辺りは、つい先ほどまでの魔王との戦いが嘘であるかのように静まり返っていた。
アルスの遺体が荼毘に付されて、その火が消えてからも、ただリンクは空を見上げて座っていた。
ガノンドロフとの戦いは、全てを擲って、それでいてほんの紙一重の勝利だった。
今の勝者たちは、休憩を取らなければ満足に動くことさえ出来なかった。
「ルビカンテ、さっきの回復魔法は出来るか?」
同じように座っているルビカンテに、傷だけでも回復してもらおうとする。
「無茶を言うな。」
赤マントの男はにべもなく切り捨てた。
他にもマーダーはまだ生きているのは分かっているが、とても動けそうな状況では無かった。
(腹……減ったな……)
腹にもいくつか怪我を貰っているが、それでいて食欲は正直だった。
ザックを開け、パンと水を取り出す。
辺りには人が燃える臭気が漂い、お世辞にも食事に適した場所では無いが、腹に詰め込む。
本当はよく熟れたトアルカボチャを潰して、隠し味にトアル山羊のチーズを一欠けら入れたスープに、コッコの生みたて卵の目玉焼きを堪能したい所だったが、贅沢は言えない。
粗末な食事だったが、体力は幾分か回復した気がした。
次にやったのは、ガノンドロフが持っていた道具を回収することだった。
その身体は、立ったまま石になってしまったので、鎧を外すのは難しそうだった。
だが、それ以外のアイテムはありがたく頂戴することにした。
彼が持っていた魔法剣はザックに入れ、氷の力を持ったバッジは付けてみることにした。
そして魔王が持っていた鞄の中身を開けてみることにする。
何が入っているのか開けてみようとした時、放送が流れ始めた。
2度目の放送なので、何を知らされるかは嫌でも分かった。
感情の無い言葉が、島全土に広がる。
『ゼルダ』
さあっと顔から血の気が引いていくのを感じた。
自分はまたかけがえのない人を失ってしまったのだと、改めて分かった。
その時に胸をよぎったのは、『あの時火のついた図書館に向かっていれば』という後悔だった。
ゼルダは図書館で戦死したことはリンクは知らない。
けれど、そうした後悔は押し寄せてきた。
それでも放送は止まらず、先程まで共に戦った戦友アルスや、ゴロンの族長ダルボスなど、彼の仲間の名前が次々に告げられた。
魔王は倒した。けれど、その為に払った代償はあまりにも大きかった。
「彼女を、助けられなかったのか。」
まるで確認するかのように発したその言葉は酷く乾いていた。
そして、放送が途切れ、世界が変わる。
地面が大きく揺れたと思ったら、まるで雨でも降るかのように、空が暗くなる。
瞬く間に、空が影に包まれた。
これから一番明るくなる時刻なのに、太陽は遮られた。
まるで、2人の気分を表しているかのような、そんな空へと早変わりしてしまった。
「リンク。」
地震が止んだと思ったら、後ろで低い声が響いた。
振り向くと、ルビカンテが地図に禁止エリアをメモしていた。
「すまないな、少し考え事をしていた。アンタはどうなんだ?」
おおよそ人間らしい、少なくとも正義に与する者とは思えない姿をしたルビカンテだが、先の戦いでは彼の熱い心に助けられた。
そんな人間らしさを持った彼に、リンクは何か言葉をかけてやりたかった。
元々口数が多い方ではなかったし、こんな時に何を言えば良いのかよく分からなかったが。
「呼ばれた。私の主が。」
その声は先の言葉よりも、静かに聞こえた。
「……そうか。」
ルビカンテが知っているゴルベーザは、ゴルベーザではない。
彼と同様、ゼムスに操られた偽りのゴルベーザだ。
ましてや、この世界で彼が何をしたかなど、知る由もない。
それでも、彼にとって道しるべになってくれた人物ではある。
少なくとも自分より早く死ぬべきでは無いと思っていた。
また、彼の知っている者の中には、かつて自分を討ったエブラーナの忍者や、いずれ借りを返そうと思っていた赤帽子の男の名も含まれていた。
例え分かち合える相手で無いと分かっていても、雌雄を決することの出来ぬまま、その名が呼ばれていくのは気分の良いものではなかった。
「気を遣う必要などない。」
どう声をかけるべきか、口ごもっていたリンクに対し、ルビカンテはにべもなく返した。
そもそも彼は他者からの同情を好む性格ではない。
彼が火のルビカンテになり、闇の道を歩むことにした時点で、差し伸べられた手はすべて払ったようなものだから。
だから、主の喪失を同情してもらうつもりなど無いし、悲しまれる権利さえないと思っていた。
「私のことなど気にするくらいなら、他のことをすべきだ。
先の戦いで呼ばれた強者達の為にもな。」
ルビカンテの言う通り。
2人共、この殺し合いで死した誰かから託されている。
リンクはアルスという勇者から、ルビカンテはセシルというパラディンから。
だから、彼らは失っても、ここで終わることは無い。
まだ、使命を遂げていないから。
それにリンクが駅の構内で戦ったバツガルフはまだ生きている。
イリアの死体を弄んだ死霊使いだって、どうなったか分からない。
さっきの地震の影響で、ガノンドロフのザックの中身が、地面に散らばっていた。
そして、その中に一際リンクの目を引いた物があった。
カゲの中でもくすみの無い光を放っている一本の剣。
どんなことが起ころうと、汚れ1つ付かない白銀の刃。
鳥が翼を広げた形の青い柄。
かつてフィローネの森の最奥で見つけた、彼が良く知っている退魔の剣だった。
「その剣を知っているのか。」
既にリンクが持っていた聖剣、正宗とは違う輝きを放っていた。
マスターソードを見たことが無いルビカンテでさえも、それが武器屋で値札を付けられているような剣ではないと一目で分かった。
リンクは左手でその剣の柄を握り締めた。
その瞬間、彼の左手の甲の、三角形の痣が光る。
「ああ、コイツは俺の知っている、呪いの剣さ。」
「………。」
その剣は、呪いが込められたとは思えないほど、綺麗な輝きを放ち続けていた。
だが、彼が言ったことは紛れもない事実。
マスターソードは、リンクという人間を無理矢理勇者にした。
本当は光と影との戦いなどどうでもよかった。
光だけを見つめて、ずっと生きていたかった。
ジャガーの畑のカボチャを投げて遊んだり、グリーンギル釣りに熱中する毎日を送りたかった。
悩みなんて、ファドの家のハチの巣が鬱陶しいとか、中々山羊が小屋に戻ってくれないとか、そんなことで良かった。
村の外に出ることなく、牧童として子供たちと過ごし、やがては大人になって一生を終わらせたかった。
影の侵略は、そして何より自分は勇者だという事実は、そういった願望を一切合切奪って行った。
黄昏の黒雲の中で、自分だけ人魂として怯えながら助けを待つことを許されなかった。
最初の内は、たまたま貧乏くじを引いただけで、巡り巡ってミドナに振り回されているだけだと思っていた。
フィローネの精霊から緑の服を承った時も、自分が勇者だとは信じられなかった。いや、信じたくなかった。
けれど、森の奥で見つけた聖剣は、偶然ではなく必然だったという答えを容赦なく突き付けた。
自分を唯一無二の勇者と認める、こんな腐った剣がなければ。
仲間の喪失の罪を感じることも、恐怖と戦う必要も無かったのに。
勇者ではなく、1人の人間として村の子供たちと心を交わすことが出来たのに。
もしかすると、殺し合いに巻き込まれることだって無かったし、イリアやモイが死ぬことも無かったかもしれない。
「でも、呪われていようが何だろうか、切れ味だけは折り紙付きだ。
それこそ、影でも祓えるぐらいにはな。」
「そうか。ならば良かろう。剣など斬れれば問題あるまい。」
柄を握り締め、横に1振り、2振り。
クルクルと振り回して、鞘にしまい込む。
その顔から、一際覚悟が表れていた。
その後、灰になったアルスの遺体を埋葬し、墓碑代わりに折れた彼の剣を刺す。
キングブルボーとガノンドロフの遺体は大きすぎたし、後者に至っては石化していたため、埋葬は諦めることにした。
「行くぞ。リンクよ。」
「一緒に行ってくれるのか?」
「この殺し合いが終わるまでの間だけだ。いずれは私と刃を交えることを忘れるな。」
「そうか、なら、その間だけ期待してるぜ。」
リンクは退魔の剣を、そして自分が勇者であることを憎んでいたが、1つだけ感謝していたことがあった。
それは、
光と影の戦いを通じて、そして今回の殺し合いで頼れる仲間に出会えたということだ。
だから、リンクは憎んでいる剣を振るい続ける。
今もどこかで戦っているはずの仲間(ミドナ)のために。
自分に未来を託した戦友(アルス)のために。
太陽が隠れた世界でも、彼の手の甲の勇気の証は光っていた。
ところで、少なくとも今はどうでもいい話だが。
黄昏の勇者が生まれ育った世界には、勇気、知恵、力を司るトライフォースがあった。
1つはリンクに宿っている。
しかし、残り2つ、知恵と力の持ち主はそれぞれこの戦いで命を落としている。
ゼルダもガノンドロフも亡き今、それらの黄金三角形は何処に向かうのだろうか。
【B-3と4の境目/草原/一日目 日中】
【リンク@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス】
[状態]:ハート1/6 肋骨一本損傷 服に裂け目 所々に火傷 凍傷(治療済み) 疲労(中) 死霊使い(佐々木ユウカ)に対する怒り(大)
[装備]:マスターソード@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス トルナードの盾@DQ7 アイスナグーリ@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品 ランダム支給品0~2 水中爆弾×5@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス アルスのランダム支給品1~2 (武器ではない) 正宗@Final Fantasy IV 柊ナナのスマホ@無能なナナ 火縄銃@新世界より 美夜子の剣@ドラえもん
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1.イリアを操っているはずの死霊使いを殺すか。
2.ピンクのツインテールの少女(彼女が殺し合いに乗っているかは半信半疑)から、可能ならば死霊使いの情報を聞く
3.アルスの想いを継いで、仲間を探し、デミーラを必ず倒す
※参戦時期は少なくともザントを倒した後です。
※地図・名簿の確認は済みました。
※奥義は全種類習得してます
【ルビカンテ@Final Fantasy IV】
[状態]:HP 1/10 魔力:小 疲労(中)
[装備]:炎の爪@ドラゴンクエストVII フラワーセツヤク@ペーパーマリオRPG
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:この殺し合いを終わらせて受けた屈辱を晴らし、生き延びた者と闘う
1.リンクと共に、殺し合いに乗っている者を倒す
※少なくとも1度はセシルたちに敗れた後です。
最終更新:2022年12月02日 09:03