーとブリカから報復はあった？

エーリヴァーガル
それはないね……きっと悔い改めたんでしょう。
彼女たちも懲りたんだと思うよ。今後の人生では、過ちを認めて真人間になって、反省する日々を続けていくでしょうね。

ペルセポネー
そうなの。

エーリヴァーガル
ペルセポネー、まだ何かあるの？
今日は約束がたくさんあるんだ。この屋上でゆっくりしているわけにはいかないよ。

ペルセポネー
ええ、もうひとつあるわ。
——それはね、エーリヴァーガル……あなた、どうして気にならないの？

エーリヴァーガル
……何を気にするの？

ペルセポネー
私はアイエルガーとブリカのことだけを話題にして、あのダイヤモンズという店員のことには触れていないの。それが気にならないのはどうして？

エーリヴァーガル
……

ペルセポネー
まさか、あなたも彼が死んだことを知っているの？

エーリヴァーガル
……

ペルセポネー
1カ月前、警察から送検されたアイエルガーとブリカは、家柄の良さに加えて、未成年でもあることから起訴を免れた。ただし、ダイヤモンズはそうはいかず、拘置所に移され、裁判所の判決を待つことになった。
ある夜、刑務所にいた彼は、看守の不注意でたった一人の相部屋受刑者に絞殺され、数分経ってから彼の死体が警察に発見された。
拘置所の監視カメラ映像によれば、その人物は、素手で直接ダイヤモンズの首を絞めたため、ダイヤモンズは声を出すことができないまま死んだ。これも看守がすぐに発見できなかった原因よ。
そして、警察が動機を取り調べても、ダイヤモンズの同房者は、「別にあいつが気に食わなかっただけだ」と平然と答えるだけだった。
操作の結果、その同房者はまだ15歳だけど、身長は183センチ、体重は90キロもある。彼は傷害の罪で拘置所に収監され、ダイヤモンズと同じ房に十日余り入っていた。十数人いた同房者が2人だけになるタイミングを待ってから犯行に及んだ。
彼が以前通っていたのは、進学率が悪く、生徒の質も低いことで知られる四流学校だった。
彼がどうして傷害の罪で捕まって拘置所に入ったのかというと……。
別の捜査資料によると、この人は以前、街でのけんかに加わり、数人の重傷者と十数人の軽傷者を出したそうよ。
そして、そのけんかの中で、2人の女の子がうっかり巻き込まれてしまった。それがアイエルガーとブリカよ。
けんかの現場から救出されたものの、アイエルガーは頭部を強く打ち、植物状態になってしまった。一方、ブリカは重度の精神疾患を患い、ちょっとでも光を見ると狂ったような叫び声をあげるようになり、この先ずっと暗い部屋の中に閉じこもるしかない。

ペルセポネーは淡々と話し、エーリヴァーガルは黙って聞いていた。彼女たちは表情をまったく変えなかった。

エーリヴァーガル
……

ペルセポネー
実は、私は最初から、あの万引事件に対して、もっと深い疑念を抱いていたの。
それは……私が事件に介入し、調べることを、あんたがあんなに嫌がったのはなぜかという点よ。
他の人——アイエルガー、ブリカ、ダイヤモンズなら、私をとめる理由があるわ。でも、エーリヴァーガル、あなたが私を止める理由だけははっきりしなかった。
だけどその疑問は、あなたのかばんを見てほとんど解消されたわ。
なぜなら、あのペン——万年筆を見たから。
あれは、実は万年筆ではないでしょう？いくら本物そっくりに見せかけても、私にはあれが何か完全に分かったわ——あれは録音機能付きの護身用のペンね。ナイフが飛び出る隠しボタンまで付いている。
あの万年筆を見た時、私は目的を変えたの——アイエルガーたちが仕組んだ万引事件の真相を解き明かすことだけでなく、それ以上にあなた……エーリヴァーガルが一体どんなキャラクターを演じているのかを探ろうってね。
そこで、電話で家の人にお願いして調べてもらい、あなたの過去も調べたわ。そしたら面白いことが分かった。
あなたは17年前に生まれ、生まれた時から身内は母親だけだった。
8歳の時、小学校に通い始めたあなたは、最初からいじめられていた。しかしほどなくして、あなたをいじめていたクラスメートが川に落ちて亡くなった。
あなたはその子の葬儀で涙を交えながら作文を読みあげ、先生やその子の親をとても感動させる。その感動はクラスメートにも広がっていった。それ以来、あなたはクラスで一番の人気者となった。
10歳の時、学校でクラス替えがあった。新しいクラス担任はとても厳しい上に、あなたの家庭のことを快く思っていなかった。しかし、その先生はすぐに交通事故に遭って両足を失い、とても落ち込み退職しようとした。
あなたはクラスの代表として先生を見舞い、学校に残るようお願いした。あなたに感動して元気を取り戻した先生は、再びクラスに戻り、模範的教師となった。そしてそれ以来、あなたの最も頼りになる後ろ盾となった。
12歳の時、あなたは家庭の事情で、不良が集まる中学校に通うしかなかった。最初はいじめられていたけど、ほどなくして、表面的にはあなたと無関係な死亡事故が何度も起こり、あなたは学校の中心的人物となり、多くの人に味方される存在になった。
13歳の時……。
15歳の時……。
……それが現在まで続いている。
……だから、エーリヴァーガル。
あなたがずっと準備をしていたのは、万引事件が起きた、あの日のためでしょう？
あの日、ダイヤモンズがなんて言ったか覚えている？「さらにはこの女の子に暴力を振るうように迫った！」と言ったのよ。
実際のところ……それこそがあなたの目的でしょう？
あなたはボイスレコーダーと飛び出しナイフを事前に準備しておき、ダイヤモンズが来たとき、「正当防衛」を盾に、ためらうことなくナイフを彼の首に突き刺すことができた。
あらかじめ用意して置いた録音を出せば、あなたはいとも簡単に罪を免れる。
反対に、アイエルガーとブリカは、共犯の罪を負い、今よりもずっと厳しい罰を受けることになったでしょうね。
でも……そうしていれば、彼女たちもこんな悲惨な目に遭わずに済んだかもしれないわね。
私が首を突っ込んでいなければ……ダイヤモンズと同房になった人も、手を血で染めずに済んだでしょうし、街でのけんかも起こらなかったかもしれない。

後悔がにじむペルセポネーの声が二人の間に漂う。エーリヴァーガルは笑ったままだった。
しかし、やがて彼女は口を開いた。

エーリヴァーガル
さすがはあたしが二番目に好きなペルセポネー……。
……まさか、そこまで情報を集められるとはね。
でも、結局のところ、それはただの妄想でしょ？

ペルセポネー
……そう、ただの妄想よ。
証拠はないわ。

エーリヴァーガル
そ。じゃあ、あたしの妄想も聞いてくれる？
——ある女の子がいた。彼女の母親は怪しげな仕事をしていて、幼い頃からクローゼットの暗闇の中で縮こまりながら身を隠し、声を一切出してはいけなかった。
一見、窮屈そうだけど、彼女にとっては世界そのものであるかのような暗闇は、想像力を無限に広げてくれた。彼女は外の荒い息づかいを聞くのが嫌だったから、自分の心臓の鼓動を何度も聞いていた。
そんな毎日を送りながら、彼女は徐々に他人と違う人格に育っていった。そして彼女が勉強し、学校に通うようになると、そのような他人と異なる人格が力を発揮し、同年代の人たち——さらには他の人たちよりも、はるかに多くのことができるようになった。
ある日、彼女は家庭の事情で、それまでは手も届かなかった学校に転校し、新しい生活を始めた——最初は居心地がよかったが、すぐにクラスの人間関係に悩まされるようになる。
クラスの数人が彼女をとても嫌っていて、いつもちょっかいを出してくる。それ自体は大したことではなく、ゆっくりと付き合っていけば、互いに干渉しない関係になれたかもしれない。しかし、彼女にはもっと多くの対処方法があった。
まず、彼女はその人たちの前で、とても弱々しく、いじめられやすいキャラクターを装った——その人たちはあっさりと罠にかかった。しかし、彼女たちは、温室育ちのせいで、最初に思いついたいじめの方法はどれも非常に拙いものだった。
その少女は心理的暗示と身体的行動を通じ、その生徒たちに、自分のことを「決して誰かに助けを求めず、黙って我慢するだけ。それでいて、とても強情で、いじめられても絶対にひざを折らない人物」と思わせた。
更に彼女は、自分の家族を利用して脅す方法を、その生徒たちが思いつくように仕向けた。少女は、怒りながらも口に出す勇気がないかのように装っていたが、内心ではほくそ笑み、果実が熟す最後のときを待っていた。
彼女に対するいじめは、ますますエスカレートしていった——知っての通り、放送室に始まり、夜の落書き、根も葉もないうわさ、さらには最近の万引事件。いじめの手段は短期間のうちに高度化していった。
その生徒たちは良家の温室育ちで、最初は嫌悪感を抱く程度だったのが、このような残酷なことまでできるようになった。それは、その少女の後押しがあったからにほかならない。
やがて、果実が熟し……そして、ボンッ——
あたしの妄想を聞いてみてどう思った？この少女の行動に何か問題はあるの？彼女は、法律で認められている範囲内のことしかしていないんじゃない？

ペルセポネー
でも……本質は悪よ。故意に人の心の闇を誘うこと自体が悪なのよ。

エーリヴァーガル
人は生まれながらにして原罪というものを背負っている。生まれながらにして邪悪なの。その少女は他人が生まれながらにして持つ邪悪さを利用しただけ。
彼女が現れなければ、その生徒たちは穏やかな人生をずっと送り、法律を犯すこともなかったかもしれない。でも、たとえそうだとしても、それがどうしたっていうの？
彼女がいなければ、あの店員は一生邪念を抱くこともなく、普通の生活を穏やかに送っていたかもしれない。でも、そうだったとしても、それがなんなの？
邪悪さとは本質的なものであって、動機ではない。彼女は邪悪さの真実を見るのが好きなの。結局のところ、あなたのような探偵だって、邪悪さの中にある真実をたどって前に進むでしょ？
それからシィル。
……彼女は、あたしが今まで見た中で、本当に一番かわいく、純粋な子だね。まるで純白そのものみたいで、穢れや雑念が一切ない。
彼女のような子も、心の中に悪の芽を持つことがあるのかな？

ペルセポネー
私は……理解できない、許せない。

エーリヴァーガル
でも？

ペルセポネー
……私には罰するすべがない。

エーリヴァーガル
フフフ……。
安心して、ペルセポネー。あたしが今言ったことは、すべて小説のような妄想にすぎないから。
この世界に、そんな現実離れしたことがあるはずない。そうでしょ？

ペルセポネー
……

エーリヴァーガルは澄んだ笑い声をあげ、徐々に遠ざかっていった。その場には、困惑して立ち尽くすペルセポネーだけが残った。
彼女は空を見ながら静かに考えていた。清らかで冷たい風が彼女を強い日差しの中に投げ入れたかのようだった。