ベルゼバブが敗走したのを知った時、峰津院大和が最初に覚えたのは衝撃だった。

 あの男はさしずめ、大和の標榜する理想を体現するような存在であった。
 勝利も敗北も星の数程噛み分け、弱きも強きも平等に挫き自らの能力を高めていく生来の絶対強者。
 自らが弱者に甘んじる未来を許容すれば発狂死するのだとばかりに輝き続けて止まらない暴食の銀河。
 些か制御が利かない部分は難点だったが、それを除けば大和はかの破壊者の事を好ましくさえ思っていた。
 自身の理想が遂げられた後の世界を生きる人間の少々極端なモデルケースだと。
 そう感じながらこの一ヶ月弱の時間を共に過ごしてきた――大和が己が理想を重ねたそんな男が、何処ぞの戦場で散華を遂げたのが先刻の事だ。
“未だに信じられん。奴が消滅する数分前、あちらから伝わってくる魔力の高まりは異常な領域に達していた”
 恐らくあの時ベルゼバブは、己が嵌められたサーヴァントという型さえ破壊した状態にあったのではないかと大和はそう推測している。
 素晴らしく、そして驚くべき話だ。
 サーヴァントとは英霊の座に囚われた永遠の虜囚。
 その身でありながら自らの常軌を逸した唯我の精神のみで自己の限界を天元突破し…七つの人類悪にも比肩する災厄へ進化してのけたのだから。
 あの瞬間、間違いなくベルゼバブは界聖杯最強の存在だった。
 峰津院大和の審美眼を以っての断言だ。
 信憑性は折り紙付きである。
 だが。
“それでも、奴は負けた…私の力を全て注いだというのに、それでも……敗れ去ったのだ”
 もしも戦局の場に自分が立ち並んでいたならと想像する事に意味はない。
 ディアラハンなど小手先の魔術を駆使した所で、あの次元の戦闘の渦中で果たして如何程の効き目があったか。
 第一ベルゼバブの援護の為に東京タワーを離れていれば、霊地は破壊される以前にカイドウに握られていた可能性が高い。
 つまりベルゼバブが敗北したその時点で、峰津院大和の敗北もまた確定していたのだ。
 だが大和は敗れた混沌王を憎んではいない。
 生前はあれ程辛辣に罵り合った関係だが、彼を無能と謗る言葉も出ない。
 大和は、ただ驚いていた。
 混沌王の敗亡というあり得ざる事態は――大和が目指す理想の体現者が破壊されるという事態にはそれ程の意味があった。
“何故ベルゼバブは届かなかった? 奴とそれに立ち向かった者の何が雌雄を分けた。
 あの時、奴以外の魔力はほぼ感じ取れなかった…更なる強者に蹂躙され散ったという訳では恐らくあるまい。では、まさか奴が……”
 純粋に力の大小で超えられたという事は考え難い。
 あの次元の強者が矢継ぎ早に出現するようになっては聖杯戦争そのものが青天井だ。
 それに、もしそんな事態になっていれば他でもない大和自身がその存在を感知出来ていた筈。
 それがなかったという事はつまり、ベルゼバブは弱肉強食の環の中で喰い殺されたという訳ではなく。
“弱者の逆襲に遭い、果てたというのか”
 即ち逆襲劇(ヴェンデッタ)。
 取るに足らない、足先一つで蹴散らせるような砂粒がベルゼバブの命運を断ち切った事を暗喩していた。
 己がサーヴァントの強さは他でもない大和が一番よく知っている。
 まして幾多の敗北と苦渋の果てに辿り着いた到達点ともなれば、大和の想像すらも遥かに超えていたに違いない。
 混沌を超え蒼穹を統べる混沌の王に至った。
 その上で、負けた。
 全ての力を使い切りながら泡沫のように消え去った。
 何が足りなかった?
 ベルゼバブは全てを持っていた筈だ。
 最上の肉体、最上の可能性、最上の宝具、最上のマスター。
 全てを持ち合わせた絶対強者が何故逆襲なぞに遭い死したのか。
 大和の頭脳を以ってしてもその答えを算出するのは容易ではなかった。
 それに、解らないのはベルゼバブの事だけではない。
 今自分が置かれている状況もまた、彼にとっては弩級の不可解だった。


「で。貴様はいつまでそうしているつもりだ」
「悪いな。もう少しだけ我慢してくれ」
 誰かに抱えられ、現在進行形で助けられているこの状況は何だ。
 何故自分は生きている。
 こうまで屈辱的な扱いをされながらも生き永らえている。
 もはや辟易に近い想いを抱きつつ、しかし今の大和には強引にこの状況を打破する体力さえ碌に残っていなかった。
光月おでんめ…。最期まで、調子の狂わされる男だった”
 あの瞬間。
 敵連合の頭目による大崩壊攻撃が炸裂した瞬間、大和は死ぬ筈だった。
 完膚なきまでのチェックメイト。
 煩わしくも視界の隅をチラついていた蜘蛛糸が遂に彼の命運を絡め取った。
 となれば待ち受ける運命は物言わぬ灰の山に変えられるのみ。
 弱者に成りさらばえた敗者は風に溶けて消えるのみ――その筈だったというのに。
 邂逅したその時からカイドウを前にしての予期せぬ共闘に至るまで、大和を馴れ馴れしいまでの気安さで邪魔立てしてきた男。
 光月おでんが起こした予期せぬ行動が、峰津院大和の死という最後の予定調和までもを破壊してしまった。
「…言っておくが、私の身柄を確保した所でどうにもならんぞ」
 愚かな男だったと思う。
 行動の全てが行き当たりばったり。
 まるで何の支えもなく、道に一本立てられた棒のよう。
 どの方向に倒れるかは運否天賦。
 たとえ指し示された行き先が地獄だろうと、豪快に笑いながら大股歩きで進んでいく。
 義侠の風来坊とはよく言ったものだ。
 あれ以上にその二つ名が似合う男は天地の果てまで探してもまず存在すまい。
「戦況が加速しすぎた。都市インフラがこうまで破壊された今、私の財閥が振るえる力はたかが知れている」
 否、それだけではない。
 問題はもっと別な部分にある。
「何より私はあの傍迷惑な"崩壊"から既に認識されている。
 今や峰津院財閥を利用しようと考える行為は、即ち自ら的になりに行くのと同義だ。
 戦略兵器を相手に社会戦を挑んでも、得られる物は何一つないぞ」
 峰津院財閥という勢力はもはやほぼほぼ無用の長物と化した。
 悪魔召喚等の技術がNPC化した彼らに引き継がれているのならばいざ知らず。
 斯様に矮小化されたこの世界の峰津院では、死柄木弔という災厄を止められない。
 右手の一振りで灰燼と化す、ただ悪戯に数の多い小蝿と同義である。
 だからわざわざ抱え込むなど無意味だと。
 大和はそうアシュレイを諭したつもりだったのだが――
「…うーん」
 当のアシュレイから返ってきたのは、論点のズレた相手に面食らったような困惑気味の声だった。
「そういう訳じゃないんだ。確かにお前ほどの戦力が仲間に加わってくれれば百人力だし、人手なんて多いに越した事はないんだけどさ」
「ならば何故、わざわざ進んでリスクを抱え込むような不合理を冒す。…あの風来坊めへの義理か?」
「そうだな。それがまず半分だ」
 大和としては面白くない答えだった。
 此処でもまた、光月おでんの名前が出てくる。
 峰津院財閥の御曹司として生を受けたその日から、大和の人生には現れなかった類の人種。
 自分の力の大きさを認識していながら謙らず、年齢相応の子供(ガキ)に対しそうするように説教を垂れてくる酔狂な男。
 今も目を瞑れば脳裏にあの馬鹿笑いが浮かび上がってくる始末。
 鬱憤をぶつけてやろうにも当の本人はもうこの世に居ない。
 大和がおでんに身の程を理解させてやる機会は、あの崩落の時を境に永久に失われてしまった。
「…では、もう半分を聞こうか」
「あの子達の志に寄り添ってあげたいんだ」
「――は。何を言うかと思えば…そんな事か」
「ああ。そんな事、さ」
 仮称、方舟勢力。
 彼らの掲げる方針…いや、理想と呼ぶべきだろう。
 兎に角大和はそれを他でもないアシュレイの口から聞き及んでいる。
「子女の夢想と心中を図るとは、貴様も光月おでんに負けず劣らず酔狂だ」
 偶像の少女達はさておき、この灰色の男はそれなりに頭の回る部類だと大和はそう認識していた。
 故に方舟による脱出計画の信憑性に関してまでは、然程疑いの目を向けている訳ではない。
 界聖杯がみすみすそんな所業を見逃すと思えない事を除けば――困難ではあれど実現不可能ではない計画だと踏んでいる。
 彼が理想と定義し、夢想と笑うのはそれを編む者達の心の方だ。
 "彼女達"が掲げるその志は、方舟計画そのものよりも余程信用に値しない難業そのものであったから。
「ノアの方舟を名乗っておきながら、見境なく全てを救おうと考える傲慢さ。
 全く以って無知、幼稚の極みだ。断言してもいいが、貴様らの無垢な理想は遠からぬ未来土に塗れるぞ」
 基本的に。
 世界というのは残酷なものである。
 理想は破れる。期待は裏切られる。希望は、絶望に変転する。
 故に大和はアシュレイが守りたいのだと言ったその"志"に対しては毛程の期待も寄せていなかった。
「誰も彼もを満たし救うなど神の御業を以ってしても不可能だ。
 誰一人正攻法でそれを成し遂げられなかったからこそ、今この聖杯戦争(じごくえず)がある。
 貴様が先刻私に語った方法を本当に実行する気だとしても…その航路の先に光は見出だせんな」
「手厳しいな。この場に彼女達が居なくてよかったよ」
「逆だろう。悲惨な現実など早く知っておくに越したことはあるまい」
 理屈として正当性があるのは大和の方だ。
 アシュレイもそれはよく理解している。
 運命に弄ばれる実験体として物語を始め、以後もアドラーの交渉人として世界を駆け回る生涯を送った彼は当然知っているからだ。
「確かにお前の言う事は正しい。俺もそう思うよ、皆の前では口が裂けても言えないけどな」
 世界の残酷さ。運命の非情さ。
 いつだって優しい人から辛い目に遭う、世界の宿痾を。
 争い合う誰も彼もを平等に満たす答えなんて物があれば人類はとうに幼年期を終えている。
 この聖杯戦争がそんな世界のある種の縮図であるという大和の言葉にも、誰より人間と接し語らい続けてきたアシュレイは強い納得を覚えた。
「順風満帆には行かないだろう。必ずこの先には別れと痛みがある。
 そして彼女達はそれを知る度傷ついて、涙を流す。時にはこんな道を選ばなければと後悔だって覚えるかもしれない」
 地平線の向こうに辿り着けと言われているのに空を目指している。
 その上、誰も見捨てない形で空に飛び立ちたいとまで豪語する。
 星を開拓するが如き難業の航路は常に嵐と鉄風雷火。
 安寧の時など常になく、一息ついたと思えば底の見えないブルーホールに落ち沈む。
 事実、既に痛みは走っているのだ。
 目前で失われた二つの希望。
 擦り切れながらも不器用に微笑んだ少女と、誰かの星たらんとした戦士の最期は今も全員の脳裏に焼き付いているに違いない。
「だけど」
 だが、それでも。
 アシュレイ・ホライゾンは「まだだ」の言葉を絶やさない。
「もしもそんな夢物語を叶えられたら、それはとても素晴らしい事だと俺は思うよ」
「…、……呆れた男だ。あの風来坊でさえもう少し現実的な航路を選んだろうよ」
 彼女達は願っている。
 こうしている今も祈っている。
 信じているのだ、痛む心を抑えながら。
 ならばそれに寄り添うのが、影法師たるサーヴァントの務めだろう。
 その夢がいつかきっと叶うように。
 彼女達の小さな手が遥かの空を掴めるようにと。
 そう願うからこそアシュレイは今、都民数万人を磨り潰し極天を目指した少年を抱えているのだ。
「愚かだよ、貴様は」
「よく言われるよ。…っていうか、あれこれ言う割には逃げないんだな」
「では聞くが、私が此処で逃亡の為に抵抗したとする。貴様はその時大人しく私を逃がすのか?」
「流石に無理だな。英気を養って復活されたらセイバー達の奮戦が無意味になってしまうし」
「そういう事だ。無駄に暴れて只でさえ消耗している身体に鞭打つのは馬鹿の行いだろう」
 アシュレイはサーヴァントとしては弱い部類だ。
 この界聖杯全体で見ても間違いなく下から数えた方が早い。
 そんな彼でさえ、カイドウとの激戦で弱り切った今の大和にとっては十分厄介な障害だった。
 つくづく忌まわしい敗北だったと、峰津院大和はそう一人舌打つ。
“…ああ。全く、本当に手痛い失態だった”
 右手を握って、開く。
 それだけで、自分の肉体が今どんな状態にあるのかを大和は理解した。


 あの時。
 あの"崩壊"が天から落ちてきた時。
 峰津院大和は一瞬とはいえ体内に彼の個性が侵入する事を許してしまった。
 結果的に体内魔力を用いての因子排出を行い事なきを得、今では魔術も使用出来る状態にまで回復している。
 が――大和の体内には無茶の代償が、今もはっきりと刻まれていた。
“魔術回路が部分的に破損している。魔力生成の速度が異常に遅い。命を繋いだ代償は大きかったな”
 崩壊は毒だ。
 元より超常特異点に片足を突っ込んだ異次元の個性。
 それが聖杯戦争という非日常の環境で育まれ、結果元居た世界で辿る筈だったのよりも破滅的な形で覚醒を遂げるに至った。
 この地で既に二騎の英霊を屠り去っているその毒が、傑物とはいえ人の身である魔術師の体内に流入し回路を浸潤したのだ。
 如何に即座の排出を試みたといえども只では済まない。
 いや、それでも大和はよくやった方だ。
 後零・五秒、いや零・一秒反応が反応が遅れていたならば…彼は死体か、生きていたとしても手足一本動かせない廃人となっていた事だろう。
 峰津院大和は命を繋いだ。
 しかし稀代の神才の力は穢されてしまった。
 その代償は、あまりに大きい。
 魔力回路の破損。
 それに伴う魔力の生成不良並びに循環不良。
 これらの要素が大和に齎したのは魔術師としての大きな弱体化だ。
 少なくとも今の大和は、ベルゼバブを使役していた頃の彼とは行使出来る魔術の桁に雲泥の差がある。
 今の彼では最早ベルゼバブ級のサーヴァントを御する事は不可能だろう。
 その事実を前にして、勝利し続けてきた少年は改めて自身が敗者に成りさらばえたのだと理解した。
“だとしても”
 だが、峰津院大和は死んでいない。
 彼は生きている。
 心臓は鼓動を刻み、見る影もないとはいえ回路も拙いながらに循環を続けている。
 そしてその心も未だ無様な敗者の型に嵌められてはいなかった。
“この私がこれで終わると思うなよ――光月おでん”
 潔く死に消え去るつもりだった。
 しかし腹立たしくも救われた。
 弱った己を抱えている男も、何を言っても殺意を示さない。
 生かされる屈辱を噛み締めながら大和は生きる。
 そして宣戦布告する。
 自分を生かした、もうこの世界には存在しない男に対して。
 貴様の判断は間違いだったのだと。
 私に情けを掛けるべきではなかったと、あの世で頭を抱えさせてみせると。
 全てを失った身で一人誓いながら、彼は境界線の腕の中で揺られていた。

 …何処かから。
 そんな己を豪放磊落に笑い飛ばす、耳慣れた男の声が聞こえた気がした。

【港区/二日目・朝】

【ライダー(アシュレイ・ホライゾン)@シルヴァリオトリニティ】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:アダマンタイト製の刀@シルヴァリオトリニティ
[道具]:七草にちかのスマートフォン(プロデューサーの誘拐現場および自宅を撮影したデータを保存)、ウィリアムの予備端末(Mとの連絡先、風野灯織&八宮めぐるの連絡先)、WとMとの通話録音記録、『閻魔』、『天羽々斬』
[所持金]:
[思考・状況]基本方針:にちかを元の居場所に戻す。
0:また重い責務を背負ってしまったな。捨てる気はないけど。
1:今度こそ、P、梨花の元へ向かう。梨花ちゃんのセイバーを治療できるか試みたい
2:界奏による界聖杯改変に必要な情報(場所及びそれを可能とする能力の情報)を得る。
3:情報収集のため他主従とは積極的に接触したい。が、危険と隣り合わせのため慎重に行動する。
4:大和の世界、まさか新西暦と繋がってたりしてないよな?
5:界奏での解決が見込めない場合、全員の合意の元優勝者を決め、生きている全てのマスターを生還させる。
  願いを諦めきれない者には、その世界に移動し可能な限りの問題解決に尽力する。
6:大和についてはひとまず捕虜。逃げられると面倒なのでそれは防ぐ。
[備考]
宝具『天地宇宙の航海記、描かれるは灰と光の境界線(Calling Sphere Bringer)』は、にちかがマスターの場合令呪三画を使用することでようやく短時間の行使が可能と推測しています。
アルターエゴ(蘆屋道満)の式神と接触、その存在を知りました。
割れた子供達(グラス・チルドレン)の概要について聞きました。
七草にちか(騎)に対して、彼女の原型はNPCなのではないかという仮説を立てました。真実については後続にお任せします。
星辰光「月照恋歌、渚に雨の降る如く・銀奏之型(Mk-Rain Artemis)」を発現しました。
宝具『初歩的なことだ、友よ』について聞きました。他にもWから情報を得ているかどうかは後続に任せます。
ヘリオスの現界及び再度の表出化は不可能です。奇跡はもう二度と起こりません。

【峰津院大和@デビルサバイバー2】
[状態]:ダメージ(大)、魔術使用不能(既に回復)、魔術回路に大規模な破損
[令呪]:残り一画
[装備]:『霊脈の槍』
[道具]:悪魔召喚の媒体となる道具
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり
0:この私が、これで終わると思うなよ。
1:……我々はこの場で出会った。それが全てだ。
2:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます
3:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています
4:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです
5:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です
6:白瀨咲耶、神戸あさひと不審者(プリミホッシー)については後回し。炎上の裏に隠れている人物を優先する。
【備考】
※皮下医院地下の鬼ヶ島の存在を認識しました。
※押さえていた霊地は全てベルゼバブにより消費され枯渇しました。
※死柄木弔の"崩壊"が体内に流れた事により魔術回路が破損しています。
 これにより、以前のように大規模な魔術行使は不可能となっています(魔術自体は使用可能)。
 どの程度弱体化しているかは後の書き手諸氏にお任せ致します

    ◆  ◆  ◆

『悪い悪い。城を落とすのもこっちでやる気だったんだけどよ、何処ぞの馬鹿が先走っちまったみたいでな』
 公衆電話の受話器の向こうから響く声に、田中摩美々は唇を噛むしか出来なかった。
 鬼ヶ島の墜落は死柄木弔の行動が生んだ結果ではなかったとそう分かりはした。
 だがそれは何の安堵にもなりはしない。
 彼が東京タワーで起こした惨禍。
 それもまた、決して並大抵の事態ではなかったからだ。
「何…したんですか。あなた」
『霊地を潰してきたよ。安心しな、お前らの手の奴らは上手く逃げ遂せたらしい』
「それ、巻き込む気満々だったってことじゃないですか……」
 既に、にちかのライダーから報告は受けている。
 死柄木の手により霊地は崩壊した事。
 誰も彼も見境のない破壊の波濤が吹き荒れた事。
 アシュレイは辛くもそれを生き延びたが、奮戦していた"義侠の風来坊"は命を落とした事。
 死柄木がアシュレイら方舟側の友軍を巻き込まないように調整して崩壊を放ったとは到底思えない。
 そしてそれを指摘された死柄木は、鼻で笑ってあっけらかんと答えた。
『当たり前だろ? どうせやるなら大勝ち狙うに越したことはない。聖者でも相手にしてるつもりかよ』
 その言葉に摩美々は何も言い返せない。
 それに彼女は知っていた。
 この恐ろしく、底の知れない男にスイッチを入れたのは他でもない自分だと。
 自分が余計な事を言って彼を原点(オリジン)へ回帰させなかったなら、もっと穏当な形になる未来もあったかもしれない。
“この人に…私は何処かで、親近感を感じてた”
 主義主張は違えど同じ名を持つ蜘蛛の教え子。
 人智を逸した頭脳で辣腕を振るったチェス打ち達の継嗣。
 その共通項が摩美々に死柄木という人間を微か、見誤らせた。
 確かに連合は同盟相手だった。
 海賊同盟という共通の敵に否を唱えるパートナーだった。
 だが摩美々達と彼らは根本的に違う。
 田中摩美々と、死柄木弔は、全く別の生き物だ。
 自分が手を結んでいた相手の恐ろしさが、今になり改めて彼女の背筋を寒からしめた。
『それに。俺達とお前らの同盟もそろそろ潮時だろ』
「…つれないこと言いますねー。まだ海賊さん、生きてたりするんじゃないですか?」
『かもな。ただまぁ、片方は殺せたんだ。嫌でも目の上の瘤になる"同盟"は終わらせてやった』 
「なら、もう私達の力なんて必要ない――って?」
『分かったからな。ちゃんと俺達だけで殺れるって、さ』
 まずい展開だ。
 摩美々は受話器を握りながら歯噛みする。
 連合との同盟を組むにあたり、あちらへ遜るような事態は御免だと思っていた。
 それに事実、連合も方舟の戦力を欲していた。
 だからこそこの奇跡のような薄氷の同盟関係は成立していたのだ。
 海賊同盟、そして霊地の争奪戦という火急の問題があったからこそ形はどうあれ手を取り合えた。
 しかし――
『ならもう十分だろ。らしい関係に戻ろうじゃないか、アイドル』
 海賊同盟は破綻した。
 霊地争奪戦は完全に終結した。
 そして敵連合は、この聖杯戦争の全てを思うがままに出来る程の力を手に入れた。
 これらの事実が方舟と連合を隔てていた薄氷を打ち砕く。
 もはや彼らは、船に乗らずとも向こう岸へ辿り着けるように成長してしまった。
 同盟が終わる。
 戦線が崩壊する。
 地平聖杯戦線は、役目を終える。
「もっかい――話だけでも聞いてみる気とか、ないですか」
『話? ああいいよ。ただその前に一個だけずっと聞きたかった事があるんだよな。
 初めて話した時からずっと気になってた。煽りだの削りだのじゃなくて、本当に純粋な疑問だ』
 そうなれば連合に方舟を見逃す理由はない。
 崩壊の手は容赦なく、輝く希望を摘み取るため振るわれるだろう。
 蜜月などと呼べる程安穏な間柄ではそもそもなかったが、この先には殺意と崩落しか待っていない。
『お前らは望みさえすりゃ俺達の事も船に乗せてくれるんだろ?』
 方舟とは融和と相互理解、そして承認の勢力。
 対する連合は淘汰と競争、いずれ来る決裂を承服し合って進む勢力。
 その性質は真逆に等しく、よって手を取り合う難易度は異次元だ。
 一時的にとはいえ共闘を結ぶに至らせた境界線と蜘蛛の手腕には舌を巻く他ないだろう。
『ありがたいぜ。優しさに涙が出そうだった』
 電波の先で地平線の担い手が笑っている。
 嗤いながら彼は摩美々に言葉のナイフを突きつける。
『世界の崩壊を願うテロリストを、故郷まで安全に送り届けてくれるってんだから』
「――」
『方舟に乗って現れた人間が洪水を起こすんじゃあべこべだけどな。ま、皮肉が利いてて悪くはないだろ』
 誰かの笑顔に希望を見た少女達と。
 誰かの笑顔に絶望を見た男。
 そこに真の意味での理解は決して生じ得ない。
 少女達は地獄を知らないし、男は輝く星のような時間を知らないからだ。
『そういう事だ。敵に塩を送る訳じゃないが、夢見る時は適度に現実と折り合い付けるのがコツだぜ。アイドル』
「…私達があなたを置いて帰ると言ったら、それまでなのに。随分と強気なんですね」
『分かってないな。ヴィランが人の弱みに付け込まなくなったら終わりだろ』
 思わず言い返した摩美々だが、その言葉は何の脅しにもなっていない。
 彼女自身その事は分かっていた。
 分かっていても反射的に言葉が出た。
 方舟の理想の裏にある、誰かの頑張りではどうにもならない歪み。
 その片鱗を見せられた気分になったから――半ば防衛反応的に言い返してしまったのだ。
『もうお前らは自分の理想に呪われてる。お前らは今更、"誰か"を見捨てられない』
「――そこまで、分かってるのに…っ」
『なんでそれを台無しにするような事が出来るんだって? 分からなくていいぜ』
 彼女達は何処まで行っても光(アイドル)で。
 彼らは何処まで行っても闇(ヴィラン)。
 その中道を選ぼうと言うのならば、そこに伴うのは無限にも似た苦痛と煩悶だ。
 方舟の主が過去に直面した命題が廻り廻って今、そのクルー達の前へと現れた結果がこの現在。
『出来ないから――アイドルとヴィランだ』
 通話が切れる。
 途絶を示す電子音が無機質に反響する。
 心配そうな顔で覗き込む傍らの二人をよそに、摩美々は暫し沈黙するしかなかった。


 朝は来た。
 しかし何も終わっていない。
 彼女達の苦難は続く。
 何かを失いながら、坂道を転がるように摩耗しながら…ただ続いていくのだ。
 連合との断絶はそれを暗喩するかの如き不穏さで、尊い少女達の未来を祝いでいた。

【杉並区(中野区付近・杉並区立蚕糸の森公園)/二日目・朝】

【七草にちか(騎)@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:精神的負担(大/ちょっとずつ持ち直してる)、決意、全身に軽度の打撲と擦過傷
[令呪]:残り二画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:高校生程度
[思考・状況]基本方針:283プロに帰ってアイドルの夢の続きを追う。
0:あっよかったライダーさん……! は? 峰津院大和を連れて来る? は?
1:アイドルに、なります。……だから、まずはあの人に会って、それを伝えて、止めます。
2:殺したり戦ったりは、したくないなぁ……
3:ライダーの案は良いと思う。
4:梨花ちゃん達、無事……って思っていいのかな。
[備考]聖杯戦争におけるロールは七草はづきの妹であり、彼女とは同居している設定となります。

【田中摩美々@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:疲労(中)、ところどころ服が焦げてる、精神的動揺
[令呪]:残り一画
[装備]:なし
[道具]:白瀬咲耶の遺言(コピー)
[所持金]:現代の東京を散財しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)
[思考・状況]基本方針:叶わないのなら、せめて、共犯者に。
0:私達は、それでも――
1:悲しみを増やさないよう、気を付ける。
2:プロデューサーと改めて話がしたい。
3:アサシンさんの方針を支持する。
4:咲耶を殺した人達を許したくない。でも、本当に許せないのはこの世界。
[備考]プロデューサー@アイドルマスターシャイニーカラーズ と同じ世界から参戦しています
※アーチャー(メロウリンク=アリティ)と再契約を結びました。

櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大/ちょっとずつ持ち直してる)、深い悲しみ、強い決意、サーヴァント喪失
[令呪]:喪失
[装備]:なし
[道具]:予備の携帯端末
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]基本方針:どんなことがあっても、ひかるちゃんに胸を張っていられる私でいたい。
0:――ひかるちゃん。私、もうちょっと頑張ってみるね。
1:優しい人達に寄り添いたい。そのために強くありたい。
2:あさひくんとプロデューサーさんとも、いつかは向き合いたい。
3:アイさんたちがひかるちゃんや摩美々ちゃんを傷つけるつもりなら、絶対に戦う。
[備考]※星野アイ、アヴェンジャー(デッドプール)と連絡先を交換しました。
※プロデューサー、田中摩美々@アイドルマスターシャイニーカラーズと同じ世界から参戦しています。

    ◆  ◆  ◆

“アイドル共にはああ言ったけど、たぶん生きてんだよなあの海賊(デカブツ)”
 方舟の少女との通話を終えて、死柄木弔は一人朝が来たとは思えない閑散とした都市を進む。
 東京タワーに崩壊を落とした事で彼の目的は達成された。
 港区の霊地は潰れ、龍脈の力は事実上己の総取りとなった。
 只惜しむらくはあの場の全員を殺し切れなかった事。
 そしてその中には、死柄木が見送った武士と鬼神の如く死合っていたもう片方の皇帝も含まれている。
“気配は露骨に残ってたし、追撃しようと思えば出来た…が、まぁ流石にリスクが勝ったね。方舟には悪い事しちまったな”
 明王カイドウ。
 穴の底に沈んだ彼に追撃の崩壊を放つ事も可能ではあった。
 それをしなかった理由は、万一抵抗を受けた場合死柄木の方にも木乃伊取りが木乃伊になる危険があったから。
 無茶な継承の反動に苛まれるこの体で、あのビッグ・マムに比肩するか上回る怪物を相手取るのは並大抵ではない。
 意気揚々と出発した時はまだ力と体の齟齬が顕れていなかったから良かったが、いざそれが出てくるとさしもの魔王も深追いの断言を強いられた。
「二日酔いに似てんな。実際間違いでもないのか」
 端末を取り出して視線を落とす。
 星野アイからの連絡。
 連合は既に大方の仕事を終え合流が可能な段階との事。
 作戦終了。脱落者は、蜘蛛と極道。
「参ったな。構成員の半分以上が相方無しか…ま、代えが見つからなかったら界聖杯の万能ぶりに期待して貰うしかないな」
 最悪、お零れくらいはくれてやってもいい。
 上機嫌にそう考えながら歩む白髪の"滅び"。
 元々面倒見は悪くない質だ。
 彼も彼なりに、この世界で作った連合(なかま)にはある程度の義理を持っているのか。
「――ああ…禪院のゴリラ野郎にも連絡入れといた方がいいか。ジジイが死んで掌返すようなら潰さなくちゃいけないし。
 峰津院のお坊ちゃんの実家も撫でておきたいし、デトネラットのハゲ社長に今後も付いてくるか意思確認も必要だ……ハハ、目眩がするぜ」
 やる事は多い。
 気にする事も多い。
 独りになってみて、漸く師の視野がどれだけ広かったのかを実感する。
 あの毒蜘蛛然り先生然り、自分はどうやらああいう風にはなれなそうだと破壊の君は嘆息した。
 だがまぁ、それでいい。
 古い時代をなぞるだけなどつまらない。
 地を這う蜘蛛になれないのなら、巣諸共にそれらを蹴散らす魔王になろう。
「力があるってのはいいもんだ。世界がこんなにも広く見える」
 霊地争奪戦、終結。
 勝者は地平聖杯戦線。
 龍脈と悪魔の力の継承者は、死柄木弔。
 次の嵐が吹き荒れるまで、あと――

【港区・東京タワー跡→移動中/二日目・朝】

【死柄木弔@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:継承、サーヴァント消滅、肉体の齟齬
[令呪]:全損
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度
[思考・状況]基本方針:界聖杯を手に入れ、全てをブッ壊す力を得る。
0:やることが多いなあ、魔王ってのは
1:勝つのは連合(俺達)だ。
2:全て殺す
3:禪院への連絡。
4:峰津院財閥の解体(物理)。
5:以上二つは最低限次の荒事の前に済ませておきたい。
[備考]
※個性の出力が大きく上昇しました。
※ライダー(シャーロット・リンリン)の心臓を喰らい、龍脈の力を継承しました。
 全能力値が格段に上昇し、更に本来所持していない異能を複数使用可能となっています。
 イメージとしてはヒロアカ原作におけるマスターピース状態、AFOとの融合形態が近いです。
 それ以外の能力について継承が行われているかどうかは後の話の扱いに準拠します。
※ソルソルの実の能力を継承しました。
 ・炎のホーミーズを使役しています。見た目は荼毘@僕のヒーローアカデミアをモデルに形成されています。
※細胞の急激な変化に肉体が追いつかず不具合が出ています。馴れるにはもう少し時間が必要です。


時系列順


投下順


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145:地平聖杯戦線 ─Why What Wolrd White─(1) 峰津院大和 154:敗者ばかりの日(前編)
145:地平聖杯戦線 ─Why What Wolrd White─(1) 死柄木弔 152:ワンルームシュガーライフ
145:地平聖杯戦線 ─Why What Wolrd White─(1) 櫻木真乃 154:敗者ばかりの日(前編)
145:地平聖杯戦線 ─Why What Wolrd White─(1) 田中摩美々 154:敗者ばかりの日(前編)
145:地平聖杯戦線 ─Why What Wolrd White─(1) 七草にちか(騎) 154:敗者ばかりの日(前編)
145:地平聖杯戦線 ─Why What Wolrd White─(1) ライダー(アシュレイ・ホライゾン) 154:敗者ばかりの日(前編)

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最終更新:2023年06月03日 21:46